法面緑化工法
【課題】pHが4よりも低い強酸性の土壌で構成されている法面を緑化することが出来る緑化工法の提供。
【解決手段】法面に植生基盤材を吹き付ける法面緑化工法において、当該法面(F)はpH4未満の酸性土壌(Ga)であり、RF1_28Sの塩基配列(配列表参照)を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌(B2))を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する工程(S1、S2)を有している。
【解決手段】法面に植生基盤材を吹き付ける法面緑化工法において、当該法面(F)はpH4未満の酸性土壌(Ga)であり、RF1_28Sの塩基配列(配列表参照)を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌(B2))を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する工程(S1、S2)を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は法面緑化工法に関する。より詳細には、本発明は、酸性土壌が露出している法面に対する緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
法面緑化工事では、土壌、種子、肥料、接合材等を混合した植生基盤材を、例えば吹付工により施工領域である法面に被覆して、法面表面を植物が好適に生育する環境にして、植物を繁茂させることにより当該法面を安定化している。
ここで、施工領域である法面に露出する土壌(岩盤等を含む)のpHが4.0以下であると(強酸性土壌の場合には)、植物の根を傷つけてしまい、植物の生育そのものが困難となり、生育するべき植物が枯れてしまう等の不都合が多く発生する。
そのため、従来においては、係る強酸性土壌は、法面緑化工法を施工するには不適当であると考えられていた。
【0003】
強酸性土壌に対して、法面緑化工法を施工するためには、大別すると次の様な二通りの手法が存在する。
一つ目は物理的な対策であり、具体的には、モルタル吹付工などにより、強酸性土壌を遮蔽し、モルタルの上に植物生育基盤を造成する手法である。また、影響発生しない程度の厚みに、繊維質を包含する植物生育基盤を造成する手法も有効である。
これらの対策(上述した物理的な対策)は、強酸性土壌に法面緑化工法を施工するための根本的な対策となり得る。
しかし、その施工コストが高額となってしまうことが課題となっている。
【0004】
二つ目の対策として化学的な対策が存在する。例えば、石灰等のアルカリ資材によって、強酸性土壌を中和する手法である。ここで、当該アルカリ資材としては、消石灰、苦土石灰、炭酸カルシウム、軽量発泡コンクリート破砕材等が適用可能である。ただし、アルカリ資材の種類により、酸性土壌を中和する効果の発現時期や、中和効果の持続性は異なる。
また、緩衝作用の高い材料(タケ炭やゼオライト等)を配合することで、植物の生育障害を緩和する対策もある。
【0005】
しかし、これらの対策(上述した化学的対策)では、中和材の中和能力を超える酸性物質が存在する場合には、酸性土壌を中和することが出来ない。
また、酸性硫酸塩土壌の様に、空気に露出するまでは酸性ではないが、時間の経過と共に酸性化する土壌から成る法面においては、酸性化程度を予測して中和材を付与しなければならず、予測が外れた場合、中和材の過剰な投与によって土壌がアルカリ性となり、植物に悪影響を及ぼす恐れが存在する。
すなわち、従来技術では、コスト面の理由(経済的理由)と、長期的な土壌のpH変化に対応することが難しいという理由から、pH4以下の土壌(強酸性の土壌)を緑化することは困難である。
【0006】
その他の従来技術として、例えば、笹の根を絡ませたネットを法面に配置する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)では、緑化を行なう植物が笹に限定されているので、現地の植生を乱してしまう可能性がある。
また、笹の生育に適していない環境では、施工が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−68502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、pHが4よりも低い強酸性の土壌で構成されている法面を緑化することが出来る緑化工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、菌根菌(植物の根に共生する菌の一種)に着目した。
従来、pHが4よりも低い強酸性の土壌では、菌根菌と植物の根は共生できないと考えられていた。しかし、発明者の研究により、pHが4以下の土壌であっても、植物の根と共生できる菌根菌が存在することが明らかになった。
そして発明者は、その様な菌根菌を用いれば、強酸性土壌の法面に対して緑化工法を施工できることに想到した。
【0010】
本発明の法面緑化工法は、係る知見に基いて提案されたものであり、法面に植生基盤材を吹き付ける法面緑化工法において、当該法面(F)はpH4未満の酸性土壌(Ga)であり、RF1_28Sの塩基配列(配列表参照)を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌(B2))を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する工程(S1、S2)を有することを特徴としている。
【0011】
本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程(S1、S2)では、例えば、植生基盤材(A)と、中和材(B3)と、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を混合して、法面(F)に吹き付けるのが好ましい。
【0012】
また本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程(S11、S12)では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(例えば、微生物としてVA菌根菌B2を包含する微生物資材:M2)を法面(F)上に吹き付けて(S11)、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する層を形成し、当該層上に植生基盤材(A)と中和材(B3)の混合物(M3)を吹き付ける(S13)のが好ましい。
【0013】
さらに本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(M2)を生分解材料(D)で包囲した塊(M4)を法面(F)上に配置し(S21)、当該塊(M4)を配置した法面(F)に植生基盤材(A)と中和材(B3)の混合物(M3)を吹き付ける工程(S23)とを有するのが好ましい。
【0014】
そして本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程(S31〜S33)では、法面(F)の表面に排水材(30)を載置し(S31)、当該排水材(30)中にRF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(M2)および中和材(B3)を包含せしめ(S32)、当該排水材(30)上に植生基盤材(A)と中和材(B3)とRF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)の混合物(M1)を吹き付ける(S33)工程を有するのが好ましい。
【0015】
或いは本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程では、法面(F)の表面に排水材(30)を載置し、排水材(30)の上方または排水材(30)の近傍にRF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(M2)を生分解材料(D)で包囲した塊(M4)を配置して、当該塊(M4)を配置した法面(F)に植生基盤材(A)を吹き付ける工程を有するのが好ましい。
【0016】
これに加えて、本発明において、法面(F)の湧水を集水する部材(例えば、栗石、集水マット54)と湧水を排水する管状部材(例えば、有孔管、水抜きパイプ60等)を配置する工程(S51)を有し、
RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程では、湧水を集水する前記部材内にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材(54)を配置し(S52)、
前記集水部材(40、42、45)の上方に植生基盤材(A)を吹き付ける工程(S53)を有しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上述する構成を具備する本発明の法面緑化工法によれば、植物の根と共生できる菌根菌、すなわち、RF1_28Sの塩基配列(配列表参照)を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌)(B2)を包含する領域を法面(F)に形成しているため、pHが4未満の強酸性土壌(Ga)であっても、植物の種子が発芽すれば、その植物の根はRF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域(C)に必ず到達する。その際に、RF1_28Sの塩基配列を有する菌は植物の根に共生することが出来る。
そして、RF1_28Sの塩基配列を有する菌が植物の根に共生すれば、当該菌の性質により、共生している植物はpHが4未満の強酸性土壌においても枯死することなく、確実に成長して、繁茂することが出来る。そして、当該植物の根が絡まりあうことにより、法面の安定化が達成できる。
【0018】
ここで、施工法面における酸性土壌のpHにもよるが、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌)(B2)を用いれば、生育基盤材に中和材(B3)等の化学品や薬剤を添加しなくても、法面において植物は確実に生育する。そのため、本発明によれば、中和材(B3)等の化学品購入のためのコストを低減することが可能となる。
或いは、本発明によれば、中和材(B3)等の投入量を低減することが出来るので、中和材(B3)のアルカリ性に起因した障害を発生すること無く、植物が成長する。
【0019】
ここで、pH2.5以下の強酸性土壌の場合、当該菌根菌(RF1_28Sの塩基配列を有する菌:例えば耐酸性VA菌根菌)(B2)のみでは、植物が好適に生育しないことが有り得る。
その様な場合であっても、本発明において中和材(B3)を混合すれば、pH2.5以下の強酸性土壌であっても、中和材(B3)の中和作用によりpHは弱酸性側に改善される。その結果、耐酸性VA菌根菌(B2)の特性が好適に発揮され、植物は確実に成長し、繁茂し、植物の根が絡まりあうことにより法面が安定化する。
また、耐酸性VA菌根菌(B2)は、中和材を混合したアルカリ性環境下でも生存し、酸性土壌(Ga)内へ伸張する植物根に共生することができる。そのため、中和材(B3)を緑化基盤材(A)に混合しても、耐酸性VA菌根菌(B2)による作用効果を発現することが出来る。
【0020】
さらに、本発明によれば、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を用意すれば良く、その他には高価な材料や機器を必要としないので、施工コストを低く抑えることが可能である。
また、中和材により土壌を完全に中和しなくても、緑化のための植物が成長可能である。また、中和材が消失した後においても、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)の性質により植物が枯死することなく成長するので、緑化工法の施工直後から、長期間に亘って、植物が生長する効果を維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態における施工状態を示す説明図である。
【図2】第1実施形態を実施した法面の断面図である。
【図3】第1実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態を実施した法面の断面図である。
【図5】第2実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図6】第3実施形態を実施した法面の断面図である。
【図7】図6における符号M4の部分拡大図である。
【図8】第3実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図9】第4実施形態を実施した法面の断面図である。
【図10】第4実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図11】第5実施形態を実施中の法面を示す平面図である。
【図12】第5実施形態で、図11の工程の次の工程を示す平面図である。
【図13】第6実施形態を実施した法面の平面図である。
【図14】図13のX−X断面図である。
【図15】第7実施形態を実施した法面の平面図である。
【図16】図15のX1-X1断面図である。
【図17】図15のX2-X2断面図である。
【図18】第7実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図19】中和材及び微生物資材を併用した場合の作用効果を模式的に示す特性図である。
【図20】酸性硫酸塩土壌におけるpHの変化を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
先ず、図1〜図3に基づいて第1実施形態を説明する。
第1実施形態に係る法面緑化工法で用いられる施工機材としては、図1で示すように、吹付機1、エアコンプレッサ2、発電機3、分電盤4、水槽5、水中ポンプ6、第1のコンベア9、第2のコンベア10がある。
【0023】
発電機3と分電盤4とは電源ケーブル71で接続され、発電機3で発電した電力を分電盤4に送電している。分電盤4と水中ポンプ6及び吹付機1とは電源ケーブル72によって接続され、分電盤4から水中ポンプ6及び吹付機1に電力を供給している。
また、吹付機1と水中ポンプ6とは送水ホース8によって接続され、水中ポンプ6で水槽5に貯留した水を吸い込み、吸い込まれた水は、送水ホース11を経由して吹付機1に供給される。
【0024】
第1のコンベア9から吹付機1の材料投入口1iに、吹付用の材料が投入される。
第1のコンベア9に直接投入される吹付用の材料は、種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5である。
肥料B4は、種子B1が発芽した後の生育を促進させるために添加される。
接合材B5は、各吹付材を混合して法面Fに吹付けた際に、材料が法面Fに接着し易いように添加されている。
中和材B3としては、例えば、軽量発泡コンクリート破砕材を使用することが可能である。軽量発泡コンクリート破砕材はアルカリ性であり、酸性土壌や酸性の水を中和する作用を奏する。
【0025】
耐酸性VA菌根菌(本明細書では、「VA菌根菌」と記載する場合がある)B2は、塩基配列RF1_28Sを有する菌の一例であり、塩基配列RF1_28Sは配列表に示されている。
ここで、塩基配列RF1_28Sを有する菌である耐酸性VA菌根菌B2は、植物の根に共生している状態以外では休眠状態となっており、活動を休止した状態である。そのため、微生物資材として搬送、貯蔵されている状態では、耐酸性VA菌根菌B2は活動を休止している。このことは、図示の実施形態において共通している。
【0026】
第2のコンベア10には、バーク堆肥、ピートモス,パーライト,現地発生土、砂質土等の、基盤材(植生基盤材)Aが投入される。投入された基盤材Aは、上記吹付用の材料と共に、第1のコンベア9により搬送される。
ここで、基盤材Aは、第2のコンベア10から直接、吹付機1の材料投入口1iに投入しても良い。
吹付機1の材料投入口1iに投入された材料は、図示しない攪拌機によって均一に攪拌される。
【0027】
吹付機1には、吹付用ホース11が取り付けられている。
図1で示すように、施工対象の法面F上の作業員20が吹付用ホース11先端のノズル(図示を省略)を担持して、法面Fに向かって吹付材を吹き付ける。
図示の実施形態において、施工法面Fは、pHが4以下の土壌Gaによって構成されている。ただし、本発明の施工は、pHが4以下の土壌のみに限定されている訳ではない。
図1における符号Cは、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を示している。
【0028】
図2は、第1実施形態を実施した後の法面Fにおける断面を模式的に示している。
図2において、強酸性土壌Gaの法面Fには、吹付材料M1が厚み寸法Wで吹き付けられている。ここで、吹付材料M1は、植生基盤材Aに、種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5を混合した材料である。
ここで、吹付材料M1の厚みWは、1cm〜10cmの範囲である。これは、緑化工法に関する指針(「道路土工/切土工・斜面安定工指針(平成21年度版)」、平成21年6月、社団法人日本道路協会)に基づくものであり、酸性土壌においては5cm以上が好ましい。
後述する第2実施形態その他の図示の実施形態においても、植生基盤材Aを含む吹付層の厚みWは、上述した値(1cm〜10cmの範囲、好ましくは5cm以上)に設定されている。
【0029】
図3を参照して(図1も参照して)、第1実施形態の施工手順を説明する。
図3のステップS1で、例えば現地発生土にバーク堆肥を混ぜ合わせた植生基盤材Aを、第1のコンベア9及び/又は第2のコンベア10で、吹付機1の材料投入口1iに投入する。
次に、第1のコンベア9で、種子(例えば、メドハギの種子)B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5を、吹付機1の材料投入口1iに投入する。そして、先に投入した植生基盤材A及び水と混合する。
【0030】
吹付材料M1と植生基盤材Aと水とを混合した後、作業員20が、吹付機1に接続された吹付けホース11を担持する。そして、施工現場である法面F(強酸性土壌Gaからなる法面)に移動する。
ステップS2では、作業員20が、吹付機1内で種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3等と混合された植生基盤材Aを、ホース11先端の図示しないノズルから、法面Fに吹き付ける。
耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3等と混合された植生基盤材Aを施工対象法面F全域に吹き付ければ、第1実施形態に係る法面緑化工法の施工が完了する。
【0031】
第1実施形態によれば、RF1_28Sの塩基列を有する菌の一例である耐酸性VA菌根菌B2を包含する領域Cが法面Fに形成される。吹き付けた直後の状態では、耐酸性VA菌根菌B2は休止状態であるが、植物の根が領域Cに到達して、植物の根と耐酸性VA菌根菌B2とが共生すると、耐酸性VA菌根菌B2は活動する。そして、pHが4未満の強酸性土壌Gaであっても、耐酸性VA菌根菌B2の作用により、当該菌B2と共生している植物の根が損傷することはなく、植物は成長することが出来る。
そして、耐酸性VA菌根菌B2の作用により、pHが4未満の強酸性土壌環境下でも植物は成長するので、酸性強度の程度にもよるが、中和材B3等の化学的対策を施さなくても植物は枯死せず、良好に生育する。そして、法面緑化を促進することが出来る。
【0032】
pH2.5以下の強酸性土壌Gaの場合、耐酸性VA菌根菌B2の働きのみでは、植物生育が困難になる場合が存在する。
pH2.5以下の強酸性土壌Gaであっても、第1実施形態では中和材B3を混合しているので、中和材B3により強酸性土壌Gaの性状は塩基側に改善される。そのため、耐酸性VA菌根菌B2の働きにより、植物は良好に生育する。
【0033】
ここで、耐酸性VA菌根菌B2は、アルカリ性の緑化基盤材中でも生存可能であり、アルカリ性の緑化基盤材中であっても、植物の根と共生することが出来る。そして、植物の根が伸長して、アルカリ性の緑化基盤材を通過して酸性土壌Ga内へ到達した後には、耐酸性VA菌根菌B2の作用によって、当該植物の根は酸性土壌Ga内で伸張して、植物の生育及び緑化が推進される。
換言すれば、第1実施形態において、耐酸性VA菌根菌B2とアルカリ性の中和材B3を混合しても、耐酸性VA菌根菌B2の作用は発現する。
【0034】
そして、耐酸性VA菌根菌B2と併用する第1実施形態によれば、アルカリ性の中和材B3の投入量を削減することが可能である。
アルカリ性の中和材B3の投入量を削減すれば、pH8.1以上の植生基盤材の強アルカリ性に起因する各種障害が、成長するべき植物に発生してしまうことを抑制することが出来る。
【0035】
また、耐酸性VA菌根菌B2と中和材B3を併用するにより、施工直後は中和材B3が酸性土壌を中和する効果を発揮し、酸性土壌のpHを上昇して、植物が生長し易い環境に改善する効果を発揮する。その後は、耐酸性VA菌根菌B2が植物の根と共生し、当該植物の根が酸性土壌に到達した後には、酸性土壌中で根が損傷せずに植物が成長するという効果が発揮する。その際に、酸性土壌は中和材B3の作用により塩基側に改善されているので、耐酸性VA菌根菌B2が十分に働くことが出来る。
すなわち、第1実施形態によれば、植物の成長促進の効果が、施工直後から長期間に亘って発揮される。
【0036】
図19は、耐酸性VA菌根菌B2と中和材B3を併用した場合の効果を模式的に示している。図19において、点線は微生物資材B2の効果を示し、実線は中和材B3の効果を示している。
図19において、中和材B3の効果(化学的対策)は、時間の経過と共に徐々に弱くなる。しかし、植物の根と共生する耐酸性VA菌根菌B2は、時間の経過と共に、徐々にその効果が向上する。
図19からも、第1実施形態によれば、施工直後から、施工から長時間経過後に至るまで、植物の成長促進の効果が発揮されることが理解出来る。
【0037】
耐酸性VA菌根菌B2を利用した第1実施形態であれば、酸性硫酸塩土壌の緑化対策においても有効である。
酸性硫酸塩土壌は、主として第三紀、第四紀の地質時代に堆積した海成層であり、当初は中性ないしはアルカリ性を示す場合が多いが、そこに含まれるパイライト(FeS2)等の硫化物が化学的・微生物的酸化反応の進行に伴って硫酸を生じ、図20で示す様に時間の経過と共にpHが低下して、強酸性を呈する。
図20において、中和材B3のみを利用した通常の酸性土壌緑化対策は実線で示される。
中和材B3を使用しているため、中和材を使用しない場合の特性(図20の点線)に比較すれば明らかな様に、土壌のpHが生育可能域よりも施工時にアルカリ側(図20では上側)傾き植物が生育しない。
一方、耐酸性VA菌根菌B2を利用した第1実施形態であれば、中和材(B3)を混合しないもしくは混合しても少量の混合でよいため、施工時に強アルカリ側に傾く生育障害を回避できる。なお、耐酸性VA菌根菌B2は,図19のように,施工後の経過時間とともに効果を発揮するため,土壌のpHが生育可能域よりも酸性側(図20では下側)に傾いた場合でも,良好な生育が保証される。
【0038】
次に、図4、図5を参照して、第2実施形態を説明する。
図4、図5で示す第2実施形態は、使用される機器等については、図1〜図3で示す第1実施形態と同様であるが、吹付材料を法面Fへ吹き付けるタイミング、材料の混合の仕方、吹付方法が異なる。
図1〜図3の第1実施形態では、植生基盤材Aは、その他の投入材料(種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5)と混合されて、法面Fへ吹き付けられる。すなわち第1実施形態では、植生基盤材Aの吹付作業と、その他の投入材料(種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5)の吹付作業とは、同時に行われている。
それに対して、図4、図5の第2実施形態では、VA菌根菌B2を包含する微生物資材を法面Fへ吹き付ける作業と、植生基盤材Aと中和材B3等を混合した吹付材(VA菌根菌B2を包含しない吹付材)を吹き付ける作業とを、2段階に分けて実施している。
【0039】
図4において、第2実施形態で施工された法面Fには、VA菌根菌B2を包含する微生物資材M2を吹き付けて構成した層が設けられている。そして、微生物資材M2の層には、植生基盤材Aと中和材B3とを混合した吹付材料M3を積層している。
なお、この吹付材料M3には、種子B1、肥料B4、接合材B5(図1参照)が含まれている。
【0040】
図5を参照して(図1も参照して)、第2実施形態の施工手順を説明する。
先ず、図5のステップS11で、作業者20はホース11先端の図示しないノズルから、VA菌根菌B2を包含する微生物資材(VA菌根菌資材)M2を法面Fに吹き付ける。この状態では、VA菌根菌は休眠状態にあり、活動はしていない。
次のステップS12では、吹付機1内で植生基盤材Aと中和材B3とを混合する。なお、この中には種子B1、肥料B4、接合部材B5(図1参照)も含まれる。
ステップS13では、ステップS11と同様の要領で、作業者20がVA菌根菌を包含する微生物資材M2が吹き付けられている法面Fに、植生基盤材Aと中和材B3との混合材である吹付材M3が吹き付けられて、微生物資材M2の層上に積層される。
【0041】
ここで、上述した様に、VA菌根菌資材の状態では、VA菌根菌は休眠している。従って、吹付材M3が吹き付けられて、微生物資材M2の層上に積層された直後の状態では、VA菌根菌は活動していない。
第2実施形態の施工後、一定時間が経過して植物が発芽して、その植物の根がVA菌根菌資材を含んだ層(M2)に到達すれば、VA菌根菌B2は植物の根と共生することが出来て、活動状態になる。
図4、図5の第2実施形態において、上述した以外の構成及び作用効果については、図1〜図3の第1実施形態と同様である。
【0042】
次に、図6〜図8に基づいて、第3実施形態を説明する。
図6〜図8の第3実施形態も、第1実施形態、第2実施形態と同様な機器を使用するが、吹付材料を法面Fへ吹き付けるタイミングや、吹付方法が異なる。
図6において、法面Fには、VA菌根菌資材M2を生分解材料Dで包んだ塊M4が所定の間隔で配置されており、当該塊M4の上方に、植生基盤材Aと、種子B1、中和材B3、肥料B4、接合材B5との混合物M3が吹き付けられている。
塊M4は、図7で示されている様に、VA菌根菌B2が休眠した状態の資材M2を、生分解材料Dで包んで構成されている。
なお、塊M4の配置間隔は均一であることが好ましいが、極端に偏在していない限り、多少のバラツキが有っても構わない。
【0043】
図8を参照して、第3実施形態の施工手順を説明する。
先ず、ステップS21において、菌根菌資材M2(VA菌根菌B2は休眠した状態)を生分解材料Dで包んだ塊M4を作り、その塊M4を法面Fに撒布する。
次のステップS22では、吹付機1において植生基盤材Aと中和材B3等を混合して、植生基盤材Aと中和材B3等の混合材M3を製造する。
そして、最後のステップS23では、植生基盤材Aと中和材B3等の混合材M3(ステップS22で混合)を法面F上に吹き付けて、ステップS21で撒布された塊M4の上方に、混合材M3を積層する。
【0044】
VA菌資材を撒布した場合には、植物が発芽して、その根が菌資材に到達する以前の段階で、法面Fに沿って流れる(酸性の)水により、VA菌資材が全て流れ去ってしまう可能性がある。
これに対して、菌資材M2(VA菌根菌B2が休眠した状態)を生分解材料Dで包んだ塊M4を用いれば、時間の経過により生分解材料Dがするまで、法面Fを流れる水により菌資材M2流出する可能性が激減する。
そして、植物が発芽して、その根が塊M4に到達すれば、生分解材料Dを貫通して、内部の菌資材M2に接触することが出来るので、植物の根がVA菌根菌B2と共生することが出来る。
図6〜図8の第3実施形態において、上記以外の構成及び作用効果については、第1実施形態、第2実施形態と同様である。
【0045】
次に、図9、図10を参照して、本発明の第4実施形態を説明する。
図9、図10の第4実施形態で使用される機器は、第1実施形態〜第3実施形態と概略同様である。第4実施形態では、法面Fへの配置、吹付材料を法面Fへ吹き付けるタイミング、吹付方法が、第1実施形態〜第3実施形態とは異なっている。
図9において、排水材30が法面Fに配置されている。ここで、排水材30としては、アルカリ性の部材、例えば軽量発泡コンクリート破砕材を網状ネットに混入した排水材を用いるのが好ましい。本明細書においては、以下、排水材30を「軽量発泡コンクリート破砕材30」と記載する場合がある。
【0046】
配置された軽量発泡コンクリート破砕材30には、休眠状態のVA菌根菌B2を包含した菌資材M2が混合している。
菌資材M2が混合した軽量発泡コンクリート破砕材30には、混合物M1が吹き付けられて、積層している。
混合物M1は、植生基盤材Aと中和材B3とVA菌根菌B2の菌資材との混合物であり、第1実施形態における吹付材料M1と同等の組成である。ただし、混合物M1において、VA菌根菌B2の菌資材を省略することも可能である。
【0047】
図10を参照して、第4実施形態の施工手順を説明する。
先ず、ステップS31において、施工領域の法面Fに、軽量発泡コンクリート破砕材30を配置する。次のステップS32では、配置した軽量発泡コンクリート破砕材30に、VA菌資材M2を混入させる。
そして、ステップS33では、VA菌資材M2を混入した軽量発泡コンクリート破砕材30に、植生基盤材Aと、VA菌根菌B2菌資材、中和材B3等との混合物M1を吹き付けて、軽量発泡コンクリート破砕材30上に混合物M1を積層する。
【0048】
上述した第4実施形態では、軽量発泡コンクリート破砕材30の層を設けたので、雨水や湧水(酸性水)は軽量発泡コンクリート破砕材30の層内を流れる。酸性水が軽量発泡コンクリート破砕材30の層内を流れる際に、軽量発泡コンクリート破砕材30がアルカリ性であるために中和される。
ここで、植物の根は水の存在する方向に向かって伸びる性質がある。そのため、植生基盤材の植物の種子が発芽すれば、当該植物の根は、酸性水が中和された水が存在する軽量発泡コンクリート破砕材30の層に向かって伸びる。そして、当該植物の根が軽量発泡コンクリート破砕材30の層に到達すれば、軽量発泡コンクリート破砕材30の層内に存在する植物の根がVA菌資材M2と接触して、VA菌根菌B2と根とが共生する。
すなわち、第4実施形態によれば、軽量発泡コンクリート破砕材30にVA菌資材M2を混入したことにより、植生基盤材の植物の根がVA菌資材M2と接触する可能性が高くなり、VA菌根菌と共生することが確実に行なわれる。
【0049】
図9、図10の第4実施形態において、上記以外の構成及び作用効果については第1〜第3実施形態と同様である。
【0050】
図11、図12で示す第5実施形態は、第4実施形態を変形した実施形態である。
図9、図10の第4実施形態における排水材は、軽量発泡コンクリート破砕材30であった。
これに対して、図11、図12の第5実施形態は、排水材として、合成樹脂製の立体網状構造体35(例えば、新光ナイロン株式会社製の商品名「ヘチマロン」)に中和材(苦土石灰、炭酸カルシウム、軽量発泡コンクリート破砕材など)が混入されたものが用いられている。
【0051】
第4実施形態の施工に際しては、先ず、図11に示すように、合成樹脂製の立体網状構造体35を、施工領域の全面ではなく、帯状に所定幅Bの領域に配置する。図11において、合成樹脂製の立体網状構造体35を敷き詰めた帯状の領域の間隔が、符号Pで示されている。
そして図12で示すように、帯状に敷き詰められた立体網状構造体35に、VA菌資材M2を混入させる。
排水材の幅は30cm前後,配置間隔は1〜2mの場合が多いが,湧水程度により適時変更される。
そして、図9、図10で説明したように、混合物M1を吹き付けて、立体網状構造体35に混合物M1の層を積層する。この場合も、混合物M1からVA菌根菌B2の菌資材を省略することが可能である。
【0052】
図11、図12の第5実施形態において、上記以外の構成及び作用効果については、図9、図10の第4実施形態と同様である。
【0053】
図13、図14で示す第6実施形態も、第4実施形態の変形に係る実施形態である。
図9〜図12の第4実施形態、第5実施形態では、排水材として作用する材料(軽量発泡コンクリート破砕材30、合成樹脂製の立体網状構造体35)にVA菌資材M2を混入しており、混入の態様については、特に言及していない。
それに対して、図13、図14の第6実施形態では、図6〜図8の第3実施形態と同様に、VA菌根菌B2が休眠した状態の資材M2を生分解材料Dで包んだ塊M4を用いている。
【0054】
図13において、法面Fに排水材30が設置されており、その排水材30の上方或いは排水材30に沿った側方の位置に、塊M4を設置している。この塊M4は、VA菌根菌B2が休眠した状態の菌資材M2を、生分解材料Dで包んで構成されている。
そして、図14で示すように、塊M4に植生基盤材Aを吹き付けて、塊M4を植生基盤材Aの層で被覆している。
【0055】
排水材として作用する材料(軽量発泡コンクリート破砕材30、合成樹脂製の立体網状構造体35)にVA菌資材を混入したのみでは、植物が発芽して、その根が排水材内に到達する以前の段階で、排水材内を流れる(酸性の)水によってVA菌資材が全て流れ去ってしまう恐れが存在する。
これに対して、図13、図14で示すように、菌資材M2(VA菌根菌B2が休眠した状態)を生分解材料Dで包んだ塊M4を排水材30の上方或いは排水材30に沿った側方の位置に設置すれば、時間の経過により生分解材料Dがするまで、湧水や雨水等によって菌資材M2が流れ去ってしまうことはない。
そして、植物が発芽して、その根が排水材30に到達すれば、生分解材料Dを貫通して、内部の菌資材M2に接触することが出来るので、植物の根がVA菌根菌B2と共生することが出来る。
【0056】
図13、図14で示す第6実施形態における上記以外の構成及び作用効果については、図9〜図12の第4実施形態、第5実施形態と同様である。
【0057】
次に、図15〜図18に基づいて、第7実施形態を説明する。
図15〜図18の第7実施形態は、法面の緑化と、法面における湧水や雨水等の集水処理を同時に行なう実施形態である。
図15〜図17において、法面Fの湧水領域Gawには、有孔管により構成された暗渠50、52が配置されている。
暗渠50は、法面Fの上下方向(図15における上下方向)に延在する様に配置されており、主たる集水管として作用する暗渠である。
複数の暗渠52は、暗渠50に対して傾斜して合流しており、暗渠52で集水した湧水、雨水等を主たる集水管である暗渠50に集める機能を有している。
【0058】
図16、図17において、暗渠50、52の上方は、例えば集水マット54で被覆されている。
ここで、集水マット54には、中和材B3とVA菌根菌資材M2が配置、或いは混入されている。
図16において、主たる集水管である暗渠50の下端(法面Fの下端)には、水抜きパイプ60が接続されている。
暗渠50、52が設けられた湧水領域Gawの全域を覆うように、植生基盤材Aが吹き付けられて、集水マット54上に積層されている。
【0059】
図16で示すように、水抜きパイプ60の先端は、例えば道路脇に設けた側溝70の上縁近傍に開放されている。
側溝70に隣接し、水抜きパイプ60が設置される地表部面は、軽量発泡コンクリート80が打設してあり、水抜きパイプ60の地表面への埋没を防止している。
【0060】
図18を参照して、第4実施形態の施工手順について説明する。
ステップS51では、施工領域の法面Fに、集水部材である暗渠50、52を設置する。そして暗渠50の下端部を、水抜きパイプ60に接続する。
ステップS52では、暗渠50、52を、中和材B3とVA菌根菌B2の菌資材を混入した集水マット54で被覆する。
ステップS53では、暗渠50、52を設置した湧水領域Gawの上面に、種子B1、中和材B3、肥料B4、接合材B5を混合した植生基盤材Aを吹付機1で吹き付ける。
【0061】
上述した第7実施形態では、暗渠50、52に積層された集水マット54で湧水や雨水を集め、集めた湧水や雨水は主たる集水管である暗渠50を経由して、水抜きパイプ60から法面F下端の側溝70に排水できる。
水抜きパイプ60から側溝70に排出される湧水や雨水は、法面Fを構成する強酸性土壌に浸入した時点で酸性水となっているが、集水マット54を通過するときに内部に混合された中和材B3によって、中和される。
一方、集水マット54を被覆する植生基盤材Aからは植物が発芽すると、植物の根は水が存在する方向、すなわち集水マット54に向かって伸びる。そして、植物の根が集水マット54に到達すると、集水マット54に混入された菌資材と接触して、VA菌根菌B2と共生することができる。
図15〜図18の第7実施形態におけるその他の構成や作用効果については、図1〜図14の各実施形態と同様である。
【0062】
本発明者等は、第1実施形態に準じて、実験例1〜実験例4の四種類の実験を行った。
以下において、その実験例の各々について説明する。
【0063】
[実験例1]
実験例1では、3種の強酸の土壌に対して、耐酸性菌根菌(VA菌根菌)の有無による生育の違いを検証した。
実験にあたっては、pH3.3、pH3.6、pH4.0に調整した強酸性土壌Gaを、直径8cmのポットに5cmほどつめ、その上に耐酸性菌根菌(VA菌根菌)B2を散布したものと、しないものとをそれぞれ3ポット用意した。さらにその上に緑化基盤材(バーク堆肥とピートモスを8:2に混合したもの)Aを厚みが1cmとなるように敷き詰めた。
各資料の試験ポットには、メドハギを20粒播種し、生育を観察した。
【0064】
下表1に実験例1の結果を示す。
表1
【0065】
表1に示すように、耐酸性VA菌根菌B2を散布したポットは、地上部、地下部共に生育が良好であり、耐酸性VA菌根菌B2は、酸性土壌Gaの緑化資材として有用であることが確認できた。
【0066】
[実験例2]
実験例2は、耐酸性VA菌根菌B2の効果が発揮出来る限界の土壌pHを確認するための実験である。
1/5000aのワグネルポットにマサ土と希硫酸を混合し、pH1.8、pH2.5、pH3.5の強酸性土壌Gaを作った。この上に、耐酸性VA菌根菌胞子量を約2.0個/cm2の密度に散布した後、緑化基盤材(バーク堆肥とピートモスを8:2に混合したもの)Aを厚さが5cmとなるように敷き詰めた。
各資料の試験ポットには、メドハギを20粒播種したものと、クリーピングレッドフェスク(以下、「CRF」と記載)を30粒播種したものを用意し、生育を観察した。
【0067】
下表2に実験結果を示す。
表2
【0068】
表2に示すように、pH1.8の土壌では、耐酸性VA菌根菌と共生可能にせしめても、植物の生育効果は十分でないことが分かった。
メドハギの生育高は、pH3.5ではpH7.0より10%程度低いが、pH2.5では20%程度低い。そのため、pHが3.5以下の土壌については、別途中和材等を添加することにより、酸性の土壌を中和することが望ましいことが確認できた。
【0069】
[実験例3]
実験例3は、耐酸性VA菌根菌と中和材の併用による効果の確認実験である。
1/5000aのワグネルポットにマサ土に希硫酸を混合し、疑似酸性土pHpH2.5の強酸性土壌Gaを作った。この上に、耐酸性VA菌根菌胞子量を約2.0個/cm2の密度に散布した後、中和材B3を散布し、さらにその上に通常の緑化基盤材(バーク堆肥とピートモスが主成分)Aを厚み5cmとなるように敷き詰めた。
各資料の試験ポットには、メドハギを20粒播種したものを用意し、生育を観察した。
【0070】
下表3に実験結果を示す。
表3
【0071】
表3に示すように、耐酸性菌根菌B2と中和材B3とを併用すれば、メドハギの生育が最も良くなることが分かる。また、耐酸性菌根菌B2は散布していないが中和材B3を散布した場合と、耐酸性菌根菌B2は撒布したが中和材B3は散布していない場合とは、略々同等の生育高であった。しかし、耐酸性菌根菌B2及び中和材B3を散布した場合に比較すると、生育状態は悪かった。
実験例3から、耐酸性菌根菌B2と中和材B3とを併用することは問題がなく、植物の生育を促進させることが確認できた。
【0072】
[実験例4]
実験例4は、第1実施形態で用いた耐酸性VA菌根菌資材B2と、通常市販されているVA菌根菌資材とを、酸性土壌において、植物の生育について比較した実験である。
直径8cmの小型のポットに、pH2.1〜pH2.6の土壌から採取した酸性土壌Gaを詰め、耐酸性VA菌根菌B2の菌資材と、通常のVA菌根菌資材を100g/m2の割合で撒き、その上に法面用緑化基材Aを1cm覆土した。比較するため、VA菌根菌資材を撒布しないサンプルも用意し、それぞれの上部にクリーピングレッドフェスク(CRF)を30粒播種し、成立後10本にそろえた。
各試験サンプルは3ポットずつ用意し、施工後約2ヶ月観察を続けた。
【0073】
下表4に実験結果を示す。
表4
【0074】
耐酸性VA菌根菌B2を撒布したサンプルは、通常のVA菌根菌を撒布したサンプルや、菌根菌を撒布しないサンプルに比較して、1ヵ月後におけるCRFの生育が良好であった。
約2ヵ月後では、耐酸性VA菌根菌B2を撒布したサンプルは、通常のVA菌根菌を撒布したサンプルや、菌根菌を撒布しないサンプルに比較して、強酸性による植物への影響、枯死の被害が軽減されていることが分かる。
耐酸性VA菌根菌B2でも多少の被害が発生したのは、pH2.5を下回る酸性土壌を使用したためだと思われる。過去の実験においても、pH2.5を下回る酸性土壌の場合には、耐酸性VA菌根菌B2を散布した場合でも、植物の生育被害が起こることが確認できている。
また、実験例4によれば、耐酸性VA菌根菌を用いて植物を生育した場合には、通常のVA菌根菌を用いて植物を生育した場合よりも、強い耐性を発揮することが確認できた。
【0075】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
また、実験例1〜実験例4も、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0076】
1・・・吹付機
2・・・コンプレッサ
3・・・発電機
4・・・分電盤
5・・・水槽
6・・・水中ポンプ
9・・・第1のコンベア
11・・・吹付用ホース
20・・・作業者
30・・・排水材
50・・・暗渠
60・・・排水パイプ
A・・・植生基盤材
B1・・・種子
B2・・・耐酸性VA菌根菌/VA菌根菌
B3・・・中和材
F・・・法面
Ga・・・強酸性土壌
M1・・・植生基盤材と中和材と耐酸性VA菌根菌との混合物
M2・・・休眠した耐酸性VA菌根菌を包含する微生物資材
【技術分野】
【0001】
本発明は法面緑化工法に関する。より詳細には、本発明は、酸性土壌が露出している法面に対する緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
法面緑化工事では、土壌、種子、肥料、接合材等を混合した植生基盤材を、例えば吹付工により施工領域である法面に被覆して、法面表面を植物が好適に生育する環境にして、植物を繁茂させることにより当該法面を安定化している。
ここで、施工領域である法面に露出する土壌(岩盤等を含む)のpHが4.0以下であると(強酸性土壌の場合には)、植物の根を傷つけてしまい、植物の生育そのものが困難となり、生育するべき植物が枯れてしまう等の不都合が多く発生する。
そのため、従来においては、係る強酸性土壌は、法面緑化工法を施工するには不適当であると考えられていた。
【0003】
強酸性土壌に対して、法面緑化工法を施工するためには、大別すると次の様な二通りの手法が存在する。
一つ目は物理的な対策であり、具体的には、モルタル吹付工などにより、強酸性土壌を遮蔽し、モルタルの上に植物生育基盤を造成する手法である。また、影響発生しない程度の厚みに、繊維質を包含する植物生育基盤を造成する手法も有効である。
これらの対策(上述した物理的な対策)は、強酸性土壌に法面緑化工法を施工するための根本的な対策となり得る。
しかし、その施工コストが高額となってしまうことが課題となっている。
【0004】
二つ目の対策として化学的な対策が存在する。例えば、石灰等のアルカリ資材によって、強酸性土壌を中和する手法である。ここで、当該アルカリ資材としては、消石灰、苦土石灰、炭酸カルシウム、軽量発泡コンクリート破砕材等が適用可能である。ただし、アルカリ資材の種類により、酸性土壌を中和する効果の発現時期や、中和効果の持続性は異なる。
また、緩衝作用の高い材料(タケ炭やゼオライト等)を配合することで、植物の生育障害を緩和する対策もある。
【0005】
しかし、これらの対策(上述した化学的対策)では、中和材の中和能力を超える酸性物質が存在する場合には、酸性土壌を中和することが出来ない。
また、酸性硫酸塩土壌の様に、空気に露出するまでは酸性ではないが、時間の経過と共に酸性化する土壌から成る法面においては、酸性化程度を予測して中和材を付与しなければならず、予測が外れた場合、中和材の過剰な投与によって土壌がアルカリ性となり、植物に悪影響を及ぼす恐れが存在する。
すなわち、従来技術では、コスト面の理由(経済的理由)と、長期的な土壌のpH変化に対応することが難しいという理由から、pH4以下の土壌(強酸性の土壌)を緑化することは困難である。
【0006】
その他の従来技術として、例えば、笹の根を絡ませたネットを法面に配置する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)では、緑化を行なう植物が笹に限定されているので、現地の植生を乱してしまう可能性がある。
また、笹の生育に適していない環境では、施工が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−68502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、pHが4よりも低い強酸性の土壌で構成されている法面を緑化することが出来る緑化工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、菌根菌(植物の根に共生する菌の一種)に着目した。
従来、pHが4よりも低い強酸性の土壌では、菌根菌と植物の根は共生できないと考えられていた。しかし、発明者の研究により、pHが4以下の土壌であっても、植物の根と共生できる菌根菌が存在することが明らかになった。
そして発明者は、その様な菌根菌を用いれば、強酸性土壌の法面に対して緑化工法を施工できることに想到した。
【0010】
本発明の法面緑化工法は、係る知見に基いて提案されたものであり、法面に植生基盤材を吹き付ける法面緑化工法において、当該法面(F)はpH4未満の酸性土壌(Ga)であり、RF1_28Sの塩基配列(配列表参照)を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌(B2))を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する工程(S1、S2)を有することを特徴としている。
【0011】
本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程(S1、S2)では、例えば、植生基盤材(A)と、中和材(B3)と、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を混合して、法面(F)に吹き付けるのが好ましい。
【0012】
また本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程(S11、S12)では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(例えば、微生物としてVA菌根菌B2を包含する微生物資材:M2)を法面(F)上に吹き付けて(S11)、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する層を形成し、当該層上に植生基盤材(A)と中和材(B3)の混合物(M3)を吹き付ける(S13)のが好ましい。
【0013】
さらに本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(M2)を生分解材料(D)で包囲した塊(M4)を法面(F)上に配置し(S21)、当該塊(M4)を配置した法面(F)に植生基盤材(A)と中和材(B3)の混合物(M3)を吹き付ける工程(S23)とを有するのが好ましい。
【0014】
そして本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程(S31〜S33)では、法面(F)の表面に排水材(30)を載置し(S31)、当該排水材(30)中にRF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(M2)および中和材(B3)を包含せしめ(S32)、当該排水材(30)上に植生基盤材(A)と中和材(B3)とRF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)の混合物(M1)を吹き付ける(S33)工程を有するのが好ましい。
【0015】
或いは本発明において、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程では、法面(F)の表面に排水材(30)を載置し、排水材(30)の上方または排水材(30)の近傍にRF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)が休眠した状態の資材(M2)を生分解材料(D)で包囲した塊(M4)を配置して、当該塊(M4)を配置した法面(F)に植生基盤材(A)を吹き付ける工程を有するのが好ましい。
【0016】
これに加えて、本発明において、法面(F)の湧水を集水する部材(例えば、栗石、集水マット54)と湧水を排水する管状部材(例えば、有孔管、水抜きパイプ60等)を配置する工程(S51)を有し、
RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を包含する領域(C)を法面(F)上に形成する前記工程では、湧水を集水する前記部材内にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材(54)を配置し(S52)、
前記集水部材(40、42、45)の上方に植生基盤材(A)を吹き付ける工程(S53)を有しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上述する構成を具備する本発明の法面緑化工法によれば、植物の根と共生できる菌根菌、すなわち、RF1_28Sの塩基配列(配列表参照)を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌)(B2)を包含する領域を法面(F)に形成しているため、pHが4未満の強酸性土壌(Ga)であっても、植物の種子が発芽すれば、その植物の根はRF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域(C)に必ず到達する。その際に、RF1_28Sの塩基配列を有する菌は植物の根に共生することが出来る。
そして、RF1_28Sの塩基配列を有する菌が植物の根に共生すれば、当該菌の性質により、共生している植物はpHが4未満の強酸性土壌においても枯死することなく、確実に成長して、繁茂することが出来る。そして、当該植物の根が絡まりあうことにより、法面の安定化が達成できる。
【0018】
ここで、施工法面における酸性土壌のpHにもよるが、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(例えば、耐酸性VA菌根菌)(B2)を用いれば、生育基盤材に中和材(B3)等の化学品や薬剤を添加しなくても、法面において植物は確実に生育する。そのため、本発明によれば、中和材(B3)等の化学品購入のためのコストを低減することが可能となる。
或いは、本発明によれば、中和材(B3)等の投入量を低減することが出来るので、中和材(B3)のアルカリ性に起因した障害を発生すること無く、植物が成長する。
【0019】
ここで、pH2.5以下の強酸性土壌の場合、当該菌根菌(RF1_28Sの塩基配列を有する菌:例えば耐酸性VA菌根菌)(B2)のみでは、植物が好適に生育しないことが有り得る。
その様な場合であっても、本発明において中和材(B3)を混合すれば、pH2.5以下の強酸性土壌であっても、中和材(B3)の中和作用によりpHは弱酸性側に改善される。その結果、耐酸性VA菌根菌(B2)の特性が好適に発揮され、植物は確実に成長し、繁茂し、植物の根が絡まりあうことにより法面が安定化する。
また、耐酸性VA菌根菌(B2)は、中和材を混合したアルカリ性環境下でも生存し、酸性土壌(Ga)内へ伸張する植物根に共生することができる。そのため、中和材(B3)を緑化基盤材(A)に混合しても、耐酸性VA菌根菌(B2)による作用効果を発現することが出来る。
【0020】
さらに、本発明によれば、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)を用意すれば良く、その他には高価な材料や機器を必要としないので、施工コストを低く抑えることが可能である。
また、中和材により土壌を完全に中和しなくても、緑化のための植物が成長可能である。また、中和材が消失した後においても、RF1_28Sの塩基配列を有する菌(B2)の性質により植物が枯死することなく成長するので、緑化工法の施工直後から、長期間に亘って、植物が生長する効果を維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態における施工状態を示す説明図である。
【図2】第1実施形態を実施した法面の断面図である。
【図3】第1実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態を実施した法面の断面図である。
【図5】第2実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図6】第3実施形態を実施した法面の断面図である。
【図7】図6における符号M4の部分拡大図である。
【図8】第3実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図9】第4実施形態を実施した法面の断面図である。
【図10】第4実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図11】第5実施形態を実施中の法面を示す平面図である。
【図12】第5実施形態で、図11の工程の次の工程を示す平面図である。
【図13】第6実施形態を実施した法面の平面図である。
【図14】図13のX−X断面図である。
【図15】第7実施形態を実施した法面の平面図である。
【図16】図15のX1-X1断面図である。
【図17】図15のX2-X2断面図である。
【図18】第7実施形態の作業手順を示すフローチャートである。
【図19】中和材及び微生物資材を併用した場合の作用効果を模式的に示す特性図である。
【図20】酸性硫酸塩土壌におけるpHの変化を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
先ず、図1〜図3に基づいて第1実施形態を説明する。
第1実施形態に係る法面緑化工法で用いられる施工機材としては、図1で示すように、吹付機1、エアコンプレッサ2、発電機3、分電盤4、水槽5、水中ポンプ6、第1のコンベア9、第2のコンベア10がある。
【0023】
発電機3と分電盤4とは電源ケーブル71で接続され、発電機3で発電した電力を分電盤4に送電している。分電盤4と水中ポンプ6及び吹付機1とは電源ケーブル72によって接続され、分電盤4から水中ポンプ6及び吹付機1に電力を供給している。
また、吹付機1と水中ポンプ6とは送水ホース8によって接続され、水中ポンプ6で水槽5に貯留した水を吸い込み、吸い込まれた水は、送水ホース11を経由して吹付機1に供給される。
【0024】
第1のコンベア9から吹付機1の材料投入口1iに、吹付用の材料が投入される。
第1のコンベア9に直接投入される吹付用の材料は、種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5である。
肥料B4は、種子B1が発芽した後の生育を促進させるために添加される。
接合材B5は、各吹付材を混合して法面Fに吹付けた際に、材料が法面Fに接着し易いように添加されている。
中和材B3としては、例えば、軽量発泡コンクリート破砕材を使用することが可能である。軽量発泡コンクリート破砕材はアルカリ性であり、酸性土壌や酸性の水を中和する作用を奏する。
【0025】
耐酸性VA菌根菌(本明細書では、「VA菌根菌」と記載する場合がある)B2は、塩基配列RF1_28Sを有する菌の一例であり、塩基配列RF1_28Sは配列表に示されている。
ここで、塩基配列RF1_28Sを有する菌である耐酸性VA菌根菌B2は、植物の根に共生している状態以外では休眠状態となっており、活動を休止した状態である。そのため、微生物資材として搬送、貯蔵されている状態では、耐酸性VA菌根菌B2は活動を休止している。このことは、図示の実施形態において共通している。
【0026】
第2のコンベア10には、バーク堆肥、ピートモス,パーライト,現地発生土、砂質土等の、基盤材(植生基盤材)Aが投入される。投入された基盤材Aは、上記吹付用の材料と共に、第1のコンベア9により搬送される。
ここで、基盤材Aは、第2のコンベア10から直接、吹付機1の材料投入口1iに投入しても良い。
吹付機1の材料投入口1iに投入された材料は、図示しない攪拌機によって均一に攪拌される。
【0027】
吹付機1には、吹付用ホース11が取り付けられている。
図1で示すように、施工対象の法面F上の作業員20が吹付用ホース11先端のノズル(図示を省略)を担持して、法面Fに向かって吹付材を吹き付ける。
図示の実施形態において、施工法面Fは、pHが4以下の土壌Gaによって構成されている。ただし、本発明の施工は、pHが4以下の土壌のみに限定されている訳ではない。
図1における符号Cは、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を示している。
【0028】
図2は、第1実施形態を実施した後の法面Fにおける断面を模式的に示している。
図2において、強酸性土壌Gaの法面Fには、吹付材料M1が厚み寸法Wで吹き付けられている。ここで、吹付材料M1は、植生基盤材Aに、種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5を混合した材料である。
ここで、吹付材料M1の厚みWは、1cm〜10cmの範囲である。これは、緑化工法に関する指針(「道路土工/切土工・斜面安定工指針(平成21年度版)」、平成21年6月、社団法人日本道路協会)に基づくものであり、酸性土壌においては5cm以上が好ましい。
後述する第2実施形態その他の図示の実施形態においても、植生基盤材Aを含む吹付層の厚みWは、上述した値(1cm〜10cmの範囲、好ましくは5cm以上)に設定されている。
【0029】
図3を参照して(図1も参照して)、第1実施形態の施工手順を説明する。
図3のステップS1で、例えば現地発生土にバーク堆肥を混ぜ合わせた植生基盤材Aを、第1のコンベア9及び/又は第2のコンベア10で、吹付機1の材料投入口1iに投入する。
次に、第1のコンベア9で、種子(例えば、メドハギの種子)B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5を、吹付機1の材料投入口1iに投入する。そして、先に投入した植生基盤材A及び水と混合する。
【0030】
吹付材料M1と植生基盤材Aと水とを混合した後、作業員20が、吹付機1に接続された吹付けホース11を担持する。そして、施工現場である法面F(強酸性土壌Gaからなる法面)に移動する。
ステップS2では、作業員20が、吹付機1内で種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3等と混合された植生基盤材Aを、ホース11先端の図示しないノズルから、法面Fに吹き付ける。
耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3等と混合された植生基盤材Aを施工対象法面F全域に吹き付ければ、第1実施形態に係る法面緑化工法の施工が完了する。
【0031】
第1実施形態によれば、RF1_28Sの塩基列を有する菌の一例である耐酸性VA菌根菌B2を包含する領域Cが法面Fに形成される。吹き付けた直後の状態では、耐酸性VA菌根菌B2は休止状態であるが、植物の根が領域Cに到達して、植物の根と耐酸性VA菌根菌B2とが共生すると、耐酸性VA菌根菌B2は活動する。そして、pHが4未満の強酸性土壌Gaであっても、耐酸性VA菌根菌B2の作用により、当該菌B2と共生している植物の根が損傷することはなく、植物は成長することが出来る。
そして、耐酸性VA菌根菌B2の作用により、pHが4未満の強酸性土壌環境下でも植物は成長するので、酸性強度の程度にもよるが、中和材B3等の化学的対策を施さなくても植物は枯死せず、良好に生育する。そして、法面緑化を促進することが出来る。
【0032】
pH2.5以下の強酸性土壌Gaの場合、耐酸性VA菌根菌B2の働きのみでは、植物生育が困難になる場合が存在する。
pH2.5以下の強酸性土壌Gaであっても、第1実施形態では中和材B3を混合しているので、中和材B3により強酸性土壌Gaの性状は塩基側に改善される。そのため、耐酸性VA菌根菌B2の働きにより、植物は良好に生育する。
【0033】
ここで、耐酸性VA菌根菌B2は、アルカリ性の緑化基盤材中でも生存可能であり、アルカリ性の緑化基盤材中であっても、植物の根と共生することが出来る。そして、植物の根が伸長して、アルカリ性の緑化基盤材を通過して酸性土壌Ga内へ到達した後には、耐酸性VA菌根菌B2の作用によって、当該植物の根は酸性土壌Ga内で伸張して、植物の生育及び緑化が推進される。
換言すれば、第1実施形態において、耐酸性VA菌根菌B2とアルカリ性の中和材B3を混合しても、耐酸性VA菌根菌B2の作用は発現する。
【0034】
そして、耐酸性VA菌根菌B2と併用する第1実施形態によれば、アルカリ性の中和材B3の投入量を削減することが可能である。
アルカリ性の中和材B3の投入量を削減すれば、pH8.1以上の植生基盤材の強アルカリ性に起因する各種障害が、成長するべき植物に発生してしまうことを抑制することが出来る。
【0035】
また、耐酸性VA菌根菌B2と中和材B3を併用するにより、施工直後は中和材B3が酸性土壌を中和する効果を発揮し、酸性土壌のpHを上昇して、植物が生長し易い環境に改善する効果を発揮する。その後は、耐酸性VA菌根菌B2が植物の根と共生し、当該植物の根が酸性土壌に到達した後には、酸性土壌中で根が損傷せずに植物が成長するという効果が発揮する。その際に、酸性土壌は中和材B3の作用により塩基側に改善されているので、耐酸性VA菌根菌B2が十分に働くことが出来る。
すなわち、第1実施形態によれば、植物の成長促進の効果が、施工直後から長期間に亘って発揮される。
【0036】
図19は、耐酸性VA菌根菌B2と中和材B3を併用した場合の効果を模式的に示している。図19において、点線は微生物資材B2の効果を示し、実線は中和材B3の効果を示している。
図19において、中和材B3の効果(化学的対策)は、時間の経過と共に徐々に弱くなる。しかし、植物の根と共生する耐酸性VA菌根菌B2は、時間の経過と共に、徐々にその効果が向上する。
図19からも、第1実施形態によれば、施工直後から、施工から長時間経過後に至るまで、植物の成長促進の効果が発揮されることが理解出来る。
【0037】
耐酸性VA菌根菌B2を利用した第1実施形態であれば、酸性硫酸塩土壌の緑化対策においても有効である。
酸性硫酸塩土壌は、主として第三紀、第四紀の地質時代に堆積した海成層であり、当初は中性ないしはアルカリ性を示す場合が多いが、そこに含まれるパイライト(FeS2)等の硫化物が化学的・微生物的酸化反応の進行に伴って硫酸を生じ、図20で示す様に時間の経過と共にpHが低下して、強酸性を呈する。
図20において、中和材B3のみを利用した通常の酸性土壌緑化対策は実線で示される。
中和材B3を使用しているため、中和材を使用しない場合の特性(図20の点線)に比較すれば明らかな様に、土壌のpHが生育可能域よりも施工時にアルカリ側(図20では上側)傾き植物が生育しない。
一方、耐酸性VA菌根菌B2を利用した第1実施形態であれば、中和材(B3)を混合しないもしくは混合しても少量の混合でよいため、施工時に強アルカリ側に傾く生育障害を回避できる。なお、耐酸性VA菌根菌B2は,図19のように,施工後の経過時間とともに効果を発揮するため,土壌のpHが生育可能域よりも酸性側(図20では下側)に傾いた場合でも,良好な生育が保証される。
【0038】
次に、図4、図5を参照して、第2実施形態を説明する。
図4、図5で示す第2実施形態は、使用される機器等については、図1〜図3で示す第1実施形態と同様であるが、吹付材料を法面Fへ吹き付けるタイミング、材料の混合の仕方、吹付方法が異なる。
図1〜図3の第1実施形態では、植生基盤材Aは、その他の投入材料(種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5)と混合されて、法面Fへ吹き付けられる。すなわち第1実施形態では、植生基盤材Aの吹付作業と、その他の投入材料(種子B1、耐酸性VA菌根菌B2、中和材B3、肥料B4、接合材B5)の吹付作業とは、同時に行われている。
それに対して、図4、図5の第2実施形態では、VA菌根菌B2を包含する微生物資材を法面Fへ吹き付ける作業と、植生基盤材Aと中和材B3等を混合した吹付材(VA菌根菌B2を包含しない吹付材)を吹き付ける作業とを、2段階に分けて実施している。
【0039】
図4において、第2実施形態で施工された法面Fには、VA菌根菌B2を包含する微生物資材M2を吹き付けて構成した層が設けられている。そして、微生物資材M2の層には、植生基盤材Aと中和材B3とを混合した吹付材料M3を積層している。
なお、この吹付材料M3には、種子B1、肥料B4、接合材B5(図1参照)が含まれている。
【0040】
図5を参照して(図1も参照して)、第2実施形態の施工手順を説明する。
先ず、図5のステップS11で、作業者20はホース11先端の図示しないノズルから、VA菌根菌B2を包含する微生物資材(VA菌根菌資材)M2を法面Fに吹き付ける。この状態では、VA菌根菌は休眠状態にあり、活動はしていない。
次のステップS12では、吹付機1内で植生基盤材Aと中和材B3とを混合する。なお、この中には種子B1、肥料B4、接合部材B5(図1参照)も含まれる。
ステップS13では、ステップS11と同様の要領で、作業者20がVA菌根菌を包含する微生物資材M2が吹き付けられている法面Fに、植生基盤材Aと中和材B3との混合材である吹付材M3が吹き付けられて、微生物資材M2の層上に積層される。
【0041】
ここで、上述した様に、VA菌根菌資材の状態では、VA菌根菌は休眠している。従って、吹付材M3が吹き付けられて、微生物資材M2の層上に積層された直後の状態では、VA菌根菌は活動していない。
第2実施形態の施工後、一定時間が経過して植物が発芽して、その植物の根がVA菌根菌資材を含んだ層(M2)に到達すれば、VA菌根菌B2は植物の根と共生することが出来て、活動状態になる。
図4、図5の第2実施形態において、上述した以外の構成及び作用効果については、図1〜図3の第1実施形態と同様である。
【0042】
次に、図6〜図8に基づいて、第3実施形態を説明する。
図6〜図8の第3実施形態も、第1実施形態、第2実施形態と同様な機器を使用するが、吹付材料を法面Fへ吹き付けるタイミングや、吹付方法が異なる。
図6において、法面Fには、VA菌根菌資材M2を生分解材料Dで包んだ塊M4が所定の間隔で配置されており、当該塊M4の上方に、植生基盤材Aと、種子B1、中和材B3、肥料B4、接合材B5との混合物M3が吹き付けられている。
塊M4は、図7で示されている様に、VA菌根菌B2が休眠した状態の資材M2を、生分解材料Dで包んで構成されている。
なお、塊M4の配置間隔は均一であることが好ましいが、極端に偏在していない限り、多少のバラツキが有っても構わない。
【0043】
図8を参照して、第3実施形態の施工手順を説明する。
先ず、ステップS21において、菌根菌資材M2(VA菌根菌B2は休眠した状態)を生分解材料Dで包んだ塊M4を作り、その塊M4を法面Fに撒布する。
次のステップS22では、吹付機1において植生基盤材Aと中和材B3等を混合して、植生基盤材Aと中和材B3等の混合材M3を製造する。
そして、最後のステップS23では、植生基盤材Aと中和材B3等の混合材M3(ステップS22で混合)を法面F上に吹き付けて、ステップS21で撒布された塊M4の上方に、混合材M3を積層する。
【0044】
VA菌資材を撒布した場合には、植物が発芽して、その根が菌資材に到達する以前の段階で、法面Fに沿って流れる(酸性の)水により、VA菌資材が全て流れ去ってしまう可能性がある。
これに対して、菌資材M2(VA菌根菌B2が休眠した状態)を生分解材料Dで包んだ塊M4を用いれば、時間の経過により生分解材料Dがするまで、法面Fを流れる水により菌資材M2流出する可能性が激減する。
そして、植物が発芽して、その根が塊M4に到達すれば、生分解材料Dを貫通して、内部の菌資材M2に接触することが出来るので、植物の根がVA菌根菌B2と共生することが出来る。
図6〜図8の第3実施形態において、上記以外の構成及び作用効果については、第1実施形態、第2実施形態と同様である。
【0045】
次に、図9、図10を参照して、本発明の第4実施形態を説明する。
図9、図10の第4実施形態で使用される機器は、第1実施形態〜第3実施形態と概略同様である。第4実施形態では、法面Fへの配置、吹付材料を法面Fへ吹き付けるタイミング、吹付方法が、第1実施形態〜第3実施形態とは異なっている。
図9において、排水材30が法面Fに配置されている。ここで、排水材30としては、アルカリ性の部材、例えば軽量発泡コンクリート破砕材を網状ネットに混入した排水材を用いるのが好ましい。本明細書においては、以下、排水材30を「軽量発泡コンクリート破砕材30」と記載する場合がある。
【0046】
配置された軽量発泡コンクリート破砕材30には、休眠状態のVA菌根菌B2を包含した菌資材M2が混合している。
菌資材M2が混合した軽量発泡コンクリート破砕材30には、混合物M1が吹き付けられて、積層している。
混合物M1は、植生基盤材Aと中和材B3とVA菌根菌B2の菌資材との混合物であり、第1実施形態における吹付材料M1と同等の組成である。ただし、混合物M1において、VA菌根菌B2の菌資材を省略することも可能である。
【0047】
図10を参照して、第4実施形態の施工手順を説明する。
先ず、ステップS31において、施工領域の法面Fに、軽量発泡コンクリート破砕材30を配置する。次のステップS32では、配置した軽量発泡コンクリート破砕材30に、VA菌資材M2を混入させる。
そして、ステップS33では、VA菌資材M2を混入した軽量発泡コンクリート破砕材30に、植生基盤材Aと、VA菌根菌B2菌資材、中和材B3等との混合物M1を吹き付けて、軽量発泡コンクリート破砕材30上に混合物M1を積層する。
【0048】
上述した第4実施形態では、軽量発泡コンクリート破砕材30の層を設けたので、雨水や湧水(酸性水)は軽量発泡コンクリート破砕材30の層内を流れる。酸性水が軽量発泡コンクリート破砕材30の層内を流れる際に、軽量発泡コンクリート破砕材30がアルカリ性であるために中和される。
ここで、植物の根は水の存在する方向に向かって伸びる性質がある。そのため、植生基盤材の植物の種子が発芽すれば、当該植物の根は、酸性水が中和された水が存在する軽量発泡コンクリート破砕材30の層に向かって伸びる。そして、当該植物の根が軽量発泡コンクリート破砕材30の層に到達すれば、軽量発泡コンクリート破砕材30の層内に存在する植物の根がVA菌資材M2と接触して、VA菌根菌B2と根とが共生する。
すなわち、第4実施形態によれば、軽量発泡コンクリート破砕材30にVA菌資材M2を混入したことにより、植生基盤材の植物の根がVA菌資材M2と接触する可能性が高くなり、VA菌根菌と共生することが確実に行なわれる。
【0049】
図9、図10の第4実施形態において、上記以外の構成及び作用効果については第1〜第3実施形態と同様である。
【0050】
図11、図12で示す第5実施形態は、第4実施形態を変形した実施形態である。
図9、図10の第4実施形態における排水材は、軽量発泡コンクリート破砕材30であった。
これに対して、図11、図12の第5実施形態は、排水材として、合成樹脂製の立体網状構造体35(例えば、新光ナイロン株式会社製の商品名「ヘチマロン」)に中和材(苦土石灰、炭酸カルシウム、軽量発泡コンクリート破砕材など)が混入されたものが用いられている。
【0051】
第4実施形態の施工に際しては、先ず、図11に示すように、合成樹脂製の立体網状構造体35を、施工領域の全面ではなく、帯状に所定幅Bの領域に配置する。図11において、合成樹脂製の立体網状構造体35を敷き詰めた帯状の領域の間隔が、符号Pで示されている。
そして図12で示すように、帯状に敷き詰められた立体網状構造体35に、VA菌資材M2を混入させる。
排水材の幅は30cm前後,配置間隔は1〜2mの場合が多いが,湧水程度により適時変更される。
そして、図9、図10で説明したように、混合物M1を吹き付けて、立体網状構造体35に混合物M1の層を積層する。この場合も、混合物M1からVA菌根菌B2の菌資材を省略することが可能である。
【0052】
図11、図12の第5実施形態において、上記以外の構成及び作用効果については、図9、図10の第4実施形態と同様である。
【0053】
図13、図14で示す第6実施形態も、第4実施形態の変形に係る実施形態である。
図9〜図12の第4実施形態、第5実施形態では、排水材として作用する材料(軽量発泡コンクリート破砕材30、合成樹脂製の立体網状構造体35)にVA菌資材M2を混入しており、混入の態様については、特に言及していない。
それに対して、図13、図14の第6実施形態では、図6〜図8の第3実施形態と同様に、VA菌根菌B2が休眠した状態の資材M2を生分解材料Dで包んだ塊M4を用いている。
【0054】
図13において、法面Fに排水材30が設置されており、その排水材30の上方或いは排水材30に沿った側方の位置に、塊M4を設置している。この塊M4は、VA菌根菌B2が休眠した状態の菌資材M2を、生分解材料Dで包んで構成されている。
そして、図14で示すように、塊M4に植生基盤材Aを吹き付けて、塊M4を植生基盤材Aの層で被覆している。
【0055】
排水材として作用する材料(軽量発泡コンクリート破砕材30、合成樹脂製の立体網状構造体35)にVA菌資材を混入したのみでは、植物が発芽して、その根が排水材内に到達する以前の段階で、排水材内を流れる(酸性の)水によってVA菌資材が全て流れ去ってしまう恐れが存在する。
これに対して、図13、図14で示すように、菌資材M2(VA菌根菌B2が休眠した状態)を生分解材料Dで包んだ塊M4を排水材30の上方或いは排水材30に沿った側方の位置に設置すれば、時間の経過により生分解材料Dがするまで、湧水や雨水等によって菌資材M2が流れ去ってしまうことはない。
そして、植物が発芽して、その根が排水材30に到達すれば、生分解材料Dを貫通して、内部の菌資材M2に接触することが出来るので、植物の根がVA菌根菌B2と共生することが出来る。
【0056】
図13、図14で示す第6実施形態における上記以外の構成及び作用効果については、図9〜図12の第4実施形態、第5実施形態と同様である。
【0057】
次に、図15〜図18に基づいて、第7実施形態を説明する。
図15〜図18の第7実施形態は、法面の緑化と、法面における湧水や雨水等の集水処理を同時に行なう実施形態である。
図15〜図17において、法面Fの湧水領域Gawには、有孔管により構成された暗渠50、52が配置されている。
暗渠50は、法面Fの上下方向(図15における上下方向)に延在する様に配置されており、主たる集水管として作用する暗渠である。
複数の暗渠52は、暗渠50に対して傾斜して合流しており、暗渠52で集水した湧水、雨水等を主たる集水管である暗渠50に集める機能を有している。
【0058】
図16、図17において、暗渠50、52の上方は、例えば集水マット54で被覆されている。
ここで、集水マット54には、中和材B3とVA菌根菌資材M2が配置、或いは混入されている。
図16において、主たる集水管である暗渠50の下端(法面Fの下端)には、水抜きパイプ60が接続されている。
暗渠50、52が設けられた湧水領域Gawの全域を覆うように、植生基盤材Aが吹き付けられて、集水マット54上に積層されている。
【0059】
図16で示すように、水抜きパイプ60の先端は、例えば道路脇に設けた側溝70の上縁近傍に開放されている。
側溝70に隣接し、水抜きパイプ60が設置される地表部面は、軽量発泡コンクリート80が打設してあり、水抜きパイプ60の地表面への埋没を防止している。
【0060】
図18を参照して、第4実施形態の施工手順について説明する。
ステップS51では、施工領域の法面Fに、集水部材である暗渠50、52を設置する。そして暗渠50の下端部を、水抜きパイプ60に接続する。
ステップS52では、暗渠50、52を、中和材B3とVA菌根菌B2の菌資材を混入した集水マット54で被覆する。
ステップS53では、暗渠50、52を設置した湧水領域Gawの上面に、種子B1、中和材B3、肥料B4、接合材B5を混合した植生基盤材Aを吹付機1で吹き付ける。
【0061】
上述した第7実施形態では、暗渠50、52に積層された集水マット54で湧水や雨水を集め、集めた湧水や雨水は主たる集水管である暗渠50を経由して、水抜きパイプ60から法面F下端の側溝70に排水できる。
水抜きパイプ60から側溝70に排出される湧水や雨水は、法面Fを構成する強酸性土壌に浸入した時点で酸性水となっているが、集水マット54を通過するときに内部に混合された中和材B3によって、中和される。
一方、集水マット54を被覆する植生基盤材Aからは植物が発芽すると、植物の根は水が存在する方向、すなわち集水マット54に向かって伸びる。そして、植物の根が集水マット54に到達すると、集水マット54に混入された菌資材と接触して、VA菌根菌B2と共生することができる。
図15〜図18の第7実施形態におけるその他の構成や作用効果については、図1〜図14の各実施形態と同様である。
【0062】
本発明者等は、第1実施形態に準じて、実験例1〜実験例4の四種類の実験を行った。
以下において、その実験例の各々について説明する。
【0063】
[実験例1]
実験例1では、3種の強酸の土壌に対して、耐酸性菌根菌(VA菌根菌)の有無による生育の違いを検証した。
実験にあたっては、pH3.3、pH3.6、pH4.0に調整した強酸性土壌Gaを、直径8cmのポットに5cmほどつめ、その上に耐酸性菌根菌(VA菌根菌)B2を散布したものと、しないものとをそれぞれ3ポット用意した。さらにその上に緑化基盤材(バーク堆肥とピートモスを8:2に混合したもの)Aを厚みが1cmとなるように敷き詰めた。
各資料の試験ポットには、メドハギを20粒播種し、生育を観察した。
【0064】
下表1に実験例1の結果を示す。
表1
【0065】
表1に示すように、耐酸性VA菌根菌B2を散布したポットは、地上部、地下部共に生育が良好であり、耐酸性VA菌根菌B2は、酸性土壌Gaの緑化資材として有用であることが確認できた。
【0066】
[実験例2]
実験例2は、耐酸性VA菌根菌B2の効果が発揮出来る限界の土壌pHを確認するための実験である。
1/5000aのワグネルポットにマサ土と希硫酸を混合し、pH1.8、pH2.5、pH3.5の強酸性土壌Gaを作った。この上に、耐酸性VA菌根菌胞子量を約2.0個/cm2の密度に散布した後、緑化基盤材(バーク堆肥とピートモスを8:2に混合したもの)Aを厚さが5cmとなるように敷き詰めた。
各資料の試験ポットには、メドハギを20粒播種したものと、クリーピングレッドフェスク(以下、「CRF」と記載)を30粒播種したものを用意し、生育を観察した。
【0067】
下表2に実験結果を示す。
表2
【0068】
表2に示すように、pH1.8の土壌では、耐酸性VA菌根菌と共生可能にせしめても、植物の生育効果は十分でないことが分かった。
メドハギの生育高は、pH3.5ではpH7.0より10%程度低いが、pH2.5では20%程度低い。そのため、pHが3.5以下の土壌については、別途中和材等を添加することにより、酸性の土壌を中和することが望ましいことが確認できた。
【0069】
[実験例3]
実験例3は、耐酸性VA菌根菌と中和材の併用による効果の確認実験である。
1/5000aのワグネルポットにマサ土に希硫酸を混合し、疑似酸性土pHpH2.5の強酸性土壌Gaを作った。この上に、耐酸性VA菌根菌胞子量を約2.0個/cm2の密度に散布した後、中和材B3を散布し、さらにその上に通常の緑化基盤材(バーク堆肥とピートモスが主成分)Aを厚み5cmとなるように敷き詰めた。
各資料の試験ポットには、メドハギを20粒播種したものを用意し、生育を観察した。
【0070】
下表3に実験結果を示す。
表3
【0071】
表3に示すように、耐酸性菌根菌B2と中和材B3とを併用すれば、メドハギの生育が最も良くなることが分かる。また、耐酸性菌根菌B2は散布していないが中和材B3を散布した場合と、耐酸性菌根菌B2は撒布したが中和材B3は散布していない場合とは、略々同等の生育高であった。しかし、耐酸性菌根菌B2及び中和材B3を散布した場合に比較すると、生育状態は悪かった。
実験例3から、耐酸性菌根菌B2と中和材B3とを併用することは問題がなく、植物の生育を促進させることが確認できた。
【0072】
[実験例4]
実験例4は、第1実施形態で用いた耐酸性VA菌根菌資材B2と、通常市販されているVA菌根菌資材とを、酸性土壌において、植物の生育について比較した実験である。
直径8cmの小型のポットに、pH2.1〜pH2.6の土壌から採取した酸性土壌Gaを詰め、耐酸性VA菌根菌B2の菌資材と、通常のVA菌根菌資材を100g/m2の割合で撒き、その上に法面用緑化基材Aを1cm覆土した。比較するため、VA菌根菌資材を撒布しないサンプルも用意し、それぞれの上部にクリーピングレッドフェスク(CRF)を30粒播種し、成立後10本にそろえた。
各試験サンプルは3ポットずつ用意し、施工後約2ヶ月観察を続けた。
【0073】
下表4に実験結果を示す。
表4
【0074】
耐酸性VA菌根菌B2を撒布したサンプルは、通常のVA菌根菌を撒布したサンプルや、菌根菌を撒布しないサンプルに比較して、1ヵ月後におけるCRFの生育が良好であった。
約2ヵ月後では、耐酸性VA菌根菌B2を撒布したサンプルは、通常のVA菌根菌を撒布したサンプルや、菌根菌を撒布しないサンプルに比較して、強酸性による植物への影響、枯死の被害が軽減されていることが分かる。
耐酸性VA菌根菌B2でも多少の被害が発生したのは、pH2.5を下回る酸性土壌を使用したためだと思われる。過去の実験においても、pH2.5を下回る酸性土壌の場合には、耐酸性VA菌根菌B2を散布した場合でも、植物の生育被害が起こることが確認できている。
また、実験例4によれば、耐酸性VA菌根菌を用いて植物を生育した場合には、通常のVA菌根菌を用いて植物を生育した場合よりも、強い耐性を発揮することが確認できた。
【0075】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
また、実験例1〜実験例4も、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0076】
1・・・吹付機
2・・・コンプレッサ
3・・・発電機
4・・・分電盤
5・・・水槽
6・・・水中ポンプ
9・・・第1のコンベア
11・・・吹付用ホース
20・・・作業者
30・・・排水材
50・・・暗渠
60・・・排水パイプ
A・・・植生基盤材
B1・・・種子
B2・・・耐酸性VA菌根菌/VA菌根菌
B3・・・中和材
F・・・法面
Ga・・・強酸性土壌
M1・・・植生基盤材と中和材と耐酸性VA菌根菌との混合物
M2・・・休眠した耐酸性VA菌根菌を包含する微生物資材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に植生基盤材を吹き付ける法面緑化工法において、当該法面はpH4未満の酸性土壌であり、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する工程を有することを特徴とする法面緑化工法。
【請求項2】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を法面上に吹き付けて、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する層を形成し、当該層上に植生基盤材と中和材の混合物を吹き付ける請求項1の法面緑化工法。
【請求項3】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を生分解材料で包囲した塊を法面上に配置し、当該塊を配置した法面に植生基盤材と中和材の混合物を吹き付ける工程とを有する請求項1の法面緑化工法。
【請求項4】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、法面の表面に排水材を載置し、当該排水材中にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を包含せしめ、当該排水材上に植生基盤材と中和材とRF1_28Sの塩基配列を有する菌の混合物を吹き付ける工程を有する請求項1の法面緑化工法。
【請求項5】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、法面の表面に排水材を載置し、排水材の上方または排水材の近傍にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を生分解材料で包囲した塊を配置して、当該塊を配置した法面に植生基盤材を吹き付ける工程を有する請求項1の法面緑化工法。
【請求項6】
法面の湧水を集水する領域と湧水を排水する管状部材を配置する工程を有し、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、湧水を集水する前記領域内にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を配置し、前記集水する領域の上方に植生基盤材を吹き付ける工程を有している請求項1の法面緑化工法。
【請求項1】
法面に植生基盤材を吹き付ける法面緑化工法において、当該法面はpH4未満の酸性土壌であり、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する工程を有することを特徴とする法面緑化工法。
【請求項2】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を法面上に吹き付けて、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する層を形成し、当該層上に植生基盤材と中和材の混合物を吹き付ける請求項1の法面緑化工法。
【請求項3】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、RF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を生分解材料で包囲した塊を法面上に配置し、当該塊を配置した法面に植生基盤材と中和材の混合物を吹き付ける工程とを有する請求項1の法面緑化工法。
【請求項4】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、法面の表面に排水材を載置し、当該排水材中にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を包含せしめ、当該排水材上に植生基盤材と中和材とRF1_28Sの塩基配列を有する菌の混合物を吹き付ける工程を有する請求項1の法面緑化工法。
【請求項5】
RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、法面の表面に排水材を載置し、排水材の上方または排水材の近傍にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を生分解材料で包囲した塊を配置して、当該塊を配置した法面に植生基盤材を吹き付ける工程を有する請求項1の法面緑化工法。
【請求項6】
法面の湧水を集水する領域と湧水を排水する管状部材を配置する工程を有し、RF1_28Sの塩基配列を有する菌を包含する領域を法面上に形成する前記工程では、湧水を集水する前記領域内にRF1_28Sの塩基配列を有する菌が休眠した状態の資材を配置し、前記集水する領域の上方に植生基盤材を吹き付ける工程を有している請求項1の法面緑化工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−250729(P2011−250729A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125861(P2010−125861)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
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