説明

油脂の耐寒性改良剤及び耐寒性の改良された水中油型乳化食品の製造方法

【課題】 −15℃付近の温度領域で長期間にわたる冷凍条件下で保管された後、解凍しても分離せず、優れた耐冷凍性を有し、寒冷地での冬季流通や冷蔵庫内等での長期保管でも安定な水中油型乳化食品を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 柑橘系精油、特にレモン油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤と、水相と油相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、請求項1記載の耐寒性改良剤を油相中に含有させることを特徴とする、耐寒性の改良された水中油型乳化食品の製造方法と、前記方法により得られる、耐寒性の改良された水中油型乳化食品と、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の耐寒性改良剤及び耐寒性が改良された水中油型乳化食品の製造方法に関し、詳しくは、柑橘系精油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤と、該耐寒性改良剤を油相中に含有させた耐寒性の改良された水中油型乳化食品の製造方法と、該方法により得られる耐寒性の改良された水中油型乳化食品と、に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズやドレッシング類等のような水中油型乳化食品(O/W型乳化食品)は、冷凍や冷蔵の低温で保存した後、解凍したり、室温に戻すと、乳化状態が不安定になり、甚だしい場合には、油相分離を起こすことが知られている。
例えば、マヨネーズやドレッシング類等を寒冷地で冬季流通させたり、冷蔵庫内で低温に置かれた場合、前記したような現象がしばしば見られる。
従って、マヨネーズやドレッシング類等の水中油型乳化食品では、−15℃付近の温度領域に対し、強い耐寒性が求められている。
【0003】
このような要求に対応する方法として、例えば、常温(20℃)で液体の油脂と構成脂肪酸として炭素原子数8〜22の不飽和脂肪酸が総脂肪酸量の5〜50%を占め、かつ、HLBが3以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルとからなる冷凍耐性付与油脂組成物を油相として使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、近年、化学物質の生体機能への悪影響が問題視されており、消費者は一般的に、ポリグリセリン脂肪酸エステルのような人工添加物を避ける傾向にある。さらに、油脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを溶解させる場合、加熱混合が必要であり、工業的にも煩雑である。
【0004】
また、油脂原料の油脂として、トランス酸の割合が8.6〜30%である水添大豆油を油相として使用する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、トランス酸は冠動脈疾患のリスクを高めるLDL(低密度リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)を増加させることから、近年問題視されている。米国では、トランス酸について、2006年1月から食品への含量表示が義務付けられている。日本国内では、トランス酸の表示義務はまだ無いが、食品中のトランス酸低減化の動きは、最近、活発化している状況にある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−313820号公報
【特許文献2】特開平9−271352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決し、−15℃付近の温度領域で長期間にわたる冷凍条件下で保管された後、解凍しても分離せず、優れた耐冷凍性を有し、寒冷地での冬季流通や冷蔵庫内等での長期保管でも安定な水中油型乳化食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、柑橘系精油、特にレモン油には油脂の結晶性を変化させる作用があり、更に油脂の耐寒性を改良する効果のあることを見出した。即ち、柑橘系精油、特にレモン油は油脂の耐寒性改良剤になりうるものであり、柑橘系精油、特にレモン油が油相中に添加された水中油型乳化食品では、−15℃付近の温度領域で長期間にわたる耐寒性を有することを見出した。本発明は、かかる知見に基いて完成されたものである。なお、本発明において、耐寒性とは、−15℃付近の低温安定性を意味している。
【0008】
即ち、請求項1に係る本発明は、柑橘系精油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、水相と油相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、請求項1記載の耐寒性改良剤を油相中に含有させることを特徴とする、耐寒性の改良された水中油型乳化食品の製造方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、請求項1記載の耐寒性改良剤を油相中に3質量%以上含有させる請求項2記載の方法を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、請求項2又は3記載の製造方法により得られる、耐寒性の改良された水中油型乳化食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柑橘系精油、特にレモン油には油脂の結晶性を変化させる作用が見出され、更に、マヨネーズやドレッシング類等の水中油型乳化食品の油相中に柑橘系精油、特にレモン油を添加することにより、水中油型食品に長期間の優れた耐寒性を付与できることから、柑橘系精油、特にレモン油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤が提供される。
また、柑橘系精油、特にレモン油を油脂の耐寒性改良剤として用いることにより、耐寒性に優れており、長期保存の可能な水中油型乳化食品が提供される。
さらに、柑橘系精油、特にレモン油を油脂の耐寒性改良剤として用いて製造したマヨネーズやドレッシング類等の水中油型乳化食品は、生体への影響が懸念される人工添加物やトランス酸を含有しないため、消費者が敬遠することなく、安心して食することができ、長期間の耐寒性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明は、柑橘系精油、特にレモン油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤と、該耐寒性改良剤を油相中に含有し、耐寒性が改良された水中油型乳化食品に関するものである。
ここで、水中油型乳化食品とは、油相原料と水相原料とを混合し乳化することにより、水相と油相とが水中油型に乳化されてなる食品であって、代表的なものとして、マヨネーズやドレッシング類等が挙げられる。
【0011】
まず、請求項1に係る本発明について、詳細に説明する。
請求項1に係る本発明は、柑橘系精油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤に関するものである。
ここで油脂の耐寒性とは、該油脂を使用した水中油型乳化食品の耐寒性を意味し、耐寒性改良剤とは、水中油型乳化食品の耐寒性を向上させる働きを有するものを意味する。
【0012】
柑橘系の精油としては、モノテルペン炭化水素を主成分とするものが多く、レモン油を代表として、ライム、オレンジ、グレープフルーツ等の精油がある。
【0013】
請求項1に係る本発明で好ましく用いられるレモン油とは、レモンの果皮から主に得られる精油(エッセンシャルオイル)であり、採取方法としては、一般に圧搾法、蒸留法や抽出法が主な方法であるが、最近では超臨界炭酸ガスによる抽出法も用いられている。なお、ライム、オレンジ、グレープフルーツ等の精油も、レモン油と同様にして得ることができる。
【0014】
レモン油の成分としては、モノテルペン炭化水素であるリモネンが約65%を占める主成分であり、次いで、β-ピネン、γ-テルピネン、α-テルピネン、サビネンが約25%を占めており、モノテルペン炭化水素が全体の約97%を占める。その他、モノテルペンアルコール、エステル、ラクトン等の少量成分が2、3%含有される。
上記レモン油の成分は、レモンの種類、産地、気候、取り扱い等によって、やや変動することもある。
【0015】
レモン油は、飲料類、菓子類、ドレッシング等の香料として、従来より一般的に使用されているものである。その他、香料以外の用途にも用いられ、意識をはっきりさせて集中力や記憶力を強化させたり、優れた殺菌、消毒作用等にも用いられている。
【0016】
請求項1に係る本発明で用いられる柑橘系精油、特にレモン油には、油脂の結晶性を変化させる作用があり、更に、これらの作用は油脂の耐寒性を改良する効果が認められる。
【0017】
次に、油脂の結晶性の変化を調べる方法について説明する。
一般的に、油脂の結晶性の変化を調べる手法としては、NMR(核磁気共鳴)、ESR(電子スピン共鳴)、DSC(示差走査熱量計)、X線回折、偏光顕微鏡観察や上昇融点測定等が挙げられるが、低温下での結晶性の変化を調べるには、通常、DSCが簡便な機器である。
DSCとは、物質の結晶化、凝固、溶融解、軟化、昇華、蒸発等の熱変化を捉える分析機器であり、DSCによる分析を総称して、熱分析と呼ばれる。
【0018】
油脂の結晶性の変化を調べる熱分析の一般的な手法としては、通常、降昇温分析がしばしば用いられる。
これは、液状の油脂を一定の条件下で冷却(降温)した場合の結晶化挙動を発熱ピークとして捉え、次いで、結晶化した油脂を一定の条件下で温度を上昇(昇温)した場合の融解挙動を吸熱ピークとして捉えるものである。
但し、降温分析では過冷却状態が生じる為、発熱ピーク形状の変化等の定性的な把握には有用であるが、詳細な解析には用いられないことが多い。
一方、昇温分析での吸熱ピークは、生じた油脂結晶の融点や融解カロリーをほぼ正確に示すことができる。
従って、請求項1に係る本発明の根拠となる、油脂の結晶性に及ぼす柑橘系精油、特にレモン油の影響の把握には、昇温分析を重視した解析方法を採用した。
【0019】
次いで、請求項2に係る本発明は、耐寒性の改良された水中油型乳化食品の製造方法に関し、水相と油相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、請求項1記載の耐寒性改良剤を油相中に含有させることを特徴とするものである。
【0020】
請求項2に係る本発明の水中油型乳化食品の水相を構成する原料(水相原料)は、マヨネーズやドレッシング類の製造に際して使用される原料や、その配合割合に準じて決定すればよく、特に制限されない。
通常、用いられる水相原料の例としては、水の他に、食塩、食酢、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等の調味料、乳化剤、糖類、澱粉、ガム類、香辛料、着色料、着香料などがある。
乳化剤としては、卵黄が一般的であるが、卵白、乳蛋白、大豆蛋白等を適宜、使用でき、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
一方、油相を構成する原料(油相原料)としては、通常、食品に添加可能な親油性の物質であれば、特に制限がなく、例えば、食用植物油や、親油性のある香辛料は着香料等が挙げられる。
食用植物油としては、常温で液体の菜種油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ヒマワリ油等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0022】
請求項2に係る本発明の水中油型乳化食品における油相と水相との割合については、特に制限はないが、通常は油相10〜90質量%に対して、水相90〜10質量%、好ましくは油相30〜80質量%に対して、水相70〜20質量%とする。
ここで、油相の比率が、10質量%未満であると、調製された水中油型乳化食品が美味しくなく、一方、油相の比率が90質量%を超えると、転相し易くなるので、いずれも好ましくない。
【0023】
請求項2に係る本発明の水中油型乳化食品の製造は、既知の手法により行なえばよく、特に制限されない。
例えば、水以外の水相原料を、水等に分散・溶解し、これらに油相原料を加えて、一般的な攪拌機、例えば、市販の万能攪拌機を用いて予備乳化する。
次いで、コロイドミル等の乳化機により、仕上げ攪拌を行なうことによって、水中油型乳化食品を製造することができる。
【0024】
ここで、前記の柑橘系精油、特にレモン油は、予め油相に分散・溶解していることが必要である。
柑橘系精油、特にレモン油は、親油性がある為、油相中に容易に分散・溶解することが出来る。柑橘系精油、特にレモン油を水相原料に分散したり、或いは、油相と水相とを乳化する際に単独で添加したりすると、油相中の油脂の結晶性を変化させることができず、この結果、水中油型乳化食品の耐寒性を改良することができない。
【0025】
請求項2に係る本発明の水中油型乳化食品の油相中に添加する柑橘系精油、特にレモン油は、1質量%以上を必要とするが、請求項3に記載している如く、3質量%以上が好ましく、特に3〜10質量%がより好ましい。
ここで水中油型乳化食品の油相中に添加する柑橘系精油、特にレモン油の割合が1質量%未満であると、水中油型乳化食品の耐寒性を十分に改良することができず、一方、10質量%を超えて添加しても、添加量に見合うだけの耐寒性の改良効果が得られないため、いずれも好ましくない。
【0026】
このようにして製造された水中油型乳化食品が、請求項4に係る本発明の耐寒性の改良された水中油型乳化食品である。
即ち、請求項4に係る本発明の水中油型乳化食品は、油相中に柑橘系精油、特にレモン油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤を含有しているため、−15℃付近の温度領域で長期間保管されても、優れた耐寒性を持つものである。
【0027】
柑橘系精油、特にレモン油を油相中に添加することにより、水中油型乳化食品の耐寒性が改良される理由については、必ずしも明らかではないが、油相に使用している油脂の結晶性を変化せることによって、耐寒性が改良されているものと推測される。
即ち、油脂結晶の融点をより低温側にシフトさせることにより、つまり、−15℃付近の温度領域での結晶化量を減少させることによって、耐寒性が改良されているものと推測される。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例等により詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0029】
試験例1
〔レモン油添加による菜種油の結晶性の変化(DSCによる降昇温分析)〕
菜種油に対して、レモン油を0、1、3及び5質量%添加したものについて、DSC(示差走査熱量計)(セイコーインスツルメンツ株式会社製、DSC6200、試料量8mg)により降昇温分析を行った。その結果を図1に示す。
降昇温条件としては、25℃→−75℃(5℃/min.で降温)を設定し、続く昇温分析では、−75℃→25℃(5℃/min.で昇温)を設定した。
なお、前記したように、本試験例での油脂の結晶性に及ぼすレモン油の影響把握については、昇温分析を重視した解析を採った。
【0030】
図1から明らかなように、レモン油無添加の菜種油の結晶の融解ピーク温度は、約−21.4℃であるが、レモン油を1〜5質量%添加した菜種油の結晶の融解ピークは低温側にシフトしており、しかも、レモン油の添加量の増加と共に、低温側にシフトしていることが分かる。
このことは、菜種油にレモン油を添加することにより、菜種油の結晶性が変化していることを示している。
【0031】
試験例2
〔レモン油添加によるコーン油の結晶性の変化(DSCによる降昇温分析)〕
コーン油に対して、試験例1と同様に、レモン油を0、1、3、及び5質量%添加したものについて、DSC(示差走査熱量計)による降昇温分析を行った。その結果を図2に示す。
降昇温条件としては、試験例1と同様に、25℃→−75℃(5℃/min.で降温)を設定し、続く昇温分析では、−75℃→25℃(5℃/min.で昇温)を設定した。
なお、前記したように、本試験例での油脂の結晶性に及ぼすレモン油の影響把握については、昇温分析を重視した解析を採った。
【0032】
図2から明らかなように、レモン油無添加のコーン油の結晶の主な融解ピーク温度は、約26.0℃であるが、レモン油を1〜5質量%添加したコーン油の結晶の融解ピークは、菜種油と同様に低温側にシフトしており、しかも、レモン油の添加量の増加と共に、低温側にシフトしていることが分かる。
このことは、試験例1での菜種油の場合と同様に、コーン油でもレモン油を添加することにより、コーン油の結晶性が変化していることを示している。
【0033】
従って、前記試験例1及び2が示すように、レモン油が油脂の結晶性に影響を及ぼし、これらの融解温度を低温側にシフトさせていることが把握された。
そこで、これらのことが水中油型乳化食品(O/W型乳化食品)の耐寒性を改良させているものであるかどうかを、以下の実施例においてマヨネーズを用いて実際に確認した。
【0034】
実施例1〜6
(1)O/W乳化食品(マヨネーズ)の調製
表1に示す配合組成の原料をO/W型に乳化し、O/W乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
即ち、表1に示す配合にて、水相原料である、リゾ化率75%卵黄(乾燥品:市販品)、食塩、食酢(10%酸度)、水飴(DE75)及び水を混合・溶解して水相を調製し、この水相にレモン油を添加した油相原料としての菜種油を加え、ホバルト・ミキサー(ホバルト社製)にて、予備乳化した。
次いで、コロイドミル(クリアランス:4/1,000インチ、回転数:3,000rpm)により、仕上げ乳化を行なって、O/W乳化食品(マヨネーズ)を調製した。
【0035】
(2)O/W乳化食品(マヨネーズ)の耐寒性の評価
上記(1)で得られたO/W乳化食品(マヨネーズ)について、耐寒性の評価を以下のようにして行なった。
約25g容のプラスチック容器に、上記(1)で得られたO/W乳化食品(マヨネーズ)約20gを充填・シールし、次いで−15℃にて7日間、30日間及び60日間保管し、更に室温に戻した。
このときのO/W乳化食品の乳化状態を、以下の3段階で観察し、耐寒性の評価を行った。耐寒性の評価は、経験豊かな5名のパネラーによる視覚観察の平均値で示した。結果を表1に示す。
なお、この評価において、「安定」と「やや安定」であれば、耐寒性に優れていると言うことができる。
【0036】
[耐寒性の評価]
・安定 :油分離していない。
・やや安定 :僅かな油分離がみられる。
・不安定 :かなりの油分離がみられる。
【0037】
【表1】

【0038】
比較例1
実施例1〜3において、レモン油の代わりに菜種油を使用し、油相全量を菜種油としたこと以外は、実施例1〜3と同様にして、O/W乳化食品(マヨネーズ)を調製し、更に実施例1〜6と同様にして耐寒性を評価した。結果を表2に示す。
【0039】
比較例2
実施例4〜6において、レモン油の代わりにコーン油を使用し、油相全量をコーン油としたこと以外は、実施例4〜6と同様にして、O/W乳化食品(マヨネーズ)を調製し、更に実施例4〜6と同様にして耐寒性を評価した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表1から明らかなように、油相である菜種油にレモン油を3、5及び10質量%添加して調製した実施例1〜3のO/W乳化食品(マヨネーズ)は、いずれも−15℃・60日間の保存後でも油相が分離することなく、優れた耐寒性を示した。
更に、レモン油の添加量の増加につれて、耐寒性が改良される傾向が認められた。
【0042】
また、油相であるコーン油にレモン油を3,5及び10質量%添加して、調製した実施例4〜6のO/W乳化食品(マヨネーズ)は、菜種油の場合と同様に、いずれも−15℃・60日の保存後でも油相が分離することなく、優れた耐寒性を示した。
さらに、菜種油の場合と同様に、レモン油の添加量の増加につれて、耐寒性が改良される傾向が認められた。
【0043】
これに対し、比較例1に示すように、レモン油を全く使用しない菜種油を油相として調製された比較例1のO/W乳化食品(マヨネーズ)では、−15℃・7日間の保存で既に油相を分離しており、耐寒性が劣っていることが分かる。
また、比較例2に示すように、レモン油を全く使用しないコーン油を油相として調製された比較例2のO/W乳化食品(マヨネーズ)でも、−15℃・7日間の保存で既に油相を分離しており、耐寒性が劣っていることが分かる。
【0044】
従って、実施例1〜3と比較例1との比較、及び実施例4〜6と比較例2との比較から、レモン油を油相に添加して調製されたO/W乳化食品(マヨネーズ)では、顕著な耐寒性の向上が認められる。
それ故、レモン油には油脂の耐寒性改良効果のあることが容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の耐寒性改良剤を油相中に含有させて製造した、マヨネーズやドレッシング類等の水中油型乳化食品は、生体への影響が懸念される人工添加物やトランス酸を含有しないため、消費者が敬遠することなく安心して食することができ、長期間耐寒性に優れたものである。
従って、本発明は、食品産業分野において有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】レモン油を0,1,3及び5質量%添加した菜種油のDSCによる降昇温分析図である。
【図2】レモン油を0,1,3及び5質量%添加したコーン油のDSCによる降昇温分析図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘系精油を有効成分とする油脂の耐寒性改良剤。
【請求項2】
水相と油相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、請求項1記載の耐寒性改良剤を油相中に含有させることを特徴とする、耐寒性の改良された水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の耐寒性改良剤を油相中に3質量%以上含有させる請求項2記載の方法。
【請求項4】
請求項2又は3記載の製造方法により得られる、耐寒性の改良された水中油型乳化食品。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−29236(P2008−29236A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204765(P2006−204765)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(591101504)クノール食品株式会社 (29)
【Fターム(参考)】