説明

油揚げの製造方法

【課題】 油によるフライ工程を使用せず、ソフトで食感が良好な油揚げの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の油揚げの製造方法は、食用油を乳化させた豆乳を凝固させて得た豆腐から調製した油揚げ生地を過熱水蒸気で加熱することからなる。本発明においては、油揚げ生地が食用油を含有しているので、過熱水蒸気による過熱により、フライ工程を使用することがなくても、従来の油揚げと同様な風味・食感を有する油揚げを調製することができる。従来法で多量に使用されていた食用油を使用する必要がなくなると共に低カロリーでヘルシーな油揚げを得ることができるという利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油揚げの製造方法に関する。より詳細には、食用油によるフライ工程を使用せず、ソフトな食感を呈し且つ良好な風味を有する油揚げの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油揚げは油揚げ生地(豆腐生地)を食用油で揚げた製品で、消化の良い蛋白質と油脂を含み栄養に富んだ食品であり、味噌汁、そば、うどんなどの具として、煮物の素材として、また稲荷寿司などに広く利用されてきた。
油揚げは、基本的に、固形分含量が低め(通常3〜6%程度)の豆乳を凝固剤で凝固して調製した豆腐を適当な大きさに成形して油揚げ生地とし、次いでプレスにより水切りをした後、食用油で揚げることにより製造されている。食用油で揚げるフライ工程は、通常二段階で行われ、比較的温度の低い食用油で揚げて油揚げ生地を縦横に伸ばすことからなる一次揚げと、その後温度の高い食用油で揚げて伸びを固定すると共に表面を硬化させてカリッと仕上げるための二次揚げからなる(場合によっては三段階のフライ工程のこともある)。
上記の従来法においては、フライ工程における油温度や揚げ時間のコントロールが煩雑であるという問題があった。更に問題なことは、従来の方法ではフライ工程で大量の油を必要とすることである。特に、油揚げ生地は水分含量が高いので、油の劣化(酸化、加水分解等)が生じやすく、油の劣化は不快臭を発生すると共に極度に劣化すると毒性を有することになる。そのため、適宜な時期に油を交換する必要があり、大量の油が必要となると共に大量の廃油が生じるので廃油処理も問題になる。また、従来法で製造された油揚げは油含量が高く、調理に際して油抜きを必要とする問題もある。特に、最近の消費者の嗜好として低カロリーでヘルシーな食品を強く求めており、油含量の低い油揚げが望まれていた。
このような問題から、食用油によるフライ工程を用いない油揚げの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載される発明は、油揚げ生地そのまま又はその表面を食用油脂で被覆して、過熱水蒸気中で処理することからなる油揚げの製造方法である。
しかし、この方法では、従来の油揚げのような、均質でジュウシーな食感を有し且つ良好は膨化状態を維持する油揚げを製造することは困難であった。
【特許文献1】特開2002−34490
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ソフトで良好な風味及び食感を有し、更に食用油によるフライ工程を使用しない油揚げの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、過熱水蒸気を使用した加熱による油揚げの製造方法を種々検討したところ、油揚げを製造する際に使用される豆腐(油揚げ生地)の調製方法を変更し、食用油を乳化させた豆乳を凝固させて得た豆腐から油揚げ生地を調製し、それを過熱水蒸気で加熱すると、食用油の作用により、得られた油揚げが従来の油揚げと同様な風味・食感を有することを見出した。
即ち、本発明は、食用油を乳化させた豆乳を凝固させて得た豆腐(油揚げ生地)を過熱水蒸気で加熱することからなる油揚げの製造方法である。豆乳1リットル当たり、5〜40mlの食用油を乳化させるのが好ましい。また、食用油を豆乳に乳化させるに際し、豆乳の一部と食用油を予め乳化させ、得られた乳化物を豆乳に添加するのが好ましい。油揚げ生地の過熱水蒸気による加熱に際して、過熱水蒸気による加熱工程が、油揚げ生地を伸ばす工程と伸びた生地を固定する工程からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明においては、食用油を乳化させた豆乳を凝固させて油揚げ生地を得ており、食用油の作用により、過熱水蒸気による加熱で従来の油揚げと同様な良好な風味・食感を有する油揚げを製造することができる。特に、食用油を用いたフライ工程を使用しなくとも油揚げを製造することができるので、食用油の使用量を著しく低減でき、また廃油処理の問題も生じないので、製造コストの低下を図ることができる。更に、油含量を低減した油揚げを得ることができるので、低カロリーでヘルシーな食品を望む、消費者の嗜好を満足させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
前記の構成からなる本発明においては、油揚げ生地を調製するための豆乳として、食用油を乳化させた豆乳が使用される。
上記の豆乳は常法に準じて調製された豆乳を使用することができ、また粉末豆乳を水で分散させた豆乳であってもよい。係る豆乳中の固形分含量は、従来の油揚げ生地を調製する際の豆乳と同様であり、通常3〜8ブリックス(Brix)、好ましくは4〜6ブリックスとされる。
【0007】
上記の豆乳へ乳化させる食用油としては、慣用の食用油の何れも使用することができ、例えば、大豆油、綿実油、菜種油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、椰子油、パーム油、落花生油などが挙げられ、大豆油、綿実油、菜種油が好ましい。なお、上記の食用油には、必要に応じて、ビタミンA、ビタミンEなどの脂溶性ビタミンを添加してもよく、ビタミン強化油揚げとすることができる。
豆乳に対する食用油の添加量は、豆乳1リットル当たり、食用油を5〜40ml程度、好ましくは7〜30ml程度、より好ましくは10〜25ml程度添加する。食用油の添加量が5ml未満であると、製品である油揚げのソフト化を図ることが困難であり、40mlを越えてもソフト化という観点からは問題がないが過熱水蒸気による加熱工程で油揚げの伸びが不足することがある。
【0008】
豆乳への食用油の乳化は常法に準じて行うことができ、例えば豆乳に食用油を添加しホモジナイザーなどの乳化機で乳化させることにより調製することができる。より好ましくは、原料豆乳の一部をとり、これと食用油を乳化させて、豆乳と食用油のプレ乳化物を調製し、このプレ乳化物を元の豆乳に添加して撹拌し、食用油が乳化した豆乳を調製する。この方法によれば、短時間に且つ均一に食用油が乳化した豆乳を得ることができる。プレ乳化物における豆乳と食用油の混合比は特に限定されないが、食用油1に対して豆乳1〜2.5(容量比)程度とされる。
なお、浸漬大豆を摩砕して得られる呉又は加熱した呉に、食用油を添加することもできる。但し、おからを分離して豆乳を調製する際に、食用油がおからに吸着されることがあるので、その分を考慮する必要がある。
更に、乳化に際しては、この分野で慣用の添加剤、例えば、界面活性剤(例えばショ糖脂肪酸エステル等)などを添加してもよい。
【0009】
上記で調製された、食用油が乳化した豆乳は、ついで常法に準じて凝固剤を添加して凝固させて豆腐とする。
使用される凝固剤としては慣用の凝固剤を使用することができ、例えば、苦汁、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコノデルタラクトン(GDL)又はこれらの混合物が挙げられる。凝固剤の添加量も通常の量でよく、豆乳1リットルに対して1〜5g程度、好ましくは2〜3g程度である。
【0010】
上記で調製された豆腐は、暫く熟成させた後、型枠に移しかえる。それを、プレス成型(0.15〜0.4MPa程度)して余剰の水分を除去した後、自然放冷し、必要に応じて冷蔵庫で冷却し、適当なサイズに裁断することにより、油揚げ生地を調製する。なお、適当なサイズに裁断した後、プレスにより水切りをしてもよい。
【0011】
上記で調製された油揚げ生地は、過熱水蒸気で加熱することにより油揚げが調製される。過熱水蒸気による加熱は一段階で行ってもよく、多段階(好ましくは二段階)で行ってもよい。
ここで過熱水蒸気とは、水蒸気を二次加熱などの手段によって加熱したものであり、過熱水蒸気の調製方法自体は公知である。例えば、ボイラーで発生せしめた飽和水蒸気を二次加熱することによって得ることができ、二次加熱手段としては、高温ガスとの混合、高熱熱交換器との接触、IH(電磁誘導加熱)ヒーターを用いる方法などが例示できる。
【0012】
油揚げ生地の過熱水蒸気による加熱を一段階で行う場合、加熱は170〜350℃、好ましくは200〜300℃にて行われる。加熱温度が170℃未満では、油揚げ生地の膨化及び表面の硬化が不十分になるおそれがあり、また350℃を越えると表面が過度に硬化し、食感が低下するおそれがある。加熱時間は、加熱温度、油揚げ生地のサイズ、所望する膨化度などにより適宜設定することができるが、通常5〜20分間程度、好ましくは8〜15分間程度である。
【0013】
上記の過熱水蒸気による加熱工程において、好ましい態様としては二段階加熱が挙げられる。即ち、100〜180℃、好ましくは110〜150℃程度の温度の過熱水蒸気で3〜10分間、好ましくは5〜8分間程度加熱して油揚げ生地の膨化を行い、次いで180〜300℃、好ましくは200〜250℃程度の過熱水蒸気で5〜12分間、好ましくは7〜10分間程度加熱して表面の硬化を行う。この方法によれば、油揚げ生地の伸びを改善できると共に加熱後に冷却した際の油揚げの縮みを抑制することができる。この方法における加熱時間も、上記と同様に油揚げ生地のサイズなどにより適宜設定することができる。
【0014】
かくして製造された本発明の油揚げは、外皮が軟らかく、内部が多孔質状であり、食感が良好であると共に表面がさらっとしている特長を有する。また、出汁の浸み込み・出汁の保持性に優れ、ジュウシーな食感を呈する。
【0015】
また、本発明で得られた油揚げは、従来と同様に味噌汁、そば、うどんなどの具として、煮物の素材として、また稲荷寿司などに利用することができる。更に、油揚げを乾燥し、インスタント食品、例えばカップ麺、カップ味噌汁などの具とすることもできる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0017】
実施例1
常法に準じて4〜6ブリックスの豆乳を調製した。この豆乳40リットルから1リットルを採取し、当該豆乳に大豆油1リットルを加え、ホモジナイザーで乳化させてプレ乳化物を作製した。プレ乳化物を元の豆乳に加え、撹拌することにより、大豆油が乳化した豆乳を調製した。
この豆乳を加温して65〜70℃程度にし、苦汁液を加えて凝固させた。凝固後、10分間程度熟成させたのち、型枠に移しかえ、プレス機で圧力を加えてプレス成型した(0.2〜0.3MPa、15〜20分程度)。ついで、室温で放冷した後、冷蔵庫で一夜保存し、50×70×7mmのサイズに裁断して油揚げ生地とした。
上記の油揚げ生地を、120℃の過熱水蒸気で8分間加熱し膨化させた後、220℃の過熱水蒸気で6分間加熱して表面の硬化を行って油揚げを調製した。
得られた油揚げは、外皮がソフトであり、内部は均一な多孔質状となっており、柔らかな食感を有していた。この油揚げは表面がサラッとしており、出汁と共に煮込んだが、出汁の浸み込みは良好であった。
【0018】
実施例2
実施例1において、油揚げ生地を220℃の過熱水蒸気で12分間加熱して膨化と表面の硬化を行って油揚げを調製した。
得られた油揚げは、実施例1で得られた油揚げと同様に外皮がソフトであり、柔らかな食感を有していた。
【0019】
実施例3
実施例1において、プレ乳化物の組成を、豆乳2.5リットルに対し、綿実油1リットルとする以外は同様な方法で油揚げを製造した。
【0020】
実施例4
実施例1において、プレ乳化物の組成を、豆乳2リットルに対し、菜種油1リットルとする以外は同様な方法で油揚げを製造した。
【0021】
実施例5
実施例1において、プレ乳化物の組成を、豆乳1リットルに対し、大豆油0.4リットルとする以外は同様な方法で油揚げを製造した。
【0022】
実施例6
実施例1において、プレ乳化物の組成を、豆乳2.5リットルに対し、大豆油1.5リットルとする以外は同様な方法で油揚げを製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油を乳化させた豆乳を凝固させて得た豆腐(油揚げ生地)を、過熱水蒸気で加熱することからなる油揚げの製造方法。
【請求項2】
豆乳1リットル当たり、5〜40mlの食用油を乳化させる請求項1記載の油揚げの製造方法。
【請求項3】
豆乳の一部と食用油を予め乳化させ、得られた乳化物を豆乳に添加する請求項1又は2記載の油揚げの製造方法。
【請求項4】
過熱水蒸気による加熱工程が、油揚げ生地を伸ばす工程と伸びた生地を固定する工程からなる請求項1〜3の何れかに記載の油揚げの製造方法。

【公開番号】特開2008−289420(P2008−289420A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138753(P2007−138753)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(591187726)但馬屋食品株式会社 (9)
【Fターム(参考)】