説明

油性絵具と併用可能な遅硬化性速乾性水性絵具

【課題】水性・油性に併用可能で、速乾燥性があり、かつ遅硬化性を有する絵具を提供すること。
【解決手段】水分散性アクリル変性アルキド樹脂を有効成分とするものである。又、水分散性アクリル変性アルキド樹脂、水分散性高分子を有効成分とすることである。又、水分散性アクリル変性アルキド樹脂、界面活性剤を有効成分とすることである。又、水分散性アクリル変性アルキド樹脂、顔料、体質顔料、界面活性剤及び水を有効成分とすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性絵具に併用でき、特異な硬化特性を有する水性絵具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の絵具をバインダーにより分類すると、油性アルキド絵具・アクリル絵具・テンペラ等があったが、水性・油性に併用するのに適した絵具はなかった。
【0003】
そのため、水性・油性に併用可能な絵具として、水分散性アルキド樹脂を主成分とする絵具が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−192899
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来技術の水分散性アルキド樹脂には、脂肪酸変性アルキド樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂、エポキシ変性アルキド樹脂、オイルフリーポリエステル樹脂といった多数の種類があり、その多くは強制乾燥型又は焼付け乾燥型であるため絵具に適さないという問題があった。
【0006】
一方、絵の加工・洗浄作業の観点からは、絵具の乾燥後すぐに硬化してしまうと、加工や洗浄作業が大変難しくなる。したがって、絵具の乾燥後は硬化が遅いものが望ましい。
【0007】
そこで本発明の目的は、水性・油性に併用可能で、速乾燥性があり、かつ遅硬化性を有する絵具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水分散性アクリル変性アルキド樹脂を使用することにより、油性絵具と併用可能で、かつ乾燥から硬化までの時間差がある水性絵具を見出し、本発明を完成したものである。
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の油性絵具と併用できる遅硬化性速乾性水性絵具は水分散性アクリル変性アルキド樹脂を有効成分とするものである。又、水分散性アクリル変性アルキド樹脂、水分散性高分子を有効成分とすることである。又、水分散性アクリル変性アルキド樹脂、界面活性剤を有効成分とすることである。又、水分散性アクリル変性アルキド樹脂、顔料、体質顔料、界面活性剤及び水を有効成分とすることである。
【0010】
水分散性アクリル変性アルキド樹脂は絵具中のバインダーとして用いられるが、さらにアクリル樹脂やウレタン樹脂などの水分散性高分子を加えることができる。
水と油の界面を結びつけ、絵具の表面張力を低下させるために界面活性剤を加えることができる。
顔料は発色成分としてはたらくもので、各種有機顔料、無機顔料がある。
体質顔料は発色の補助とコストの軽減の目的で使用でき、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレーなどがある。
水は絵具の濃度調整と流動性調整の溶剤として使用するものである。
添加剤として、顔料分散のための湿潤分散剤を使用することができる。
絵具製造時や描画時の抑泡、消泡のための各種塗料用消泡剤を添加することができる。
絵具の流動性改善や顔料沈降防止のために、各種の有機、無機の流動性改質剤を添加することができる。
塗膜表面欠陥の解消のために各種の塗料用表面改質剤を添加することができる。
絵具の保存性を得るために、各種の防腐、防黴剤を添加することができる。
本発明の絵具は、従来の絵具の製造方法と同じ分散技術によって作ることができる。すなわち、ミキサーによる混合分散、三本ロールミルによる分散、又はパールミル等によって行われる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上の構成を有するので、速乾性絵具特有の加工・洗浄作業上の扱いにくさがなく、かつ油性絵具と併用できる水性絵具であり、保存上の安定性があるものである。
【実施例】
【0012】
以下、本発明品を実施例、比較例で説明する。試料の色の選択は、顔料として下記の各顔料分類の代表的なものを用いる。
【0013】
無機酸化物系白色の代表例として酸化チタン、無機複合金属酸化物系の代表例としてコバルトブルー、無機酸化物の代表例として弁柄、有機顔料の代表例としてフタロシアニンブルー、を用いる。
【0014】
実施例1(酸化チタン)
水分散性アクリル変性アルキド樹脂40.0 脂肪酸エステル系消泡剤0.7 アクリル共重合物湿潤分散剤1.7 酸化チタン32.4 シリカ系艶消し剤0.9 ソルビタン脂肪酸エステル及びエチレンオキサイド付加物4.0 ソディウムモンモリロナイト2.0 水18.0 変性ポリシロキサン0.2 ベンゾイソチアゾリン0.01
実施例2(コバルトブルー)
水分散性アクリル変性アルキド樹脂50.0 脂肪酸エステル系消泡剤1.0 アクリル共重合物湿潤分散剤0.8 コバルトブルー16.1 シリカ系艶消し剤0.9 ソルビタン脂肪酸エステル及びエチレンオキサイド付加物5.0 ソディウムモンモリロナイト2.3 水23.4 変性ポリシロキサン0.3 ベンゾイソチアゾリン0.02
実施例3(弁柄)
水分散性アクリル変性アルキド樹脂46.4 脂肪酸エステル系消泡剤0.8 弁柄(易分散加工品)23.2 シリカ系艶消し剤1.5 ソルビタン脂肪酸エステル及びエチレンオキサイド付加物4.6 ソディウムモンモリロナイト2.3 水20.9 変性ポリシロキサン0.2 ベンゾイソチアゾリン0.01
実施例4(フタロシアニンブルー)
水分散性アクリル変性アルキド樹脂56.5 脂肪酸エステル系消泡剤0.9 β型フタロシアニンブルー(易分散加工品)6.6 シリカ系艶消し剤1.8 ソルビタン脂肪酸エステル及びエチレンオキサイド付加物5.6 ソディウムモンモリロナイト2.8 水25.4 変性ポリシロキサン0.2 ベンゾイソチアゾリン0.02
【0015】
比較例A1(アクリル絵具酸化チタン)
水分散性アクリル樹脂44.00 プロピレングリコール2.0 疎水性ポリマー消泡剤0.3 ポリカルボン酸型湿潤分散剤0.3 酸化チタン33.0 シリカ系艶消し剤0.9 ソディウムモンモリロナイト1.9 水17.1 変性ポリシロキサン0.3 ベンゾイソチアゾリン0.02
比較例A2(アクリル絵具コバルトブルー)
水分散性アクリル樹脂48.0 プロピレングリコール5.0 疎水性ポリマー消泡剤0.5 ポリカルボン酸型湿潤分散剤0.2 コバルトブルー15.0 シリカ系艶消し剤0.9 ソディウムモンモリロナイト2.5 水25.7 変性ポリシロキサン0.2 ベンゾイソチアゾリン0.02 会合型シックナー1.8
比較例A3(アクリル絵具弁柄)
水分散性アクリル樹脂46.0 プロピレングリコール4.5 疎水性ポリマー消泡剤0.5 アクリル共重合物湿潤分散剤3.6 弁柄23.0 シリカ系艶消し剤0.9 ソディウムモンモリロナイト2.1 水18.9 変性ポリシロキサン0.3 ベンゾイソチアゾリン0.02
比較例A4(アクリル絵具フタロシアニンブルー)
水分散性アクリル樹脂50.0 プロピレングリコール4.0 疎水性ポリマー消泡剤0.6 β型フタロシアニンブルー(液状加工分散品)10.0 シリカ系艶消し剤1.1 ソディウムモンモリロナイト3.4 水30.5 変性ポリシロキサン0.2 ベンゾイソチアゾリン0.02
【0016】
比較例B1(水彩絵具酸化チタン)
アラビアゴム19.0 水27.8 エチレングリコール8.5 グリセリン0.7 ベンゾイソチアゾリン0.05 疎水性ポリマー消泡剤0.2 ポリカルボン酸型湿潤分散剤1.1 酸化チタン38.8 炭酸カルシウム1.2
ポリアクリル酸増粘剤1.8 pH調整剤0.4
比較例B2(水彩絵具コバルトブルー)
アラビアゴム23.4 水25.8 エチレングリコール7.6 グリセリン2.5 ベンゾイソチアゾリン0.06 疎水性ポリマー消泡剤0.2 コバルトブルー38.0 硫酸バリウム1.9
比較例B3(水彩絵具弁柄)
アラビアゴム14.0 水22.6 エチレングリコール4.5 グリセリン1.5 ベンゾイソチアゾリン0.04 疎水性ポリマー消泡剤0.1 アクリル共重合物湿潤分散剤2.7 弁柄37.3 炭酸カルシウム15.6 ソディウムモンモリロナイト1.3
比較例B4(水彩絵具フタロシアニンブルー)
アラビアゴム26.5 水36.3 エチレングリコール8.6 グリセリン2.9 ベンゾイソチアゾリン0.07 疎水性ポリマー消泡剤0.3 アクリル共重合物湿潤分散剤1.0 β型フタロシアニンブルー8.7 炭酸カルシウム14.7 ソディウムモンモリロナイト1.0
【0017】
比較例C1(エポキシ変性アルキド絵具酸化チタン)
水分散性エポキシ変性アルキド樹脂29.7 トリエチルアミン1.2 水23.7 シリコン変性物0.1酸化チタン44.4 ウレタン変性ポリエーテル0.7 変性ポリシロキサン0.2
比較例C2(エポキシ変性アルキド絵具コバルトブルー)
水分散性エポキシ変性アルキド樹脂40.4 トリエチルアミン1.7 水32.4 シリコン変性物0.1 コバルトブルー24.2 ウレタン変性ポリエーテル0.9 変性ポリシロキサン0.3
比較例C3(エポキシ変性アルキド絵具弁柄)
水分散性エポキシ変性アルキド樹脂36.2 トリエチルアミン1.5 水28.9 シリコン変性物0.1 弁柄(易分散加工品)32.5 ウレタン変性ポリエーテル0.7 変性ポリシロキサン0.3
比較例C4(エポキシ変性アルキド絵具フタロシアニンブルー)
水分散性エポキシ変性アルキド樹脂48.6 トリエチルアミン2.0 水38.8 シリコン変生物0.1 β型フタロシアニンブルー9.1 ウレタン変性ポリエーテル1.0 変性ポリシロキサン0.4
【0018】
以上の処方成分を、それぞれラボミキサーで15分間混合した後、3本ロールミルで1回分散させ、水性顔料組成物を得た。実施例、比較例とも絵具としての要件を備えている。
【0019】
比較例1
実施例1〜4、比較例A1〜C4を
1.キャンバス(アクリル、油兼用)上
2.乾いた油絵具塗膜上
3.未乾燥油絵具塗膜上
に塗り、絵具と被塗装面の濡れ性を比較したものを下記の表1に示す。
【0020】

(実施例とあるのは実施例1〜3、比較例Aとあるのは比較例A1〜4、比較例Bとあるのは比較例B1〜4,比較例Cとあるのは比較例C1〜4のことである。)
【0021】
比較例2
実施例1〜4、比較例A1〜C4を
1.キャンバス(アクリル、油兼用)上
2.乾いた油絵具塗膜上
3.未乾燥油絵具塗膜上
に塗り、40日常温乾燥後にJIS K5400:6.15 の碁盤目試験を行い、層間密着性を調査した結果を下記の表2に示す。
【0022】

(実施例とあるのは実施例1〜3、比較例Aとあるのは比較例A1〜4、比較例Bとあるのは比較例B1〜4,比較例Cとあるのは比較例C1〜4のことである。
また、試験不可の記載は塗布不能により、試験不可のことである。)
【0023】
比較例3
実施例1〜4、比較例A1〜C4を耐水紙上に50μm厚に塗布したものを検体とし、室温下で、検体面を200グラム/cm2の圧力で指球を押し付けた際に指球に絵具が付着しなくなるまでの所要時間をタックタイムとして下記の表3に示す。
【0024】

単位:分(5回計測平均値)
(実施例とあるのは実施例1〜3、比較例Aとあるのは比較例A1〜4、比較例Bとあるのは比較例B1〜4,比較例Cとあるのは比較例C1〜4のことである。)
【0025】
比較例4
実施例1〜4、比較例A1〜B4を耐水上に50μm厚に塗布したものを検体とし、室温下で乾燥させ、30分後,24時間後,4週間後に検体面を水で湿らせたナイロンブラシで
400グラム/cm2の圧力で5往復擦った際の絵具の溶出有無を、下記の表4に示す。
【0026】

(実施例とあるのは実施例1〜3、比較例Aとあるのは比較例A1〜4、比較例Bとあるのは比較例B1〜4,比較例Cとあるのは比較例C1〜4のことである。)
【0027】
比較例1及び2より、本発明の絵具が水性及び油性に適切に併用出来る絵具であることが証明された。また、比較例3及び4により、本発明の絵具が速乾性を持つにもかかわらず遅硬化性を持つという特徴が証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性アクリル変性アルキド樹脂を有効成分とすることを特徴とする油性絵具と併用可能な遅硬化性速乾性水性絵具。
【請求項2】
水分散性アクリル変性アルキド樹脂、水分散性高分子を有効成分とすることを特徴とする油性絵具と併用可能な遅硬化性速乾性水性絵具。
【請求項3】
水分散性アクリル変性アルキド樹脂、及び界面活性剤を有効成分とすることを特徴とする油性絵具と併用可能な遅硬化性速乾性水性絵具。
【請求項4】
水分散性アクリル変性アルキド樹脂、顔料、体質顔料、界面活性剤、及び水を有効成分とすることを特徴とする油性絵具と併用可能な遅硬化性速乾性水性絵具。

【公開番号】特開2007−302780(P2007−302780A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132373(P2006−132373)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(599049093)株式会社クサカベ (1)
【Fターム(参考)】