説明

治療用の医薬組成物

本発明は、慢性疾患を生じる病原体に対する治療用のワクチンに関係する。特に、本発明は、Pichia pastorisから組換え法により生産されたB型肝炎表面抗原(HBsAg)を、治療用の医薬組成物を得るための主成分として使用することに関係する。発明の組成物は、B型肝炎抗原及び他の併用投与される抗原を含むことができる。前記製剤は強力なリンパ球増殖反応及び細胞障害性Tリンパ球並びに著しく特異的な抗体反応を生じることができる。このようにして、該製剤はヒトの上記疾患の治療に対して非常に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性疾患の原因となる病原体に対する治療用ワクチンのためのバイオテクノロジーの分野に関係する。特に、治療用の医薬組成物の主たる化合物として、Pichia pastorisにおいて組換え技術により生産されたB型肝炎表面抗原(HBsAg)を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
約350百万人の人々が、B型肝炎ウイルス(HBV)に慢性的に感染している。HBVに慢性的に感染している患者の主なリスクは、肝硬変の発生であり、これは肝細胞癌或いは癌性でない肝硬変の合併症(門脈圧亢進症及び肝不全)に関連する死亡率の増加を生じる。
【0003】
HBV感染の症状は主として免疫により仲介されるので、これらのリスクはウイルス複製の制御により有意に減少する。
【0004】
今日、HBVにより生じる慢性肝炎の治療として広く認められ、そして臨床的な利益を示す主な療法は二つのみである:α‐インターフェロンによる治療及びラミブジン(Lamivudine)のようなヌクレオシド/ヌクレオチドの同族体(analog)による治療。いずれの治療法も重大な限界がある。α‐インターフェロンによる治療法はγIFNの抗ウイルス作用及び免疫刺激作用を併せて利用するため、患者の3分の1でしかウイルス複製の持続的抑制を生じない。
【0005】
ラミブジン治療は速やかなそしてほぼ確実にHBV複製の減少をもたらすが、短期間の治療はしばしば再発に至る。長期間の治療は再発を増加させ、年当たり15〜20%の発生率となる。HBVに対する抗ウイルス療法の両者に限界があることから、新しい代替治療法を発見することの必要性が指摘され、その中には新しいヌクレオチド同族体および慢性的に感染した患者のT細胞の低下した応答を改善することを目的とした新しい特異的又は非特異的免疫療法が含まれる。
【0006】
特異免疫の受動転移、免疫調節薬(サイトカイン、チミン誘導体及び増殖因子)及びワクチン療法(現在の組換えワクチン、DNAに基づくワクチン及びT細胞ペプチドのような新しい方法)が最近の免疫治療法である。
【0007】
HBVは細胞変性性ウイルスではなく、感染の間の肝臓障害は主に感染細胞に対する宿主の免疫応答に仲介されそして炎症性サイトカインの生産により生じる。細胞障害性及びヘルパー細胞のサブセットにおける強力なポリクロナール多選択性細胞応答(potent,polyclonal and multispecific cellular response)並びにHBVに対する強力なサイトカイン応答は、急性の自己限定(self−limited)B型肝炎感染患者の末梢血中に容易且つ迅速に検出することができる。逆に、慢性感染の患者においては、その同じ応答は弱く、抗原的に限定されているか又は検出できない。T細胞応答はHBV消失に対応することが示されている。急性B型肝炎の間、Th1サイトカイン(γ‐インターフェロン、TNF‐α)及びIL‐2はウイルスの排除(clearance)に関連していた。
【0008】
いくつかの組換え抗B型肝炎ワクチンが免疫療法について検定された。肝臓でHBsAgを構成的に発現する形質転換マウスの免疫化(immunization)により、特異的免疫応答を誘発し、HBsAgに対する機能的耐性を獲得するためのこの方法の可能性が示された(Mancini M,et al.,Induction of anti−hepatitis B surface antigen(HBsAg)antibodies in HBsAg transgenic mice:a possible way of circumventing “nonresponse” to HBsAg.J Med Virol.1993; 39;67−74.)。パイロット規模の最初の臨床試験により、特異的ワクチン療法は慢性的キャリアーの約50%においてHBVの複製を排除又は減少させることができることが示された(Pol S,et al. Lancet 1994; 342(Letter), Wen Y−M, et al. Lancet 1995; 345:1575−1576(Letter), Pol S, et al. Acta Gastroenterologica Belgica 1998; 61:228−33)。
【0009】
最終的に、マルチセンター比較試験により、慢性感染の治療における抗B型肝炎ワクチンの実際の能力が示された(Pol S, et al. J Hepatol 2001; 34: 917−21)。プレ‐S領域を含む又はS領域のみの抗原を含有する市販ワクチンが検定された。1年後及び5回の注射の後に非治療対照群と比較してウイルスDNAの陰性化のパーセンテージは差がなく、HBsAgの消失はなく、そして“e”抗原の陰性化も余りよくはなかったが、ワクチン群のほうが良かった。これらの全ての結果は、新しい免疫療法の必要性を示し、それと共に、もっと強力な候補物質による上記の免疫方法の強化が必要であると結論された。
【0010】
最近、CD14受容体に結合する能力の低い抗原は、HBsAgに対して高い応答を生じる人のPBMCにおいて高い増殖活性を誘発することができることが示された。この事実は、CD14に結合する能力と免疫抑制機構の間の相関を示している(Valandschoot P, et al. J.Med Virol 2003,70:513−519)。
【0011】
細胞応答に関して優れた免疫原性を示し、同時に投与された同種及び異種抗原に対して活性の増強を示し、また−物理化学的性質の結果として−CD14受容体に結合する能力が有意に低下した変異体を選択する過程から造られた新しいHBsAgは、新規抗原であり、そしてB型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス治療に単独で又は慢性感染若しくは同時感染の治療のための多抗原製剤の一部として使用することができると考えられる。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明において、治療用の新しい医薬組成物を得るために、本出願に記述された方法によりPichia pastorisにおいて生産されたB型肝炎ウイルス表面抗原の新しい使用方法が記述された。これを達成するために、われわれの条件において生産されたHBsAgの新しい性質が他のB型肝炎抗原と比較して検討された。
【0013】
本発明において、特許EP 0480525 B1「B型肝炎ウイルスの組換え表面抗原を得る方法」に記述されている方法が、得られた抗原に新しい性質をもたらすことをわれわれは発見した。次のステップ:カオトロピック剤を含有する溶解緩衝液中における細胞溶解;酸性条件(低いpH値)における混入物の沈殿;B型肝炎表面抗原に対する特異的モノクロナール抗体を使用する抗原の免疫親和性クロマトグラフィー;溶出抗原の30〜40℃の範囲の温度による熱処理、を含む精製工程を使用してPichia pastorisにおいて生産されたHBsAgは、文献に記述されているほかのHBsAgと異なる新しい抗原を生じ、この抗原を治療に使用する裏づけとなっている。
【0014】
HBsAg抗原の間の相違は、他の宿主において生産されそして異なる精製法を使用した抗原に比較して、本発明の主題である抗原の高い免疫原性に基づいている。その他の相違は、われわれのHBsAgの増強作用の結果として、治療用ワクチンに含まれ同時に投与される潜在的抗原として考えられる同種及び異種の抗原に対する増強作用である。さらに、免疫系の前線におけるその行動に著しく影響するわれわれの条件下において生産されたHBsAgの構造及び化学的組成の面で相違がある。
【0015】
本発明のHBsAgは、異種抗原に対する細胞の応答、増殖及び機能の増強を促進する抗原の能力の故に、B型肝炎の慢性感染を治療するためにそして他のウイルスとの慢性同時感染の治療の場合にもワクチン製剤に使用することができる。
【0016】
本発明のHBsAgと共に同時投与される抗原の中には、慢性感染を生じることができるほかのウイルスの抗原、例えば、C型肝炎及びHIVの抗原がある。本発明の実施例に記述された結果は、C型肝炎ウイルスのヌクレオキャプシド及び該病原体に対するヒトの細胞応答に関係する抗原決定基を含むVIH−1のキメラタンパク質を使用して得られた。
【0017】
われわれの実験室において得たエビデンスによれば、この性質は、この方法により得られるHBsAgと−同じ目的で−同時に投与することができる全ての同種又は異種タンパク質に拡張することができる。われわれの製剤に使用することができそして製剤の最終効果に重要な同種タンパク質は、B型肝炎ウイルスのヌクレオキャプシド又はHBcAgのタンパク質である。このタンパク質は、本発明のHBsAgと共に同時に投与された場合に、その細胞応答において免疫増強効果を受けることができる。
【0018】
同時に、B型肝炎以外の疾患の慢性期にある人に、得られた多価製剤を使用することは、当該慢性疾患に対して治療上有益であり、そして同時にHBV感染に対して予防的免疫応答を誘発する可能性があることは本発明から明らかである。
【0019】
また、本発明の主題は、Pichia pastorisにおいて得られたHBsAgを使用し、溶液で並びに簡便にミョウバン塩又はこの目的で選択されたほかのアジュバントに添加して、慢性B型肝炎治療のために記述された方法を使用する医薬組成物である。そのアジュバントは、ミョウバン塩又は治療用のわれわれのワクチンの投与に有用なその他のアジュバントであるが、それに限定されない。
【0020】
記述された方法によりPichia pastorisにおいて得られたB型肝炎表面抗原が、その治療作用に対する重要なアジュバント効果を受ける同種及び異種抗原と併用して投与される治療用の医薬組成物もまた本発明の主題である。同種抗原はB型肝炎ウイルスの抗原、好ましくは該ウイルスのヌクレオキャプシド抗原を含む。本発明の主題の製剤に含めることができるその他の抗原は、ヒトにおいて慢性疾患を発生させるもの、例えばC型肝炎ウイルス及びHIV−1であるが、これに限定されないし、そのような性質を持つほかのウイルスの抗原を使用することもできる。
【0021】
本発明の医薬組成物は、必要とする治療上の応答の種類を増強する目的で粘膜、非経口又は両経路の組み合わせにより使用することができることを指摘するのは重要である。本発明の医薬組成物中の抗原の量は、製剤中に含まれる抗原によるが、HBsAgの場合には;抗原は投与当たり5〜300マイクログラムの範囲である。併用投与される抗原の残余に対する比率は5:1から1:5の間であり、考慮された特別な治療による。
【実施例】
【0022】
実施例1:種々の宿主から生産された種々のB型肝炎ワクチンの体液性及び細胞性免疫応答に関する免疫原性。
種々の市販の抗B型肝炎ワクチンにより生じる体液性及び細胞性免疫応答を試験する目的で、免疫スケジュールがBalb/Cマウスにおいて行われた。8〜12週齢のマウス各10匹の5群を、0,15,30及び90日目に2μg(マイクログラム)の用量のHBsAgで筋肉内に免疫した。体液性応答を評価するために各投与の10日後に採血を行い、3回目と4回目の投与の後に試験のタイプによる免疫応答を試験するために群当たり3から4匹のマウスを屠殺した。
【0023】
この試験において、マウス当たり2μgのHBsAg用量は、非常に類似する製品間の相違の検出を可能にするのに充分に低い量であるので選択された(検定されたワクチンは全て同様の量のHBsAg及び水酸化ミョウバンを含有する)。
【0024】
免疫スケジュールの群は、1)Pichia pastorisにおいて生産されたHBsAgを含有するHeberbiovac HBワクチン、2)Pichia pastorisにおいて生産されたが他の精製法を使用したShanvac Bワクチン、3)Hepavax Gene及び4)Euvax Bワクチン(これらはそれぞれSaccharomyces cerevisiae及びHansenula polymorphaにおいて生産された)であった。第5群は同様の量の水酸化ミョウバンのみを投与されたマウスからなるプラセボ対照であった。
【0025】
体液性免疫応答、並びに力価の持続は、血清検体中の総IgGをELISAにより測定して評価した。血清IgG力価は、第2、第3及び第4回目の投与の2週間後及び第4回目の投与の前に試験した。抗体応答の結果を図1Aに示した。
【0026】
分析期間の間、Heberbiovac HB及びShanvac Bワクチンで免疫された群の間に有意な相違は認められなかった。両ワクチン共に類似の力価を生じ、第2及び第3回目投与の後は検定したワクチンの中のほかのワクチン(Euvax B及びHepavax Gene)より優れていた。
【0027】
第4回目投与の10日後、群当たり4匹のマウスを屠殺し、個々のマウスにつきリンパ球増殖反応を測定する細胞免疫の試験を実施した。低い抗原投与量におけるわれわれの実験条件においては、Heberbiovac HBのみがブースター投与の後に明らかに検出しうるリンパ球増殖反応を誘発することができた。試験した他のワクチンには陽性反応はなかった(図1B)。
【0028】
リンパ球増殖検定の結果は、特別の細胞サブセットを選択せずに増殖する脾臓細胞の能力を示しているが、検定の時期としては記憶T CD4+が刺激に反応する主な細胞集団であることが知られている。抗原刺激に対して特異的に増殖するこのT CD4+リンパ球は、それぞれ体液性及び細胞障害性応答の発生を補助するB細胞及びCD8T細胞と相互作用することができる。
【0029】
第3回目投与の10日後、群当たり3匹のマウスを屠殺し、ELISPOT検定を行った。結果を図1Cに示す。
【0030】
ELISPOT検定において得られた結果は、ミョウバン中のHBsAgが、HBsAgに由来するS28−39ペプチドによる再刺激後にγINF分泌リンパ球の強い反応を誘発することができることを示した。直接ELISPOT検定の結果は、再刺激後の結果に比較して低い反応を示した(データは示さず)。図1Cに示された結果は、Heberbiovac HBが、評価したほかのワクチンに比較して、免疫された動物の脾臓細胞中にγIFN分泌細胞を高頻度に誘発する能力を有することを示した。γIFNの分泌は、HBV複製の制御に極めて重要であるTh1細胞の発生を示している。
【0031】
総合して、得られた結果は、Pichia pastorisにおいて生産されそして本発明に説明されている条件で精製されたHBsAgの細胞応答が、他の宿主並びに同じ宿主で異なる条件において得られた抗原よりも優れていることを示している。この実験において評価された反応(リンパ球増殖及びγIFN分泌)とB型肝炎ウイルス感染の制御の間の関係は広く認められているので、この結果は治療用ワクチン接種の分野においては注目すべきことである。
【0032】
実施例2:記述された方法により生産されたHBsAgによる細胞免疫応答に対する増強効果。
他の宿主において得られたHBsAgに対するPichia pastorisから得たHBsAgの能力を評価するために、同種抗原HBcAg(B型肝炎ヌクレオキャプシド抗原)に対する両抗原の同時投与により誘導される免疫応答を評価するための実験が計画された。
【0033】
この目的で、ヌクレオキャプシド抗原による脾臓細胞の刺激後のγIFN分泌細胞の頻度がELISPOT検定により評価された。
【0034】
Heberbiovac HBのHBsAgを使用して免疫された群と上等生物体(CHO)から生産されたHBsAgを使用して免疫された群において測定が行われ、いずれの場合もヌクレオキャプシド抗原と同時投与された。さらに、対応するプラセボ対照が評価され(データは示さず)、同様にヌクレオキャプシド抗原のみを含有する対照も評価された(群C,図2)。
【0035】
この結果は、CHO細胞において生産されたHBsAgを使用して免疫された群(群B、図2)に対して、Pichia pastorisから生産されたHBsAgにより免疫された群(群A)においてγIFNを分泌する細胞の頻度が増加していることを示した。したがって、われわれは、他の抗原:この場合には同種又は他の実験に示すように異種の抗原を含有する治療用製剤の設計に、Pichiaから生産されたHBsAgの使用を提案することができる。
【0036】
実施例3:HBV抗原及びHIV−1のHIV−1由来タンパク質CR3を併用した治療用ワクチン製剤におけるHBsAgの使用。
抗原としてそして同時に治療用ワクチン製剤中の異種抗原に対する細胞の特異的反応の免疫増強のためのアジュバントとして、鼻内免疫にHBsAgを使用することを評価するために、6〜8週齢のBalb/cマウス雌の6群を0,7,14,35及び63のスケジュールで接種した。動物は以下のような種々の群において鼻内経路により免疫された:1.PBS,2.HBcAg+HBsAg,3.CR3,4.HBcAg+CR3,5.HBsAg+CR3,6.HBcAg+HBsAg+CR3。CR3抗原は組換え技術により得られ、ヒトT細胞に特異的なHIV−1のいくつかの配列を含んでいる、多重抗原決定基を持つポリペプチドに相当した。抗原をPBSに溶解し、50μl(鼻孔当たり25μl)で投与した。HBsAG(CIGB,Cuba),HBcAg(CIGB,Cuba)及びCR3(CIGB,Cuba)のそれぞれについて、マウス当たり5,5及び10μgの投与量が使用された。最後の接種の10日後に、CD8+細胞並びに総脾臓細胞を使用して特異的に抗−CR3 γIFNを分泌する免疫応答をELISPOT検定により測定した。
【0037】
細胞性応答の試験は、ELISPOT検定によりγIFNを分泌する脾臓細胞の頻度を測定することにより行った。このAPCはCR3タンパク質を構成的に生産し、このタンパク質は細胞内でプロセスされ、HLAクラス1において呈示される。肥満細胞腫P815はその表面にMHC−II分子を発現しないために、P815CR3は特異的にCD8+T細胞を活性化するであろう。HBsAg+CR3及びHBcAg+HBsAg+CR3により免疫された群のみが陽性に反応し(図3A)、CR3タンパク質上のHBsAgにより刺激された抗CR3細胞性応答に対する増強作用を示すことが示された。タンパク質CR3が総脾臓細胞を使用した培養に加えられると、それは細胞内に取り込まれ、プロセスされ、主にマクロファージ及び樹状細胞のような専門化したAPCのMHCクラスIIにおいて呈示される。
【0038】
われわれの結果は、CD8+Tリンパ球に対して陽性反応を示す同じ群のみが(総脾臓細胞を使用する)上記検定に対しても陽性であったことを示し、その場合に主として応答したのはCD4+細胞であった:HBsAg+CR3及びHBcAg+HBsAg+CR3(図3B)。一般的に、CR3タンパク質により呈示される抗原決定基に対する反応を増強した結果として、HBsAgがHIV−1に対する細胞応答を増強したと結論することができる。この結果により、抗原並びに同時にHIV−1及びHBVに対する治療的免疫を行うためのアジュバントとしてHBsAgを使用することが正当化される。
【0039】
実施例4:非経口経路によるHIV−1の免疫原と併用される治療ワクチン中におけるHBsAgの使用。
HBV−HIV混合免疫の分野における細胞応答の抗原並びにアジュバントとして、非経口免疫においてHBsAgの使用を評価するために、種々の製剤を評価した。6〜8週齢の雌Balb/cマウス(CENPALAB,Cuba)の8から10匹の群を0,14,35日目に免疫した。以下のようにそれぞれの群のマウスを皮下投与により免疫した:1)HBsAg,2)CR3,3)HBsAg+CR3,4)HBsAg+HBcAg+CR3。免疫原は全て1 mg/mLでリン酸ミョウバンに加えた。次のHBsAg及びHBcAg投与量を使用した:マウス当たり100μl中2,4及び10μg。両抗原はCIGB,Cubaで生産された。γIFN分泌細胞の抗CR3特異的細胞性免疫応答は、実施例3に記述されているようにCR3を発現するP815を使用するELISPOTにより測定した(図4A)。
【0040】
陽性反応は、リン酸ミョウバン中のHBsAg+CR3及びHBcAg+HBsAg+CR3で免疫した群の場合にのみ検出された(図4A)ことから、同時投与した抗原の免疫原性に対するHBsAgの作用が示された。
【0041】
γIFN分泌細胞の抗CR3特異的細胞性免疫応答の分析は、P815のようなAPCのない培養にCR3タンパク質を直接加えた場合についても行われた。この実験では、CD8+応答の場合に陽性を生じたのと同じ群においてのみ、陽性のELISPOT応答を生じた。それらは、リン酸ミョウバン中のHBsAg+CR3及びHBcAg+HBsAg+CR3であり(図4B)、これらの群はCR3に対するHBsAgの細胞性増強作用を再度示した。
【0042】
実施例5:HBsAg及びHCV抗原の併用試験。
発生した免疫応答に対するHCVキャプシドの短縮タンパク質(Co.120)、(Lorenzo LJ, et al. Biochem Biophys Res Commun 2001;281(4):962−965)とHBsAgの併用の発生した免疫応答に対する影響を、HCVの構造領域の抗原と比較して評価する目的で、BALB/cマウスにおいて筋肉内投与スケジュールが行われた。各群10匹の8週齢の雌マウスを使用した。投与スケジュールは0,3,6及び9週目の4回の接種であった。免疫原は全てアジュバントとして水酸化ミョウバンを使用した。群1は陰性対照として使用され、水酸化ミョウバンのみを投与された。群2はタンパク質Co.120の5μgを接種された。群3は各タンパク質の5μgの混合物を接種され、そして群4は5μgのHBsAgで免疫された。動物は、2週間後に、組換え技術により挿入されたHCVキャプシド抗原を持つ組換えワクシニアウイルスの10プラーク形成単位の腹腔内経路の投与によりチャレンジした。
【0043】
チャレンジの5日後に動物を屠殺し、卵巣を取り出し、処理した。系統希釈の後、クリスタルバイオレット染色を使用してウイルス力価を測定するために、2日間BSC−40細胞に感染させた。
【0044】
図5は各群の卵巣におけるウイルス力価を示す。統計解析にはStudentのT検定を使用し、各群と対照群の結果を比較し、p<0.05を有意差とした。図5において、Co.120タンパク質及びHBsAgの混合物で免疫した動物は他の群と比較して有意に低い(p<0.05)ウイルス力価を示すことが示され、C型肝炎ウイルスのキャプシドに対してインビボにおいて強力にして有効な細胞応答を誘発することが示された。この群は、陰性対照群(水酸化ミョウバンで免疫されたマウス)に対して有意にウイルス力価を低下させることができた唯一の群であった。したがって、機能的抗ウイルス能力の直接的インビボ検定のこのシステムにおいて、ウイルス力価減少に関してHBsAgの増強作用が示された。
【0045】
実施例6:いくつかの病気に関係するそれぞれの抗原に対するこの出願に記述されたHBsAgの増強効果の試験。
抗原としてそして同時に慢性疾患に関係するウイルスの分野における特異的細胞性免疫応答の免疫増強物質として非経口免疫にHBsAgを使用することを評価する目的で、同じ製剤中にHBsAg及び同時投与される別の抗原を含有する製剤を使用して種々の実験が行われた。同時投与された抗原には、HIV(HIV−1ウイルスの抗原、ペプチドおよび多重抗原決定基を持つペプチドを含む弱毒化したウイルス):HPV(われわれはHPV16,18及び33のウイルス様粒子を使用した);HCV(ヌクレオキャプシドの配列、表面抗原のペプチド及びタンパク質並びに非構造配列のセグメントを含む抗原)のようなヒトの病気の抗原;同様に、癌のような慢性疾患を発生するほかの病気の抗原(肺、肝臓、乳房及び前立腺の腫瘍に関係する及び腫瘍特異的な抗原)が含まれた。全ての場合に、その抗原単独の投与に対してγIFN分泌活性の増加が評価され、治療用製剤として投与されたわれわれの出願に記述されたHBsAgの能力が示された。
【0046】
実施例7:記述した製造方法を使用してPichia pastorisから得たHBsAgの種々のバッチを使用した場合と他の宿主において得られた抗原とを比較した場合のCD14受容体に結合するHBsAgの能力の試験。
本発明に記述された精製方法を使用した組換えタンパク質として得られたHBsAgの分析結果は、マクロファージに認められそして免疫学的耐性過程の発生に関係するCD14受容体に対して結合するHBsAgの能力として、細胞性部分の高い免疫原性に影響する相違があることが示された。
【0047】
免疫細胞分析により、この出願に記述された条件により生産されたイースト菌Pichia pastorisにおいて生産された抗原のCD14受容体へ結合する能力は、Saccharomyces cerevisiaeにおいて生産された抗原に比較して著しく低下していることが証明された(図6)。この事実は、本発明において検定された抗原の異なる行動に関するわれわれの所見を支持している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】1A)種々の市販ワクチンを使用して、0,15,30及び90日目に免疫したマウスの血清中の抗HBsAg IgG免疫応答の動態を示すグラフ。ワクチンの一つはHeberbiovac−HBであり、これはPichia pastorisにおいて生産されたHBsAg及び他の宿主中でまた異なる方法で生産されたほかのワクチンを含有する。1B)90日目のブースター投与後に種々のワクチンにより生じたリンパ球増殖反応。1C)ペプチドS28−39で瞬間標識したマウス肥満細胞腫p815の細胞で刺激した後のγIFN分泌細胞の反応。
【図2】他の同時に投与された抗原に対する細胞性応答増強能力に関する、Pichia pastorisにより生産された抗原及び高等生物の細胞(CHO)において生産された抗原の比較試験。この場合に、抗原モデルとしてB型肝炎コア抗原が使用された。
【図3】HBsAg, HBcAg及びHIV−1の配列を含む多重抗原決定基タンパク質を含む治療用の混合製剤により誘発された免疫応答の試験。鼻免疫スケジュール:3A)挿入されたCR3の配列を持つ遺伝子導入p815による脾臓細胞の刺激後のγIFNを分泌する抗CR3 CD8+リンパ球。3B)CR3による脾臓細胞の直接刺激後のγIFN分泌リンパ球。
【図4】HBsAg,HBcAg及びHIV−1のCR3タンパク質の混合製剤により誘発された免疫応答の試験。非経口投与免疫スケジュール。4A)挿入されたCR3の配列を持つ遺伝子導入p815による脾臓細胞の刺激後のγIFNを分泌する抗CR3 CD8+リンパ球。4B)CR3による脾臓細胞の直接刺激後のγIFN分泌リンパ球。
【図5】各群の動物の卵巣のウイルス力価。
【図6】CD14結合能力。群1)Sccharomycesにおいて生産されたHBsAg,群2−9)記述された条件においてPichiaにおいて生産されたHBsAg。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カオトロピック剤を含有する溶解緩衝液中における細胞溶解;酸性pHの条件における混入物の沈殿;B型肝炎表面抗原に対する特異的モノクロナール抗体を使用する抗原の免疫親和性クロマトグラフィー;30℃から40℃までの温度範囲での溶出抗原の熱処理の少なくとも一つのステップを含む精製方法によりイーストから生産されるB型肝炎表面抗原を含有することを特徴とする治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記抗原生産に使用されるイーストがPichia pastorisである請求項1に記載の治療用医薬組成物。
【請求項3】
慢性的経過を生じるウイルスの治療としてそれらを使用することを特徴とする請求項1及び2に記載の治療用医薬組成物。
【請求項4】
B型肝炎ウイルスによる慢性感染の治療としてそれらを使用することを特徴とする請求項1から3に記載の治療用医薬組成物。
【請求項5】
B型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスによる慢性同時感染(chronic co−infection)の治療としてそれらを使用することを特徴とする請求項1から3に記載の治療用医薬組成物。
【請求項6】
B型肝炎ウイルス及びヒト免疫不全ウイルスによる慢性感染の治療としてそれらを使用することを特徴とする請求項1から3に記載の治療用医薬組成物。
【請求項7】
B型肝炎ウイルス及び慢性感染疾患の群に含まれるほかの感染による慢性感染の治療としてそれらを使用することを特徴とする請求項1から3に記載の治療用医薬組成物。
【請求項8】
慢性疾患の治療に使用される2価ワクチンとしてそして同時にB型肝炎ウイルスの予防ワクチンとしてそれらを使用することを特徴とする請求項1から3に記載の治療用医薬組成物。
【請求項9】
B型肝炎表面抗原が単独で又は適当なアジュバントと共に投与される請求項1から8に記載の治療用医薬組成物。
【請求項10】
HBsAgによって治療作用に著しく重要なアジュバント効果を受けるいくつかの同種及び異種抗原と併用してB型肝炎表面抗原が投与される請求項1から9に記載の治療用医薬組成物。
【請求項11】
異種抗原が慢性疾患を発生させるウイルスのワクチン抗原である請求項10に記載の治療用医薬組成物。
【請求項12】
非経口使用、粘膜使用又は両経路で使用するための請求項1から11に記載の治療用医薬組成物。
【請求項13】
抗原が、カオトロピック剤を含有する溶解緩衝液中における細胞溶解;酸性pHの条件における混入物の沈殿;B型肝炎表面抗原に対する特異的モノクロナール抗体を使用する抗原の免疫親和性クロマトグラフィー;30℃から40℃までの温度範囲での溶出抗原の熱処理の少なくとも一つのステップを含む精製方法によりイーストにおいて生産される治療用医薬組成物におけるB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項14】
抗原生産に使用されるイーストがPichia pastorisである請求項13に記載のB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項15】
慢性的経過をたどるウイルスによる感染症の治療のためのワクチンを得るための請求項13及び14に記載のB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項16】
B型肝炎ウイルスにより生じる慢性感染症の治療のためのワクチンを得るための請求項13から15に記載のB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項17】
B型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスにより生じる慢性同時感染の治療のためのワクチンを得るための請求項13から15に記載のB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項18】
B型肝炎ウイルス及びヒト免疫不全ウイルス−1により生じる慢性同時感染症の治療のためのワクチンを得るための請求項13から15に記載のB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項19】
B型肝炎ウイルス及び慢性的経過の疾患のグループに含まれるほかの感染により生じる慢性同時感染症の治療のためのワクチンを得るための請求項13から15に記載のB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項20】
慢性経過をたどるウイルスによる慢性感染症の治療のためのそして同時にB型肝炎ウイルスによる感染を予防する能力を持つ二価ワクチンを得るための請求項13から15に記載のB型肝炎表面抗原の使用。
【請求項21】
カオトロピック剤を含有する溶解緩衝液中における細胞溶解;酸性pHの条件における混入物の沈殿;B型肝炎表面抗原に対する特異的モノクロナール抗体を使用する抗原の免疫親和性クロマトグラフィー;30℃から40℃までの温度範囲での溶出抗原の熱処理の少なくとも一つのステップを含む精製方法を使用してイーストにより生産されるB型肝炎表面抗原を使用することを特徴とする慢性的経過を生じるウイルスにより生じる感染症の治療方法。
【請求項22】
HBsAgを生産するためにイースト菌Pichia pastorisを使用することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
B型肝炎ウイルスにより生じる慢性感染症を治療するための請求項21及び22に記載の方法。
【請求項24】
B型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスにより生じる慢性同時感染症の治療のための請求項21及び22に記載の方法。
【請求項25】
B型肝炎ウイルス及びヒト免疫不全ウイルス−1により生じる慢性同時感染を治療するための請求項21及び22に記載の方法。
【請求項26】
B型肝炎ウイルス及び慢性的経過の疾患のグループに含まれるほかの感染により生じる慢性同時感染症の治療のための請求項21及び22に記載の方法。
【請求項27】
慢性経過をたどるウイルスによる慢性感染症の治療のためのそして同時にB型肝炎ウイルスによる感染を予防する能力を持つ二価ワクチンを得るための請求項21及び22に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−509081(P2007−509081A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535932(P2006−535932)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際出願番号】PCT/CU2004/000011
【国際公開番号】WO2005/037311
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】