説明

波形スプロケットの製造方法

【課題】簡単な構成で歯底半径の変動を抑制でき、しかもスプロケットにおけるチェーンのローラとの噛合面が、スプロケットの回転中心線と平行な円弧面になるように調整して、スプロケットやローラの偏磨耗を防止し得る波形スプロケットの製造方法を提供する。
【解決手段】円板状の素材金属板30Bの外周部にスプロケット歯3を形成する歯成形工程と、スプロケット歯3を形成した素材金属板30Cの外周部に、周方向に沿って表裏に交互に突出する波形部2を、該波形部2の波の頂部の外端部にスプロケット歯3が配置されるようにプレス成形する外周波付工程とを備え、外周波付工程において、波形部2をプレス成形する際に、スプロケット歯3を形成した素材金属板30Cのうちの、スプロケット歯3の歯先と波形スプロケット1の回転中心間の途中部を挟持しながら、波形部2をプレス成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻掛伝動装置のスプロケットの製造方法に関し、特に周方向に沿って表裏に交互に突出する波形部を外周部に形成した波形スプロケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動二輪車や自転車或いは種々の産業機械の動力伝達系において、チェーンとスプロケットとを用いた巻掛伝動装置が広く採用されている。また、チェーン及びスプロケットの形状やサイズに関しては、JIS規格のJISB1801、JISB1802に夫々規定されている。
【0003】
前記スプロケットにおいては、素材の使用量を少なくしてその製作コストを安価にするためや、自動二輪車等においては、車体重量の軽減や、加速時における応答性などの改善のため、所定の配列で複数の軽減孔を形成し、スプロケットの重量を軽減したものも実用化されている。また、自動二輪車の後輪側に設けられるスプロケットは、外部に露出させることも多く、軽減孔の形状により自動二輪車の外観、意匠が大きく左右されるので、軽減孔の形状やサイズに関しても多数の提案がなされている。
【0004】
また、自動二輪車用のスプロケットとして、更なる軽量化を図るため、スプロケットを構成するスプロケット金属板の厚さが、スプロケットに噛み合うチェーンの平行な内プレートの間隔巾よりも薄く、かつスプロケット金属板の外周部が周方向に沿って表裏に交互に突出する波型形状とされ、スプロケット歯が該波型形状の波の頂部の外端部に形成され、該スプロケット歯がチェーンに適正に噛み合うように、スプロケット歯における波型形状の厚さがチェーンの平行な内プレートの間隔巾に整合するように構成され、スプロケット金属板の板厚が従来のスプロケットの1/2に設定された、チェーンに対してガタなく円滑に噛合する波形スプロケットも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−110806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1記載のスプロケットでは、スプロケットの回転中心からスプロケット歯の歯底までの半径(以下、歯底半径という。)が、スプロケットの周方向部位によって変動するという問題がある。具体的には、波形部のプレス成形により、軽減孔を形成した部分としない部分とで歯底半径に相違が生じるという問題があり、このようなスプロケットを用いると、該スプロケットに張設したチェーンに対して繰り返し荷重が作用して、チェーンの耐久性が低下したり、チェーンがスプロケットから外れ易くなったりするという問題があった。特に、小さな直径のスプロケットでは、軽量化のためスプロケットの外周近くまで模様孔を形成する必要があることから、プレス成形時における歯底半径の変動幅が大きくなって、チェーンの耐久性の低下やチェーンの外れなどの問題が一層顕著にあらわれるという問題があった。
【0007】
また、スプロケットにおけるローラチェーンのローラとの噛合面が、波形部のプレス成形により捩じれて、該噛合面がスプロケットの回転中心に対して傾斜した状態となり、チェーンとスプロケットとの噛合部分が線接触状態乃至点接触状態になって、スプロケットにおけるローラとの噛合面や、ローラの外周面に偏磨耗が発生するという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、簡単な構成で歯底半径の変動を抑制でき、しかもスプロケットにおけるチェーンのローラとの噛合面が、スプロケットの回転中心線と平行な円弧面になるように調整して、スプロケットやローラの偏磨耗を防止し得る波形スプロケットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る波形スプロケットの製造方法は、円板状の素材金属板の外周部にスプロケット歯を形成する歯成形工程と、スプロケット歯を形成した素材金属板の外周部に、周方向に沿って表裏に交互に突出する波形部を、該波形部の波の頂部の外端部にスプロケット歯が配置されるようにプレス成形する外周波付工程とを備え、前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を挟持しながら、前記波形部をプレス成形するものである。
【0010】
この波形スプロケットの製造方法では、スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を挟持しながら、波形部をプレス成形するので、該挟持部分よりも内周側と外周側との間における金属材料の移動を抑制乃至防止することができる。このため、軽減孔を形成した周方向位置における歯底半径が短くなるという不具合を防止して、軽減孔を形成した場合でも、歯底半径を全周にわたって一様に設定でき、歯底半径の変動によるチェーンの耐久性低下やチェーンの外れを防止することができる。しかも、挟持しながらプレス成形することで、チェーンのローラに対するスプロケットの噛合面の捩じれを防止して、該噛合面がスプロケットの回転中心線と平行になるように調整でき、ローラやスプロケットの偏磨耗を防止できる。
【0011】
ここで、前記歯成形工程或いはそれよりも前工程において素材金属板に軽減孔を形成し、前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部であって、前記軽減孔よりも外周側を挟持しながら、前記波形部をプレス成形することも好ましい実施の形態である。このように軽減孔よりも外周側を挟持しながら波形部をプレス成形すると、軽減孔を形成することによる悪影響で、歯底半径が変動するという問題を確実に抑制乃至防止できる。
【0012】
前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、全てのスプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を挟持しながら、前記波形部をプレス成形することも好ましい実施の形態である。歯底半径の変動が大きな歯底に対応する箇所のみを挟持しながら、波形部をプレス成形することもできるが、全てのスプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を挟持しながら、前記波形部をプレス成形すると、軽減孔の形成位置等を考慮することなく歯底半径の変動を少なくできるので好ましい。
【0013】
前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、各スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を個別に挟持しながら、前記波形部をプレス成形することも好ましい。各スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を、全周或いは複数のスプロケット歯に対応する範囲にわたって連続的に挟持しながらプレス成形することも可能であるが、各スプロケット歯に対応する位置を個別に挟持すると、金属板やプレス装置の誤差による挟持力の変動を抑制して、一様な荷重でバランスよく素材金属板を挟持することができる。
【0014】
前記歯成形工程において、プレス成形にてスプロケット歯を形成することもできる。スプロケット歯は、ホブ盤などにより機械加工することもできるが、プレス成形による打ち抜き加工で成形すると、波形スプロケットの製作コストを安くできるので好ましい。
【0015】
前記円板状の素材金属板の厚さを波形部の厚さの4/5〜1/10に設定することができる。このように構成することで、波形スプロケットの重量を軽減しつつ、スプロケットとして十分な強度剛性を確保できる。尚、波形部の厚さとは、素材金属板の外周部を周方向に沿って表裏に交互に突出させた波形部における、表面側の波の頂部と、裏面側の波の頂部間における、スプロケットの厚さ方向(軸方向)の間隔を意味する。
【0016】
前記スプロケット歯の少なくとも1つを波形部の波の途中部の外端部に形成することもできる。前記波形部における波のピッチを同一ピッチに設定して、スプロケットの外観、意匠性を向上することができることから、スプロケットの歯数は偶数に設定することが好ましいが、波形部における少なくとも1つの波のピッチを他の波のピッチと異なるピッチに設定し、スプロケット歯の少なくとも1つを、波形部の波の途中部の外端部に形成して、スプロケットの歯数を奇数に設定することもできる。具体的には、波形部における少なくとも1つの波のピッチを他の波のピッチの2倍に設定し、この波に関しては波の途中部の外端部にスプロケット歯を形成することで、奇数歯のスプロケットを構成できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る波形スプロケットの製造方法によれば、スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を挟持しながら、波形部をプレス成形するので、該挟持部分よりも内周側と外周側との間における金属材料の移動を抑制乃至防止することができる。このため、軽減孔を形成した周方向位置における歯底半径が短くなるという不具合を防止して、軽減孔を形成した場合でも、歯底半径を全周にわたって一様に設定でき、歯底半径の変動によるチェーンの耐久性低下やチェーンの外れを防止することができる。しかも、挟持しながらプレス成形することで、チェーンのローラに対するスプロケットの噛合面の捩じれを防止して、該噛合面がスプロケットの回転中心線と平行になるように調整でき、ローラやスプロケットの偏磨耗を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】波形スプロケットの正面図
【図2】図1のII-II線断面図
【図3】波形スプロケットの外周部の要部を展開させた状態での平面図
【図4】図1のIV矢視図
【図5】チェーンを係合させた状態での図3相当図
【図6】他の構成の波形スプロケットの正面図
【図7】同波形スプロケットの外周部要部を展開させた状態での平面図
【図8】図6のVIII-VIII線断面図
【図9】波形スプロケット及びそれを成形する金型の図1のII-II線位置での断面図
【図10】波形スプロケット及びそれを成形する金型の図1のX-X線位置での断面図
【図11】(a)〜(d)は波形スプロケットの製造方法の説明図
【図12】実施例1の波形スプロケットの歯底間直径を示すグラフ
【図13】実施例2の波形スプロケットの歯底間直径を示すグラフ
【図14】実施例3の波形スプロケットの歯底間直径を示すグラフ
【図15】従来例の波形スプロケットの歯底間直径を示すグラフ
【図16】(a)はデジタルノギスを用いた場合における歯底間直径の測定方法の説明図、(b)はマイクロメータを用いた場合における歯底間直径の測定方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
先ず、波形スプロケットの構成について説明すると、図1〜図5に示すように、この波形スプロケット1は自動二輪車用のスプロケットであり、図示外の自動二輪車の後輪のホイールハブに固定されて、自動二輪車のエンジンからの出力を、エンジンの出力軸に固定した図示外の駆動スプロケットと、該駆動スプロケットと波形スプロケット1間に張設したチェーン10を介して後輪に伝達するためのものである。ただし、この波形スプロケット1は、板厚を薄くして大幅な軽量化が可能なことから自動二輪車に好適であるが、自動二輪車以外の産業機械の巻掛伝動装置のスプロケットに適用することもできる。
【0020】
チェーン10は、図2、図5に示すように、内外に平行配置した1対の内プレート11及び1対の外プレート12と、両内プレート11の両端部間に配置したローラ13と、ローラ13を挿通して内プレート11と外プレート12とを回動自在に連結するリンクピン14とを備え、内プレート11と外プレート12とをリンクピン14で無端ループ状に交互に連結した周知の構成のものである。
【0021】
波形スプロケット1は、円板状に打ち抜いた素材金属板を用いて製作され、波形スプロケット1の外周部には周方向に沿って表裏に交互に突出する波形部2が形成され、波形部2の波の頂部2aの外端部にはスプロケット歯3が形成されている。波形スプロケット1の中央部には芯孔4が形成され、波形スプロケット1の外周縁と芯孔4間において波形スプロケット1の中央部側には裏面側へ突出する頂部2aと略同じ高さだけ裏面側へ突出する方形状の4つの取付部5が形成され、取付部5の中央部にはホイールへの取付用ボルトが挿通する取付孔6が形成されている。隣接する取付部5間には半径方向外周側を頂部2aとし中央部側を底面とした三角形状の4つの主軽減孔7aと、各主軽減孔7aの周方向両側に形成した計8個の副軽減孔7bとが形成され、主軽減孔7aと副軽減孔7bとを形成することで波形スプロケット1の重量が軽減されるように構成されている。ただし、取付部5の形状や個数は、ホイールの構成に応じて適宜に設定することができ、また軽減孔7a、7bの形状や個数も任意に設定可能である。なお、取付部5を裏面側へ突出させないで、素材金属板の中央部を平坦に構成し、取付部5と軽減孔7a、7bとを同一平面内に配置させることもできる。
【0022】
波形スプロケット1を構成する素材金属板としては、ステンレス鋼板または炭素鋼板を用いることができる。特に、ステンレス鋼板は、強度、剛性に優れ、しかも変態点温度以上に加熱した後、10℃/分以上で50℃/分以下の緩やかな冷却速度、例えば常温にて緩やかに冷却することにより焼入れ処理を施すことができ、炭素鋼板のように変態点以上に加熱後、急冷する必要がないので、波形スプロケット1の歪や反りを少なくすることができるので好ましい。ステンレス金属板の加熱は、高周波加熱コイルなどの一般的な手法により行なうことができる。焼入れは、スプロケット歯3のみに施すこともできるし、波形スプロケット1全体に施すこともできる。
【0023】
図2〜図5に示すように、素材金属板の厚さT1は、波形スプロケット1に噛み合うチェーン10の平行な内プレート11の間隔巾T2よりも薄く設定されている。具体的には、素材金属板の厚さT1は、内プレート11の間隔巾T2の4/5を超えると重量軽減のメリットが十分に得られず、1/10未満では強度が十分に確保できないので、4/5〜1/10、好ましくは4/5〜1/5に設定されている。図1〜図5に示す波形スプロケット1では、素材金属板の厚さT1を内プレート11の間隔巾T2の約1/2に設定したものを開示している。素材金属板の厚さT1は、全体にわたって一様な板厚に設定することが、製作コストを低減する上で好ましいが、例えばスプロケット歯3の板厚のみが他の部分よりも厚肉になるように構成したものを用いることも可能である。
【0024】
波形スプロケット1の外周端にはスプロケット歯3が形成されている。スプロケット歯3の加工は、ホブ盤等を用いた機械加工により別途に行うことも可能であるが、プレスによる打ち抜き加工により成形することも可能で、例えば軽減孔7a、7bを形成するための金型20U、20Lにより、軽減孔7a、7bとともにプレス成形することもできる。また、波形スプロケット1の表裏に交互に突出する波形部2の成形も、軽減孔7a、7bやスプロケット歯3とともに同時にプレス成形することもできる。
【0025】
波形スプロケット1の外周部にはスプロケット歯3に対応する位置において表裏に交互に突出する波型形状とされた波形部2がプレス成形により形成されている。波形部2には、各波の頂部2aと、頂部2aから隣接する頂部2aに至る傾斜部2bとが周方向に交互に形成され、波形部2の頂部2aの外周端にスプロケット歯3の歯先3aが配置され、波形部2の傾斜部2bの周方向の途中部の外周端に歯底3bが配置されている。スプロケット歯3の先端部の頂面側にはスプロケット歯3の先端部をプレス成形により湾曲させてなるガイド面3cが形成され、このガイド面3cによりチェーン10に対してスプロケット歯3が円滑に噛合できるように構成されている。ただし、このガイド面3cは切削により形成することも可能である。
【0026】
スプロケット歯3の歯数は、図1に示す波形スプロケット1では36枚に設定したが、エンジン出力等に応じて任意の枚数に設定できる。ただし、奇数枚に設定する場合には、図6〜図8に示す波形スプロケット1Aのように、隣接する少なくとも1組の波の頂部2a間の傾斜部2AbのピッチP2を、他の波の頂部2a間の傾斜部2bのピッチP1の2倍に設定して、傾斜部2Abの周方向の途中部の外周端部にスプロケット歯3Aを形成することになる。このようなスプロケット歯3Aを奇数枚設けることで、歯数が奇数の波形スプロケットを製作できるが、スプロケット歯3Aを偶数枚設けて、歯数が偶数の波形スプロケットを製作することも可能である。
【0027】
スプロケット歯3は、チェーン10に適正に噛み合うように、スプロケット歯3における波形部2の厚さ(隣接するスプロケット歯3間の最大厚さ)T3が、チェーン10の平行な内プレート11の間隔巾T2よりもやや薄くなって、チェーン10との噛合時に適正なクリアランスが確保されるように整合されている。波形部2の形成範囲は、少なくとも外周部にスプロケット歯3を形成可能な範囲であれば任意の範囲に設定できる。
【0028】
スプロケット歯3の各頂部2aの凹面側には、半径方向に細長い長方形状の波付プレス痕8aが形成され、波形スプロケット1の取付部5の外周縁には波形スプロケット1と同心円状の押圧痕8bが形成され、押圧痕8bの外周側には、波付プレス痕8aの周方向位置に対応させて、半径方向に細長い長方形状の変形防止痕8cが形成されている。波付プレス痕8aと押圧痕8bと変形防止痕8cとは、素材金属板に対して、波形部2及び取付部5を同時にプレス成形するときに用いる金型20U、20Lにより成形されるものである。
【0029】
ここで波形スプロケット1に波形部2及び取付部5をプレス成形する金型20U、20Lについて説明すると、図9、図10に示すように、取付部5を成形するため、上側の金型20Uには、取付部5に対応させて上部成形部21が下方へ突出状に形成されるとともに、隣接する取付部5の外周部間を下側へ押圧する上部押え部22が下方へ突出状に形成され、下側の金型20Lには、取付部5間を上側へ押圧する下部成形部23が形成されるとともに、取付部5の外周部を上側へ押圧する下部押え部24が上方へ突出状に形成されている。押圧痕8bは、上部押え部22と下部押え部24とにより波形スプロケット1の表裏に交互に形成される。
【0030】
スプロケット歯3を成形するため、上下の金型20U、20Lには、波付突部25がスプロケット歯3に対応させて交互に設けられ、スプロケット歯3に対応する位置において、上下の金型20U、20Lの波付突部25により素材金属板の外周部が下側と上側とに交互に押圧されることにより、スプロケット歯3に対応させて上側と下側とに交互に突出する波形部2が成形されるように構成されている。波付プレス痕8aは、上下の波付突部25により、スプロケット歯3の各頂部2aの凹面側に形成される。
【0031】
スプロケット歯3を形成することによる、歯底半径の変動や、チェーン10のローラ13に対する波形スプロケット1の噛合面9の捩じれなどを防止するため、上下の金型20U、20Lには、スプロケット歯3の歯先3aと波形スプロケット1の回転中心とを結ぶ半径方向の線分L上において、押圧痕8bから半径方向の外方側へ延びる変形防止突部26が対面状に突出形成され、波形部2のプレス成形の途中部において上下の変形防止突部26間で素材金属板を挟持することで、素材金属板30Aの中央部側から外周部側への肉の移動を防止するように構成されている。この変形防止突部26により波形スプロケット1の表裏面にスプロケット歯3に対応させて変形防止痕8cが形成される。この変形防止突部26は、スプロケット歯3の歯先3aと波形スプロケット1の回転中心とを結ぶ半径方向の線分L上であれば任意の位置に設けることが可能であるが、後述のように、波形部2を形成することによる、歯底半径の変動や噛合面9の捩じれは、軽減孔7a、7bに対応する周方向位置において大きくなるので、変形防止痕8cは軽減孔7a、7bよりも外周側において軽減孔7a、7bに接近させて形成することが好ましい。ただし、小型な波形スプロケット1においては、図1に示すように、少なくとも外周端部が軽減孔7a、7bよりも外周側に配置されるように、押圧痕8bの外周側において押圧痕8bに接近させて形成することができる。
【0032】
変形防止突部26の形状は、長方形や正方形、円形や小判型など任意の形状に形成することができる。また、変形防止突部26の周方向の長さは、短すぎると歯底半径の変動や噛合面9の捩じれを効果的に防止できないので、少なくとも歯先3aの周方向長さよりも大きく設定することが好ましい。また、変形防止突部26は、スプロケット歯3に対応させて個々に設けることが好ましいが、周方向に連続的に形成することも可能である。また、波形部2を成形する金型20U、20Lに対して変形防止突部26を出没可能に設けたり、金型20U、20Lを、波形部2を成形する成形部とそれ以外とに分割構成したりするなどして、変形防止突部26で素材金属板30Aを挟持してから、波形部2を成形できるように構成することもできる。
【0033】
次に、前記波形スプロケット1の製造方法について説明する。
先ず、外径打抜工程において、波形スプロケット1の板厚と同じ板厚の金属板を打ち抜いて、図11(a)に示すような波形スプロケット1と同じ直径の平坦な円板状の素材金属板30Aを製作する。
【0034】
次に、孔打抜工程において、平坦な素材金属板30Aに対して芯孔4と取付孔6と軽減孔7a、7bを打ち抜いて、図11(b)に示すような素材金属板30Bを製作する。
【0035】
次に、歯成形工程において、素材金属板30Bの外周部に、ホブ盤により、スプロケット歯3を形成して、図11(c)に示すような素材金属板30Cを製作する。ただし、プレスによる打ち抜き加工によりスプロケット歯3を成形することも可能であるし、前記孔打抜工程において、軽減孔7a、7bなどとともにスプロケット歯3を打ち抜きによりプレス成形することもできる。
【0036】
次に、外周波付工程において、前述の金型20U、20Lを用いて、スプロケット歯3を成形した平坦な素材金属板30Cに対して、スプロケット歯3の周方向中央部が頂部2aとなるように、素材金属板30Cの外周部に周方向に沿って表裏に交互に突出する波形部2を、該波形部2の波の頂部2aの外端部にスプロケット歯3が配置されるようにプレス成形するとともに、取付部5を裏面側へ突出成形して、図11(d)に示すような素材金属板30Dを製作する。このとき、変形防止突部26により素材金属板30Cを挟持して、波形部2を成形することによる歯底半径の変動や噛合面9の捩じれを防止することになる。変形防止突部26による素材金属板30Cの挟持は、波形部2の成形当初から行うことが好ましいが、金型20U、20Lの構造を簡素にするため、成形途中から行うことになる。
【0037】
次に、焼入れ工程において、素材金属板30Dが炭素鋼板からなる場合には、いわゆる高周波加熱装置を用いて、スプロケット歯3の温度を変態点温度以上に加熱した後、水噴き付けなどにより、急冷し、焼入れ処理を施し、また素材金属板30Dがステンレス鋼板からなる場合には、10℃/分以上で50℃/分以下の緩やかな冷却速度、例えば常温にて緩やかに冷却することにより焼入れ処理を施して、波形スプロケット1を得ることになる。ただし、焼入れは、スプロケット歯3のみに施すこともできるし、波形スプロケット1全体に施すこともできる。
【0038】
次に、前記製造方法にて製作した波形スプロケットの評価試験について説明する。
実施例として、JIS S20CMの炭素鋼板を用いて、前述の手順で直径が150mmで、スプロケット歯の枚数が36枚の波形スプロケット1を製作した。また、比較例として、金型20U、20Lに代えて、変形防止突部26を省略した金型を用いて波形部2を成形した以外は、実施例と同一成形方法で波形スプロケットを製作した。
【0039】
そして、波形スプロケット1の中心を挟んで両側の歯底3b間の距離(以下、単に歯底間直径という)Dを、デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製のCD-20C)とマイクロメータ(株式会社ミツトヨ製のOM-150(特注品))を用いて、各歯底3bについてそれぞれ測定するとともに、チェーン10のローラ13に対する波形スプロケット1の噛合面9の捩じれを評価する数値として、デジタルノギスで測定した歯底間直径Dと、マイクロメータで測定した歯底間直径Dの差を求めた。その結果を表1〜表3と図12〜図15に示す。なお、図16に示すように、デジタルノギスでは平行配置された測定子Na間の距離D1を測定できることから、歯底間直径Dの最大値を測定することができ、またマイクロメータでは、対面配置された尖鋭な1対の測定子Maにより、波形スプロケット1の厚さ方向の途中部間の距離D2を測定することで、歯底間直径Dの中間値を測定できる。このため、双方の距離D1、D2の差が零に近い程、噛合面9に捩じれが少ないことが分かる。また、図12〜図15においてグラフの外周に記載した「1」〜「36」は、図1に示す波形スプロケット1の歯底3bに対応させて記載したもので、「1」は図1の矢印Aで示す歯底3bに対応する位置を示すものとする。また、図12〜図15では、測定した各歯底3bの歯底間直径Dの壱の位以下の数値のみを半径方向に表わした。
【0040】
【表1】

【0041】
表1及び図12〜図15から、変形防止突部26を設けた金型20U、20Lで波形部2をプレス成形した実施例1〜3では、変形防止突部26を設けない金型で波形部2をプレス成形した従来例と比較して、歯底間直径Dの変動、特に軽減孔7aに対応する周方向位置と、軽減孔7a間に対応する周方向位置とにおける歯底間直径Dの変動が、大幅に少なくなっていることが分かる。そして、このように実施例1〜3の波形スプロケット1では歯底間直径Dの変動が少なくなるので、チェーン10に対して繰り返し荷重が作用することを防止して、チェーン10の耐久性を向上できるとともに、波形スプロケット1からチェーン10が外れるという不具合を防止できることが分かる。
【0042】
また、デジタルノギスで測定した歯底間直径D1と、マイクロメータで測定した歯底間直径D2の差が、実施例1〜3の波形スプロケット1では、従来例の波形スプロケットと比較して大幅に小さくなっており、変形防止突部26を設けることで、チェーン10に対する波形スプロケット1の噛合面9の捩じれが少なくなり、噛合面9が波形スプロケット1の中心線と略平行に形成されることが分かる。そして、このように波形スプロケット1の噛合面9の捩じれが少ないので、波形スプロケット1の噛合面9やそれに噛合するチェーン10のローラ13の偏磨耗を防止でき、波形スプロケット1やチェーン10の耐久性を向上できることが分かる。
【0043】
尚、本実施の形態では、自動二輪車のスプロケットに本発明を適用した場合について説明した、自転車や電動アシスト自転車、ゴーカート、小型自動車など、自動二輪車以外の各種乗り物や、産業機械に対してもスプロケットを備えたものであれば、本発明を同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 波形スプロケット 2 波形部
2a 頂部 2b 傾斜部
3 スプロケット歯 3a 歯先
3b 歯底 3c ガイド面
4 芯孔 5 取付部
6 取付孔 7a 主軽減孔
7b 副軽減孔 8a 波付プレス痕
8b 押圧痕 8c 変形防止痕
9 噛合面
1A 波形スプロケット 2Ab 傾斜部
3A スプロケット歯
10 チェーン 11 内プレート
12 外プレート 13 ローラ
14 リンクピン
20L 金型 20U 金型
21 上部成形部 22 上部押え部
23 下部成形部 24 下部押え部
25 波付突部 26 変形防止突部
30A 素材金属板 30B 素材金属板
30C 素材金属板 30D 素材金属板
Ma 測定子 Na 測定子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の素材金属板の外周部にスプロケット歯を形成する歯成形工程と、スプロケット歯を形成した素材金属板の外周部に、周方向に沿って表裏に交互に突出する波形部を、該波形部の波の頂部の外端部にスプロケット歯が配置されるようにプレス成形する外周波付工程とを備え、
前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を挟持しながら、前記波形部をプレス成形する、
ことを特徴とする波形スプロケットの製造方法。
【請求項2】
前記歯成形工程或いはそれよりも前工程において素材金属板に軽減孔を形成し、前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部であって、前記軽減孔よりも外周側を挟持しながら、前記波形部をプレス成形する請求項1記載の波形スプロケットの製造方法。
【請求項3】
前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、全てのスプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を挟持しながら、前記波形部をプレス成形する請求項1又は2記載の波形スプロケットの製造方法。
【請求項4】
前記外周波付工程において、前記波形部をプレス成形する際に、前記スプロケット歯を形成した素材金属板のうちの、各スプロケット歯の歯先と波形スプロケットの回転中心間の途中部を個別に挟持しながら、前記波形部をプレス成形する請求項1〜3のいずれか1項記載の波形スプロケットの製造方法。
【請求項5】
前記歯成形工程において、プレス成形にてスプロケット歯を形成する請求項1〜4のいずれか1項記載の波形スプロケットの製造方法。
【請求項6】
前記円板状の素材金属板の厚さを波形部の厚さの4/5〜1/10に設定した請求項1〜5のいずれか1項記載の波形スプロケットの製造方法。
【請求項7】
前記スプロケット歯の少なくとも1つを波形部の波の途中部の外端部に形成した請求項1〜6のいずれか1項記載の波形スプロケットの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−185345(P2011−185345A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50433(P2010−50433)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】