説明

洗浄装置

【課題】各々の効能を損なうことなく、複数の仕上物質を繊維構造物に付着することができるとともに、複数の仕上物質の組み合わせによって繊維構造物に悪影響を及ぼす可能性を低減することが可能な洗浄装置を提供する。
【解決手段】洗浄装置は、内部に繊維構造体を収容する洗浄槽と、この洗浄槽に水を供給する水供給部とを備えた洗浄装置において、第1の仕上物質を含む水を水供給部が洗浄槽内の繊維構造体に掛けることにより、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させる第1の仕上物質付着工程と、第1の仕上物質付着工程の後、繊維構造体を脱水する脱水工程と、第1の仕上物質と異なる第2の仕上物質を含む水を水供給部が洗浄槽内に供給し、洗浄槽内の繊維構造体をすすぐことにより、第2の仕上物質を繊維構造体に付着させる第2の仕上物質付着工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には洗浄装置に関し、特定的には繊維構造物に仕上物質を付着させることが可能な洗濯機等の洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維構造体の洗浄装置として、たとえば、洗濯機で洗濯を行う際、水、特にすすぎ水に仕上物質を加えることがよく行われる。一般的な仕上物質としては、柔軟剤、のり剤等を挙げることができる。近年、上記の仕上物質に加えて、洗濯物である繊維構造体に抗菌性を付与するために、仕上物質として金属イオン(たとえば、銀イオン)を繊維構造体に付着させることが可能な洗濯機がある。そこで、これらの複数の仕上物質を併用して洗濯物の仕上げを行う洗濯機が提案されている。
【0003】
たとえば、特開2004−24597号公報(特許文献1)には、洗濯物の仕上物質として殺菌作用のある金属イオンを用いる場合、その効能を損なうことなく他の仕上物質、たとえば、柔軟剤と併用することが可能な洗濯機が記載されている。この洗濯機では、第1の仕上物質である金属イオンがすすぎ水に投入された後、第2の仕上物質である仕上剤がすすぎ水に投入される。
【0004】
また、特開2004−215817号公報(特許文献2)には、殺菌作用のある金属イオンや柔軟剤など、複数の仕上物質を用いて洗濯物の仕上を行うことが可能な洗濯機が記載されている。この洗濯機では、金属イオンが投入されるすすぎ工程と、仕上剤が投入されるすすぎ工程とは別に行われ、前者のすすぎ工程が後者のすすぎ工程に先行する。さらに、この洗濯機では、金属イオンが投入されるすすぎ工程から、仕上剤が投入されるすすぎ工程に移行する際、脱水工程が行われる。
【特許文献1】特開2004−24597号公報
【特許文献2】特開2004−215817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の洗濯機の構成は、金属イオンと柔軟剤の2種類の仕上物質の機能(効能)を最大限に衣類に残すことを目的としている。しかし、これらの仕上物質の組合せによっては、仕上物質同士が何らかの反応を起こしたり、または変化を助長し合うことにより、たとえば、洗濯物が変色するという洗濯物への悪影響を及ぼす可能性については全く想定されていない。
【0006】
ところが、本発明者が研究を続けていく中で、複数の仕上物質が同時に水中に存在する場合に、仕上物質同士がなんらかの反応を起こすか、または変化を助長し合い、これにより、たとえば、洗濯物(繊維構造体)を変色させるという洗濯物への悪影響を及ぼす仕上物質の組合せが存在することがわかった。たとえば、仕上物質のひとつが金属イオンで、もうひとつの仕上物質がある特定の界面活性剤を含む柔軟剤の場合などである。
【0007】
上記の金属イオンと柔軟剤との反応、または変化の原因として、たとえば、以下に挙げるものが推定される。
【0008】
1)柔軟剤に含まれる界面活性剤の成分がエステル結合を有する場合、金属イオンが触媒となり、柔軟剤に含まれる界面活性剤のエステル結合が分解されやすくなる。
【0009】
2)柔軟剤に含まれる界面活性剤の成分がエステル結合を有する場合、金属イオンと結合した界面活性剤の自動酸化が促進される。
【0010】
3)柔軟剤に含まれる界面活性剤が二重結合を持つ場合、金属イオンが触媒となり、二重結合を持つ界面活性剤が分解されやすくなる。
【0011】
4)柔軟剤にはカチオン性界面活性剤が用いられていることが多く、カチオン界面活性剤に含まれている−NHなどの陽イオンが金属イオンと結びつき、それによって生成された化合物が変色を引き起こす。
【0012】
5)金属イオンが柔軟剤と接触した状態で洗濯物が乾燥したときに、金属イオンを含む化合物、または金属が光触媒となり、空気中の酸素を活性種化させ(たとえばオゾンなどに変化させ)、洗濯物に付着している柔軟剤を変質させることによって変色が起こる。
【0013】
6)金属イオンが金属化合物(銀イオンの場合は塩化銀や酸化銀など)に変化し、同時に柔軟剤が存在すると変色を起こす。
【0014】
7)金属イオンと柔軟剤中に含まれる物質のいずれかとの反応により、金属錯体が形成され、それが変色に起因する。
【0015】
なお、化学物質の反応や変化の種類は非常に多く、ここに挙げた原因以外にも様々な反応や変化が存在することが考えられる。
【0016】
この発明の目的は、各々の効能を損なうことなく、複数の仕上物質を繊維構造物に付着することができるとともに、複数の仕上物質の組み合わせによって繊維構造物に悪影響を及ぼす可能性を低減することが可能な洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に従った洗浄装置は、内部に繊維構造体を収容する洗浄槽と、この洗浄槽に水を供給する水供給部とを備えた洗浄装置において、第1の仕上物質を含む水を水供給部が洗浄槽内の繊維構造体に掛けることにより、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させる第1の仕上物質付着工程と、この第1の仕上物質付着工程の後、繊維構造体を脱水する脱水工程と、第1の仕上物質と異なる第2の仕上物質を含む水を水供給部が洗浄槽内に供給し、洗浄槽内の繊維構造体をすすぐことにより、第2の仕上物質を繊維構造体に付着させる第2の仕上物質付着工程とを行うことを特徴とするものである。
【0018】
この発明の洗浄装置においては、第1と第2の仕上物質は水中で同時に存在することがない。このため、第1と第2の仕上物質が、水中で接触することにより、互いに変化を助長し合って、たとえば、化合物になったり、仕上物質の変質などの変化を起こすような挙動を示すことがない。したがって、繊維構造体に好ましくない影響、たとえば、繊維構造体の変色を抑制することができる。
【0019】
特に、この発明の洗浄装置においては、まず、第1の仕上物質付着工程で第1の仕上物質を含む水を水供給部が洗浄槽内の繊維構造体に掛けることにより、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させるので、第1の仕上物質の一部は繊維構造体の表面に存在して付着し、第1の仕上物質の一部が繊維構造体の内部に浸透して付着するものと考えられる。次に、繊維構造体を脱水した後、第2の仕上物質付着工程で第2の仕上物質を含む水を水供給部が洗浄槽内に供給し、洗浄槽内の繊維構造体をすすぐことにより、第2の仕上物質を繊維構造体に付着させる。このとき、第2の仕上物質は、繊維構造体の表面に付着するが、第1の仕上物質付着工程で繊維構造体の内部に浸透して付着した第1の仕上物質とは接触しない。なお、繊維構造体の表面に付着した第1の仕上物質は、脱水により繊維構造体から大部分除去されている。よって、第2の仕上物質付着工程で繊維構造体に付着した第2の仕上物質は、第1の仕上物質付着工程で繊維構造体に付着した第1の仕上物質の全部と接触するわけではないと考えられる。また、第1の仕上物質と第2の仕上物質は水中で同時に存在することがないので、水中での反応により変化した第1の仕上物質と第2の仕上物質が繊維構造体に付着することはない。これにより、第1と第2の仕上物質の接触により引き起こされる反応、変化等の挙動を抑制することができるので、繊維構造物に好ましくない影響、たとえば、繊維構造体の変色を抑制することができるものと考えられる。
【0020】
この発明の洗浄装置においては、第1の仕上物質は繊維構造体の内部に相対的に浸透しやすく、第2の仕上物質は繊維構造体の内部に相対的に浸透しがたいことが好ましい。
【0021】
また、この発明の洗浄装置においては、第1の仕上物質付着工程では、水供給部が第1の仕上物質を含む水を洗浄槽内の繊維構造体にシャワー状に掛けることにより、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させることが好ましい。
【0022】
このようにすることにより、第1の仕上物質を少ない水量でかつ高濃度で繊維構造体に付与することができ、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させた後に、たとえば、すすぎを行っても、第1の仕上物質が繊維構造体に残留しやすくなる。また、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させるために、繊維構造体が水に浸るまで第1の仕上物質を含む水を貯留する必要がないので、節水することができる。さらに、第1の仕上物質を含む水に繊維構造体を浸漬する必要がないので、第1の仕上物質付着工程に要する時間を短縮することができる。
【0023】
さらに、この発明の洗浄装置においては、第1の仕上物質は金属を含み、第2の仕上物質は有機化合物を含むことが好ましい。
【0024】
このようにすることにより、第2の仕上物質としての有機化合物に比べて構造が単純な第1の仕上物質としての金属を先に繊維構造物の表面に付着させることができるので、複雑な構造を有する有機化合物に金属がトラップされて繊維構造物に付着しないという現象を回避することが可能である。
【0025】
さらにまた、この発明の洗浄装置においては、第1の仕上物質の分子量(ここでは原子量を含む概念で用いる)は第2の仕上物質の分子量より小さいことが好ましい。
【0026】
このようにすることにより、先に分子量の小さい仕上物質を繊維構造体に付着させることにより、分子量の大きい物質が先に繊維構造体の表面に付着し、その表面を被覆することにより分子量の小さい仕上物質が繊維構造体の表面に付着するのを阻む、という現象を回避することができ、繊維構造体の表面に分子量の小さい仕上物質を優先的に付着させることができる。
【0027】
この発明の洗浄装置においては、第1の仕上物質を含む水中の第1の仕上物質の濃度は、第2の仕上物質を含む水中の第2の仕上物質の濃度より小さいことが好ましい。
【0028】
このようにすることにより、第2の仕上物質の濃度が第1の仕上物質の濃度に比べて高い場合に、第2の仕上物質が繊維構造物の表面を被覆し、第1の仕上物質が第2の仕上物質にトラップされてしまうことによって引き起こされる、繊維構造物の表面での仕上物質の変化を低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上のようにこの発明によれば、第1と第2の仕上物質の接触により引き起こされる反応、変化等の挙動を抑制することができるので、繊維構造物に好ましくない影響、たとえば、繊維構造体の変色を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の実施形態について説明する前に、まず、本発明の明細書で用いられる用語について説明する。
【0031】
まず、「仕上物質」とは、「最終的に洗濯物に付着させて残しておきたい物質」のことである。以下の本発明の実施の形態においては、たとえば、第1の仕上物質として銀イオン、たとえば、第2の仕上物質として、下記に示す特定の変化を引き起こす柔軟剤を例示している。しかし、「仕上物質」とはこれらに限らない。
【0032】
また、第1の仕上物質は、主に金属からなり、たとえば、銀、銅、亜鉛等の金属、または、銀、銅、亜鉛等の少なくとも2種類の金属を含む合金であってもよく、金属イオンを生成する物質であればよい。
【0033】
また、第2の仕上物質は、主に有機物からなり、柔軟剤、のり剤、香料物質、有機物を主成分とする抗菌剤などのうち、下記に示す特定の変化を引き起こす物質である。なお、有機物とは炭素原子を構成の骨格に持つ化合物のことである。
【0034】
なお、本発明にかかる実施形態においては、第1の仕上物質(金属)は第2の仕上物質(有機物)よりも分子量(ここでは原子量を含む概念で用いる)が小さいものを選択している。
【0035】
また、「使用上好ましくない変化」とは、たとえば、第1の仕上物質が触媒となり第2の仕上物質に起因する何らかの反応を促進する反応、または、第1の仕上物質と第2の仕上物質が直接結びつく反応のうち、使用者の利便性を損なう可能性のある、以下に示すような反応を指す。
【0036】
1)柔軟剤に含まれる界面活性剤の成分がエステル結合を有する場合、金属イオンが触媒となり、柔軟剤に含まれる界面活性剤のエステル結合が分解されやすくなる。
【0037】
2)柔軟剤に含まれる界面活性剤の成分がエステル結合を有する場合、金属イオンと結合した界面活性剤の自動酸化が促進される。
【0038】
3)柔軟剤に含まれる界面活性剤が二重結合を持つ場合、金属イオンが触媒となり、二重結合を持つ界面活性剤が分解されやすくなる。
【0039】
4)柔軟剤にはカチオン性界面活性剤が用いられていることが多く、カチオン界面活性剤に含まれている−NHなどの陽イオンが金属イオンと結びつき、それによって生成された化合物が変色を引き起こす。
【0040】
5)金属イオンが柔軟剤と接触した状態で洗濯物が乾燥したときに、金属イオンを含む化合物、または金属が光触媒となり、空気中の酸素を活性種化させ(たとえばオゾンなどに変化させ)、洗濯物に付着している柔軟剤を変質させることによって変色が起こる。
【0041】
6)金属イオンが金属化合物(銀イオンの場合は塩化銀や酸化銀など)に変化し、同時に柔軟剤が存在すると変色を起こす。
【0042】
7)金属イオンと柔軟剤中に含まれる物質のいずれかとの反応により、金属錯体が形成され、それが変色に起因する。
【0043】
ただし、「使用上好ましくない変化」とは、ここに挙げた例のみならず、少なくとも、複数の物質(本発明の実施形態では2種類の物質)が互いに助長しあって起こす変化であればよい。
【0044】
次に、上記の「使用上好ましくない変化」の具体例として、洗濯物に悪影響をおよぼす原因と考えられる現象について以下に述べる。
【0045】
たとえば、第1の仕上物質が銀イオンであり、第2の仕上物質がエステル結合を有する界面活性剤を含んでいる場合、銀イオンが触媒となり、界面活性剤のエステル結合が分解されやすくなったり、銀イオンと結合した界面活性剤の自動酸化が促進されやすくなる、といったことが起こる。エステル結合を有する界面活性剤の例を図1に示す。
【0046】
たとえば、第1の仕上物質が亜鉛イオンであり、第2の仕上物質が不飽和結合を有する界面活性剤を含んでいる場合、亜鉛イオンが触媒となり、界面活性剤の不飽和結合が分解されやすくなることも考えられる。不飽和結合を有する界面活性剤の例を図2に示す。
【0047】
たとえば、第1の仕上物質が銅イオンで、第2の仕上物質が硫化物イオンを有する界面活性剤を含んでいる場合、陽イオンである銅イオンと陰イオンである硫化物イオンとが結合することにより生成される化合物で変色が起こる。硫化物イオンを有する界面活性剤の例を図3に示す。
【0048】
また、図1〜図3に示したとおり、カチオン性界面活性剤はアミン塩(−N)を有するが、他にもアンモニウム塩(−NH)を有するものもあり、これらのアミン塩やアンモニウム塩が金属イオンと結びつき、変色を起こすことが考えられる。
【0049】
また、金属イオンが塩化銀や酸化銀に変化し、同時に高分子である柔軟剤やのり剤が存在すると変色が目立ったり、金属イオンと高分子である柔軟剤やのり剤に含まれる物質のいずれかとの反応により、たとえば金属錯体が形成され、それが変色に起因したりする可能性もある。
【0050】
なお、本明細書では、第1の仕上物質を銀イオン、第2の仕上物質を−NH基を有するジアルキルジメチルアンモニウム塩、−N基を持つアルキルアミドアミン塩、またエステル結合と硫化物を有するアルキル硫酸エステル塩を含む柔軟剤として説明を行う。ただし、第1の仕上物質と第2の仕上物質がこれら以外の物質の組み合わせであっても、本発明の洗濯機では変色を抑制することが可能である。
【0051】
<第1の実施形態>
次に、本発明の第1の実施形態である、繊維構造体を洗浄可能な洗浄装置として、たとえば、洗濯機の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0052】
まず、本実施形態の洗濯機の構成について説明する。
【0053】
図4は、洗濯機の全体構成を示す垂直断面図である。
【0054】
図4に示すように、洗濯機1は、全自動型のものであり、外箱10を備えている。外箱10は、直方体形状で、金属または合成樹脂により成形され、その上面および底面は開口部となっている。外箱10の上面開口部には、合成樹脂製の上面板11が重ねられ、この上面板11が外箱10にネジで固定されている。
【0055】
図4において、左側が洗濯機1の正面、右側が背面とすると、洗濯機1の背面側に位置する上面板11の上面には、合成樹脂製のバックパネル12が重ねられ、このバックパネル12が外箱10または上面板11にネジで固定されている。外箱10の底面開口部には、合成樹脂製のベース13が重ねられ、このベース13が外箱10にネジで固定されている。なお、図4では、これまでに述べてきたいずれのネジの図示をも省略している。
【0056】
ベース13の四隅には、外箱10を床の上に支えるための脚部14a、14bが設けられている。正面側の脚部14aは、高さ可変のネジ脚であり、これを回して洗濯機1のレベル出しを行う。背面側の脚部14bは、ベース13に一体成型した固定脚である。
【0057】
上面板11には、後述する洗濯槽30に洗濯物を投入するための洗濯物投入口15が形設されている。蓋16は、上面板11にヒンジ部17で結合され、垂直面内で回動するとともに、洗濯物投入口15を上から覆う。
【0058】
外箱10の内部には、水槽20と、脱水槽を兼ねる洗濯槽30とが配置されている。洗濯槽30が、繊維構造体を収容して洗浄する洗浄槽に相当する。水槽20および洗濯槽30は、両者ともに、上面が開口した円筒形のカップの形状を呈しており、各々の軸線が鉛直方向となり、かつ、水槽20が外側、洗濯槽30が内側となるように同心状に配置されている。
【0059】
水槽20は、サスペンション部材21によって吊り下げられている。サスペンション部材21は、水槽20の外面下部と外箱10の内面コーナー部とを連結する形で計4箇所に配備され、水槽20を水平面内で揺動できるように支持している。
【0060】
洗濯槽30は、上方に向かうにつれて緩やかに広がるテーパー形状の周壁を有している。この周壁には、その最上部に環状に配置した複数個の脱水孔31を除き、液体を通すための開口部はない。すなわち、洗濯槽30は、いわゆる「穴なし」タイプである。洗濯槽30の上部開口部の縁には、環状のバランサ32が装着されている。バランサ32は、洗濯物の脱水のため、洗濯槽30を高速回転させたときに、その振動を抑制する働きを有している。洗濯槽30の内部底面には、槽内で洗濯水あるいはすすぎ水の流動を生じさせるためのパルセータ33が配置されている。
【0061】
水槽20の下面には、駆動ユニット40が装着されている。駆動ユニット40は、モータ41、クラッチ機構42およびブレーキ機構43を含んでおり、その中心部から、脱水軸44とパルセータ軸45とが上向きに突出している。脱水軸44とパルセータ軸45とは、脱水軸44を外側、パルセータ軸45を内側とする二重軸構造となっている。脱水軸44は、下方から上方に向かって水槽20の中に入り込んだ後、洗濯槽30に連結し、これを支えている。パルセータ軸45は、下方から上方に向かって水槽20を貫いてさらに洗濯槽30の中に入り込み、パルセータ33に連結し、これを支えている。脱水軸44と水槽20との間、および、脱水軸44とパルセータ軸45の間には、各々、水もれを防ぐためのシール部材が配置されている。
【0062】
バックパネル12の下の空間には、電磁的に開閉する給水弁50が配置されている。給水弁50は、バックパネル12を貫通して上方に突きだす接続管51を有している。接続管51には、水道水などの上水を供給する給水ホース(図示せず)が接続されている。また、給水弁50は、容器状の給水口53に接続されている。給水口53は、洗濯槽30の内部に臨む位置にあり、図5に示す構造を有している。
【0063】
図5は、給水口53の模式的な垂直断面図であり、正面側から見た図である。
【0064】
図5に示すように、給水口53は、正面側が開口しており、その開口部から引き出し53a(投入ケース)が挿入される。引き出し53aの内部は、複数(本実施形態では左右2個)に区画されている。左側の区画は、洗剤を入れておく準備空間となる洗剤室54である。右側の区画は、洗濯用の仕上剤である柔軟剤等を入れておく準備空間となる仕上剤室55である。洗剤室54の底部には、給水口53の内部に向かって開口する注水口54aが設けられている。仕上剤室55には、サイホン部57が設けられている。給水口53は、引き出し53aの下の箇所にて洗濯槽30に注水する注水口56を有する。
【0065】
サイホン部57は、仕上剤室55の底面から垂直に立ち上がる内管57aと、内管57aにかぶせられるキャップ状の外管57bとからなる。内管57aと外管57bとの間には、水の通る隙間が形成されている。内管57aの底部は、給水口53の底部に向かって開口している。外管57bの下端は、仕上剤室55の底面と所定の隙間を保ち、ここが水の入口になる。内管57aの上端を超えるレベルまで仕上剤室55に水が注ぎ込まれると、サイホンの作用が起こり、水はサイホン部57を通って仕上剤室55から吸い出され、給水口53の底部に向かい、そこから注水口56を通じて洗濯槽30へと落下する。
【0066】
給水弁50は、メイン給水弁50aと、サブ給水弁50bと、シャワー用給水弁50cとからなり、これら3つの給水弁に接続管51が枝分かれして接続されている。接続管51の入水側は、ホース等を介して水道の蛇口に接続される。
【0067】
メイン給水弁50aは、メイン給水管52aを通じて給水口53の天井部の開口に接続される。この開口は、洗剤室54に向かって開いている。したがって、メイン給水弁50aから流れ出す水は、メイン給水管52aから洗剤室54に注ぎ込まれる。
【0068】
サブ給水弁50bは、サブ給水管52bを通じて給水口53の天井部の開口に接続される。この開口は、仕上剤室55に向かって開いている。したがって、サブ給水弁50bから流れ出す水は、サブ給水管52bから仕上剤室55に注ぎ込まれる。すなわち、メイン給水弁50aから洗剤室54を通って洗濯槽30に注ぐ経路と、サブ給水弁50bから仕上剤室55を通って洗濯槽30に注ぐ経路とは別系統である。
【0069】
シャワー用給水弁50cは、シャワー給水管52cを介して、後述する給水装置300に接続される。メイン給水管52a、サブ給水管52bおよびシャワー給水管52cの3つの給水管から給水管52は構成されている。
【0070】
なお、接続管51の中には、図示しないストレーナが配置されている。ストレーナは、給水弁50の中および給水装置300に異物が入り込まないようにするためのものである。
【0071】
図4に示すように、水槽20の底部には、水槽20および洗濯槽30の中の水を外箱10の外に排出する排水ホース60が取り付けられている。排水ホース60には、排水管61および排水管62から水が流れ込む。排水管61は、水槽20の底面の外周寄りの箇所に接続されている。一方、排水管62は、水槽20の底面の中心寄りの箇所に接続されている。
【0072】
水槽20の内部底面には、排水管62の接続箇所を内側に囲い込むように環状の隔壁63が固定されている。隔壁63の上部には、環状のシール部材64が取り付けられている。このシール部材64が洗濯槽30の底部外面に固定したディスク65の外周面に接触することにより、水槽20と洗濯槽30との間に独立した排水空間66が形成されている。排水空間66は、洗濯槽30の底部に形成された排水口67を介して洗濯槽30の内部に連通している。
【0073】
排水管62には、電磁的に開閉する排水弁68が設けられている。排水管62の排水弁68の上流側にあたる箇所には、エアトラップ69が設けられており、エアトラップ69からは導圧管70が延び出している。導圧管70の上端には、洗濯槽30または水槽20の水量検知手段である水位スイッチ71が接続されている。
【0074】
外箱10の正面側には、制御部80が配置されている。制御部80は、上面板11の下に置かれており、上面板11の上面に設けられた操作/表示部81を通じて使用者からの操作指令を受け、駆動ユニット40、給水弁50および排水弁68などに動作指令を発する。また、制御部80は、操作/表示部81に表示指令を発する。なお、操作/表示部81にて、後述するように、銀イオン水で洗濯を行う通常コースと、通常コースよりも銀イオン濃度の高い銀イオン水で洗濯を行う強濃度コースとを使用者が選択することができるようになっている。
【0075】
メイン給水弁50aよりも給水経路下流側には、流量検知手段185が配置されている。流量検知手段185は、周知の流量計により構成することができる。流量検知手段185は、図4では、給水弁50に付属しているように描かれているが、配置場所はここに限定されず、後述するイオン溶出ユニット100のところに設けられてもよいし、給水口53のところに設けられてもよい。また、流量検知は、水位スイッチ71によって検知される単位時間当たりの水量変化や、単位水量の変化に要する時間などから演算して求めるという手法で行うこともできる。また、流量検知を行わず、一般的な給水水圧では、ある範囲の流量しか流れない弁を用いて、流量をある範囲内に設定する構成であってもよい。
【0076】
次に、図6〜図9を参照して、洗濯機1の基本的な動作の説明を行う。
【0077】
図6は、洗濯機1の洗濯工程全体のフローチャートである。
【0078】
図6に示すように、ステップS201では、設定した時刻に洗濯を開始する、予約運転の選択がなされているかどうかを確認する。なお、この時点までに、使用者により銀イオン水で洗濯を行う通常コースと、通常コースよりも銀イオン濃度の高い銀イオン水で洗濯を行う強濃度コースのどちらを実施するかは選択されている。予約運転が選択されていればステップS206に進む。選択されていなければステップS202に進む。
【0079】
ステップS206に進んだ場合は運転開始時刻になったかどうかの確認が行われる。運転開始時刻になったらステップS202に進む。
【0080】
ステップS202では洗い工程の選択がなされているかどうかを確認する。選択がなされていればステップS300に進む。ステップS300の洗い工程の内容は別途図7のフローチャートで説明する。洗い工程終了後、ステップS203に進む。洗い工程の選択がなされていなければステップS202から直ちにステップS203に進む。
【0081】
ステップS203ではすすぎ工程の選択がなされているかどうかを確認する。選択されていればステップS400に進む。ステップS400のすすぎ工程の内容は別途図8のフローチャートで説明する。なお、すすぎ工程は1回または複数回にわたるものである。図6ではすすぎ工程を3回にわたって実施することとし、各回のステップ番号には「ステップS400−1」「ステップS400−2」「ステップS400−3」と枝番号を付して表記している。この場合、「ステップS400−3」は最終すすぎ工程となる。なお、すすぎ工程の回数は使用者が任意に設定できるものであってもよい。
【0082】
すすぎ工程終了後、ステップS204に進む。すすぎ工程の選択がなされていなければステップS203から直ちにステップS204に進む。
【0083】
ステップS204では脱水工程の選択がなされているかどうかを確認する。選択されていればステップS500に進む。ステップS500の脱水工程の内容は別途図9のフローチャートで説明する。脱水工程終了後、ステップS205に進む。脱水工程の選択がなされていなければステップS204から直ちにステップS205に進む。
【0084】
ステップS205では制御部80、特にその中に含まれる演算装置(マイクロコンピュータ)の終了処理が手順に従って自動的に進められる。また、洗濯工程が完了したことを終了音で報知する。すべてが終了した後、洗濯機1は次の洗濯工程に備えて待機状態に戻る。
【0085】
次に、上述した洗い工程、すすぎ工程、脱水工程の各個別工程の詳細について、図7、図8、図9に基づいて説明する。
【0086】
図7は、洗濯機1の洗い工程における動作の流れを示すフローチャートである。なお、以下の工程においても、所定の判断を行う主体は、制御部80である。
【0087】
図7に示すように、ステップS301では、水位スイッチ71によって検知されている洗濯槽30内の水位データのとり込みが行われる。ステップS302では、容量センシングの選択がなされているかどうかを確認する。容量センシングが選択されていれば、ステップS308に進み、選択されていなければ、そのままステップS303に進む。
【0088】
ステップS308では、パルセータ33の回転負荷により、洗濯物の量を測定する。容量センシング後、ステップS303に進む。
【0089】
ステップS303では、メイン給水弁50aが開き、メイン給水管52aおよび給水口53を通じて洗濯槽30に水が注がれる。このとき、給水口53の洗剤室54に装填された洗剤も、水に混じって洗濯槽30に投入される。なお、この時点では、排水弁68は閉じている。水位スイッチ71が設定水位を検知すると、メイン給水弁50aが閉じ、ステップS304に進む。
【0090】
ステップS304では、なじませ運転を行う。すなわち、パルセータ33が反転回転し、洗濯物と水とを攪拌して、洗濯物を水になじませる。これにより、洗濯物に水を十分に吸収させることができる。また、洗濯物の各所にとらわれていた空気を逃がすこともできる。なじませ運転の結果、水位スイッチ71の検知する水位が当初より下がったときは、ステップS305で、メイン給水弁50aを開いて水を補給し、設定水位を回復させる。
【0091】
このとき、「布質センシング」を行う洗濯コースを選択していれば、なじませ運転と共に布質センシングが実施される。なじませ運転を行った後、設定水位からの水位変化を検出し、水位が規定値以上に低下していれば、吸水性の高い布質であると判断する。
【0092】
ステップS305で、所定の設定水位が得られると、ステップS306に進む。ステップS306では、使用者の設定に従い、モータ41がパルセータ33を所定のパターンで回転させ、洗濯槽30の中に洗濯のための主水流を形成する。この主水流により、洗濯物の洗濯が行われる。脱水軸44にはブレーキ装置43によりブレーキがかかっており、洗濯水および洗濯物が動いても、洗濯槽30は回転しない。
【0093】
主水流の期間が経過した後、ステップS307に進む。ステップS307では、パルセータ33が小刻みに反転して洗濯物をほぐし、洗濯槽30の中に洗濯物がバランス良く配分されるようにする。これは、洗濯槽30の脱水回転に備えるためである。
【0094】
図8は、洗濯機1のすすぎ工程における動作の流れを示すフローチャートである。なお、このすすぎ工程は、溜めすすぎを行うものであり、以下の工程においても、所定の判断を行う主体は、制御部80である。
【0095】
図8に示すように、最初に、ステップS500にて脱水工程が行われるが、これについては後述の図9のフローチャートで説明する。この脱水工程後は、ステップS401に進む。ステップS401では、メイン給水弁50aが開き、設定水位まで給水が行われる。なお、仕上剤(柔軟剤など)の投入も選択されていれば、サブ給水弁50bも開き、給水が行われ、サイホン部57を通り、注水口56を通じて、洗濯槽30に仕上剤が注ぎ込まれる。
【0096】
給水後、ステップS402に進む。ステップS402では、なじませ運転が行われる。このなじませ運転では、ステップS500(脱水工程)で洗濯槽30に貼り付いた洗濯物を剥離し、水になじませ、洗濯物に水を十分に吸収させる。
【0097】
なじませ運転の後、ステップS403に進む。なじませ運転の結果、水位スイッチ71の検知する水位が設定水位より下がっていたときは、メイン給水弁50aを開いて水を補給し、設定水位を回復させる。
【0098】
ステップS403で設定水位を回復した後は、ステップS404に進む。ステップS404では、使用者の設定に従い、モータ41がパルセータ33を所定のパターンで回転させ、洗濯槽30の中にすすぎのための主水流を形成する。この主水流により洗濯物を攪拌し、洗濯物のすすぎが行われる。脱水軸44にはブレーキ装置43によりブレーキがかかっており、すすぎ水および洗濯物が動いても、洗濯槽30は回転しない。
【0099】
主水流(攪拌)の期間が経過した後、ステップS406に移る。ステップS406では、パルセータ33が小刻みに反転して洗濯物をほぐす。これにより、洗濯槽30の中に洗濯物がバランス良く配分されるようにし、脱水工程に備える。
【0100】
なお、以上の説明では、洗濯槽30の中にすすぎ水をためておいてすすぎを行う「溜めすすぎ」を実行するものとしたが、常に新しい水を補給する「注水すすぎ」、あるいは洗濯槽30を低速回転(後述する脱水工程における洗濯槽30の回転速度と比較して低速回転である)させながら給水口53より洗濯物に水を注ぎかける「シャワーすすぎ」を行うこととしてもよい。
【0101】
図9は、洗濯機1の脱水工程における動作の流れを示すフローチャートである。なお、以下の工程においても、所定の判断を行う主体は、制御部80である。
【0102】
図9に示すように、まず、ステップS501では、排水弁68を開く。これにより、洗濯槽30の中の洗濯水は、排水空間66を通じて排水される。排水弁68は、脱水工程中は開いたままである。
【0103】
そして、ステップS502にて、比較的低速の脱水運転(後述の高速脱水運転よりも低速の脱水運転)を行った後、ステップS503にて、高速の脱水運転(前述の低速脱水運転よりも高速の脱水運転)を行う。ステップS504では、モータ41への通電を断ち、ブレーキをかける等の停止処理を行う。
【0104】
ステップS502およびステップS503の脱水運転では、以下の動作が行われる。洗濯槽30および洗濯物から大部分の洗濯水が抜けたところで、クラッチ装置42およびブレーキ装置43が切り替わる。クラッチ装置42およびブレーキ装置43の切り替えタイミングは、排水開始前または排水と同時でよい。そして、今度は、モータ41が脱水軸44を回転させる。これにより、洗濯槽30が脱水回転を行う。このとき、パルセータ33も洗濯槽30とともに回転する。
【0105】
洗濯槽30が回転すると、洗濯物は、遠心力で洗濯槽30の内周壁に押しつけられる。そして、洗濯物に含まれていた洗濯水も、洗濯槽30の周壁内面に集まってくる。このとき、前述の通り、洗濯槽30はテーパー状に上方に広がっているので、遠心力を受けた洗濯水は、洗濯槽30の内面を上昇する。洗濯水は、洗濯槽30の上端にたどりついたところで脱水孔31から放出される。脱水孔31から放出された洗濯水は、水槽20の内面にたたきつけられ、水槽20の内面を伝って水槽20の底部に流れ落ちる。そして、上記洗濯水は、排水管61と、それに続く排水ホース60とを通って外箱10の外に排出される。
【0106】
次に、銀イオンを含む銀イオン水をシャワー状にして噴射する給水装置300について説明する。図10は、給水装置300を取り付けた洗濯機1を斜め上方から見たときの洗濯機1の斜視図を示している。また、図11は、給水装置300の模式的な側面図を示している。
【0107】
図10と図11に示すように、給水装置300は、給水対象としての洗濯物に水を供給する装置であり、イオン溶出ユニット100と、シャワー噴射部200とを有している。イオン溶出ユニット100とシャワー噴射部200とは、連結管250を介して連結されている。
【0108】
イオン溶出ユニット100は、シャワー給水管52cから給水対象である洗濯物に供給される水に銀イオンを投入する投入部であり、また、金属イオンである銀イオンを溶出し、内部を通過する水に投入する銀イオン溶出部でもある。イオン溶出ユニット100は、筐体110と、流入口111と、流出口112と、電極113、114と、端子部115、116(図12参照)とを有している。
【0109】
筐体110は、電極113、114を収容するものであり、合成樹脂、シリコン、ゴムなど絶縁材料で構成されている。筐体110は、上側筐体110aと下側筐体110bとをビス117で数箇所ネジ止めされて構成されている。
【0110】
筐体110は、その一断面が円形となっており、全体として略円柱形状で構成されている。筐体110をこのような形状にすることにより、イオン溶出ユニット100を耐圧構造にすることができる。つまり、後述するシャワー噴射部200にてシャワー噴射を行うために、その噴射口が絞られることによって、イオン溶出ユニット100の筐体110の内部には、高い内圧が加えられる。しかし、筐体110が略円柱形状であれば、そのような内圧が周方向に均等に分散されるので、そのような内圧にも耐え得るようにすることができ、イオン溶出ユニット100の上記内圧による破壊を防止することができる。
【0111】
なお、筐体110の形状は、上記の略円柱形状に限定されず、楕円形状や球形、回転楕円体であっても、耐圧構造を容易に実現することができる。
【0112】
流入口111は、シャワー給水管52cから筐体110内に供給される水の流入口であり、この流入口111を介して筐体110の内部に水が流入する。
【0113】
流出口112は、筐体110からシャワー噴射部200への水の流出口である。筐体110内の水は、流出口112および連結管250を介して、シャワー噴射部200に供給される。また、筐体110内の残水を排出するために、流出口112は複数設けられることが望ましく、本実施形態では、2個の流出口112a、112bが設けられている。
【0114】
電極113、114は、金属イオンである銀イオンを溶出するものである。図12は、イオン溶出ユニット100の外観および内部構造を模式的に示す斜視図である。なお、説明の便宜上、図中、流入口111および流出口112の図示を省略している。図12に示すように、電極113、114は、平板状で構成されており、筐体110内で所定間隔をおいて平行に配置されている。後述する端子部115、116を介して、この2枚の電極113、114間に電圧を印加することにより、たとえば、陽極の電極にて電極の構成金属である銀イオンが溶出し、筐体110内の水に添加されることになる。
【0115】
電極113、114を構成する金属としては、銀以外では、銅、亜鉛の金属、または、銀、銅、亜鉛の合金であってもよい。銀電極から溶出する銀イオン、亜鉛電極から溶出する亜鉛イオンは、殺菌効果に優れ、銅電極から溶出する銅イオンは、防カビ性に優れている。また、これらの合金からは、成分金属のイオンを同時に溶出させることができるので、優れた殺菌効果および防カビ効果を得ることができる。
【0116】
ここで、電極113、114を銀電極とした場合の抗菌メカニズムについて、具体的に説明する。
【0117】
たとえば、汗をかいたとき、衣類が臭うのは、菌の繁殖が原因である。汗は、本来無臭であり、脂肪酸とグリセリンとからなるグリセリドをその成分の一つとして含んでいるが、菌がそのグリセリドを分解することによって、グリセリドから分解された脂肪酸が臭いを放つ。
【0118】
しかし、電極113、114が銀電極の場合、これらの電極に電圧を印加することによって、陽極側の電極においてAg→Ag+eの反応が起こり、水中に銀イオンが溶出する。この銀イオンが臭いの原因となる菌に作用することにより、菌が不活化されるので、汗成分(グリセリド)が分解されず、臭いの発生が抑えられるということである。なお、上記の不活化とは、殺菌、除菌、滅菌、分解、除去などの作用が施されることをいう。
【0119】
端子部115、116は、電極113、114に電圧を印加するためのものである。電極113と端子部115とは、同じ金属(銀電極であれば銀、亜鉛電極であれば亜鉛)で構成されており、電極114と端子部116とは、同じ金属(銀電極であれば銀、亜鉛電極であれば亜鉛)で構成されている。端子部115、116は、筐体110の外部から筐体110を貫通して電極113、114と電気的に接続されている。筐体110の外部の端子部115、116は、制御部80に接続される。
【0120】
制御部80は、イオン溶出ユニット100内の電極113、114への電圧印加を制御することによって、電極113、114から溶出される金属イオンである銀イオンの、筐体110内の水への投入/非投入を制御することができる。また、制御部80は、銀イオンを含む水と、銀イオンを含まない水とのうちの一方がシャワー噴射部200から給水対象(洗濯物)に噴射されるように、イオン溶出ユニット100における銀イオンの水への投入を制御する制御手段として機能することができる。そして、制御部80は、電極113、114に流す電流や電圧印加時間を制御することにより、銀イオンの溶出量、言い換えれば、銀イオン水における銀イオン濃度を制御することができる。
【0121】
したがって、たとえば、ゼオライトなどの金属イオン担持体から金属イオンを溶出させる方式に比べ、金属イオンを投入するかどうかの選択や、金属イオンの濃度の調節をすべて電気的に行うことができるので使い勝手がよい。さらに、制御部80は、給水弁50(シャワー用給水弁50c)の開閉量を調節してイオン溶出ユニット100に供給される水の単位時間あたりの量(給水流量、給水速度)を変化させることにより、金属イオン水の金属イオン濃度を制御することも可能である。
【0122】
なお、本実施の形態においては、通常コースでは約90ppbの銀イオン濃度の銀イオン水を使用し、強濃度コースでは、約600ppbの銀イオン濃度の銀イオン水を使用するが、各コースの銀イオン濃度は上記の数値に限定されない。
【0123】
次に、シャワー噴射部200について説明する。図10および図11に示すように、シャワー噴射部200は、イオン溶出ユニット100を介して得られる水をシャワー状にして給水対象に噴射するものである。
【0124】
ここで、シャワー状の水とは、洗濯槽30内の給水対象である洗濯物に断続的に降り注がれる小径粒子の水(液滴)をいう。このようなシャワー水は、シャワー噴射部200の噴射口を小さく絞り、所定時間内に所定量以上の水を空気と混ぜて噴射口に供給することにより、上記噴射口から噴射させることが可能である。
【0125】
なお、シャワー水の水滴の径(大きさ)については、特に制限はない。水滴は、小さくなればなるほど霧状(ミスト状、スプレー状)となる。しかし、水道水の水圧は一定なので、噴射口を絞ってシャワー水の水滴を小さくすればするほど、同一量の水を給水(噴射)する場合における給水時間(噴射時間)は長くなる。したがって、シャワー水の水滴の大きさ(または噴射口の大きさ)は、給水時間との兼ね合いで適宜設定されればよい。
【0126】
このようなシャワー水を噴射するシャワー噴射部200は、上記した複数の流出口112に対応して複数設けられている。つまり、流出口112aに対応してシャワー噴射部200aが設けられており、流出口112bに対応してシャワー噴射部200bが設けられている。これらシャワー噴射部200a、200bは、洗濯槽30の上方に位置しており、洗濯槽30の内部に向かってシャワー状の水を噴射するようになっている。
【0127】
上述したように構成される洗濯機において、本実施形態においては、次のような制御動作を行う。すなわち、すすぎ工程の1回目に第1の仕上物質をシャワー状にして投入し、すすぎ工程の2回目で第2の仕上物質を洗濯槽に溜めて洗濯物をすすぐといった制御動作を行う。第1の仕上物質としては銀イオンを使用する。第2の仕上物質としては、図1に示す構造のエステル結合を有する界面活性剤と、図3に示す構造の硫化物イオンを有する界面活性剤との両方を含む柔軟剤を使用する。これらの物質はどちらも水中で銀イオンと同時に存在すると、仕上物質同士がなんらかの反応を起こすか、または変化を助長し合い、それにより洗濯物に悪影響を及ぼすものである。
【0128】
この実施の形態では、第1の仕上物質として銀イオンを含む水である銀イオン水を使用する銀イオンシャワー工程は、すすぎ工程が行われる際に実行されるものとして説明する。
【0129】
図13は金属イオンである銀イオンと仕上剤である柔軟剤とを投入する第1の実施形態に係るフローチャートである。このフローチャートは、図6の洗濯工程全体のフローチャートの中で、ステップS203からステップS204までの間の部分を取り出したものである。すすぎ工程の回数は2回で、1回目のすすぎ工程であるステップS400−1と2回目のすすぎ工程であるステップS400−2の間には銀イオン投入の確認ステップS407と柔軟剤投入の確認ステップS408が挿入されている。なお、ステップS400−1とステップS400−2では図8のすすぎ工程が実行される。
【0130】
図13に示すように、ステップS203にて、すすぎ工程ありが選択されていれば、ステップS401−1に進む。すすぎ工程ありが選択されていなければ、ステップS204に進む。1回目のすすぎ工程であるステップS400−1の実行後、ステップS407にて、銀イオン投入の選択がなされているかどうかを確認する。銀イオンの投入が選択されていればステップS400Aに進む。ステップS400Aは、銀イオン水をシャワー状にして繊維構造体に噴射する銀イオンシャワー工程であり、その内容は図14のフローチャートを用いて後述する。銀イオン投入が選択されていなければステップS408に進む。
【0131】
ステップS408では柔軟剤投入の選択がなされているかどうかを確認する。第2の仕上物質である柔軟剤の投入が選択されていればステップS400Bに進む。ステップS400Bは柔軟剤すすぎ工程であり、その内容は図15のフローチャートにより後述する。柔軟剤投入が選択されていなければステップS400−2に進む。2回目のすすぎ工程としてステップS400BまたはステップS400−2を実行した後、ステップS204に進む。
【0132】
図13のフローチャートにおいて、金属イオンである銀イオンの投入と仕上剤である柔軟剤の投入とが共に選択されていれば、柔軟剤が投入されるのは最終すすぎ工程であり、銀イオンが投入されるのは最終すすぎ工程の直前のすすぎ工程であることになる。なお、図13のフローチャートにおいては、すすぎ工程を2回にわたって実行することになっているが、その回数は任意であり、たとえば、すすぎ工程が3回であれば、2回目のすすぎ工程で銀イオンシャワー工程を投入し、3回目のすすぎ工程で柔軟剤を投入することにすればよい。
【0133】
以下、図13のフローチャートにおいて、金属イオンである銀イオンの投入と仕上剤である柔軟剤の投入とが共に選択されている場合について説明する。
【0134】
図14は銀イオンシャワー工程を示すフローチャートである。
【0135】
図14に示すように、最初にステップS500の脱水工程が行われる。ステップS500の脱水工程終了後、ステップS401Aに進む。
【0136】
ステップS401Aでは、シャワー用給水弁50cを開き、イオン溶出ユニット100に所定流量の水を流す。同時に制御部80が電極113、114の間に電圧を印加し、金属イオンである銀イオンを水中に溶出させ、銀イオン水(たとえば、銀イオン濃度は600ppbが好ましい。これは、後に脱水工程やすすぎ工程が行われると、洗濯物に付着した銀イオンの一部がすすぎ水に流れ出し、洗濯物に残留する銀イオンの量が減少してしまうので、予め多くの銀イオンを洗濯物に付着させておくことが好ましいからである。)を生成する。なお、電極間を流れる電流は直流である。銀イオン水は、シャワー給水管52cを通り、シャワー噴射部200から噴射される。このステップS401Aが、銀イオンを投入した銀イオン水を使用し、銀イオン水を繊維構造体である洗濯物に接触させる銀イオン水接触工程である。この銀イオン接触工程が前述した第1の仕上物質付着工程に相当する。なお、銀イオン水接触工程は、シャワー状でなく、後述する図18のフローチャートにおけるステップS401CからステップS406までに示すように、ためすすぎ状態で、銀イオン水を洗濯物に接触させることによって行うこともできる。
【0137】
このとき、制御手段である制御部80は、シャワー噴霧部からシャワーを噴射する制御を行うと同時に、所定期間(たとえば5分間)排水が停止されるように、洗濯槽30内の水を排水するための排水弁68を制御し、その所定期間の間、洗濯槽30を回転させる制御を行っている。この洗濯槽30が回転することにより、洗濯槽30内の洗濯物も円運動するように移動することになる。この洗濯槽30の回転は、ステップS500の脱水工程における回転に比べて回転速度が遅い。これは、洗濯槽30をステップS500の脱水工程における回転よりゆっくり回転させることにより、洗濯槽にたまっていく銀イオン水を遠心力により内周壁面にそって上昇させ、内周壁面に接触している洗濯物にも銀イオン水を接触させ、できるだけ、多くの銀イオンを洗濯物に付着させるためである。
【0138】
これにより、ステップS401Aにおいて洗濯槽30内の洗濯物は、洗濯槽30の回転運動(円運動)に合わせて移動し、洗濯槽30の底部にある洗濯物の表面はシャワー噴射部から散布される銀イオン水と接触し、また、洗濯槽30の内周壁面と接している洗濯物は、遠心力により洗濯槽30の内周壁面にそって上昇した銀イオン水と接触するので、より多くの洗濯物が銀イオン水に接触することが可能である。
【0139】
図15は柔軟剤すすぎ工程のフローチャートである。
【0140】
図15に示すように、最初に、ステップS500の脱水工程が行われる。なお、ステップS500の脱水工程(水分除去工程ともいう)とは「繊維構造体を素手で絞っても水が滴らなくなるまで水分を取り除く」ことであり、一般に広く認識されている洗濯機で行われる脱水工程程度を想定している。ステップS500の脱水工程終了後、ステップS401Bに進む。
【0141】
ステップS401Bにおいて、第2の仕上物質である柔軟剤を水に投入する。このステップS401BからステップS406までが、柔軟剤を投入した水である柔軟剤含有水を使用し、柔軟剤含有水を繊維構造体である洗濯物に接触させる柔軟剤含有水接触工程である。この柔軟剤含有水接触工程が、前述した第2の仕上物質付着工程に相当する。まず、メイン給水弁50aとサブ給水弁50bの両方が開き、サブ給水弁50bから流れ出す水は、メイン給水弁50aから流れ出す水よりも少量であり、サブ給水管52bを通じて仕上剤室55に注ぎ込まれる。仕上剤室55に柔軟剤が入れられていれば、柔軟剤はサイホン部57から水と共に洗濯槽30に投入される。仕上剤室55の中の水位が所定高さに達してはじめてサイホン効果が生じるので、時期が来て水が仕上剤室55に注入されるまで、液体の柔軟剤を仕上剤室55に保持しておくことができる。
【0142】
所定量(サイホン部57にサイホン作用を起こさせるに足る量か、それ以上)の水を仕上剤室55に注入した時点でサブ給水弁50bは閉じられる。なお、この水の注入工程、すなわち、柔軟剤投入動作は、柔軟剤が仕上剤室55に入れられているかどうかに関わりなく、「柔軟剤の投入」が選択されていれば自動的に実行される。
【0143】
柔軟剤投入終了時点で洗濯槽30の内部の水位がすすぎに必要な水位に達していない場合は、所定水位に到達するまで、柔軟剤を含まない普通の水を給水する。この給水はメイン給水弁50aから行うことができる。所定水位が得られた後、ステップS402に進み、ステップS402にて柔軟剤を含む水(柔軟剤含有水)に洗濯物をなじませる。これにより、洗濯物に柔軟剤含有水を十分に吸収させることができる。また、洗濯物の各所にとらわれていた空気を逃がすこともできる。ステップS405Bに進み、パルセータ33を回転させて、柔軟剤含有水による洗濯物の攪拌を行う。
【0144】
主水流(攪拌)の期間が経過した後、ステップS406に移る。ステップS406では、パルセータ33が小刻みに反転して洗濯物をほぐす。これにより、洗濯槽30の中に洗濯物がバランス良く配分されるようにし、脱水工程に備える。
【0145】
このように、銀イオンシャワー工程のステップS401Aで繊維構造体である洗濯物に銀イオン水を接触させ、洗濯物に銀イオンを付着させた後、図15のフローチャートに示すように、ステップS500の脱水工程にて洗濯物から少なくとも水が滴らなくなる程度まで水分を必ず除去し、その後、ステップS401BからステップS406にて柔軟剤を含む水による洗濯物のすすぎ工程を実行することにより、洗濯物の変色を抑制することができる。
【0146】
次に、第1の仕上物質と第2の仕上物質を投入する順番の重要性について述べる。銀イオン水接触工程、水分除去工程(脱水工程)、柔軟剤含有水接触工程の各工程を、金属イオン水接触工程、水分除去工程、柔軟剤含有水接触工程の順に行うことにより、繊維構造体の変色が抑制される原理について、仮説ではあるが、説明する。
【0147】
図16は繊維構造体の変色が抑制される原理の仮説を示す図であり、図16(A)は金属イオン水接触工程、水分除去工程、柔軟剤含有水接触工程の順、すなわち、本発明の順番で各工程が行われた場合(以下、「工程順序A」という)の銀イオンと柔軟剤の反応モデルを表す図、図16(B)は柔軟剤含有水接触工程、水分除去工程、銀イオン水接触工程の順で各工程が行われた場合、すなわち、本発明の順番と逆の順番で各工程が行われた場合(以下、「工程順序B」という)の銀イオンと柔軟剤の反応モデルを表す図である。
【0148】
図16(A)および図16(B)において、400は繊維構造体、401は銀イオン、402は柔軟剤を表している。また、仮説の条件として、繊維構造体400に付着する銀イオンの付着量は工程順序Aと工程順序Bで同じであり、銀イオン水中の銀イオン濃度(ppbオーダー)は、柔軟剤含有水の柔軟剤濃度(ppmオーダー)よりも100倍以上低いものとする。なお、本実施形態では、銀イオンの濃度は90ppbから600ppb(0.09ppmから0.6ppm)であり、柔軟剤の濃度は300ppmである。
【0149】
なお、図16(A)、図16(B)に記載されている色差とは、繊維構造体400に工程順序A、工程順序Bを実施する前と、実施した後の色の変化を色差計により測定した色差ΔEのことである。なお、色差(ΔE)の値と、感覚的な差の関係は、表1に示す米国標準局(NBステップS単位)のものが一般的に知られている。
【0150】
【表1】

【0151】
図16(A)の場合、すなわち、銀イオン水接触工程、水分除去工程、柔軟剤含有水接触工程の順(本発明の順番)で各工程が行われた場合(工程順序A)について説明する。銀イオン水接触工程において、繊維構造体400に接触した銀イオン水は、繊維構造体400の表面のみならず内部にまで行き渡るので、銀イオン401も繊維構造体400の表面や内部に行き渡り付着する。次に、水分除去工程において、脱水や排水を行うことにより、水が滴らなくなる程度まで繊維構造体400から水分を除去しても、繊維構造体400は湿り気を帯びており、銀イオン401も繊維構造体400の内部および表面に残留している。次に、柔軟剤含有水接触工程にて、柔軟剤402を含んだ水を繊維構造体400に接触させると、柔軟剤402は繊維構造体400の表面を覆うようにほぼ満遍なく付着するが、繊維構造体400の内部にまで銀イオンのように浸透はしないと考えられる。このとき、柔軟剤402は、繊維構造体400の表面に残留している銀イオン401とだけ反応を起こし、繊維構造体400の内部に残留している銀イオン401とは反応を起こさない。したがって、繊維構造体400に残留しているすべての銀イオン401と反応を起こすわけではないので、繊維構造体の変色は、抑制されることになる。
【0152】
図16(B)の場合、すなわち、柔軟剤含有水接触工程、水分除去工程、銀イオン水接触工程の順(本発明と逆の順番)で各工程が行われた場合(工程順序B)について説明する。柔軟剤含有水接触工程にて、柔軟剤402を含んだ水を繊維構造体400に接触させると、柔軟剤402は繊維構造体400の表面を覆うようにほぼ満遍なく付着する。次に、水分除去工程において、脱水や排水を行うことにより、水が滴らなくなる程度まで繊維構造体400から水分を除去しても、柔軟剤402は繊維構造体400に満遍なく残留する。次に、銀イオン水接触工程において、繊維構造体400に銀イオン水を接触させると、銀イオン401は、繊維構造体400の表面に残留している柔軟剤402により繊維構造体400の内部への浸透を阻害され、繊維構造体400の表面で柔軟剤402と反応を起こす。すなわち、繊維構造体400に接触する銀イオン401はすべて柔軟剤402と反応するため、繊維構造体400の表面は銀イオン401と柔軟剤402との反応物で覆われ、変色を起こしやすくなってしまう。また、銀イオン水中の銀イオン濃度(銀イオンの使用量)は柔軟剤含有水中の柔軟剤の濃度(柔軟剤の使用量)よりも100倍以上低いことを考慮すると、柔軟剤の量は銀イオンの量に比べて充分に多いので、反応物の生成量は銀イオン濃度に依存すると考えられる。したがって、銀イオン水中の銀イオン濃度を高くすれば、繊維構造体400の表面に残留している柔軟剤402と反応する銀イオン401の量も増えるため、色差ΔEは大きくなり、変色がより目立つようになるものと考えられる。
【0153】
以上のように、工程順序A(本発明の順番)を実行することにより、工程順序B(本発明と逆の順番)を実行する場合に比べ、色差を小さくすることができるのである。つまり、第1の仕上物質の使用量が、第2の仕上物質の使用量に比べて少ないとき、第1の仕上物質の投入工程が、第2の仕上物質の投入工程よりも先に行われることにより、洗濯物の変色を抑制することができる。
【0154】
上述した原理の仮説を裏付けるデータを表2に示す。表2は、工程順序Aと工程順序Bにおける銀イオン付着量と色差のデータを示す表である。
【0155】
【表2】

【0156】
表2においては、サンプル2A(工程順序A、銀イオン水濃度90ppb)とサンプル2C(工程順序B、銀イオン水濃度90ppb)とを比較すると、共に柔軟剤使用量が標準でかつ銀イオン水濃度が標準(約90ppb)であるが、工程順序Aで処理したサンプル2Aの方が、工程順序Bで処理を行ったサンプル2Cよりも色差ΔEが小さいことがわかる。なお、サンプル2Aとサンプル2Cは、感覚的表現ではともに「わずかに」であるので、本実験で使用した柔軟剤と銀イオン水との組み合わせにおいては、銀イオンの濃度が標準(約90ppb)であれば、工程順序Aでも、工程順序Bのどちらを使用しても問題がないと考えられる。また、サンプル2B(工程順序A、銀イオン水濃度600ppb)とサンプル2D(工程順序B、銀イオン水濃度600ppb)とを比較すると、共に柔軟剤使用量が標準でかつ銀イオン水濃度が強(約600ppb)であるが、工程順序Aで処理したサンプル2Bの方が、工程順序Bで処理したサンプル2Dよりも色差ΔEが小さいことがわかる。なお、サンプル2Bとサンプル2Dは、感覚的表現は、サンプル2Bが「感知しうる」の一番低い値であるのに対し、サンプル2Dが「目立つ」の中間付近の値となっており、本実験で使用した柔軟剤と銀イオン水との組み合わせにおいては、銀イオンの濃度が強(約600ppb)であれば、工程順序Aを使用することが好ましいことがわかる。以上のことから、工程順序Aで繊維構造体の処理を行うことによって、工程順序Bで繊維構造体の処理を行う場合に比べて、繊維構造体の変色の度合を抑えることができることがわかる。
【0157】
なお、工程順序A(本発明の順番)、すなわち、銀イオン水接触工程、水分除去工程、柔軟剤含有水接触工程の順で各工程が行われる場合、銀イオンを繊維構造体である洗濯物に付与した後に柔軟剤含有水ですすいでも、銀イオンは洗濯物に残留していることが表2のデータからわかる。つまり、工程順序A(本発明の順番)では、銀イオンの抗菌効果を繊維構造体である洗濯物に残しつつ、柔軟剤の効果も洗濯物に与えることができ、かつ、銀イオンと柔軟剤との反応を抑制することもできる。
【0158】
また、柔軟剤と銀イオンとの反応が起こることにより、銀イオンの抗菌性が減殺されることは免れがたい。そこで、柔軟剤を使用する場合は、柔軟剤を使用しない場合に比べて、銀イオンシャワー工程における銀イオン水の濃度を高め、600ppb以上を確保するようにすることが好ましい。また、このときの柔軟剤すすぎ工程におけるステップS405Bの攪拌時間は3分ほどで十分である。
【0159】
なお、通常コースでは、工程順序Aまたは工程順序Bを行い、強濃度コースでは、工程順序Aを行うようにしておけば、銀イオン濃度が高い場合(強濃度コースの場合)でも、繊維構造体の変色を抑制することが可能となる。もちろん、通常コースでも、必ず工程順序Aを行うようにすれば、確実に繊維構造体の変色を抑制することが可能となる。
【0160】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、上記第1の実施形態と、制御動作が異なる。すなわち、すすぎ工程の1回目に第1の仕上物質を洗濯槽に溜めて洗濯物をすすぎ、すすぎ工程の2回目で第1の仕上物質をシャワー状にして投入し、すすぎ工程の3回目で第2の仕上物質を洗濯槽に溜めて洗濯物をすすぐといった制御動作を行う。その他の部分は第1の実施形態と同様である。
【0161】
図17は、金属イオンである銀イオンと、仕上剤である図1に示す構造のエステル結合を有する界面活性剤と図3に示す構造の硫化物イオンを有する界面活性剤との両方を含む柔軟剤とを投入する第2の実施形態に係るフローチャートである。図17は、図13のステップS400Aの金属イオンシャワー工程の直前に、銀イオン水で溜めすすぎを行う金属イオンすすぎ工程(ステップS400C)を加えたフローチャートである。図18は、ステップS400Cの金属イオンすすぎ工程のフローチャートを示す。
【0162】
図18に示すように、ステップ400Cの金属イオンすすぎ工程では、最初に、繊維構造体である洗濯物から少なくとも水が滴らなくなるまで水分を除去する水分除去工程にあたるステップS500の脱水工程が行われる。ステップS500の脱水工程終了後、ステップS401Cに進む。
【0163】
ステップS401Cでは、シャワー用給水弁50cを開き、イオン溶出ユニット100に所定流量の水を流す。同時に制御部80が電極113、114の間に電圧を印加し、金属イオンである銀イオンを水中に溶出させる。なお、電極間を流れる電流は直流である。銀イオンを添加された水(銀イオン水)は、シャワー給水管52cを通り、シャワー噴射部200から噴射される。
【0164】
洗濯槽30に所定濃度(300ppb以上が好ましい)の銀イオン水が所定水量投入された時点でシャワー用給水弁50cを閉じ、給水を止めて、ステップS402にて銀イオン水に洗濯物をなじませる。これにより、洗濯物に銀イオン水を十分に吸収させることができる。また、洗濯物の各所にとらわれていた空気を逃がすこともできる。ステップS405Cに進み、銀イオン水による洗濯物の攪拌を行う。ステップS405Cでの銀イオン水の攪拌時間は3分ほどで十分である。攪拌の期間が経過した後、ステップS406に移る。ステップS406では、パルセータ33が小刻みに反転して洗濯物をほぐす。
【0165】
その後、図17に示すステップS400Aの金属イオンシャワー工程に進む。図14に示すように、最初にステップS500の脱水工程が行われる。ステップS500の脱水工程終了後、ステップS401Aに進む。
【0166】
ステップS401Aでは、シャワー用給水弁50cを開き、イオン溶出ユニット100に所定流量の水を流す。同時に制御部80が電極113、114の間に電圧を印加し、金属イオンである銀イオンを水中に溶出させる。なお、電極間を流れる電流は直流である。銀イオンを添加された水(銀イオン水)は、シャワー給水管52cを通り、シャワー噴射部200から噴射される。このとき、制御手段である制御部80は、シャワー噴霧部からシャワーを噴射する制御を行うと同時に、所定期間(たとえば5分間)排水が停止されるように、洗濯槽30内の水を排水するための排水弁68を制御し、その所定期間の間、洗濯槽30を回転させる制御を行っている。
【0167】
これにより、ステップS500の脱水工程後、洗濯槽30内にへばり付いた洗濯物は、ステップS401Aにおいて、洗濯槽30の回転運動に合わせて移動し、シャワー噴射部から散布される銀イオン水が洗濯物に満遍なく付着することになる。
【0168】
次にステップS400Bの柔軟剤すすぎ工程に進む。このステップS400Bの柔軟剤すすぎ工程は、前述した図15のフローチャートと同じであるので説明は省略する。ステップS400Bを終了すると、ステップS204に進む。
【0169】
このように、金属イオンすすぎ工程のステップS401CからステップS406までと、金属イオンシャワー工程のステップS401Aとにおいて、繊維構造体である洗濯物に金属イオン水を接触させて、洗濯物に金属イオンを付着させた後、図15のフローチャートに示すように、ステップS500の脱水工程にて洗濯物から少なくとも水が滴らなくなる程度まで水分を必ず除去し、その後、ステップS401BからステップS406にて柔軟剤を含む水による洗濯物のすすぎ工程を実行することにより、洗濯物の変色を抑制することができる。
【0170】
以上のように、第2の実施形態では、金属イオン水すすぎ工程と金属イオンシャワー工程に含まれる金属イオン水接触工程と、柔軟剤すすぎ工程に含まれる柔軟剤含有水接触工程と、柔軟剤すすぎ工程に含まれる脱水工程である水分除去工程とが行われる。この第2の実施形態の工程において、繊維構造体である洗濯物にどれだけの金属イオンが残るのかを実験で確認した。
【0171】
実使用に近い条件で実験を行うため、銀イオン付着量を測定するためのサンプルピース(綿のタオル)を縫いつけた布(JIS L0803に規定された染色堅牢度試験用添付白布の綿布、以下、単に「JIS布」と呼ぶ)の他に、洗濯物と見立てた負荷(JIS布)を2kg投入し、洗濯槽30に銀イオン濃度300ppbの銀イオン水を給水し、使用水量は2kgの洗濯物に対応した水量を洗濯機の水量設定機能から選択した(本実験で使用した洗濯機の場合は27L)。サンプルピースと負荷を銀イオン濃度300ppbの銀イオン水で15分間攪拌後、一旦銀イオン水を排水し、その後、脱水工程を経て、600ppbの高濃度銀イオン水シャワーを洗濯物に80秒間付与した。この時点で、サンプルピースを一部回収し、銀イオン水接触工程直後の銀イオン付着量を測定した。
【0172】
柔軟剤すすぎ工程では、市販の柔軟剤を使用した。銀イオン水接触工程で銀イオン水を多く含んでいる洗濯物を柔軟剤すすぎ工程に含まれる脱水工程(水分除去工程)にて洗濯物から水が滴らなくなる程度まで脱水した後、柔軟剤を含んだすすぎ水を投入し、柔軟剤含有水接触工程を行った。柔軟剤の使用量として、使用した柔軟剤の説明に記載してある水量に準じた量を使用した(この場合、27Lに見合った量)。なお、一般的には柔軟剤の使用量はすすぎを行う水量に対して300ppm前後の濃度になるように設定されている。これは、銀イオンの濃度の100倍以上である。サンプルピースと負荷を3分間攪拌後、脱水工程を経て洗濯を終了し、サンプルピースを回収し、柔軟剤含有水接触工程後の銀イオン付着量を測定した。
【0173】
回収したサンプルピースから銀イオンを硝酸溶液中に洗い出し、原子吸光光度計にて銀イオンの濃度を測定した。その結果、銀イオン水接触工程直後の銀イオン付着量は0.2〜2.5mg/kg、柔軟剤含有水接触工程後の銀イオン付着量は1.1〜2.6mg/kgであった。この結果、銀イオン水によるすすぎを行った後、脱水を行い、柔軟剤によるすすぎを行っても、銀イオンは繊維構造体である洗濯物に残留することがわかった。洗濯物に残留する銀イオンの量が0.1〜0.3mg/kgであれば、黄色ブドウ球菌や好気性一般細菌などの繁殖を抑制することができる。すなわち、第2の実施形態の工程を行うことにより、銀イオンの抗菌効果を繊維構造体である洗濯物に残すことができる。
【0174】
次に、洗濯物の洗濯乾燥後の変色について実験を行った。第2の実施形態の工程に従って作製したサンプルピースの一部を洗濯乾燥後、約6時間日光下に置き、未処理のサンプルピースと、第2の実施形態の工程の終了後におけるサンプルピースとの色の変化を色差計にて測定した結果、色差ΔE=0.6(わずかに)であることが表された。この結果から、繊維構造体の変色が抑えられていることがわかる。
【0175】
このように、銀イオン水によるすすぎ工程と銀イオンシャワー工程に含まれる銀イオン水接触工程の後、銀イオン水を洗濯槽30から排水し、水分除去工程である脱水工程にて、洗濯物から水が滴らなくなる程度まで脱水を行った後、柔軟剤を含む水によるすすぎ工程に含まれる柔軟剤含有水接触工程を実行することにより、洗濯物の変色を抑制することができる。
【0176】
このように、第2の実施形態の工程を行うことにより、繊維構造体である洗濯物の変色を抑制することが可能であると同時に、抗菌効果を得るために必要な量の銀イオンを洗濯物に残留させることが可能であるため、洗濯物の変色を危惧することなく、銀イオンによる抗菌効果と、柔軟剤による柔軟効果を同時に得ることができる。
【0177】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実形態について説明する。本実施形態は、上記の第1の実施形態と、制御動作が異なる。すなわち、洗い工程で第1の仕上物質を投入し、すすぎ工程の1回目で第1の仕上物質をシャワー状にして投入し、すすぎ工程の2回目で第2の仕上物質を洗濯槽に溜めて洗濯物をすすぐといった制御動作を行う。図19は、繊維構造体に金属イオンを付着させる工程が洗い工程でも行われる場合のフローチャートである。その他の部分は第1の実施形態と同様である。
【0178】
図19に示すように、洗い工程であるステップS601にて、金属イオンを含む金属イオン水(たとえば、、金属イオン濃度は300ppb以上が好ましい)を洗濯槽30に供給するとともに、洗剤も洗濯槽30に供給し、繊維構造体である洗濯物を洗う。洗い工程が終了すると、金属イオンシャワー工程であるステップS400Aに進む。
【0179】
ステップS400Aでは、前述したように、図14に示すように、まず、ステップS500の脱水工程にて、洗濯物から水が滴らなくなる程度まで水分を除去する。次に、ステップS401Aにて、銀イオン水(たとえば、、銀イオン濃度は600ppb以上が好ましい)を洗濯物にシャワー状に噴射する。ステップ400Aの金属イオンシャワー工程が終了すると、柔軟剤すすぎ工程であるステップ400Bに進む。
【0180】
ステップS400Bでは、前述したように、図15に示すように、まず、ステップS500の脱水工程にて、洗濯物から水が滴らなくなる程度まで水分を除去する。次に、ステップ401Bにて図1に示す構造のエステル結合を有する界面活性剤と、図3に示す構造の硫化物イオンを有する界面活性剤との両方を含む柔軟剤を含む水(柔軟剤含有水)を繊維構造体である洗濯物に接触させ、ステップS402にて柔軟剤含有水に洗濯物をなじませ、ステップS405Bにて、洗濯物の攪拌を柔軟剤含有水により行い、ステップS406にて、パルセータ33が小刻みに反転して洗濯物をほぐす。その後、図19に示すように、ステップS500の脱水工程に進み、ステップS500にて最終脱水を行う。
【0181】
このように、ステップS601の金属イオン水を使用した洗い工程とステップS400Aの金属イオンシャワー工程のステップS401Aとからなる金属イオン水接触工程にて、銀イオンを洗濯物に付着させた後、銀イオン水を洗濯槽30から排水し、水分除去工程である脱水工程にて、洗濯物から水が滴らなくなる程度まで脱水を行った後、柔軟剤を含む水によるすすぎ工程、すなわち、柔軟剤含有水接触工程を実行することにより、銀イオンと柔軟剤成分の反応する度合いが減少するので、生成される化合物も減少し、化合物による洗濯物の変色を抑制することができる。つまり、柔軟剤含有水接触工程にて先の金属イオン水接触工程にて付着した銀イオンがある程度流出してしまい、付着量が減少して柔軟剤と反応するものが少なくなり、変色の原因となる反応物質が少なくなっていると考えられる。一見、銀イオンが流出するのは好ましくないように思えるが、前述したとおり銀イオンは衣類へ抗菌効果を付与できる程度は残留しているので、柔軟剤含有水接触工程で洗濯物から流出する程度の銀イオンの量ならば問題ない。
【0182】
さらに、前述した第1の実施形態と第2の実施形態におけるステップS400−1のすすぎ工程を省略することができるので、洗濯時間を短縮することができる。このとき、ステップS601の洗い工程で供給する銀イオン水中の銀イオン濃度は300ppb以上が望ましく、ステップS400Aの金属イオンシャワー工程で供給する銀イオン水中の銀イオン濃度は600ppb以上が望ましい。実験によれば、これらの濃度でも洗濯物の変色は抑制されており、色差ΔE=1.1(わずかに)であった。
【0183】
なお、第1の実施形態〜第3の実施形態における金属イオンシャワー工程、金属イオンすすぎ工程、柔軟剤すすぎ工程の各工程に含まれているステップS500の脱水工程は、ステップS500の脱水工程より脱水時間の短い脱水である中間脱水工程により行ってもよい。また、銀イオン水中の銀イオン濃度は900ppb以下であることが望ましい。900ppbを超えると、塩化銀などが析出する可能性があるためである。
【0184】
また、本発明では、銀イオンが洗濯物に付着するときのばらつきを改善することができる。なお、第1の実施形態〜第3の実施形態において、ステップS400Aの銀イオンシャワー工程にて繊維構造体である洗濯物に銀イオンを付着させた後、水または柔軟剤含有水にて溜めすすぎを行うことにより、洗濯物への銀イオンの付着量を一様にすることができ、銀イオンシャワー工程直後における洗濯物への銀イオンの付着量のばらつきを改善することができる。
【0185】
表3は、ステップS400Cの銀イオンすすぎ工程を行った後、ステップS400Aの銀イオンシャワー工程にて洗濯物に銀イオンを付着させた直後の洗濯物1kgあたりの銀イオンの付着量(mg)、ステップS400Cの銀イオンすすぎ工程を行った後、ステップS400Aの銀イオンシャワー工程後に水道水にて溜めすすぎを行った直後の洗濯物1kgあたりの銀イオンの付着量(mg)、ステップS400Cの銀イオンすすぎ工程を行った後、ステップS400Aの銀イオンシャワー工程後に柔軟剤含有水で溜めすすぎを行った直後の洗濯物1kgあたりの銀イオンの付着量(mg)を示している。それぞれ、サンプルピース(綿のタオル)を6枚ずつ用意して実験を行った。
【0186】
【表3】

【0187】
表3からわかるように、銀イオンシャワー工程直後の洗濯物に付着している銀イオン付着量(洗濯物に残留している銀イオンの量)は、0.2〜2.5mg/kgであり、標準偏差は1.0である。銀イオンシャワー工程後、水による溜めすすぎを行った場合に洗濯物に付着している銀イオン付着量は、0.2〜0.8mg/kgであり、標準偏差は0.2である。銀イオンシャワー工程後に柔軟剤含有水による溜めすすぎを行った場合に洗濯物に付着している銀イオン付着量は、1.1〜2.6mg/kgであり、その標準偏差は0.5である。
【0188】
上記のように、銀イオンシャワー工程後に、水や柔軟剤含有水で溜めすすぎを行うと、いずれも銀イオンシャワー工程直後に比べて、標準偏差が小さくなり、銀イオン付着量のばらつきが改善されていることがわかる。
【0189】
通常、洗濯物に銀イオンを付与した後に溜めすすぎを行うと、洗濯物に付着している銀イオンはすすぎ水に流され、洗濯物に残留しにくいと考えられる。しかし、分子量の大きい成分からなる柔軟剤を含む水で溜めすすぎを行えば、柔軟剤が洗濯物の表面にほぼ満遍なく付着することにより、先に洗濯物の細部に付着した原子量(分子量)の小さい銀イオンが流出しにくくなり、洗濯物に銀イオンが残留しやすくなると考えられる。なお、本実施形態では、銀イオンの原子量(分子量)は107であり、柔軟剤の分子量は柔軟剤の成分である界面活性剤の分子量の合計値で1000以上である。なお、分子量とは、各元素を構成する物質の原子量の合計をいい、分子量は原子量から計算される。
【0190】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態は、上記の第1の実施形態と、仕上物質の成分が異なる。すなわち、第1の仕上物質は金属イオンとして亜鉛イオンを使用する。第2の仕上物質は、図2に示す構造の不飽和結合を有する界面活性剤を含む柔軟剤を使用する。その他の部分は第1の実施形態と同様である。本実施形態によると、上記の第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0191】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。本実施形態は、上記の第1の実施形態と、仕上物質の成分が異なる。すなわち、第1の仕上物質は金属イオンとして銅イオンを使用する。第2の仕上物質は、図3に示す構造の硫化物イオンを有する界面活性剤を含む柔軟剤を使用する。その他の部分は第1の実施形態と同様である。本実施形態によると、上記の第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0192】
以上、本発明について、第1〜第5の実施形態を用いて説明してきたが、第1の仕上物質と第2の仕上物質との組合せが、上記「使用上好ましくない変化」を引き起こすいずれの組合せであっても、本発明の構成を用いれば、「使用上好ましくない変化」を抑制することができる。
【0193】
また、上記の実施の形態に記載の構成は一例に過ぎず、洗濯機の具体的な構成、金属イオン溶出ユニットの具体的な形状や構成、取り付け位置などについても、すべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。さらに、通常のドラム型洗濯機などにも本発明を適用することができる。
【0194】
以上に開示された実施の形態や実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態や実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】エステル結合を有する界面活性剤の化学式を示す図である
【図2】不飽和結合を有する界面活性剤の化学式を示す図である
【図3】硫化物イオンを有する界面活性剤の化学式を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る洗濯機の全体構成を示す垂直断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る給水口の模式的な垂直断面図であり、正面側から見た図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る洗濯機の洗濯工程全体のフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態に係る洗濯機の洗い工程における動作の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態に係る洗濯機のすすぎ工程における動作の流れを示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態に係る洗濯機の脱水工程における動作の流れを示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態に係る給水装置を取り付けた洗濯機を斜め上方から見たときの斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る給水装置の模式的な側面図を示している。
【図12】本発明の実施の形態に係るイオン溶出ユニットの外観および内部構造を模式的に示す斜視図である。
【図13】本発明の第1の実施形態において、金属イオンである銀イオンと仕上剤である柔軟剤とを投入する工程を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第1の実施形態における銀イオンシャワー工程を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第1の実施形態における柔軟剤すすぎ工程を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第1の実施形態において、繊維構造体の変色が抑制される原理の仮説を示す図である。
【図17】本発明の第2の実施形態において、金属イオンである銀イオンと仕上剤である柔軟剤とを投入する工程を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第2の実施形態における銀イオンすすぎ工程のフローチャートである。
【図19】本発明の第3の実施形態において、繊維構造体に銀イオンを付着させる工程が洗い工程でも行われる場合のフローチャートである。
【符号の説明】
【0196】
1:洗濯機、30:洗濯槽、44:脱水軸、50:給水弁、50a:メイン給水弁、50b:サブ給水弁、50c:シャワー用給水弁、51:接続管、52:給水管、52a:メイン給水管、52b:サブ給水管、52c:シャワー用給水管、53:給水口、55:仕上剤室、56:注水口、100:イオン溶出ユニット、200(200a、200b):シャワー噴射部、250:連結管、300:給水装置、400:繊維構造体、401:銀イオン、402:柔軟剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に繊維構造体を収容する洗浄槽と、
前記洗浄槽に水を供給する水供給部とを備えた洗浄装置において、
第1の仕上物質を含む水を前記水供給部が前記洗浄槽内の繊維構造体に掛けることにより、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させる第1の仕上物質付着工程と、
前記第1の仕上物質付着工程の後、前記繊維構造体を脱水する脱水工程と、
前記第1の仕上物質と異なる第2の仕上物質を含む水を前記水供給部が前記洗浄槽内に供給し、前記洗浄槽内の繊維構造体をすすぐことにより、第2の仕上物質を繊維構造体に付着させる第2の仕上物質付着工程とを行うことを特徴とする、洗浄装置。
【請求項2】
前記第1の仕上物質は繊維構造体の内部に相対的に浸透しやすく、前記第2の仕上物質は繊維構造体の内部に相対的に浸透しがたい、請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記1の仕上物質付着工程では、前記水供給部が第1の仕上物質を含む水を前記洗浄槽内の繊維構造体にシャワー状に掛けることにより、第1の仕上物質を繊維構造体に付着させる、請求項1または請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記第1の仕上物質は金属を含み、前記第2の仕上物質は有機化合物を含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記第1の仕上物質の分子量は前記第2の仕上物質の分子量より小さい、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記第1の仕上物質を含む水中の第1の仕上物質の濃度は、前記第2の仕上物質を含む水中の第2の仕上物質の濃度より小さい、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の洗浄装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−236430(P2007−236430A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58931(P2006−58931)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】