説明

治療的応用法のための遺伝的に改変された細胞

単離した間葉系幹細胞、多能性成体前駆細胞、またはその他の幹細胞を、CXCR4、SDF−1、またはそれらの変異体のうち少なくとも1つを発現するように遺伝的に改変する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的に改変された細胞に関し、より詳細には、治療的応用法のための遺伝的に改変された細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
急性心筋梗塞(MI)は、以前から西洋社会において罹病率および死亡率の原因の一位を占めてきた。梗塞した動脈において、順行性灌流で修復することを主なターゲットにした最近の治療の進歩にもかかわらず、その便益には限界があるようである(例えば、非特許文献1参照)。急性心筋梗塞(MI)の既往患者のかなりの割合が、一般に左室(LV)再構築、すなわち、心筋菲薄、拡張、機能低下を伴うプロセスの結果である、うっ血性心不全(CHF)を最終的に発症し、ひいては死に至る(例えば、非特許文献2〜4参照)。
【0003】
心筋梗塞後のこの過程を治療する1つの方法は、細胞療法に関するものである(例えば、非特許文献5参照)。細胞療法は、骨格筋芽細胞、心筋細胞、平滑筋細胞および線維芽細胞などの分化細胞、または、骨髄由来細胞を含む様々な細胞タイプを使用することに的を絞っている(例えば、非特許文献6〜16参照)。
【0004】
多くの文献において示唆されているように、幹細胞が心臓へ動員され心筋細胞へ分化することは自然に起こる過程である(例えば、非特許文献17、非特許文献18参照)。この過程は、心筋梗塞の後において、左室機能の意義ある回復をもたらすほど十分な速度で進んでいない(同著)。近年の研究によれば、心筋梗塞に先立って、血流中へ幹細胞を直接投与することによって、または、化学療法により骨髄から幹細胞を動員することによって、損傷した心筋を再生できる可能性が明らかにされている。これらの研究により、梗塞の周辺期に、幹細胞が梗塞領域へホーミング(homing)するホーミング能、および、これらの細胞が心筋細胞へ分化する分化能が実証されている(例えば、非特許文献19〜22参照)。現在まで、いずれの研究においても、幹細胞が心筋梗塞後48時間以内に心筋を再生する能力に焦点が当てられていた。
【非特許文献1】Topol, E. J. Lancet 357, 1905-1914 (2001)
【非特許文献2】Robbins, M.A. & O’Connell, J.B., pp. 3-13 (Lippincott-Raven, Philadelphia, 1998)
【非特許文献3】Pfeffer, J.M., Pfeffer, M.A., Eletcher, P.J. and Braunwald, E. Am. J. Physiol 260, H1406-H1414 (1991)
【非特許文献4】Pfeffer, M.A. and Braunwald, E. Circulation 81, 1161-1172 (1990)
【非特許文献5】Penn, M.S.et al.Prog. Cardiovasc. Dis. 45, 21-32 (2002)
【非特許文献6】Koh, G.Y., Klug, M.G., Soonpaa, M.H. およびField, L.J. J. C1in. Invest 92, 1548-1554 (1993)
【非特許文献7】Taylor, D.A,et al. Nat. Med. 4, 929-933 (1998)
【非特許文献8】Jain, M, et al. Circulation 103, 1920-1927 (2001)
【非特許文献9】Li, R. K.et al. Ann. Thorac. Surg. 62, 654-660 (1996)
【非特許文献10】Etzion, S.et al. J.Mol.Ce11 Cardiol. 33, 1321-1330 (2001)
【非特許文献11】Li, R. K., Jia, Z.Q., Weisel, R.D., Merante, F. and Mickle, D.A. J. Mol. Cell Cardiol. 31, 513-522 (1999)
【非特許文献12】Yoo, K. J.et al. Yonsei Med. J. 43, 296-303 (2002)
【非特許文献13】Sakai, T.et al. Ann. Thorac. Surg. 68, 2074-2080 (1999)
【非特許文献14】Sakai, T. et al. J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 118, 715-724 (1999)
【非特許文献15】Orlic, D.et al. Nature 410, 701-705 (2001)
【非特許文献16】Tomita, S.et al. J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 123, 1132-1140 (2002)
【非特許文献17】Jackson, K.A.et al. J. Clin. Invest 107, 1395-1402 (2001)
【非特許文献18】Quaini, F.et al. N. Engl. J. Med. 346, 5-15 (2002)
【非特許文献19】Kocher, A.A.et al. Nat. Med. 7, 430-436 (2001)
【非特許文献20】Orlic, D.et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 98, 10344-10349 (2001)
【非特許文献21】Peled, A.et al. Blood 95, 3289-3296 (2000)
【非特許文献22】Yong, K.et al. Br. J. Haematol. 107, 941-449 (1999)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、間葉系幹細胞(MSC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、および/または、組織もしくは臓器系(例えば、心筋細胞や血管などの心臓の構造)の分化した細胞タイプあるいは部分的に分化した細胞タイプへの分化能を有する、その他の幹細胞、に関する。本発明に係るMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、ケモカインおよび/またはケモカイン受容体を過剰発現するように遺伝的に操作すなわち改変され、こららケモカインおよび/またはケモカイン受容体は、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞(例えば、心筋を再生させる目的で用いるもの)の生存率を向上させ寿命を延長させることが実質的に可能であり、そのうえ、この遺伝的に改変された幹細胞を導入する組織の生存率を向上させる可能性も有している。過剰発現したケモカインおよび/またはケモカイン受容体は、遺伝的に改変された幹細胞を治療的応用法および/または細胞療法の目的で(例えば、うっ血性心不全および/または急性心筋梗塞において、心筋組織の再生、心筋機能の回復、または心臓機能の保持のため)哺乳動物被験体へ導入すると、この遺伝的に改変された幹細胞のアポトーシスを抑制することができる。また、過剰発現したケモカインおよび/またはケモカイン受容体は、遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞(例えば、心筋再生のために使いる細胞)により治療する哺乳動物被験体の組織におけるアポトーシスも抑制出来る。
【0006】
本発明の1つの態様によれば、幹細胞を、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)を過剰発現するように遺伝的に改変することができる。CXCR4を過剰発現する幹細胞は、最近の心筋梗塞またはうっ血性の心不全を治療するため、心筋組織に直接注射するか、または静脈注入もしくは動脈注入することができる。MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からCXCR4を過剰発現させると、心筋組織のMSC、MAPCおよび/またはその他の幹細胞の生存率を向上させ、またMSC、MAPC、および/または造血幹細胞などのその他の幹細胞のSDF−1および/またはSDF−1発現細胞へのホーミング(homing)を向上させることができる。
【0007】
本発明の別の態様によれば、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞(例えば、心筋再生のために用いるもの)を、SDF−1を過剰発現するように遺伝的に改変することができる。SDF−1を過剰発現する幹細胞は、最近の心筋梗塞またはうっ血性の心不全を治療するため、心筋組織に直接注射するか、または静脈注入もしくは動脈注入することができる。幹細胞から発現されるSDF−1は、末梢血中の幹細胞を、梗塞した心筋にホーミングするよう誘導できる。さらに、SDF−1の過剰発現は、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞(例えば、心筋再生のために用いるもの)ならびにMSCおよび/またはMAPCに隣接する他の細胞の生存を、実質的に向上させることができる。
【0008】
本発明のさらに別の態様では、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、CXCR4およびSDF−1の両者を過剰発現するように遺伝的に改変することができる。CXCR4およびとSDF−1の両者を過剰発現する幹細胞は、亜急性心筋梗塞またはうっ血性心不全を治療するため、心筋組織に直接注射するか、または静脈注入もしくは動脈注入することができる。幹細胞から発現されるCXCR4およびSDF−1は、末梢血中の幹細胞を梗塞した心筋にホーミングするよう誘導できる。さらに、CXCR4およびSDF−1の過剰発現は、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞(例えば、心筋再生のために用いる)ならびに幹細胞に隣接する他の細胞の生存を、実質的に向上させることができる。
【0009】
本発明の、以上述べた、およびその他の態様は、付属の図面を参照しながら以下の説明を読むことによって、本発明が関連する技術分野の当業者にとって明らかなものとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
特に定義しない限り、本明細書中で使用する専門用語はすべて、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。分子生物学用語の一般に理解されている定義は、例えばRieger et al., Glossary of Genetics: Classical and Molecular, 5th edition, Springer-Verlag: New York, 1991;、および、Lewin, Genes V, Oxford University Press: New York, 1994、などにおいて見出すことができる。
【0011】
従来の分子生物学技術に関わる方法は本明細書中に記述している。このような技術は当技術分野で一般的に既知であり、A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;および、Current Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992 (定期的に改定)、などの方法論集に、詳細に記述されている。核酸の化学合成方法については、例えば、Beaucage and Carruthers, Tetra. Letts. 22:1859-1862, 1981、や、Matteucci et al., J. Am. Chem. Soc. 103:3185, 1981、などに論じられている。核酸の化学合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチドシンセサイザーによって行なうことができる。免疫学的方法(抗原特異性抗体の調製、免疫沈降、およびイムノブロッティング等)については、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991;および、Methods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992、などに記載されている。また、従来の遺伝子導入法および遺伝子治療法を、本発明での使用に合わせて改変することができる。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999; Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P. D. Robbins, Humana Press, 1997;および、Retro-vectors for Human Gene Therapy, ed. C. P. Hodgson, Springer Verlag, 1996、などを参照されたい。
【0012】
本発明は、間葉系幹細胞(MSC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、および/または、組織もしくは臓器系の分化した細胞タイプあるいは部分的に分化した細胞タイプへの分化能を有する、その他の幹細胞(例えば、心筋細胞や血管などその他の心筋の構造を再生するために用いるもの)に関する。MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、ケモカインおよび/またはケモカイン受容体を過剰発現するよう、遺伝子操作すなわち改変され、これらケモカインおよび/またはケモカイン受容体は、遺伝的に改変された幹細胞の生存率を向上させ寿命を延長させることが実質的に可能であり、そのうえ、遺伝的に改変された幹細胞を導入する組織の生存率を向上させる可能性も有している。過剰発現したケモカインおよび/またはケモカイン受容体は、遺伝的に改変された幹細胞を治療的応用法および/または細胞療法の目的で(例えば、うっ血性心不全および/または急性心筋梗塞において、心筋組織の再生、心筋機能の回復、または心臓機能の保持のため)、哺乳動物被験体へ導入されると、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞(例えば、心筋の構造を再生させるために使いるもの)の、アポトーシスを抑制することができる。また、過剰発現したケモカインおよび/またはケモカイン受容体は、遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞により治療する哺乳動物被験体の組織におけるアポトーシスも抑制出来る。
【0013】
哺乳動物被験体としては、例えば、ヒト、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、類人猿、ウサギ、ウシ等のあらゆる哺乳動物が挙げられる。哺乳動物被験体は、成体、幼若動物、および新生児を含む、任意の成長段階にあってもよい。哺乳動物被験体はまた、胎児期の発達段階にあるものも含み得る。
【0014】
本発明に係るMSCは、特定のタイプの結合組織(すなわち、様々なin vivoまたはin vitro環境の影響によって、分化した要素を支持する生体の組織であって、特に、脂肪性、骨性、軟骨、弾性、筋肉内、および線維性の結合組織を含むもの)に分化する、形成性で多能性の芽または胚細胞である。このような細胞は、骨髄、血液、真皮、および骨膜中に存在し、様々な周知の方法を用いて単離し精製することができる。その例としては、CaplanとHaynesworthに付与された米国特許第5,197,985号に開示されている方法(その開示内容を本明細書に援用する)や、その他の多数の参考文献が挙げられる。
【0015】
本発明に係るMAPCには、それが通常存在する組織の細胞タイプを超えて分化する能力をもつ(すなわち、可塑性を示す)、成体前駆細胞または幹細胞が含まれる。MAPCの例としては、成体MSCおよび造血前駆細胞が挙げられる。MAPCの供給源としては、骨髄、血液、眼組織、真皮、肝臓、および骨格筋を挙げることができる。一例を挙げると、造血前駆細胞を含むMAPCは、米国特許第5,061,620号に開示されている方法(その開示内容を本明細書に援用する)や、その他の多数の参考文献に記載されている方法を用いて、単離し精製することができる。
【0016】
本発明に係るその他のタイプの幹細胞には、組織もしくは臓器系のための分化した細胞タイプあるいは部分的に分化した細胞タイプへの分化能を有する、成体前駆細胞または幹細胞が含まれる。本発明の1つの態様では、このようなその他のタイプの幹細胞は、心筋細胞や血管などその他の心筋の構造への分化能を有し、かつ、細胞内でCXCR4および/またはSDF−1が過剰発現することにより次のような結果が起こる、成体前駆細胞または幹細胞が含まれ得る:(i)その幹細胞の生存率の向上、(ii)改変幹細胞の、梗塞した心筋へのホーミングおよび/または生着の向上、(iii)生着した幹細胞周囲の組織の、生存率の向上またはアポトーシスの減少、および/または、(iv)内因性の循環している幹細胞の、梗塞した心筋へのホーミングの増加。
【0017】
==CXCR4の過剰発現==
本発明の1つの態様では、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)を過剰発現するように遺伝的に改変することができる。CXCR4は、CD184、白血球由来7回膜貫通ドメイン受容体(LESTR)、ニューロペプチドY受容体Y3(NPY3R)、HM89、FB22、としても知られており、ストローマ細胞由来因子−1(SDF1)と呼ばれる単一CXCモチーフ型ケモカインに対する選択性をもつ、Gタンパク質結合受容体である。CXCR4は、成熟赤血球および赤血球前駆細胞における走化作用を仲介し、そのリガンドSDF−1と共に、Bリンパ球分化および骨髄造血に不可欠である。CXCR4はまた、造血に加え、心臓の心室中隔形成、胃腸管の血管新生および小脳における顆粒細胞の発生をつかさどる。
【0018】
ヒト、マウスおよびラットなど多数の様々な哺乳動物のCXCR4ポリペプチド(またはタンパク質)のアミノ酸配列が知られている。これらのポリペプチドは、典型的には352個のアミノ酸を含んでいる。本発明に係る過剰発現されるCXCR4ポリペプチドは、前述の哺乳動物CXCR4ポリペプチドのうちの1つに実質的に類似のアミノ酸配列を含むことができる。例えば、過剰発現されるCXCR4は、配列番号1と実質的に類似のアミノ酸配列を含むことができる。配列番号1は、ヒトCXCR4のアミノ酸配列を含み、GenBankアクセッション番号P61073により識別される。過剰発現されるCXCR4は、また、配列番号2と実質的に類似のアミノ酸配列含むことができる。配列番号2は、マウスCXCR4のアミノ酸配列を含み、GenBankアクセッション番号O08565により識別される.
本発明に係る過剰発現されるCXCR4はまた、例えば、哺乳動物のCXCR4の断片、類似体、および誘導体等の、哺乳動物CXCR4の変異体であってもよい。このような変異体の例としては、例えば、天然CXCR4遺伝子の天然対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド(すなわち、天然哺乳動物CXCR4ポリペプチドをコードする天然核酸)、天然CXCR4遺伝子の選択的スプライシング型によりコードされるポリペプチド、天然CXCR4遺伝子のホモログまたはオーソログによってコードされるポリペプチド、および、天然CXCR4遺伝子の非天然変異体によりコードされるポリペプチド、が挙げられる。
【0019】
CXCR4変異体は、1個以上のアミノ酸において、天然CXCR4ポリペプチドとは異なるペプチド配列を有する。このような変異体のペプチド配列は、CXCR4の1個以上のアミノ酸の欠失、付加、または、置換を有してもよい。アミノ酸の挿入は、約1〜4個の連続するアミノ酸であることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するアミノ酸であることが好ましい。変異CXCR4は、天然CXCR4の機能活性を実質的に維持している。好ましいCXCR4ポリペプチド変異体は、サイレント(silent)または保存的な変化を有する本発明の範囲内の核酸分子を発現させることにより、作製することができる。
【0020】
CXCR4ポリペプチドの、1つ以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応する断片は、本発明の範囲内である。単離されたCXCR4のペプチジル部位は、このようなペプチドをコードする核酸の対応する断片から組換え技術によって作製したペプチドをスクリーニングすることにより、得ることができる。例えば、本発明のCXCR4ポリペプチドは、所望の長さの断片に任意に分割してもよく、その際、断片をオーバーラップさせなくてもよいが、所望の長さのオーバーラップする断片に分割することが好ましい。この断片は、組換え技術によって作製して、天然CXCR4ポリペプチドのアゴニストとして機能し得るペプチジル断片を同定するために試験することができる。
【0021】
CXCR4ポリペプチド変異体はまた、組換え型のCXCR4ポリペプチドを含んでもよい。CXCR4ポリペプチドに加え、本発明における好ましい組換え型ポリペプチドは、哺乳動物のCXCR4をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも約70%の配列同一性を持つことができる核酸によってコードされる。
【0022】
CXCR4ポリペプチド変異体は、天然CXCR4ポリペプチドの機能活性を構成的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含み得る。その他のCXCR4ポリペプチド変異体としては、例えば、プロテアーゼの標的配列を変化させる突然変異に起因するタンパク質分解性開裂に対する耐性をもつ変異体が挙げられる。ペプチドのアミノ酸配列が変化した結果、天然CXCR4ポリペプチドの1つ以上の機能活性をもつ変異体が生じるかどうかということは、天然CXCR4ポリペプチドの機能活性について変異体を試験することにより容易に明らかにすることができる。
【0023】
本発明に係るMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、CXCR4またはCXCR4の変異体をコードする核酸を用いて、遺伝的に改変することができる。この核酸は、天然の核酸でも、非天然の核酸でもよく、RNAの形態でも、DNAの形態(例えば、cDNA、ゲノムDNA、および、合成DNA)でもよい。このDNAは、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。一本鎖の場合、コード鎖(センス鎖)であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。CXCR4ポリペプチドをコードする核酸コード配列は、例えば配列番号3および配列番号4に示されるヌクレオチド配列のような、CXCR4遺伝子のヌクレオチド配列と実質的に類似であってよい。配列番号3および配列番号4は、それぞれ、ヒトCXCR4の核酸配列およびラットCXCR4の核酸配列を含んでおり、GenBankアクセッション番号BC020968およびGenBankアクセッション番号BC031655の核酸配列と実質的に類似である。CXCR4の核酸コード配列はまた、遺伝暗号の重複または縮重の結果として、配列番号3および配列番号4がコードするポリペプチドと同じポリペプチドをコードするような、これらの配列とは異なるコード配列であってもよい。
【0024】
本発明の範囲内におけるCXCR4をコードするその他の核酸分子は、例えば、天然CXCR4ポリペプチドの断片、類似体、および、誘導体をコードするような、天然CXCR4遺伝子の変異体である。このような変異体としては、例えば、天然CXCR4遺伝子の天然対立遺伝子変異体、天然CXCR4遺伝子のホモログもしくはオーソログ、または、天然CXCR4遺伝子の非天然変異体、が挙げられる。これらの変異体は、1個以上の塩基において天然CXCR4遺伝子とは異なる塩基配列を有する。例えば、このような変異体の塩基配列は、天然CXCR4遺伝子の1個以上のヌクレオチドの欠失、付加、または、置換を有してもよい。核酸の挿入は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましい。
【0025】
その他の応用法において、構造が実質的に変化している変異CXCR4ポリペプチドは、コードされるポリペプチドにおいて保存的とは言えない変化を引き起こすようなヌクレオチド置換を作製することによって、生成され得る。このようなヌクレオチド置換の例としては、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷もしくは疎水性、または、(c)アミノ酸側鎖の大部分、をそれぞれ変化させる置換が挙げられる。タンパク質の特性を最も大きく変化させると一般に予想されるヌクレオチド置換は、コドンにおいて非保存的な変化を引き起こす置換である。ポリペプチドの構造を大きく変化させる可能性があるコドンの変化の例としては、次のような置換を引き起こす変化が挙げられる:(a)親水性の残基(例えば、セリンもしくはトレオニン)の、疎水性の残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、もしくはアラニン)への(または、による)置換、(b)システインもしくはプロリンの、他の任意の残基への(または、による)置換、(c)塩基性側鎖を有する残基(例えば、リジン、アルギニン、もしくはヒスチジン)の、電気陰性の側鎖(例えば、グルタミンもしくはアスパルチン)への(または、による)置換、あるいは、(d)かさ高い側鎖を有する残基(例えば、フェルアラニン)の、側鎖を有しない残基(例えば、グリシン)への(または、による)置換。
【0026】
本発明の範囲における天然CXCR4遺伝子の天然対立遺伝子変異体とは、天然CXCR4遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、天然CXCR4ポリペプチドと類似した構造を有するポリペプチドをコードする、哺乳動物の組織から単離された核酸である。本発明の範囲における天然CXCR4遺伝子のホモログとは、天然CXCR4遺伝子と少なくとも約70%の配列同一性を有し、天然CXCR4ポリペプチドと類似した構造を有するポリペプチドをコードする、他の種から単離された核酸である。天然CXCR4遺伝子と高い(例えば、70%以上の)配列同一性をもつ他の核酸分子を同定するため、公的なおよび/または私的な核酸データベースを探索することができる。
【0027】
非天然CXCR4遺伝子変異体とは、自然界には存在せず(例えば、人工的に作製され)、天然CXCR4遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、天然CXCR4タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸をいう。非天然CXCR4遺伝子変異体の例としては、天然CXCR4タンパク質断片をコードする変異体、ストリンジェントな条件下で、天然CXCR4遺伝子または天然CXCR4遺伝子の相補体にハイブリダイズする変異体、および天然CXCR4遺伝子または天然CXCR4遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を有する変異体、が挙げられる。
【0028】
本発明の範囲内における、天然CXCR4遺伝子断片をコードする核酸とは、天然CXCR4ポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸である。天然CXCR4ポリペプチドの断片をコードするか、または、これをコードする核酸とハイブリダイズする、短いオリゴヌクレオチドを、プローブ、プライマー、または、アンチセンス分子、として使用することができる。天然CXCR4ポリペプチドの断片をコードするか、または、これとコードする核酸とハイブリダイズする、長いポリヌクレオチドも、本発明の様々な態様において使用することができる。天然CXCR4断片をコードする核酸は、酵素消化によって(例えば、制限酵素を使用して)、または全長天然CXCR4遺伝子もしくはその変異体の化学分解によって、作製され得る。
【0029】
前述の核酸のうちの1つにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸もまた、本発明において使用することができる。例えば、このような核酸は、本発明の範囲内で、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件下で、前述の核酸のうちの1つにハイブリダイズする核酸、であり得る。
【0030】
CXCR4融合タンパク質をコードする核酸分子もまた、本発明において使用してよい。このような核酸は、適切な標的細胞へ導入するとCXCR4融合タンパク質を発現するような構成物(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。このような構成物は、例えば、好適な発現系での発現によって融合タンパク質を産生するように、CXCR4タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを、別のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとインフレームで結合することにより、作製することができる。
【0031】
CXCR4を過剰発現させるために用いる核酸は、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなど向上させるために、例えば、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において改変されてもよい。本発明の範囲内の核酸は、ペプチド(例えばin vivoで標的細胞受容体を標的とするための)や、細胞膜を横断する輸送やハイブリダイゼーション誘発開裂を促進する薬剤等の、他の追加の原子団をさらに含んでもよい。この目的のために、核酸は、別の分子(例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤、等)に結合させてもよい。
【0032】
CXCR4は、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞に、例えば、これら幹細胞の培養中に、CXCR4の発現を促進する薬剤を導入することによって、MSC、MAPC、および/または幹細胞から過剰発現させることができる。この薬剤は、細胞に導入することができ、かつ細胞内で複製能を有する組換え核酸構成物(典型的には、DNA構成物)に組み込まれた、本発明に係る上述の天然核酸または合成核酸(例えば、外因性遺伝物質)を含んでよい。このような構成物は、特定の標的細胞においてポリペプチドをコードする配列を転写しかつ翻訳する能力を有する、複製系および配列を含むことが好ましい。
【0033】
また、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からのCXCR4の発現を促進するため、他の薬剤を、これらの幹細胞に導入することもできる。例えば、CXCR4をコードする遺伝子の転写を増加させる薬剤は、CXCR4をコードするmRNAの翻訳を増加させる。その上/あるいは、CXCR4をコードするmRNAの分解を減少させる薬剤を、CXCR4レベルを増加させるために用いることも可能である。細胞内の遺伝子からの転写率は、CXCR4をコードする遺伝子の上流に外因性プロモーターを導入することにより、高めることができる。エンハンサーエレメントも、異種遺伝子の発現を促進するので、使用してよい。
【0034】
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞へ薬剤を導入する好ましい方法は、遺伝子治療の利用と関わっている。遺伝子治療とは、in vivo、ex vivo、またはin vitroにおいて細胞から治療産物を発現させるための、遺伝子導入をいう。本発明に係る遺伝子治療は、in vivo、ex vivo、またはin vitroで、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からCXCR4を発現させるために用いることができる。
【0035】
遺伝子治療の1つの方法は、CXCR4をコードするヌクレオチドを含むベクターを使用する。「ベクター」(遺伝子送達ビヒクルまたは遺伝子導入ビヒクルと呼ぶこともある)は、in vitroまたはin vivoのいずれかにおいて、標的細胞へ送達されるポリヌクレオチドを含む、高分子または分子複合体をいう。送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療において目的とするコード配列を含んでもよい。ベクターの例としては、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(Ad)、アデノ随伴ウイルス(AAV、レンチウイルス、およびレトロウイルスなど)、リポソームやその他脂質を含む複合体、および標的細胞(すなわち、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞)へのポリヌクレオチドの送達を仲介することができる、その他の高分子複合体、が挙げられる。
【0036】
ベクターはまた、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節するか、あるいは標的細胞に有益な特性を与えるような、他の成分または機能を含むことができる。このような他の成分の例としては、例えば、細胞との結合または細胞への標的化に影響を及ぼす成分(細胞タイプもしくは組織に特異的な結合を仲介する成分を含む)、細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす成分、取り込み後の細胞内においてポリヌクレオチドの局在化に影響を及ぼす成分(例えば、核局在化を仲介する薬剤等)、および、ポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす成分、等が挙げられる。このような成分の例としてはまた、当該ベクターにより送達される核酸を取り込み、それを発現している細胞を検出または選択するために用いることができる、検出可能なマーカー、および/または選択可能なマーカー、等のマーカーを挙げることもできるだろう。このような成分は、当該ベクターの本来の特徴として提供(例えば、結合と取り込みを仲介する成分または機能を有する特定のウイルスベクターの使用等)することもできるし、あるいは、ベクターを、このような機能をもつよう改変することもできる。
【0037】
選択可能マーカーは、ポジディブ、ネガティブ、または二機能性であり得る。ポジティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞を選択できるようにするものであり、他方、ネガティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞が選択的に除去されるようにするものである。二機能性(すなわちポジティブ/ネガティブ)のマーカーを含め、種々のこのようなマーカー遺伝子についての記載がある(例えば、1992年5月29日公開のLupton,S.国際公開第92/08796号パンフレット、および1994年12月8日公開のLupton,S.国際公開第94/28143号パンフレット)。このようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の様々な状況において有利となる可能性がある、さらなるコントロール手段を提供できる。多種多様なこのようなベクターは、当技術分野で公知であり、一般に利用可能である。
【0038】
本発明において使用するためのベクターの例としては、ウイルスベクター、脂質に基づいたベクター、および、本発明に係るヌクレオチドをMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞へ送達し得る他のベクター、が挙げられる。このベクターは、標的化ベクター、特にMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞に優先的に結合する標的化ベクターであり得る。本発明で使用する好ましいウイルスベクターは、標的細胞に対して低毒性であって、治療上有用な量のCXCR4の産出を誘導するベクターである。
【0039】
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を遺伝的に改変するために使用することができるウイルスベクターの1つの例として、レトロウイルスが挙げられる。MSCを遺伝的に改変するためのレトロウイルスの使用については、米国特許第5,591,625号に開示されている。レトロウイルスは、(i)その構造遺伝子をコードする配列の大部分が欠失し、目的とする遺伝子で置換され、そしてこの遺伝子が、レトロウイルスの制御配列の制御下で、その末端反復配列(LTR)領域内で転写されること、および、(ii)宿主ゲノムに組み込まれるDNA中間体を介して複製すること、という2つの理由から、構造と生活環の点で、理想的な遺伝子移入ビヒクルである。組み込み部位は、宿主ゲノムに関してはランダムであると考えられるが、プロウイルスは、低コピー数で規定構造をもって組み込まれる。
【0040】
レトロウイルスは、RNAウイルスであってよい;すなわち、ウイルスのゲノムはRNAであり得る。しかし、このゲノムRNAは、感染細胞の染色体DNAへ高い効率で組み込まれるDNA中間体へと逆転写される。この組み込まれたDNA中間体を、プロウイルスという。レトロウイルスのゲノムおよびプロウイルスDNAは、gag、pol、およびenvという3つの遺伝子をもち、これらの遺伝子の両端には、2つの長い末端反復配列(LTR)が存在する。gag遺伝子は内部構造物である(ヌクレオカプシド)タンパク質をコードする。pol遺伝子はRNA志向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードする。また、env遺伝子はウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5’LTRおよび3’LTRは、ウイルス粒子RNAの転写とポリアデニル化を促進する働きがある。
【0041】
5’LTRに隣接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)およびウイルスのRNAが効果的なキャプシド形成により粒子内に取り込まれるために必要な配列(Psi部位)が存在する(Mulligan, R. C., In: Experimental Manipulation of Gene Expression, M. Inouye (ed). Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A. 81:6349-6353 (1984))。
【0042】
組み換えゲノムを含むウイルス粒子を生成させるためには、パッケージングの「介助」となる細胞株を作成する必要がある。これを実現するため、例えばレトロウイルスの構造遺伝子gag、pol、envをコードするプラスミドを、通常は形質転換されていない組織細胞株に従来のリン酸カルシウムによるDNAトランスフェクションによって導入する(Wigler, et al., Cell 11:223 (1977))。このようなプラスミドを含んでいる細胞を「パッケージング細胞株」という。プラスミドを含むパッケージング細胞株をそのまま維持することもできるし、複製不能型レトロウイルスベクターを細胞のゲノムに導入することもできる。後者の場合、ベクター構築物によって生成したゲノムRNAが、パッケージング細胞株の構成的に発現しているレトロウイルスの構造タンパク質と組み合わされ、その結果レトロウイルス粒子が生成して、培地中に放出される。レトロウイルスの構造遺伝子配列を含んでいる安定した細胞株は、レトロウイルスの「プロデューサー細胞株」である。
【0043】
遺伝子を、レトロウイルスベクターを用いてMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞に導入することができるため、遺伝子は、レトロウイルスベクターの制御に基づき得る(制御を受け得る)が、その場合、目的とする遺伝子はレトロウイルスのプロモーターから転写される。プロモーターとは、RNA合成を開始するRNAポリメラーゼ分子が認識する、特異的なヌクレオチド配列である。または、目的とする遺伝物質の転写を担う(組換えレトロウイルスに組み込んだプロモーターに加えて)付加的なプロモーターエレメントを含む、レトロウイルスベクターを用いることもできる。例えば、外部因子や外部キューにより調節される、付加的なプロモーターを含む構成物を用いることもできる。このような構成物を用いれば、その外部因子や外部キューを活性化することにより、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞により産生されているポリペプチドのレベルを制御することができる。例えば、熱ショックタンパク質は、プロモーターが温度により制御される遺伝子によりコードされるタンパク質である。金属を含有するタンパク質メタロチオネインをコードするこの遺伝子のプロモーターは、カドミウムイオン(Cd++)に反応する。このプロモーター、または外部キューの影響を受けるその他のプロモーターを組み込むことにより、改変された前駆細胞によるポリペプチドの産生を制御することができる。
【0044】
レトロウイルス以外に、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を遺伝子操作すなわち改変するために用いることができるベクターの例として、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来のものが挙げられる。ヒトウイルスのベクターもヒト以外のウイルスのベクターも共に使用することができるが、組換えウイルスベクターはヒトにおいて複製能をもたないことが好ましい。ベクターがアデノウイルスである場合、このベクターは、CXCR4をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを有するポリヌクレオチドを含み、かつヒトにおいて複製能をもたないことが好ましい。
【0045】
アデノウイルスベクターは、標的細胞において非常に効率的な遺伝子発現能を有し、しかも比較的大きな異種(非ウイルス)DNAの挿入が可能である。組換えアデノウイルスの好ましい型式の1つは、「ガットレス(gutless)」、「高性能」型、すなわち「ヘルパー依存」型であるようなアデノウイルスベクターである。このベクターは、例えば、(1)すべてまたはほぼすべてのウイルスコード配列(ウイルスタンパク質をコードする配列)の欠失、(2)ウイルスDNA複製のために必要な配列であるウイルス逆方向末端反復配列(ITR)、(3)28〜32kbまでの「外因性」配列または「異種」配列(例えば、CXCR4をコードする配列)、および(4)ウイルスゲノムを感染性キャプシド中にパッケージングするために必要とされるウイルスDNAパッケージング配列、といった特徴がある。とりわけ心筋細胞の場合、このような組換えアデノウイルスベクターの好ましい変異体は、CXCR4遺伝子に作動可能に連結された、組織(例えば、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞)に特異的なエンハンサーおよびプロモーターを含むものである。
【0046】
標的細胞への高い形質導入効率を示し、かつ部位特異的な方法で標的ゲノムに組み込むことができるため、AAV随伴ウイルスに基づくベクターは有利である。組換えAAVベクターの使用については、Tal, J., J. Biomed. Sci. 7:279-291, 2000 and Monahan and Samulski, Gene Therapy 7:24-30, 2000で論じられている。好ましいAAVベクターは、一対のAAV逆方向末端反復配列と隣接した、CXCR4核酸に作動可能に連結された組織または細胞特異的なプロモーターを含む少なくとも1つのカセットを含むものである。ITR、プロモーター、およびCXCR4遺伝子を含むAAVベクターのDNA配列を、標的ゲノムへ組み込んでもよい。
【0047】
本発明に従って使用することができる他のウイルスベクターとしては、単純ヘルペスウイルス(HSV)に基づくベクターが挙げられる。1つ以上の前初期遺伝子(IE)を欠損したHSVベクターは、概して非細胞毒性であり、標的細胞中で潜伏のような状態を持続し、かつ効率的な標的細胞への形質導入を可能にするため、有利である。組換えHSVベクターは、約30kbの異種核酸を組み込むことができる。好ましいHSVベクターとしては、(1)HSV1型を改変し、(2)そのIE遺伝子を欠損し、(3)SDF−1核酸に作動可能に連結された組織(例えば、心筋層)特異的プロモーターを含む、ものである。HSVアンプリコンベクターもまた、本発明の様々な方法において有益となり得る。典型的に、HSVアンプリコンベクターは、長さ約15kbで、ウイルスの複製開始点およびパッケージング配列を有する。
【0048】
アルファウイルスに基づくベクター、例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)やシンドビスウイルス(SIN)から作製したもの、もまた、本発明において使用され得る。アルファウイルスの使用については、Lundstrom, K., Intervirology 43:247-257, 2000 and Perri et al., Journal of Virology 74:9802-9807, 2000に記載されている。アルファウイルスベクターは、典型的には、レプリコンとして知られているフォーマットで構築されている。レプリコンは、(1)RNA複製に必要なアルファウイルスの遺伝因子、および(2)例えばCXCR4をコードする核酸などの異種核酸、を含み得る。アルファウイルスのレプリコン内では、異種核酸は、組織特異的プロモーターまたはエンハンサーに作動可能に連結され得る。
【0049】
複製欠損型の組換えアルファウイルスベクターは、高レベルの異種(治療用)遺伝子発現能を有し、広範囲の標的細胞に感染させることができるため、有利である。アルファウイルスのレプリコンは、そのウイルス粒子表面に、同族の結合パートナーを発現している標的細胞へ選択的に結合し得ると考えられる、機能的異種リガンドまたは結合ドメインを提示させることにより、特定の細胞型(例えば、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞)に対して標的化してもよい。アルファウイルスのレプリコンが潜伏状態を確立し、その結果、標的細胞中で異種核酸を長期発現するようにしてもよい。このレプリコンはまた、標的細胞において異種核酸を一時的に発現させてもよい。アルファウイルスベクターまたはレプリコンは、細胞変性効果を示さないものが好ましい。
【0050】
本発明の方法に適合するウイルスベクターの多くにおいて、1種以上の異種遺伝子を当該ベクターによって発現させるため、1つ以上のプロモーターをこのベクターに組み込むことができる。このベクターにはさらに、標的細胞からのSDF−1遺伝子産物の分泌を促進する、シグナルペプチドまたはその他の部分をコードする配列を組み込むことができる。
【0051】
2つのウイルスベクター系の有利な特性を組み合わせるため、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞にCXCR4核酸を送達させるのに、ハイブリッドウイルスベクターを用いてもよい。ハイブリッドベクターを構築する標準的な方法は、当業者に周知である。このような技術は、例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor, N.Y.や、その他の多くの組換えDNA技術について論じている実験マニュアルにおいて見出すことができる。細胞に形質導入するため、AAVのITRとアデノウイルスのITRとの組み合わせを含む、アデノウイルスのキャプシド中の二本鎖AAVゲノムを用いてもよい。別のバリエーションでは、AAVベクターを「ガットレス」(gutless)、「ヘルパー依存」型、すなわち「高性能」型のアデノウイルスベクターに導入してもよい。アデノウイルス/AAVハイブリッドベクターについては、Lieber et a1., J. Virol. 73:9314-9324, 1999で、レトロウイルス/アデノウイルスハイブリッドベクターについては、Zheng et al., Nature Biotechnol. 18:176-186, 2000で論じられている。アデノウイルスに含まれるレトロウイルスのゲノムを、標的細胞ゲノム内に組み込み、安定したCXCR4遺伝子発現をもたらしてもよい。
【0052】
さらに、CXCR4遺伝子の発現およびベクターのクローニングを容易にする他の塩基配列要素が考えられる。例えば、プロモーター上流のエンハンサーの存在や、コード領域下流のターミネーターの存在は、発現を促進することができる。
【0053】
ウイルスベクターに基づく方法に加え、非ウイルス的な方法もまた、標的細胞にCXCR4遺伝子を導入するために使用してもよい。非ウイルス的な遺伝子送達方法については、Nishikawa and Huang, Human Gene Ther. 12:861-870, 2001で概説されている。本発明に係る好ましい非ウイルス的遺伝子送達方法の一つでは、CXCR4核酸を細胞に導入するために、プラスミドDNAを使用する。プラスミドに基づく遺伝子送達方法は、一般に当技術分野で公知である。
【0054】
遺伝子を導入するための分子を合成し、プラスミドDNAと共に多分子集合体を形成させるようにすることもできる。このような集合体は、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞に結合するようにさせることができる。
【0055】
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞へ、受容体に非依存的なCXCR4核酸の導入を行うために、リポポリアミンやカチオン性脂質などのカチオン性両親媒性物質を用いてもよい。さらに、細胞にトランスフェクトする複合体を形成するために、予め形成したカチオン性リポソームまたはカチオン性脂質をプラスミドDNAと混合してもよい。カチオン性脂質製剤が関わる方法については、Felgner et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 772:126-139, 1995およびLasic and Templeton, Adv. Drug Delivery Rev. 20:221-266, 1996に概説されている。遺伝子送達のために、DNAを両親媒性のカチオン性ペプチド(Fominaya et al., J. Gene Med. 2:455-464, 2000)と結合させてもよい。
【0056】
ウイルスに基づく成分と非ウイルスに基づく成分の両方を含む方法が、本発明に従って使用され得る。例えば、治療用遺伝子送達のための、エプスタインバーウイルス(EBV)に基づくプラスミドについて、Cui et al., Gene Therapy 8:1508-1513, 2001.に記載されている。さらに、アデノウイルスに結合したDNA/リガンド/ポリカチオン性付加物に関する方法は、Curiel, D. T., Nat. Immun. 13:141-164, 1994に記載されている。
【0057】
CXCR4の発現をコードする核酸を含むベクターは、培地に直接注入することにより、ex vivoまたは in vitroで培養されるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞に送達することができる。注射剤は、必要に応じ、例えば生理食塩水などの、薬理学的に受容可能なキャリアを含むことができる。他の製薬キャリア、製剤および投与量もまた、本発明に従って適用することができる。
【0058】
CXCR4を過剰発現するように遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、治療的応用法および/または細胞療法の目的で哺乳動物被験体へ導入すると、CXCR4を過剰発現するように遺伝的に改変されていないMSCに比べて、より高い生存率と長い寿命を示す。遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の過剰発現したCXCR4は、治療対象の組織中に存在するSDF−1ケモカインに結合することができる。SDF−1がCXCR4に結合すると、プロテインキナーゼAKTのリン酸化を誘導することができ、その結果、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞のアポトーシスを抑制し、その生存を実質的に向上させることができる。
【0059】
==SDF−1の過剰発現==
本発明の別の態様によれば、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を過剰発現するように遺伝的に改変することができる。CXCケモカインL12としても知られているSDF−1は、ケモカインCXCファミリーのメンバーで、CXCR4の天然のリガンドであると考えられている。SDF−1は、骨髄前駆細胞の輸送、搬出、およびホーミング(homing)において基本的な役割を果たすことが報告されているという点で、他のケモカインとは機能的に異なっている。さらに、SDF−1は、他のCXCケモカインとのアミノ酸配列同一性がわずか約22%という点で、構造上独特である。SDF−1が基本的な生理学的役割を果たしていることは、SDF−1配列が複数の種の間で高度に保存されていることからも示唆される。in vitroでは、SDF−1は、単球や骨髄由来前駆細胞を含む、様々な細胞の走化性を刺激する。
【0060】
ヒト、マウス、およびラットなどのさまざまな異なる哺乳動物SDF−1タンパク質のアミノ酸配列が知られている。ヒトSDF−1とラットSDF−1のアミノ酸配列同一性は約92%である。SDF−1には、SDF−1アルファおよびSDF−1ベータという2つのアイソフォームが存在し得るが、本明細書中では、特に識別しない限り、両者をSDF−1と呼ぶ。
【0061】
過剰発現されるSDF−1は配列番号5と実質的に同一のアミノ酸配列を有することができる。過剰発現されるSDF−1はまた、前述の哺乳動物SDF−1タンパク質のうちの1つに実質的に類似のアミノ酸配列を有することができる。例えば、過剰発現されるSDF−1は、配列番号6に実質的に類似のアミノ酸配列を有することができる。配列番号6は、実質的に配列番号5を含む、ヒトSDF−1のアミノ酸配列であり、GenBankアクセッション番号NP954637により識別される。過剰発現されるSDF−1はまた、配列番号7と実質的に同一のアミノ酸配列を有することができる。配列番号7もまた、実質的に配列番号5を含み、ラットSDFのアミノ酸配列を含んでおり、GenBankアクセッション番号AAF01066により識別される。
【0062】
本発明に従い過剰発現されるSDF−1はまた、例えば、哺乳動物のSDF−1の断片、類似体、および誘導体等の、哺乳動物SDF−1の変異体であってもよい。このような変異体の例としては、例えば、天然SDF−1遺伝子の天然対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド(すなわち、天然哺乳動物SDF−1ポリペプチドをコードする天然核酸)、天然SDF−1遺伝子の選択的スプライシング型によりコードされるポリペプチド、天然SDF−1遺伝子のホモログまたはオーソログによってコードされるポリペプチド、および、天然SDF−1遺伝子の非天然変異体によりコードされるポリペプチド、が挙げられる。
【0063】
SDF−1変異体は、1個以上のアミノ酸において、天然SDF−1ポリペプチドとは異なるペプチド配列を有する。このような変異体のペプチド配列は、SDF−1の1個以上のアミノ酸の欠失、付加、または、置換を有してもよい。アミノ酸の挿入は、約1〜4個の連続するアミノ酸であることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するアミノ酸であることが好ましい。変異SDF−1は、天然SDF−1の機能活性を実質的に維持している。好ましいSDF−1ポリペプチド変異体は、サイレント(silent)または保存的な変化を有する本発明の範囲内の核酸分子を発現させることにより、作製することができる。
【0064】
SDF−1ポリペプチドの、1つ以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応する断片は、本発明の範囲内である。単離されたSDF−1のペプチジル部位は、このようなペプチドをコードする核酸の対応する断片から組換え技術によって作製したペプチドをスクリーニングすることにより、得ることができる。例えば、本発明のSDF−1ポリペプチドは、所望の長さの断片に任意に分割してもよく、その際、断片をオーバーラップさせなくてもよいが、所望の長さのオーバーラップする断片に分割することが好ましい。この断片は、組換え技術によって作製して、天然SDF−1ポリペプチドのアゴニストとして機能し得るペプチジル断片を同定するために試験することができる。
SDF−1ポリペプチド変異体はまた、組換え型のSDF−1ポリペプチドを含んでもよい。SDF−1ポリペプチドに加え、本発明における好ましい組換え型ポリペプチドは、哺乳動物のSDF−1をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも約70%の配列同一性を持つことができる核酸によってコードされる。
【0065】
SDF−1ポリペプチド変異体は、天然SDF−1ポリペプチドの機能活性を構成的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含み得る。その他のSDF−1ポリペプチド変異体としては、例えば、プロテアーゼの標的配列を変化させる突然変異に起因する、タンパク質分解性開裂に対する耐性をもつ変異体が挙げられる。ペプチドのアミノ酸配列が変化した結果、天然SDF−1ポリペプチドの1つまたは複数の機能活性をもつ変異体が生じるかどうかということは、天然SDF−1ポリペプチドの機能活性について変異体を試験することにより容易に明らかにすることができる。
【0066】
本発明に係るMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、SDF−1またはSDF−1の変異体をコードする核酸を用いて、遺伝子改変することができる。この核酸は、天然の核酸でも、非天然の核酸でもよく、RNAの形態でも、DNAの形態(例えばcDNA、ゲノムDNA、および、合成DNA)でもよい。このDNAは、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。一本鎖の場合、コード鎖(センス鎖)であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。SDF−1をコードする核酸コード配列は、例えば配列番号8および配列番号9に示されるヌクレオチド配列のような、SDF−1遺伝子のヌクレオチド配列と実質的に類似であってよい。配列番号8および配列番号9は、それぞれ、ヒトSDF−1の核酸配列およびラットSDF−1の核酸配列を含んでおり、GenBankアクセッション番号NM199168およびGenBankアクセッション番号AF189724の核酸配列と実質的に類似である。SDF−1の核酸コード配列はまた、遺伝暗号の重複または縮重の結果として、配列番号5、配列番号6、および配列番号7がコードするポリペプチドと同じポリペプチドをコードするような、これらの配列とは異なるコード配列であってもよい
本発明の範囲内におけるSDF−1をコードするその他の核酸分子は、例えば、天然SDF−1ポリペプチドの断片、類似体、および、誘導体をコードするような、天然SDF−1タンパク質の変異体である。このような変異体としては、例えば、天然SDF−1遺伝子の天然対立遺伝子変異体、天然SDF−1遺伝子のホモログもしくはオーソログ、または、天然SDF−1遺伝子の非天然変異体、が挙げられる。これらの変異体は、1個以上の塩基において天然SDF−1遺伝子とは異なる塩基配列を有する。例えば、このような変異体の塩基配列は、天然SDF−1遺伝子の1個以上のヌクレオチドの欠失、付加、または、置換を有してもよい。核酸の挿入は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましい。
【0067】
その他の応用法において、構造が実質的に変化している変異SDF−1タンパク質は、コードされるポリペプチドにおいて保存的とは言えない変化を引き起こすようなヌクレオチド置換を作製することによって、生成され得る。このようなヌクレオチド置換の例としては、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷もしくは疎水性、または、(c)アミノ酸側鎖の大部分、をそれぞれ変化させる置換が挙げられる。タンパク質の特性を最も大きく変化させると一般に予想されるヌクレオチド置換は、コドンにおいて非保存的な変化を引き起こす置換である。タンパク質の構造を大きく変化させる可能性があるコドンの変化の例としては、次のような置換を引き起こす変化が挙げられる:(a)親水性の残基(例えば、セリンもしくはトレオニン)の、疎水性の残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、もしくはアラニン)への、(または、による)置換、(b)システインもしくはプロリンのが、他の任意の残基への、(または、による)置換、(c)塩基性側鎖を有する残基(例えば、リジン、アルギニン、もしくはヒスチジン)の、電気陰性の側鎖(例えば、グルタミンもしくはアスパルチン)への(または、による)置換、あるいは(d)かさ高い側鎖を有する残基(例えば、フェルアラニン)の、側鎖を有しない残基(例えば、グリシン)への、(または、による)置換。
【0068】
本発明の範囲における天然SDF−1遺伝子の天然対立遺伝子変異体とは、天然SDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、天然SDF−1ポリペプチドと類似した構造を有するポリペプチドをコードする、哺乳動物の組織から単離された核酸である。本発明の範囲における天然SDF−1遺伝子のホモログとは、天然SDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、天然SDF−1ポリペプチドと類似した構造を有するポリペプチドをコードする、他の種から単離された核酸である。天然SDF−1遺伝子と高い(例えば70%以上の)配列同一性をもつ他の核酸分子を同定するため、公的なおよび/または私的な核酸データベースを探索することができる。
【0069】
非天然SDF−1遺伝子変異体とは、自然界には存在せず(例えば、人工的に作製され)、天然SDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、天然SDF−1タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸をいう。非天然SDF−1遺伝子変異体の例としては、天然SDF−1タンパク質断片をコードする変異体、ストリンジェントな条件下で、天然SDF−1遺伝子または天然SDF−1遺伝子の相補体にハイブリダイズする変異体、および天然SDF−1遺伝子または天然SDF−1遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を有する変異体が挙げられる。
【0070】
本発明の範囲内における、天然SDF−1遺伝子断片をコードする核酸とは、天然SDF−1ポリペプチドのアミノ酸残基をコードする核酸である。天然SDF−1の断片をコードするか、または、これをコードする核酸とハイブリダイズするような、短いオリゴヌクレオチドは、プローブ、プライマー、または、アンチセンス分子、として使用することができる。天然SDF−1ポリペプチドの断片をコードするか、または、これをコードする核酸とハイブリダイズするような、長いポリヌクレオチドも、本発明の様々な態様において使用することができる。天然SDF−1断片をコードする核酸は、酵素消化によって(例えば、制限酵素を使用して)、または全長天然SDF−1遺伝子もしくはその変異体の化学分解によって、作製され得る。
【0071】
前述の核酸のうちの1つにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸もまた、本発明において使用することができる。例えば、このような核酸は、本発明の範囲内で、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件下で、前述の核酸のうちの1つにハイブリダイズする核酸、であり得る。
【0072】
SDF−1融合タンパク質をコードする核酸分子もまた、本発明において使用してよい。このような核酸は、適切な標的細胞へ導入するとSDF−1融合タンパク質を発現するような構成物(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。このような構成物は、例えば、好適な発現系での発現によって融合タンパク質を産生するように、SDF−1タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドを、別のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとインフレームで結合することにより、作製することができる。
【0073】
SDF−1を過剰発現させるため用いる核酸は、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなど向上させるために、例えば、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において改変されてもよい。本発明の範囲内の核酸は、ペプチド(例えば、in vivoで標的細胞受容体を標的とするための)、または細胞膜を横断する輸送やハイブリダイゼーション誘発開裂を促進する薬剤等の、他の追加の原子団をさらに含んでもよい。この目的のために、核酸は、別の分子、(例えば、ペプチド)、ハイブリダイゼーション誘発架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤、等に結合させてもよい。
【0074】
SDF−1は、MSC、MAPC、および/または幹細胞に、SDF−1の発現を促進する薬剤を導入することによって、MSC、MAPC、および/または幹細胞から過剰発現させることができる。本発明に係る上述の薬剤は、細胞に導入することができ、かつ細胞内で複製能を有する、組換え核酸構成物(典型的には、DNA構成物)に組み込まれる天然核酸または合成核酸を含んでよい。このような構成物は、特定の標的細胞におけるポリペプチドをコードする配列を転写しかつ翻訳する能力を有する複製系および配列を含むことが好ましい。
【0075】
また、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からのSDF−1の発現を促進するため、他の薬剤を、これらの幹細胞に導入することもできる。例えば、SDF−1をコードする遺伝子の転写を増加させる薬剤は、SDF−1をコードするmRNAの翻訳を増加させる。その上/あるいは、SDF−1をコードするmRNAの分解を減少させる薬剤を、SDF−1レベルを増加させるために用いることも可能である。細胞内の遺伝子からの転写率は、SDF−1をコードする遺伝子の上流に外因性プロモーターを導入することにより、高めることができる。エンハンサーエレメントも、異種遺伝子の発現を促進するので、使用してよい。
【0076】
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞へ薬剤を導入する好ましい方法は、遺伝子治療の利用と関わっている。遺伝子治療の1つの方法では、SDF−1をコードするヌクレオチドを含むベクターを使用する。ベクターの例としては、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(‘Ad’)、アデノ随伴ウイルス(AAV、レンチウイルス、およびレトロウイルスなど)、リポソーム、他の脂質を含む複合体、および標的細胞(すなわち、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞)へポリヌクレオチドの送達を仲介することができる他の高分子複合体、が挙げられる。
【0077】
ベクターはまた、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節するか、あるいは標的細胞に有益な特性を与えるような、他の成分または機能を含むことができる。このような他の成分の例としては、例えば、細胞との結合または細胞への標的化に影響を及ぼす成分(細胞タイプもしくは組織に特異的な結合を仲介する成分を含む)、細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす成分、取り込み後の細胞内においてポリヌクレオチドの局在化に影響を及ぼす成分(例えば、核局在化を仲介する薬剤等)、および、ポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす成分、等が挙げられる。このような成分の例としてはまた、当該ベクターにより送達される核酸を取り込み、それを発現している細胞を検出または選択するために用いることができる、検出可能なマーカー、および/または選択可能なマーカー、等のマーカーを挙げることもできるだろう。このような成分は、当該ベクターの本来の特徴として提供(例えば、結合と取り込みを仲介する成分または機能を有する特定のウイルスベクターの使用等)することもできるし、あるいは、ベクターを、このような機能をもつよう改変することもできる。
【0078】
選択可能マーカーは、ポジディブ、ネガティブ、または二機能性であり得る。ポジティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞を選択できるようにするものであり、他方、ネガティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞が選択的に除去されるようにするものである。二機能性(すなわちポジティブ/ネガティブ)のマーカーを含め、種々のこのようなマーカー遺伝子についての記載がある(例えば、1992年5月29日公開のLupton,S.国際公開第92/08796号パンフレット、および1994年12月8日公開のLupton,S.国際公開第94/28143号パンフレット)。このようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の様々な状況において有利となる可能性がある、さらなるコントロール手段を提供できる。多種多様なこのようなベクターは、当技術分野で公知であり、一般に利用可能である。
【0079】
本発明において使用するためのベクターの例としては、ウイルスベクター、脂質に基づいたベクター、および、本発明に係るヌクレオチドをMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞へ送達し得る他のベクター、が挙げられる。このベクターは、標的化ベクター、特にMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞に優先的に結合する標的化ベクターであり得る。本発明で使用する好ましいウイルスベクターは、標的細胞に対して低毒性であって、治療上有用な量のSDF−1の産生を誘導するベクターである。
【0080】
心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を遺伝的に改変するために使用することができるウイルスベクターの1つの例として、レトロウイルスが挙げられる。幹細胞を遺伝子操作すなわち改変するために使用することができるベクターのその他の例として、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)が挙げられる。また、当技術分野で既知であり、上記に記載された、他のウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを使用することもできる。
【0081】
SDF−1を過剰発現するように遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、治療的応用法および/または細胞療法の目的で、哺乳動物被験体へ導入されると、SDF−1を過剰発現するように遺伝的に改変されていないMSCに比べて、より高い生存率と長い寿命を示す。遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の過剰発現したSDF−1は、そのMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞中に存在するCXCR4だけでなく、治療対象の組織中に存在するCXCR4とも結合することができる。SDF−1がCXCR4に結合すると、プロテインキナーゼAKTのリン酸化を誘導することができ、その結果、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞のアポトーシスを抑制し、その生存を実質的に向上させることができる。また、SDF−1の過剰発現は、心筋の構造を再生するために用いられるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞のホーミングばかりでなく、哺乳動物において、さらなる前駆細胞または幹細胞の治療中の組織へのホーミングも促進することができる。
【0082】
==CXCR4およびSDF−1の過剰発現==
本発明のまた別の態様によれば、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、CXCR4とSDF−1の両者を過剰発現するように遺伝的に改変することができる。本発明に従って過剰発現されるCXCR4ポリペプチドは、哺乳動物CXCR4ポリペプチドのアミノ酸配列に実質的に類似のアミノ酸配列を有することができる。例えば、過剰発現されるCXCR4は、配列番号1および/または配列番号2に実質的に類似のアミノ酸配列を有することができる。また、過剰発現させるSDF−1も、哺乳動物SDF−1のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有することができる。例えば、過剰発現されるSDF−1は、配列番号5、配列番号6、および/または配列番号7と実質的に同一のアミノ酸配列を有することができる。
【0083】
本発明に従って過剰発現されるCXCR4およびSDF−1は、それぞれ、哺乳動物CXCR4および哺乳動物SDF−1の断片、類似体、および誘導体等の、哺乳動物CXCR4および哺乳動物SDF−1の変異体であってもよい。このような変異体の例としては、例えば、天然CXCR4遺伝子の天然対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド(すなわち、天然哺乳動物CXCR4ポリペプチドをコードする天然核酸)、天然SDF−14遺伝子の天然対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド、天然CXCR4遺伝子の選択的スプライシング型によりコードされるポリペプチド、天然SDF−1遺伝子の選択的スプライシング型によりコードされるポリペプチド、天然CXCR4遺伝子のホモログまたはオーソログによってコードされるポリペプチド、天然SDF−1遺伝子のホモログまたはオーソログによってコードされるポリペプチド、および、天然CXCR4遺伝子の非天然変異体によりコードされるポリペプチド、および/また天然SDF−1遺伝子の非天然変異体によりコードされるポリペプチド、が挙げられる。
【0084】
CXCR4およびSDF−1変異体は、1個以上のアミノ酸において、天然SDF−1および天然SDF−1とは異なるペプチド配列を有する。このような変異体のペプチド配列は、CXCR4および/またはSDF−1変異体の、1個以上のアミノ酸の欠失、付加、または、置換を有してもよい。アミノ酸の挿入は、約1〜4個の連続するアミノ酸であることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するアミノ酸であることが好ましい。変異CXCR4ポリペプチドは、天然CXCR4の機能活性を実質的に維持しており、一方、変異SDF−1ポリペプチドは、天然SDF−1の機能活性を実質的に維持している。
【0085】
CXCR4およびSDF−1ポリペプチドの、1つ以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応する断片は、本発明の範囲内である。CXCR4およびSDF−1ポリペプチド変異体はまた、組換え型のCXCR4およびSDF−1を含んでもよい。本発明における好ましい組換えポリペプチドは、哺乳動物のCXCR4および哺乳動物のSDF−1をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも70%の配列同一性を持ち得る核酸によってコードされる。
【0086】
CXCR4およびSDF−1ポリペプチド変異体は、天然CXCR4およびSDF−1の機能活性を構成的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含み得る。その他のSDF−1ポリペプチド変異体としては、例えば、プロテアーゼの標的配列を変化させる突然変異に起因する、タンパク質分解性開裂に対する耐性をもつ変異体が挙げられる。
【0087】
心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からのCXCR4およびSDF−1の過剰発現は、幹細胞を、CXCR4(またはCXCR4の変異体)をコードする核酸およびSDF−1(またはSDF−1の変異体)をコードする核酸)で遺伝的に改変することによって、行うことができる。核酸は、天然の核酸でも、非天然の核酸でもよく、RNAの形態でも、DNAの形態(例えばcDNA、ゲノムDNA、および、合成DNA)でもよい。DNAは、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。一本鎖の場合、コード鎖(センス鎖)であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
【0088】
CXCR4をコードする核酸コード配列は、配列番号3および配列番号4に示されるヌクレオチド配列と実質的に類似であってよい。CXCR4の核酸コード配列はまた、遺伝暗号の重複または縮重の結果として、配列番号3および配列番号4と同じポリペプチドをコードするような、これらの配列とは異なるコード配列であってもよい。
【0089】
SDF−1をコードする核酸コード配列は、配列番号8および配列番号9に示されるヌクレオチド配列と実質的に類似であってよい。SDF−1の核酸コード配列はまた、遺伝暗号の重複または縮重の結果として、配列番号5、配列番号6、および配列番号7と同じポリペプチドをコードするような、これらの配列とは異なるコード配列であってもよい。
【0090】
本発明の範囲内におけるCXCR4およびSDF−1をコードする他の核酸分子は、それぞれ、天然CXCR4の断片、類似体、および、誘導体をコードするような天然CXCR4の変異体、ならびに、天然SDF−1の断片、類似体、および、誘導体をコードするような天然SDF−1の変異体である。これらの変異体は、1個以上の塩基において天然CXCR4および天然SDF−1遺伝子とは異なる塩基配列を有してもよい。
【0091】
その他の応用法において、構造が実質的に変化している変異CXCR4および変異SDF−1は、コードされるポリペプチドにおいて保存的とは言えない変化を引き起こすようなヌクレオチド置換を作製することによって、生成され得る。本発明の範囲における、天然SDF−1遺伝子および天然CXCR4遺伝子の天然対立遺伝子変異体とは、天然CXCR4遺伝子および天然SDF−1遺伝子と、それぞれ少なくとも70%の配列同一性を有し、天然CXCR4ポリペプチドおよびSDF−1ポリペプチドと類似した構造を有するポリペプチドをコードする、哺乳動物の組織から単離された核酸である。
【0092】
前述の核酸のうちの1つにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸もまた、本発明において使用することができる。例えば、このような核酸は、本発明の範囲内で、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件下で、前述の核酸のうちの1つにハイブリダイズする核酸、であり得る。
【0093】
SDF−1融合タンパク質をコードする核酸分子もまた、本発明において使用してよい。このような核酸は、適切な標的細胞へ導入するとSDF−1融合タンパク質を発現するような構成物(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。
【0094】
CXCR4およびSDF−1を過剰発現させるため用いる核酸は、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなど向上させるために、例えば、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において改変されてもよい。本発明の範囲内の核酸は、ペプチド(例えばin vivoで標的細胞受容体を標的とするための)や、細胞膜を横断する輸送やハイブリダイゼーション誘発開裂を促進する薬剤等の、他の追加の原子団をさらに含んでもよい。この目的のために、核酸は、別の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤等、に結合させてもよい。
【0095】
CXCR4およびSDF−1は、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の中に、CXCR4およびSDF−1の発現を促進する薬剤を少なくとも1種導入することによって、MSC、MAPC、および/または幹細胞から過剰発現させることができる。この薬剤は、細胞に導入することができ、かつ細胞内で複製能を有する組換え核酸構成物(典型的には、DNA構成物)に組み込まれた、本発明に係る上述の天然核酸または合成核酸を含んでよい。このような構成物は、特定の標的細胞においてポリペプチドをコードする配列を転写しかつ翻訳する能力を有する、複製系および配列を含むことが好ましい
また、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からのCXCR4およびSDF−1の発現を促進するため、他の薬剤を、これらの幹細胞に導入することもできる。例えば、CXCR4およびSDF−1をコードする遺伝子の転写を増加させる薬剤は、CXCR4およびSDF−1をコードするmRNAの翻訳を増加させる。その上/あるいは、CXCR4およびSDF−1をコードするmRNAの分解を減少させる薬剤を、CXCR4およびSDF−1を過剰発現させるために用いることも可能である。細胞内の遺伝子からの転写率は、CXCR4をコードする遺伝子およびSDF−1をコードする遺伝子の上流に外因性プロモーターを導入することにより、高めることができる。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサーエレメントも使用してよい。
【0096】
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞へ薬剤を導入する好ましい方法は、遺伝子治療の利用と関わっている。遺伝子治療の1つの方法では、CXCR4をコードするヌクレオチドを含むベクターと、SDF−1をコードするヌクレオチドを含むベクターを使用する。また別の方法では、CXCR4とSDF−1の両者をコードするベクターを使用する。ベクターの例としては、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(‘Ad’)、アデノ随伴ウイルス(AAV、レンチウイルス、およびレトロウイルスなど)、リポソーム、他の脂質を含む複合体、および標的細胞(すなわち、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞)へポリヌクレオチドの送達を仲介することができる他の高分子複合体、が挙げられる。
【0097】
ベクターはまた、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節するか、あるいは標的細胞に有益な特性を与えるような、他の成分または機能を含むことができる。このような他の成分の例としては、例えば、細胞との結合または細胞への標的化に影響を及ぼす成分(細胞タイプもしくは組織に特異的な結合を仲介する成分を含む)、細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす成分、取り込み後の細胞内においてポリヌクレオチドの局在化に影響を及ぼす成分(例えば、核局在化を仲介する薬剤等)、および、ポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす成分、等が挙げられる。このような成分の例としてはまた、当該ベクターにより送達される核酸を取り込み、それを発現している細胞を検出または選択するために用いることができる、検出可能なマーカー、および/または選択可能なマーカー、等のマーカーを挙げることもできるだろう。このような成分は、当該ベクターの本来の特徴として提供(例えば、結合と取り込みを仲介する成分または機能を有する特定のウイルスベクターの使用等)することもできるし、あるいは、ベクターを、このような機能をもつよう改変することもできる。
【0098】
選択可能マーカーは、ポジディブ、ネガティブ、または二機能性であり得る。ポジティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞を選択できるようにするものであり、他方、ネガティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞が選択的に除去されるようにするものである。二機能性(すなわちポジティブ/ネガティブ)のマーカーを含め、種々のこのようなマーカー遺伝子についての記載がある(例えば、1992年5月29日公開のLupton,S.国際公開第92/08796号パンフレット、および1994年12月8日公開のLupton,S.国際公開第94/28143号パンフレット)。このようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の様々な状況において有利となる可能性がある、さらなるコントロール手段を提供できる。多種多様なこのようなベクターは、当技術分野で公知であり、一般に利用可能である。
【0099】
本発明において使用するためのベクターの例としては、ウイルスベクター、脂質に基づいたベクター、および、本発明に係るヌクレオチドをMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞へ送達し得る他のベクター、が挙げられる。このベクターは、標的化ベクター、特にMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞に優先的に結合する標的化ベクターであり得る。本発明で使用する好ましいウイルスベクターは、標的細胞に対して低毒性であって、治療上有用な量のCXCR4およびSDF−1の産生を誘導するベクターである。
【0100】
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を遺伝的に改変するために使用することができるウイルスベクターの1つの例として、レトロウイルスが挙げられる。遺伝的に幹細胞を作成または改変するために使用することができる、その他のベクターの例として、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)が挙げられる。また、当技術分野で既知であり、上記に記載された、他のウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを使用することもできる。
【0101】
CXCR4およびSDF−1の両者が過剰発現するように遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、治療的応用法および/または細胞療法の目的で哺乳動物被験体へ導入すると、SDF−1を過剰発現するように遺伝的に改変されていないMSCに比べて、より高い生存率と長い寿命を示す。心筋組織を再生するために用いる、遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞が過剰発現するCXCR4およびSDF−1は、幹細胞中のCXCR4およびSDF−1に対して互いに結合でき、また、治療対象の組織中に存在するCXCR4およびSDF−1に対しても結合することができる。すでに論じたように、SDF−1がCXCR4に結合すると、プロテインキナーゼAKTのリン酸化を誘導することができ、その結果、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞、ならびに治療対象の組織のアポトーシスを抑制し、それらの生存を実質的に向上させることができる。さらに加えて、SDF−1の過剰発現は、心筋の構造を再生するために用いられるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞のホーミングばかりでなく、哺乳動物において、さらなる前駆細胞または幹細胞の治療中の組織へのホーミングも促進することができる。
【0102】
==治療的応用法==
CXCR4、SDF−1、またはCXCR4とSDF−1の両者を過剰発現するように遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、組織および/または臓器系の拡張、再増殖、保存、および/または再生が望ましい場合の、潜在的にいかなる細胞療法や治療的応用法にも用いることが可能である。本発明の1つの態様によれば、CXCR4を過剰発現するように遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、最近心筋梗塞またはうっ血性心不全を罹患した患者を治療するために使用することができる。最近心筋梗塞またはうっ血性心不全を罹患した患者は、遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、梗塞した心筋組織および/または梗塞した心筋組織に隣接する組織に送達することにより、治療することができる。梗塞した心筋組織に送達された遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、細胞に分化することができ、その細胞が再増殖し(すなわち、生着し)、梗塞した心筋の正常な機能を部分的または全面的に回復させることができる。
【0103】
心筋の構造を再生するために用いる遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、当該遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、梗塞した心筋組織または梗塞に隣接する心筋組織に直接注入することにより、梗塞した心筋に送達することができる。遺伝的に改変された幹細胞の直接注射は、例えば、ツベルクリン注射器を使用することにより行なうことができる。梗塞した心筋組織中へ遺伝的に改変された幹細胞を直接注入することにより、梗塞した心筋組織からのSDF−1の発現をアップレギュレートすることができる。梗塞した心筋層におけるSDF−1発現のアップレギュレーションが、心筋層へのMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を移植した後、約1時間後から、約7日未満に至るまで観察された。SDF−1がこのようにアップレギュレーションすることにより、末梢血中の多分化能性幹細胞を、梗塞した心筋中にホーミングさせることができる。MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からのCXCR4および/またはSDF−1の過剰発現は、遺伝的に改変された幹細胞の生存率を向上させ、その結果、当該療法の治療効果が高められる。
別の方法として、心筋の構造を再生するために用いる遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、これらの遺伝的に改変された幹細胞を、治療対象の哺乳動物被験体中へ静脈注入または動脈注入することにより、梗塞した心筋組織に送達することができる。心筋の構造を再生するために用いる、SDF−1および/またはCXCR4を過剰発現しているMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の注入は、心筋梗塞の後間もなく(例えば、約1日後)に行うことができる。心筋梗塞が起こると、梗塞した心筋組織中で、SDF−1の発現が一時的にアップレギュレートする。SDF−1の発現がこのようにアップレギュレートすると、哺乳動物被験体の末梢血に注入する、心筋の構造を再生するために用いる遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞が、梗塞した心筋組織にホーミングできるようになる。心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞からのCXCR4および/またはSDF−1の過剰発現は、遺伝的に改変された幹細胞の生存率を向上させ、その結果、当該療法の治療効果が高められる。
【0104】
心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、ひとたび治療対象の組織に送達されると、一時的な発現から、安定した長期発現まで、任意の好適な期間にわたって、CXCR4および/またはSDF−1を発現することができる。好ましい実施形態では、CXCR4および/またはSDF−1は、好適な規定の期間にわたって、治療量で発現される。
【0105】
治療量とは、治療された動物またはヒトにおいて医学的に望ましい結果を生むことができる量である。医学の分野では周知のように、任意の1匹の動物または1人のヒトに対する投与量は、被験体の身長体重、体表面積、年齢、投与する特定の組成、性別、投与期間および投与経路、全身的な健康状態、ならびに併用薬等の、多くの因子によって決まる。タンパク質、核酸、または小さい分子の特定の投与量は、以下に記載する実験方法により、当業者が容易に決定することができる。
【0106】
心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞から、CXCR4および/またはSDF−1を、長期間にわたって発現させることは、以下の理由で有利である;すなわち、心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の送達から、一定の時間(例えば、心筋梗塞後2、3日)が経過した後に、動員剤を投与することが可能だからである。動員剤を投与することにより、他の幹細胞が被験者の組織(例えば、骨髄)から末梢血へ動員されるよう誘導することができ、末梢血中の幹細胞の濃度が高められる。動員剤としてG−CSFを用いる場合、好中球数が有意に増加し、そのため手術期の直近においては、マイナスの効果を引き起こす可能性があるが、何日も、何週も後まではそのようなことはない。さらに、CXCR4およびSDF−1が長期的または慢性的に過剰発現すれば、幹細胞を動員する必要なく、末梢血から梗塞した心筋組織中への幹細胞の長期的なホーミングが起こる。
【0107】
他にも多くの動員剤が知られ、本発明に従い使用することができることは理解されるであろう。そのような動員剤の例としては、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−GSF)、インターロイキン(IL)−7、IL−3、IL−12、幹細胞因子(SCF)およびflt−3リガンド等のサイトカイン、IL−8、Mip−1αおよびGroβ等のケモカイン、およびシクロフォスファマイド(Cy)およびパクリタキセルといった化学療法剤、等が挙げられる。これらの薬剤は、幹細胞動員を達成するための時間枠、動員される幹細胞のタイプ、および効能の点で、異なっている。これ以外にも投与可能な動員剤があることは、当業者であれば理解するだろう。
【0108】
動員剤は、患者に直接注射することにより投与することができる。動員剤は、典型的には、心筋の構造を再生するために用いる、遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、治療対象の組織に送達(例えば、直接注射または注入)した後に投与するが、遺伝的に改変された幹細胞を送達する前に投与することもできる。
【0109】
例として、図1は、CXCR4およびSDF−1を過剰発現するように遺伝的に改変された、心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を利用して、急性心筋梗塞の患者を治療するための1つの臨床戦略を示すものである。この治療戦略では、急性心筋梗塞の患者を、最初に血管形成術で治療することができる。心筋梗塞約1日後に、CXCR4およびSDF−1を過剰発現するように遺伝的に改変された、心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を、動脈注入または静脈注入により、患者に投与する。心筋の構造を再生するために用いる遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、治療する患者に対し、自家移植しても、および/または同種異系移植してもよく、前述の方法で採取し、培養し、さらに遺伝的に改変することができる。心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞の注入数の例としては、約200万個の幹細胞が挙げられる。この数は、特定の応用法により、さらに増やしたり減らしたりすることができる。
【0110】
心筋の構造を再生するために用いる遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を注入することにより、梗塞した心筋中のSDF−1の発現が増加する。増加したSDF−1発現は、梗塞した心筋中の、MSCおよび/またはMAPCの生存だけでなく、末梢血中の他の前駆細胞および幹細胞の、梗塞した心筋へのホーミングも促進する。
【0111】
心筋梗塞から約2日から3日後に、GCS−Fを約5日間患者に投与する。GCS−Fは、骨髄などの組織から、さらなる多能性前駆細胞または幹細胞を患者の血液供給へ動員する。心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞により発現したSDF−1および/またはCXCR4は、末梢血中のこれらの前駆細胞や幹細胞を、梗塞した心筋へ誘導する。心筋の構造を再生するために用いるMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞だけでなく、梗塞した心筋に誘導されて動員された前駆細胞や幹細胞も、心筋再生を促進し、左心室機能を実質的に増強することができる。
【0112】
これらの遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、主として急性心筋梗塞またはうっ血性心不全の治療用として記載したものであるが、本発明に係る遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、他の治療的応用法にも用いることができるということは理解されるであろう。例えば、本発明に係る遺伝的に改変されたMSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞は、骨髄移植と併せて肝細胞を再生させることで障害された肝臓組織を置換し肝機能を回復するため、化学療法および/または照射による骨髄除去後に骨髄を再生させるため、骨および/または軟骨再構成のため、筋障害(例えば、筋ジストロフィー)を矯正するため、等の目的に用いることができるだけでなく、組織を再生したり、MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞を典型的に利用するような、その他の治療的応用法に用いることもできる。
【実施例】
【0113】
以下、具体的な実施例により本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は説明を目的としたものであり、決して本発明の範囲や内容を制限するものではない。
【0114】
==CXCR4の発現のMSCのホーミング(homing)および生存率に与える効果==
CXCR4を発現するようMSCを遺伝的に改変することが、梗塞した心筋へのMSCのホーミングおよびその生存率に対して影響を与えるかどうかを確認するため、200万個の、MSCおよびCXCR4を発現するように遺伝的に改されたMSCを、左上行動脈の結紮により心筋梗塞を促進して1日後のラットに、静脈注入した。図2は、MSC、およびCXCR4を発現するように遺伝的に改変されたMSCを注入3日後の、梗塞域中における、MSCおよび遺伝的に改変されたMSCの単位面積当たりの数を示す。
【0115】
単位面積当たりの遺伝的に改変されたMSCの数は、遺伝的に改変されていないMSCより実質的に多かった。このことは、CXCR4を発現しているMSCが、遺伝的に改変されていないMSCと比較して、生存率もホーミングも向上したことを示している。
【0116】
==CXCR4:SDF−1軸は抗アポトーシス性である==
CXCR4またはSDF−1を発現するようMSCを遺伝的に改変することが、梗塞した心筋において、MSCに対し抗アポトーシス効果を発揮する(すなわち、MSCのアポトーシスを抑制するかまたは阻害する)かどうかを調べるため、MSC、およびCXCR4またはSDF−1をトランスフェクトしたMSCについて、AKTおよびリン酸化AKTに関するウエスタンブロット解析を行った。図3は、CXCR4またはSDF−1を発現するよう安定的にトランスフェクトしたラットMSCのAKTが、トランスフェクトしていないMSCのAKTと比較して、容易にリン酸化されたことを示す。AKTのリン酸化は、MSCのアポトーシスを阻害することが知られている。
【0117】
==SDF−1またはCXCR4の発現が、MSCのホーミングおよび生存率に与える効果==
CXCR4を発現するようMSCを遺伝的に改変することが、梗塞した心筋へのMSCのホーミングおよびその生存率に対して影響を与えるかどうかを評価するため、MSC、およびCXCR4またはSDF−1を発現するように遺伝的に改変されたMSCをそれぞれ、LAD結紮による心筋梗塞後の各ラット個体に静脈注入した。
【0118】
図4Aは、コントロールMSC、ならびにSDF−1およびCXCR4を発現しているMSCの注入3日後の各ラットの、梗塞域の代表的な切片を示す写真である。
図4Bは、注入3日後の、単位面積当たりの梗塞域中のコントロールMSCの数を、CXCR4またはSDF−1を発現するように遺伝的に改変されたMSCの数と比較したものである。
図4Aおよび4Bの両者から分かるように、単位面積当たりの遺伝的に改変されたMSCの数は、コントロールMSCの数より実質的により多かった。このことは、CXCR4またはSDF−1を発現しているMSCが、遺伝的に改変されていないMSCと比較して、生存率もホーミングも向上したことを示している。
【0119】
==SDF−1発現は、生存している心筋組織中のアポトーシスも減少させる==
コントロールMSC、およびSDF−1を発現しているMSCにより治療した、各ラットの梗塞域を調べた。
図5は、心筋梗塞4日後の各梗塞域の写真である。これらの写真は、SDF−1を発現しているMSCが、生存している心筋組織中のアポトーシスを減少させることを示している。
【0120】
==CXCR4またはSDF−1を発現するMSCが虚血性心筋症に与える効果==
CXCRを発現するようMSCを遺伝的に改変することが、梗塞した心筋へのMSCのホーミングおよびその生存率に対して影響を与えるかどうかを確認するため、MSC、およびCXCR4またはSDF−1をそれぞれ発現するように遺伝的に改変されたMSCを、LAD結紮による心筋梗塞1日後の各ラット個体に静脈注入した。
【0121】
図6は、生理食塩水、心繊維芽細胞、コントロールMSC、SDF−1発現MSC、およびCXCR4発現MSC、を投与した各ラットにおける、心筋梗塞14日後のLV機能の改善を比較したものである。SDF−1またはCXCR4を発現するMSCで治療した梗塞した心筋は、左室内径短縮率によって測定されるように、LV機能の実質的な増強を示した。コントロールMSC、心繊維芽細胞、および生理食塩水の投与、という各治療戦略間では、左室内径短縮率に観察されるような有意な差はみられなかった。
【0122】
本発明の以上の説明から、当業者であれば、改良、変更、および修正について理解するだろう。当該技術内におけるそのような改良、変更、および修正は、添付の請求の範囲によって包含されるように意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、本発明に従って、CXCR4およびSDF−1を過剰発現するように遺伝的に改変されたMSCおよび/またはMAPCおよび/またはその他の幹細胞を使用した、臨床戦略を示す概略ブロック図である。
【図2】図2は、ラットにMSCおよびCXCR4を発現するように遺伝的に改変されたMSCを注入して3日後の、梗塞域中における、MSCおよび遺伝的に改変されたMSCの単位面積当たりの数を示すグラフである。
【図3】図3は、CXCR4またはSDF−1を発現するよう安定的にトランスフェクトしたラットMSCのAKTが、トランスフェクトしていないMSCのAKTと比較して、容易にリン酸化されたことを示す、ウエスタンブロット解析である。
【図4A】図4Aは、コントロールMSC、およびSDF−1またはCXCR4を発現しているMSCを注入して3日後の、各ラットの梗塞域の代表的な切片を示す写真である。
【図4B】図4Bは、注入3日後の、梗塞域中における、単位面積当たりのコントロールMSCの数を、CXCR4またはSDF−1を発現するように遺伝的に改変されたMSCの数と比較するグラフである。
【図5】図5は、心筋梗塞4日後に、コントロールMSC、およびSDF−1を発現しているMSCで治療したラットの、各梗塞域の写真である。
【図6】図6は、生理食塩水、心繊維芽細胞、コントロールMSC、SDF−1発現MSC、およびCXCR4発現MSC、を投与した各ラットにおける、心筋梗塞14日後のLV機能の改善を示すグラフである。
【0124】
[配列表〕










【特許請求の範囲】
【請求項1】
CXCR4、SDF−1、またはそれらの変異体、の少なくとも1つを発現するように遺伝的に改変された、単離幹細胞。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはそれらの変異体、のうち少なくとも1つに対応するアミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチドを発現するように遺伝的に改変された、請求項1に記載の単離幹細胞。
【請求項3】
外因性遺伝物質で遺伝的に改変された、請求項1に記載の単離幹細胞であって、前記外因性遺伝物質が、CXCR4遺伝子、SDF−1遺伝子、またはそれらの変異体、の少なくとも一部分に対応する核酸を含むことを特徴とする、単離幹細胞。
【請求項4】
前記核酸が、配列番号3、配列番号4、配列番号8、配列番号9、またはそれらの変異体、のいずれかに対応することを特徴とする、請求項3に記載の単離幹細胞。
【請求項5】
間葉系幹細胞または多能性成体前駆細胞からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の単離幹細胞。
【請求項6】
CXCR4およびSDF−1の組み合わせ、または、SDF−1およびCXCR4の各々の変異体の組み合わせ、のいずれかを発現するように遺伝的に改変された、請求項1に記載の単離幹細胞。
【請求項7】
外因性遺伝物質をトランスフェクトされた単離幹細胞であって、前記外因性遺伝物質が、CXCR4遺伝子、SDF−1遺伝子、またはそれらの変異体、の少なくとも一部分に対応する核酸を含むことを特徴とする、単離幹細胞。
【請求項8】
前記核酸が、配列番号3、配列番号4、配列番号8、配列番号9、またはそれらの変異体、のいずれかに対応することを特徴とする、請求項7に記載の単離幹細胞。
【請求項9】
CXCR−4、SDF−1、またはそれらの変異体、のうち少なくとも1つを発現していることを特徴とする、請求項8に記載の単離幹細胞。
【請求項10】
配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはそれらの変異体、のうち少なくとも1つに対応するアミノ酸配列を有するタンパク質を発現していることを特徴とする、請求項9に記載の単離幹細胞。
【請求項11】
間葉系幹細胞または多能性成体前駆細胞からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の単離幹細胞。
【請求項12】
治療中の患者に幹細胞を投与する工程を含み、前記幹細胞が、CXCR4、SDF−1、またはそれらの変異体、のうち少なくとも1つを発現するように遺伝的に改変されていることを特徴とする、治療的応用法。
【請求項13】
前記幹細胞が、配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはそれらの変異体、のうち少なくとも1つに対応するアミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチドを発現していることを特徴とする、請求項12に記載の治療的応用法。
【請求項14】
心筋梗塞を治療するために使用される、請求項12に記載の治療的応用法であって、前記幹細胞を、梗塞した心筋組織に送達することにより、前記幹細胞を投与することを特徴とする、治療的応用法。
【請求項15】
前記幹細胞が、間葉系幹細胞または多能性成体前駆細胞のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項14の治療的応用法。
【請求項16】
前記幹細胞を、直接注射、静脈注入、および動脈注入、からなる群から選択される方法によって投与することを特徴とする、請求項15に記載の治療的応用法。
【請求項17】
治療中の患者へ動員剤を投与する工程を含み、前記動員剤が、治療中の患者の組織から末梢血までの他の幹細胞の動員を誘導することを特徴とする、請求項16に記載の治療的応用法。
【請求項18】
前記幹細胞を投与した後に前記動員剤を投与することを特徴とする、請求項17に記載の治療的応用法。
【請求項19】
前記動員剤が、顆粒球コロニー刺激因子を含むことを特徴とする、請求項17に記載の治療的応用法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−537752(P2007−537752A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527338(P2007−527338)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/017050
【国際公開番号】WO2005/116192
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(500205378)ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション (9)
【Fターム(参考)】