説明

注射器の針カバー

【課題】簡単な構造で取り扱いが便利であり、しかも従前通りの針刺し事故の防止を確実に行える注射器の針カバーを提案する。
【解決手段】注射器の先端部に周壁10の基端部を嵌着して注射器先端部より突出した針を被覆する針カバーAであって、側方から針を挿通させるためのスリット17を周壁10の基端部に備えるとともに、スリット17への針の案内をする案内板18を周壁10外面に突設し、スリット17から針を挿通した後先端部を押し込んで注射器Bを周壁10の基端部に嵌着する如く構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は注射器の針カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
注射器には使用者の安全確保等の目的でその針を被覆する針カバーが装着させている。針カバーの一般的な形状としてはサック状をなし、比較的剛性を備えた合成樹脂等で形成されている。
【0003】
針カバーは未使用時には予め針に装着されており、使用時に外して使用し、また、使用後には再び装着して注射器ともども廃棄するのが一般的である。従って、通常では使用時に外し、使用後に装着する一回の着脱で済むが、これらの着脱の際に指先への針刺し事故が生じているが、その点を考慮して、針刺し事故の防止を目的とした使用済注射器への針カバー装着方法が提案がされている。(例えば、特許文献1参照)
【0004】
上記特許文献1の発明では、注射器針に装着する針カバーの大径部と緊密に装着可能な径を有する孔部を備えた防護鍔を用意し、この防護鍔を外部からアクセス可能な形態で貯蔵装置に所要個数貯蔵しておき、予め針カバーの装着されている使用前注射器を貯蔵装置に挿入して針カバーと防護鍔とを緊密に装着させ、しかる後注射器から針カバーを外して注射器を使用し、使用済の注射器に再び防護鍔付きの針カバーを装着する。
【0005】
上記特許文献1に記載の針カバーは、針刺し事故を防止できる優れたものではあるが、別部材としての防護鍔を必要とし、また、その貯蔵装置を必要とするものであり、取り扱いが煩雑となり、設置場所の必要も生じる。
【0006】
この様な点を考慮して、本出願人は注射器の針カバーを提案している。(例えば、特許文献2参照)
【0007】
特許文献2に記載された針カバーは、注射器の先端部に側方より嵌着して針を被覆する針カバーであって、下部を、注射器本体先端部に強制的に嵌合させる嵌着部とし、上部を、注射器本体より突設した針を収容する針収容部とした開環筒状部を備え、針収容部の前部開口を、針の強制的な押圧により出入り可能な針挿入口を備えた閉塞壁で閉塞して構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−224686号公報
【特許文献2】特開2009−284948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載された針カバーは、注射器の先端部に側方より嵌着して針を被覆することができ、また、取り外す際にも側方に取り外すことができるため、針で指を刺すという事故の発生を防ぐことができる。また、注射器に対して側方から押圧することで弾性を備えた嵌着部を嵌合させるとともに、針を強制的に押圧して挿通させる針挿入口を備えているので、着脱も極めて容易である等の優れたものである。
【0010】
本発明はこの特許文献2に記載された針カバーを更に改良したものであり、簡単な構造で取り扱いが便利であり、しかも従前通りの針刺し事故の防止を確実に行える注射器の針カバーを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の手段として、以下の通り構成した。即ち、注射器Bの先端部に周壁10の基端部を嵌着して注射器B先端部より突出した針33を被覆する針カバーAであって、側方から針33を挿通させるためのスリット17を周壁10の基端部に備えるとともに、スリット17への針33の案内をする案内板18を周壁10外面に突設し、スリット17から針33を挿通した後先端部を押し込んで注射器Bを周壁10の基端部に嵌着する如く構成した。
【0012】
第2の手段として、以下の通り構成した。即ち、前記第1の手段に於いて、注射器Bの先端部の外径より周壁10の内径を小径に形成して、注射器Bの先端部の嵌着時に周壁10基端部が拡開する如く構成した。
【0013】
第3の手段として、以下の通り構成した。即ち、前記第1の手段又は第2の手段のいずれかの手段に於いて、案内板18を、周壁10外面のスリット17の一縁部より外方へ突設した。
【0014】
第4の手段として、以下の通り構成した。即ち、前記第3の手段に於いて、スリット17の一端縁を通る周壁10の中心線と直行方向に、周壁10を貫通するスリット17を穿設し、案内板18を、スリット17の上記穿設方向の延長方向へ突設した。
【0015】
第5の手段として、以下の通り構成した。即ち、第2の手段に於いて、案内板18を周壁10外周に沿って延設し、先端に突設した係合突部22を周壁10の対向位置に設けた係止段部21に係合可能に構成し、注射器B先端部の針カバー周壁10基端部への嵌着時に周壁10の拡開を規制して係合する如く構成した。
【0016】
第6の手段として、以下の通り構成した。即ち、第1の手段乃至第5の手段のいずれかの手段に於いて、先端部外周に放射状の係合リブ35を突設した注射器Bに対して使用し、各係合リブ35の外面に内面を圧接係合する周方向複数の係止突部16を横設し、各係止突部16間にそれぞれ縦突条15を縦設した。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、注射器Bの針33を一旦側方からスリット17を介して挿通した後、注射器Bの先端部を押し込んで、注射器Bの先端部を周壁10の基端部に嵌着するため、針33のスリット17挿通と注射器先端部の周壁基端部への嵌合を別々に行なわれて円滑な挿通及び嵌合を行え、また、注射器Bの先端部が嵌合する針カバーAの周壁10下端部はスリット17により僅かに開環されているだけであるため注射器先端部の確実な嵌合が可能である。また、スリット17への針33の案内をする案内板18を周壁10外面に突設しているため、針33のスリット17への導入が容易でありこの点からも取り扱い操作が容易となる。更に、注射器Bから取り外す際はそのまま注射器Bを抜き出せばよくこの点でも取り扱い操作が容易である。また、その構造は簡単であり、合成樹脂により一体の成形が可能である。しかも従前通りの針刺し事故の防止を確実に行える。
【0018】
注射器Bの先端部の外径より周壁10の内径を小径に形成して、注射器Bの先端部の嵌着時に周壁10基端部が拡開する如く構成した場合には、針カバーA内へ針33を挿通後、先端部を押し込んだ際に注射器先端部と針カバー周壁基端部との所定位置での固定状態がより強固となり、不必要な位置までの先端部の押し込みを確実に防止でき、より安全性の向上を図れる。
【0019】
案内板18を、周壁10外面のスリット17の一縁部より外方へ突設した場合には、案内板18の内面に針33を当接させて摺動させるという極めて簡単な操作でスリット17内への針33の導入を行え、取り扱いがより便利となる。
【0020】
スリット17の一端縁を通る周壁10の中心線と直行方向に、周壁10を貫通するスリット17を穿設し、案内板18を、スリット17の上記穿設方向の延長方向へ突設した場合には、案内板18とスリット17とが同一平面上に連設されているため、針33の移動がよりスムースに行えて、更に取り扱いが便利となる。
【0021】
案内板18を周壁10外周に沿って延設し、先端に突設した係合突部22を周壁10の対向位置に設けた係止段部21に係合可能に構成し、注射器B先端部の針カバー周壁10基端部への嵌着時に周壁10の拡開を規制して係合する如く構成した場合には、注射器B先端部の針カバー周壁10基端部への嵌着時に確実に所定位置に注射器先端部が嵌着され、更なる安全性の向上を図れる。
【0022】
先端部外周に放射状の係合リブ35を突設した注射器Bに対して使用し、各係合リブ35の外面に内面を圧接係合する周方向複数の係止突部16を横設し、各係止突部16間にそれぞれ縦突条15を縦設した場合には、注射器Bの先端部の針カバー周壁10の基端部内への嵌合係止がより行いやすく、また、嵌合後の相互の回動を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】注射器の針カバーの半断面図である。(実施例1)
【図2】注射器の針カバーの平面図である。(実施例1)
【図3】注射器の針カバーの底面図である。(実施例1)
【図4】注射器に装着した状態の針カバーの要部縦断面図である。(実施例1)
【図5】注射器の針カバーの半断面図である。(実施例2)
【図6】注射器の針カバーの平面図である。(実施例2)
【図7】図6の周壁が拡開された状態の平面図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の形態を図面を参照して説明する。
【0025】
図1乃至図4は針カバーの一例を示す。針カバーAは図4に示す如き注射器Bの先端部に嵌着するもので、合成樹脂により形成され、周壁10の上端縁より頂壁11を延設した下端開口の有頂筒状をなしている。また、周壁10の上部はテ−パ部12を介して縮径部10aに形成しており、縮径部10a外周には周方向複数の縦リブ13を縦設している。更に、テーパ部12下方の周壁10外周には帯状突部14が周設されている。また、テ−パ部12と帯状突部14との間の周壁10内周には周方向複数の縦突条15を突設しており、各縦突条15間には係止突部16をそれぞれ突設している。
【0026】
更に、周壁10の基端部にはスリット17を縦設している。スリット17は、注射器Bの針33を側方から挿通させるためのもので、針33を押し込むことで挿通が可能であればよく、その幅と長さは特に限定されない。本例では注射器Bの針より若干狭い幅を有しているが針33の幅よりも大きい横幅であっても或いは横幅ゼロで端面相互が接触していてもよい。但し、スリットという名称からもわかるように極めて大きい横幅は考慮されない。本例では、周壁10下端より帯状突部14の上方で、係止突部16の下方位置までの丈を有するスリット17を穿設している。また、図3に示す如く、スリット17の一端縁を通る周壁10の中心線と直行方向に、周壁10及び帯状突部14を貫通するスリット17を穿設している。
【0027】
また、スリット17への針33の案内をする案内板18を備えている。本例に於ける案内板18は、図1乃至図3に示されている如く帯状突部14の部分に突設しており、帯状突部14の外面のスリット17の一縁部より、上記したスリット17の穿設方向の延長方向、即ちスリット17の一端縁を通る周壁10の中心線と直行方向に突設している。
【0028】
また、本例では、針カバーAの周壁10の内径を注射器Bの先端部の外径より小径に形成しており、注射器Bの先端部の嵌着時に周壁10基端部が拡開する如く構成している。その際スリット17の存在で拡開が容易に行える。但し、この様な構成を備えるものに限らず、上記周壁10の内径と先端部外径が略同径であって、注射器Bの先端部の嵌着時に周壁10基端部が拡開しない様に構成しても良い。
【0029】
上記の如く構成した針カバーAを使用する場合について説明する。図4は注射器Bに針カバーAを装着した例を示し、この場合の注射器Bは、先端に小径部30を備えた本体31と、小径部30外方の螺筒に螺着させて小径部30外周に下部を嵌着させた針取付部材32と、針取付部材32の先端に装着された針33と、本体31内を摺動して本体31内の液を針33を介して注出するプランジャ34とを備えている。針取付部材32の上端部外周には周方向複数の係合リブ35を縦設している。
【0030】
そして、針カバーAの案内板18に針33の先端部を当接させてスライドさせ、スリット17を介して針カバーA内に挿入し、しかる後、注射器Bの先端部を押し込んで針カバーAの基端部内に嵌着することができる。その際、注射器Bの各係合リブ35外面が係止突部16の内面に摺動して密嵌し、また、各縦突条15により各係合リブ35の相対回動を防止し、牽いては針カバーAの注射器Bに対する相対回動を防止している。また、注射器Bの先端部の外径が針カバーAの内径より小さく形成されているため、具体的には、各係合リブ35外面より周壁10の内周面の径が小さいため、周壁10は拡開される。但し、その径差は必要に応じて適宜選択し、この場合には注射器B上端部の針カバー周壁10内下端部へのピッタリした嵌着が得られればよく、それ程大きな拡径を必要としない。
【0031】
取り外す際には、例えば、針カバーA及び本体31を掴んでそのまま引き出せば良い。
【0032】
図5乃至図7は他の例を示し、本例に於いては、帯状突部14のスリット17形成位置縁部より突出部20を突設してその一側端に係止段部21を形成している。また、案内板18は周壁10外周に沿って延設し、対向位置の係止段部21に係合可能な係合突部22を先端に突設している。更に具体的には、帯状突部14外面のスリット17の縁部より、帯状突部14の突出部20外面に沿って、針33の挿通が可能な所定の間隔をあけて延設しており、先端に係止段部21と係合が可能な係合突部22を突設している。
【0033】
係止段部21と係合突部22とは、針カバーAを注射器Bに装着前の状態では、図6に示す如く非係合で注射器Bの針33が容易に挿通できる状態にある。この場合、係合突部22と係止段部21との隙間が針33の太さより小さい場合でも、例えば針33により係合突部22を押圧することで案内板18が外方へ弾性変形して容易に案内板18と突出部20との間に針33を挿入させることができる。
【0034】
一方、本例の場合も上記図1の例と同様、注射器Bの先端部の外径より周壁10の内径を小径に形成して、注射器Bの先端部の嵌着時に周壁10基端部が拡開する如く構成している。その際本例の場合には、図7に示す如く、周壁10の拡開に伴って案内板18の係合突部22が係止段部21に係合してそれ以上の拡開を防止する如く構成している。そして、注射器Bの先端部が針カバーAの周壁10下端部に嵌着した際にはピッタリとフィットする。その他の構成は図1の例と同様であるため、同符号を付して説明を省略する。
【0035】
この場合の作用に関しては、図6に於いて、係合突部22と係止段部21の間から針33を挿通させて、案内板18と突出部20との間及びスリット17を介して針カバーA内に挿入し、しかる後、注射器Bの先端部を押し込んで針カバーAの基端部内に嵌着することができる。その際、注射器Bの各係合リブ35外面が係止突部16の内面に摺動して密嵌し、また、各縦突条15により各係合リブ35の相対回動を防止し、牽いては針カバーAの注射器Bに対する相対回動を防止する。また、各係合リブ35外面より周壁10の内周面の径が小さいため、周壁10は拡開されるが、係合突部22が係止段部21に係合して拡開は防止され、その際注射器先端部が針カバー周壁基端部にピッタリと嵌合する。
【符号の説明】
【0036】
A…針カバー
10…周壁、10a…縮径部、11…頂壁、12…テーパ部、13…縦リブ、14…帯状突部、
15…縦突条、16…係止突部、17…スリット、18…案内板、20…突出部、21…係止段部、
22…係合突部
B…注射器
30…小径部、31…本体、32…針取付け部材、33…針、34…プランジャ、35…係合リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射器(B)の先端部に周壁(10)の基端部を嵌着して注射器(B)先端部より突出した針(33)を被覆する針カバー(A)であって、側方から針(33)を挿通させるためのスリット(17)を周壁(10)の基端部に備えるとともに、スリット(17)への針(33)の案内をする案内板(18)を周壁(10)外面に突設し、スリット(17)から針(33)を挿通した後先端部を押し込んで注射器(B)を周壁(10)の基端部に嵌着する如く構成したことを特徴とする注射器の針カバー。
【請求項2】
注射器(B)の先端部の外径より周壁(10)の内径を小径に形成して、注射器(B)の先端部の嵌着時に周壁(10)基端部が拡開する如く構成した請求項1記載の注射器の針カバー。
【請求項3】
案内板(18)を、周壁(10)外面のスリット(17)の一縁部より外方へ突設した請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の注射器の針カバー。
【請求項4】
スリット(17)の一端縁を通る周壁(10)の中心線と直行方向に、周壁(10)を貫通するスリット(17)を穿設し、案内板(18)を、スリット(17)の穿設方向の延長方向突設した請求項3記載の注射器の針カバー。
【請求項5】
案内板(18)を周壁(10)外周に沿って延設し、先端に突設した係合突部(22)を周壁(10)の対向位置に設けた係止段部(21)に係合可能に構成し、注射器(B)先端部の針カバー周壁(10)基端部への嵌着時に周壁(10)の拡開を規制して係合する如く構成した請求項2記載の注射器の針カバー。
【請求項6】
先端部外周に放射状の係合リブ(35)を突設した注射器(B)に対して使用し、各係合リブ(35)の外面に内面を圧接係合する周方向複数の係止突部(16)を横設し、各係止突部(16)間にそれぞれ縦突条(15)を縦設した請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の注射器の針カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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