説明

洋風便器

【課題】便器洗浄時に便器の破封が急激に終了することを防止することができる洋風便器を提供する。
【解決手段】洋風便器1は、底部に上向きかつ略水平な流出口4を有した便鉢2と、該流出口4に連なるトラップ部5を有している。該流出口4の周囲の全周にわたって勾配20°以下の低勾配部10となっており、該低勾配部10の内周縁部10bから外周縁部10aまでの水平距離が20mm以上となっている。リム部3から供給された洗浄水は、低勾配部10において洗浄水の流れ方向が水平方向側に変化させられる。これにより、洗浄水が一気に流出口4からトラップ部5内に流れ込んで便鉢2内の水位が急激に低下することが防止され、サイホン現象が早期に終了して汚物排出が不十分になることが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流出口を有した便鉢と該流出口に連なるトラップ部とを有する洋風便器に関する。
【背景技術】
【0002】
洋風便器は、周知の通り、底部に流出口を有した便鉢と、該流出口に連なるトラップ部とを有している。
【0003】
特開2001−311207号公報には、便鉢の流出口の前方近傍領域が後方領域よりも勾配が緩くなっている洋風便器が記載されている。
【0004】
第6図は同号公報の洋風便器の縦断面図である。第6図の通り、洋風便器21は、底部に流出口24を有した便鉢22と、該流出口24に連なるトラップ部25とを有している。便鉢22の上端に、便鉢内方に張り出したリム部23が周設されている。該トラップ部25は、流出口24の下方から洋風便器21の後部上方に向けて傾斜する立上部25aと、該立上部25aの上端から下方に立下する立下部25bとを有している。該立下部25bの下端は、図示しない排水ソケットを介して排水管に接続される。該立上部25aの下端にジェットノズル26が設けられている。立上部25aは便鉢2の後壁により形成されている。該立上部25aの水平方向に対する傾斜角度θは45°となっている。
【特許文献1】特開2001−311207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特開2001−311207号公報の洋風便器21にあっては、便鉢22の流出口24の周囲が急勾配となっている。即ち、流出口24の周囲のうち便鉢22の後壁側の勾配は約45°になっている。また、前壁側の勾配も勾配が比較的大きなものとなっている。
【0006】
このため、該洋風便器1の使用後に便器洗浄を行う際、第7図のようにサイホン排出流形成工程の終期において便鉢22内の水位が低下したときに、リム部23から便鉢22の内壁に供給された洗浄水は急勾配な便鉢22の内面に沿って勢いよくトラップ部25内に流入する。これにより、便鉢22内の水位は急激に低下し、トラップ部25内に空気aが一気に入って破封する。このため、サイホン現象が早期に終了し、汚物排出が不十分になるおそれがある。また、サイホン現象の終了時に大きな破封音が発生する。
【0007】
本発明は、サイホンが長時間継続し、汚物排出能力の高く、破封音も小さい洋風便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の洋風便器は、底部に上向きかつ略水平な流出口を有した便鉢と、該流出口に連なるトラップ部とを有する洋風便器において、該流出口の周囲の全周にわたって勾配20°以下の低勾配部となっており、該低勾配部の内周縁部から外周縁部までの水平距離が20mm以上であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の洋風便器は、請求項1において、該低勾配部の勾配は0〜20°であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の洋風便器は、請求項1又は2において、該低勾配部の内周縁部から外周縁部までの水平距離が20〜120mmであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の洋風便器は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該流出口は略円形であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の洋風便器は、請求項1ないし4のいずれか1項において、該便鉢の上端に、便鉢内方に張り出したリム部が周設されており、トラップ部が封水された状態における便鉢内の溜水面が、該リム部の略中央に位置し、該流出口が、該溜水面の略中央に位置することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の洋風便器は、請求項5において、該リム部から便鉢内面に沿って水が旋回して流下し、便鉢内面が洗浄されることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の洋風便器は、請求項1ないし6のいずれか1項において、さらに該トラップ部の空気を吸引するための吸引装置を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の洋風便器は、流出口の周囲の全周にわたって勾配20°以下の低勾配部となっており、該低勾配部の内周縁部から外周縁部までの水平距離が20mm以上となっている。このため、サイホン排出流形成工程の終期において便鉢内の水位が流出口近傍まで低下したときに、リム部から便鉢内を流下する洗浄水は低勾配部において水流方向が水平方向側に変化し、水面の鉛直方向の下降速度が遅くなる。このため、洗浄水がトラップ部の下方に向って勢いよく流入して便鉢内の水位が急激に低下することが防止され、サイホン現象が長期にわたって継続し、汚物排出能力が向上する。また、サイホン現象の終了時に大きな破封音が発生することが防止される。
【0016】
本発明において、低勾配部の勾配は0〜20°であることが好ましい。0°以上であると低勾配部に汚物が残留することが防止され、20°以下であるとトラップ部が急激に破封することがより確実に防止される。
【0017】
本発明において、低勾配部の内周縁部から外周縁部までの水平距離が20〜120mmであることが好ましい。20mm以上であるとトラップ部が急激に破封することがより確実に防止される。120mm以下であると、汚物が流出口に向って流れ込み易くなる。
【0018】
本発明において、流出口は略円形であることが好ましい。これにより、破封時まで流出口付近に旋回流が形成され易くなり、便鉢2内の汚物の排出特性が向上する。
【0019】
本発明において、便鉢の上端に、便鉢内方に張り出したリム部が周設されており、トラップ部が封水された状態における便鉢内の溜水面が、該リム部の略中央に位置し、該流出口が、該溜水面の略中央に位置することが好ましい。この場合、便鉢前後方向及び左右方向において、リム部から溜水面までの距離がほぼ等しくかつ溜水面から流出口までの距離がほぼ等しいため、溜水が偏って吸引されることがなくなり汚物の排出能力が向上する。
【0020】
該リム部から便鉢内面に沿って水が旋回して流下し、便鉢内面が洗浄される場合、便鉢内面が良好に洗浄される。
【0021】
本発明の洋風便器は、トラップ部の空気を吸引するための吸引装置を有する場合においてより効果的である。即ち、吸引装置によってトラップ部内の空気が吸引されてトラップ部内に負圧が生じると、吸引装置がない場合と比べて便鉢内の溜水面がより急激に低下する。この場合にあっても、便鉢内を流下する洗浄水は低勾配部において水流方向が水平方向側に変化し、水面の鉛直方向の下降速度が遅くなる。このため、洗浄水がトラップ部の下方に向って勢いよく流入して便鉢内の水位が急激に低下することが確実に防止され、サイホン現象が長期にわたって継続し、汚物排出能力が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。第1図は実施の形態に係る洋風便器の縦断面図、第2図は第1図の洋風便器の平面図、第3図は第2図のIII−III線に沿う断面図、第4図は第1図の流出口部分の拡大図、第5図は洗浄動作説明図である。
【0023】
洋風便器1は、底部に上向きかつ略水平な流出口4を有した便鉢2と、該流出口4に連なるトラップ部5とを有している。該トラップ部5は、流出口4の下方から洋風便器1の後部上方に向けて立ち上がる立上部5aと、該立上部5aの上端から下方に延在する立下部5bとを有している。第1図において、立上部5aと立下部5bとの境界の最下部が頂端5cとなっている。該頂端5aの高さまで便鉢2内が溜まったときにおける該便鉢2の水面が溜水面11である。
【0024】
便鉢2の上端に、便鉢内方に張り出したリム部3が周設されている。リム部3の便鉢後部右側に吐水口12が設けられている。この吐水口12はリム部3の長手方向に向って開口している。この実施の形態ではリム部3は、上面3a及び内周面3bにて構成されているが、上面3aのみで構成されてもよい。
【0025】
洋風便器1の上部後端はロータンク30を載置するためのロータンク載置部1rとなっている。ロータンク載置部1rに載置されたロータンク30とリム部3とは、図示しないディストリビュータを介して接続されている。このディストリビュータは、リム部3に片回り方向に水を供給するよう構成されている。該ロータンク30内に吸引装置40が設けられ、該吸引装置40の底部と吐水口12とが導管41によって接続されている。
【0026】
第4図を参照して、流出口周囲の低勾配部の範囲の定義について説明する。
【0027】
4tは、トラップ立上部5a側の便鉢2の内面の最下端部であり、便鉢内の水はこの最下端部4t付近を回り込んでトラップ立上部5aに流れる。
【0028】
Sは、この最下端部4tを含む水平面である。
【0029】
fは、この水平面Sと流出口4の内面との交点から立てた鉛直線である。
【0030】
10aは、低勾配部10の外周縁であり、この外周縁10aよりも外側では便鉢内面の勾配は20°を超えている。
【0031】
10bは、低勾配部10の内周縁であり、これよりも外周側では便鉢内面の勾配が20°以下である。該内周縁10bよりも流出口中心側では、勾配が20°を超えている。
【0032】
低勾配部10は、該内周縁10bから外周縁10aまでの範囲である。
【0033】
Lは内周縁10bから外周縁10aまでの水平距離であり、Lは鉛直線fから外周縁10aまでの水平距離であり、Lは鉛直線fから内周縁10bまでの水平距離である。
【0034】
このLは20〜120mm特に50〜100mmとりわけ50〜80mmであることが好ましい。Lを20mm以上とすることにより、便鉢2内の水がトラップ部5内に急激に流入して空気がトラップ部5に吸い込まれることが防止され、サイホンが長時間にわたって継続し、汚物排出能力が向上する。Lを120mm以下とすることにより、便鉢内の汚物がスムーズに流出口4へ流れ込むようになる。
【0035】
は20〜140mm特に60〜90mmであることが好ましい。
【0036】
は0〜20mm特に5〜10mmであることが好ましい。
【0037】
なお、この低勾配部10は、その全体が溜水面11よりも下位に位置することが望ましい。
【0038】
本発明において、この低勾配部10の勾配は好ましくは10〜15°である。15°以上であると低勾配部10に汚物が残留することが防止され、10°以下であるとトラップ部が急激に破封することがより確実に防止される。
【0039】
該流出口4は略円形となっている。また、溜水面11がリム部3の略中央に位置し、流出口4が溜水面11の略中央に位置している。
【0040】
なお、略円形とは、流出口の便器前後方向の径(縦径)と便器左右方向の径(横径)との比(縦径/横径)が好ましくは0.85〜1.25特に0.9〜1.2とりわけ0.95〜1.1であることを意味する。
【0041】
このように構成された洋風便器1は、トイレルームの床面に固定され、トラップ部5の下流端が排水ソケット6を介して、図示しない床面内の排水管の端部に接続される。
【0042】
この洋風便器1の便器洗浄時の状態について第5図(a),(b)を参照して説明する。第5図(a)はサイホン排出流形成工程の初期の状態を示す縦断面図、第5図(b)はサイホン排出流形成工程の終期の状態を示す縦断面図である。
【0043】
第1図の状態において、フラッシュハンドルやフラッシュスイッチが操作されると、ロータンク30内の水がリム部3に供給開始される。この水は、リム部3を周回方向に流れながら、徐々に便鉢2内に流れ落ち、便鉢2の内面を旋回しながら流下する。これに伴って、便鉢2内の水位及びトラップ部5内の水位が上昇してトラップ立上部5aや立下部5bに溢流が開始する。また、トラップ部5内の空気が導管41を介して吸引装置40内に吸引され、トラップ部5内に負圧が形成される。これによりトラップ部5にサイホンが形成され、第5図(a)の通り、水がトラップ部5へ吸い出されるようにして排出され、便鉢2内の水位が低下し始める。
【0044】
第5図(a)において、便鉢2内の水面は低勾配部10より上方に位置している。ここで、便鉢前後方向及び左右方向において、リム部から水面までの距離はほぼ等しく、かつ水面から流出口4までの距離もほぼ等しいため、溜水が偏って吸引されることがなく、汚物とりわけ浮遊性の汚物bがスムーズに排出される。
【0045】
第5図(b)の通り、サイホン排出工程の終期には、便鉢2内の水面は流出口4の近傍まで低下する。このとき、リム部3から供給された洗浄水は、便鉢2の内面上部の急勾配に沿って流下するが、低勾配部10において洗浄水の流れ方向が水平方向側に変化させられる。これにより、洗浄水が一気に流出口4からトラップ部5内に流れ込んで便鉢2内の水位が急激に低下することが防止される。このため、トラップ部5内が一気に破封することがなくなり、サイホン現象が長期にわたって継続し、汚物が十分に排出される。また、サイホンの終了時に吸い込まれる空気量も少ないので、破封音も小さい。
【0046】
また、この実施の形態では、流出口4は略円形であるため、破封時まで流出口4の付近に強力な旋回流が形成され、便鉢2内の汚物が十分に排出される。
【0047】
本発明は、上記実施の形態のように吸引装置を有し、便鉢の溜水面がきわめて急激に低下する場合により効果的である。
【0048】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されない。例えば、ロータンクを省略し、給水管から洋風便器に直接洗浄水を供給する水道水直結式の洋風便器としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施の形態に係る洋風便器の縦断面図である。
【図2】第1図の洋風便器の平面図である。
【図3】第2図のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】第1図の洋風便器のサイホン排出流形成工程初期における状態を示す縦断面図である。
【図5】第1図の洋風便器のサイホン排出流形成工程終期における状態を示す縦断面図である。
【図6】従来の洋風便器の縦断面図である。
【図7】従来の洋風便器のサイホン排出流形成工程終期における状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 洋風便器
2 便鉢
3 リム部
4 流出口
5 トラップ部
6 排水ソケット
10 低勾配部
11 溜水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に上向きかつ略水平な流出口を有した便鉢と、該流出口に連なるトラップ部とを有する洋風便器において、
該流出口の周囲の全周にわたって勾配20°以下の低勾配部となっており、該低勾配部の内周縁部から外周縁部までの水平距離が20mm以上であることを特徴とする洋風便器。
【請求項2】
請求項1において、該低勾配部の勾配は0〜20°であることを特徴とする洋風便器。
【請求項3】
請求項1又は2において、該低勾配部の内周縁部から外周縁部までの水平距離が20〜120mmであることを特徴とする洋風便器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該流出口は略円形であることを特徴とする洋風便器。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該便鉢の上端に、便鉢内方に張り出したリム部が周設されており、
トラップ部が封水された状態における便鉢内の溜水面が、該リム部の略中央に位置し、
該流出口が、該溜水面の略中央に位置することを特徴とする洋風便器。
【請求項6】
請求項5において、該リム部から便鉢内面に沿って水が旋回して流下し、便鉢内面が洗浄されることを特徴とする洋風便器。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、さらに該トラップ部の空気を吸引するための吸引装置を有することを特徴とする洋風便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−169963(P2007−169963A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366622(P2005−366622)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】