説明

洋風大便器

【課題】 トラップ排水路の条件に応じて適正な洗浄水を供給できる洋風大便器を提供することを目的とする。
【解決手段】使用者の排泄物を受けるボールと、ボールと排水配管を水封し、床上又は床下に配置された排水配管に接続するトラップ排水路と、前記ボールに対して排泄物混じりの溜水を排水配管に対して排出するための給水を行う洗浄水給水手段と、を有する洋風大便器において、前記トラップ排水路と排水配管との接続が、床上又は床下に適した洗浄シーケンスに洗浄水給水手段の動作を切り替えることが可能な洗浄シーケンス切替手段を有することを特徴とする洋風大便器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋風大便器に関し、特に、トラップ排水路の条件に応じて適正な洗浄動作を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
洋風大便器の排水構造として、トイレルームの壁面に設けられた排水配管に便器のトラップ排水路を接続する床上排水構造と床面に設けられた排水配管に便器のトラップ排水路を接続する床下排水構造があり、床上排水構造の方が汚物の搬送に利用する洗浄水が多く必要であることが知られているが、通常は、両者とも同じ洗浄水量で洗浄するようになっている。
そのため床下排水構造の洋風大便器では、必要量以上の洗浄水が利用され、それが無駄水となっていたため、排水構造の違いによって洗浄水量を選択できるようにした提案がなされている。(例えば、引用文献1参照)
【0003】
【特許文献1】特開平3−90744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラップ排水路の排水構造の違いに着目し、洗浄水量を変更することで、効果的な洗浄を確保し、無駄水を極力なくすことができる点で優れているものの給水量設定手段によって、搬送能力の劣る床上排水の洗浄水を床下排水より多く供給するようにしているが、洗浄水の効果的な給水については、改善の余地があった。
本発明は、トラップ排水路の条件に応じて適正な洗浄水を供給できる洋風大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明は、使用者の排泄物を受けるボールと、ボールと排水配管を水封し、床上又は床下に配置された排水配管に接続するトラップ排水路と、前記ボールに対して排泄物混じりの溜水を排水配管に対して排出するための給水を行う洗浄水給水手段と、を有する洋風大便器において、前記トラップ排水路と排水配管との接続が床上又は床下に応じて、それに適した洗浄シーケンスに洗浄水給水手段の動作を切り替えることが可能な洗浄シーケンス切替手段を有することを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、トラップ排水路と排水配管との接続が、床上又は床下に適した洗浄シーケンスに洗浄水給水手段の動作を切り替えることによって、従来のように床上排水構造を単純に床下排水構造より多くの洗浄水量が必要とするということはしないで、例えば、床上排水構造と同じ洗浄水量で床上排水構造のものを効果的に洗浄できるようにしたり、床下排水構造の洗浄水量を更に少なくすることができるものである。なお、洗浄シーケンスとは、便器の洗浄動作を幾つかの工程に分け、その工程における洗浄水の供給工程を言う。サイホン便器の基本的な洗浄動作としては、便器洗浄が開始すると、洗浄水給水手段から供給される洗浄水は、まずボウル面を洗浄しながら洗浄水はトラップ排水路に向けて流下し、その後、トラップ排水路内が満水になることで、サイホン作用が起動し、そのサイホン作用によって汚物を便器から排出搬送し、サイホン作用が終了することで、汚物の排出搬送が終了し、供給される洗浄水によって再びトラップ排水路を水封することで洗浄動作は完了するようになっているが、上記工程で、洗浄水サイホン作用の起動に要する洗浄水の流量、サイホン作用持続時の洗浄水量の流量を比較した場合、サイホン作用が起動した後は、サイホン作用の引く力が十分であるので、洗浄水を供給して汚物等をトラップ排水路の入口に向けて押し込まなくても良いため、サイホン作用持続時の流量は少なくて良い。そのため、サイホン作用持続時の洗浄水の流量を小さくすることが可能であり、水量を低減できるものとなる。更に、その低減した水量をサイホン作用の起動に多くの洗浄水が必要な床上排水構造では、サイホン作用が起動するまでの洗浄水に更に、その分を利用することで、トータル水量を変えることなく効果的な洗浄が行えるのである。
【0007】
また、好ましい態様として、請求項2の発明は、トラップ排水路は、排水ソケットを介して排水配管に接続される。排水ソケットは、施工現場で組みつけられるため排水ソケットの形状で床上排水構造か床下排水構造が認識できるため洗浄シーケンスの変更が確実に行えるものである。
【0008】
また、好ましい態様として、請求項3の発明は、前記洗浄水給水手段の動作の切り替えは、トラップ排水路と排水配管の接続高さ又は排水芯長さの位置によって行うことにより、床上排水構造か床下排水構造だけでなく、それぞれの更に排水配管との接続状態に応じて、洗浄シーケンスを変更することで、より効果的な洗浄とトータル洗浄水の更なる低減が可能となる。なお、床上排水構造では、接続高さが高いほど、また、床下排水構造では、排水芯長さが短いほど、条件としては厳しい方向になるので、サイホン起動までの洗浄水量をより効果的に利用できるように洗浄工程の給水量を設定するのが望ましい。尚、接続高さは、トイレルーム床面から壁面に配置されている排水配管の中心位置までの高さを示し、排水芯長さは、便器の後壁から床面に配置されている排水配管の中心位置までの長さを示す。
【0009】
また、好ましい態様として、請求項4の発明は、前記排水ソケットは情報記憶手段を有し、前記トラップ排水路と組み合わせることによって情報を伝達して、前記洗浄シーケンス切替手段は自動的に切り替えられることにより、床上排水構造か床下排水構造との違いと共に床上排水構造の接続高さや床下排水構造の排水芯の情報も記憶することで、施工現場毎に条件が変化する仕様であっても施工作業者は特別な配慮を行うことなく最適な洗浄シーケンスを設定でき、効果的な洗浄を行える。
【0010】
また、請求項5記載の発明は、使用者の排泄物を受けるボールと、ボールと排水配管を水封するトラップ排水路と、前記トラップ排水路の流動状態を検出する流動検出手段と、前記ボールに対して排泄物混じりの溜水を排水配管に対して排出するための給水を行う洗浄水給水手段とを有する洋風大便器において、前記流動状態検出結果に適した洗浄シーケンスに洗浄水供給手段の動作を切り替えることが可能な洗浄シーケンス切替手段を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、流動状態を確認することで、床上排水構造か床下排水構造かも含め、排水配管状態によってバラツキを生じることのある配管内の流動状態を検知して自動的に洗浄シーケンスを切り替えることにより、効果的な洗浄を行うことができる。
【0012】
更に、好ましい態様として、請求項6記載の発明は、洗浄シーケンスの状態を報知する報知手段を有することにより、選定された現在の洗浄シーケンスの設定が誤りの無いものになっているかを確認することができる。また、行政の指導等で洗浄シーケンスが便器の能力で可能な節水性を利用できない現場では、具体的には、6Lの便器であるが、8Lでの洗浄を要請されるような現場では、その指示するものになっているかを確認することができ、行政の指定に合わせた他の洗浄シーケンスに変更することもできる。
【0013】
また、好ましい態様として、請求項7記載の発明は、洗浄シーケンスの相違は、洗浄工程の部分的な動作時間および/または供給水量率の相違であることにより、便器の洗浄方式の違いやトータルの洗浄水量の違い等によって、洗浄工程での最適な洗浄水量を細かく調整することができるので、トータルの洗浄水量の増加を抑制することはもちろんのこと、洗浄水量を低減しながら、より効果的な洗浄を行うことができる。
【0014】
また、好ましい態様として、請求項8記載の発明は、洗浄シーケンスは、ボール上縁から吐水するリム吐水工程と、トラップ排水路に向けて吐水するゼット吐水工程を含むことにより、サイホン作用の起動に効果的に働くゼット吐水を効果的に利用しながら、リム吐水とゼット吐水の分配やそのタイミングを適正に行うが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トラップ排水路の条件に応じて洗浄シーケンスを変更することで、適正な洗浄水を供給できる洋風大便器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
先ず、図1乃至図3により、本発明の実施形態による洋風大便器の構造を説明する。図1は、本発明の実施形態による洋風大便器を示す側面図であり、図2は図1に示す洋風大便器の平面図であり、図3は本発明の実施形態による洋風大便器を示す全体構成図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態による洋風大便器1は、便器本体2と、前記便器本体2の上面に配置された便座4と、前記便座4を覆うように配置された便ふた5と、前記便器本体2の後方上部に配置された局部洗浄装置3と、を備えている。さらに、前記便器本体2の後方には、機能部10が配置されており、前記機能部10はサイドパネル10aにより覆われている。
【0018】
前記便器本体2は陶器製または樹脂製であり、前記便器本体2には、汚物を受けるボール部12と、前記ボール部12の底部から延びるトラップ排水路14と、ジェット吐水を行うジェット吐水口16と、リム吐水を行うリム吐水口18が形成されている。
前記ジェット吐水口16は、前記ボール部12の底部に形成されており、前記トラップ排水路14の入口に指向してほぼ水平に配置され、洗浄水を前記トラップ排水路14に向けて吐出するようになっている。
前記リム吐水口18は、前記ボール部12の左側上部後方に形成されており、前記ボール部12の縁に沿って洗浄水を吐出するようになっている。
【0019】
前記トラップ排水路14は、入口部14aと、前記入口部14aから上昇するトラップ上昇管14bと、前記トラップ上昇管14bから下降する前記トラップ下降管14cとからなり、前記トラップ上昇管14bと前記トラップ下降管14cとの間が頂部14dとなっている。前記トラップ下降管14cは建物の排水配管Dと排水ソケット15を介して連設されており、前記ボール12内の排泄物混じりの溜水は、前記トラップ排水路14と前記排水ソケット15を介して、排水配管Dに排出されることになる。
【0020】
実施形態による洋風大便器1は、洗浄水を供給する水道に直結されており、水道の給水圧力により前記リム吐水口18から洗浄水が吐出される。また、ジェット吐水に関しては、前記機能部10に内蔵された貯水タンクに貯水された洗浄水を図示しない加圧ポンプによって加圧して、大流量で前記ジェット吐水口16から吐出させるようになっている。
【0021】
図3は、本発明の実施形態による洋風大便器を示す全体構成図である。図3により、実施形態による洋風大便器の機能部を詳細に説明する。
図3に示すように、機能部10には、定流量弁20と、電磁弁22と、リム吐水用バキュームブレーカ24と、リム吐水用フラッパー弁25が設けられている。さらに、給水路19には、貯水タンク32への給水とリム吐水を切り替える切替弁28と、貯水タンク32と、加圧ポンプ34と、ジェット吐水用バキュームブレーカ36と、ジェット吐水用フラッパー弁38と、水抜栓39が内蔵されている。また、前記機能部10には、前記電磁弁22の開閉操作、前記切替弁28の切替操作、及び、前記加圧ポンプ34の回転数や作動時間等を制御するコントローラ40が内蔵されている。
【0022】
前記定流量弁20は、止水栓42a、ストレーナ42b、及び分岐金具42cを介して入水口から流入した洗浄水を、所定の流量以下に絞るためのものである。本実施形態においては、この前記定流量弁20は、洗浄水の流量を16リットル/分以下に制限するようになっている。また、前記定流量弁20を通過した洗浄水は、前記電磁弁22に流入し、前記電磁弁22を通過した洗浄水は、前記切替弁28により、前記リム吐水口18又は前記貯水タンク32に供給されるようになっている。この前記切替弁28は、リム側であるリム側給水路18aとタンク側であるタンク側給水路32aの両方へ同じタイミングで洗浄水を供給可能であって、リム側とタンク側への給水量の割合を任意に変更することができる切替弁である。
【0023】
前記電磁弁22は、前記コントローラ40の制御信号により開閉され、供給された洗浄水を前記切替弁28に流入させ、又は停止するようになっている。
また、前記切替弁28は、前記コントローラ40の制御信号により切り替えられ、前記電磁弁22を介して流入した洗浄水を前記リム吐水口18から吐出させ、又は、前記貯水タンク32に流入させるようになっている。
【0024】
前記リム吐水用バキュームブレーカ24は、前記切替弁28を通過した洗浄水を前記リム吐水口18へ導く前記リム側給水路18aの途中に配置され、洗浄水の前記リム吐水口18からの逆流を防止している。また、前記リム吐水用バキュームブレーカ24は、前記ボール部12の上端面よりも上方に配置され、これにより、逆流を確実に防止している。さらに、前記リム吐水用バキュームブレーカ24の大気開放部からあふれた洗浄水は、戻り管路24aを通って前記貯水タンク32に流入するようになっている。
【0025】
前記リム吐水用フラッパー弁25は、前記リム吐水用バキュームブレーカ24の下流側の前記リム側給水路18aに配置され、洗浄水の前記リム吐水口18からの逆流を防止している。本実施形態においては、前記リム側給水路18aに前記リム吐水用バキュームブレーカ24と前記リム吐水用フラッパー弁25を直列に配置することによって、より確実に洗浄水の逆流を防止している。
【0026】
前記貯水タンク32は、前記ジェット吐水口14から吐水すべき洗浄水を貯水するように構成されている。なお、本実施形態において、貯水タンクは、約2.5リットルの内容積を有する。
【0027】
さらに、本実施形態においては、前記タンク給水路32aの先端(下端)は貯水タンク32より上方の位置に開口されており、前記貯水タンク32から前記タンク給水路32aへの逆流を防止している。また、前記貯水タンク32の内部には、上端フロートスイッチ32b及び下端フロートスイッチ32cが配置されており、前記貯水タンク32の水位を検出できるようになっている。前記上端フロートスイッチ32bは、前記貯水タンク32内の水位が所定の貯水水位に達するとオンに切り替わり、前記コントローラ40はこれを検知して、前記電磁弁22を閉鎖させる。一方、前記下端フロートスイッチ32cは、前記貯水タンク32内の水位が所定の水位まで低下するとオンに切り替わり、前記コントローラ40はこれを検知して、前記加圧ポンプ34を停止させる。
【0028】
また、前記貯水タンク32の上部には、その上端の開口部を覆うように蓋体32dが取り付けられており、前記蓋体32dの外周と前記貯水タンク32上部の内壁面の間は水密的に接合されている。さらに、蓋体には、円形の穴が設けられこの穴を取り囲むように、筒体が上方に向けて延びるように取り付けられている。
【0029】
また、前記貯水タンク32の壁面は、前記蓋体32dよりも上方まで延びており、前記貯水タンク32の筒体から溢れた洗浄水は、前記蓋体32dの上に溜まるになっている。さらに、前記貯水タンク32の前記蓋体32dよりも上方の壁面には、排水通路32fが接続されており、蓋体の上に溜まった洗浄水を前記ボール部12に排出できるようになっている。
【0030】
前記加圧ポンプ34は、前記貯水タンク32に貯水された洗浄水を加圧して、前記ジェット吐水口16から排出させるためのものである。前記加圧ポンプ34は、前記貯水タンク32の下部から延びる洗浄水管路34aにより接続され、前記貯水タンク32内に貯水された洗浄水を加圧する。なお、本実施形態においては、前記加圧ポンプ34は、前記貯水タンク32内の洗浄水を加圧して、洗浄水を最大約120リットル/分の流量で前記ジェット吐水口16から吐出させるようになっている。
【0031】
また、前記洗浄水管路34aの途中には、逆止弁であるジェット吐水用フラッパー弁38及び水抜栓39が設けられている。これらの前記ジェット吐水用フラッパー弁38及び前記水抜栓39は、前記加圧ポンプ34よりも下方の、前記貯水タンク32の下端部付近の高さに配置されている。このため、前記水抜栓39を開放することにより、メンテナンス時等に前記貯水タンク前記内及び前記加圧ポンプ34内の洗浄水を排出することができる。また、前記貯水タンク32と前記加圧ポンプ34の間に前記ジェット吐水用フラッパー弁38を配置することにより、前記貯水タンク32内の水位が前記加圧ポンプ34の高さよりも低くなった場合に、洗浄水が前記加圧ポンプ34から前記貯水タンク前記に逆流し、前記加圧ポンプ34内の洗浄水が抜けて次回ポンプ駆動時に空転状態になるのを防止している。
【0032】
一方、前記加圧ポンプ34の流出口は、洗浄水管路34bを介して、前記ボール部12底部の前記ジェット吐水口前記に接続されている。この前記洗浄水管路14の途中は、上方に向けて凸型に形成されており、この凸型部分の最も高い部分である洗浄水管路頂部44は、前記貯水タンク32から前記ジェット吐水口16に至る洗浄水管路の中で最も高い部分になっている。
【0033】
前記ジェット吐水用バキュームブレーカ36は、前記加圧ポンプ34及び前記洗浄水管路頂部44の下流側から分岐した分岐管路36aに接続されており、前記ボール部12内の溜水が前記貯水タンク32側へ逆流するのを防止すると共に、それらの間の縁切りを行うようになっている。また、前記ジェット吐水用バキュームブレーカ36の大気開放部から溢れた洗浄水は、戻り管路36bを通って前記貯水タンク32に流入するようになっている。
【0034】
前記コントローラ40は、使用者による図示しない便器洗浄スイッチの操作により、前記電磁弁22、前記切替弁28、前記加圧ポンプ34を順次作動させ、前記リム吐水口18及び前記ジェット吐水口14からの吐水を順次開始させて、前記ボール部12を洗浄する。さらに、前記コントローラ40は、洗浄終了後、前記電磁弁22を開放し、前記切替弁28を前記貯水タンク32側に切り替えて洗浄水を前記貯水タンク32に補給する。前記貯水タンク32内の水位が上昇し、前記上端フロートスイッチ32bが規定の貯水量を検知すると、前記コントローラ40は、前記電磁弁22を閉鎖して給水を停止する。
【0035】
前記トラップ排水路14は、排水ソケット15を介して排水配管Dと連通する。図1から図3の実施例は、共に床排水(床下排水構造)の事例である。床排水の場合、溜水面と排水配管の間には約250mmの落差がある。対して排水高さ120mmの壁排水(床上排水構造)を想定した場合、溜水面と排水配管の間には約130mmの落差しかなく、当然、壁排水の方が同一洗浄水量・同一洗浄シーケンスだと排出性能は低いことになる。排水高さ155mmになると、更に排出性能は低下する。床排水であっても、排水位置が後壁から200mmの場合と、後壁から540mmの場合では、後壁からの曲がり距離が短いほど、即ち、200mmの方が排出性能は低くなる。排出性能の違いは、溜水面と排水配管との間の落差に起因し、落差が大きいほど位置エネルギーは大きくなるので、サイホン作用が起こりやすく、落差が小さいほど位置エネルギーは小さくなり、サイホン作用が起こりにくくなるために起こる。また、後壁からの曲がりの距離が短いほど、水で満水にする体積が少ないため、距離が長い場合より、サイホン作用の強さが低下するということが考えられる。
【0036】
また、排出性能の低下は、トラップ排水路への洗浄水の供給効率の悪さに起因するサイホン作用の起動の遅れ、あるいはサイホン作用が弱いということが考えられる。そのため、ポンプの回転数を上げ、短時間でゼット吐水の瞬間流量を上げることによって、トラップ排水路を早期に満水化できるように洗浄水の供給効率を上げることができるので、前リムの水量は増加させずに排出性能が高い場合と同じタイミングでサイホン作用を起動させることができる。サイホン作用起動後は、サイホン作用が切れない程度の洗浄水を供給すれば良いので回転数を下げるなど、サイホン作用を持続させるのに最適なポンプの回転数、回転時間に調整し、洗浄水量を増やすことなく効果的に洗浄が行える。
【0037】
また、前記排水ソケット15は構成を後述する流動検出手段、および/または情報記憶手段を内蔵している。また前記コントローラ40は、流動検出手段、および/または情報記憶手段から得られる洗浄シーケンス切替手段を内蔵しており、最適な水量をリムやゼットに分配する洗浄シーケンスを選択することで、洗浄水量ロスの発生を防止した効果的な洗浄を行える。また、手動で洗浄シーケンスを切り替えるという操作を配することにより作業ミスによる洗浄不良や洗浄水量ロスの発生も防止を計っている。
【0038】
図4は、本発明を実施した実施形態における洋風大便器のシステムブロック図である。図4を使用して、各部の連係動作を詳説する。
本発明の洋風大便器1は、大きく便器本体2とコントローラ40に分かれている。コントローラ40には、洗浄シーケンス切替手段40aと操作・表示手段41が組み込まれている。操作・表示手段41は便器洗浄操作信号を受付け、各部に所定の洗浄シーケンス情報を伝達すると共に、洗浄シーケンスの設定内容を報知するための報知手段41aと、前記洗浄シーケンスの変更操作を実施するための設定変更手段41bが組み込まれている。使用者が操作・表示手段41より便器洗浄操作を実施すると、コントローラ40は洗浄水給水手段6、流路切替手段7、洗浄水貯留手段8、およびジェット給水手段9を順次作動させ、ボール部12を洗浄する。リム吐水口18とジェット吐水口16から所定のタイミング・給水量率・給水時間で給水は実施され、トラップ排水路14、排水ソケット15を経て、排泄物混じりの溜水は排水配管Dに排出されることになる。
【0039】
なお、洗浄に当っては、トラップ排水路の条件によって変更される。例えば、初期設定では、洗浄シーケンスは、排水条件の厳しい壁排水に好適に設定されているので、床排水の現場では、施工作業者が床排水に好適な洗浄シーケンスに設定を変えることによって、適正な洗浄動作が行われる。その際、排水配管との接続高さに応じた洗浄シーケンスの選択も可能であるので、それに応じた適正な洗浄シーケンスを選択する。排水ソケットを利用する場合には、その外観で床排水か壁排水かを判断しやすい。
【0040】
また、排水ソケット15に内蔵された流動状態を流動検出手段15aで検出しながら適切な洗浄シーケンスが選択されたり、排水ソケット15に内蔵された情報記憶手段15bの情報によって、床排水か壁排水かを判定したり、排水高さや排水芯位置を確認して、洗浄シーケンス切替手段が、洗浄シーケンスを適切な内容に切り替えるようになっている。情報記憶手段15bはコントローラ40に備えてもよい。洗浄シーケンスを排水ソケットの仕様によって変更しても、使用者の要望に沿った洗浄が実施できないことがある。また、下水道の要求仕様によって、洗浄水量を変更する必要が発生することもある。そのような場合のために、現在の洗浄シーケンスが何であるか報知する。報知手段は便座に取り付けられている。また、洗浄シーケンスの手動切替方式としては、局部洗浄装置3に取り付けられている図示しない補助操作スイッチにより洗浄シーケンスの切替を行う。報知手段はLEDやブザーで報知すればよい。洗浄シーケンスにより、LEDの発行パターンや、ブザーのパターンを決めておくと、切替作業を行うものは設定ミスを行うことがない。
【0041】
洗浄シーケンスは、床排水、壁排水、トラップ排水路と排水配管との接続高さ、排水芯長さ、トラップ排水路の流動状態の条件によって、複数のテーブルを予め持っており、そのテーブルを手動動作では、確認して設定すれば良いが、排水ソケット等が記憶手段を持っている場合には、上記したように自動で設定されるものとなる。
【0042】
次に、上述した本発明の実施形態における洋風大便器の断面図について説明する。図5は、本発明の洋風大便器の断面図である。
排水ソケット15とトラップ排水路14を接続する部分に、便器本体2と排水ソケット15を組み合わせることによって、切り替わるスイッチが設けてある。切替スイッチ15cが排水ソケット15の存在を検出した場合、排水方向は床であることが検出される。切替スイッチ15dは壁排水高さを検出するスイッチであり、排出高さで排出能力が変わることに配慮した洗浄シーケンスの切替が実施される。壁排水高さを検出方法としては、エンコーダ式の検出であったり、ホールICのようなセンシング方式であっても良い。前述の切替スイッチ15cも、単純なON/OFFスイッチではなく、エンコーダ式の検出方式を採用すれば、排水芯にで排出能力が変わることに配慮した洗浄シーケンスの切替が実施される。この検出は施工時に、便器本体2と排水ソケット15を組み合わせることによって自動的に切り替えることができる。排水ソケット15の外形違いであったり、具体的に寸法情報を組み込むことで、情報記憶手段15bが実現されることになる。
【0043】
また、排水ソケットの仕様を自動的に判別するのは、圧力センサ15eを用いても良い。便器の排出は大気圧と排水ソケット15内の圧力差によって発生することになるが、圧力差の発生状態で流出状態は推測できることになる。前記圧力センサー15eが、流動検出手段15aの代表事例である。排水配管内の雰囲気を配慮し、圧力測定の方式としては半導体圧力センサーが推奨されることになる。サイホンが起動すると、排水ソケット内の圧力は、急激に負圧を生じる。床排水の場合、サイホンが起こると、壁排水の場合より急激に負圧を生じる。そのため、負圧を生じたときの傾きを見ることで、床排水か、壁排水かを判別できる。また、床排水は壁排水の場合より、サイホンが起動する時間が早い。そのため、所定の圧力になるまでの時間を検知することにより床排水と壁排水を判別できる。さらに、所定の時間の時に圧力がどの程度かを検知して、床排水と壁排水を判別することもできる。
【0044】
次に、上述した本発明の実施形態における洗浄シーケンスについて説明する。図6は、床排水と壁排水における、本発明の洗浄シーケンスのタイムチャート比較である。グラフの横軸は経過時間、縦軸は単位時間当たりの給水量率である。
排水の形態・仕様によりサイホン作用の起動時間や強さが異なる。床排水の場合はサイホン作用が強く、持続力がある。また、サイホン作用の起動も早いため、サイホン作用を起動させるための水量は少なくてすむ。壁排水の場合は床排水と比べると、サイホン作用が弱く、持続力もない。また、起動は遅いため、サイホン作用を起動させるために水を多く使う必要がある。このような排水の形態・仕様により、サイホン作用に違いがあるため、リムやジェットに効率的に水を分配する必要がある。具体的に変化させる定数はリム吐水時間やポンプの回転数ポンプの回転時間である。
【0045】
Ry1及びRk2は床排水と壁排水の前リム時間である。前リムは便器配管内に残留している空気を、ボール12の中にある水の水位を上昇させることで空気抜きし、また、水位上昇することでヘッドを高くしてサイホン作用をより起こりやすくする役目がある。そのため、サイホン作用の起こりにくい壁排水の場合は床排水の場合より前リム時間をを長くする(例えばRy1<Rk1)。
【0046】
次にジェットはサイホン作用を起動させ、排泄物を排水配管に排出する役目がある。Jy及びJkは床排水と壁排水それぞれのジェット時間である。壁排水の場合はサイホン作用の起動が弱いという特徴があるためポンプの回転時間を長くして排泄物を排水配管に押し出す(例えばJy<Jk)。また、Ny及びNkはそれぞれポンプの回転数を示す。壁排水の場合はサイホン作用の起動が床排水の場合より遅いため、回転数を上げて、サイホン作用の起動を早く行う(例えばNy<Nk)。
【0047】
最後に後リム時間について説明する。図6のRy2及びRk2はそれぞれ床排水と壁排水の後リム時間である。後リムは排水配管からの臭気の発生を防ぐため、ボール12を封水するという役目がある。床排水の場合はサイホン作用が強く、また持続力もあるため、サイホン作用終了時には多くの水が排水配管に排出され、残る水が少ないため、封水するためにリム時間を長くする必要がある(例えばRy2<Rk2)。
【0048】
図7は、本発明を実施した洋風大便器のフローチャートの1実施例である。上述した本発明の実施形態における洋風大便器の動作について説明する。切替スイッチの方式においては、検出状態によって一義に洗浄シーケンスが決まるものであるが、本実施例は流動状態を検出して洗浄シーケンスを変更する方法を示す。
施工後1回目の洗浄で判定シーケンスがスタートする(S101)。まず壁排水シーケンスで洗浄を行う(S102)。洗浄スイッチが押されると(S103)、水は便器部を通り、排水ソケットに流される。そのとき、圧力状態検知を開始する(S104)。その結果を情報記憶手段及び洗浄シーケンス切替手段に伝達する。洗浄シーケンス切替手段は判定を実施する(S105)。結果を確認して、洗浄シーケンスを床排水シーケンスか壁排水シーケンスかに切り替える(S106,S107)。次回以降は、切り替えた洗浄シーケンスで洗浄を行う。施工時のみの選定が一般的であるが、排水配管状態が建物の状態によって代わることがあるため、メンテナンスモードで適宜実施しても良い。
【0049】
上記実施形態では、ポンプ給水による便器が、ポンプの回転数を変更することで、給水率を幅広く変更で、種々の洗浄シーケンスに対応できる点で優れているので説明したが、水道水からの給水圧を直接利用するタイプの洋風大便器でも良い。
【0050】
また、上記実施態様では、サイホン作用を早期に起動できるため、サイホンゼット便器にて説明したが、ゼットの無いサイホン便器でも良い。サイホン便器の場合には、水位上昇がある程度おきて排水管路を満水にして、サイホン作用が起動するが、必要以上の水位上昇は、ボール内に汚物を載せた状態の旋回流を広げて、ボウル周縁に汚物を拡散してしまいサイホン作用が起動し、水位が一気に下がる際に取り残されるという不具合があるため、水位上昇とサイホン作用の起動を考慮した洗浄シーケンスとすることが望ましい。
【0051】
また、本実施形態では、排水ソケットを有する洋風大便器にて説明したが、トラップ排水路を直接排水配管に接続したものにも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態による洋風大便器を示す側面図である。
【図2】本発明の洋風大便器の平面図である。
【図3】本発明の実施形態による洋風大便器を示す全体構成図である。
【図4】本発明を実施した実施形態における洋風大便器のシステムブロック図である。
【図5】本発明の洋風大便器の断面図である。
【図6】本発明の洗浄シーケンスのタイムチャート比較である。
【図7】本発明を実施した洋風大便器のフローチャートの1実施例である。
【符号の説明】
【0053】
1…洋風大便器
2…便器本体
3…局部洗浄装置
4…便座
5…便ふた
6…洗浄水給水手段
7…流路切替手段
8…洗浄水貯留手段
9…ジェット吐水手段
10…機能部
10a…サイドパネル
12…ボール部
14…トラップ排水路
14a…入口部
14b…トラップ上昇管
14c…トラップ下降管
14d…頂部
15…排水ソケット
15a…流動検出手段
15b…情報記憶手段
16…ジェット吐水口
18…リム吐水口
18a…リム側給水路
19…給水路
20…定流量弁
22…電磁弁
24…リム吐水用バキュームブレーカ
24a…戻り管路
25…リム吐水用フラッパー弁
28…切替弁
32…貯水タンク
32a…タンク側給水路
32b…上端フロートスイッチ
32c…下端フロートスイッチ
32d…蓋体
32f…排水通路
34…加圧ポンプ
34a…洗浄水管路
36…ジェット吐水用バキュームブレーカ
36a…分岐管路
36b…戻り管路
38…ジェット吐水用フラッパー弁
39…水抜栓
40…コントローラ
40a…洗浄シーケンス切替手段
41…操作・表示手段
41a…報知手段
41b…設定変更手段
42a…止水栓
42b…ストレーナ
42c…分岐金具
44…洗浄水管路頂部
D…排水配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の排泄物を受けるボールと、
ボールと排水配管を水封し、床上又は床下に配置された排水配管に接続するトラップ排水路と、
前記ボールに対して排泄物混じりの溜水を排水配管に対して排出するための給水を行う洗浄水給水手段と、
を有する洋風大便器において、
前記トラップ排水路と排水配管との接続が床上又は床下に応じて、それに適した洗浄シーケンスに洗浄水給水手段の動作を切り替えることが可能な洗浄シーケンス切替手段を有する
ことを特徴とする洋風大便器。
【請求項2】
前記トラップ排水路は、排水ソケットを介して排水配管に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の洋風大便器。
【請求項3】
前記洗浄水給水手段の動作の切り替えは、トラップ排水路と排水配管の接続高さ又は排水芯長さの位置によって行う
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の洋風大便器。
【請求項4】
前記排水ソケットは情報記憶手段を有し、
前記トラップ排水路と組み合わせることによって情報を伝達して、
前記洗浄シーケンス切替手段は自動的に切り替えられる
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の洋風大便器。
【請求項5】
使用者の排泄物を受けるボールと、
ボールと排水配管を水封するトラップ排水路と、
前記トラップ排水路の流動状態を検出する流動検出手段と、
前記ボールに対して排泄物混じりの溜水を排水配管に対して排出するための給水を行う洗浄水給水手段と
を有する洋風大便器において、
前記流動状態検出結果に適した洗浄シーケンスに洗浄水供給手段の動作を切り替えることが可能な洗浄シーケンス切替手段を有する
ことを特徴とする洋風大便器。
【請求項6】
前記洗浄シーケンスの状態を報知する報知手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の洋風大便器。
【請求項7】
前記洗浄シーケンスの相違は、
洗浄工程の部分的な動作時間および/または供給水量率の相違である
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の洋風大便器。
【請求項8】
前記洗浄シーケンスは、ボール上縁から吐水するリム吐水工程と、トラップ排水路に向けて吐水するゼット吐水工程を含むことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の洋風大便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−77681(P2010−77681A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246996(P2008−246996)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】