説明

洗浄剤および洗浄用水の濃度管理方法

【課題】製紙機のフェルト等を洗浄する洗浄用水に含まれる洗浄成分の濃度変動を防止し、安定した洗浄効果を奏する洗浄剤を提供する。また、洗浄用水に含まれる洗浄成分の濃度を容易かつ迅速に調整できる洗浄用水の濃度管理方法を提供する。
【解決手段】洗浄成分に対して所定割合で含有され、洗浄成分の濃度をトレースするトレーサ物質を洗浄剤に含有させる。洗浄剤は、清水等の水に溶解させて洗浄用水として用いる。洗浄剤を溶解させた洗浄用水には、製紙汚れを除去する洗浄成分と、洗浄成分に対して所定の割合で含まれるトレーサ物質とが含まれる。このため、洗浄用水に含まれるトレーサ物質の濃度を測定することにより、洗浄用水中の洗浄成分の濃度を容易かつ迅速に把握し、洗浄成分の濃度を所定範囲に調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工程で用いられる洗浄剤に関し、特に、製紙工程で使用されるフェルト等を洗浄する製紙工程用の洗浄剤およびこの洗浄剤を含む洗浄用水の濃度管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工程には、白水に懸濁させたパルプを抄紙して成形された湿紙を得るワイヤ工程と、湿紙をプレス脱水するプレス工程が含まれる。ワイヤ工程では、抄紙された湿紙をワイヤ(または抄紙網)と呼ばれる環状ベルトに乗せ、この環状ベルトをロールで動かすことにより湿紙から水分を除去しながらプレス工程に湿紙を送る。プレス工程では、フェルト製の環状ベルトに湿紙を乗せ、対向する2つのロールの間に湿紙を挟んでプレス脱水を行なう。
【0003】
上記製紙工程で使用されるワイヤ、フェルト、およびロールには、パルプに由来する微細繊維や製紙用添加剤に由来する水酸化アルミニウム等の汚れが付着して、目詰まりを生じる。フェルト等が目詰まりすると、湿紙の脱水性が悪化して脱水が不十分になったり、湿紙を均一に脱水ができなくなるといった問題が生じる。
【0004】
このため従来、洗浄効果や汚れの付着防止効果を有する薬剤を溶解させた水をフェルト等に噴射させてフェルト等を清浄に保つ方法が提案されている。フェルト等を清浄に保つために使用される薬剤としては、フェルト等に付着した汚れを除去する洗浄剤や、フェルト等に汚れが付着することを防止するピッチコントロール剤等が知られており、例えば特許文献1には、フェルトを洗浄する洗浄用水に、アクリルアミド単位を有する重合体を添加する方法が開示されている。
【0005】
ところで上述した製紙工程を構成するワイヤやフェルトは複数のロールで駆動され、上記の薬剤が添加された洗浄用水により洗浄する洗浄箇所は多数に上る。このため、各洗浄箇所に洗浄用水の調製に必要な水を貯留するタンク等の設備を設けることは困難であり、製紙工場では従来、水を貯留するタンクを少数設置し、配管を通じて多数の洗浄箇所に前記タンクから水を供給するとともに、配管の途中に洗浄剤の添加装置を設けて洗浄用水を調製していた。このように、タンクの設置台数が少なく配管構成が複雑な洗浄設備においては、各配管に流量計が設けられず、各洗浄箇所での洗浄用水の使用量が正確に把握できない。このため、タンクから供給される水の送水量が変動すると洗浄用水に含まれる洗浄剤の濃度が変動する問題があった。
【0006】
また、特にフェルトは清浄に保つ必要があるため、フェルトを洗浄する洗浄用水は原則として洗浄用水としては循環利用されず、工業用水等の清水を用いて調製された洗浄用水が使用される。このように、循環利用が想定されない洗浄用水については、循環利用が前提とされるパルプ懸濁用の白水等とは異なり、洗浄剤の濃度管理が着想されず、また、洗浄剤の濃度管理を行なおうとしても、洗浄用水が循環する循環経路がなく、洗浄成分自体の濃度測定には時間がかかることから、洗浄用水中の洗浄剤の濃度を管理することは困難であった。このため、洗浄用水に含まれる洗浄剤の濃度が安定しないことに起因する洗浄不良の問題が生じていた。
【特許文献1】特開平11−81175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされ、フェルト等の汚れを除去する洗浄用水中の洗浄成分の濃度変動を防止し、安定した洗浄効果を奏する洗浄剤を提供することを目的とする。本発明はまた、フェルト等の洗浄用水に含まれる洗浄成分の濃度を簡易かつ迅速に把握して、洗浄用水に含まれる洗浄成分の濃度を所定範囲に保つことができる洗浄用水の濃度管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、洗浄剤に、洗浄成分に対して所定割合で含有され、洗浄成分の濃度をトレースするトレーサ物質を添加することにより、洗浄用水中での洗浄成分の濃度を管理する。具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) 製紙機を洗浄する洗浄用水に含まれる洗浄剤であって、前記製紙機に付着した製紙汚れを除去する洗浄成分と、前記洗浄用水に含まれる前記洗浄成分の濃度をトレースするトレーサ物質と、を含む製紙工程用の洗浄剤。
【0010】
ここで「洗浄成分」とは、製紙工程で製紙機のフェルトやワイヤ等に付着する有機または無機系の汚れ(これらをまとめて「製紙汚れ」と称する)の少なくとも一部を除去する作用を有する1または2以上の物質を意味する。洗浄成分は、洗浄対象となるフェルト等に付着する製紙汚れの種類に応じて、任意の物質を選択することができる。
【0011】
例えば、木材に含まれる樹脂や、製紙用添加剤に由来する有機系の汚れを除去する洗浄成分として、界面活性剤が挙げられる。また、酸性抄紙が行なわれる製紙工程でサイズ剤を定着させるために用いられる硫酸バンドに由来する無機系の汚れを除去するための洗浄成分としては、無機酸または有機酸がある。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル、α―オレフィンスルホン酸塩、およびジアルキルスルホサクシネート等が挙げられ、非イオン系界面活性剤として、アルキレンオキサイド付加物、およびポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
【0012】
「トレーサ物質」とは、化学的に安定で、前記洗浄成分および製紙汚れと実質的に反応しない物質を意味し、洗浄成分に対して所定の割合で洗浄剤に含有され、洗浄成分の含有量と相関関係を有する。トレーサ物質としては、蛍光を発する蛍光トレーサ、イオントレーサ等があり、洗浄用水に含まれる洗浄成分や溶存塩類と実質的に反応せず、化学的に安定な物質であれば特に限定なく使用できる。
【0013】
本発明に係る洗浄剤は、水に溶解させて洗浄用水として製紙機に噴射されることにより使用され、トレーサ物質は洗浄用水中での濃度が0.1〜100mg/L、特に1〜10mg/Lとなるように洗浄剤に混合されることが好ましい。トレーサ物質は洗浄成分の含有量と相関するように洗浄剤に含まれ、トレーサ物質は洗浄剤に対して0.1〜10重量%、特に0.5〜2重量%配合することが好ましい。上記洗浄剤は、通常、10〜1000mg/Lの濃度となるように水に溶解して用いられ、このとき、洗浄用水に含まれるトレーサ物質は上記範囲内となる。
【0014】
洗浄剤を溶解させる水(以下、「溶媒水」と称する)としては、清水を用いることが好ましい。ここで「清水」とは、洗浄用水としては循環利用されない水を意味するものとする。一方、製紙工程から排出される排水であって浄化処理されない状態で白水等として循環利用される水は「循環水」と称する。清水には工業用水として用いられる市水、湖水、河川水、および地下水等が含まれ、製紙工程から排出された排水であっても、凝集、濾過等の浄化処理をして工業用水として用いられる純度に浄化した水(以下、「処理水」と称する)であれば清水に含まれるものとする。
【0015】
本発明に係る洗浄剤は、洗浄成分およびトレーサ物質以外の物質を含んでもよい。洗浄剤に含まれる他の成分としては、ピッチコントロール剤、スケール防止剤、およびスライムコントロール剤等が挙げられる。
【0016】
本発明では、洗浄剤にトレーサ物質を含有させているため、このトレーサ物質の濃度を測定することにより、容易かつ迅速に洗浄成分の濃度を把握できる。このため、溶媒水を貯留するタンクと洗浄箇所とを接続する配管の各所に流量計を設けることなく、洗浄用水に含まれる洗浄成分の濃度を適正範囲に容易に維持できる。従って、製紙工程の洗浄設備を簡素化し、かつ、安定した洗浄効果を奏する洗浄用水を洗浄箇所に供給できる。
【0017】
(2) 前記トレーサ物質は、イオントレーサである(1)に記載の製紙工程用の洗浄剤。
【0018】
イオントレーサは、溶媒水を着色せず、フェルト等に付着してフェルト等を劣化させるおそれが少ないため、本発明において好適に使用できる。イオントレーサは、水溶性の塩として洗浄剤に含有させることができ、洗浄剤を水に溶解させることにより、イオンを解離するため、比色法、滴定法、イオンクロマト法、原子吸光法、またはイオン電極法等を利用した各種のイオン濃度測定器により容易に測定できる。
【0019】
(3) 前記イオントレーサは、リチウム塩、カリウム塩、およびマグネシウム塩、リン酸塩、および硝酸塩から選ばれる1種以上である(2)記載の製紙工程用の洗浄剤。
【0020】
リチウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン、および硝酸イオンは、洗浄剤の洗浄効果に影響を与えるおそれが少なく、測定が容易である。このため、これらのイオンは、イオントレーサとして特に好適に使用できる。特に、リチウムイオンは清水には実質的に含まれておらず、イオン電極により容易かつ迅速に濃度を測定できるため、好ましい。
【0021】
洗浄剤に含有させるリチウム塩としては、塩化リチウムや水酸化リチウム等がある。カリウム塩としては、塩化カリウムや水酸化カリウム等がある。マグネシウム塩としては、硫酸マグネシウム等がある。リン酸塩としては、リン酸ナトリウム等がある。硝酸塩としては、硝酸ナトリウム等がある。
【0022】
(4) 製紙機を洗浄する洗浄用水の濃度管理方法であって、前記洗浄用水は、前記製紙機に付着した製紙汚れを除去する洗浄成分と、前記洗浄用水に含まれる前記洗浄成分の濃度をトレースするトレーサ物質と、を含み、前記トレーサ物質の濃度を測定することにより前記洗浄成分の濃度を調整する洗浄用水の濃度管理方法。
【0023】
本発明によれば、トレーサ物質を含む洗浄剤を溶解させた洗浄用水のトレーサ物質の濃度等を定期的または連続的に測定し、この測定値に基づいて洗浄用水の洗浄剤の濃度を把握する。具体的には、予備実験等により、洗浄剤とトレーサ物質との相関関係を予め求めておき、洗浄用水中のトレーサ物質濃度の測定値を基準として洗浄剤の濃度を算出して濃度調整を行なう。
【0024】
洗浄剤の濃度の調整方法としては、溶媒用水を貯留するタンクから洗浄用水をフェルト等に吹き付けるノズルに供給される溶媒水の流量を調整する方法や、洗浄剤の供給量を調整する方法等がある。具体的には、前記タンクとノズルとを接続する配管の途中に設けた溶媒水供給用のポンプや、洗浄剤を供給するポンプの回転数を変化させればよい。
【0025】
(5) 前記トレーサ物質は、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、および硝酸塩から選ばれる1種以上である(4)記載の洗浄用水の濃度管理方法。
【0026】
リチウムイオンおよびカリウムイオンはイオン電極により、マグネシウムイオンは硬度計により、またリン酸イオンや硝酸イオンは滴定法を利用したホスホン酸測定キットにより容易かつ迅速に濃度を測定できる。このため、トレーサ物質として、上記物質を用いれば、洗浄成分濃度を容易かつ迅速に測定して洗浄成分の濃度管理を行なうことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、製紙工程で使用されるワイヤやフェルト等を含む製紙機を洗浄する洗浄用水の洗浄成分濃度を容易かつ迅速に把握し、洗浄成分の濃度が所定範囲になるように調整できる。このため、洗浄用水の洗浄効果を安定させることができる。また、洗浄剤や溶媒水の過剰な使用を防止できるため、製紙機の洗浄に伴い排出される排水処理の負荷を低減でき、また排水を回収して白水等として循環利用する場合には、循環水に添加されるピッチコントロール剤等の製紙用添加剤への影響を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。以下、同一部材には同一符号を付し、説明を簡略化または省略する
【0029】
図1は、製紙機1の模式図である。製紙機1は、白水に懸濁されたパルプを抄紙してシート状に成形し、水分を含む湿紙5を得るワイヤパート10と、湿紙5を脱水するプレスパート20と、を含む。
【0030】
ワイヤパート10は、網目状の環状ベルトであるワイヤ11と、複数の円筒状の第1ロール12と、で構成されている。複数の第1ロール12の大きさは必ずしも同一ではないが、第1ロール12の表面はいずれもワイヤ11と同様に網目状となっている。また、各第1ロール12には、モータ等の駆動装置(図示せず)が接続され、駆動装置により第1ロール12が回転されることにより、ワイヤ11がプレスパート20方向へ動かされる。
【0031】
プレスパート20は、フェルト製の環状ベルトであるフェルト21と、このフェルト21を動かす複数の円筒状の第2ロール22と、湿紙5を挟んでプレス脱水する一対の対向する脱水ロール23と、で構成されている。第2ロール22および脱水ロール23の表面はいずれもフェルトで覆われている。また、脱水ロール23の一方は、環状のフェルト21の外側に設けられた外側ロール23Aで、他方は、フェルト21の内側に設けられた内側ロール23Bである。
【0032】
各第2ロール22には、モータ等の駆動装置(図示せず)が接続され、駆動装置により第2ロール22が回転されることにより、フェルト21がワイヤパート10と相反する方向へ動かされる。また、脱水ロール23にもモータ等の駆動装置(図示せず)が接続され、脱水ロール23が回転されることにより、外側ロール23Aと内側ロール23Bとの間に挟まれた湿紙5がプレス脱水されて紙原体6が得られる。紙原体6は図示しないドライパートに送られ、乾燥されて紙製品が得られる。
【0033】
製紙機1には、ワイヤ11およびフェルト21を洗浄する洗浄装置13が設けられている。洗浄装置13は、複数のワイヤノズル111と、複数のフェルトノズル112と、溶媒水を貯留するタンク15と、を含む。ワイヤノズル111とタンク15とは分岐した第1配管121で接続され、フェルトノズル112とタンク15とは分岐した第2配管122で接続されている。第1配管121の途中にはワイヤ洗浄用の洗浄剤を第1配管121に供給する第1薬注器131およびタンク15内の溶媒水をワイヤノズル111へ送る第1ポンプ141が設けられている。同様に、第2配管122の途中にはフェルト洗浄用の洗浄剤を第2配管122に供給する第2薬注器132および溶媒水をフェルトノズル112へ送る第2ポンプ142が設けられている。
【0034】
第1薬注器131から第1配管121に供給されたワイヤ洗浄用の洗浄剤は、タンク15から供給された溶媒水と混合され、得られた洗浄用水がワイヤノズル111からワイヤ11および第1ロール12に噴射される。同様に、第2薬注器132から第2配管122に供給されたフェルト洗浄用の洗浄剤は、タンク15から供給された溶媒水と混合され、得られた洗浄用水がフェルトノズル112からフェルト21および第2ロール22に噴射される。ワイヤ11等はこれら洗浄剤により洗浄され、ワイヤ11等に付着した製紙汚れが除去される。
【0035】
本発明では、第1薬注器131および第2薬注器132から供給される洗浄剤に、洗浄成分とトレーサ物質とが含まれている。そして、ワイヤノズル111やフェルトノズル112から噴射される洗浄用水に含まれるトレーサ物質の濃度が、トレーサ測定器151を用いて測定される。トレーサ測定器151は、トレーサ物質の種類に応じて適宜選択することができ、例えば洗浄剤がトレーサ物質としてリチウムイオンを含む場合、イオン電極が使用できる。
【0036】
トレーサ物質の濃度は、複数のワイヤノズル111およびフェルトノズル112のそれぞれから噴出される洗浄用水について測定されることが好ましいが、一部のワイヤノズル111またはフェルトノズル112から噴出された洗浄用水についてトレーサ物質の濃度測定を省略することもできる。トレーサ測定器151は複数のワイヤノズル111およびフェルトノズル112の出口近傍に設置してトレーサ物質の濃度が自動的に測定されるようにすることが好ましいが、トレーサ測定器151をワイヤノズル111などの近傍に設けることなく製紙機1の管理者が洗浄用水を採取して手動でトレーサ物質の濃度を測定するようにしてもよい。
【0037】
本発明においては、第1薬注器131および第2薬注器132からの洗浄剤の供給量は一定量に設定されている一方、第1ポンプ141および第2ポンプ142は回転数の制御ができるように構成されている。そこで、洗浄用水のトレーサ物質濃度から算出された洗浄成分の濃度が所定範囲を外れる場合、これらポンプ141、142の出力を制御して洗浄成分の濃度調整を行なう。
【0038】
具体的には、ワイヤノズル111から噴射されたワイヤ洗浄用の洗浄用水に含まれるトレーサ物質の濃度を測定し、この測定値が所定範囲を下回る場合は第1ポンプ141の回転数を下げることにより、溶媒水の供給量を低下させる。同様にフェルトノズル112から噴射されたフェルト洗浄用の洗浄用水に含まれるトレーサ物質の濃度を測定し、この測定値が所定範囲を下回る場合は、第2ポンプ142の回転数を下げる。反対に、洗浄用水のトレーサ物質の濃度が高い場合は、第1ポンプ141、または第2ポンプ142の回転数を上げ、濃度調整を行なう。
【0039】
また、第1薬注器131から第1配管121に洗浄剤を供給する供給路161に設けられたポンプ(図示せず)を出力調整可能に構成し、同様に第2薬注器132から第2配管122に洗浄剤を供給する供給路162に設けられたポンプ(図示せず)を出力調整可能に構成してもよい。洗浄剤と溶媒水の両方の供給量を制御可能に構成することにより、洗浄成分濃度が高い場合は洗浄剤の供給量を下げ、洗浄剤濃度が低い場合は溶媒水の供給量を下げ、洗浄用水の洗浄成分濃度を所定範囲内に維持でき、かつ、洗浄剤と溶媒水との無駄な消費を防止できる。
【0040】
本発明で用いられる洗浄剤としては、ワイヤパート10を洗浄する洗浄剤については洗浄成分としてアルキルアミンエピクロルヒドリン縮合物等のカチオン性4級ポリアミン、メチロールメラミン酸コロイド等のメラミン樹脂等を含み、トレーサ物質として水溶性の塩類を含む洗浄剤が挙げられる。トレーサ物質として用いることができる水溶性の塩類としては、塩化リチウム、塩化カリウム、およびオルトリン酸等が挙げられる。
【0041】
プレスパート20を洗浄する洗浄剤としては、洗浄成分としてポリオキシアルキレン脂肪族アミンやポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合物等を含み、トレーサ物質として水溶性の塩類を含む洗浄剤が挙げられる。トレーサ物質として用いる水溶性の塩類としては、塩化リチウム、塩化カリウム、およびオルトリン酸等が挙げられる。
【0042】
洗浄剤は、原液で供給してもよいし、原液を希釈した溶液として薬注器131、132から配管121、122に供給することが好ましい。洗浄剤は、洗浄成分濃度が5〜50重量%、トレーサ物質の濃度が0.1〜10%であることが好ましく、洗浄効果を高めるため30〜70℃程度であることが好ましい。
【0043】
なお、本発明は簡易かつ迅速に測定できるトレーサ物質を洗浄剤に含有させることにより、洗浄用水に含まれる洗浄成分の濃度を迅速かつ適切に管理するが、洗浄成分自体の濃度を測定して洗浄用水の濃度管理を行なうことを排除するものではない。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
以下、実施例について説明する。実施例1として、トレーサ物質であるリチウムイオン源として塩化リチウムを1重量%含む洗浄剤を用いて上記の製紙機1のフェルトパート20の洗浄を行なった。なお、本実施例では、洗浄剤を第2配管122に供給するポンプについても回転数を調整可能に構成した。洗浄剤は、洗浄成分としてポリオキシステアリルアミンを8重量%含み、原液を第2薬注器132から第2配管122に供給した。タンク15からは溶媒水として清水(市水)を供給し、前記洗浄剤を添加することにより洗浄用水を調製した。市水はタンクから50L/分の流量でフェルトシャワに供給されるとの想定で、洗浄用水に含まれる洗浄剤の濃度が100mg/Lとなることを目標として、洗浄剤を第2配管122に供給した。
【0045】
洗浄剤の添加に先立ち、市水のリチウムイオン濃度および洗浄成分の濃度を測定したところ、リチウムイオン濃度は0.00mg/L、洗浄成分の濃度も0m/Lであった。そこで、第2配管122への洗浄剤の添加を開始し、30分経過後にフェルトシャワ112から噴出される洗浄用水についてリチウムイオン濃度を測定したところ、0.65mg/Lであった。このリチウムイオン濃度に基づき、予め試験により求めた換算式を用いて洗浄成分濃度を求めたところ、65mg/Lであることが判明した。このため、第2薬注器132の配管162に設けた薬注用のポンプの回転数を1.55倍に上げて、30分後に再び洗浄用水のリチウムイオン濃度を測定したところ、1.05mg/Lであった。このリチウムイオン濃度の測定値に基づき、洗浄剤濃度を求めたところ、105mg/Lであり、目標範囲内にあることが確認できたため、市水および洗浄剤の供給をそのまま継続した。
【0046】
このようにして、洗浄用水のリチウムイオン濃度の測定値に基づいて洗浄剤の添加量を調整する操作を行ない、1回/日の頻度で60日間、フェルトパート20の洗浄を行なった。濃度調整は、洗浄成分の濃度が高いと判断された場合は洗浄剤の供給量を低下させ、洗浄成分の濃度が低いと判断された場合は清水の供給量を低下させることにより行なった。また、リチウムイオン濃度の測定は原子吸光法により行った。リチウムイオン濃度の測定に要した時間は20分であり、洗浄用水のリチウムイオン濃度の測定からポンプの回転数を制御して濃度調整を完了するまでの時間は40分であった。
【0047】
[実施例2]
実施例2として、トレーサ物質としてリチウムイオンに代えてリン酸を用い、実施例1の塩化リチウムに代えてリン酸を2重量%含む洗浄剤を用いた他は実施例1と同じ操作を行なった。洗浄剤の添加前にフェルノズル112から噴出される市水のリン酸イオン濃度は、0.30mg/Lであった。洗浄剤の供給を開始して30分後の洗浄用水のリン酸イオン濃度は1.40mg/Lで、予備試験により求めた換算式から計算した洗浄剤濃度は55mg/Lと算出された。そこで、第2薬注器132の配管162に設けた薬注用のポンプの回転数を上げ、30分後に再びリン酸イオン濃度を測定したところ、リン酸イオン濃度は2.36mg/Lで換算式から洗浄成分濃度は103mg/Lと算出された。
【0048】
なお、リン酸イオン濃度の測定には、ホスホン酸測定キット(HACH社製)を用い、リン酸イオンの測定時間は15分、洗浄用水のリン酸イオン濃度の測定から洗浄成分濃度調製までの所要時間は30分であった。
【0049】
[比較例]
次に比較例1として、トレーサ物質を除いたほかは実施例1と同じ洗浄剤を用いてフェルト洗浄を行なった。トレーサ物質を含まない洗浄用水中の洗浄成分の測定は困難であり、比較例については洗浄剤濃度の測定は行なわなかった。
【0050】
実施例1、実施例2および比較例について、製紙機を停止させてフェルトの一部を切り取り、汚れの分析を実施した.汚れの度合いはフェルト中の汚れ成分を溶媒(クロロホルム:ベンゼン=1:1)で抽出し、抽出量を求めることにより測定した。測定結果を表に示す。
【表1】

【0051】
表1に示すとおり、トレーサ物質濃度を測定して濃度管理を行った実施例1および実施例2については、フェルトの洗浄効果が高かった。一方、比較例については、フェルトの洗浄効果が低かった。さらに、実施例1および実施例2については、トレーサ物質の濃度測定および洗浄剤の濃度調整に要した時間は30分程度であり、短時間で濃度調整ができたのに対し、比較例については製紙機1設置場所での濃度管理は実質上、不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、製紙工程に用いられる機器類を洗浄するために用いることができる
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】製紙工程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1 製紙機
10 ワイヤパート
20 プレスパート
11 ワイヤ
12 第1ロール
15 タンク
21 フェルト
22 第2ロール
111 ワイヤノズル
112 フェルトノズル
121 第1配管
122 第2配管
131 第1薬注器
132 第2薬注器
141 第1ポンプ
142 第2ポンプ
151 トレーサ測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙機を洗浄する洗浄用水に含まれる洗浄剤であって、
前記製紙機に付着した製紙汚れを除去する洗浄成分と、前記洗浄用水に含まれる前記洗浄成分の濃度をトレースするトレーサ物質と、を含む製紙工程用の洗浄剤。
【請求項2】
前記トレーサ物質は、イオントレーサである請求項1に記載の製紙工程用の洗浄剤。
【請求項3】
前記イオントレーサは、リチウム塩、カリウム塩、およびマグネシウム塩、リン酸塩、および硝酸塩から選ばれる1種以上である請求項2記載の製紙工程用の洗浄剤。
【請求項4】
製紙機を洗浄する洗浄用水の濃度管理方法であって、
前記洗浄用水は、前記製紙機に付着した製紙汚れを除去する洗浄成分と、前記洗浄用水に含まれる前記洗浄成分の濃度をトレースするトレーサ物質と、を含み、前記トレーサ物質の濃度を測定することにより前記洗浄成分の濃度を調整する洗浄用水の濃度管理方法。
【請求項5】
前記トレーサ物質は、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、および硝酸塩から選ばれる1種以上である請求項4記載の洗浄用水の濃度管理方法。

【図1】
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