説明

波長変換蛍光体及びその製造方法

【課題】一般的なセラミックスの製造方法である固相反応やゾルゲル反応を用いて、発光強度が高く、超構造を有する酸化物固溶体による蛍光体を提供。
【解決手段】 式1で表されるLi1+x−yNb1−x−3yTix+4y
x及びyは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たす)で表される超構造を形成する酸化物固溶体で、ユーロピウムが付活された粉体またはバルク体または薄膜の酸化物固溶体で、近紫外線、青色光および緑色光のうちの少なくとも1つを吸収して赤色に発光することを特徴とし、一般的なセラミックスの製造方法で作製される式2で表されるLi1+x−yNb1−x−3yTix+4y
:Eu(x及びyは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たし、Euの添加量は0.5〜3.0wt%である)で表される波長変換蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信など波長変換素子及び受光素子に好適な蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ニオブ酸リチウムは強誘電体で、その単結晶は主に光学機能材料として研究開発されてきた。ニオブ酸リチウム単結晶にチタンを拡散させた材料は光導波路や、高周波材料としての用途に応用されてきた。
【0003】
ニオブ酸リチウムにチタンが固溶した化合物には超構造を有するものが存在することが非特許文献1で述べられている。この超構造はニオブ酸リチウムの単位格子構造のc軸に対し垂直方向に積層欠陥が周期的に導入されたものである。この積層欠陥により結晶全体に歪が導入されることによる特性の向上に期待が寄せられてきたが、その優位性を示す性能を得ることができなかった。
【0004】
ニオブ酸リチウムの薄膜には応力発光特性があり、ユーロピウム等の添加元素を加えると特性が向上すると言われている。また、ニオブ酸リチウムにユーロピウムを付活した粉体は近紫外線励起で波長612nmの赤色発光を示す。薄膜の場合、熱処理工程が必要であり、粉体の場合、組成変動や発光強度が低いという問題があった。
【0005】
また、Euの添加量が5wt%を超えると、第二相としてニオブ酸ユーロピウムが生成し、発光波長のことなる赤色光を示す問題がある。
【0006】
3価のユーロピウムの発光・励起スペクトルは輝線を示す。輝線を示す赤色発光の発光強度を上げるには母体を変更するか、母体に歪を持たすことが有効とされる。
【0007】
母体となるニオブ酸リチウムの結晶に歪を持たせるには、酸素欠損を大量に導入するか、異種元素を添加する必要がある。
【0008】
しかしながらニオブ酸リチウムに大量の酸素欠損を導入すると母体の体色は黒化し、発光強度を低下させる一因となる。
【0009】
ニオブ酸リチウムの基本構造を損なうことなく、歪を持った結晶構造をもつには先に述べた超構造を利用するのが望ましい。この化合物は分子レベルでの構造制御が可能である。
【0010】
特許文献1においては、半導体薄膜プロセスを活用した原子レベルの設計よる超格子構造薄膜の蛍光体が提案されている。
【0011】
しかしながら、半導体薄膜プロセスを利用した積層構造の作製には特殊装置が必要とする問題がある。
【特許文献1】特開2003−003160号公報
【特許文献2】特開2007−314657号公報
【非特許文献1】H.Hayashi,H.Nakano, K.Suzumura, K.Urabe,and A.R.West, Proc. of 4th Euro Ceramics, 2, 93(1995).
【非特許文献2】L.A.Souza, Y.M.Sidney J.,L.Ribeiro,Quim.Nova.25,1067−1073(2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、一般的なセラミックスの製造方法である固相反応やゾルゲル反応を用いて、発光強度が高く、超構造を有する酸化物固溶体による蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、ユーロピウムで付活されたニオブ酸リチウムにチタンを固溶した式1
Li1+x−yNb1−x−3yTix+4y(x及びyは0.04≦x≦0.33, 0≦y≦0.09を満たし、Euの添加量は0.5〜3.0wt%である)で表される超構造を形成する酸化物固溶体を作製でき、且つLiNbO:Euより発光強度が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
また周期的に積層欠陥が導入された超構造を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の蛍光体は簡便な固相反応により作製されることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の蛍光体の積層欠陥の周期性は、式2で表されるLi1+x−yNb
1−x−3yTix+4y:Eu(x及びyは0.04≦x≦0.33, 0≦y≦0.09を満たし、Euの添加量は0.5〜3.0wt%である)のxとyの値を変えることにより周期構造の制御が可能であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の蛍光体は第2相のない単相であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の蛍光体は近紫外線、青色光、緑色光を吸収して赤色発光を示すことを特徴とする。
【0019】
また、本発明はユーロピウム付活ニオブ酸リチウムの発光特性より大幅に向上していることを特徴とする。
【0020】
発光中心となるべくアクティベータはCe、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなども有望である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従えば、一般的なセラミックスの製造方法である固相反応やゾルゲル反応を用いて、発光強度が高く、超構造を有する酸化物固溶体による蛍光体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態について、図面に基づいて説明すれば以下のとおりであるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
式2で表されるLi1+x−yNb1−x−3yTix+4y:Eu(x及び
yは0.04≦x≦0.33, 0≦y≦0.09を満たす)において、x=0.11、y=0の組成になるようLiCO、Nb、TiO、Eu(0.5〜3wt%)を十分に乾式混合し、大気雰囲気中1000℃で3時間、1120℃で10〜15時間保持して焼成することで所望の組成の蛍光体を得た。
【0024】
図1に示すように、本発明の蛍光体の励起スペクトルは輝線を示し、398nm、467nm及び540nmにピークが観察された。
【0025】
図2に示すように、波長398nm励起の発光強度を比較したとき、Euの付活濃度は2.5wt%が最適であった。
【0026】
図3に示すように、本発明の蛍光体の発光スペクトルは近紫外線、青色光および緑色光が赤色に変換されている。波長398nmによる励起が最も高い発光強度を示した。
【0027】
図4に示すように、回折角度23度前後に現れるニオブ酸リチウムの(012)面のX線回折パターンが、本発明の蛍光体ではスプリットしていることが確認され、周期構造を有していることが確認された。
【比較例】
【0028】
LiCO、Nb、Eu(0.5〜3wt%)を十分に乾式混合し、大気雰囲気中1000℃で3時間、1120℃で10〜15時間保持して焼成することでLiNbO:Euを作製した。
【0029】
図1に示すように、2.5wt%Eu添加LiNbO:Euの励起スペクトルは輝線を示し、398nm、467nm及び540nmにピークが観察された。
【0030】
図5に示すように、2.5wt%Eu添加LiNbO:Euの発光スペクトルは近紫外線、青色光および緑色光が赤色に変換されている。波長398nmによる励起が最も高い発光強度を示した。
【0031】
図6に示すように、本発明の蛍光体の発光強度の方がLiNbO:Euより優れていた。
【実施例2】
【0032】
式2で表されるLi1+x−yNb1−x−3yTix+4y:Eu(x及び
yは0.04≦x≦0.33, 0≦y≦0.09を満たす)において、x=0.176、y=0の組成になるようLiCO、Nb,TiO、Eu(0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0wt%)を十分に乾式混合し、大気雰囲気中1000℃で3時間、1120℃で10〜15時間保持して焼成することで所望の組成の蛍光体を得た。
【0033】
実施例1で示したと同様の結果が得られ、本発明の蛍光体の発光強度の方がLiNbO:Euより優れていた。
【実施例3】
【0034】
式2で表されるLi1+x−yNb1−x−3yTix+4y:Eu(x及び
yは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たす)において、x=0.250、y=0の組成になるようLiCO、Nb、TiO、Eu(0.5〜3.0wt%)を十分に乾式混合し、大気雰囲気中1000℃で3時間、1120℃で10〜15時間保持して焼成することで所望の組成の蛍光体を得た。
【0035】
実施例1で示したと同様の結果が得られ、本発明の蛍光体の発光強度の方がLiNbO:Euより優れていた。
【実施例4】
【0036】
式2で表されるLi1+x−yNb1−x−3yTix+4y:Eu(x及び
yは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たす)において、x=0.333、y=0の組成になるようLiCO、Nb、TiO、Eu(0.5〜3.0wt%)を十分に乾式混合し、大気雰囲気中1000℃で3時間、1120℃で10〜15時間保持して焼成することで所望の組成の蛍光体を得た。
【0037】
実施例1で示したと同様の結果が得られ、本発明の蛍光体の発光強度の方がLiNbO:Euより優れていた。
【実施例5】
【0038】
式2で表されるLi1+x−yNb1−x−3yTix+4y:Eu(x及び
yは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たす)において、x=0.04、y=0.08の組成になるようLiCO、Nb、TiO、Eu(0.5〜3.0wt%)を十分に乾式混合し、大気雰囲気中1000℃で3時間、1120℃で10〜15時間保持して焼成することで所望の組成の蛍光体を得た。
【0039】
実施例1で示したと同様の結果が得られ、本発明の蛍光体の発光強度の方がLiNbO:Euより優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1で示した励起スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で示したEu付活濃度と波長398nm励起の発光強度の関係を示す図である。
【図3】実施例1で示した波長398nm,467nm,541nmのそれぞれで励起した発光スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1で示したX線回折の2θ=23〜24.5度のプロファイルを示す図である。
【図5】2.5wt%Eu添加LiNbO:Euの波長398nm,468nm,541nmのそれぞれで励起した発光スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の2.5wt%Eu添加蛍光体および2.5wt%Eu添加LiNbO:Euの波長398nmで励起した発光スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式Li1+x−yNb1−x−3yTix+4y
(x及びyは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たす)で表される超構造を形成する酸化物固溶体で、ユーロピウムが付活された粉体またはバルク体または薄膜の酸化物固溶体で、近紫外線、青色光および緑色光のうちの少なくとも1つを吸収して赤色に発光することを特徴とする次式
Li1+x−yNb1−x−3yTix+4y:Eu(x及びyは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たし、Euの添加量は0.5〜3.0wt%である)で表される蛍光体。
【請求項2】
請求項1の超構造は単位格子のc軸に対し垂直方向に周期的に導入された積層欠陥により形成された周期構造を有することを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1の超構造は固相反応やゾルゲル反応により作製されることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
次式
Li1+x−yNb1−x−3yTix+4y
(x及びyは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たす。)で表される超構造を形成する酸化物固溶体で、ユーロピウムが付活された粉体またはバルク体または薄膜の酸化物固溶体で、近紫外線、青色光および緑色光のうちの少なくとも1つを吸収して赤色に発光することを特徴とする次式
Li1+x−yNb1−x−3yTix+4y:Eu(x及びyは0.04≦x≦0.333, 0≦y≦0.09を満たし、Euの添加量は2.5wt%である)で表される蛍光体。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate