説明

洗浄再生濾材および洗浄再生濾材の製造方法

【課題】
濾材に固着したダストを洗浄によって簡単に洗い落とせる洗浄再生濾材の提供とその濾材を用いた洗浄再生が可能なフィルターユニットを提供すること。
【解決手段】
濾材を構成する素材の分子構造にフッ素原子とカルボキシル基とを含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭で使用される空気清浄機や24時間換気システム空調機、一般ビル・工場向け空調機、家電機器、車載空調機などの機器搭載用洗浄再生エアフィルターや油水分離機、一般固液分離機などの液体用洗浄再生フィルターユニットに好適に利用できる洗浄再生濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルの空調管理に用いられているフィルターユニットは、現在使い捨てが多いが、一部のフィルターユニットでは、洗剤を溶かした洗浄液にフィルターユニットを浸し、その状態で超音波を照射して、洗浄液による溶解作用と超音波による物理的作用を用いて洗浄再生が行われている。しかしながら微細塵を捕集することが目的の空調用フィルターユニットや家庭用空気清浄用フィルターユニットには、捕集されるダストの成分として、ディーゼル排ガスに含まれる0.1μm前後の超微粒子カーボンやタバコの煙、厨房から排出される油煙、一般の大気ダストや繊維くずなど、様々なダスト成分が強く固着しており、洗浄液に漬けて超音波を当てるだけでは十分に落ちないのが実状である。
【0003】
このため濾材を予め界面活性剤で処理しておき、この濾材にダストを捕集させることで洗浄再生能力を向上させる技術が特許文献1および特許文献2に開示されている。この方法は繊維の親水性を向上させることでダストの剥離性向上を狙った技術である。しかしながら、濾材の表面に界面活性剤を付与しているだけであるため、1回目の洗浄では多少洗浄性が得られるものの、洗浄後のすすぎ工程で界面活性剤がダストとともに洗い流され、2回目以降の洗浄再生能力は極端に悪くなるという問題があった。また家庭用の空気清浄機フィルターユニット、例えば粒子径0.3μmの粒子を99%捕集するような高捕集フィルターユニットの洗浄においては、家庭内に超音波機などが無く、洗浄液に漬け流水で流す程度ではダストの十分な脱離が望めないため、通気性の十分な回復が十分には望めなかった。さらに、高捕集フィルターユニットを構成する濾材には、通常エレクトレット化処理が施されるが、多用されるポリプロピレン繊維からなる濾材を界面活性剤で処理するとイオンの影響でエレクトレット化が不可能になる。そのため、これまでは、エレクトレットフィルターで洗浄再生能力の高いものは作ることが不可能であった。
【0004】
一方、特許文献3に開示されるように、濾材に撥水性を与えるためにフッ素樹脂を付着させる方法も広く行われている。しかしながら、この方法は、濾材にサイズロール等でフッ素樹脂を塗布するため、繊維間の空隙を目詰まりさせる方向に作用する。そのため、特に繊維径が3〜6μmの極細繊維で構成されたメルトブロー不織布など極細繊維で構成された素材を濾材とする場合には、通気抵抗が大幅に増加する欠点があった。
【0005】
この他、濾過材料を親水化する技術は特許文献4にも開示されている。この文献に記載の技術は、親油性の超高分子量ポリエチレン多孔膜をアルゴン等の炭化水素系のガス雰囲気中に入れプラズマ加工を行い親水性にするというものである。この方法によれば、加工直後は濾材を構成する繊維表面に親水性基が付着しているが、親水性基が時間の経過と共に繊維内部に潜り込むためか親水性が低下し、洗浄性が持続しないという問題があった。また、特許文献4には、疎水性膜の親水性を高めるため、膜をフッ素系の界面活性剤などで処理する方法や膜をフッ素ガスに接触させ表面加工を施す方法が存在することも紹介されている。しかしながら、これらはいずれも濾材表面に施されるものであるため、上述したような問題があるものであった。
【特許文献1】特開2002−66222号公報
【特許文献2】特開2002−102620号公報
【特許文献3】特開2003−080015号公報
【特許文献4】特開2000−317280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、家庭で洗浄しても十分に付着ダストが落ち通気性の回復性が望める洗浄再生濾材および洗浄再生フィルターユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、次の(1)〜(5)を特徴とするものである。
(1)濾材を構成する素材の分子構造にフッ素原子とカルボキシル基とを含む洗浄再生濾材。
(2)JIS L1907(2004)に記載のバイレック法に準拠して測定された水吸い上げ高さが5mm以上である、前記(1)に記載の洗浄再生濾材。
(3)少なくともエレクトレット不織布を含む、前記(1)または(2)に記載の洗浄再生濾材。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の洗浄再生濾材を用いた洗浄再生フィルターユニット。
(5)フッ素、酸素、および水分と反応させることによって、濾材を構成する素材の分子構造にフッ素原子とカルボキシル基とを導入することを特徴とする洗浄再生濾材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の洗浄再生濾材は、濾材を構成する素材の分子構造にカルボキシル基が導入されているので、当該素材が極細繊維のポリプロピレン繊維からなるメルトブロー不織布やポリエステル繊維不織布、微多孔PTFE膜、微多孔PE膜のような撥水性の高いものであっても高い親水性を発揮することができ、高い洗浄再生性を発揮することができる。また、濾材を構成する素材の分子構造に、カルボキシル基と共にフッ素原子を導入することで、極性基のCOOH基が水に溶出することを効果的に防ぐことができる。その結果、親水性効果を長時間にわたって発揮することができる。
【0009】
また、本発明の濾材は、洗浄再生性が高く、超音波洗浄機を使用したり薬剤を使用したりしなくても高い洗浄再生性を発揮できるので、超音波洗浄機がない家庭や薬剤汚染が問題となる液体の精密濾過などに好適に使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の洗浄再生濾材および洗浄再生フィルターユニットについて、エアフィルター用途のものを例に説明を行う。エアフィルター用途のフィルターユニットは、たとえば、捕集性能を発揮する極細繊維不織布からなる濾材とそれを補強するための不織布濾材とが積層されて一体化されてなる。フィルターユニット毎に定められ定格風量条件での捕集性能は、粒子径0.3〜0.5μm範囲の粒子に対し10%以上であることが、好ましくは15%以上、99.99%以下であることが好ましい。そのような高性能のフィルターユニットに用いられる濾材において、本技術は特に好適である。具体的には、家庭用空気清浄機やビル空調用、産業用などのフィルターユニットで用いられる濾材に好適である。
【0011】
フィルターユニットを構成する濾材の素材としては、特に限定されるものではなく、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエチレン、フッ素系樹脂、ビニロン、ナイロン、レーヨンなどの合成繊維を用いた織編物や不織布、網状物あるいは有機高分子からなる微多孔膜など幅広く使用できる。
【0012】
上述したようにフィルターユニットを複数の濾材で構成する場合は、捕集性能を発揮する濾材の素材としてポリプロピレン繊維からなる不織布を用いることが好ましい。ポリプロピレン繊維不織布はエレクトレット化して捕集効率を高めること可能である。また、捕集性能を発揮する濾材の補強材としては、洗浄時の洗浄液(水系)に浸しても寸法変化率が小さくヤング率が大きいポリエステル繊維やビニロン繊維からなる不織布を使用することが好ましい。さらに、撥水性、耐薬品性に関して共に優れた性能を示すフッ素樹脂のPTFE、3フッ化ビニデンなどの織編物、不織布、微多孔膜は、本発明を適用することで親水性となり通液性を向上させることが可能となるので、高捕集性、高耐薬品性を併せもつという点で好適素材である。
【0013】
捕集性能を発揮する濾材の素材として織編物や不織布を用いる場合、粒子径0.3〜0.5μm範囲の粒子に対し10%〜70%程度の捕集性能を得るためには、平均繊維径が0.5〜10μm、目付が10〜100g/m2の素材を用いることが好ましい。繊維径は細い方が低目付で高い捕集性能が得られるが捕捉した固体粒子の物理的な脱離性が悪くなり易い。そのため、平均繊維径は太い方が良く2μm以上が特に好適である。一方、平均繊維径が大きくなり過ぎると同じ捕集性能を得るために目付を増やす必要が生じ経済的でない。このため、平均繊維径は7μm以下が特に好ましい。なおCOOH基とフッ素原子の導入に際して繊維径や目付で加工制限を受けないため、必要とする捕集性能、通気抵抗およびダスト脱離性から素材を決めれば良い。
【0014】
また補強材としてポリエステル繊維、ビニロン繊維あるいはレーヨンなどからなる不織布を用いる場合には、乾式法や湿式法で製造された不織布を広く使用でき、これもCOOH基とフッ素原子の導入に関わる制限事項がないため、寿命に関わるダスト保持量や補強材としての剛性の面から繊維の太さや目付、堅さを選定すれば良い。
【0015】
本発明においては、濾材を構成する素材の分子構造にフッ素原子とカルボキシル基とが含まれるが、次に、上記のような素材にフッ素原子およびカルボキシル基を導入する方法(以後、F加工と記述する)について、ポリプロピレン極細繊維不織布を例にとって説明する。
【0016】
まず、密閉されたタンク内にポリプロピレン極細繊維不織布を入れ、タンク内の空気を抜いた後、該タンクに外部から、フッ化水素を電気分解して作成したフッ素ガスとともに酸素ガスを導入する。その結果、ポリマー表面のC−H結合やC−CHにC−F結合の導入が起こり、下記式の反応が進む。
【0017】
(CHCHCH+F+O→(CFCFCOF)→(CFCFCOOH)
ポリプロピレン側鎖のメチル基はCFになるものと−COFに変化するものとに分かれるが、−COFは不安定であるため、すぐに気中の水分や基材が持つ水分と反応して−COOHに変化する。その結果、濾材を構成する素材はポリマー表面が極性化され、分子構造レベルでみれば撥水性と親水性の部分が混在するものの、全体としてみれば、分子構造的に外側に位置するカルボキシル基が支配的に効果を発揮するためか、親水性を帯びるのである。
【0018】
このとき、カルボキシル基に置換する割合を調整することで撥水性と親水性のバランスを調整することも可能であり、これは酸素ガスの混合濃度で調整することができる。
【0019】
続いて、上記のような親水性付与によって濾材の洗浄再生能力が向上する原理について説明する。
【0020】
フィルターユニットが捕集対象とする粒子には、通常固体粒子と液状粒子があり、これらの粒子は油性成分や水溶性成分で構成されていると考えられている。家庭やビル関係で使用される空気清浄機フィルターでは、一般大気に含まれる塵埃に加えて使用環境特有の砂塵、繊維屑、タバコ煙、微細塵などが捕集対象粒子となる。たとえば、道路に面した所で使用されたフィルターユニットでは、ディーゼル排ガス由来と推定される微小カーボン粒子や油分も捕集対象粒子となる。繊維に捕集されたこれら粒子の様子を実際に顕微鏡で観察すると、付着前の粒子の形状を留めているのは固体粒子のみで、親水性の高い液状粒子は拡がって付着している。また、拡がって付着した液状粒子は、固体粒子間の隙間を埋め、結果的に固体粒子の接着剤として作用すると考えられる。この様子は特にタバコ煙を主な捕集対象とする家庭用空気清浄機フィルターユニットで顕著に観察することができる。すなわち、タバコ煙は豊富に水を含んだ粒子であり濾材表面に拡がって付着、乾燥し固着していると推定される。
【0021】
このような状態の濾材から捕集粒子を洗い落とすためには、粒子捕集部に洗浄液の浸透が十分行われる必要がある。特に粒子が付着した濾材表面と粒子との界面部分に洗浄液が浸透して、洗浄液に可溶な成分を溶かしだし、粒子を落ちやすくする必要がある。
【0022】
しかしながら、濾材を構成する素材が従来のポリプロピレン極細繊維不織布からなる場合、当該濾材は撥水性が高いため、家庭洗濯用合成洗剤、例えばP&G(株)のアリエール、ライオン(株)のトップ、花王(株)のアタックなどを溶解した洗浄液に浸しても、洗浄液が殆ど浸透しない。そのため、濾材表面に固着している粒子には洗浄液が浸透したとしても、濾材内部の繊維間に形成された空間に捕捉された粒子には洗浄液が浸透しにくく、短時間で粒子を十分に洗い落とすことが困難である。
【0023】
一方、本発明の洗浄再生濾材は、濾材を構成する素材がポリプロピレン極細繊維不織布であっても、極性基であるカルボキシル基とフッ素原子とを繊維構成分子に含有させて親水化したものであるので、濾材を洗浄液に浸せば、洗浄液が濾材表面の粒子とともに濾材内部、さらにはその内部に捕捉された粒子にも速やか浸透し、粒子が膨潤するとともに洗浄液に可溶な成分が粒子から溶けだす。その結果、濾材に固着していた粒子の足場が失わることになり、粒子を速やかに洗い落とせるのである。
【0024】
また、親水性の高い液状粒子は、親水性の高い繊維表面に接触した場合、親水性の低い液状粒子の場合に比較して濾材の表面により拡がって付着する。たとえばタバコの煙粒子の付着実験では、大気中に含まれる塵などの固体粒子も繊維に付着するが、水を豊富に含んだタバコの煙粒子が濾材に接触するとともに拡がって付着する様子を顕微鏡観察で見ることができる。このとき本発明の洗浄再生濾材は、局所的にみると濾材を構成する素材が撥水性の部分と親水性の部分とを併せもつためか、液状粒子がさらに横に拡がりやすい。その結果、拡がって付着した液状粒子による固体粒子の接着強化も弱まり、洗浄液によってさらに洗い流しやすくなる。
【0025】
さらに、従来から表面改質技術としてコロナ放電処理、プラズマ処理によって水酸基やカルボキシル基を導入する技術は知られていたが、これらの技術では親水性効果が十分に持続しなかったのに対して、本発明の濾材は、上記親水性効果が長期間にわたって維持される。その理由は明らかではないが、カルボキシル基とともにフッ素原子を共存させることで、カルボキシル基の繊維内部への潜り込みが生じにくくなっているからと考えられる。
【0026】
F加工は、フィルターユニットを複数の濾材で構成する場合、一部の濾材だけに施すことも可能ではある。しかしながら、洗浄再生性を高めるためには全濾材に施すことが好ましい。
【0027】
また、上記F加工は、従来の界面活性剤による表面処理と違って水を使用しないドライプロセスのため、余分な水を除くためのディップマングル加工を必要とせず、濾材の潰れもおこらない。このため、かさ高な状態の親水性濾材をことができ、より洗浄液の浸透がよくなり捕集粒子の離脱性がさらによくなる。
【0028】
そして、本発明においては、濾材を構成する素材の分子構造にフッ素原子とカルボキシル基とを含ませるにあたって、フッ素、酸素の濃度や処理時間などを制御して、JIS L1907(2004)に記載のバイレック法に準拠して測定される水吸い上げ高さが5mm以上となるようにすることが好ましい。この値を5mm以上になるようにすることで、家庭でも行える洗浄方法、すなわち、一般衣料用洗剤や台所洗剤を溶かした水に漬けて、後は流水で流す程度の洗浄方法でも捕集粒子の脱落が効果的に良くなり、フィルター通気性(圧損)の回復率が急激によくなる。フィルターの圧損回復率で表現すると、この値が4mm以下では85%程度であるが、5mm以上にすると95%程度となる。この圧損回復率の概念については、例えば空調用洗浄再生フィルターに関して業界が再生能力の業界基準を90%以上に設定しようとしていることからして、極めて高いものであるといえる。なお、より好ましい範囲は10mm以上であり、一方、上限は200mmが好ましく、より好適には20〜150mm範囲である
さらに、本発明においては、フィルターユニットを構成する濾材に少なくともエレクトレット不織布を含むことが好ましい。エレクトレット加工は公知の方法で行えばよく、たとえばポリプロピレンの織編物、不織布、繊維やフッ素樹脂の微多孔膜などに対して行うことが出来る。なお、エレクトレット加工と上記F加工とを同一の濾材構成素材に行う場合、その順番に気を付ける必要がある。たとえば、エレクトレット加工を特開平1−287914号公報に示されるコロナ放電法で行う場合はF加工の前後どちらでおこなっても捕集性能で殆ど差のないものが得られるが、特表平9―501604号公報に示されるハイドロチャージ法で行う場合は、F加工を先に行い、その後にエレクトレット加工を行うことが好ましい。F加工を先に行うことでポリプロピレンの親水性が高くなり不織布内部の繊維交絡の隅々にまで水が浸透し、濡れ面積が増える。その結果、高い電荷量を加工物に与えることができ、高捕集性能のエレクトレット濾材を得ることができる。
【0029】
なお、F加工の検証はESCA分析で行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の洗浄再生濾材および洗浄再生フィルターユニットについて、実施例を用いて具体的に説明するが、記載内容に限定されるものではない。
【0031】
なお、実施例で行っている濾材の水の吸い上げ高さは、繊維製品の吸水性試験方法JIS L1907(2004)に記載のバイレック法(吸水時間10分間)で行った。
【0032】
濾材の圧損測定、捕集効率測定はJIS B9908(1991)に記載の換気用エアフィルターユニット形式1に準じて実施した。
【0033】
フィルターユニットの圧損測定はJIS B9908(1991)に記載の換気用エアフィルターユニット形式3に準じて実施した。
【0034】
ダスト負荷は、JIS Z8901(1974)に記載のJIS15種のダスト(日本粉体工業協会販売の試験用ダスト)を用いて、JIS B9908(1991)に記載の換気用エアフィルターユニット形式3に準じ、ダストの濾材貫通風速が6.5m/分でダスト負荷前圧損の3倍になるまで実施した。
【0035】
またタバコの煙10本分(銘柄マイルドセブン10mg)の負荷は、上記JIS15種のダスト負荷で用いた評価装置の風洞にエアーとともに燃焼させたタバコの煙を導入し、評価濾材の補強材側を風上側として供給して負荷した。この時のタバコの煙が濾材を通過する風速は0.5m/minとした。
【0036】
平均繊維径は、濾材をキーエンス(株)販売の機種VE7800型SEMを使用して倍率200倍で撮影し、得られた画像から、当該SEMに標準搭載されていた繊維径分析ソフトを用いてランダムに抽出した繊維500本の繊維幅から求めた
目付は寸法50センチ角の重量を測定し、この数値を4倍して求めた。
【0037】
捕集効率は、JIS B9908(1991)に記載の形式1に準じた試験機を用い、大気エアーに含まれる粒子径0.3〜0.5μm範囲の大気塵について、濾材上流側の粒子数(Ci)と濾材下流側の粒子数(Co)をパーティクルカウンター(リオン社製 商品名KC01D)を用いて評価し下記式から捕集効率を求めた。
【0038】
捕集効率(%)=(1−Co/Ci)×100%
また、F加工は、東洋炭素株式会社と高松帝酸株式会社とが共同で英国BNFL社の協力のもと開発したオン・サイトフッ素発生システム(F技術支援センター所有)の実験設備を用いて実施した。
【0039】
(実施例1)
メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径2.4μm、目付20g/m2)を用意し、該不織布にF加工を次の条件で行った。すなわち、電解液KF・2HFを電気分解して発生させたフッ素ガスと酸素ガスからなる混合ガス(フッ素ガス濃度2%、温度80℃)を満たしたタンク内でポリプロピレン極細繊維不織布を5分間晒した後、該ポリプロピレン極細繊維不織布を取り出し25℃75%RHの空気中に1時間放置してF加工を完了させた。
【0040】
F加工前後の水吸い上げ高さは、処理前は0mmであったがF加工後は40mmとなり明らかに水の浸透性が改善されていることが確認できた。
【0041】
(実施例2)
短繊維樹脂加工不織布(ポリエステル短繊維(7dtx)とビニロン短繊維(15dtx)を4対6で配合したウエッブをアクリル酸エステル樹脂で固め目付50g/m2としたもの)にF加工を次の条件で行った。すなわち、電解液KF・2HFを電気分解して発生させたフッ素ガスと酸素ガスからなる混合ガス(フッ素ガス濃度2%、温度80℃)を満たしたタンク内で該短繊維樹脂加工不織布を5分間晒した後、タンクから取り出し25℃75%RHの空気中に1時間放置してF加工を完了させた。
【0042】
F加工前後の水吸い上げ高さは、処理前は1mmであったがF加工後は24mmとなり明らかに水の浸透性が改善されていることが確認できた。
【0043】
(実施例3および比較例1)
捕集性能を発揮する濾材構成素材として、メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径2.4μm、目付20g/m2)を2枚用意し、該不織布のうち1枚にF加工を次の条件で行った。すなわち、電解液KF・2HFを電気分解して発生させたフッ素ガスと酸素ガスからなる混合ガス(フッ素ガス濃度2%、温度80℃)を満たしたタンク内でポリプロピレン極細繊維不織布を5分間晒した後、該ポリプロピレン極細繊維不織布を取り出し25℃75%RHの空気中に1時間放置してF加工を完了させた。
【0044】
続いて、補強材として、ポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)を2枚用意し、F加工を施したポリプロピレン極細繊維不織布とF加工を施さなかったポリプロピレン極細繊維不織布を、それぞれポリエステルスパンボンド不織布と積層して2種類の濾材を作成した。
【0045】
これら2種の濾材について、水の吸い上げ高さを評価したところ、F加工を施さなかったポリプロピレン極細繊維不織布とポリエステルスパンボンド不織布とを積層した濾材(A)が0mmであったのに対して、F加工を施したポリプロピレン極細繊維不織布とポリエステルスパンボンド不織布とを積層した濾材(B)は25mmとなり、明らかに水の浸透性が改善されていることが確認できた。
【0046】
次に、2種類の濾材(A)、(B)から濾材有効面積100cmの試料を3枚ずつ採取し、以下の手順で、各濾材の洗浄再生性を評価した。
【0047】
(1)2種類の濾材(A)、(B)それぞれについて、3枚の試験片の圧損平均値を求め、(A)の濾材の圧損Δp1および(B)の濾材の圧損Δp2を得た。
【0048】
(2)次に、2種類の濾材(A)、(B)の各試験片にタバコの煙10本分を補強材側を風上側として負荷した。
【0049】
(3)ついで、JIS15種のダストを2種類の濾材(A)、(B)の各試験片に負荷し、圧力損失がΔp1、Δp2それぞれの3倍になるまで付着させた。
【0050】
(4)その後、JIS15種ダストが付着した濾材を、水道水2Lを入れた超音波洗浄機(本田電子(株)製商品形式W113)に、補強材側を下向きにして浮かべ、28メガヘルツ、45メガヘルツ、100メガヘルツの超音波を1分間づつこの順番で作用させた後、取り出し100℃で5時間の乾燥を行った。
【0051】
(5)最後に、2種類の濾材(A)、(B)それぞれについて、3枚の試験片の圧損平均値を求めて(A)の濾材の圧損Δp3および(B)の濾材の圧損Δp4とし、その値から下記式に基づき圧損変化率を求めた。
【0052】
濾材(A)の圧損変化率 (W)=(Δp3/Δp1−1)×100%
濾材(B)の圧損変化率 (U)=(Δp4/Δp2−1)×100%
この結果、W=20%、U=4%であった。明らかにF加工の効果によりダストの脱離性が良くなることが確認できた。
【0053】
(実施例4、5)
メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径2.4μm、目付20g/m2)に、実施例1より加工時間が短い2条件でF加工処理を行い、それらをポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)と積層して、2種の濾材を得た。すなわち、混合ガスに晒す時間を30秒間、40秒間とした以外は実施例1と同様にして、水吸上げ高さ4mmのポリプロピレン極細繊維不織布と水吸上げ高さ5mmのポリプロピレン極細繊維不織布とを用意し、それぞれをポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)と積層し2種の濾材(C)、(D)を得た。
【0054】
続いて、実施例3と同じ条件、手順で、各濾材の洗浄再生性を評価した。その結果、Uは、濾材(C)が7%、濾材(D)が5%であった。
【0055】
次にこれら試料にもう一度先程と同じ方法でダスト負荷を行い各濾材の洗浄再生性を評価したところ、Uは、濾材(C)が12%、濾材(D)が6%に変化し、耐久性でF加工時間の長かった濾材(D)の方が優れていることが確認された。
【0056】
(実施例6)
メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径2.4μm、目付20g/m2)にポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)を積層し濾材とした後、実施例1の条件でF加工を行った。この濾材の水吸い上げ高さは、処理前が0mmであったがF加工直後は28mmであった。さらに、この濾材を室内に半年間放置して水吸い上げ高さを評価したところ27mmで殆ど低下せず、親水性効果の持続性が高いことがわかった。
【0057】
次に、実施例3と全く同じ条件、手順で濾材の洗浄再生性を評価した。その結果、Uが2.5%となり、実施例3より良くなることがわかった。濾材全体が親水化されダスト脱離性がさらに良く成るため好結果が得られたと考えられる。
【0058】
更に同じ条件で2回目のダスト負荷を行い濾材の洗浄再生性を評価したところ、Uが3%と脱離性は殆ど低下せず効果が持続することも確認できた。
【0059】
(実施例7、8)
メルトブロー紡糸法で製造した繊維径の異なる2種類のポリプロピレン極細繊維不織布e、f(e:平均繊維径2.4μm、目付40g/m2、f:平均繊維径4.1μm、目付40g/m2)を用意した。次に、それらポリプロピレン極細繊維不織布e、fそれぞれを、短繊維樹脂加工不織布(ポリエステル短繊維(7dtx)とビニロン短繊維(15dtx)を4対6で配合したウエッブをアクリル酸エステル樹脂で固め目付50g/m2としたもの)と積層し、その積層体について実施例1の条件でF加工を行い、ポリプロピレン極細繊維不織布eを用いた濾材(E)とポリプロピレン極細繊維不織布fを用いた濾材(F)を得た。これら濾材の水吸い上げ高さは、濾材(E)が23mm、濾材(F)が24mmと殆ど差が無いものであった。
【0060】
次に、実施例3と全く同じ条件、手順で濾材の洗浄再生性を評価した。その結果、濾材(E)のUが2.5%、濾材(F)のUが1.8%であった。平均繊維径が大きいポリプロピレン極細繊維不織布を用いた濾材(F)の方がダスト脱離性が良いことを確認できた。
【0061】
(実施例9および比較例2)
PTFE膜(平均細孔径0.2μm、厚み0.05mm)に補強材のポリエステルスパンボンド不織布(東レ(株)製:品番H30601、目付60g/m2)を積層し濾材としたものを2枚用意し、そのうちの1枚に実施例1の方法でF加工を行った。この2種類の濾材について水の吸い上げ高さを評価したところ、F加工を施していない濾材(G)の水吸い上げ高さは0mmで、F加工を施した濾材(H)の水吸い上げ高さは10mmであった。
【0062】
次に、実施例3と全く同じ条件、手順で各濾材の洗浄再生性を評価した。その結果、F加工を施していない濾材(G)の圧損変化率Wが56%であるのに対して、F加工を施した濾材(H)の圧損変化率Uが18%であり、PTFE膜を用いた場合であってもF加工により脱離性を大幅に改善出来ることが分かった。
【0063】
(実施例10、11)
平均繊維径の異なる2種類のメルトブロー不織布を用意した。すなわち、平均繊維径2.4μmのポリプロピレン極細繊維不織布(目付20g/m2、捕集効率30%)と平均繊維径4.0μmのポリプロピレン極細繊維不織布(目付50g/m2、捕集効率30%)とを用意し、それぞれに補強材としてポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)を積層し濾材とした後、実施例1の方法でF加工を行った。F加工後の水吸い上げ高さは、平均繊維径2.4μmのポリプロピレン極細繊維不織布とポリエステルスパンボンド不織布との積層濾材(I)が25mm、平均繊維径4.0μmのポリプロピレン極細繊維不織布とポリエステルスパンボンド不織布との積層濾材(J)が23mmであった。
【0064】
次に、純水をそれぞれの濾材に吹きつけエレクトレット加工を行った。加工後の捕集効率は濾材(I)が93%、濾材(J)が75%であった。
【0065】
その後、実施例3と全く同じ条件、手順で各濾材の洗浄再生性を評価した。その結果、Uは濾材(I)が4%、濾材(J)が2.5%であった。親水性の高いポリプロピレン不織布であってもエレクトレット加工が可能であり、また洗浄再生性も得られることが確認できた。
【0066】
(実施例12、比較例3)
メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径4.1μm、目付40g/m2)に短繊維樹脂加工不織布(ポリエステル短繊維(1.5dtx)とビニロン短繊維(15dtx)を6対4で配合したウエッブをアクリル酸エステル樹脂で固め目付40g/m2としたもの)を両面に積層した濾材を2枚作成し、そのうちの1枚に、実施例1の方法でF加工を行った。水吸い上げ高さは、F加工を行った濾材(K)が24mmで無加工の濾材(L)は3mmであった。
【0067】
それぞれの濾材を用いて幅250mm、長さ320mm、厚み30mmのフィルターユニットを1個ずつ作成し、洗浄再生性を評価供した。なお、ユニット作成条件は、濾材の山高さ28mm、濾材収納面積1.26/個とした。
【0068】
続いて、得られたフィルターユニットについて洗浄再生性を次のように評価した。
【0069】
(1)2個のフィルターユニットそれぞれについて、風量3.1m/分で風を流し、圧力損失を測定した。その結果、いずれのフィルターユニットも圧損は23Paであった。
【0070】
(2)次いで、JIS15種ダストをJIS B9908(1991)に記載の形式3に準じて圧損が初期圧損の2倍になるまで付着させた。
【0071】
(3)その後、JIS15種ダストが付着したフィルターユニットを、P&G社の家庭用洗剤アリエールを2%濃度で溶かした40Lの洗浄液に1時間漬け置きした後、そのフィルターユニットに水圧0.2MPaの水道水を吹き掛けダストの脱離作業を行い、その後、天日で3日間の乾燥を行った。
【0072】
(5)乾燥後のフィルターユニットについて、上記(1)と同様にして再度圧損を測定し、圧損変化率を求めた。
【0073】
その結果、F加工を行っていない濾材(L)を用いたフィルターユニットの圧損変化率Wが25%であるのに対して、F加工を行った濾材(K)を用いたフィルターユニットの圧損変化率Uが5%であり、フィルターユニットとしてみてもF加工の効果が明らかに高いことが確認できた。
【0074】
(比較例4)
メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径2.4μm、目付20g/m2)に補強材のポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)を積層し、界面活性剤としてオクチルジメチルアンモニウムクロリド(三洋化成(株)、商品名カチオンDDC−50)を不織布重量の5%付着した濾材を作成した。界面活性剤加工後の水吸い上げ高さは27mmであった。
【0075】
ついで実施例3と同じ方法で洗浄再生性を評価したところ、Uが4%であった。続いて、同じ条件で2回目のダスト負荷を行い洗浄再生性を評価したところ、Uは7%と脱離性が悪化し洗浄再生能力が低下したことが分かった。界面活性剤が消失することが原因と考えられた。
【0076】
(比較例5)
メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径2.4μm、目付20g/m2)に補強材のポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)を積層した濾材に、フッ素樹脂(旭硝子製パラジェッPRニュー)を濾材重量の3%付着(乾燥後有効成分)させた。フッ素樹脂加工後の水吸い上げ高さは0mmであった。
【0077】
フッ素樹脂加工前後の濾材圧損を測定したところ加工前55Paであったが、加工後は67Paとなり目詰まりが促進されていた。
【0078】
(比較例6)
メルトブロー紡糸法で製造したポリプロピレン極細繊維不織布(平均繊維径2.4μm、目付20g/m2)に補強材のポリエステルスパンボンド不織布(ルトラビル社製:品番LDH7270W、目付70g/m2)を積層した濾材に、下記条件でプラズマ処理を行った。
【0079】
周波数 5KHz
印可時間 30秒
雰囲気ガス アセトン含有アルゴン
大気圧 0.12MPa
加工直後の水吸い上げ高さは13mmであったが、室内に放置して半年後に水吸い上げ高さを評価したところ7mmまで低下していた。
【0080】
ついで実施例3と同じ方法で洗浄再生性を評価したところ、Uが8%であった。続いて、同じ条件で2回目のダスト負荷を行い洗浄再生性を評価したところ、Uは12%と脱離性が悪化し洗浄再生能力が低下したことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の洗浄再生濾材および洗浄再生フィルターユニットは、一般空調用からクリーンルーム用高性能フィルターユニット、空気清浄機用フィルター、車載用フィルター(液体、空気)として使用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾材を構成する素材の分子構造にフッ素原子とカルボキシル基とを含む洗浄再生濾材。
【請求項2】
JIS L1907(2004)に記載のバイレック法に準拠して測定された水吸い上げ高さが5mm以上である、請求項1に記載の洗浄再生濾材。
【請求項3】
少なくともエレクトレット不織布を含む、請求項1または2に記載の洗浄再生濾材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄再生濾材を用いた洗浄再生フィルターユニット。
【請求項5】
フッ素、酸素、および水分と反応させることによって、濾材を構成する素材の分子構造にフッ素原子とカルボキシル基とを導入することを特徴とする洗浄再生濾材の製造方法。

【公開番号】特開2008−6320(P2008−6320A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176176(P2006−176176)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】