説明

洗浄方法および洗浄装置

【課題】 無数の気泡を被洗浄物に供給して洗浄する洗浄方法において、洗浄液中への浸漬もしくはシャワー洗浄などよりもさらに高い洗浄度を実現する。ポンプ, 回転系など複雑な機構を必要としない洗浄方法および洗浄装置を実現する。
【解決手段】 従来の洗浄は洗浄液中に被処理物を浸漬させて、マイクロバブルを作用させていた。本発明の気泡洗浄においては、浮上気泡によって形成される起泡部と気体との境界部付近で被洗浄物を洗浄する。これにより気泡の破泡効果を利用することができ、洗浄度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、部品等の被洗浄物を気泡によって洗浄する方法及び洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工業的洗浄の分野において、フロン系の溶剤や有機溶剤そのほか石油系などの特別な洗浄剤が用いられてきたが、オゾン層の破壊や地下水、河川、海洋汚染などの環境問題を誘起することが明らかにされてため、これらの特殊な洗浄剤を用いない洗浄方法および洗浄装置の開発が進められている。
この要請に応える技術として、水を主体とした洗浄液中に微細気泡(マイクロバブル)を発生させる技術が開発されている。
例えば、洗浄装置中に浸漬された被洗浄物を回転させることにより得られる相対速度によって、被洗浄物が気泡と衝突し、洗浄効率を高める方法がある(例えば特許文献1)。
また、浸漬槽の底部から微細気泡と洗浄液を攪拌しうる大きさの気泡とを交互に発生させ、微細な気泡表面に油を付着させ、そこに大きな泡を供給し浮力を与えて、油を水面に浮上させて洗浄する方法がある(例えば特許文献2)。
また、高圧容器内で、高圧容器内で生成された気体溶存水を洗浄水噴射系の洗浄水噴射ノズルから被洗浄体に噴射することにより、被洗浄体に対する洗浄水衝突時の衝撃力によって被洗浄体に付着している異物を剥離して除去するとともに、洗浄水に溶存している気体の分離によって発生した多数の気泡が被洗浄体に衝突して破裂した場合の衝撃力によって、被洗浄体に付着している異物を剥離して除去するようにした洗浄方法もある(例えば特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−227582号公報(図6他)
【特許文献2】特開平6−179991号公報(〔0008〕他)
【特許文献3】特開平6−71233号公報(〔0005〕、図1他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の気泡を用いた洗浄方法では、回転機構を必要とするため装置が複雑化、高コストとなる、洗浄槽の下部から気泡を供給するだけなので、複雑な形状のワークの洗浄ができない、部品から脱離した油が他の部品に再付着し、洗浄度が確保できないなどの問題があった。また、洗浄液を高速で被洗浄物に供給するために、多大なエネルギーが必要、洗浄の均一性に乏しいなどの問題があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、気泡がそれ自身の浮力により浮上する現象と、浮上した気泡が気体と接することにより崩壊する(破泡)現象とを利用して、すなわち破泡が最も効率よく起こる付近に被洗浄物を設置し、破泡現象によって生じる衝撃力によって被洗浄物に付着した除去対象物(油脂や粒子などの異物)を脱離させ、気泡表面への除去対象物の界面吸着と破泡による剥離と両方を併せ持つ洗浄方法および洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る洗浄方法は、気泡発生手段により生成された洗浄液の気泡が前記洗浄液の気泡が前記洗浄液の液面に浮上して形成される起泡部に被洗浄物を配置し、前記起泡部での破泡を被洗浄物の洗浄すべき処理面に作用させて洗浄を行うものである。
【0007】
この発明に係る洗浄装置は、洗浄槽内の洗浄液に気泡を発生させる気泡生成手段と、該気泡発生手段により生成された気泡が前記洗浄液の液面に浮上して形成される起泡部または前記洗浄液の近傍に被洗浄物を配置する手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、気泡が破泡する気液界面近傍にて破泡作用を利用して洗浄を行うので、従来残存していた微細な凹部等への汚れの除去も可能となり、洗浄度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明における洗浄の原理について、述べる。本発明の洗浄方法を有効化させる方法としてマイクロバブルといわれる数100μm〜数μmの微細な気泡を利用することがあげられる。通常の気泡では気泡径が大きいため、単位体積あたりの表面積が小さい、気泡密度が低いなどの要因もからみ、効率的に洗浄できない。これに対して、マイクロバブルを用いた場合には、単位体積あたりの表面積が大きく、気泡密度が高いために、効率的な洗浄および均一洗浄が可能となり、十分な効果を得ることが可能となる。さらに、本発明では、破泡時の衝撃力の効果も合わせもたせることで、気泡径よりも小さな構造部に付着した油、あるいは粒子などの序子対象物を除去することが可能となる。この破泡作用の高い部位、すなわち気液界面付近に被洗浄物を配置することで、マイクロバブルでは生成気泡数を指数的に向上させることが可能となるので、気液界面での破泡の確率も同様に向上させることができ、被処理物の洗浄処理速度の向上および均一性の向上が可能となる。
以下に具体的実施の形態に基づいて説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は本発明の洗浄方法を説明するための図である。図において、ベンチュリタイプのマイクロバブル生成器3の気体導入部4、液体導入部5からそれぞれ例えば、空気と水を供給して生成した気泡6を洗浄槽2内に溜められた洗浄液9中に供給する。洗浄液9の表層には気泡6の集合した起泡部7が形成されるが、被洗浄物1の処理面はこの起泡部7の境界部8に接するように配置される。図2は従来の洗浄方法を説明する図であるが、従来は被洗浄物1を洗浄カゴ等に入れて、その処理面は気泡6の通過部に位置する。本発明の特徴は、従来気泡を含む洗浄が洗浄槽内で行われていたものを、気体と液体との境界部付近で行うことにあり、図1によって明確に示される。
【0011】
次に、本発明の洗浄方法の原理を説明する。まず、図1中において被洗浄物1を気体と液体の境界部8に設置するが、この境界部について説明する。
無数のマイクロバブルを含む液体の場合には、多数の気泡6が一斉に上昇するために液体の上部に起泡部とよばれる層を形成する。本発明の洗浄の場合には図1に示すように液体部(洗浄液)9、起泡部7が存在する。図1において最も効率よく破泡が起こる位置は、起泡部7と気体が接する境界8である。したがって本発明の境界部8とは、本起泡部と気体との境目のことをいう。これにより既に記述したように破泡の衝撃力を利用した洗浄が可能となる。
【0012】
図3には、(a)従来の液中での洗浄と(b)本発明の気液界面での効果の違いを概念的に示す。被洗浄物として一般的な精密・機械部品などの表面には数μm以下の非常に微細な凹凸が存在する。例えば除去対象物を油脂汚れとした場合には、この微細な凹部1aに浸入した油分を除去しない限り所望の洗浄度を得ることはできない。最も簡単な方法としては、この凹凸よりも小さいサイズの気泡を生成させ、それを用いて洗浄することである。ところが、先駆的な気泡微細化の技術を用いても、μmオーダーの気泡を高密度に生成させることは容易ではなく、表面の凹凸よりも一桁から二桁大きな数10μm〜数100μmサイズの気泡を洗浄に用いざるを得ない。従って通常は図3(a)に示したように気泡径よりも十分小さな凹部1aに存在する油脂などの除去対象物に気泡は作用することができず、油脂分を除去することはできない。流速を高めることにより洗浄度が向上することがわかっているが、これは気泡が壊れる際の衝撃力を利用したものである。流速を高めるためには気泡を含んだ液全体を加速させる必要があるために、多大なエネルギーを要し、装置が複雑化する。また液中では距離に依存して指数的に流速がおちるために、処理の均一性を保持することは容易ではない。
図3(b)には本発明の起泡部と気体との境界部での洗浄メカニズムを示す。本境界部8では最も効率よく気泡が破泡6bし、衝撃力を発生させる。その衝撃力を利用して微細な凹部1aに沈み込んだ油脂などの汚れをあたかもかきだすような作用で、被洗浄物表面から除くことができ、洗浄度を向上させることができる。
【0013】
図4は、本発明の洗浄方法について説明する図である。図中(a)はマイクロバブル生成前、(b)はマイクロバブル生成時の被洗浄物1の状態を示す。図中(a)のように被洗浄物1の被処理面を洗浄液に対面するように洗浄液の表面近傍まで配置する。(b)においてマイクロバブルを生成させると、気泡の上昇により起泡部7が形成され、界面が上昇10する。被処理物1は上述のとおり境界部での破泡作用を受けるように位置調整される。
【0014】
実施の形態において、洗浄度を向上させるためには、気泡径を小さくて単位体積あたりの表面積を増加させる、洗浄液の温度をあげる、流動速度をあげるなどがあげられる。
また、洗浄液の循環を行いたい場合には循環ポンプを、また洗浄液の温度を高めたい場合には温調器を付属させればよい。
【0015】
実施の形態2.
実施の形態1の洗浄装置、洗浄方法を用いた洗浄効果について従来技術と対比して説明する。図5は従来の液中洗浄、本発明の境界部(起泡部-気体の界面部)での洗浄の効果を示したもので、洗浄後の残油量を示したものである。従来の液中洗浄は、図2において、洗浄槽2側壁のマイクロバブル生成部3から4cmのところに被洗浄物1の処理面をマイクロバブル生成部3に対面するように固定して行った。本発明の実施においては図1に示すとおり、被洗浄物1の処理面をほぼ境界部、界面に配置して行った。なお、従来、本発明のいずれの実験条件としても、洗浄槽の容量35L,洗浄時の液温50℃、洗浄液の供給量は14 L/min、ガスの供給量は14L/minとした。また、気泡を微細化させる添加剤として酢酸を0.5wt%添加した。SUS316の平板に所定面積・所定量の油分、それぞれ疎水性油(ここでは日本ホートン社製の疎水切削加工油カットマックスを使用)、灯油、サラダ油、を塗布したものを被洗浄物として1分間洗浄した。洗浄後の被洗浄物の残留油分は、実験後に付着した油分を炭化水素系の溶剤に溶解させ、油分濃度計OCMA-300(堀場製作所製)を用いて測定した。測定された油分濃度の値より、部品1cm2あたりの残留油分(μg/cm2)を求めた。
【0016】
図5より、本発明の洗浄方法を用いた場合、従来の洗浄方法より何れの油に対しても数倍以上洗浄度を向上させることが確認された。本実施の形態においては、一般の金属加工に用いられる切削油、加工油、熱処理油、潤滑油などいずれの油に対しても同様の効果を奏することを確認した。また、工業的な油に限らず、主要油脂とされるバター、ラード、牛脂、魚油、大豆油、菜種油、ゴマ油、オリーブ油、やし油、パーム油などに対しても効果を奏することを確認した。
【0017】
また、同様の実験条件を用いて、従来技術の他の手法であるシャワー形態で気泡を含む洗浄液を供給した実験を行った。すなわち、同様の洗浄液の供給量、ガスの供給量添加剤等の条件で洗浄液を直接被洗浄物に供給した。この場合においても、本発明の洗浄方法のほうが数倍以上の洗浄度を有することを確認した。
【0018】
添加剤の濃度に関しては気泡の微細化に効果を有する濃度範囲、具体的には0.0001重量%〜10重量%の範囲まで有効であり、望ましくは0.001重量%〜1重量%の範囲がよい。また洗浄時の温度も高いほど効果が高い。しかしながら、あまりに高い温度では、ミストの問題などによる作業場の安全性、エネルギー消費の観点から好ましくない。好ましくは40度〜80度が適当である。
【0019】
さらに粒子の除去効果についても検証を行った。シリカ、アルミナ、ポリスチレン、金属酸化物の微粒子(それぞれ0.2μm,0.5 μm,2.0μm,10μm)を基板上に所定量強制汚染させ、その除去効果を調べた。その結果いずれの粒子種についても界面洗浄の方が1桁以上洗浄後の残留粒子数は少なかった。また上記以外の粒子種についても同様に本発明の界面洗浄のほうが洗浄後の残留粒子数は少なかった。
また基板の材質に対しても検討を行ったステンレス以外に、真鍮、銅、鉄、アルミなどの金属系基板、塩化ビニル、フッ素樹脂、アクリル、ポリプロピレン、ポリビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ガラス、シリコン、ガリ砒素、酸化チタンなどの光触媒、セラミックス、超伝導体などの基板や基材についても同様の効果、すなわち従来の液中洗浄やシャワー洗浄よりも十分な洗浄効果を確認した。
【0020】
実施の形態3.
以下、境界部での微細気泡の効果について説明する。洗浄条件は実施の形態2と同じ洗浄条件で、添加剤の有無と気泡発生の有無において洗浄効果を確認した。図6には微細気泡で洗浄した場合、微細気泡生成のための添加剤を含まない場合、また気泡を含まず添加剤のみで洗浄した場合の残油量の結果を示す。気泡を含む洗浄の場合、気泡を含まない洗浄よりも4倍以上洗浄度が向上した。さらに、添加剤を含み微細気泡による洗浄では添加剤を含まない気泡(数mmΦ以上)を用いた洗浄よりも5倍以上洗浄効果が高いことを確認した。なお、実施の形態2と同様にいずれの油に対しても効果を奏することを確認した。
【0021】
次に微細気泡の洗浄効果をより明らかにするため、洗浄液の平均気泡径に対する洗浄効果を検討した。なお、洗浄液中の気泡径を均一にすることは困難であるため、高速度カメラで洗浄液を撮像、画像処理することで洗浄液の気泡径分布および気泡径の平均値を算出、その値を平均気泡径と定義した。平均気泡径が1μmから500μmの範囲で添加剤をまったく含まない数mm以上の平均気泡径よりも洗浄効果がみられた。さらに、この効果は1μmから300μmで向上した。特に10μmから100μmの平均気泡径を有する場合に、最も洗浄効果がみられることを確認した。
なお、本発明の実施の形態で示した結果は、本洗浄条件によらず、たとえば液温、添加剤の種類・濃度、注入するガス量を変化させた場合にも同様の効果が得られた。
【0022】
実施の形態4.
次に、被洗浄物を設置する位置ついて検討した。実施の形態1の本発明の洗浄原理の説明において、被洗浄物は境界部の界面に配置するのが気泡の破泡作用を受けやすいことを示したが、その界面近傍の位置について洗浄効果との関係を詳細に検討した。
図7には洗浄時の境界部を座標0とした場合の高さ方向の洗浄度変化を示す。図において0〜−1cmまでは起泡部、−1cm以下は液体部、0cm以上は気体部で洗浄したことを意味する。本結果より深さ方向に対する明確な洗浄度変化がわかる。境界部が最も洗浄度がよく、起泡部では徐々に洗浄度が低下する。さらに液体部では洗浄力は急速に失われる。液中では破泡の効果がなくなるためである。境界部に近い気体部(+1cm)では遠い箇所(+2cm)よりも洗浄度がよいのは、破泡による気泡の飛散によって衝撃力が伝播し、洗浄効果が得られているからである。境界部よりも十分遠い気体部では当然のことながらまったく洗浄効果は得られない。従って本実施の形態により本発明の洗浄方法においては、最適な位置が存在することがわかった。最適位置は無数の気泡を含む洗浄液において、液体の部分と気泡によって起泡する部分において、起泡部と気体との境界であり、この付近で洗浄することが最も望ましい。また境界部でなくとも起泡部で洗浄してもそれに近い洗浄効果が得られる。また、境界部から気体より若干上方であっても洗浄効果を得ることができる。添加剤の種類・濃度、注入するガス量を変化させた場合に起泡部の高さは変化するが、本実施の形態の洗浄位置は起泡部及び境界部上方1cm以内(起泡部もしくは洗浄液面の上方1cm以内)であり、この範囲であれば起泡部の高さに依存せず、同様の洗浄効果が得られる。
【0023】
実施の形態5.
次に、気泡よりも微細な凹凸が存在する表面に付着した油脂汚れの除去結果について検討した。図8は、平均気泡径50μm(最小 20μm, 最大500μm)を用いた場合の被洗浄物の凹凸(表面粗さ:それぞれRaおよびRz)に対する洗浄度依存性を示す。RaおよびRzはそれぞれ算術平均粗さ、十点平均粗さの略称で、粗さ形状パラメータとして定JIS B0601-1994に定められている。Raは粗さ曲線(表面形状の曲線) の平均線から絶対値偏差の平均値、Rzは基準長さ毎の山頂の高い方から5点、谷底かの低い方から5点を選んだ場合の平均高さとして定義される。
Ra,Rzいずれの結果においても境界部で洗浄するほうが洗浄度は高くなった。また特徴的なことはRa, Rzの値が大きくなるほど液中と境界部での洗浄度の差が大きくなることである。これは図3のモデルで示したように、液中の洗浄では凹部が細く、深くなるほど気泡が作用できなくなり、その領域が洗浄面全体で増加するために洗浄度が悪化する。一方境界部では同様に粗さの影響は受けるものの、破泡による汚染物の除去効果は維持されており、徐々にしか洗浄度の悪化はみられない。このため表面が粗くなるほど両洗浄方法での洗浄度の差が顕著になるものと推測される。
【0024】
実施の形態6.
上記実施の形態1〜5では境界部に浮上した気泡の破泡現象を用いることで洗浄効果を得た。さらに洗浄効率を向上させるためには、気泡を強制的に破泡させる手段を備えればよい。本実施の形態では気泡を効率よく破泡させる手段として超音波を作用させた。
図9には本発明の実施の形態で用いた超音波素子を備えた洗浄装置の構成図を示す。図中(a)は上面図、(b)は図中(a)の矢印方向からみた図である。図において、超音波発信器11に接続された超音波振動子12より石英棒13に超音波が伝播するように配置している。本装置では起泡部付近に洗浄槽をまたぐように一定間隔をおいて直径1〜2cmの石英棒13を設置してある。
【0025】
マイクロバブル発生部3から発生した気泡6は、石英棒13からの超音波によって破泡現象が促進され、効率よく破泡が進むことになる。これにより上記実施の形態1〜5で示した気液界面での破泡に加え、超音波での気泡の破泡も加わることになり、より一層洗浄度を向上させることが可能となる。実際に同条件で、超音波の印加の有無による洗浄度を調べたところ、超音波印加ありの場合は、ない場合に比べ洗浄度は3倍(残油量が1/3)となり、その効果を確認した。
さらに、超音波周波数は20kHz〜3MHzの範囲で効果があった。本実施の形態では石英棒を介して超音波を印加する方法をとったが、これに限らず起泡部に超音波を印加した場合であれば、効果を奏することができる。例えば、超音波素子自身を液面近傍に配置してもよいし、石英の代わりに超音波伝播物質である、ステンレスやなどの金属製のものポリプロピレン、ポリスチレン等の棒等を配置してもよい。
【0026】
実施の形態7.
上記実施の形態における洗浄方法においては、被洗浄物から除去した油脂などの汚れの再付着をさせないことが重要である。起泡部の流動のない条件で洗浄をした場合には、活発な破泡除作用があっても、除去物が液面内を漂い、再度被洗浄物に対して付着してしまうことが危惧される。実際に流動のない条件では、残油量が飽和してしまい、目標レベルの高洗浄度を得ることができなかった。本実施の形態においては、被洗浄物から除去された油等の汚染物の再付着を防止する手段を備えたものである。
再付着を抑制するためには液面の流動性をもたせることが有効な手段となる。たとえば洗浄槽を少し傾斜させると液面は高いほうから低い方へと流動するので、除去した汚れ成分が自ずと基板面の外に運びだされる。境界部付近で水平方向の流れが生じるように液体の流れを制御した場合にも同様に基板への再付着防止が可能となる。
【0027】
図10は、本実施の形態に係る洗浄装置の構成を示す図である。洗浄槽2の境界部もしくは起泡部で流れを制御する装置14を付加した洗浄装置を示す。本装置では図中矢印15で示すように、洗浄槽2からオーバーフロー槽16へと一方向に流れるよう制御されている。これにより除去した汚れを速やかにオーバーフロー槽へと流すことが可能なる。本流体の制御装置としては、液面付近に送風する手段を用いてもよい。すなわち水より浮力の軽く液面を漂う油分を、境界部に送風させることで移動可能となり、高洗浄度が得られることになる。この起泡部で流れを制御する装置14を設けることによって洗浄後の残油量をさらに、1/2〜1/10に低減することも確認できた。また、起泡部で流れを制御する装置14を設けなくても、洗浄液の増減によって境界部を移動させた場合にも残油量低減の効果が認められた。
【0028】
実施の形態8.
上記実施の形態1〜7においては、被洗浄物が平板の単純な形状を例にして基本的な特性について説明した。一般部品・精密洗浄においては3次元的に形状が複雑なものを洗う場合が多い。本実施の形態においては、これらの洗浄物を効率的に洗浄する方法について説明する。
【0029】
図11は本実施の形態による洗浄装置の構成を示す図である。図において、3次元形状の被洗浄17を入れた洗浄カゴ18を所定の速度で上下させ、境界部および起泡部を通過するようにしてある。この時、洗浄カゴ18は図中矢印で示すように中の被洗浄物17の処理面が境界部あるいは起泡部に晒されるように回転させるとよい。洗浄カゴ18の可動範囲および速度は最適化させることが重要である。
【0030】
図12は本実施の形態による別の洗浄装置の構成を示す図である。図11では被洗浄物17をいれた洗浄カゴ18を上下させる例について示したが、図12蒸気液界面を移動させるための装置の構成図を示す。洗浄槽と並列にポンプ19で接続された予備槽20を備える。このポンプを用いて液を予備槽側に移すと、気液界面が下がる。また下がった界面を基に戻したい場合には予備槽の液を洗浄槽側に戻せばよい。これによって簡単に洗浄槽内の気液界面の位置を制御することが可能となる。
このように気液界面の位置を制御することで、汚染物の再付着防止の効果もあるが、ポンプ19の近傍にフィルタを設け、除去物を回収するようにすると、再付着の防止効果が一層向上する。
【0031】
本実施の形態のように、複雑形状の被処理物であっても境界部、起泡部を通過させるようにし、気泡の破泡作用により洗浄効果を高めることができる。
【0032】
上記実施の形態1〜8においては、起泡部と気体との境界における洗浄効果を示したが、気体としては上記のような空気に限られるものではなく、酸化性のガスを用いてもよい。特にオゾンガスを用いた場合には、油脂の除去だけでなく、有機物の分解除去に効果を発揮することが確認された。また破泡のエネルギーによって菌の不活化にも有効であることも確認した。また、還元性のガスたとえば水素やメタンなどを用いてもよい。洗浄液は特別なものを準備することなく、水で洗浄効果が得られるが、気泡生成が可能な溶媒例えば、一般有機溶媒((アルコール、エステル、有機酸、ケトン、エーテル、ベンゼン、アルデヒ ト、ヘキサン、アルキルベンゼン、キシレン等)であれば用いることできる。さらに、洗浄液として水を用いた場合に気泡促進の添加剤として、酢酸を用いた例を示したが、酢酸などのカルボン酸化合物、メタノールなどのアルコール系化合物、塩化ナトリウム、アニオン・カチオン・ノニオン系界面活性剤などをはじめとして、脂肪酸とその誘導体、グリセリンとその誘導体、アミン系化合物の使用が考えられる。
なお、気体にオゾン等の酸化性ガスを用いた場合、オゾンガスとの反応性の高い物質との併用は避けることが好ましく、洗浄液や添加剤としてメタノールなどのアルコール系、アニオン・カチオン・ノニオン系界面活性剤、脂肪酸とその誘導体、グリセリンとその誘導体、アミン系化合物の使用は好ましくない。オゾンガス濃度や添加剤の濃度等注意を払う必要がある。
また上記実施の形態においてはいずれも油脂の汚れの除去を例示して説明したが、粒子汚れについても、破泡のエネルギーによって基板上や被処理物に付着した粒子を脱離させる作用や気泡表面への粒子の付着作用による基板や被処理物への再付着防止などの効果が期待されることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1によるマイクロバブル洗浄装置を示す構成図である。
【図2】従来のマイクロバブル洗浄装置、洗浄方法を示す構成図である。
【図3】本発明の洗浄原理を従来技術と対比して説明する概念図で、(a)は従来の液中洗浄の場合、(b)は本発明の気液界面での洗浄の場合を示す図である。
【図4】本発明の洗浄方法を説明するための図で、(a)はマイクロバブル生成前の状態、(b)はマイクロバブル生成時の被洗浄物の位置を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2による洗浄効果を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3による洗浄効果を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4による洗浄効果を示す図で、被洗浄物の位置と残油量の関係を示した図である。
【図8】本発明の実施の形態5による洗浄効果を示す図で、(a)は被洗浄物の処理面の表面粗さ(Ra)と残油量の関係、(b)は被洗浄物の処理面の表面粗さ(Rz)と残油量との関係を示した図である。
【図9】本発明の実施の形態6による洗浄装置を示す構成図で、(a)は上面図、(b)は(a)中矢印の方向から見た図である。
【図10】本発明の実施の形態7による洗浄装置を示す構成図である。
【図11】本発明の実施の形態8による洗浄装置を示す構成図である。
【図12】本発明の実施の形態8による別の洗浄装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1 被洗浄物、 1a 被洗浄物の処理面、 2 洗浄槽、
3 マイクロバブル生成部、 4 気体導入部、 5 液体導入部、
6、6a 気泡、 6b 破壊した気泡、 7 起泡部、
8 境界部、 9 洗浄液、 10 界面の上昇、
11 超音波発信器、 12 超音波振動子、 13 石英棒、
14 表面流体移動制御装置、 15 除去物の流れ方向、 16 オーバーフロー槽、
17 被洗浄物、 18 洗浄カゴ、 19 ポンプ、 20 予備槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡発生手段により生成された洗浄液の気泡が前記洗浄液の液面に浮上して形成される起泡部での破泡を、被洗浄物の洗浄すべき処理面に作用させることを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
被洗浄物を起泡部または前記起泡部もしくは洗浄液面の上方1cm以内に配置することを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
気泡径が1μmから500μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
洗浄槽内の洗浄液に気泡を発生させる気泡生成手段と、該気泡発生手段により生成された気泡が前記洗浄液の液面に浮上して形成される起泡部または前記洗浄液面の近傍に被洗浄物を配置する手段とを備えたことを特徴とする洗浄装置。
【請求項5】
さらに気泡の破泡促進手段とを備えたことを特徴とする請求項4に記載の洗浄装置。
【請求項6】
被洗浄物を配置する手段は、前記被洗浄物の位置を可変する制御手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の洗浄装置。
【請求項7】
さらに洗浄液の循環手段を備えたことを特徴とする請求項4に記載の洗浄装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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