説明

洗浄システム

【課題】 気泡を含有する洗浄水を用いて、低コストで効率よく被塗物を洗浄することができる洗浄システムを提供すること。
【解決手段】 電着塗装エリア3で電着塗装された自動車ボデー2を洗浄するための洗浄システム1において、電着塗装エリア3の電着塗料の蒸発溶剤を回収するための回収ユニット7と、回収ユニット7により回収された蒸発溶剤を、気泡密度向上剤として含有する水を貯留するための貯留槽21、および貯留槽21内において気泡を発生させることにより、気泡を含有する洗浄水を調製するためのマイクロバブル発生装置22を有する調製ユニット8と、調製ユニット8から自動車ボデー2に対して、洗浄水を吐出するための吐出ユニット10と、回収ユニットで回収された蒸発溶剤を、調製ユニット8へ供給する供給ユニット9と設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装された被塗物を洗浄するための洗浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被塗物の洗浄方法として、気泡を含有する洗浄水を用いた洗浄方法が知られている。
例えば、被塗物に付着した金属粉を洗い流すための洗浄方法として、塗装前の金属成型物(被塗物)を洗浄液中に浸漬し、その洗浄液中に気泡を発生させ、気泡を金属粉に付着させることにより、金属粉を金属成型物から脱離させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−291395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、塗装後の被塗物には、その塗装面に残存する塗料の固形分に起因して、ブツや2次タレなどの塗装不具合を生じる場合がある。塗装不具合は被塗物の美観を損ねるため、塗装後に被塗物を洗浄することにより、塗料の固形分を除去する必要がある。
そこで、塗装後の被塗物を、気泡を含有する洗浄水を用いて洗浄することが検討されるが、そのような洗浄にあたっては、効率的かつ経済的な洗浄システムの構築が望まれる。
【0005】
本発明の目的は、気泡を含有する洗浄水を用いて、低コストで効率よく被塗物を洗浄することができる洗浄システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の洗浄システムは、電着塗装エリアで電着塗装された被塗物を洗浄するための洗浄システムであって、前記電着塗装エリアの電着塗料の蒸発溶剤を回収するための回収ユニットと、前記回収ユニットにより回収された前記蒸発溶剤を、気泡密度向上剤として含有する水を貯留するための貯留槽、および前記貯留槽内において気泡を発生させることにより、気泡を含有する洗浄水を調製するための気泡発生装置を有する調製ユニットと、前記調製ユニットから前記被塗物に対して、前記洗浄水を吐出するための吐出ユニットと、前記回収ユニットで回収された前記蒸発溶剤を、前記調製ユニットへ供給する供給ユニットとを備えることを特徴としている。
【0007】
この構成によれば、貯留槽において、気泡密度向上剤を含有する水中に気泡を発生させることによって洗浄水が調製される。そのため、被塗物に吐出する洗浄水に、気泡を高密度で混入させることができる。そして、その洗浄水を被塗物に吐出することにより、被塗物に残存する電着塗料の固形分に対して、その単位体積当たりに数多くの気泡を接触させることができる。その結果、電着塗料の固形分を容易に除去することができるので、被塗物を効率よく洗浄することができる。
【0008】
また、電着塗装エリアの電着塗料の蒸発溶剤が回収されて、それが気泡密度向上剤として用いられる。そのため、洗浄水の調製にあたって、気泡密度向上剤に要するコストを低減することができる。また、気泡密度向上剤が電着塗料の溶剤成分であるため、洗浄水中の気泡密度向上剤が被塗物に触れても、被塗物に悪影響を与えることがほとんどない。そのため、洗浄後においても、被塗物の美観を維持することができる。
【0009】
また、本発明の洗浄システムでは、前記調製ユニットは、前記蒸発溶剤を水に混合するための混合槽をさらに備え、前記貯留槽には、前記混合槽において前記蒸発溶剤が混合された水が貯留され、前記供給ユニットは、前記蒸発溶剤を前記混合槽へ供給することが好適である。
この構成では、回収ユニットにより回収された蒸発溶剤は、貯留槽に供給される前に、混合槽へ供給される。そのため、貯留槽での洗浄水の調製に必要な量を超える蒸発溶剤が回収されても、その超過分を混合槽に貯えておくことができる。その結果、回収された蒸発溶剤を無駄にせず、有効利用することができる。
【0010】
また、混合槽において蒸発溶剤が水に混合されるので、蒸発溶剤の供給量に応じて混合槽の水量を調節することにより、水中の溶剤濃度を容易に調節することができる。
また、本発明の洗浄システムでは、前記供給ユニットは、前記蒸発溶剤を冷却して凝縮するための冷却手段と、凝縮により生成する前記蒸発溶剤の液体を、前記混合槽へ供給するための液体供給手段とを備えることが好適である。
【0011】
この構成では、回収された蒸発溶剤が冷却手段により凝縮されるので、蒸発溶剤(気体)に不純物成分が含まれていても、不純物成分と溶剤成分とを分離し、純度の高い溶剤成分を液体として抽出することができる。そして、その液体の溶剤成分が混合槽へ供給される。溶剤成分が液体であり、しかも純度が高いので、溶剤成分の供給量を精密に把握することができる。したがって、混合槽における水中の溶剤濃度を容易に管理することができる。
【0012】
さらに、本発明の洗浄システムでは、前記気泡発生装置が、前記貯留槽内の水に気体を取り入れて気液混合水を調製し、その気液混合水を前記貯留槽内に放出することにより、前記貯留槽内にマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置であり、前記供給ユニットは、前記蒸発溶剤を前記マイクロバブル発生装置へ供給することが好適である。
この構成では、蒸発溶剤がマイクロバブル発生装置へ供給されるので、蒸発溶剤を、気液混合水の気体成分として、水に混合することができる。そして、気液混合水中の蒸発溶剤は、気液混合水が貯留槽内に放出されることにより、マイクロバブルとして水中に分散する。そのため、水に対する蒸発溶剤の接触面積を大きくすることができる。その結果、水への蒸発溶剤の溶解効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る洗浄システムの概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る洗浄システムの概略構成図である。
【図3】自動車ボデーのドア部分の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
1 洗浄システムの全体構成
図1は、本発明の第1実施形態に係る洗浄システムの概略構成図である。
洗浄システム1は、被塗物としての自動車ボデー2を電着塗装するためのエリア(電着塗装エリア3)と、電着塗装された自動車ボデー2を洗浄するためのエリア(洗浄エリア4)とに跨って設けられている。洗浄システム1は、電着塗装された自動車ボデー2を、マイクロバブルを含有する洗浄水を用いて洗浄する。
【0015】
電着塗装エリア3および洗浄エリア4には、自動車ボデー2を移送するためのハンガーレール5が備えられている。自動車ボデー2は、その前部が移送方向に向くように、ハンガーレール5に吊り下げられたハンガー6に保持され、ハンガーレール5にぶら下がった状態で移送される。
洗浄システム1は、回収ユニット7と、調製ユニット8と、供給ユニット9と、吐出ユニット10とを備え、これらがクローズドラインとして、電着塗装エリア3から洗浄エリア4へと跨っている。
【0016】
回収ユニット7は、電着塗装エリア3に設置されている。
電着塗装エリア3には、電着槽11と、排気装置12とが設置されている。
電着槽11は、例えば、自動車ボデー2を浸漬(ディップ)塗装するための浸漬槽であって、上方へ向かって開放されている。電着槽11には、電着塗料が貯留されている。
貯留される電着塗料としては、例えば、公知のカチオン電着塗料、アニオン電着塗料が挙げられる。
【0017】
このような電着塗料は、例えば、自動車ボデー2に塗膜を形成する成分(塗膜形成成分)と、塗膜形成成分を希釈するための溶剤成分とを含有している。
塗膜形成成分としては、例えば、水溶性または水分散性の樹脂成分、硬化剤などが挙げられる。
樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの公知の水性樹脂が挙げられる。
【0018】
硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ブロックポリイソシアネートなどの公知の硬化剤が挙げられる。
溶剤成分としては、例えば、水、有機溶剤などが挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエンなどの炭化水素系溶剤、例えば、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤などが挙げられ、好ましくは、エーテルアルコール系溶剤が挙げられ、具体的に好ましくは、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)が挙げられる。
【0019】
また、電着塗料には、例えば、着色顔料、光干渉性顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤、反応促進剤(例えば、有機スズ化合物など)、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、表面調整剤などの公知の添加剤が含有されていてもよい。
そして、電着塗料は、上記の各成分が溶剤成分とともに公知の方法によって配合され、樹脂成分が水溶化または水分散化することにより調製される。
【0020】
電着塗料には、極板13が浸漬されている。極板13と自動車ボデー2との間に電圧を印加することにより、自動車ボデー2の表面に対して電気化学的に塗膜を形成することができる。
排気装置12は、電着槽11の直上に設置され、空気を取り込むための排気フード14と、排気フード14により取り込まれた空気を排出箇所(例えば、屋外など)に導く排気ダクト15と、排気フード14から排出箇所へ向かう空気流を排気ダクト15中に発生させる排気ブロワ16とを備えている。
【0021】
洗浄システム1の回収ユニット7は、回収フード17と、回収ライン18と、回収ブロワ19とを備えている。
回収フード17は、電着槽11と排気装置12との間に設置されている。回収フード17は、断面三角状をなし、その底部が電着槽11へ向かって開放されている。回収フード17の底部開放面積は、例えば、電着槽11の上部開放面積よりもやや小さく設定されている。また、回収フード17の底部と電着槽11中の電着塗料の液面(例えば、自動車ボデー2の浸漬時(満水時)の液面)との距離Lは、例えば、5〜30cm、好ましくは、10〜20cmである。
【0022】
回収ライン18は、回収フード17の頂部に接続されている。
回収ブロワ19は、回収ライン18の下流側端部に取り付けられている。
調製ユニット8は、洗浄エリア4に設置されている。調製ユニット8は、蒸発溶剤を水に混合するための混合槽20と、混合槽20において蒸発溶剤が混合された水(以下、溶剤混合水)が貯留される貯留槽21と、貯留槽21内において溶剤混合水にマイクロバブルを発生させるためのマイクロバブル発生装置22とを備えている。
【0023】
なお、蒸発溶剤は、電着塗装エリア3において、電着槽11の電着塗料から揮発する有機溶剤の蒸発成分(気体)である。蒸発溶剤の発生量は、電着槽11に貯留される電着塗料の量により異なるが、例えば、1日当たり100〜200Lである。
混合槽20の頂部には、混合槽20に水を供給するための給水ライン23が接続されている。供給される水としては、特に制限されないが、例えば、工業用水、イオン交換水などが挙げられ、好ましくは、イオン交換水(純水)が挙げられる。
【0024】
また、混合槽20の頂部には、混合槽20に電着塗料の有機溶剤を補助的に供給するための溶剤供給ライン24が接続されている。溶剤供給ライン24の上流側は、溶剤貯留槽(図示せず)に接続されている。例えば、回収ユニット7で回収された蒸発溶剤のみでは所望濃度の溶剤混合水を調製することが困難であるとき、溶剤貯留槽(図示せず)中の有機溶剤が、不足分の溶剤として供給される。
【0025】
また、混合槽20の下部には、混合槽20内の溶剤混合水を貯留槽21に供給するための混合水供給ライン25が接続されている。混合水供給ライン25の途中には、供給ポンプ26が設けられている。供給ポンプ26の稼動によって、混合槽20内の溶剤混合水が貯留槽21に供給される。
貯留槽21は、例えば、ハンガーレール5の上方に設置されている。貯留槽21の頂部には、混合水供給ライン25の下流側端部が接続されている。
【0026】
マイクロバブル発生装置22は、貯留槽21に対して溶剤混合水を循環させる循環ライン27と、循環ライン27に介装された循環ポンプ28と、循環ライン27の下流側端部に取り付けられた発生器本体29とを備えている。
循環ライン27は、上流側端部および下流側端部(先端)が、貯留槽21内に配置され、それらの途中部分が貯留槽21外に配置されている。循環ライン27は、循環ポンプ28の稼動によって、貯留槽21に対して洗浄水を循環させる。
【0027】
循環ポンプ28は、貯留槽21外に配置されており、例えば、公知の吸上げポンプを適用できる。循環ポンプ28には、その吸入側(上流側)にエアホース30が接続されている。また、循環ポンプ28の吸入側(上流側)には、エアホース30とは別に、第2供給ライン32(後述)が接続されている。
発生器本体29は、貯留槽21内に配置されており、例えば、旋回流式、加圧式など公知の方式のものが用いられる。そのような発生器本体29の具体的な市販品としては、例えば、有限会社バブルタンク社製のBT−50などが挙げられる。
【0028】
供給ユニット9は、電着塗装エリア3から洗浄エリア4へと跨って設置されている。供給ユニット9は、回収ユニット7で回収された蒸発溶剤を混合槽20へ供給するための第1供給ライン31と、回収ユニット7で回収された蒸発溶剤をマイクロバブル発生装置22へ供給するための第2供給ライン32とを備えている。
第1供給ライン31は、その上流側端部が回収ブロワ19の排気側に接続されている。また、第1供給ライン31は、その下流側端部が混合槽20内に配置されている。第1供給ライン31の下流側端部には、混合槽20内の水に対して、蒸発溶剤を含む空気を送り込む(エアレーション)ための送気装置33が取り付けられている。
【0029】
送気装置33としては、例えば、散気板、散気管など公知の散気装置などを適用できる。また、第1供給ライン31には、電着塗装エリア3内において、三方バルブ34が介装されている。
第2供給ライン32は、その上流側端部が三方バルブ34を介して第1供給ライン31に接続されている。第2供給ライン32は、その下流側端部が、上記したように、循環ポンプ28の吸入側(上流側)に接続されている。
【0030】
吐出ユニット10は、洗浄エリア4に設置されている。吐出ユニット10は、自動車ボデー2に洗浄水を吐出するための吐出ノズル35と、吐出ノズル35に洗浄水を供給するための洗浄水供給ライン36とを備えている。
洗浄水供給ライン36は、その上流側端部が貯留槽21の下部に接続されている。また、洗浄水供給ライン36の途中には、開閉バルブ37が介装されている。
【0031】
吐出ノズル35は、洗浄水供給ライン36の下流側端部(先端)に取り付けられている。吐出ノズル35としては、例えば、液体を噴射することができる公知のノズルを適用できる。
2 洗浄システムによる洗浄
上記のような洗浄システム1では、電着塗装エリア3において、回収ブロワ19を稼動させることにより、電着槽11の電着塗料から揮発する有機溶剤の蒸発成分(蒸発溶剤)を含む空気が、排気フード14の下方に設置された回収フード17に優先的に取り込まれて回収される。回収された蒸発溶剤は、回収ブロワ19により発生した空気流により、供給ユニット9に送られる。
【0032】
供給ユニット9では、常時は、蒸発溶剤が第1供給ライン31を通って混合槽20へ送られるように三方バルブ34の流れ方向を固定し、必要に応じて、蒸発溶剤が第2供給ライン32を通ってマイクロバブル発生装置22へ送られるように三方バルブ34を切り替える。これにより、回収ユニット7で回収された蒸発溶剤は、メインルートとして第1供給ライン31を利用して、調製ユニット8(混合槽20)へ供給される。また、サブルートとして第2供給ライン32を利用して、調製ユニット8(マイクロバブル発生装置22)へ供給される。
【0033】
そして、調製ユニット8における混合槽20では、その中に貯留された水に対して、水中に発生する気泡密度を高くするための気泡密度向上剤として、蒸発溶剤(気体)が供給ユニット9の送気装置33を利用して送り込まれる。これにより、水と蒸発溶剤とが気液混合されて、溶剤混合水が調製される。なお、蒸発溶剤(気泡密度向上剤)は、例えば、調製する溶剤混合水の総量に対して2重量%以下(好ましくは、0.03〜1重量%)であることが好ましい。このような濃度に保つべく、回収ブロワ19を適宜制御することにより、混合槽20への蒸発溶剤の供給量を調節する。
【0034】
溶剤混合水の調製後、供給ポンプ26を稼動させることによって、溶剤混合水が貯留槽21に供給される。
調製ユニット8における貯留槽21では、例えば、まず、循環ポンプ28を、溶剤混合水(洗浄水)の循環水量が、例えば、貯留槽21の容量30〜50Lに対して、20〜40L/minとなるように稼動させる。これにより、貯留槽21内の溶剤混合水が、エアホース30からエアを自吸しながら循環ライン27を流れ、発生器本体29に流入する。この際、第2供給ライン32側が「開」となるように三方バルブ34が切り替えられることにより、循環ライン27内の溶剤混合水に対して、エアとともに、第2供給ライン32から供給される蒸発溶剤を混入させることができる。
【0035】
そして、エアおよび蒸発溶剤が混入された気液混合水(溶剤混合水)が流入した発生器本体29では、気液混合水が本体内を旋回することにより旋回流が発生する。その後、混合水中のエアおよび蒸発溶剤が、その旋回流により発生器本体29から、微細なマイクロバブル(マイクロバブル)として溶剤混合水とともに貯留槽21内の溶剤混合水(外部液体)に放出される。これにより、溶剤混合水にマイクロバブルが混入した洗浄水が調製される。
【0036】
なお、洗浄水に混入されるマイクロバブルとは、気泡径が、例えば、100μm以下の気泡のことである。本実施形態で使用される洗浄水には、例えば、気泡径が1〜50μmのマイクロバブルが、1,000,000〜2,000,000個/ccの密度で混入されることが好ましい。
次いで、この洗浄水を用いて自動車ボデー2を洗浄する。具体的には、開閉バルブ37を開けることにより、洗浄水を自重により吐出ノズル35から放出する。
3 作用効果
以上のように、上記洗浄システム1によれば、貯留槽21において、気泡密度向上剤を含有する溶剤混合水中にマイクロバブルを発生させることによって洗浄水が調製される。そのため、自動車ボデー2に吐出する洗浄水に、マイクロバブルを高密度で混入させることができる。
【0037】
例えば、電着塗装後、電着塗料の固形分を含む水が、自動車ボデー2の袋構造部(例えば、自動車ボデー2のドア部分38において、アウタパネル39とインナパネル40との重ね合わせにより形成される袋状部分41(図3参照))に入り込み、残存してしまう場合がある。そして、その固形分を含む水が袋構造部に残存したまま自動車ボデー2が乾燥炉に移送され、その状態で乾燥工程が行なわれると、水が突沸して噴き出し、熱せられた自動車ボデー2上で固形分が固化することにより2次タレを生じるおそれがある。
【0038】
しかし、この洗浄システム1では、マイクロバブルが高密度で混入された洗浄水を自動車ボデー2に吐出することにより、袋構造部に入り込んだ水に含まれる固形分に対して、その単位体積当たりに数多くのマイクロバブルを接触させることができる。その結果、電着塗料の固形分を洗浄水とともに良好に洗い落とし、容易に除去することができる。よって、自動車ボデー2を効率よく洗浄することができる。
【0039】
そのため、後の乾燥工程で自動車ボデー2が熱せられても、袋構造部内の水の突沸および突沸により噴き出す固形分の固化を抑制できる。その結果、2次タレなどの塗装不具合を抑制することができる。
また、この洗浄システム1では、電着塗装エリア3の電着塗料の蒸発溶剤が回収されて、それが気泡密度向上剤として用いられる。そのため、混合槽20における溶剤混合水の調製にあたっては、常時は、回収される蒸発溶剤を利用し、蒸発溶剤のみでは所望濃度の溶剤混合水を調製することが困難である場合のみ、不足分の有機溶剤を補充すればよい。したがって、気泡密度向上剤に要するコストを低減することができる。
【0040】
また、気泡密度向上剤が電着塗料の有機溶剤であるため、洗浄水中の気泡密度向上剤(有機溶剤成分)が自動車ボデー2に触れても、自動車ボデー2に悪影響を与えることがほとんどない。そのため、洗浄後においても、自動車ボデー2の美観を維持することができる。
また、蒸発溶剤を回収する回収フード17、溶剤混合水を調製する混合槽20、洗浄水を調製する貯留槽21が互いにライン(回収ライン18、第1供給ライン31、第2供給ライン32および混合水供給ライン25)で接続され、これによってクローズドラインが構成されている。そのため、回収された蒸発溶剤は、洗浄水に溶解された状態で吐出ノズル35から放出されるまで、洗浄エリア4内で取り出されることがない。すなわち、洗浄エリア4において、高濃度の蒸発溶剤(有機溶剤)を扱う必要がなくなる。その結果、洗浄エリア4に設ける排気装置12を比較的小型にすることができるので、設備コストを低減することができる。
【0041】
また、回収フード17により回収された蒸発溶剤は、メインルートとして、貯留槽21に供給される前に混合槽20へ供給される。そのため、貯留槽21での洗浄水の調製に必要な量を超える蒸発溶剤が回収されても、その超過分を混合槽20に貯えておくことができる。その結果、回収された蒸発溶剤を無駄にせず、有効利用することができる。
また、混合槽20において蒸発溶剤が水に混合されるので、蒸発溶剤の供給量に応じて混合槽20の水量を調節することにより、溶剤混合水の濃度(例えば、溶剤混合水の総量に対して気泡密度向上剤が2重量%以下、好ましくは、0.03〜1重量%)を容易に調節することができる。
【0042】
また、回収フード17により回収された蒸発溶剤は、三方バルブ34を切り替えることにより、サブルートとして、混合槽20を介さずにマイクロバブル発生装置22へ直接供給される。この場合には、循環ポンプ28の駆動力を利用して、循環中の気液混合水(溶剤混合水)の気体成分として混入させることができる。そして、気液混合水中の蒸発溶剤は、気液混合水が貯留槽21内に放出されることにより、マイクロバブルとして水中に分散する。そのため、水に対する蒸発溶剤の接触面積を大きくすることができる。その結果、水への蒸発溶剤の溶解効率を向上させることができる。
【0043】
なお、上記では、回収された蒸発溶剤を調製ユニット8に供給する態様として、第1供給ライン31(メインルート)および第2供給ライン32(サブルート)のいずれからも供給する態様を代表例として取り上げたが、回収ユニット7で回収された蒸発溶剤は、第1供給ライン31のみを利用して調製ユニット8に供給されてもよいし、第2供給ライン32のみを利用して調製ユニット8に供給されてもよい。
<第2実施形態>
1 洗浄システムの全体構成
図2は、本発明の第1実施形態に係る洗浄システムの概略構成図である。図2において、図1に示す各部に対応する部分には、それらの各部と同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0044】
回収ユニット7で回収された蒸発溶剤は、第1実施形態では、混合槽20内の水に気体として供給されるか、循環ポンプ28の吸入側に気体として供給されたが、例えば、凝縮されて液体として混合槽20内の水に供給されてもよい。
第2実施形態に係る洗浄システム51では、第1供給ライン31には、蒸発溶剤を凝縮させるための冷却手段としての凝縮器52と、凝縮した蒸発溶剤(液体)を捕集するための捕集器53とが、電着塗装エリア3内に設けられている。
【0045】
凝縮器52としては、水冷式、空冷式、蒸発式など公知の冷却方式のものを適用することができ、好ましくは、水冷式が適用される(図2では、水冷式凝縮器52を示している。)。凝縮器52の頂部には、第1供給ライン31の上流側が接続されている。また、凝縮器52には、その頂部から底部へ向かって内部を通過する冷媒管54が配置されている。この冷媒管54は、後述する熱交換器58へ向かって延び、熱交換器58の冷媒管54として併用される。また、凝縮器52には、凝縮されずに残存する気体成分を排気するための排出ライン55が接続されている。
【0046】
捕集器53は、凝縮器52下部の抽出口56の直下に配置されている。また、捕集器53の下部には、液体供給手段としての第1供給ライン31の下流側が接続されている。第1供給ライン31の下流側は、混合槽20の頂部に接続されている。
また、第1実施形態では、記載を省略したが、極板13と自動車ボデー2との間に電圧が印加されて塗装が行なわれる電着槽11では、電圧の印加により発生したジュール熱により、電着塗料の温度が上昇する。そのため、電着塗料の温度を熱交換器などにより調節する必要がある。
【0047】
そのため、電着塗装エリア3には、塗料循環ライン57と、熱交換器58とが設けられている。
塗料循環ライン57は、その上流側端部および下流側端部が電着槽11に接続されている。塗料循環ライン57には、循環ポンプ59が介装されている。塗料循環ライン57は、循環ポンプ59の稼動によって、電着槽11に対して電着塗料を循環させる。また、塗料循環ライン57には、電着槽11の下流側かつ循環ポンプ59の上流側に、フィルタ60が介装されている。
【0048】
熱交換器58は、塗料循環ライン57において、循環ポンプ59の下流側かつ電着槽11の上流側に介装されている。熱交換器58としては、水冷式、空冷式などの公知のものを適用することができ、好ましくは、水冷式が適用される。この熱交換器58の冷媒管54としては、上記した冷媒管54が用いられる。
2 洗浄システムによる洗浄
上記のような洗浄システム51では、第1の実施形態と同様に、回収ユニット7により蒸発溶剤が回収され、その蒸発溶剤が供給ユニット9に送られる。
【0049】
供給ユニット9では、第1供給ライン31の上流側を通って凝縮器52に流入した蒸発溶剤の気体が凝縮器52において凝縮され、液体として捕集器53で捕集される。そして、捕集された蒸発溶剤(液体)は、第1供給ライン31の下流側を通って、混合槽20に供給される。
そして、混合槽20では、その中に貯留された水に対して、水中に発生する気泡密度を高くするための気泡密度向上剤として、蒸発溶剤(液体)が供給される。これにより、水と蒸発溶剤(液体)が混合されて、溶剤混合水が調製される。
【0050】
その後は、溶剤混合水が貯留槽21に供給され、貯留槽21では、マイクロバブル発生装置22により、マイクロバブルが混入した洗浄水が調製される。そして、開閉バルブ37を開けることにより、洗浄水を自重により吐出ノズル35から放出する。
3 作用効果
以上のように、上記洗浄システム51によれば、回収された蒸発溶剤が凝縮器52により凝縮されるので、蒸発溶剤(気体)に不純物成分が含まれていても、不純物成分と溶剤成分とを凝縮器52で分離し、純度の高い溶剤成分を液体として捕集器53で捕集することができる。そして、その液体の溶剤成分が混合槽20へ供給される。
【0051】
溶剤成分が液体であり、しかも純度が高いので、混合槽20へ供給される溶剤成分の量を精密に把握することができる。したがって、その溶剤成分の供給量に基づいて、混合槽20内の溶剤混合水の濃度(例えば、溶剤混合水の総量に対して気泡密度向上剤が2重量%以下、好ましくは、0.03〜1重量%)を容易に管理することができる。
また、凝縮器52および熱交換器58の形式をいずれも水冷式にすることにより、1つの冷媒管54を2つの装置で併用することができる。そのため、設備コストを低減することができる。
【0052】
その他、第1実施形態と同様の作用および効果については、記載を省略する。
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
本発明の洗浄システムは、電着塗装された被塗物全般に適用することができ、とりわけ、上記実施形態で示した自動車ボデー2のように、塗膜品質の向上およびその塗装コスト(塗装後の塗料の洗浄に要する洗浄コストを含む。)の低減が要求される被塗物を洗浄するのに効果的に利用することができる。
【0053】
また、電着塗装された自動車ボデー2は、気泡を含有する洗浄水を用いて洗浄する前に、例えば、電着塗料のろ液、工業用水、イオン交換水(純水)などを用いて洗浄されてもよい。
また、自動車ボデー2の袋構造部としては、図3に示したドア部分38における袋状部分41の他、例えば、サイドシル部分において、アウタパネル39とインナパネル40との重ね合わせにより形成される袋状部分41、ピラー部分において、アウタパネル39とインナパネル40との重ね合わせにより形成される袋状部分41などが挙げられる。
【符号の説明】
【0054】
1 洗浄システム
2 自動車ボデー
3 電着塗装エリア
7 回収ユニット
8 調製ユニット
9 供給ユニット
10 吐出ユニット
20 混合槽
21 貯留槽
22 マイクロバブル発生装置
31 第1供給ライン
51 洗浄システム
52 凝縮器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装エリアで電着塗装された被塗物を洗浄するための洗浄システムであって、
前記電着塗装エリアの電着塗料の蒸発溶剤を回収するための回収ユニットと、
前記回収ユニットにより回収された前記蒸発溶剤を、気泡密度向上剤として含有する水を貯留するための貯留槽、および前記貯留槽内において気泡を発生させることにより、気泡を含有する洗浄水を調製するための気泡発生装置を有する調製ユニットと、
前記調製ユニットから前記被塗物に対して、前記洗浄水を吐出するための吐出ユニットと、
前記回収ユニットで回収された前記蒸発溶剤を、前記調製ユニットへ供給する供給ユニットとを備えることを特徴とする、洗浄システム。
【請求項2】
前記調製ユニットは、前記蒸発溶剤を水に混合するための混合槽をさらに備え、前記貯留槽には、前記混合槽において前記蒸発溶剤が混合された水が貯留され、
前記供給ユニットは、前記蒸発溶剤を前記混合槽へ供給することを特徴とする、請求項1に記載の洗浄システム。
【請求項3】
前記供給ユニットは、
前記蒸発溶剤を冷却して凝縮するための冷却手段と、
凝縮により生成する前記蒸発溶剤の液体を、前記混合槽へ供給するための液体供給手段とを備えることを特徴とする、請求項2に記載の洗浄システム。
【請求項4】
前記気泡発生装置が、前記貯留槽内の水に気体を取り入れて気液混合水を調製し、その気液混合水を前記貯留槽内に放出することにより、前記貯留槽内にマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置であり、
前記供給ユニットは、前記蒸発溶剤を前記マイクロバブル発生装置へ供給することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−12291(P2011−12291A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155461(P2009−155461)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)