説明

注出キャップと注出容器及び塗布具の組み合わせ

【課題】塗布部の位置を決定するためのスライド部材を、容器のキャップに昇降可能に組み付け、必要に応じて引き上げて使用できるように設けた注出キャップを提案する。
【解決手段】柄付き塗布部に注出物を付着させるための注出キャップであって、キャップ本体12の外周部に形成した嵌挿部26に、スライド部材60を昇降可能に組み付け、スライド部材の上限位置でスライド部材の基部が嵌挿部内に残るようにして、スライド部材が有する第1受面68で塗布部の背面90を受けて位置決めを行うように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、注出キャップ、特に歯磨き剤などのクリーム状物を収納した注出容器に適用することに適した注出キャップに関し、さらに、注出キャップを含む注出容器及び塗布具の組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯磨き剤などの注出容器のキャップは、注出容器の口頸部を覆う有頂筒形に形成されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−149207
【特許文献2】特開2000−037232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の注出容器を使用するときには、そのキャップを外して容器の口頸部先端を歯ブラシなどの塗布部の塗布面に近づけて注出物を付着させることになるが、怪我などの利用者の身体的理由により、塗布具を持つ手先の位置が定まりにくいことがある。そのように手先が器用でない利用者でも、歯ブラシを口頸部の先端に直接当てて注出物を付着させることは比較的簡単にできる。しかしながら、歯ブラシと異なり、歯磨き剤入りの注出容器などは、家族などの複数人が共有する場合があるから、衛生面から歯ブラシが容器の口頸部に当てることは避けることが望ましい。
【0005】
塗布具を持つ手先の位置が定まらないと、その塗布部が口頸部に近過ぎるときには塗布部が口頸部に直接触れてしまう可能性があり、逆に塗布部と口頸部との間に距離があり過ぎるときには、口頸部から吐出する注出物が床に落ちてしまうおそれがある。とくに近年は、塗布部を小型とした歯ブラシが市販されており、容器口頸部に対するブラシ部の相対的な位置決めがなおさら難しい。
【0006】
塗布部の位置決めを補助する装置として、注出容器を逆さに支える壁付けの支持具と、この支持具の下方に配置された塗布部載置用のブラケットとで構成したものがある(特許文献2)。しかしながら、この特許文献2では、容器とは別に位置決め用の機構を設置しなければならないという面倒がある。
【0007】
こうした従来技術を背景として、出願人は塗布部の位置決め用の壁部をキャップ本体の上面から起立した注出キャップを出願した(特願2009−085906)。この構成は、手先の器用ではない利用者にとっては、歯ブラシなどの塗布部の位置決めが容易となるので便利である。しかしながら、この種のキャップ付き容器は前述の通り複数人が共用する場合があり、通常程度に手先を動かすことができる利用者にとっては、位置決め用のスライド部材が内容物の注出作業において却って邪魔になることもある。
【0008】
本発明の第1の目的は、塗布部の位置を決定するためのスライド部材を、容器のキャップに昇降可能に組み付け、必要に応じて引き上げて使用できるように設けた注出キャップを提案することである。
【0009】
本発明の第2の目的は、上記注出キャップを有する注出容器と塗布具との組み合わせであって、位置決め状態での塗布部と注出容器の注出口とが直接触れないように近接するように構成したものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の手段は、柄付き塗布部に注出物を付着させるための注出キャップであって、
頂板14内側の注出口18の周りから容器口頸部への装着筒20を、また頂板外周から外周壁22をそれぞれ垂下し、少なくとも上面開口の嵌挿部26を外周部に備えるキャップ本体12と、
このキャップ本体12の上面を覆う蓋体50と、
上記嵌挿部26内に昇降自在に挿入されたスライド部材60と、を具備し、
嵌挿部26は、スライド部材60の基部を嵌挿部内に残してスライド部材を上限位置へ引き上げ可能に形成し、かつこの引上げ状態でスライド部材60の注出口寄りの一側面のうちキャップ本体12上方へ露出する部分を、平らで垂直な第1受面68として、注出物を塗布部に付けるときに注出口と反対側の塗布部背面を第1受面68で受けて塗布部の位置決めすることが可能に構成した。
【0011】
本手段では、容器口頸部に装着するキャップ本体に対して、塗布部の位置決め用のスライド部材を昇降可能に組み込むことを提案している。位置決め用のスライド部材は、図6に示す如く注出口との間に塗布部を配置するに足る距離(セット代)Aを存して配置する。この位置決め用のスライド部材により、キャップ本体の直径方向への塗布部の位置決めが可能となる。すなわち、図8の如く第1受面に塗布部の背面が当ることで塗布部の位置が決まるので、注出口に対して適当な位置関係が担保される。
【0012】
「スライド部材」は、容器を横にしたときに塗布部の背面を受ける台としての機能を有し(図8)、かつ利用者が必要とするときだけ上限位置へ引き上げ、必要ないときには下限位置へ引き下げることが可能な構造を有する。
【0013】
「嵌挿部」は、上限位置でスライド部材の基部を支え、かつ上限位置及び下限位置との間でスライド部材の昇降を可能とする。とくに上限位置より上方へのスライド部材の抜止め手段を設けるとよい。また嵌挿部内へのスライド部材の挿入とは、スライド部材の全部の挿入には限らない。スライド部材の上端部が頂板と蓋体頂壁との間に突出している形態でもよい。
【0014】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
上記嵌挿部26を、頂板14の外周部に穿設した嵌合孔28と、この嵌合孔の外側の外周壁部分に縦設した案内溝30とで形成し、
スライド部材60を、注出口側に上記第1受面を有し、かつ上記嵌合孔28内への嵌合によりキャップ本体に内装したスライド受台62と、スライド受台の下部から案内溝30内を通過して外周壁22の外面へ係合する係合子66とで形成している。
【0015】
本手段では、本願の図1〜図17の実施形態に示すようにスライド部材の主要部であるスライド受台をキャップ本体に内装することを提案している。「内装」といってもスライド部材の過半部分がキャップ本体内に在れば足りる。閉蓋状態にはスライド部材を引き下げておくことができるので、注出キャップが嵩張らず、体裁もよい。
【0016】
「スライド受台」は、塗布部を載せる台としての強度があればよい。好適な図示例では一枚の受板で形成しているが、必ずしもこれに限定しない。
【0017】
「係合子」は、スライド受台の外面から案内溝を通過した後に周方向に拡張するT字形に形成し、先端部が案内溝の両側の外周壁部分に係合している。この拡張した先端部を操作することで、容易にスライド受台を押し上げることができる。
【0018】
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ上記注出口18を、頂板14の中心から起立した注出筒16の筒孔として形成するとともに、
注出口寄りのスライド受台62の一側面と隣り合う頂板部分を上記注出筒16と同程度の高さに隆起させて、位置決め用段部32に形成し、この位置決め用段部の上面を、上記塗布部の側面を受けるための第2受面34としている。
【0019】
本手段では、図1に示す如く第2受面を含む位置決め用段部をキャップ本体の頂板に形成することを提案している。この第2受面は、図2の正立状態での位置決め用段部の上面であり、塗布部の側面に当接して装着筒の筒軸方向(正立状態での垂直方向)への塗布部の位置を決定する。第1の手段と相まって、2方向の位置決めが可能となるので、塗布部を、注出物の付着作業に適した位置にセットすることが簡単である。位置決め用段部の第2受面は、注出筒の上端面と同じ程度の高さとしている。なお、注出筒を頂板から起立したのは、注出物が頂板に付着しないようにするためである。
【0020】
第4の手段は、第2の手段を有し、かつ上記注出口18を、頂板14の中心から起立した注出筒16の筒孔として形成するとともに、
注出口寄りのスライド受台62の一側面のうち引上げ状態で注出筒16の上面と同じ高さにある部分に、上向きの段部である位置決め用段部32を形成し、この位置決め用段部の上面を上記塗布部の側面を受けるための第2受面34としている。
【0021】
本手段では、図9に示す如く位置決め用段部をスライド受台側に形成している。
【0022】
第5の手段は、第2の手段から第4の手段のいずれかを有し、かつ注出口寄りのスライド受台62の一側面上端に塗布部の側面に係止するための係止爪70を形成している。
【0023】
本手段は、図14に示すようにスライド受台の先端に係止爪を形成することで塗布部の抜止めを可能とすることを提案している。第1受面及び第2受面で塗布部の背面及び一方側面の位置決めをするだけでは、指先のブレなどにより注出物が垂れ落ちるおそれがあるからである。これについては後述する。
【0024】
第6の手段は、第2の手段から第5の手段のいずれかを有し、かつ、係合子66の先端部に、操作板66bに代えて、外周壁22の外面へ昇降可能に嵌着した外側嵌合リング72を連結し、この嵌合リングを含むスライド部材を硬質の材料で形成している。
【0025】
本手段は、図15から図17に示すように、操作板に代えて、外周壁の外側に嵌合する外側嵌合リングを設けることを提案している。そうすると、外側嵌合リングの周方向の任意の箇所に指をかけて引き上がることができるので、操作が容易である。
【0026】
第7の手段は、第6の手段を有し、かつ
さらにスライド受台62の下端部に、外周壁22の内面へ昇降可能に嵌着した内側嵌合リング72を連結し、かつキャップ本体の外周壁内面に1つ又は高さの異なる複数の係合リブ42を形成して、内側嵌合リング72が係合リブ42を強制的に乗り越えることで、スライド部材の引上げ長さが判るように構成している。
【0027】
本手段では、スライド受台下部に、外周壁の内面へ昇降可能に嵌着した内側嵌合リングを連結することを提案している。外周壁を内外の嵌合リングで挟むからスライド部材の昇降が安定し、上限状態でのスライド部材のぐらつきを防止する。また外周壁の内面の所定高さに適数の係合リブを設けたから、この係合リブを乗り越えるときの感触でスライド部材の引上げ長を調整できる。
【0028】
第8の手段は、第1の手段を有し、かつ
上記嵌挿部26を、頂板14の外周部から外周壁22へ亘って形成した凹溝38と、この凹溝の内面に縦設した第1の係合条40とで形成し、
スライド部材60を、凹溝内に昇降可能に嵌合したスライド受台62と、スライド受台の外面に上記第1の係合条との係合可能に縦設した第2の係合条76とで形成し、スライド受台の内面に上記第1受面68を形成している。
【0029】
本手段では、図19に示すように頂板の外周部から外周部に亘って形成した凹溝内に、スライド部材のスライド受台を嵌挿することを提案している。スライド受台の大半が外部に露出しているので、手先が器用ではない利用者でも容易に操作することができる。スライド受台は、図示例の如く外周壁と同程度の上下長さを有し、キャップ本体の外周面の一部を構成すると、キャップとしての外観が良好となる。凹溝からのスライド受台の側外方への抜止めのために、両者が接する面に適数の凹凸状の係合条を縦設する。第3の手段から第8の手段で記載した位置決め用段部、係止爪、嵌合リングの構造は本手段に援用することができる。
【0030】
第9の手段は、第3の手段又は第4の手段に記載の注出キャップ10を含む注出容器2と、柄付きの塗布部84を含む塗布具80との組み合わせであって、
塗布部84の背面90を位置決め用のスライド部材60の第1受面68に、また塗布部84の側面92を位置決め用段部32の第2受面34にそれぞれ当接させた状態で、塗布部84の塗布面88が注出筒16に触れない程度に接近するように構成したことを特徴とする。
【0031】
本手段は、第3の手段又は第4の手段を発展した実施例であり、その塗布部の背面及び側面を第1受面68及び第2受面にそれぞれ当接させた状態で(図8参照)、塗布部84の塗布面88が注出筒16に触れない程度に接近させている。塗布面と注出筒とが触れてしまうと、例えば塗布具に付いたゴミなどが注出筒側に付着してしまうおそれがあるからである。「接近する」とは、注出物が塗布具の塗布面以外の場所に垂れ落ちない程度に近いことを意味する。これについては後述する。塗布具はブラシに限らず、ヘラなどでもよい。
【発明の効果】
【0032】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○塗布部の位置決め用の第1受面68を備えるから、指先の動作が確かではない利用者でも注出口に対して塗布部を所定の位置関係にセットすることが大変容易である。
○第1受面68をスライド部材60に設けた、第1受面付きの壁板をキャップ本体から起立させた構造と比較して、注出キャップ全体をコンパクトにすることができる。
○利用者が位置決めを必要としない場合に、スライド部材が操作の邪魔にならない。
【0033】
第2の手段に係る発明によれば、スライド部材60の係合子66の先端部を操作部○としたから、手先が器用でない利用者でも容易に操作することができる。
【0034】
第3の手段及び第4の手段に係る発明によれば、塗布部の側面を受けるための第2受面34を設けたから、装着筒20の筒軸方向への塗布部の位置を決めることができ、塗布面に注出物を付着させることがさらに容易となる。
【0035】
第5の手段に係る発明によれば、注出口寄りのスライド受台62の一側面上端に塗布部の側面に係止するための係止爪70を形成したから、塗布部をスライド受台に確実にセットすることができる。
【0036】
第6の手段に係る発明によれば、スライド部材60に外側嵌合リング74を設けたから、スライド部材の安定性が向上し、また使い勝手もよい。
【0037】
第7の手段に係る発明によれば、スライド部材60に内側嵌合リング72を設けたから、スライド部材のぐらつきを防止でき、係合リブ42を設けたから、スライド部材の引出し量の調整が容易である。
【0038】
第8の手段に係る発明によれば、頂板14の外周部から外周壁22へ亘って形成した凹溝38内に、スライド部材60を昇降自在に嵌合したから、スライド部材を押し上げることで簡単に操作することができ、使い勝手がよい。
【0039】
第9の手段に係る発明によれば、確実に塗布面に注出物を付着させることができ、また塗布具が歯ブラシである場合には、衛生的である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る注出キャップを含む容器の閉蓋状態での縦断面図である。
【図2】図1の容器の平面図である。
【図3】図1の容器の背面図である。
【図4】図2の容器のIV−IV線方向の横断面図である。
【図5】図1の容器の開蓋状態の縦断面図である。
【図6】図5の容器の開蓋状態の平面図である。
【図7】図1の容器の使用のための一過程を示す要部の拡大斜視図である。
【図8】図1の容器の使用状態の説明図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る注出キャップを含む容器の閉蓋状態での縦断面図である。
【図10】図9の容器の使用のための一過程を示す縦断面図である。
【図11】図10に対応する要部の拡大斜視図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る注出キャップを含む容器の閉蓋状態での縦断面図である。
【図13】図12の容器の使用のための一過程を示す要部の拡大斜視図である。
【図14】図12の容器の使用状態の説明図である。
【図15】本発明の第4実施形態に係る注出キャップを含む容器の閉蓋状態での縦断面図である。
【図16】図15の容器のXVI−XVI線方向の横断面図である。
【図17】図15の容器の使用状態の説明図である。
【図18】本発明の第5実施形態に係る注出キャップを含む容器の閉蓋状態での縦断面図である。
【図19】図18の容器の開蓋状態での平面図である。
【図20】図18の容器の使用状態の説明図である。
【図21】図20に対応する使用状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1から図8には、本願発明に係る注出キャップ10を、この注出キャップを含む注出容器2及び塗布具80とともに描いている。本発明は、注出キャップ単独で実施することができるが、注出容器及び塗布具との相互関係を明らかにするために、本実施形態では注出キャップだけではなく、注出容器及び塗布具にも言及する。
【0042】
注出容器2は、容器体4と、注出キャップ10とからなる。上記容器体4は、チューブ式胴部5から肩部6を介して口頸部7を起立している。口頸部7は、基端部に比べて残りの上方部分を小外径とし、かつ上端部を小内径としている。口頸部7の上方部分には横リブ8を周設する。
【0043】
上記注出キャップ10は、キャップ本体12と蓋体50とスライド部材60とで形成する。注出キャップは合成樹脂材で形成することができる。
【0044】
上記キャップ本体12は、頂板14の中央部を穿孔し、その孔縁を貫通する注出筒16の内部を注出口18とするとともに、注出筒よりもやや外側の頂板下面部分からは、口頸部外面への装着筒20を垂下している。頂板14からの注出筒16の起立高さは、図8の如く注出容器を倒したときに内容物が頂板14に付着しない程度の高さとする。図示の注出筒16は口頸部7よりも小径であり、この注出筒の下端部は上記口頸部の上端部に密着させている。さらに図示例では口頸部外面の横リブ8に装着筒20内面を嵌合させている。装着筒20の下端部内面に横リブ8下面への係止突条を形成してもよい。頂板14の外周部からは肩部6付近まで円筒形の外周壁22を垂下する。この外周壁22の後部は薄肉ヒンジ24を介して蓋体50に連結している。
【0045】
キャップ本体の後部には、後述のスライド部材を装着するための嵌挿部26を設ける。図示の嵌挿部26は、頂板14の後部に穿設した嵌合孔28と、外周壁の後部に穿設した案内溝30とで形成している。嵌合孔28は、左右に長く延びている。図示例では円弧と弦とで囲われる部分円形状であり、その円弧が外周壁22の内縁と一致している。必ずしもこのような形状とする必要はないが、頂板14上面で設置し得る最も後側の位置(後限位置)に設けることで塗布部をセットするための距離を十分にとることができる。案内溝30は、図3に示す如く薄肉ヒンジ24の直ぐ下から外周壁22の下端まで穿設している。嵌合孔28の前方の頂板部分は、図1に示す如く注出筒16と同じ高さまで隆起させて、位置決め用段部32に形成している。図示の例において、位置決め用段部32は、後面開放の長方体に形成しているが、その形状は適宜変更することができる。位置決め用段部の上面は、水平に形成して、図8に示す注出行程で塗布具80の側面92を受けるための第2受面34としている。
【0046】
上記蓋体50は、蓋板52の外周部から円筒形の蓋周壁54を垂下しており、この蓋周壁の下端後部を、キャップ本体12の頂板14後部にヒンジ連結している。もっとも軸着などヒンジ以外の方法で連結しても構わない。蓋板52の中央部から垂下筒58として、注出筒16の外側に嵌合している。外周壁22の高さは図1に示す如く頂板14からの注出筒16及び位置決め用段部28の高さと同じとしている。この構造は、スライド部材を昇降可能としたことと相俟って、注出キャップをコンパクトな構造とすることに寄与する。
【0047】
上記スライド部材60は、嵌合孔28内に嵌挿した縦長のスライド受台62と、スライド受台の下部外面から突出した係合子66とで形成している。
【0048】
このスライド受台62は、図1に示す初期状態において外周壁22の下端付近から嵌合孔28を通って位置決め用段部32の上面に達している。このようにすることで、スライド受台62の長さを十分に確保することができる。図示のスライド受台62は、嵌合孔の開口面積と相応した断面形状の一枚の受板で形成され、この受板の下半部前面に、適数(図示例では1本)の縦リブ64を縦設している。図5に示すようにスライド受台62を引き上げた状態において、この縦リブ64の上部は位置決め用段部32の前壁に当接する(図4参照)。これにより位置決め段部32と嵌合孔28の後縁との間にスライド受台62が挟持され、スライド受台62の引き上げ状態を維持する。
【0049】
上記係合子66は、スライド受台62の下部から案内溝30内へ突入する突片66aと、この突片の先端から図3に示すように左右へ拡張する操作板66bとで形成している。この操作板66bを引き上げることで、図7に示す如く、スライド受台62の上部を位置決め用段部よりも上方へ引き上げることができる。操作板66bの外面は、多数の凸部を横設した粗面とし、指の滑りを防止している。
【0050】
この状態でスライド受台62の上部前面は、塗布部後面を受けるための第1受面68として図7に示すように注出口18と向かい合う。この第1受面68と注出口18との間には、後述の塗布部をセットすることができるように、一定の距離、すなわち塗布部セット代Aをとる(図6参照)。この塗布部セット代は、後述の塗布部の塗布面から背面までの距離に対応する。塗布部セット代は、本願発明を注出キャップ単独で実施する場合には、市販の塗布具のサイズに対応させればよい。なお、図示例では、第1受面68の周方向中心点と注出口16の中心点とを通る直径が第1受面と直角であるが、第1受面と注出口との位置関係は図示の配置に限定されない。
【0051】
以上の各部材の構成において、キャップ本体12の嵌合孔28及び案内溝30とスライド部材60との位置は、注出キャップの後部寄り、すなわちキャップ本体と蓋体との枢着箇所寄りにすることが望ましい。図8に示す如く、内容物を注出するときに蓋体50をスライド部材60の下にして注出操作をすることができ、蓋体が操作の邪魔にならないからである。しかしながら、必ずしも図示の位置に限定されるものではない。
【0052】
80は、塗布具であり、好適な図示例では歯ブラシとして構成している。塗布具80は、図6及び図8に想像線で示すように、柄82と連続する基部86に多数の刷毛を植毛して塗布部84を形成している。塗布具は、歯ブラシに限定されるものではなく、クリーム状又は液体状の注出物を一旦塗布部に付着して被塗布面に塗り付ける用途に使用するものであれば何でも構わない。
【0053】
この塗布具80と、注出キャップのスライド部材60及び位置決め用段部32とは、決められた位置に塗布部がセットされたときに、塗布面88が注出口18に触れない範囲で接近するように構成する。具体的には、注出物Pが歯磨き剤のような稠密なクリーム状物であれば、本願図8に示すように、図の状態での水平方向に塗布面と注出口18との間に多少隙間があっても構わない。しかし、粘性の小さい液体である場合には、同図の状態で注出口18の真下に塗布面が位置するようにした方が確実に注出口18から塗布面88へ内容物を付着することができる。
【0054】
上記構成において、注出操作を行うときには、注出容器2の胴部5を片手で把持し、図1の状態から蓋体50を開放し、そして図5に矢示する如く操作板66bを上方に引き上げると、スライド受台62の第1受面68に露出する。次に図8に示す如く注出キャップ付きの容器を横に倒して、第1受面68に塗布部84の背面90を載せ、さらに第2受面34に塗布部84の側面92を当接させることで、注出口に対する塗布部84の位置を容易に決めることができる。換言すれば、利用者の指先の器用さとは無関係に、塗布面88と注出口18との間に一定の小間隙を維持することを担保できる。この状態で注出容器2の胴部5を圧搾すると、確実に塗布部の塗布面88の上に注出物Pを載せることができる。すなわち、塗布具80の塗布面88が注出口18から離れすぎて、注出物が床に落下することもない。また注出容器2の注出口18に、利用者の歯ブラシが直接触れることも避けられる。そして、注出物Pを付着させた塗布具80を、注出キャップ10から離し、歯磨きなどを行えばよい。使い終わった後は、操作板を操作してスライド部材60をキャップ本体12内に引き込みかつ蓋体を閉じれば、図1の状態に戻る。
【0055】
また利用者が位置決め作業を必要としない場合にあっては、スライド部材60を外方へ引き出すことなく、蓋体を開いて注出作業を行えばよい。スライド受台62及び位置決め用段部32の上面は、図1に示す如く注出筒16の上面と同じ高さであるか、或いは低い位置にあるために、これらスライド受台62及び位置決め用段部32が通常の注出作業の邪魔になることはない。
【0056】
以下本発明の他の実施形態について説明する。これらの説明において第1の実施形態と同一の構造に関しては同一の符号を付することで解説を省略する。
【0057】
図9から図11は、本発明の第2実施形態を示している。この実施形態は、第1の実施形態におけるスライド部材及びキャップ本体の構造を変更したものである。すなわち、第1実施形態においてキャップ本体の頂板の一部として形成していた位置決め用段部を、スライド部材60側に設けたものである。具体的には、まず第1実施形態のキャップ本体の頂板から位置決め用段部の形成個所を切り取ることで嵌合孔28を前方へ拡大するとともに、その嵌合孔の前縁から垂直な案内板36を垂下している。それとともに図10の状態でスライド受台の前面のうち注出筒16の上面と略等しい高さにある部分から、外向きフランジを介して上記案内板36の後面に摺動可能に当接する縦板を垂下する。これら外向きフランジから縦板へ亘る部分で位置決め用段部32を形成している。図9に示す初期状態では、この位置決め用段部32はキャップ本体内に隠れており、図10に示すようにスライド受台を上方へ移動させたときに位置決め用段部32が嵌合孔28内から出現する。スライド部材及びキャップ本体の適所には、図10の状態で相互に係合しあう凹凸状の係合手段(図示せず)を形成して、スライド受台を同図に示す上限位置に留めておくことができるように形成するとよい。
【0058】
図12から図14は、本発明の第3実施形態を示している。この実施形態は、第1の実施形態におけるスライド部材及び蓋体の構造を変更したものである。すなわち、図12に示すように同図におけるスライド受台の内面(図示例では前面)上端部に、塗布部抜止め用の係止爪70を付設したものである。図14の如くスライド部材の縦リブ64が位置決め用段部32の上壁に当接した状態、すなわちスライド部材を上限位置へ引き出した状態において、注出キャップとの反対側の塗布部84の側面と係止爪70とが係止するように設ける。このようにすることで、塗布部が図14の左方へ抜け出すことを防止できる。塗布具は、図14の状態において第2受面34及び係止爪70の対向面との距離が塗布部の巾と一致するように、本発明の注出キャップ付き容器とのセット物として設計するとよい。図12に示す初期状態において、係止爪70は位置決め用段部32の上面である第1受面68の上に載っている。蓋体の外周壁22は、係止爪の厚さdの分だけ第1実施形態のものよりも上下に長く形成している。
【0059】
手先を器用に動かせない利用者にとっては、塗布部の背面90及び一方の側面92を第1受面68及び第2受面34で位置決めしただけでは、手先が第1受面68と反対側へ離れてしまう可能性がある。そうなると注出物Pがスライド受台側又は床面へたれ落ちてしまうおそれがある。係止爪70を設けるとかような不都合が是正される。
【0060】
図15から図17は、本発明の第4実施形態を示している。この実施形態は、第1の実施形態におけるスライド部材の構造を変更したものである。本実施形態では、図16に示すように、スライド部材60の下部に内側嵌合リング72及び外側嵌合リング74を内外2重に付設している。
【0061】
内側嵌合リング72は、外周壁22の内周面を摺動可能にスライド受台62の下端部左右両側に連結され、外側嵌合リング74は外周壁22の外周面を摺動可能に、操作板に代えて係合子の先端部左右両側に連結されている。また内側嵌合リング72は、図17の如くスライド部材を最も外側へ引き出した状態で頂板14裏面に当接又は近接するように設け、同図に矢示する如く、スライド部材に外力が加わったときに、頂板裏面との当接により、ガイド部材のぐらつきに抵抗する。
【0062】
外側嵌合リング74は、操作リングとしての機能を有する。当該リングの周方向の任意の2箇所にそれぞれ指を掛け、外側嵌合リング74とともに、スライド部材60を引き上げることができる。
【0063】
これら両嵌合リングを含むスライド部材60は、硬質材料、特に硬質合成樹脂材で形成するとよい。ここで「硬質材料」は、スライド部材が大きくぐらついたり、破損することを防止できる程度の強度があれば足りる。
【0064】
また、本実施形態では、外周壁22の内面に所定の高さにある複数の係合リブ48を横設している。スライド部材を引き上げるときに、内側嵌合リング72が各係合リブ48を強制乗り越えしたときに、抵抗感を生じ、これによりスライド部材の引き上げ量が触感でわかるようにしている。内側嵌合リングは上記係合リブ48を乗り越えるときに、内側へ撓むことで乗り越えを容易とする。
【0065】
上記の構成によれば、図17に矢示する如く外力が加わった場合に、スライド部材は、受台の基部を中心に傾動しようとするが、内側嵌合リング72が頂板14の裏面に当接することで上記外力に対抗する。また外側嵌合リング74も併せて上記外力に抵抗する。従ってスライド部材がぐらついたり、係合子が破損することを防止することができる。また内側嵌合リング72及び外側嵌合リング74が外周壁22の内外面を摺動することでスライド部材の昇降もスムーズとなる。また外側嵌合リング74は、指を掛けて引き上げる操作板の役割を兼ねており、外側嵌合リングの全周のどこに指を掛けてもよいので、操作がさらに容易となる。
【0066】
図18から図21は、本発明の第5実施形態を示している。この実施形態は、第1の実施形態におけるスライド部材及びキャップ本体の構造を変更したものである。第1の実施形態では、スライド部材の主要部分をキャップ本体の内側に内装しているが、本実施形態では、スライド部材の外面がキャップ本体の周面の一部を形成するように形成している。従って利用者にとってはスライド部材の位置が容易に判り、操作し易い。
【0067】
具体的には、スライド部材をキャップ本体側へ嵌挿させるための構造として、第1実施形態の嵌合孔及び案内溝に代えて、キャップ本体の前部、すなわち蓋体とのヒンジ箇所の反対側に、頂板14前部から外周壁22の下端部に亘って前面及び上面開放の凹溝38を縦設し、さらにこの凹溝の左右両壁の内面に一対の第1の係合条40を縦設する(図19及び図20参照)。図示例では、凹溝38は後壁を有しているが、この後壁を省略しても構わない。逆に凹溝の後壁及びスライド受台の対向面にそれぞれ1本の第1の係合条及び第2の係合条を形成してもよい。
【0068】
またスライド部材60は、上記凹溝38に相応する断面形状を有するスライド受台62と、この受台の両側面に縦設され上記第1の係合条40に摺動自在に係合する第2の係合条76とで形成されている。図示例では、第1の係合条40を凹条に、第2の係合条76を凸条にそれぞれ形成しているが、第1の係合条40を凸条に、第2の係合条76を凹条に形成しても構わない。スライド部材60は、凹溝38内を昇降自在に形成され、スライド部材とキャップ本体との適所には、図20に示す如くスライド部材を上限位置へ引き上げたときに相互に係合して引上げ状態を維持する係合手段を形成することが望ましい。スライド受台62の外面は、多数の凸部を横設した粗面に形成している。
【0069】
スライド部材60は引上げ状態での後面に塗布部背面を受ける第1受面68を有する。また、図18及び図20に想像線で示すように、凹溝後方の頂板部分から、位置決め用段部32を形成する垂壁を起立し、その位置決め用段部の上面を第2受面34としてもよい。上記垂壁は左右に長く形成する。そして図20の状態から注出容器を横に倒し、第1受面68に塗布部背面90を、また第2受面34に塗布部側面92をそれぞれ当接させて、図8の場合と同じように内容物を注出すればよい。
【0070】
上記構成の変形例として位置決め用段部及び第2受面を省略してもよい。そしてスライド部材60の後面に図12〜図14実施形態と同様に係止爪を付設してもよい。
【符号の説明】
【0071】
2…注出容器 4…容器体 5…胴部 6…肩部 7…口頸部 8…横リブ
10…注出キャップ 12…キャップ本体 14…頂板 16…注出筒
18…注出口 20…装着筒 22…外周壁 24…薄肉ヒンジ
26…嵌挿部 28…嵌合孔 30…案内溝 32…位置決め用段部
34…第2受面 36…案内板 38…凹溝 40…第1の係合条
42…係合リブ
50…蓋体 52…蓋板 54…蓋周壁 58…垂下筒
60…スライド部材 62…スライド受台 64…縦リブ 66…係合子
66a…突片 66b…操作板 68…第1受面 70…係止爪
62…内側嵌合リング 64…外側嵌合リング 66…第2の係合条
80…塗布具 82…柄 84…塗布部 86…基部 88…塗布面 90…背面
92…側面 P…注出物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄付き塗布部に注出物を付着させるための注出キャップであって、
頂板14内側の注出口18の周りから容器口頸部への装着筒20を、また頂板外周から外周壁22をそれぞれ垂下し、少なくとも上面開口の嵌挿部26を外周部に備えるキャップ本体12と、
このキャップ本体12の上面を覆う蓋体50と、
上記嵌挿部26内に昇降自在に挿入されたスライド部材60と、を具備し、
嵌挿部26は、スライド部材60の基部を嵌挿部内に残してスライド部材を上限位置へ引き上げ可能に形成し、かつこの引上げ状態でスライド部材60の注出口寄りの一側面のうちキャップ本体12上方へ露出する部分を、平らで垂直な第1受面68として、注出物を塗布部に付けるときに注出口と反対側の塗布部背面を第1受面68で受けて塗布部の位置決めすることが可能に構成したことを特徴とする、注出キャップ。
【請求項2】
上記嵌挿部26を、頂板14の外周部に穿設した嵌合孔28と、この嵌合孔の外側の外周壁部分に縦設した案内溝30とで形成し、
スライド部材60を、注出口側に上記第1受面を有し、かつ上記嵌合孔28内への嵌合によりキャップ本体に内装したスライド受台62と、スライド受台の下部から案内溝30内を通過して外周壁22の外面へ係合する係合子66とで形成したことを特徴とする、請求項1に記載した注出キャップ。
【請求項3】
上記注出口18を、頂板14の中心から起立した注出筒16の筒孔として形成するとともに、
注出口寄りのスライド受台62の一側面と隣り合う頂板部分を上記注出筒16と同程度の高さに隆起させて、位置決め用段部32に形成し、この位置決め用段部の上面を、上記塗布部の側面を受けるための第2受面34としたことを特徴とする、請求項2に記載した注出キャップ。
【請求項4】
上記注出口18を、頂板14の中心から起立した注出筒16の筒孔として形成するとともに、
注出口寄りのスライド受台62の一側面のうち引上げ状態で注出筒16の上面と同じ高さにある部分に、上向きの段部である位置決め用段部32を形成し、この位置決め用段部の上面を上記塗布部の側面を受けるための第2受面34としたことを特徴とする、請求項2に記載した注出キャップ。
【請求項5】
注出口寄りのスライド受台62の一側面上端に塗布部の側面に係止するための係止爪70を形成したことを特徴とする、請求項2から請求項4のいずれかに記載の注出キャップ。
【請求項6】
係合子66の先端部に、操作板66bに代えて、外周壁22の外面へ昇降可能に嵌着した外側嵌合リング72を連結し、この嵌合リングを含むスライド部材を硬質の材料で形成したことを特徴とする、請求項2から請求項5のいずれかに記載した注出キャップ。
【請求項7】
さらにスライド受台62の下端部に、外周壁22の内面へ昇降可能に嵌着した内側嵌合リング72を連結し、かつキャップ本体の外周壁内面に1つ又は高さの異なる複数の係合リブ42を形成して、内側嵌合リング72が係合リブ42を強制的に乗り越えることで、スライド部材の引上げ長さが判るように構成したことを特徴とする、請求項6に記載した注出キャップ。
【請求項8】
上記嵌挿部26を、頂板14の外周部から外周壁22へ亘って形成した凹溝38と、この凹溝の内面に縦設した第1の係合条40とで形成し、
スライド部材60を、凹溝内に昇降可能に嵌合したスライド受台62と、スライド受台の外面に上記第1の係合条との係合可能に縦設した第2の係合条76とで形成し、スライド受台の内面に上記第1受面68を形成したことを特徴とする、請求項1に記載した注出キャップ。
【請求項9】
請求項3又は請求項4に記載の注出キャップ10を含む注出容器2と、柄付きの塗布部84を含む塗布具80との組み合わせであって、塗布部84の背面90を位置決め用のスライド部材60の第1受面68に、また塗布部84の側面92を位置決め用段部32の第2受面34にそれぞれ当接させた状態で、塗布部84の塗布面88が注出筒16に触れない程度に接近するように構成したことを特徴とする、注出容器と塗布具との組み合わせ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−260601(P2010−260601A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111665(P2009−111665)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】