説明

油脂組成物

【課題】テンパリング型チョコレート類のテンパリング後の生地粘度上昇を抑制し、コーティング、特にエンローバー(上掛け)用途に適したテンパリング型チョコレート類を提供する。
【解決手段】オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%であり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物を、テンパリング型チョコレート類に3〜60質量%配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードバター油脂組成物に関し、特にテンパリング型チョコレート類のエンローバー用途に適した油脂組成物である。
【0002】
なお、本発明で「チョコレート」とは、規約「チョコレート類の表示に関する公正規約」乃至法規上の規定により限定されるものではなく、いわゆるカカオ代用脂等を使用したチョコレート類及び油脂加工食品をも含むものである。
【背景技術】
【0003】
チョコレートはカカオ脂を含む油脂及び砂糖等の甘味料を必須成分とするものであるが、カカオ脂は比較的高価であるため、その代替脂肪の利用が広まって来た。代替脂肪は、テンパリング型と非テンパリング型に大別され、テンパリング型はカカオ脂と近似した対称型のトリグリセリド構造を持つため、カカオ脂肪との相溶性が良く、カカオ独特の芳香味に富んだチョコレートができるが、油脂の結晶型を揃えるためのテンパリングという調温工程を経る必要がある。
【0004】
チョコレートは、また、その形態としては、そのまま食される固形チョコレートに加え、例えばビスケット、クッキー等の焼き菓子へのコーティング、サンド、包餡といった複合菓子にも幅広く使用されている。
【0005】
焼き菓子等にチョコレートを上掛け(エンローバー)する場合、特に、テンパリング型チョコレートを使用する場合は、上掛けされるチョコレートの量を一定にして製品のバラつきを防ぐために、テンパリング後もチョコレート生地の粘度を低く保つ必要がある。このため、テンパリング型チョコレートを上掛けするには、通常のテンパリング作業に加え、テンパリング後も煩雑なチョコレート生地の温度調節が不可欠である。
【0006】
テンパリング後の生地粘度上昇を抑えるために、融点が低い液体油や低融点硬化油を配合する方法(例えば、特許文献1参照)が採られ得るが、粘度は低下するものの、上掛け後のチョコレート生地の乾きが遅くなる難点があった。乾きを改善するために少量の高融点油脂を添加する場合もあるが、粘度の上昇や口溶けが優れない等のまた別の問題があり、十分に満足の行くものではなかった。
【0007】
また、パーム中融点部(PMF)も同様に、チョコレートをソフトにする用途に使用され得るが、同様に上掛け後の乾きや耐熱性に問題があった。耐熱性やブルームの問題解決のため、1−パルミト−2−オレオ−3−ステアリン(POSt)と1,3−ステアロ−2−オレイン(StOSt)の組成比と合計量、及びグリセリン−ジ脂肪酸エステル含量を規定したハードバター組成物(例えば、特許文献2参照)も提案されているが、機能的には従来のテンパリング型カカオ代用脂と何等変わるものではなかった。
【特許文献1】特開昭59−135841号公報
【特許文献2】特開平7−264981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、テンパリング型チョコレートのコーティング、特にエンローバー(上掛け)用途に適した油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、パーム中融点部のオレオイルジパルミチン(P2O)の対称性と濃度を高めた改質油に、一定量のトリパルミチンを含有させることで、テンパリング型チョコレート類に配合した場合、意外にもテンパリング後の粘度上昇が抑制され、且つ、上掛け後の乾きが速く、口溶けにも優れているという現象を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明第1の発明は、オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%であり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物である。
本発明第2の発明は、オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が75〜85質量%であることを特徴とする第1の発明をより特定した油脂組成物である。
本発明第3の発明は、トリパルミチン(PPP)含有量が3〜5質量%であることを特徴とする第1又は第2の発明をより特定した油脂組成物である。
本発明第4の発明は、本発明第1〜3の発明の何れかの油脂組成物をチョコレート生地に3〜60質量%配合したテンパリング型チョコレート類である。
本発明第5の発明は、本発明第4の発明であるテンパリング型チョコレート類を、特にコーティングまたはエンローバ−用途に限定したものである。
本発明第6の発明は、オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%であり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物をチョコレート類に3〜60質量%配合し、テンパリング型チョコレート類のテンパリング後の粘度上昇を抑制する方法である。
本発明第7の発明は、オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%以上あり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物をチョコレート類に3〜60質量%配合することを特徴とするテンパリング型チョコレート類の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油脂組成物をテンパリング型チョコレート類に3質量%以上配合することで、テンパリング後の粘度上昇が抑制され、コーティング、特にエンローバー後の乾きも速く、口溶けにも優れたコーティング、特にエンローバー用のテンパリング型チョコレート類を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%であり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物に関する。
ここで、脂肪酸を表す記号を説明すると、P:パルミチン酸、O:オレイン酸である。
【0012】
本発明でいうオレオイルジパルミチン(P2O)とは、結合位置に関係なくパルミチン酸が2箇所、オレイン酸が1箇所に結合したトリアシルグリセロール種、すなわち、PPO、POP、及びOPPの総和を意味する。オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリドに相当するのは1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリンであるPOPのみである。対称型トリグリセリド(POP)の質量比が0.95以上とは、POP/P2Oが質量ベースで0.95以上ということである。
【0013】
本発明の油脂組成物はP2Oが70〜85質量%であり、このような油脂組成物は化学合成によっても得られるが、P2Oを豊富に含有する植物油脂、特にパーム油を分別等の加工をすることによって得ることが経済的で好ましい。P2O中のPOP濃度を上げる方法としては、パーム油(ヨウ素価(以下IV)約52)から高融点部(パームステアリン、IV30〜36)と低融点部(IV62〜68)とを乾式分別及び/又は溶剤分別により取り除いた中融点部(ソフト、IV41〜47、P2O:50質量%以上、POP/P2O=0.82〜0.90)乃至中融点部(ソフト)から更に低融点部を取り除いた中融点部(ハード、IV31〜37、P2O:70質量%以上、POP/P2O=0.84〜0.94)を原料油として、パルミチン酸と混合し、リパーゼ製剤を用いて1,3−位選択的エステル交換を行ってPOP濃度を高めた上で、残余の脂肪酸を蒸留にて除去し、更にトリ飽和トリグリセリド(主にPPP)とジ不飽和モノ飽和トリグリセリドとを分別を行うことによって中融点部として得られる。より具体的には、例えば、特開昭55−71797号公報、特開昭61−209298号公報に開示されている。別の方法としては、同様のパーム中融点油脂を原料として、リパーゼ製剤により1,3−位選択的エステル交換を行ってPOP/P2O比を高めた上で、副生したトリ飽和トリグリセリド(主にPPP)とジ不飽和モノ飽和トリグリセリドとを分別により除いた中融点部として得ることができる。より具体的には特開平11−169191号公報に開示されている。また、別の方法としては、同様のパーム中融点部を原料として溶剤分別と乾式分別とを繰り返し、得ることができる。より具体的には特開2000−336389に開示されている。
【0014】
本発明の油脂組成物はP2O含量が70〜85質量%であるり、75〜85質量%であることが好ましい。また上記P2O中の対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)は0.95以上であり、0.97以上が好ましい。P2O含量及びPOP/P2O比が上記範囲である場合、テンパリング型チョコレート類に配合することで、テンパリング後の生地粘度上昇を有意に抑制することができる。
【0015】
本発明の油脂組成物はまた、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することが必要である。一般的にはテンパリング型代用脂中のトリ飽和トリグリセリドは、テンパリング後の増粘やチョコレートの口溶け性低下を引き起こすため、上記に例示した公報におけるパーム中融点加工油を含め、できる限り少なくすることが好ましいとされているが、本発明の油脂組成物の場合、意外にも、適量(2〜6質量%)を含有することで、テンパリング後に増粘することなく、コーティングもしくはエンロービング(上掛け)後は乾きが速く、口溶けも良好であることが見出された。油脂組成物中におけるトリパルミチンの含量は2〜6質量%であり、3〜5質量%であることが好ましい。
【0016】
本発明の油脂組成物は、上記のP2O含量及びPOP比が高められたパーム中融点加工油、例えば、パーム中融点油脂を原料として、リパーゼ製剤により1,3−位選択的エステル交換を行ってPOP/P2O比を高めた上で、副生したトリ飽和トリグリセリド(主にPPP)とジ不飽和モノ飽和トリグリセリド(主にPOO)とを分別により除いた中融点部に、トリパルミチンもしくはトリパルミチンに富んだ油脂を少量配合することによって、P2Oの含有量が70〜85質量%であり、P2Oの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有する油脂組成物として得られる。トリパルミチンに富んだ油脂としては、パームステアリンを更に分別した2段分別ステアリン(以下パームハードステアリン、ヨウ素価15未満、PPP含量70質量%以上)が挙げられ、油脂組成物中に2〜6質量%配合されるのが好ましい。
【0017】
本発明油脂組成物の更に好ましい製造法としては、上記同様のパーム中融点部を出発原料として、溶剤または乾式分別により、P2Oが70質量%以上に濃縮され、POP/P2O比が0.89〜0.94、更に好ましくは0.91〜0.94までに高められた高融点もしくは中融点部を得た後、1,3−位選択性の高いリパーゼによりエステル交換反応を行うことが挙げられる。この方法によれば、最後のエステル交換の工程で更にPOP/P2O比が高められ、且つ、PPPの生成が同時に達成されるため、PPPを後から別に添加する必要が無く、経済的で好ましい。

POP + PPO →(1,3位エステル交換)→ POP + POO(PPOの減少) + PPP(PPPの生成) ⇒ (POP/P2O比向上)
【0018】
本発明の油脂組成物のテンパリング型チョコレート類への配合量は3質量%以上であり、5質量%以上であることが好ましく、上限はテンパリング型チョコレート類の油分含量が上限となり、一般的には35〜60質量%である。従って本発明の油脂組成物のテンパリング型チョコレート類への配合量は3〜60質量%であり、3〜35質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、3〜15質量%が更に好ましく、5〜15質量%が最も好ましい。
しかしながら、求められるテンパリング型チョコレート類の特性によって勘案されるものであって、例えば、現時点でのCODEX(国際食品規格)委員会による5%ルール(チョコレート中にカカオ代用脂が5%を超えて含まれるとチョコレート表示が出来ない)を意識した場合、3〜5質量%の配合が好ましいケースもある。上記範囲で本発明の油脂組成物をテンパリング型チョコレート類に配合することにより、テンパリン後の粘度上昇が有意に抑制される。
【0019】
本発明の油脂組成物は、テンパリング型チョコレート類に配合され、テンパリング後のチョコレート生地の粘度上昇を抑える効果を有するものであるから、その用途はコーティングチョコレート類、特に、エンロービングマシンを使用してなされる上掛け(エンローバー)用途に適している。その他チョコレート以外にも、練り込み用油脂、スプレー用油脂、クリーム用油脂等に適した製菓用油脂の用途に用いることができる。
【0020】
本発明の油脂組成物は、その機能を阻害しない限り、チョコレートのブルーム耐性向上、アンチマイグレーション機能強化等を目的に、乳化剤を加えても良い。このときの乳化剤としては、食用に使用できるものであれば制限がないが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルの中から選ばれた1種または2種以上の乳化剤を使用するのが好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルを使用するのがさらに好ましい。
【0021】
本発明の油脂組成物を配合したテンパリング型チョコレート類は、通常のチョコレートに含有されるカカオ分、糖、タンパク質、乳製品、炭水化物、乳化剤、抗酸化剤、ビタミン、調味料、香辛料、水分等を含有させてもよい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により、何等制限されるものではない。
【0023】
〔リパーゼ製剤の調製〕
リパーゼ製剤A:
ノボザイムズA/S社製リポザイムTL−IM5gを特殊機化工業(株)製L型マイコロイダーを用いて粉砕した。粉砕したリパーゼの粒子径を堀場製作所製の粒度分布計LA−500を用いて測定したところ、平均粒子径66.4μmであった。この粉末にろ過助剤としてセルロースパウダー(日本製紙ケミカル社製:平均粒子径30μm)を5g加えて粉末組成物を得た。この粉末組成物5gに対し、菜種油90gおよびODO(日清オイリオグループ(株)社製)10gを添加して25℃で5時間攪拌した後ろ過して、粉末リパーゼ製剤Aを得た。
リパーゼ製剤B:
天野エンザイム社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K(リパーゼDともいう)の酵素溶液(150000U/ml)に、予めオートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行い、室温程度に冷やした脱臭全脂大豆粉末(脂肪含有量が23質量%、商品名:アルファプラスHS−600、日清コスモフーズ(株)社製)10%水溶液を攪拌しながら3倍量加え、0.5N NaOH溶液でpH7.8に調整後、噴霧乾燥(東京理科器械(株)社、SD−1000型)を行い、粉末リパーゼ製剤Bを得た。
【0024】
〔油脂組成物の調製〕
(比較例1)油脂組成物1:
パーム油中融点画分1(組成 POP 62.3質量%、PPO+OPP 11.9質量%含有、マレーシアISF社製)を油脂組成物1とした。
(比較例2)油脂組成物2:
パーム油中融点画分1(組成 POP 62.3質量%、PPO+OPP 11.9質量%含有)1200gに、リパーゼ製剤Aを0.2質量%添加し、70℃で2時間攪拌反応した。ろ過処理によりリパーゼ製剤を除去し、反応物を1184g得た。得られた反応物、1132gに、アセトン5660gを加え溶解した後、20℃に冷却し得られた固形部を除去した。液状部をさらに5℃まで冷却して得られた固形部をろ別した後、定法によりアセトン除去および精製を行い、油脂組成物2を792g得た。
(実施例1)油脂組成物3:
油脂組成物2にパームハードステアリン(ヨウ素価13)を対油2%添加して、油脂組成物3を得た。
(比較例3)油脂組成物4:
パーム油中融点画分2(組成 POP 71.5質量%、PPO+OPP 6.2質量%含有、マレーシアISF社製)を油脂組成物4とした。
(実施例2)油脂組成物5:
パーム油中融点画分2(組成 POP 71.5質量%、PPO+OPP 6.2質量%含有)350gに、リパーゼ製剤Bを0.3質量%添加し、50℃で2時間攪拌反応した。ろ過処理によりリパーゼ製剤を除去し、反応物337gを得た。得られた反応物を定法により精製を行い、油脂組成物5を283g得た。
(実施例3)油脂組成物6
油脂組成物2にパームハードステアリン(ヨウ素価13、PPP 71%含有)を6質量%配合して、油脂組成物3を得た。
(比較例4)油脂組成物7
油脂組成物2にパームハードステアリン(ヨウ素価13、PPP 71%含有)を9質量%配合して、油脂組成物7を得た。
【0025】
上記油脂組成物1〜7のトリアシルグリセリド(TAG)組成、及びPOP/P2Oの比を表1に示す(表中の%は質量%を示す)。TAG組成はGLC(島津製作所製 GC−2010)で、POP/P2O比はLC−MS/MS(日本ウォーターズ社製 Quattro micro)にて分析を行った。
【0026】
GLCを用いたTAG組成分析法についてさらに詳しく説明する。GLC分析条件を以下に挙げる。
カラム Rtx−65TG (Restek社製) 15 m×0.1 μm×0.25 mm
検出器 FID
キャリアガス He
スプリット比 60:1
カラム温度℃ 350 ℃(1min)→(1 ℃/min)→ 365℃(4min)
注入口温度 365 ℃
検出器温度 365 ℃
【0027】
LC−MS/MSを用いたPOP/P2Oの分析法についてさらに詳しく説明する。LC−MS/MSの分析条件を以下に挙げる。
カラム 一般的なODSカラム(4.6mm×25cm)2本連結
溶出溶剤 アセトン/アセトニトリルの混合系
80/20〜100/0グラージェントモード
流速 0.5ml/min
イオン源 APCI
質量分析部 MRMモード
まず、POPと(PPO+OPP)との比を、POPとPPOの標準(フナコシ株式会社製)から作成した検量線を用いて算出した。POPとPPOとを比率を振って混合し、上記条件にてLC−MS/MSに供した。M/Z=833(PO)のプロダクトイオン M/Z=551(PO)とM/Z=557(PP)の比率(PO/PP)を算出し、これとPOPとPPOの標準混合比との間の検量線を作成した。試料を標準と同様に上記条件にて分析してPO/PP比を求め、検量線よりPOPと(PPO+OPP)との比を算出し、POP/P2O比に換算した。
【0028】
【表1】

P;パルミチン酸、St;ステアリン酸、O;オレイン酸、L;リノール酸、tr;微量
【0029】
〔チョコレート生地における粘度抑制効果検証1〕
油脂組成物1〜5(比較例1〜3、実施例1〜2)それぞれを使用して、表2の配合に従ってチョコレート生地1300gを調製し(比較参考例、比較例5〜7、実施例4〜5)、卓上型テンパリングマシンを用いて50℃/3分 ⇒ 29℃/1分 ⇒31℃/3分の条件でテンパリング後、温調付きミキサーに移し、31℃における粘度変化を経時的に記録した。粘度はBH型粘度計を用い、ローターNo.6、回転数4rpmで計測した。測定結果を表3及び図1に示した(表3及び図1中の粘度の単位;mPas)。
また、別途、テンパリング後のチョコレート生地を型に流し込み剥離性を見ることで乾きの速さの指標とした。得られたチョコレートは20℃にて1週間保存した後に口溶けの評価を行った。結果は表2に記した。

剥離性 ◎:冷却後15分で剥がれる
○:冷却後20分で剥がれる
△:剥がれない

口溶け ◎:口どけが良好である
○:口どけが良好であるが、少し後に残る
△:口どけが悪い
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
(図1)

【0033】
表1、表2、表3及び図1の結果から、油脂組成物1〜7は全てP2Oの含有量が70〜85質量%の範囲であり、その中で油脂組成物2〜6は75〜85質量%の範囲であった。
POP/P2Oが0.95以上であり、PPPを2〜6質量%含有する油脂組成物3または油脂組成物5を5質量%配合した実施例4及び実施例5のチョコレートは、テンパリング後の粘度上昇が有意に抑制され、また、チョコレートの乾き(剥離性)も良好であった。POP/P2O比が0.84と低い油脂組成物1を配合した比較例5のチョコレートは、粘度上昇抑制効果に劣り、また、油脂組成物1にはPPPが3.2質量%含まれているが、乾き(剥離性)も特段優れたものではなかった。POP/P2O比が0.98と高い油脂組成物2を配合した比較例6のチョコレートは、粘度上昇抑制効果に優れていたが、油脂組成物2はPPPを1.3質量%しか含まないため、乾き(剥離性)は特段優れたものではなかった。POP/P2O比が0.92と、0.95に満たない油脂組成物4を配合した比較例7のチョコレートは、粘度上昇抑制効果は見られるものの満足の行くレベルではなかった。また、油脂組成物4はPPPを1.8質量%しか含まないため、乾き(剥離性)は特段優れたものではなかった。
従って、テンパリング後の粘度上昇を抑制し、かつ、乾きが速い特性を得るには、油脂組成物はP2Oの含有量が70〜85質量%、POP/P2Oが0.95以上であり、PPPを2〜6質量%含有する必要があることが分かった。
【0034】
〔チョコレート生地における粘度抑制効果検証2〕
油脂組成物3(実施例1)、油脂組成物6(実施例3)、及び油脂組成物7(比較例4)を使用して、表4の配合に従ってチョコレート生地1300gを調製し(比較参考例、比較例8〜9、実施例6〜8)、卓上型テンパリングマシンを用いて50℃/3分 ⇒ 29℃/1分 ⇒31℃/3分の条件でテンパリング後、温調付きミキサーに移し、31℃における粘度変化を経時的に記録した。粘度はBH型粘度計を用い、ローターNo.6、回転数4rpmで計測した。測定結果を表5及び図2に示した(表5及び図2中の粘度の単位; mPas)。
また、別途、テンパリング後のチョコレート生地を型に流し込み剥離性を見ることで乾きの速さの指標とした。得られたチョコレートは20℃にて1週間保存した後に口溶けの評価を行った。結果は表4に記した。

剥離性 ◎:冷却後15分で剥がれる
○:冷却後20分で剥がれる
△:剥がれない

口溶け ◎:口どけが良好である
○:口どけが良好であるが、少し後に残る
△:口どけが悪い
【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
(図2)

【0038】
表1、表4、表5及び図2の結果から、POP/P2Oが0.95以上であり、PPPを2〜6質量%含有する油脂組成物3を配合したチョコレートは、チョコレート中に1質量%のみの配合(比較例8)ではテンパリング後の粘度抑制の効果が十分ではなく、また、乾き(剥離性)も何も配合していない比較参考例よりも優れなかった。3質量%配合した実施例6では、粘度抑制及び乾きが十分なレベルに達しており、10質量%配合した実施例7では、テンパリング後の粘度上昇が極めて抑制され、また、チョコレートの乾き(剥離性)も良好であり、口溶けも良好なものであった。また、POP/P2Oが0.95以上であり、トリパルミチン(PPP)含量が5.5質量%である油脂組成物6を配合した実施例8は、粘度抑制及び乾きとも十分なレベルにあったが、POP/P2Oが0.95以上であり、PPP含量が7.6質量%である油脂組成物7を配合した比較例9は増粘傾向が著しくなり、口溶けにも影響が出てきた。
従って、テンパリング後の粘度上昇を抑制し、かつ、乾きが速い特性を得るには、本発明の油脂組成物は3質量%以上チョコレートに配合される必要があり、その効果は配合量が多いほど優れたものである。また、油脂組成物中のPPP含量が6質量%を超えると増粘傾向が著しくなるため、油脂組成物中のPPP含量は2〜6質量%とする必要があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の油脂組成物を配合したテンパリング型チョコレートは、テンパリング後の粘度が低く抑えられるために、コーティング、特にエンローバー(上掛け)用途に最適であり、従来複雑な温度調節が必要であったエンロービング作業の負荷を大いに軽減するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】テンパリング後のチョコレート生地の粘度変化を示した図である。(比較参考例、実施例4〜5、比較例5〜7)
【図2】テンパリング後のチョコレート生地の粘度変化を示した図である。(比較参考例、実施例6〜8、比較例8〜9)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%であり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物。
【請求項2】
オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が75〜85質量%であることを特徴とする請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
トリパルミチン(PPP)含有量が3〜5質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の油脂組成物をチョコレート生地に3〜60質量%配合することを特徴とするテンパリング型チョコレート類。
【請求項5】
コーティングまたはエンローバー用である請求項4記載のチョコレート類
【請求項6】
オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%であり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物をチョコレート類に3〜60質量%配合し、テンパリング型チョコレート類のテンパリング後の粘度上昇を抑制する方法。
【請求項7】
オレオイルジパルミチン(P2O)の含有量が70〜85質量%であり、オレオイルジパルミチンの内、対称型トリグリセリド(POP)の質量比(POP/P2O)が0.95以上である油脂組成物であって、且つ、トリパルミチン(PPP)を2〜6質量%含有することを特徴とする油脂組成物をチョコレート類に3〜60質量%配合することを特徴とするテンパリング型チョコレート類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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