説明

治療的な処置のための磁性粒子

【課題】磁場の高い強度および/または高い周波数変動に依存せず、組織中で局所的または全般的な温度上昇を誘導する手順にも依存しない、磁性粒子を用いる細胞死を誘導するための改善されたプロセス。
【解決手段】磁性粒子が、生体物質を破壊する治療適用において用いられる。この粒子は、内因性の磁化を有し、この磁化は固有の結晶磁気異方性によって、および/または形状異方性によって安定化されている。磁場を印加することによって、磁性粒子が標的の生体物質に局在化される場合、磁性粒子の回転が誘導され、それによってこの物質が破壊される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質の蓄積、または異常な細胞もしくは組織構造に関連する障害の処置に関する。さらに詳細には、本発明は、機械的破壊によるこのような障害の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、異常な細胞または組織の構造に関連する障害の処置において、適切な治療剤を用いるこの構造の選択的な標的化によって、多くの進歩が存在している。詳細には、腫瘍治療の状況では、腫瘍部位での適切な化学療法の局在化を可能にする技術の有意な進歩が存在している。しかし、化学療法はしばしば、投与され得る薬物の用量を制限する有害な全身的毒性によって損なわれるか、または多剤耐性の発生によって制限される。非特異的な細胞傷害を妨げるために、腫瘍部位での局在化後まで細胞傷害性を制御する必要性によって、1つの特別な困難性が生じる(Eaton、Immunoconjugates:Current Status and Future Potential,Journal of Drug Targeting,2002;10(7):525〜527)。
【0003】
さらに近年では、「温熱療法(hyperthemia)」と呼ばれるプロセスを介して腫瘍を処置するために磁性粒子の使用が検討されている。このプロセスは、磁気ヒステリシスの損失を誘導するために、腫瘍部位に磁性粒子を局在化させる工程、および高周波数AC磁石から磁場を印加する工程に依拠する。この粒子から散逸する熱は腫瘍細胞を損傷して、細胞死を生じる。このプロセスの説明は、Jones et al.,Int.J.Hyperthermia,2002;18(2):117〜128に、またJordan et al.,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2001;225:118〜126にも見出される。
【0004】
この提唱される療法の利点は、磁性粒子が比較的不活性な形態で患者に投与され得、そしてこの粒子の破壊的な能力は、この粒子が標的部位に局在する場合、選択的に誘導され得るということである。これによって、化学療法剤を用いて経験され得る未制御の細胞毒性が回避される。しかし、温熱療法の特定の不利な点は、細胞溶解のために十分な温度上昇を生じるように処置されるべき組織においては、高濃度の粒子が蓄積されなければならないということである。加熱は巨視的であり(すなわち:標的細胞に局在化するものではない)、組織壊死が生じ得るという結果を伴う。
【0005】
US6514481は、標的とされた細胞を破壊するための、DC磁場の引き続く適用による、細胞位置への、直径100nm未満の球状の磁性ナノ粒子の標的化を記載している。このナノ粒子は、酸化鉄、例えば、Fe23から調製されて、インビトロの細胞死を達成するには、7テスラ(Tesla)の磁場が印加されることが必要であることが示される。
【0006】
このプロセスを用いて達成された結果は興味深いが、極めて強力な磁場の必要性のせいで、約2テスラを上回る磁場を発生するためのハードウエア全体の高いコスト、および非局在性の天然に存在するかまたは混入粒子の動きの発生に起因する健康な組織の損傷の危険性に起因して、臨床的な適用にこのプロセスを適用するには限界がある。
【0007】
WO−A−01/17611は、剪断力の誘導をやはり必要とする、温熱療法プロセスにおけるナノ粒子の使用を開示する。剪断力は、磁場勾配の変更を行なうことによって誘
導される。開示される唯一の磁性粒子は酸化金属である。磁場勾配は、磁場勾配にそって動くように作用する変形力を粒子に受けさせて、反対方向に粒子を動かすように磁場勾配を変え、それによって「振動(vibration)」効果を誘導する。
【0008】
Halbreich et al.,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2002;248:276〜285は、「磁気細胞融解(magnetocytolysis)」と呼ばれるプロセスを記載する。このプロセスで用いられる粒子は、磁鉄鉱(酸化鉄)から構成されると述べられており、そして至適磁場振動数は、1000KHzであることが示される。磁気細胞融解の機構は、特定されていないが、細胞膜のような、磁性ナノ粒子の異なる濃度を有する領域の間の境界で局所的に生成された、極端な磁場勾配に関係することが示されている。
【0009】
US6,231,496は、磁場の印加によって子宮の裏層内に包埋される、先鋭な末端を有するナノ粒子の使用を開示している。次いで、マイクロ波照射を加えて、子宮の裏層の破壊を生じる組織加熱を得て、滅菌を達成する。
【0010】
US5,067,952は、温熱療法によって腫瘍を処置することにおける使用のための強磁性粒子の使用を開示する。このナノ粒子はまた、超音波振動の使用によって振動され得る。温熱療法は、13.65MHzの周波数で電磁場を印加することによって行なわれる。従って、腫瘍の破壊は、熱に基づく機構である。
【0011】
US5,236,410は、温熱療法を介する腫瘍の処置における六方晶フェライト粒子の使用を開示する。この粒子は、500nm〜7μmのサイズであると言われる。温熱療法を誘導するのに必要な磁場周波数は、約500MHzである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の引用文献は、磁性粒子が治療適用において用途を見出していることを示すが、磁場の高い強度および/または高い周波数変動に依存せず、組織中で局所的または全般的な温度上昇を誘導する手順にも依存しない、磁性粒子を用いる細胞死を誘導するための改善されたプロセスについての必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、少なくとも部分的には、標的部位に局在化されている選択された磁性粒子を、比較的弱くかつゆっくり変化している磁場に対して曝露させ、これによってそれらの磁性粒子を回転させて、印加された磁場と整列させることによる物理的破壊によって、生物学的構造/細胞構造を含む物質の効率的な破壊が達成され得るという理解に基づく。全体的なスケールでこのような磁場を発生させるために必要なハードウェアの費用は、それによって実質的に軽減される。
【0014】
本発明の第一の局面によれば、磁性粒子は、細胞構造もしくは組織構造、または望ましくない生体物質の蓄積に関連する障害を処置するための、患者に対する投与のための医薬の製造において用いられ、この粒子または各々の粒子は好ましくは、この構造または物質にまたはその中に局在化するように適合され、この処置は、磁場を印加して、この粒子または各々の粒子の回転を誘導し、これによってこの構造または物質を破壊することで行われるものであり、この磁性粒子または各々の磁性粒子が内因性の磁化を有し、この磁化は固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されている。
【0015】
本発明の第二の局面によれば、物質を破壊するための方法は、以下の工程、
(i)この物質においてまたはその中に1つ以上の磁性粒子を局在化させる工程と、
(ii)この磁性粒子または各々の磁性粒子に対して磁場を印加して、粒子の回転を誘導し、これによってこの物質を破壊させる工程であって、この磁性粒子または各々の磁性粒子が内因性の磁化を有し、この磁化は固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されており、この印加された磁場の方向またはこの物質に関する振幅が経時的に変化される、工程と、
を包含する。
【0016】
細胞死を得るために温熱療法に依拠する先行技術のプロセスとは対照的に、本発明は、細胞構造または他の生体物質の機械的な破壊を達成するのに十分なトルクを有する粒子の回転の誘導に依拠する。正確な粒子設計を考慮すれば、粒子の回転は、US6514481に開示されるよりもかなり低い磁場強度を用いて、そしてHalbreich et al,に開示されるよりもかなり低い磁場振動周波数(すなわち、より低い磁場スルー・レート)を用いて達成され得、これによってこの療法の臨床開発が可能になる。
【0017】
本発明の第三の局面によれば、細胞または組織の構造を含む、物質を破壊するための装置は、磁場を作動ボリュームで発生させるための磁場発生装置と;この物質にまたはこの物質中に作動ボリュームで局在化する1つ以上の磁性粒子であって、この磁性粒子または各々の磁性粒子は内因性の磁化を有し、この磁化は固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されている磁性粒子と;この磁性粒子を回転させるようにこの物質に関してこの磁場に作動ボリュームで変化を生じるための制御システムと;を備える。
【0018】
本発明の第四の局面によれば、内因性の磁化を有する磁性粒子であって、この磁化が固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されている磁性粒子は、それに結合する標的化部分を含む。
【0019】
本発明の第五の局面によれば、組成物が、内因性の磁化を有する複数の磁性粒子を含み、この磁化は固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されており、この粒子はさらにそれに結合している標的化部分を含み、そしてこの組成物はさらに、薬学的に受容可能な緩衝液、賦形剤または希釈剤を含む。
【0020】
本発明は、添付の図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1a】図1aは、印加された磁場Hに対する、「ハード(hard)」および「ソフト(soft)」の磁性ナノ粒子の磁化Mにおける相違を図示する。
【図1b】図1bは、印加された磁場Hに対する、「ハード(hard)」および「ソフト(soft)」の磁性ナノ粒子の磁化Mにおける相違を図示する。
【図1c】図1cは、印加された磁場Hに対する、「ハード(hard)」および「ソフト(soft)」の磁性ナノ粒子の磁化Mにおける相違を図示する。
【図2】図2は、保磁力が粒子サイズに対して依存することを図示する。
【図3a】図3aは、「ソフト」の磁性粒子に好ましい偏球面構造を図示する。
【図3b】図3bは、「ソフト」の磁性粒子に好ましい長球面構造を図示する。
【図4】図4は、種々のタイプの磁場発生装置の模式図である。
【図5】図5は、種々のタイプの磁場発生装置の模式図である。
【図6】図6は、種々のタイプの磁場発生装置の模式図である。
【図7】図7は、種々のタイプの磁場発生装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の使用のための粒子は、任意の適切なサイズであってもよいが、好ましくは、ナノスケール、すなわち、1μm未満である。従って、この粒子は、ナノ粒子と呼ばれてもよい。好ましくはこの粒子は、生体適合性のコーティング内に磁性コアを含み、この粒子コアは、50nm〜500nmサイズ、さらに好ましくは約100〜150nmサイズである。至適のサイズは、少なくとも部分的には、物質の選択に依存する。粒子のサイズに対するさらなる参照は、磁性コア物質を参照してとられるべきであり、反対の言及がない限り、任意のコーティングを有する全てのサイズに対してとられるべきではない。
【0023】
有効であるためには、十分に大きい力を発生させて、細胞構造の重要な要素を損傷させなければならない。これは、かなりの程度まで、細胞の機械的特性(言い換えると、細胞骨格粘弾性、流体力学、テンセグリティーなどの複合的な特性によって記載される)に依存する。しかし、現在の研究では、微小管(細胞内輸送に関連する重要な細胞構造)を破壊するには約100pNの力で十分であることが示唆される。従って、本発明を記載する目的のためには、本出願に示される実施形態は、100pNという損傷閾値力を想定しており、この閾値力を発生し得る装置を記載している。本発明は、100pNを超えるかまたは下回る閾値力には決して限定されるものではないということが理解される。
【0024】
損傷を生じるためには、閾値力は効率的には、ナノ粒子の磁性コアの設計、および全身治療磁石の両方に対する実際的な限界の注意深い考慮を必要とする。磁性コアのための設計パラメーターは、
−サイズ
−形状
−物質
であり、そして磁石については、主な設計パラメーターは、
−処置領域のサイズ(すなわち、全身または局所)
−処置領域における磁場強度
−処置領域内の磁場強度の時間依存性、
である。
【0025】
印加された磁場の好ましい時間依存性は、細胞の粘弾性特性に強く依存する。最適の時間依存性は、実験によって評価されるべきであるが、また適当な時点で考察される磁性ハードウェアの実際的な拘束内にもおさまらなければならない。
【0026】
ナノ粒子が細胞内に内在化されるためには、適切なサイズのものでなければならない。従って、生体適合性コーティングを含む粒子の好ましい最大寸法は約200nmである。
【0027】
磁性モーメントを有する粒子は、粒子束密度の印加された磁場においてトルクおよび並進力を受ける。このトルクは、磁性モーメントと印加された磁場方向とを整列させるように作用し、そして
Γ×
によって与えられる。印加された磁場勾配にそって磁場モ−メントを動かすように作用する並進力は、最高の粒子束密度の領域に向かい、
=−grad(
によって与えられる。
ナノ粒子を横切るの変動は、無視できるので、これは、
==−.grad(
となる。
【0028】
磁場は、極めて大きい勾配を有して、かなりの並進力を生じなければならない。実際、この並進力は、全ての実際的な配列で無視されることになり、そのためにトルクのみが考慮される。
【0029】
トルクΓを受け、かつ寸法d(Γに対して直交性の方向で測定)を有する粒子に対するピーク偶力(Fc)は、に対して直交性である場合に生じる。
c=|Γpeak/d=||||/d
【0030】
トルクまたは偶力を最大化するためには、本発明者らは、およびを最大化する必要があることが明らかである。本発明者らはまた、治療用磁石の費用を低く維持するためにを最小化することを望み、そのため「最小||を用いて損傷閾値力を満たすために||を最大化する」という最適化問題が残されている。
【0031】
磁性モーメントは、容積積分
=∫vdv
による粒子の磁化に関連する。Meffは、自己減磁化(self−demagneti
zing)効果
|=V.Meff
を含む粒子全体にまたがって平均された有効磁化または正味の磁化として記載され、その結果、このピーク偶力は
c=VMeffB/d
によって示され、これから、本発明者らは、磁性粒子束密度B、粒子の容積Vおよび有効な磁化Meffができるだけ大きくなければならないと結論できる。
【0032】
従って、必要な偶力を発生させるのに必要な磁性粒子束密度は
B=Fcd/VMeff (1)
である。
【0033】
式(1)および表1(以下)のデータを用いる計算によって、好ましい物質(六方晶フェライト)を用いる磁性コアのための最小の好ましいサイズは約50nmであることが示される。これより小さい粒子であれば、細胞溶解を誘導するかなり強力な磁場を必要とする。希土類物質は、さらに小さい粒子の使用を実際的な磁場強度(<1T)で可能にするが、希土類物質が用いられる場合、それらは、毒性の問題を回避するために不活性な生体適合性物質のコーティングを必要とする。
【0034】
図1aは、印加された磁場Hに対して磁化Mをプロットしている、代表的な強磁性物質のバルクサンプルの主要な磁化ループを示す。強磁性物質またはフェリ磁性物質は、1立方センチメートルあたり約1012〜1015磁区から構成され、各々の磁区は完全に磁化された単結晶である。ゼロ印加磁場(MR)における残留磁化は、この磁区の相対的な方向
に依存し、言い換えると、物質の特性および磁区壁構造に依存する。サンプルの磁化をゼロに低下させるのに必要な印加された磁場は、保磁場Hc、または保磁力と呼ばれる。十分高い印加された磁場では、全ての磁区が、位置あわせされて、そして磁化は飽和値(Msat)を超えて増大できない。
【0035】
磁性物質の特性は、ナノスケールでは、そのバルク特性とは実質的に異なり得る。これは、ナノスケールの粒子が典型的にはわずか2〜3、または単独の磁性磁区しか含まないということが理由である。
【0036】
外部磁場の存在下では、ナノ粒子の磁化は、前に記載されているように、磁場と整列するように試みる。これが、この粒子の物理的回転によって達成されるか、または粒子の結晶格子内の磁化方向を再配列するかは、粒子の保磁力(HC)によって決定され、ここで
、前の挙動は高い保磁力粒子についてさらに可能性が高い。本発明の目的のためには、この粒子の物理的回転は明らかに所望されるが、粒子の結晶格子内の磁化方向の回転は所望されない。従って、ナノ粒子の保磁力が最大化され得る方法を理解することが必要である。図1bは、高い保磁力と低い保磁力のナノ粒子のM〜Hループの間の相違を図示する。高い保磁力を有する粒子は磁気的に「ハード(hard)」であるが、低い保磁力を有する粒子は「ソフト(soft)」である。
【0037】
保磁力は、図2に示されるように粒子サイズに依存する。臨界直径d0未満で、ナノ粒
子は単磁区(single domain)(SD)であり、d0を超えれば、多くの磁
区(many domains)(MD)から構成される。粒子が2〜3の磁区を有する移行領域は、疑似単磁区範囲(pseudo−single domain range)(PSD)と呼ばれる。粒子の保磁力はd0付近でピークに達し、粒子サイズおよび磁
区の数の増大とともに、そしてまた単磁区のサイズの減少とともに低下する。第二の臨界直径ds未満では、保磁力は事実上ゼロであり、粒子は超磁性挙動を示す。
【0038】
さらに、単磁区ナノ粒子は、図1bに示されるとおり、バルクサンプルの飽和磁化に等しい残留磁化を有する(すなわち、MR≒Msat)。多磁区粒子は、さらに低い残留磁化を
有する(図1a)。
【0039】
粒子サイズでの保磁力の変動は、以下のような物質特性に関連し得る。さらに低い臨界サイズdsは、ニール(Neel)緩和時間τNによって制御される。単磁区について、これは、
【数1】

であり、
Bは、ボルツマン定数であり、Tは、絶対温度であり、Vは、粒子容積であり、KUは、結晶磁気異方性(この物質の内因性の特性)であり、そしてf0はニール周波数(109Hz)である。ニール時定数によって、磁化が印加された磁場の変化に応答して結晶格子内で素早く回転し得る方法が決定される;これは、熱エネルギー(kBT)および磁気結
晶エネルギー(KuV)の影響を競合することによって決定される。V∝d3なので、これは、τNが粒子サイズに対して極度に過敏であるという上の式から理解できる。一定温度
で、臨界粒子直径dsが存在し、τN〜1s、
【数2】

である。
【0040】
sより小さい粒子については、熱エネルギーが優勢であり、τNは極めて短く、ナノ粒子の磁化は、結晶格子内で自由に回転できる。dsより大きい直径を有する単磁区粒子に
ついては、緩和時間は極めて長く、磁化は格子に有効にロックされる。
【0041】
上限臨界サイズd0は、磁区壁を作製するエネルギーコストが貯蔵された静磁エネルギ
ーの正味の全体的低下によって均衡化される場合に生じる。単位容積あたりの静磁エネルギーは、
【数3】

によって示され、ここでDは形状反磁界係数である。単位面積あたりの磁区壁エネルギーは、
【数4】

によって示され、ここでAは、強磁性物質について10-12J/mという大きさの交換
硬度である。
【0042】
従って、d0は、単磁区粒子のエネルギーと、同じ容積を有する2つの磁区粒子のエネ
ルギーとを同等とみなすことによって決定され得る。粒子が球であるとみなせば(従ってD〜1/3)、
【数5】

であり、単純化すれば、d0についての式
【数6】

が得られる。
【0043】
0を超えるサイズについては、粒子は、磁区壁の動きによって、印加された磁場の変
化に対して応答してその正味の磁化を再配列し得る。従って、磁区の数が増えるにつれて保磁力は低下する。
【0044】
s<d<d0の範囲の直径を有する粒子は、「ブロックされた(blocked)」かまたは「ロックされた(locked)」単磁区粒子と呼ばれる。
【0045】
ピーク保磁力は、d0付近で生じ、そして、ほぼ
【数7】

によって与えられる。
【0046】
本発明の目的については、粒子は、保磁力が最大化される場合、ロックされた単磁区範囲であるか、または多磁区範囲の下部にある(d<〜2d0)ことが望ましい。
【0047】
表1は、種々の磁性物質の物質特性KUおよびMsatを挙げる。図1cは、これらの物質から作製されるナノ粒子のスケールに近いM−Hループを示す。
【表1】

【0048】
表2は、式(2)、(3)および(4)から算出した、同じ物質のパラメーターds
0およびHc_peakを示す。
【表2】

【0049】
印加された磁場が粒子の保磁場よりも小さい場合(Happlied<Hc)、磁化は結晶格子に事実上ロックされたままであり、この粒子は、それと印加された磁場方向とを物理的に再方向決めさせるように働くトルクを受ける。しかし、印加された磁場が粒子の保磁場より大きい場合(Happlied>Hc)、磁化は、印加された磁場方向と整列するように結晶格子内で回転する。
【0050】
従って、本発明の重要な局面は、磁化が結晶格子にロックされるか、または細胞殺傷トルクを誘導するには十分強力だが、先行技術で用いられるよりはかなり低い印加された磁場について「安定化された(stabilised)」、粒子を提供することである。
【0051】
これは、2つの別個の方法のうちの1つによって達成される。第一の方法は、内在性に高い結晶磁気異方性(KU>105)を有する物質、例えば、希土類合金(例えば、Sm2
Co17)、または六方晶フェライト(例えば:BaFe1219)、または正方晶FePtCrもしくはCoPtCr合金(KU〜108)から作製された、磁気的に「ハード(ha
rd)」の粒子に適合する。第二の方法は、内在性に低い結晶磁気異方性(KU<105)を有する物質、例えば、二価鉄および酸化鉄(Fe23およびFe34、すなわち、磁鉄鉱)から作製された、磁気的に「ソフト(soft)」の粒子に適合する。
【0052】
ここで、数値的な例として2つの方法を例示するが、これは細胞殺傷閾値トルクが100pNであり、この粒子が100nm直径の球であると仮定している(Meff〜(2/3
)Msat)。第一のハード粒子を考慮すれば、式(1)によって、必要な粒子束密度は、
SmCoについては0.036T、そして六方晶フェライトについては0.12Tとなる。磁場強度に変換すれば(H=B/μ0を用いる、ここでμ0は、自由空間の透磁率である)、必要な磁場は、SmCoについては28kA/m、そして六方晶フェライトについては95kA/mである。表2は、いずれかの物質から作製される100nm直径の粒子が、ロックされた単磁区サイズ範囲内であることを示す。保磁力Hcは、ロックされたSD
範囲に放物線あてはめを仮定する外挿法によって推定可能であり、SmCoについては約11000kA/m、そして六方晶フェライトについては330kA/mが得られる。そのため両方の場合ともHapplied<Hcであり、磁化は必要に応じて、結晶格子にロックされる。第一の方法における重要な要件は、内在性に高い結晶磁気異方性(KU>105J/m3)を有する物質を用いることである。
【0053】
ここで、ソフト粒子を振り返れば、Meff〜(1/3)Msatを用いる式(1)をあてはめて(自己減磁化に起因する磁化の33%の減少、さらに多磁区効果の保存的な33%の低下を可能にする)、100nmの磁鉄鉱球について必要な粒子束密度は0.12Tと得られる(約100kA/m)。表2は、100nmの磁鉄鉱粒子が、多磁区範囲中であり、そのためこの粒子の保磁力は51kA/mのピークよりも有意に、おそらく3倍以上低いということを示す。従って、Happlied>Hcおよび磁化は、細胞殺傷トルクを誘導するのに必要な磁場よりもかなり小さい印加磁場で、格子内で回転し始める。保磁力が約51kA/mで最大化されるように粒子の直径が32nmまで減少される場合、必要な磁場は950kA/mに上昇する(なぜなら、この粒子の容積はここではかなり低いからである)。これは、ピークの保磁力よりもかなり大きすぎる。実際、磁化は任意の粒子サイズについては安定化できず、閾値トルクは達成できない。文字どおり、この問題は、低い結晶磁気異方性を有する物質の使用を妨げると思われる。
【0054】
しかし、磁性ナノ粒子が実質的に非球形の形状である場合、磁化は結晶格子に事実上ロックされ得ることが見出されている。言い換えれば、形状異方性は、代用の結晶磁気異方性として用いられる。特に好ましい実施形態では、ソフトな粒子は約1:2.5という縦横比を有する偏球(図3aを参照のこと)、または約1.6:1という縦横比を有する長球(図3b)のいずれかの近似型である。
【0055】
非球形のソフト粒子のピーク偶力は、この粒子の長軸と印加された電場との間の角度が45°である場合に生じる。主軸dを有するソフト球形ナノ粒子上に最大偶力Fcを発生
するのに必要な粒子束密度は、
B=αFc/Meff2 (5)
によって与えられ、ここで形状係数αは、最適の偏球については24.4、そして最適の長球については55.6である。従って、偏球(または「ディスク(disk)」)は、同じ最大寸法を有する長球(「ロッド(rod)」)の2倍を超える力を発生する。しかしこのロッドは、1つの長軸および2つの短軸を有し、一方このディスクは2つの長軸および1つの短軸を有する。標的組織内のナノ粒子の方向はランダムであり、その結果ロッド形状の粒子は、ディスク形状の粒子よりも印加磁場に対して大きな角度で自己を見出す可能性が高い。従って、それらは両方とも等しく好ましい形状であるとみなされる。
【0056】
本発明者らは、高い結晶磁気異方性を有する物質について式(1)を、そして低い結晶
磁気異方性を有する粒子について式(5)を用いて、100nmのナノ粒子に対して100pNの偶力を加えるために必要な磁性粒子束密度の範囲を計算できる。その結果は表3に含まれる。
【表3】

【0057】
従って、磁気的にハードな粒子が、磁気的にソフトな粒子に比べてかなり低い「活性化(activation)」磁場強度(すなわち、閾値トルクを生じるのに必要な磁場)を必要とするということは明白である。
【0058】
生存している生物体の生物組織は、いくつかの天然に存在する磁性物質、例えば、細胞のマグネトソーム(magnetosomes)(いくつかのまれな細胞タイプに存在するナノスケールの磁鉄鉱粒子)、および環境から経時的に蓄積する、鉄または酸化鉄の粒子状混入物を含むことが予期され得る。磁気治療はこれらの粒子で細胞損傷性のトルクを誘導しないということが明らかに望ましい。この組成物、混入粒子または天然の粒子の位置またはサイズに対する制御は及ぼされ得ないので、唯一の頼りは、印加された磁場を最小化することである。
【0059】
主に、鉄および酸化鉄である混入粒子は、磁気的にソフトな粒子として挙動する。標的化されたナノ粒子が磁気的にハードである場合、それらは、混入粒子または天然に存在する粒子を活性化させるのに必要な磁場よりもかなり弱い磁場によって「活性化(activated)」され得る。これは、磁石ハードウェアの費用が安いという利点に加えて、好ましい形状の磁気的にハードな粒子またはソフトな粒子を使用することが好ましいことのさらなる理由である。
【0060】
この粒子は、生物学的に不活性である、生体適合物質のコーティングによって調製され得る。例としては、ポリエチレングリコール、エチレングリコールコポリマー、デキストリン、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、例えば、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドのポリマーおよびコポリマー、ならびにスチレンおよび無水マレイン酸のコポリマーが挙げられる。さらなる化合物としては、ポリグルタル酸、炭水化物および天然に存在するタンパク質、例えば、アルブミンが挙げられる。結合は、共有結合的であっても、非共有結合的であってもよい。コーティングは、通常、この方法における使用の前に粒子に加えられるが、粒子は、投与の際にコーティング、例えば、血清アルブミンのコーティングを付加してもよいと予想される。コーティングされた粒子の調製は当該分野で公知である。例えば、US6048515、US5460831およびUS5427767は全て、コーティングされた粒子を記載している。
【0061】
この粒子は、標的化部分の使用を含む任意の従来の手段を用いて、標的部位に局在されてもよい。この標的化部分は、標的部位に対する選択的な標的化を可能にする任意の適切な分子であり得る。適切な標的化部分の例としては、抗体およびレセプターリガンド(受容体配位子)、例えばホルモンが挙げられる。あるいは、局在化は、正確な作用部位に対して磁場がこの粒子を向ける、粒子の磁気特性を用いて行なわれてもよい。
【0062】
近年では、腫瘍部位の選択的標的化において、ポリマーの使用に対する多くの検討が存在している。高分子量のポリマーは、増強透磁率および保持(enhanced permeability and retention)(EPR)効果を通して部位特異的な受動的捕獲を達成する。EPR効果は、腫瘍の新生血管内の高分子または小型粒子がその不連続な内皮に漏れることに起因する、その増強された透磁率から生じる。腫瘍の血管形成(過剰な脈管構造)および脈管網目状構造の不規則および不完全性に加えて、リンパ性の排液が欠けていることによって滲出する高分子の蓄積が促進される。この効果は、高分子物質および脂質について多くの固形腫瘍で観察される。
【0063】
EPR効果によって腫瘍を標的とするために用いられている適切なポリマーとしては、ポリエチレングリコール、エチレングリコールコポリマー、デキストリン、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、例えば、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドのポリマーおよびコポリマー、ならびにスチレンおよび無水マレイン酸のコポリマーが挙げられる。これらは全て、本発明において用いられ得る。
【0064】
ポリマーの標的化の改善は、ポリマーに対してさらなるリガンド(配位子)を付加すること、例えば、肝臓を選択的に標的化するためにはガラクトースリガンドを付加することによって、達成され得る。抗体はまた、腫瘍部位を標的とするためにポリマーと組み合わせて用いられてもよい。
【0065】
抗体は好ましい標的化部分であり、異常な生物構造によって、例えば腫瘍細胞によって発現される抗原に親和性を有する抗体について当該分野で公知の多くの例がある。例えば、癌胎児性の抗原(CEA)に対して惹起された抗体が公知である。ヒト腫瘍抗原に対して惹起された抗体の概説は、Lloyd、Basic and Clinical Tu
mor Immunology(Herberman編),1983:159〜214に見出される。
【0066】
任意の適切な抗体またはフラグメントが、本発明において用いられ得る。適切な抗体としては、組み換え抗体、天然の供給源、例えばヒト由来の抗体、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、FvおよびSCFvのような分子が
挙げられる。細胞への内在化を可能にする抗体は、本発明の好ましい実施形態である。これらのいわゆる「内在化抗体(internalising antibody)」は、当業者に公知である。この抗体は通常、少なくとも10-7M、好ましくは少なくとも10-8M、そして最も好ましくは少なくとも10-11Mという標的についての親和性を有する
。本発明における使用に適切な抗体の調製は、当業者に明白である。
【0067】
抗体を調製するために用いられる技術の例は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版、Sambrook et al.,Cold Spring Harbour,N.Y.(1989)に見出すことができる。さらなる技術は、US4816397、US4816567、GB2188638およびGB2209757に見出すことができる。
【0068】
好ましい実施形態では、抗体は、磁性粒子に結合される。しかし、抗体を標的化するために磁性粒子に結合されている適切な抗原を用いて、磁性粒子とは独立して標的部位に抗体が局在されてもよいことも想定される。
【0069】
各々の粒子に結合された、2個以上の標的化部分が存在し得る。
【0070】
標的化部分は、共有結合であっても非共有結合であってもよいが、1つ以上の連結によって磁性粒子に結合され得る。標的化部分は、切断可能なリンカー分子を用いて磁性粒子に結合されてもよい。適切な切断可能リンカーの例は、当該分野で公知である。
【0071】
標的化部分の付加は、磁性粒子に直接結合するか、または磁性粒子上のコーティングに対して結合する任意の適切なリンカー分子を用いて達成され得る。適切なリンカー基は、当業者には明白であり、これには、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリサッカライドおよびポリカルボキシレートなどのポリオールが挙げられる。ナノ粒子に対する抗体の付加は、US6514481に開示される。
【0072】
一実施形態では、磁性粒子(またはそのコーティング)は、結合相互作用の安定性を改善する多座配位子を介して標的化部分に結合される。多座配位子は、粒子と標的化部位との間の付加の連結された複数の部位を含む。従って、この標的化部分は、2つ以上の連結によって粒子に結合され、これによって改善された安定性が生じる。
【0073】
磁性粒子は、任意の適切な物質を標的として破壊するために用いられ得る。破壊は、治療目的または診断目的のために行なわれてもよく、そして標的化はインビトロにおいて行なわれても、またはインビボにおいて行なわれてもよい。好ましくは、この物質は生物学的物質、例えば、異常な細胞または組織構造、さらに好ましくは哺乳動物細胞または組織構造である。例えば、本発明の磁性粒子は、特定の腫瘍関連抗原の発現に起因して標的とされ得る腫瘍の処置のために特に適切である。この粒子は、細胞膜の表面に位置するか、また磁場の適用の前に内在化されてもよい。磁場によって一端活性化されると、この粒子は、内部または外部の細胞構造を破壊し、細胞死を生じる。次いで、この粒子は、マクロファージの作用のような正常な排出機構によって体から除去される。
【0074】
本発明を用いて処置され得る腫瘍は、当業者に明白である。腫瘍は、固形腫瘍であって
も液性の腫瘍(例えば、白血病)であってもよく、そしてマクロな腫瘍であってもミクロな腫瘍であってもよい。
【0075】
この物質はまた、感染性因子を含む細胞であってもよい。この物質はまた、多細胞または単細胞の微生物、例えば、原核生物または真核生物の微生物であってもよい。この物質はまたウイルスであっても真菌であってもよい。
【0076】
別の実施形態では、この粒子は、望ましくない生物学的物質を標的部位で破壊または除去するために用いられ得る。この例は、関節強膜のプラークの処置である。変性LDLまたは酸化LDLによってプラークのこの部位に磁性粒子を局在化させることが可能であり、そしてこの粒子の引き続く活性化は、強膜物質を除去することによってこのプラークの密度を低下させる。プラークに対する親和性を有する抗体は、US6379699に考察される。
【0077】
この粒子は、種々の方法で患者に投与され得る。好ましくは、この粒子は、非経口投与、すなわち、皮下投与、筋肉内投与または静脈内投与のための組成物に処方される。従って、本発明は、適切なキャリア物質、好ましくは水性キャリア物質に分散される粒子を含む、非経口投与のための組成物を提供する。適切なキャリアは、当業者に公知である。組成物は通常、単位投薬形態で調製される。好ましくは、単位用量は、標的化部分の最大100mg/kgを含む。
【0078】
この粒子は、経皮送達または衝撃(ballistic)送達デバイス、例えば、針なし注射デバイスを用いて、投与され得る。衝撃投与の一般的原理は、標的部位に対してこの粒子を推進させる、圧縮ガスの放出によって生じる、超音波波面の使用である(Vain et al.,Plant Cell,Tissue and Organ Culture,1993;33:237〜246を参照のこと)。ガス圧を用いて医薬を送達するデバイスも記載されている、例えば、US4,790,824およびPCT/GB94/00753。
【0079】
この粒子は、衝撃デバイスを用いる送達のための「乾燥(dry)」組成物として処方されてもよく、またはこの粒子は、他の適切な投与経路のための任意の薬学的に受容可能な緩衝液、希釈液または賦形剤に懸濁されてもよい。
【0080】
一実施形態では、この粒子は、水性キャリア物質における粒子の本質的に均一な分散を維持する、緩徐な注入を介して患者に送達される。
【0081】
本発明は、ヒト患者の処置のために、そして獣医の適用のために意図される。しかし、インビトロおよびエキソビボの適用も構想される。
【0082】
ガンの処置のための本発明の特定の利点は、主要な腫瘍におけるものだけでなく、患者の身体における全ての悪性細胞を処置する潜在能力である。これは、標的細胞が患者の循環系によって到達される任意の組織中の特定の特徴を有するという、抗体標的化技術の利点である。これによって、特定の解剖学的位置に対してこの治療を限定する、他の「標的化(targeted)」方法を越える別個の利点が付与される;例えば、本明細書に記載される本発明は、転移を逃す可能性は低い。
【0083】
この利点を得るためには、患者の全身が治療用の磁場に供されることが好ましい。従って全身を処置するのに十分な大きさの磁石ハードウェアが好ましいが、それより小さいスケールの磁石が、解剖学的に局在性の処置について可能であり、これには低い磁場強度操作のための移動式または携帯型のユニットさえ含む。ここで与えられる適切な磁石ハード
ウェアの例は、全身ユニットについてであるが、この適用は、解剖の特定の部分に専門の小規模のハードウェアの選択をカバーし、この基本的な設計原理は、当業者に明白である。
【0084】
全身磁石が全身を同時に処置する必要はない;ある時点である一部を処置することが許容される。このアプローチは有意に、磁石ハードウェアの費用および複雑性を減少させる。なぜなら、磁場が必要なパラメーターを有する作動領域は、最大の解剖学的構造、代表的には腹部を含むのに十分な大きさである必要しかないからである。従って好ましい実施形態は、磁気回路における隙間にほぼ球形の作動領域を作成する。患者は、この隙間を通過させられ、これによって全身が処置に曝される。
【0085】
細胞を損傷するために、磁性のナノ粒子は動かなければならず、そしてそれらが動くには、変化する力、従って変化する磁場を受けなければならない。広範な磁石設計オプションがここで提示されているが、これは上記で計算されるとおり、100nmの粒子について細胞損傷力を発生するのに必要な磁場強度の範囲をカバーする。各々の場合、可能性のある磁場スルー・レートおよび有効磁場振動数の実際的範囲が評価される。これらの図は、粒子サイズまたは細胞損傷力閾値についての仮定が変化する場合に変化するが、本発明の原理は有効なままであることが理解される。
【0086】
最も簡単な実施形態では、磁場のオン・オフを簡単にパルスにすることが可能である。磁場がオンの場合、粒子は、磁場と整列するように回転しようとする。印加される磁場がなければ、粒子の方向はランダムになり、従って、偶然にこの磁場と既に整列されている粒子はいかなるトルクも受けない。従って、全ての粒子が最大トルクを受ける良好な機会を有するように、印加された磁場の方向を変化することも望ましい。回転する磁場は、粒子が磁場の方向に従って回転するようにさせ、これによって細胞損傷の機会が最大化される。必須ではないが、磁場の振幅を、連続してまたはパルス化方式で、経時的に調節することが望ましい。
【0087】
一実施形態では、磁場の方向または振幅は、最大100Hzまで、好ましくは50Hzまで、そしてさらに好ましくは10Hzまでの周波数で変化される。磁場の方向の変化は、静磁場内の患者を動かす(例えば、回転させる)ことによって、または患者に対して印加された磁場を変化させることによって、達成され得る。後者は、磁石ハードウェアを物理的に回転させること(図4)によって、または静電磁石コイルにおいて、好ましくは軟鉄ヨークに装着された静電磁石コイルにおいて、電流を調節すること(図5)によって達成され得る。いずれの場合でも、磁場の方向は、回転軸に対して垂直な方向、すなわち作動ギャップを横切る方向でなければならない。このような磁場を生成するためには、種々の様式の操作および磁場強度に適合する、種々のハードウェアオプションが実施可能である。
【0088】
先行技術から公知のような、Halbachシリンダーアセンブリ10を規定し、矢印17によって示される固定された磁化方向を有する、希土類永久磁石物質15のプリズムブロックから作製される環形状の磁石アセブリについて、図4Aがその長軸方向の断面であり、図4Bが横断面である。このような構造は、矢印13によって示され、患者12が挿入される支持構造16の穴11を横切るような方向の、かなり均質な磁場を生成する。磁場方向13は、磁石アセンブリ10全体をその軸14のまわりに回転させることによって患者に対して回転され得る。最大0.2Tまでの磁場強度は、約450rpmで磁石の物理的回転に等しい、最大でまたは約3T/secまでのスルーレートで構想されるが、それより高速の回転は、適切な機械的デザインで可能になる。この実施例における等価な磁場振動数は、約7.5Hzである。
【0089】
図5Aおよび5Bは、図4Aおよび4Bと同様であるが、第二の実施例を図示しており、ここではコイル20、21のセットが、穴25を有するハウジング22内の軟鉄ヨーク23によって接続される磁極片24に配置される(22および25は、低温槽を規定し得る)。電磁石は、抵抗性であっても、高温(または低温)超伝導体から作製されてもよい。抵抗性コイルの場合、DC損失を防ぐために水冷が必要である。超伝導コイルの場合、低温冷却が必要である。磁場方向13の回転は、コイル20、21において電流を直交して駆動することによって生じる。これは二相構造であるが、さらに電磁石を用いることによって3つ以上の相が実現され得る。超伝導コイルの場合、AC損失を吸収するために高い冷却能を有する低温槽が設計されなければならない。この理由のためには、高温超伝導が好ましいかもしれない。なぜなら、低温の冷却能力を得る費用は温度に反比例するからである。約0.5Tまでの磁場強度は、約2.5Hzの最大磁場振動数に等しい、1−5T/secの範囲のスルーレートで可能である。
【0090】
図6は、C型の磁石30を図示する(図6Aでは横断面で、図6Bでは長軸方向断面図であり、磁気共鳴映像法(MRI)について従来用いられる「開放(open)」型またはC型全身磁石と同様であり、支持構造34によって接続されるポール35上に装着される低温超伝導ワイアからコイル31が形成され、これは矢印32によって示される方向を有する磁場を生成する、磁束をガイドするように必要に応じて軟鉄ヨークであってもよい。患者12は、支持体37に装着されて、その長軸33に対して回転される。コイルは、従来の方式で低温槽36内に位置する。この例では、約150rpmという患者の最大回転速度で、最大約1Tまでの静磁場が構想される。これは、2.5Hzという有効磁場回転周波数に相当する。
【0091】
図7は、図6の別の配置であり、第二の磁束復帰アームを有し、「ウインドウ−フレーム(window−frame)」磁石を形成する。他の全ての点では、これはC型磁石と同様である。
【0092】
さらなる別の磁石配置は、図6および7に示される例に基づく。この実施形態における磁場方向32は、固定され、この患者は、回転されないが、磁場振幅は、必要に応じて銅ワイアまたは高温超伝導ワイアから巻かれてもよい、コイルに送られる電流を変化させることによってパルスにされる。パルスの間で、磁石ハードウェアまたは患者は、その方向にかかわらず、新しい位置まで回転されて、全ての粒子に対してトルクのインパルスを加える機会が最大化され得る。しかし、実際には粒子の方向は、ブラウン運動によってランダムにされ、そのためこの工程は必要ではないかもしれない。ブラウン回転拡散時間定数は、
τB=3Vη/kB
によって与えられ、ここでηは粘性である。100nm粒子については、この時間定数は、細胞内環境のさらなる代表である可能性が高い、水についてのミリ秒(η=0.89センチポアズ)から、さらに粘性の液体についての秒までに及ぶ(η〜10ポアズ)。粒子のブラウンランダム化についての時間定数が十分短い場合、磁場パルスを繰り返す前に2〜3秒間単に待つことは許容され得る。
【0093】
一般には、いくつかの実施形態は、磁気共鳴画像化のための磁石と多くの共通の特徴を共有する。しかし、MRI磁石に必要な作動領域における磁場の均一性が、本発明における使用のための治療磁石に必要でないことに注目することが重要である。作動領域内の20〜30%の粒子束密度の変動は、完全に許容可能である(最も弱い磁場が細胞傷害についての閾値よりも強力である場合)。結果として、本発明のいくつかの磁石の実施形態は、MRI磁石に比較して費用が低下し得る。
【0094】
上記のとおり、MRIタイプの磁石が用いられてもよく、そしてこの場合、MR画像を
このプロセスの間、またこのプロセスの前後にも、作動容積における構造の種々の段階で獲得することができる。
【0095】
治療磁石をMRIに適用できない場合でも、強力な磁石特性に起因して、適切に構築されたMR画像配列において出現する、ナノ粒子の正確な位置を確認するために、ナノ粒子の投与後および磁気治療の前に患者を画像化するために従来のMRIシステムを用いることが望ましい。このような事前スクリーニングプロセスはまた、磁気治療の間の危険性にあたる、金属の削り屑のような、患者の身体における大型の強磁性外来体を同定するために有用である。
【0096】
本発明は、治療状況では生体物質の破壊の強調を記載しているが、破壊方法の他の(非治療的)適用が想定される。例えば、非有機物質の構築は破壊され得る。さらに、この方法の化粧品的な適用も想定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞構造もしくは組織構造、または望ましくない生体物質の蓄積に関連する障害を処置するための、患者に対する投与のための医薬の製造における1つ以上の磁性粒子の使用であって、該粒子または各々の粒子は、該構造または物質にまたはその中に局在化するものとし、該処置は、磁場を印加して該粒子または各々の粒子の回転を誘導し、これによって該構造または物質を破壊することによって行われるものとし、該磁性粒子または各々の磁性粒子は内因性の磁化を有し、該磁化は固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されている、使用。
【請求項2】
前記構造が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記構造が腫瘍である、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記粒子または各々の粒子が標的化部分を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記標的化部分が抗体である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記抗体が細胞内在化抗体である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記粒子が、少なくとも1×105J/m3の結晶磁気異方性を有する磁性物質を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記磁性物質が希土類金属合金または結晶性六方晶フェライトである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記粒子が、生体適合性物質のコーティングを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
前記粒子の磁性物質の最大寸法が50nm〜500nmである、請求項1〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
前記粒子が200nmを超えない総最大寸法を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
前記粒子が実質的に直方体、偏球または長球の形状である、請求項1〜11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
物質を破壊するための方法であって、
(i)該物質においてまたはその中に1つ以上の磁性粒子を局在化させる工程と、
(ii)該磁性粒子または各々の磁性粒子に対して磁場を印加して、粒子の回転を誘導し、これによって該物質を破壊させる工程であって、該磁性粒子または各々の磁性粒子が内因性の磁化を有し、該磁化は固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されており、該印加された磁場の方向および/または該物質に関する振幅が経時的に変化される、工程と、
を包含する、方法。
【請求項14】
前記物質が生体物質である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記物質が細胞または組織構造である、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記物質が哺乳動物細胞である、請求項5、13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記物質が腫瘍である、請求項5、13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
インビトロで行なわれる、請求項13〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記粒子または各々の粒子が、請求項4〜12のいずれかに規定される、請求項13〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記印加された磁場が0.01〜2テスラの粒子束密度を有する、請求項13〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記磁場変化が連続性である、請求項13〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記変化が不連続であり、前記磁場が前記物質を再方向付けした後に繰り返し印加される、請求項13〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記変化が不連続であり、前記磁場が予め決定された待機時間後に繰り返し印加されて、前記粒子の磁性軸がブラウン運動の結果としてランダムな方向をとるようにされる、請求項13〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記変化が、外部磁場発生装置を適切に制御することによって達成される、請求項13〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
請求項13〜21のいずれかに依拠する場合、前記磁場の方向が、最大100Hzの周波数で変化される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記変化が、前記物質を移動することによって達成される、請求項13〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項13〜21のいずれかに依拠する場合、前記物質が、最大10Hzの周波数で回転される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記粒子の移動を行なう前に該粒子の磁気共鳴画像を得る工程をさらに包含する、請求項13〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
物質を破壊するための装置であって、磁場を作動ボリュームで発生させるための磁場発生装置と;該物質にまたは該物質中に作動ボリュームで局在化する1つ以上の磁性粒子であって、該磁性粒子または各々の磁性粒子は内因性の磁化を有し、該磁化は固有の結晶磁気異方性および/または形状異方性によって安定化されている磁性粒子と;該磁性粒子を回転させるように該物質に関して該磁場に作動ボリュームで変化を生じるための制御システムと;を備える、装置。
【請求項30】
前記制御システムが、前記磁場の方向と前記物質との間に相対的な移動を生じる、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記制御システムが、前記磁場の方向と前記作動ボリュームとの間に相対的な回転を生じる、請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記制御システムが、前記磁場ベクトルを作動ボリュームで前記物質に関して振幅もしくは方向またはその両方で変化させるように適応されている、請求項29〜31のいずれかに記載の装置。
【請求項33】
前記制御システムが、前記磁場発生装置を前記磁場に対して変化させるように適応されている、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
前記制御システムは、前記磁場発生装置が、該磁場の振幅を作動ボリュームでパルスにするように適合されている、請求項29に記載の装置。
【請求項35】
前記作動ボリュームが、前記磁場発生装置の外側に位置する、請求項29〜34のいずれかに記載の装置。
【請求項36】
前記磁場発生装置が1つ以上の電磁石を備える、請求項29〜35のいずれかに記載の装置。
【請求項37】
前記電磁石または各々の電磁石が、高温超伝導体から製造される、請求項36に記載の装置。
【請求項38】
前記磁場発生装置によって発生される磁場が、0.01〜2テスラの範囲の磁場強度を有する、請求項29〜37のいずれかに記載の装置。
【請求項39】
請求項4〜12のいずれかに規定される、磁性粒子。
【請求項40】
薬学的に受容可能な緩衝液、賦形剤または希釈剤中に、請求項4〜12のいずれかに規定される複数の磁性粒子を含む組成物。
【請求項41】
治療用途のための、請求項40に記載の組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−194323(P2010−194323A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52515(P2010−52515)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【分割の表示】特願2006−520885(P2006−520885)の分割
【原出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(306029420)オックスフォード インストゥルメンツ スーパーコンダクティビティー リミテッド (2)
【出願人】(501460693)セルテック アール アンド ディ リミテッド (29)
【Fターム(参考)】