説明

法面緑化構造

【課題】施工が容易で、優れた安定性と透水性・保水性を有し、雑草が繁茂し難く、表層面上を容易かつ安全に歩行することもできる法面緑化構造を提供する。
【解決手段】法面緑化構造1は、土質材、セメント系固化剤、団粒化剤及び水の混練物を、河川堤防8を構成する地盤2の法面2aに打設して形成された表層3と、法面2aの勾配方向Bと交差する水平方向に沿って延設された複数列の溝部4と、これらの溝部4内に植物5aを植栽することによって形成された緑化領域5と、を備えている。複数列の溝部4は、法面2aの勾配方向Bに間隔をおいて設けられ、これらの溝部4内にそれぞれ植物5aを植栽することにより溝部4の長手方向(水平方向)に連続的に延びるベルト状の緑化領域5が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の堤防や山間部の傾斜面などの浸食、崩壊を防止するとともに緑化を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
河川の堤防や盛土の斜面あるいは山間部における木材伐採後・林道造成後の傾斜面などの法面は、裸地状態のまま放置すると、雨水や風雪などによって容易に浸食され、土石流や泥流などの災害を発生するおそれがあるため、従来、法面にモルタルを吹き付けて安定化させるモルタル吹き付け工法が施工されていた。
【0003】
ところが、モルタル吹き付け工法は、施工後、法面の表層に形成された灰白色のモルタル面が際立って目立つため、樹木類の多い観光地や草花が生育する河川地域などにおいては、周辺の景観を著しく悪化させる。また、モルタル吹き付け後の法面には、二酸化炭素を吸収し光合成によって酸素を生成する植物が生育しないので、近年高まっている地球温暖化防止の要請にも反する。そこで、法面の安定化及び緑化の両方を実現することを目的とした法面緑化技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−47330号公報
【特許文献2】特開2000−73370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2記載の法面緑化技術は、地盤の法面を安定化するとともに緑化を図ることができるが、地盤の法面上に形成される表層や植生部分が複雑な構造であるため、施工が容易でなく、施工後の表層に雑草が繁茂する可能性も高い。また、施工後の表層面上を人間が上り下りするとき、歩き難い。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、施工が容易で、優れた安定性と透水性・保水性を有し、雑草が繁茂し難く、表層面上を容易かつ安全に歩行することもできる法面緑化構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の法面緑化構造は、土質材、セメント系固化剤、団粒化剤及び水の混練物を地盤の法面に打設して形成された表層と、前記法面の勾配方向と交差する方向に沿って延設された溝部と、前記溝部内に植物を植栽することによって形成されたベルト状の緑化領域と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
このような構成とすれば、セメント系固化剤の固化作用によって地盤の法面上に形成された表層はアスファルト舗装程度に硬く、施工後、溝部内に植栽された植物の根が地盤中深く張ることによって表層が法面に固着された状態となるため、安定性に優れている。また、その表層の表面に雑草の種子が飛来しても活着し難く、地盤中に存在する雑草種子の発芽も硬質の表層によって遮られるので、雑草の繁茂を防止することができる。
【0009】
また、前記混練物を打設した直後で固化前の表層中においては、団粒化剤に含まれるイオンの作用により土質材とセメント系固化剤の粒子とが立体的な団粒構造を形成し、この団粒構造中に連続した空隙が発生するため、固化後の表層は透水性と保水性とをバランス良く兼備し、通気性も良好となる。従って、溝部内に植栽された植物の生育に好適な状態が形成され、表層下方の地盤中の生物や細菌類に悪影響を及ぼすことがなく、周囲の自然環境とも調和する。
【0010】
さらに、土質材、セメント系固化剤、団粒化剤及び水を混ぜ合わせた混練物を地盤法面上に打設して形成した表層に溝部を設け、溝部内に植物を植栽するだけで、緑化法面構造を構築できるので、施工が容易である。また、固化後の表層の表面には、前述した団粒構造に基づく適度の凹凸が形成されるので足が滑り難く、溝部内に植栽された植物が足掛かりとなるので、表層の表面上を容易かつ安全に歩行することができる。
【0011】
ここで、前記法面の勾配方向に間隔をおいて複数列の前記溝部を設ければ、足掛かりとなる領域が間隔をおいて複数形成された状態となるため、歩行し易さ及び歩行中の安全性がさらに向上する。
【0012】
一方、前記団粒化剤が、アクリル酸・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物のマグネシウム塩とポリエチレンイミンとの複合体からなる高分子化合物を含むものであることが望ましい。このような団粒化剤を使用すれば、前記混練物の固化中に強固な団粒構造が形成されるので、透水性と保水性とをバランス良く兼備し、通気性が良好で、強度と耐久性に優れた表層を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、施工が容易で、優れた安定性と透水性・保水性を有し、雑草が繁茂し難く、表層面上を容易かつ安全に歩行することもできる法面緑化構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である法面緑化構造を示す垂直断面図である。
【図2】図1における矢印X方向から見た図である。
【図3】図1に示す法面緑化構造を構成する表層の素材である混練物の製造工程を示す図である。
【図4】図1に示す法面緑化構造の施工手順を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1,図2に示すように、本実施形態の法面緑化構造1は、後述する図3に示す土質材10、セメント系固化剤11、団粒化剤14及び水の混練物15を、河川堤防8を構成する地盤2の法面2aに打設して形成された表層3と、法面2aの勾配方向Bと交差する水平方向Hに沿って延設された複数列の溝部4と、これらの溝部4内に植物5aを植栽することによって形成された緑化領域5と、を備えている。複数列の溝部4は、法面2aの勾配方向Bに間隔をおいて設けられ、これらの溝部4内にそれぞれ植物5aを植栽することにより溝部4の長手方向(水平方向R)に連続的に延びるベルト状の緑化領域5が形成されている。本実施形態においては、2列の溝部4内にそれぞれ植物5aを植栽することにより2列の緑化領域5を形成しているが、溝部4及び緑化領域5の列数や幅、長さなどは限定しないので、施工条件に応じて設定することができる。
【0016】
ここで、図3,図4に基づいて、法面緑化構造1の施工手順について説明する。図3に示すように、土質材10及びセメント系固化剤11をミキサ12に投入して、十分に撹拌、混合する。ミキサ12は、モータ13などを動力源とする撹拌混合機能を有するものを用いることができる。土質材10としては、真砂土、シラス、焼却灰あるいは当該法面緑化構造1の施工予定現場である地盤2から採取した土砂などを使用することができる。なお、土質材10の代わりに、若しくは土質材10と併せて、瓦の廃材、ガラスの廃材あるいは溶融スラグの粉砕物を使用することもできる。
【0017】
土質材10とセメント系固化剤11とが均一に混合されたら、アクリル酸・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物のマグネシウム塩とポリエチレンイミンとの複合体からなる高分子化合物を含む団粒化剤14及び水を添加し、さらに撹拌、混練することによって混練物15を形成する。なお、撹拌混合手段は限定しないので、前述したミキサ12の代わりにバックホウを用いて混合することもできる。
【0018】
本実施形態において、混練物15を構成する各成分の混合比率は次の通りであるが、これに限定するものではない。
土質材10:1000kg〜1500kg
セメント系固化剤11:100kg〜200kg
団粒化剤14:1リットル〜10リットル
水:適量(混練物15の流動性や固さなどを確認しながら添加量を調整する。)
【0019】
一方、図4(a)に示すように、施工現場の地盤2の法面2aに、その勾配方向Bと交差する水平方向H(図2参照)に沿って複数列の溝部4を形成し、これらの溝部4内にそれぞれ型枠材6を装入する。溝部4及び型枠材6の垂直断面形状はいずれも四角形状であるが、型枠材6の奥行き6aは、溝部4の深さ4aより大であるため、溝部4内に装入された型枠材6の上面6b側の一部が法面2aから突出した状態となる。
【0020】
次に、図3に示す混練工程で得られた混練物15を、図4(b)に示すように、地盤2の法面2a上に打設して表層3を形成する。混練物15を打設する工法は限定しないが、例えば、モルタル吹き付け用ポンプ(図示せず)に接続されたモルタル吹き付けガン7を用いて施工することができる。本実施形態では、型枠材6の上面6bと、表層3の表面3aとが略同一面をなす程度まで混練物15を打設しているが、これに限定するものではないので、混練物15の打設量を増減させることにより表層3の厚さを調整することができる。
【0021】
混練物15の打設後、15時間程度養生して表層3が十分に固化したら、図4(c)に示すように、型枠材6を表層3から離脱させ、表層3の表面3aに開口した状態となった溝部4内に植物5aの苗5bを植え込む。この後、日数が経過すると、植物5aが溝部4内にて生育していき、やがて図2に示すように、ベルト状に連続した緑化領域5が形成され、法面緑化構造1が完成する。
【0022】
図1に示すように、法面緑化構造1においては、セメント系固化剤11の固化作用によって地盤2の法面2a上に形成された表層3はアスファルト舗装程度に硬く、施工後、溝部4内に植栽された植物5aの根5cが地盤2中深く張ることよって表層3が法面2aに固着された状態となるため、安定性に優れている。また、その表層3の表面3aに雑草の種子が飛来しても活着し難く、地盤2中に存在する雑草種子の発芽も硬質の表層3によって遮られるので、雑草の繁茂を防止することができる。
【0023】
また、図4(b)に示すように、混練物15を打設した直後で固化前の表層3中においては、団粒化剤14(図3参照)に含まれるイオンの作用により土質材10とセメント系固化剤11の粒子とが立体的な団粒構造を形成し、この団粒構造中に連続した空隙が発生するため、固化後の表層3は透水性と保水性とをバランス良く兼備し、通気性も良好となる。従って、溝部4内に植栽された植物5aの生育に好適な状態が形成され、表層3下方の地盤2中の生物や細菌類に悪影響を及ぼすことがなく、周囲の自然環境とも調和する。
【0024】
さらに、土質材10、セメント系固化剤11、団粒化剤14及び水を混ぜ合わせた混練物15を地盤2の法面2a上に打設して形成した表層3に溝部4を設け、溝部4内に植物5aの苗5bを植栽するだけで、緑化法面構造10を構築することができるので、施工は容易である。また、固化後の表層3の表面3aには、前述した団粒構造に基づく適度の凹凸が形成されるので足が滑り難く、溝部4内に植栽された植物5aが歩行者の足掛かりとなるので、表層3の表面3a上を容易かつ安全に歩行することができる。
【0025】
また、法面緑化構造1では、法面2aの勾配方向Bに間隔をおいて複数列の溝部4を設けたことにより、足掛かりとなる緑化領域5が間隔をおいて複数列形成されるため、歩行し易さ及び歩行中の安全性の確保に有効である。さらに、図1,図2に示すように、略水平方向にベルト状に連続した複数列の緑化領域5が存在することにより、表層3の表面3aに沿って流れる雨水などに伴って表面3a上を流れ落ちる土砂は、各緑化領域5にとどまるため、表層3の表面3aの最下部分に土砂が溜まるのを防止することができる。
【0026】
一方、団粒化剤14として、アクリル酸・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物のマグネシウム塩とポリエチレンイミンとの複合体からなる高分子化合物を含むものを使用したことにより、混練物15の固化中に強固な団粒構造が形成されるので、表層3は透水性と保水性とをバランス良く兼備し、通気性が良好で、強度及び耐久性に優れている。
【0027】
なお、溝部4や緑化領域5の形成方法は、図4に示す工法に限定しないので、他の工法、例えば、地盤の法面上に打設された混練物が硬化する前にベルト状に植物を植えたり、植物種子を蒔いたりする方法、固化した後の表層に形成された水平方向Hの溝部内に植物苗を植えたり、植物種子を蒔いたりする方法などを採用することもできる。また、図1に示す植物5aの種類についても限定しないが、例えば、クラピア、イワダレソウ、芝などの地被植物類が好適である。
【0028】
なお、本実施形態において、溝部4は、法面2aの勾配方向Bと交差する水平方向Hに沿って直線状に形成しているが、これに限定しないので、法面2aの勾配方向Bと交差する方向に沿って波形状、山谷形状あるいは不規則なジグザグを描くような連続的な溝部を形成して、植物を植栽することにより、全体的に見ると略水平方向に延びた形態をなす緑化領域を形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の法面緑化構造は、河川の堤防や盛土の斜面あるいは山間部における木材伐採後・林道造成後の傾斜面などの法面の緑化技術として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 法面緑化構造
2 地盤
2a 法面
3 表層
3a 表面
4 溝部
4a 深さ
5 緑化領域
5a 植物
5b 苗
5c 根
6 型枠材
6a 奥行き
6b 上面
7 モルタル吹き付けガン
8 河川堤防
10 土質材
11 セメント系固化剤
12 ミキサ
13 モータ
14 団粒化剤
15 混練物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土質材、セメント系固化剤、団粒化剤及び水の混練物を地盤の法面に打設して形成された表層と、前記法面の勾配方向と交差する方向に沿って延設された溝部と、前記溝部内に植物を植栽することによって形成されたベルト状の緑化領域と、を備えたことを特徴とする法面緑化構造。
【請求項2】
前記法面の勾配方向に間隔をおいて複数列の前記溝部を設けたことを特徴とする請求項1記載の法面緑化構造。
【請求項3】
前記団粒化剤が、アクリル酸・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物のマグネシウム塩とポリエチレンイミンとの複合体からなる高分子化合物を含むものであることを特徴とする請求項1または2記載の法面緑化構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12786(P2012−12786A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147861(P2010−147861)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(500305380)株式会社シーマコンサルタント (30)
【出願人】(510225498)株式会社尋木組 (1)
【Fターム(参考)】