説明

洗い落し式大便器

【課題】便器のボウル面への汚れを防ぐ、節水式洗い落とし便器の提供。
【解決手段】ボウル部3内の汚物を排出するようにボウル部3の底部と連通して延び、ボウル部3の溜水水位を規定する最上端の堰部を備えたトラップ管路5と、リム部に洗浄水を吐水し汚物受け面上に旋回流を形成する第1吐水部14と、第1吐水部14よりも下方で汚物受け面に形成され、ボウル部3の溜水に洗浄水を吐水し、ボウル部内の洗浄水を上下に攪拌する流れを形成する第2吐水部15と、第1吐水部14に洗浄水を供給する第1通水路16と、第2吐水部15に洗浄水を供給する第2通水路17を有し、トラップ管路5の堰部には、ボウル部3の溜水水位を変更する溜水水位変更手段1を設け、溜水水位変更手段1は、洗浄開始前において、ボウル部3の溜水水位を第2吐水部より高い水位とし、洗浄開始後直後において、ボウル部3の溜水水位を第2吐水部より低い水位とするように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗い落し式大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、サイホン作用を生じさせない便器として、洗い落し式便器が知られている。
このような従来の洗い落し式便器は、サイホン作用を生じさせて便器を洗浄するサイホン式便器に比べて、水の落差による流水作用で汚物を押し流す方式で構造がシンプルであり、かつ安価であることに加えて、サイホン作用を生じさせないため、便器洗浄に用いられる洗浄水の量が少なくて済むという利点を有する。したがって、従来から便器に要請されている洗浄水の節水のニーズにも合致したものとなっている。
【0003】
近年において、便器の洗浄性能を向上させると共に、さらなる洗浄水量の節水化を達成させることが要請されており、ボウル部上に旋回流を形成する第1吐水部とボウル部内の洗浄水を攪拌する流れを形成する第2吐水部とを備えた節水便器が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような便器では、洗浄中にボウル部内の溜水を上下に攪拌することによって溜水の水面に浮いていた浮遊汚物が溜水中に沈められ、トラップ管路を通って排出させることで洗浄性能の向上と節水化を同時に達成しており、溜水を上下に攪拌させる必要があることから、第2吐水部を洗浄開始前の溜水水位より上方のボウル部に形成することが必然の構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3975486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されている第2吐水部の開口を洗浄開始前の溜水水位より上方のボウル部に形成している便器では、排泄時に第2吐水部の開口が空気中に露出しているために、第2吐水部の開口付近に汚物等が付着し易く、第2吐水部の開口に汚物が入り込んで付着した場合は汚物が残存する可能性があるという問題がある。また、洗浄後に、第2吐水口の開口に連通する導水路内に残留した洗浄水が、第2吐水口の開口からボウル部を伝い溜水へ少量づつ流下することにより、第2吐水口の開口付近のボウル部には水垢やカビ等が発生し易くなり、それらが汚れとなって付着する可能性があるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、便器のボウル面に付着する汚物等による汚れを防止し、さらなる節水化を達成することができる洗い落し式大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、洗浄水によって便器を洗浄し、汚物を押し流し排出する洗い落し式大便器であって、ボウル形状の汚物受け面と、その上縁の内壁面が内方に向って張り出しているリム部と、を備えたボウル部と、このボウル部内の汚物を排出するようにボウル部の底部と連通して延び、ボウル部の溜水水位を規定する最上端の堰部を備えたトラップ管路と、リム部に形成され、リム部に洗浄水を吐水し汚物受け面上に旋回流を形成する第1吐水部と、この第1吐水部よりも下方で汚物受け面に形成され、ボウル部の溜水に洗浄水を吐水し、ボウル部内の洗浄水を上下に攪拌する流れを形成する第2吐水部と、第1吐水部に洗浄水を供給する第1通水路と、第2吐水部に洗浄水を供給する第2通水路と、を有する洗い落し式大便器において、トラップ管路の堰部には、ボウル部の溜水水位を変更する溜水水位変更手段が設けられており、溜水水位変更手段は、洗浄開始前において、ボウル部の溜水水位を第2吐水部より高い水位とし、洗浄開始後直後において、ボウル部の溜水水位を第2吐水部より低い水位とするように制御されることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、洗浄開始前の汚物排泄時において、第2吐水部はボウル部の溜水中に存在するため、汚物等が付着することがなく、第2吐水部内に汚物が入り込んで汚物が残存することを防止することができる。汚物等が付着し洗浄し難い第2吐水部の汚れを防止することができるため、従来のものと比べさらに少量の洗浄水で洗浄することができるようになりさらなる節水化を達成することができる。また、洗浄開始直後においては、第2吐水部はボウル部の溜水水位より高い空気中に存在するため、第2吐水部から吐出される洗浄水により、ボウル部内の溜水を上下に攪拌することができ、洗浄性能の向上と節水化を同時に達成することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、溜水水位変更手段は、第2吐水部より洗浄水が吐出される前に、ボウル部の溜水水位を第2吐水部より低い水位とするように制御されることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、第2吐水部より洗浄水が吐出される前においては、第2吐水部はボウル部の溜水水位より高い空気中に存在するため、第2吐水部から吐出される洗浄水により、ボウル部内の溜水を上下により攪拌することができ、洗浄性能の向上と節水化を同時に達成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、便器のボウル面に付着する汚物等による汚れを防止し、さらなる節水化を達成することができる洗い落し式大便器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】洗浄開始前における本発明の洗い落し式大便器の断面図である。
【図2】洗浄開始後、第2吐水部より洗浄水が吐出される前における本発明の洗い落し式大便器の断面図である。
【図3】本発明の洗い落し式大便器におけるシステムブロック図である。
【図4】本発明の洗い落し式大便器における洗浄時のタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、洗浄開始前における本発明の洗い落し式大便器の断面図である。図1を使用して、待機時と排泄時の動作について詳説する。
洗い落し式大便器10は、使用者が排泄を行うボウル部3に連接されたトラップ管路5によって、溜水が形成されている。また、ボウル部3の側壁には第2吐水部としてのサイドゼット吐水口15が形成されている。このサイドゼット吐水口15はボウル部3の封水深50mm以上100mm未満の高さに形成されており、図示しない給水装置と第2通水路17を介して連結されている。待機時、トラップ管路5のクラウン1に設置された堰部2は上方に移動しており、溜水4はゼット吐水口13よりも高い水位(初期溜水水位A)まで上昇している。溜水4は建築基準法施工令で規定された封水深50mm以上100mm以下という規定を満たしており、排水管路に対する衛生性が確保されている。水位が高くなった状態(初期溜水水位Aの状態)で、使用者は排泄を行う。このとき溜水4が上昇しており、ボウル部3の汚物受け面18にある乾燥面の領域が狭くなっている。これにより、ボウル部3の乾燥面に排泄物が付着することを減少させることができる。
【0012】
溜水4を、洗浄開始前において、ボウル部3の溜水水位をサイドゼット吐水口15より高い水位(初期溜水水位A)としているため、サイドゼット吐水口15はボウル部3の溜水中に存在するため、汚物等が付着することがなく、サイドゼット吐水口15内に汚物が入り込んで汚物が残存することを防止することができている。
【0013】
図2は、洗浄開始後、第2吐水部より洗浄水が吐出される前における本発明の洗い落し式大便器の断面図である。使用者が便器洗浄操作を行って、具体的に排泄物が排出される動作について詳説する。
使用者の排泄が終わり、使用者が図示しない便器洗浄操作手段を操作すると、同じく図示しない給水装置は、洗い落し式大便器10のリム部12に設けてある第1吐水部14から洗浄水を供給する。洗浄開始直後、堰部2が下降を開始する。堰部2が下降することにより、溜水4がサイドゼット吐水口15よりも低い水位(B)まで低下する。その後、図示しない給水装置はサイドゼット吐水口15へ水を供給する。サイドゼット吐水口15からの洗浄水は、上下方向の旋廻流を形成して、溜水面付近に浮遊している汚物を、ボウル部3に貯水された水中に攪拌させることが可能であるため、サイドゼット吐水口15によって形成される上下方向の旋廻流は、汚物を巻き込みながらトラップ管路5に向かって流れる。この効果により、サイホン作用がなくても汚物の排出は充分可能となり、排泄物は上下方向の旋廻流によって攪拌された溜水とともに図示しない建物の配水配管へと排出される。このとき、トラップ管路5の堰部2が下降していることにより、少ない水量であっても排泄物がトラップ管路5のクラウン1を超えて配水配管へと排出される。洗い落とし式便器であるため、溜水全てが排出されることは無く、あくまで排泄物を押し出すために使用される水が洗浄水量であるため、より節水化が可能となる。排出動作が完了すると、堰部2は図1の状態に戻り、待機時の封水深を確保するようになっている。
【0014】
図3は、本発明の洗い落し式大便器におけるシステムブロック図である。図3を使用して各部の連係動作について詳説する。
市水は、給水装置8を介して洗い落し式大便器10のボウル部3に供給され、トラップ管路5を介して排水配管11に導かれるようになっている。使用者が便器洗浄動作を指示する操作手段6を入力とし、溜水水位変更手段である堰部2を上下駆動する堰部駆動手段7と給水装置8は、制御手段9によって動作している。
【0015】
図4は、本発明の洗い落し式大便器における洗浄時のタイミングチャート図である。図4を使用して使用者の動作に対応した各部の連携動作について詳説する。
洗い落し式大便器10は、排泄を行うボウル部3に連接されたトラップ管路5によって、溜水4の水位が高くなった状態で待機している。使用者が排泄を行うために洗い落し式大便器10に座り、排泄を行う。排泄を行うと使用者は操作手段6により洗浄開始操作を行う。その時、操作手段6より制御手段9に信号が送られる。制御手段9は給水装置8に信号を送り、ボウル洗浄が開始される。所定の時間、ボウル部を洗浄した後、汚物排出の動作を行うため、制御手段9から堰部駆動手段7へ信号を送る。制御手段9より信号を受けた堰部駆動手段7は堰部2の下降を開始して汚物を排出させる。所定の時間の後、制御手段9からの信号により堰部駆動手段7は堰部2の上昇を開始する。堰部2の上昇が終了し、溜水4の水位が待機時の水位まで達した状態になった後、制御手段9からの信号により、給水装置8からの洗浄が終了し、洗浄終了となる。
【0016】
上述の本実施形態では、洗浄水によって便器を洗浄し、汚物を押し流し排出する洗い落し式大便器10であって、ボウル形状の汚物受け面18と、その上縁の内壁面が内方に向って張り出しているリム部12と、を備えたボウル部3と、このボウル部3内の汚物を排出するようにボウル部3の底部と連通して延び、ボウル部3の溜水水位を規定する最上端の堰部2を備えたトラップ管路5と、リム部12に形成され、リム部12に洗浄水を吐水し汚物受け面上に旋回流を形成する第1吐水部14と、この第1吐水部14よりも下方で汚物受け面18に形成され、ボウル部3の溜水に洗浄水を吐水し、ボウル部3内の洗浄水を上下に攪拌する流れを形成する第2吐水部15と、第1吐水部14に洗浄水を供給する第1通水路16と、第2吐水部15に洗浄水を供給する第2通水路17と、を有する洗い落し式大便器10において、トラップ管路の堰部2には、ボウル部の溜水水位を変更する溜水水位変更手段が設けられており、溜水水位変更手段は、洗浄開始前において、ボウル部3の溜水水位を第2吐水部15より高い水位(A)とし、洗浄開始後直後において、ボウル部3の溜水水位を第2吐水部15より低い水位(B)とするように制御されることを特徴としている。このように構成された本実施形態においては、洗浄開始前の汚物排泄時において、第2吐水部15はボウル部3の溜水中に存在するため、汚物等が付着することがなく、第2吐水部15内に汚物が入り込んで汚物が残存することを防止することができる。汚物等が付着し洗浄し難い第2吐水部15の汚れを防止することができるため、従来のものと比べさらに少量の洗浄水で洗浄することができるようになりさらなる節水化を達成することができる。また、洗浄開始直後においては、第2吐水部15はボウル部3の溜水水位より高い空気中に存在するため、第2吐水部15から吐出される洗浄水により、ボウル部3内の溜水を上下に攪拌することができ、洗浄性能の向上と節水化を同時に達成することができる。
【0017】
上述の本実施形態では、好ましくは、溜水水位変更手段は、第2吐水部15より洗浄水が吐出される前に、ボウル部3の溜水水位を第2吐水部15より低い水位(B)とするように制御されることを特徴としている。このように構成された本実施形態においては、第2吐水部15より洗浄水が吐出される前においては、第2吐水部15はボウル部3の溜水水位より高い空気中に存在するため、第2吐水部15から吐出される洗浄水により、ボウル部3内の溜水を上下により攪拌することができ、洗浄性能の向上と節水化を同時に達成することができる。
【符号の説明】
【0018】
1…クラウン
2…堰部
3…ボウル部
4…溜水
5…トラップ管路
6…操作手段
7…堰部駆動手段
8…給水装置
9…制御手段
10…大便器
11…排水配管
12…リム部
13…ゼット吐水口
14…第1吐水部
15…第2吐水部
16…第1通水路
17…第2通水路
18…汚物受け面
A…初期溜水水位
B…第2吐水部より低い溜水水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水によって便器を洗浄し、汚物を押し流し排出する洗い落し式大便器であって、
ボウル形状の汚物受け面と、その上縁の内壁面が内方に向って張り出しているリム部と、を備えたボウル部と、
このボウル部内の汚物を排出するように上記ボウル部の底部と連通して延び、上記ボウル部の溜水水位を規定する最上端の堰部を備えたトラップ管路と、
上記リム部に形成され、上記リム部に洗浄水を吐水し上記汚物受け面上に旋回流を形成する第1吐水部と、
この第1吐水部よりも下方で上記汚物受け面に形成され、上記ボウル部の溜水に洗浄水を吐水し、上記ボウル部内の洗浄水を上下に攪拌する流れを形成する第2吐水部と、
上記第1吐水部に洗浄水を供給する第1通水路と、
上記第2吐水部に洗浄水を供給する第2通水路と、を有する洗い落し式大便器において、
上記トラップ管路の上記堰部には、上記ボウル部の溜水水位を変更する溜水水位変更手段が設けられており、
上記溜水水位変更手段は、洗浄開始前において、上記ボウル部の溜水水位を上記第2吐水部より高い水位とし、洗浄開始後直後において、上記ボウル部の溜水水位を上記第2吐水部より低い水位とするように制御されることを特徴とする洗い落し式大便器。
【請求項2】
上記溜水水位変更手段は、上記第2吐水部より洗浄水が吐出される前に、上記ボウル部の溜水水位を上記第2吐水部より低い水位とするように制御されることを特徴とする請求項1に記載の洗い落し式大便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202400(P2011−202400A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70468(P2010−70468)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】