説明

活性エネルギー線硬化型液体組成物及び液体カートリッジ

【課題】水溶性、活性エネルギー線硬化性、水性インクの形成材料などに用いた場合の安定性に優れた活性エネルギー線硬化型液体組成物の提供。
【解決手段】一般式(I)で示される化合物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物。


(Aは、水素原子又は置換基を有していてもよい1価の有機残基、R1及びR2は置換基を有していてもよい2価の有機基、Eはアミド結合を表し、Rnはカルボニル基と該カルボニル基の炭素原子に隣接した不飽和炭素−炭素結合を有する環状連結基、mは0以上の数、nは2以上の数、m+n=3である。Zは2級又は3級アミノ結合構造を示し、2級又は3級アミンの塩であってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インクジェットインクに代表されるような、新規の活性エネルギー線硬化型液体組成物、及び該液体組成物を含む液体カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、記録媒体上に液体組成物を付与し、そこに活性エネルギー線を含む光を照射することによってその液体組成物中の硬化性物質を硬化させ、硬化膜を形成し画像を形成する方法が知られている。例えば、非水性の活性エネルギー線硬化性物質を水性ビヒクル中へ乳化分散し、これに色材を加えた液体組成物(硬化性エマルジョン塗料)を媒体へ塗布した後、紫外線を照射して画像を形成する類の技術である。
【0003】
このような活性エネルギー線硬化型液体組成物やそれを用いた各種塗料は、近年では、グラフィックアート、サインアート、ディスプレイパネル製造、ラベル記録、パッケージ記録、また電子回路基板の作製などに広く応用されている。
【0004】
中でも、このような活性エネルギー線硬化性物質を含有する液体組成物を、インクとしてインクジェット記録方法に応用する技術が知られている。このようなインクジェット記録方法に活性エネルギー線硬化型液体組成物を用いる場合には、この液体組成物に用いる硬化性物質として、非水性又は水性のものを適用することが考えられる。非水性硬化性物質を用いる場合には大別して2つのタイプに分けられる。そのうちの1つとしては、トルエンやメチルエチルケトンなどの有機溶剤中に顔料を分散した所謂油性インクである。もうひとつのタイプとしては、上記のような有機溶剤を用いず、液状のモノマー、オリゴマー、及び顔料分散体を含有する所謂100%硬化型インク(ノンソルベントインク)である。
【0005】
しかし、前記したような油性インクを用いる場合には、有機溶剤が大気中に揮散しやすくなることから、環境への十分な配慮が必要である。また、前記100%硬化型インクは、記録媒体上に付与したインク成分を全て硬化膜としなければならないことから、記録部分と非記録部分で凹凸が発生しやすく、画像の光沢感を得ることが難しい。そのため、高い画質が要求される用途への展開は難しいのが現状である。
【0006】
一方、水性の硬化性物質を適用する場合は、溶剤として水を主成分とする水系溶剤を用いるため、溶剤の揮散による環境への負荷が比較的少ない。また100%硬化型インクのような凹凸の発生も低く抑えることが可能である。このようなことから、インクジェット記録方法に、水性の硬化性物質を適用した活性エネルギー線硬化性液体組成物を用いる技術は極めて有用である。このような事情から、水性の活性エネルギー線硬化型液体組成物の開発、また同時にそれに応用可能な親水性の各種反応性樹脂の開発が求められている。
【0007】
こういった状況の中で、水性活性エネルギー線硬化性物質の例として、一つには、酸性基及び(メタ)アクリロイル基又はビニル基を共に有する親水性の硬化性物質が知られている。このようなものとしては、例えば、無水琥珀酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル、オルソ無水フタル酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル、ビニルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0008】
また、別の例として、水に可溶であり、1分子中に2つ以上の重合性官能基を有し、工業的に生産されている化合物として、ポリエチレンオキシド鎖によって親水性を付与した硬化性物質が知られている。このようなものとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0009】
また、特許文献1には、多官能の親水性硬化性物質が開示されている。ここに開示されている化合物は、親水性を付与するための手法として、分子中における水酸基の数を増やすことを目的として用いたものである。
【0010】
また、特許文献2及び3には、ポリアルコールから誘導される親水性ポリエポキシドの(メタ)アクリル酸エステルなどが開示されている。これらに開示されている化合物は、活性エネルギー線による硬化性や硬化物の物性が、ある程度満足できるものであり、化合物を水溶液としたときの粘度も、インクジェット用インクに要求される水準を満たすものである。
【0011】
さらに、特許文献4には、スピロ環含有(メタ)アクリレート化合物に加えて、エチレン性不飽和基含有化合物を有するエネルギー線硬化型粉体塗料用組成物が開示されている。
【0012】
加えて特許文献5には、アミノ基含有多官能(メタ)アクリレート化合物を含有する活性エネルギー線硬化性インクジェットインク組成物が開示されている。
【0013】
【特許文献1】特開平8−165441号公報
【特許文献2】特開2000−117960号公報
【特許文献3】特開2002−187918号公報
【特許文献4】特開2003−165927号公報
【特許文献5】特開2003−327873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記に挙げたような従来の各技術に記載されている化合物を、インクジェット記録方法に適用できるような活性エネルギー線硬化型液体組成物の主要材料とするには十分でない場合があった。例えば、1分子中に1つの重合性官能基を有する化合物においては、1分子中に1つしか重合性官能基を有さないため、重合速度が遅く、また、硬化膜の架橋度が低い場合が多い。そのため、近年の更なる高耐久化の要求を考慮すると、これらを適用した液体組成物は、硬化性や硬化膜特性が概して劣り、本発明が目的とする主要材料とはなりにくい。
【0015】
また、本発明者らの検討によれば、前記した水に可溶であり、1分子中に2つ以上の重合性官能基を有し、かつ、工業的に生産されている化合物については、以下のような課題があることがわかった。すなわち、これらの化合物は、エチレンオキシド鎖が短いと水溶性に劣り、逆に、エチレンオキシド鎖が長いと水溶性は得られるものの、硬化膜特性、特に、硬度、密着性、ベタつきの諸性能において十分でない場合がある。
【0016】
また、前記した特許文献1に記載された化合物は、水溶性を有し、かつ、活性エネルギー線により硬化が可能であるが、その用途は記録媒体用のインク受容層であり、本発明の課題に対し適用できるかは不明である。また、本発明者らの検討によれば、これらの化合物を含有させて、液体組成物とした場合に、粘性が高くなりやすく、応用の範囲が限られるという課題がある。
【0017】
また、本発明者らの検討によれば、前記した特許文献2や特許文献3に記載された、親水性ポリエチレンオキシドの(メタ)アクリル酸エステルなどの化合物では、以下のような課題がある。すなわち、このような(メタ)アクリル酸エステル基を有する水性硬化性物質を、水性インクの材料に用いた場合には、下記のようなことが起こることがあった。水性インクの色材には、一般に広く、アニオン性基によって水性媒体中に溶解する染料や、アニオン性基によって水性媒体中に顔料が分散された顔料分散体が用いられている。一方、上記のような水性硬化性物質を水性インク中に含有させると、(メタ)アクリル酸エステル基の加水分解によるアクリル酸の生成に伴って、水性インクのpHが酸性領域まで低下することがある。このような状態になると、元のpHがアルカリ〜中性領域に調整されていて、元来にインク中に安定に存在していた染料が析出したり、顔料分散体の凝集或いは沈降が生じ、水性インクの保存安定性の観点において問題を生じる場合がある。さらに、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録方法において特に顕著であるが、インク中の硬化性物質が予期しない反応により不溶物を生成してしまい、吐出安定性の観点において問題を生じる場合もある。
【0018】
また、前記した特許文献4に記載された化合物の用途は粉体塗料用組成物であり、その化合物が、液体組成物に適用できるものであるかも、水溶性であるかも不明である。さらに、1官能性マレイミド化合物などが好ましいと記載されていることから、十分な硬化性が得られるかも不明である。
【0019】
また、特許文献5に記載された化合物は、溶剤を必要としないインクジェット液インク用途のものであるが、(メタ)アクリル酸エステル構造を有する。このため、特許文献2や特許文献3に記載された化合物と同様に、水性インクの材料に用いた場合、保存安定性や吐出安定性の観点において課題がある。
【0020】
したがって、本発明の第一の目的は、少なくとも、水溶性、活性エネルギー線硬化性、水性インクの形成材料などとして用いた場合の安定性、などに優れた化合物を含有する活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することにある。具体的には、充分な水溶性を示し、活性エネルギー線によって速やかにかつ充分に硬化する化合物を含み、形成される硬化物が下記の優れた特性を有し、また、熱や保存に対する安定性に優れた活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することを目的とする。該活性エネルギー線硬化型液体組成物によって形成される硬化物は、強度及び密着性に優れたものとなる。
【0021】
また、本発明の第二の目的は、上記した活性エネルギー線硬化型液体組成物を用い、これを収容してなる液体収容部を具備した構成とすることで、上記効果を有する実用価値の高い液体カートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記した目的は以下の発明によって達成される。すなわち、本発明の第一の実施態様として、下記一般式(I)で示される化合物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供する。

(上記式(I)において、Aは、水素原子又は置換基を有していてもよい1価の有機残基を表し、R1及びR2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の有機基を表し、Eはアミド結合を表し、Rnはカルボニル基と該カルボニル基の炭素原子に隣接した不飽和炭素−炭素結合を有する環状連結基を表す。また、mは0以上の数を表し、nは2以上の数を表し、かつ、m+n=3である。またZは、下記式で表される2級又は3級アミノ結合構造を示す。該アミノ結合は、2級又は3級アミンの塩であってもよい。)

【0023】
さらに本発明は、第二の実施態様として、上記の活性エネルギー線硬化型液体組成物を収容してなる液体収容部を具備することを特徴とする液体カートリッジを提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第一の態様によれば、性能に優れた活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することができる。特に、液体組成物を構成する成分の水溶性や硬化性、その安定性などが非常に優れた水性の活性エネルギー線硬化型液体組成物を提供することができる。このため、インクジェット記録方法に対して極めて好適に応用可能な、吐出安定性や保存安定性に優れた液体組成物が提供されて、定着性及び耐マーカー性などの堅牢性に優れた画像の形成を安定して行うことが可能となる。
【0025】
また、本発明の第二の態様によれば、上記の優れた効果を達成できる活性エネルギー線硬化型液体組成物が収容されてなる液体収容部を具備する、実用価値の高い液体カートリッジが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。勿論、本発明の範囲は、この例示に限られるものではない。本発明者らは前述した背景技術を深く鑑み、鋭意検討の結果、前記一般式(I)で示される化合物を見出した。そして、本発明者らは、前記一般式(I)で示される化合物を含有してなる活性エネルギー線硬化型液体組成物とすることにより初めて、前記した本発明の目的に対して、容易に予期できない顕著な効果が発現することを知見して、本発明を成すに至ったものである。
【0027】
本発明者らは、検討の過程で、前記一般式(I)で示される化合物を含有する本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物をインクジェット記録方法に応用し、その吐出安定性や硬化膜などの評価を行った。その結果、重合速度、硬化膜の架橋度が充分であり、硬化膜のベタつきが少なく、予期しない反応による不溶物の生成も許容範囲内であり、pHの変化も少なく、保存安定性は良好であった。すなわち、活性エネルギー線硬化型液体組成物として総合的に極めて優れた性能を呈することを確認した。
【0028】
このように優れた性能が発現する理由は明確ではないが、本発明者らは以下のように推測している。先ず、水溶性であるが、前記一般式(I)で示される化合物が有するアミド結合が親水性であることと、さらにアミノ結合の部分も高い親水性を有していることなどが要因ではないかと推測される。
【0029】
また、良好な硬化性については、前記一般式(I)で示される化合物が持つ下記に挙げるような構造的な特徴などが要因となって発現したのではないかと推測される。先ず、該化合物は、カルボニル基と該カルボニル基の炭素原子に隣接した不飽和炭素−炭素結合を有す環状連結基Rnを有している。そして、この構造が重合性を持つこと、さらにそれが多官能にあること、また構造的に架橋密度が上がりやすく緻密な硬化膜になりやすいことが挙げられる。これに加えて、該化合物が水素結合性の高いアミド結合を持つこと、さらには、該化合物がラジカル重合性を促進するアミノ化合物構造を持つこと、などが要因であると考えられる。
【0030】
さらに、水性インクとしたような場合における安定性については、下記のように推測している。前記一般式(I)で示される化合物は、化合物内部に比較的安定性に劣る結合様式(例えばアクリル酸エステル基)がないことと、アミノ基構造が塩基性を示すことなどが要因ではないかと考えられる。上記のような特徴を有するため、該化合物と併存した場合に、特にアニオン性基によって水性媒体中に溶解する染料又はアニオン性基によって水性媒体中に顔料が分散された顔料分散体が、安定して溶解又は分散する状態を保つことができる。この結果、本発明の活性エネルギー線液体組成物を水性インクとして用いた場合に、保存安定性に優れるものになったと推測される。
【0031】
次いで、本発明を具体例に基づき、さらに詳細に説明する。本発明に用いる活性エネルギー線重合性物質、すなわち、前記一般式(I)で示される化合物は親水性であることが好ましい。本発明において、化合物が親水性であるということは、その化合物が、以下の(1)〜(3)のいずれかの状態であることを意味する。
(1)化合物が水と混和し得る有機溶剤に可溶であり、該有機溶剤が水溶性である。
(2)化合物が非水溶性であっても、水に乳化可能となるように処理が施されている。
(3)化合物が水溶性である。
【0032】
本発明では、特に、一般式(I)で示される化合物の水溶性が、25℃・1気圧下の純水に対して1質量%以上完全溶解するものであることが好ましい。
【0033】
以下、本発明の活性エネルギー線硬化性液体組成物を特徴づける下記一般式(I)で表される化合物について説明する。
【0034】

(上記式(I)において、Aは、水素原子又は置換基を有していてもよい1価の有機残基を表す。R1及びR2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の有機基を表す。Eはアミド結合を表し、Rnはカルボニル基と該カルボニル基の炭素原子に隣接した不飽和炭素−炭素結合を有する環状連結基を表す。また、mは0以上の数を表し、nは2以上の数を表し、かつ、m+n=3である。)
【0035】
上記一般式(I)中の[Z]は結合基を示しているが、該結合基は、アミノ基から1以上の結合基を除いたものであり、下記式で表される2級又は3級アミノ結合構造を示す。該アミノ結合は、2級又は3級アミンの塩であってもよい。

本発明においては、上記[Z]が3級アミン結合構造であるものが、さらに好ましい。
【0036】
本発明で好適に使用できる前記一般式(I)のうち、さらに好ましいものとしては、前記一般式(I)における[A]が、水素原子又は下記一般式[A1]で表される基であることが好ましい。前記一般式[A1]中のnは、0から5の範囲内の数である。

【0037】
本発明においては、前記一般式(I)で示される化合物の中でも、特に、下記一般式(I’)で表される化合物を用いることが好ましい。

(上記式(I’)中の−R3−は下記一般式(R3)で表され、該式(R3)中のpは、0から5の範囲内の数である。

上記式(I’)中のR4は、置換基を有していてもよい炭素数1から6のアルキレン基であり、また、Rn1は、少なくとも一方のカルボニル基の炭素原子に隣接した炭素原子が炭素−炭素二重結合を有する炭素数2乃至5で構成される2価の基を表す。上記式(I’)中のA2は、水素原子又は下記一般式(A2)を表し、該一般式(A2)中のpは、0から5の範囲内の数を表す。

上記式(I’)中のmは0以上の数を、nは2以上の数を表し、かつ、m+n=3である。)
【0038】
さらに、前記式(I’)中のRn1が、下記構造式(II)、(III)及び(IV)のいずれかで表される構造であることも望ましい形態である。

【0039】
本発明に用いる一般式(I)で示される化合物として、例えば以下に示す構造の例示化合物が挙げられるが、本発明に用いる一般式(I)で示される化合物は、これらに限定されるものではない。
【0040】

【0041】

【0042】

【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】

【0048】

【0049】

【0050】

【0051】

【0052】

【0053】
本発明に用いる前記一般式(I)で表される上記に挙げたような活性エネルギー線硬化型物質(重合性物質)は、例えば、以下に示すような方法により製造することができる。先ず、アミノカルボン酸にマレイン酸無水物、イタコン酸無水物又はシトラコン酸無水物を縮合、閉環することによりマレイミドカルボン酸誘導体、イタコンアミドカルボン酸誘導体又はシトラコンアミドカルボン酸誘導体を得る。さらに、これらを多官能アミノ化合物と脱水縮合反応させることにより目的のイミド化合物を得ることができる。勿論、活性エネルギー線重合性物質の製法はこれらに限定されるわけではない。
【0054】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、水を含有して水性組成物として用いてもよい。その際の濃度としては、用途や様式により異なるため一概には言えないが、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。また、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。また、完全に水溶化させずに、公知の分散技術を適宜用いて乳化分散し、エマルジョンとして用いてもよい。同様に様々なカプセル化技術も応用可能である。
【0055】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は色材を含んでいてもよい。その場合には、本発明にかかる液体組成物はある種のインクとして利用することができる。その場合の構成と用いる色材について述べる。
【0056】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、色材を含有するインクに応用することで、活性エネルギー線などの照射によって硬化する、着色された活性エネルギー線硬化型インクとして利用することができる。この場合に用いる色材としては、顔料を水性媒体に均一に分散した顔料分散体を用いることが好ましい。顔料分散体としては、水性グラビアインク、水性の筆記具用の顔料分散液や、従来から知られているインクジェット用インクに用いられる顔料分散体などを全て好適に用いることができる。中でも特に、アニオン性基により水性媒体中に顔料が安定に分散した顔料分散体は極めて好適である。
【0057】
アニオン性基により水性媒体中に顔料が安定に分散した顔料分散体としては、下記の刊行物に記載されているようなものを用いることができる。例えば、特開平8−143802号公報、特開平8−209048号公報、特開平10−140065号公報、米国特許第5,837,045号明細書及び米国特許第5,851,280号明細書に開示されている。本発明の液体組成物においては、これらに記載されているような種々の顔料分散体をその色材として用いることができる。
【0058】
また用いる顔料としては、カーボンブラックや有機顔料などが挙げられる。カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。勿論これら以外にも、従来公知のカーボンブラックを用いることができる。また、マグネタイト、フェライトなどの磁性体微粒子やチタンブラックなどを顔料として用いてもよい。
【0059】
有機顔料としては例えば以下のものを用いることができる。トルイジンレッド、ハンザイエローなどのアゾ顔料。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジなどのイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料。
【0060】
応用可能な有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、以下のものを用いることができる。C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98、109、110、117、120、125、128、137、138、139など。また、C.I.ピグメントイエロー:147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185など。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71など。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、209、215、216、217など。また、C.I.ピグメントレッド:220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272など。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50など。C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64など。C.I.ピグメントグリーン:7、36など。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26など。勿論、これら以外にも、従来公知の各種有機顔料を用いることができる。
【0061】
なお、上記した各種顔料を用いる場合には、分散剤を併用してもよい。分散剤は、顔料を水性媒体に安定に分散させることができるものであれば特に限定を受けるものではないが、例えば、ブロックポリマー、ランダムポリマー、グラフトポリマーなどを用いることができる。一例として下記のものが挙げられる。
【0062】
スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、又はこれらの塩など。ベンジルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、又はこれらの塩などである。
【0063】
また、上記した各種顔料を用いる場合には、顔料粒子の表面にイオン性基を結合させることにより、分散剤を用いることなく媒体に分散することができる、所謂自己分散型顔料を用いることもできる。
【0064】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は色材として、各種染料を用いることもできる。以下に応用可能な染料を、染料カラーインデックス(C.I.)ナンバーで示す。C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、49、61、71など。C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、44、86、87、98、100、130、132、142など。C.I.アシッドレッド1、6、8、32、35、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、254、256、289、315、317など。C.I.ダイレクトレッド1、4、13、17、23、28、31、62、79、81、83、89、227、240、242、243など。C.I.アシッドブルー9、22、40、59、93、102、104、113、117、120、167、229、234、254など。C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、78、86、90、106、199など。C.I.ダイレクトブラック:7、19、51、154、174、195など。
【0065】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、前記したような色材を含有することなく、言うなれば「透明なインク」の形態として用いることもできる。この場合には、色材を含有しないので実質的に無色透明の被膜を得ることができる。このような「透明インク」の用途は、以下のものが挙げられる。例えば、画像記録への種々の適性を記録媒体に付与するためのアンダーコート、又は通常のインクで形成した画像の表面保護、さらには装飾や光沢付与などを目的としたオーバーコートなどの用途に用いることができる。この場合液体組成物は、酸化防止や退色防止などの用途に応じて、着色を目的としない無色の顔料や微粒子などを分散して含有することもできる。これらを添加することによって、アンダーコート、オーバーコートのいずれにおいても、記録物の画質、堅牢性、施工性(ハンドリング性)などの諸特性を向上させることができる。
【0066】
本発明の液体組成物は、一般的に広く知られている技術である反応性希釈剤を含んでいてもよい。代表例を挙げると、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、単糖類のモノアクリレート、オリゴエチレンオキシドのモノアクリル酸エステル、及び2塩基酸のモノアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0067】
本発明の液体組成物は、様々な性能の向上を目的とし、本来の特性を損なわない程度に、各種添加剤を含むこともできる。例えば、ある種の有機溶剤はインクに不揮発性を与えること、粘度を調整すること、表面張力を調整すること、記録媒体への濡れ性を与えることなどの目的で添加される。
【0068】
以下に、本発明に用いることのできる有機溶剤を列挙する。本発明の液体組成物においては、これらの中から任意に選択したものを添加することができる。エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類など。メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどの1価のアルコール類など。
【0069】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、重合開始剤を含有してもよい。この際に使用する重合開始剤としては、反応性を最大限に発揮するためにも親水性であることが好ましい。
【0070】
本発明に用いられる親水性重合開始剤は、活性エネルギー線によってラジカルを生成する化合物であればいずれのものでもよい。本発明においては、下記一般式(イ)、(ハ)〜(ヘ)で表される化合物からなる群より選択される少なくともひとつの化合物を用いることが好ましい。
【0071】

上記一般式(イ)中、R2はアルキル基、又はアリール基であり、R3は、アルキルオキシ基、フェニル基、又はOMであり、Mは、水素原子、又はアルカリ金属であり、R4は下記一般式(ロ)で表される基である。
【0072】

上記一般式(ロ)中、R5は、−[CH2x2−(x2は0乃至1)、又はフェニレン基であり、m2は0乃至10であり、n2は0乃至1であり、R6は、水素原子、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又はこれらの塩である。
【0073】

上記一般式(ハ)中、m3は1以上であり、n3は0以上であり、m3+n3は1乃至8である。
【0074】

上記一般式(ニ)中、R10及びR11はそれぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基であり、m4は5乃至10である。
【0075】

上記一般式(ホ)中、R10及びR11はそれぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基であり、R12は、−(CH2x−(xは0乃至1)、−O−(CH2y−(yは1乃至2)、又はフェニレン基であり、Mは水素原子、又はアルカリ金属である。
【0076】

前記一般式(ヘ)中、R10及びR11はそれぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基であり、Mは水素原子、又はアルカリ金属である。
【0077】
これらの中では、一般式(イ)、(ハ)及び(ニ)で表される化合物を用いることが好ましく、さらには、一般式(イ)及び(ハ)で表される化合物を用いることが特に好ましい。
【0078】
また、前記一般式(イ)におけるR2のアルキル基及びアリール基は、置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、以下のものが挙げられる。ハロゲン、炭素数1乃至5のアルキル基、炭素数1乃至5のアルキルオキシ基、前記一般式(ロ)で表される基、スルホン酸基又はその塩、カルボキシル基又はその塩、ヒドロキシル基又はその塩などが挙げられる。本発明に用いるものとしては、R2が炭素数1乃至5のアルキル基を置換基として有するアリール基であることが特に好ましい。また、上記に挙げたスルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基の塩を形成する対イオンは、以下に挙げるものであることが好ましい。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はHNR789で表されるアンモニウムである。上記において、R7、R8、及びR9はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1乃至5のアルキル基、炭素数1乃至5のモノヒドロキシル置換アルキル基、又はフェニル基である。
【0079】
また、前記一般式(ロ)におけるR5がフェニレン基の場合、該フェニレン基は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、以下のものが挙げられる。ハロゲン、炭素数1乃至5のアルキル基、炭素数1乃至5のアルキルオキシ基、スルホン酸基又はその塩、カルボキシル基又はその塩、ヒドロキシル基又はその塩などが挙げられる。また、前記したスルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基の塩を形成する対イオンは、以下に挙げるものであることが好ましい。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はHNR789で表されるアンモニウムである。上記において、R7、R8、及びR9はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1乃至5のアルキル基、炭素数1乃至5のモノヒドロキシル置換アルキル基、又はフェニル基である。
【0080】
前記一般式(ロ)におけるR6は、水素原子、スルホン酸基又はその塩、カルボキシル基又はその塩、ヒドロキシル基又はその塩などである。また、上記スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基の塩を形成する対イオンは、以下に挙げるものであることが好ましい。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はHNR789で表されるアンモニウムである。上記において、R7、R8、及びR9はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1乃至5のアルキル基、炭素数1乃至5のモノヒドロキシル置換アルキル基、又はフェニル基である。
【0081】
前記一般式(イ)におけるR3のアルキルオキシ基及びフェニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基は、以下のものが挙げられる。例えば、ハロゲン、炭素数1乃至5のアルキル基、炭素数1乃至5のアルキルオキシ基が挙げられる。特に好ましいR3は、アルキルオキシ基であり、中でも−OC25及び−OC(CH33である。
【0082】
前記一般式(ホ)におけるR10及びR11のアルキル基は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、以下のものが挙げられる。例えば、ハロゲン、スルホン酸基又はその塩、カルボキシル基又はその塩、ヒドロキシル基又はその塩などが挙げられる。また、前記したスルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基の塩を形成する対イオンは以下に挙げるものであることが好ましい。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はHNR789で表されるアンモニウムである。上記において、R7、R8、及びR9はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1乃至5のアルキル基、炭素数1乃至5のモノヒドロキシル置換アルキル基、又はフェニル基である。
【0083】
なお、一般式(イ)乃至(ヘ)中、アルキル基は、直鎖又は分枝の炭素数1乃至5のアルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。アルキルオキシ基は、直鎖又は分枝の炭素数1乃至5のアルキルオキシ基であることが好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基などのアルキルオキシ基が挙げられる。アルカリ金属の具体例は、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属の具体例は、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。HNR789で表されるアンモニウムの具体例は、アンモニウム、ジメチルエタノールアンモニウム、メチルジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム、アニリニウムなどが挙げられる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
【0084】
本発明においては、上記重合開始剤の中でも、以下に示す構造の化合物が特に好ましい。
【0085】

【0086】

【0087】

【0088】
また本発明においては、重合開始剤と増感剤を組み合わせて用いたり、2種類以上の重合開始剤を組み合わせて用いることもできる。2種類以上の重合開始剤を組み合わせて用いることで、1種類の重合開始剤では有効に利用できない波長の光を利用して、更なるラジカルの発生を期待することができる。
【0089】
本発明に用いられる、活性エネルギー線は、液体組成物を硬化することができるものであればいずれのものでもよく、紫外線や電子線などであることが好ましい。かかる活性エネルギー線は、重合開始剤からラジカルを発生させることができるが、電子線を採用する場合には、重合開始剤は必ずしも用いる必要はない。
【0090】
本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、液体収容部を具備するカートリッジ(液体カートリッジ)に収容される液体としても、またその液体カートリッジの充填用液体としても有効である。また本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物は、インクジェット記録方式の中でも、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式の記録ヘッド及びインクジェット記録装置における吐出液体として、極めて優れた効果をもたらすものである。
【実施例】
【0091】
以下、本発明にかかる活性エネルギー線硬化型液体組成物のより具体的な実施例及びその比較例を挙げてさらに詳細に説明する。勿論、本発明は下記実施例に限られるものではないことは言うまでもない。
【0092】
<実施例1〜20、並びに、比較例1〜8>
活性エネルギー線硬化型液体組成物によって形成される膜の、強度及び成膜性、密着性を評価するために、下記のようにして鉛筆硬度試験を行った。先ず、表1及び2に示す各成分を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ1.2ミクロンのフィルタにて加圧濾過を行い、実施例1〜20及び比較例1〜8の液体組成物を調製した。実施例に用いた重合性物質は、先に示す例示化合物のうち、例示化合物1、2、4、8、10である。比較例に用いた重合性物質は、以下に示す比較化合物1、2である。実施例及び比較例に用いた重合開始剤は、先に示す化合物B、Dである。なお、特に指定のない限り、各液体組成物中の成分の量は「質量部」を意味する。また本発明においては、1画素あたり約5plのドットで600×600dpiのピッチで画像の全てを埋め尽くす記録を100%ベタと呼称する。
【0093】

【0094】

【0095】

【0096】

【0097】
(液体組成物の成膜性評価)
表1及び表2に示した各液体組成物を用いて、下記のようにして、その強度などを評価した。バーコーターを用いて、市販のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに、実施例1〜20及び比較例1〜8の液体組成物を20g/m2となるようにそれぞれ付与した。このようにして得られた各PETフィルムに、UV照射装置を用いて紫外線を照射し塗工膜を得た。ここで用いたUVランプは、UV硬化性評価装置モデルLH6B(FUSIONUV Systems Inc.製)であり、照射位置での強度は1,500mW/cm2である。また、PETフィルムの搬送速度は0.2m/秒であった。そして、このように形成した膜の鉛筆硬度を、市販の鉛筆硬度試験機HEIDON−14D(商品名、新東化学製)を用いて測定した。測定結果を表3及び表4に示した。なお、鉛筆硬度試験はJISに準拠して行った。
【0098】

【0099】

【0100】
表3及び表4の実施例の結果に示されているように、実施例1〜10の非水性液体組成物、実施例11〜20の水性液体組成物に関わらず、各塗工膜において、実用上問題ない鉛筆硬度が得られた。なお、比較例1〜8の各液体組成物を用いて形成した膜は、いずれも、完全にはPETフィルムに定着せず、鉛筆硬度試験機での鉛筆硬度の測定ができなかった。
【0101】
<実施例21〜32、並びに、比較例9及び10>
さらに、インク形態とした場合の液体組成物についての評価を行った。先ず、シアンの顔料分散体を以下のように調製した。顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を用い、分散剤としてスチレン/アクリル酸/エチルアクリレートのランダムポリマー(平均分子量:3,500、酸価:150)を用いた。これらをビーズミルにて分散し、顔料固形分が10質量%で、顔料(P)とバインダー(B)の比率が、P/B比=3/1であるシアン顔料分散体を得た。レーザー光散乱型の粒子径測定装置(ELS−8000;大塚電子製)を用いて測定した顔料の平均粒子径は120nmであった。次に、表5に示す成分を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ0.50μmのフィルタを用いて加圧濾過を行い、実施例21〜32、並びに、比較例9及び10のインクを調製した。なお、インクのpHは最終的に8.5となるように、0.2規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整した。また、実施例に用いた重合性物質は、先に示す例示化合物のうち、例示化合物1、2、4、8、10、12である。比較例に用いた重合性物質は、前記した比較化合物1、2である。実施例及び比較例に用いた重合開始剤は、先に示す化合物B、Cである。なお、特に指定のない限り、各インク中の成分の量は「質量部」を意味する。
【0102】

【0103】
(インクの評価)
前記のように調製した実施例及び比較例の各インクの評価を下記の要領で行った。記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出するオンデマンド型インクジェット記録装置Pixus550i(キヤノン製)を、図1に示したものと同様の構成を有するように改造した。具体的には、本発明の活性エネルギー線硬化型液体組成物を収容してなる液体収容部を具備するインクカートリッジ1の記録ヘッド部2に隣接する位置に、マイクロ波を用いて外部から無電極で水銀灯を励起するUVランプ3を搭載させた。この改造したインクジェット記録装置を用いて、下記(1)から(3)に記載する評価方法及び評価基準にしたがって、各インクの評価を行った。また、UVランプはDバルブを用いた。照射位置での強度は1,500mW/cm2であった。
【0104】
(1)インク硬化性能
(1)−1:定着性
先に調製した実施例21〜32、並びに、比較例9及び10のそれぞれのシアンインクと、前記で説明した改造したインクジェット記録装置とを用いて、オフセット記録用紙OK金藤(王子製紙製)に100%ベタの画像を形成した。先に説明した液体組成物を付与した場合と同様の条件で、記録媒体にUV照射装置を用いて紫外線を照射した。そして、記録10秒後に、前記記録媒体にシルボン紙を載せ、記録面に40g/cm2の荷重を載せた状態でシルボン紙を引っ張った。その結果、記録媒体の非記録部(白地部)及びシルボン紙に、記録部の擦れによって汚れが生じるか否かを目視で観察して、定着性の評価を行った。定着性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表6に示した。
A:擦れによる部分が見られない。
B:擦れによる汚れ部分が殆ど見られない。
C:擦れによる汚れ部分が目立つ。
【0105】
(1)−2:耐マーカー性
実施例21〜32、並びに、比較例9及び10のそれぞれのシアンインクと、前記で説明した改造したインクジェット記録装置とを用いて、PPC用紙(キヤノン製)に12ポイントの文字を記録した。そして、記録1分後に、蛍光ペンスポットライターイエロー(パイロット製)を用いて、文字部を通常の筆圧で1度マークし、文字の乱れの有無を目視で観察して、耐マーカー性の評価を行った。耐マーカー性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表6に示した。
A:マーカーによる文字の乱れが生じない。
B:マーカーによる文字の乱れがわずかに生じる。
C:マーカーによる文字の乱れが著しく生じる。
【0106】
(2)吐出安定性
実施例21〜32、並びに、比較例9及び10のそれぞれのシアンインクと、前記で説明した改造したインクジェット記録装置とを用いて、PPC用紙(キヤノン製)に横罫線を連続して記録した。その後、得られた画像について、罫線の太さ、ドットの着弾位置を目視で観察して、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表6に示した。
A:線の太さに変化がなく、ヨレも全くない。
B:多少の太りがある。
C:線の細りがあり、ヨレも多少見られる。
【0107】
(3)保存安定性
実施例21〜32、並びに、比較例9及び10のそれぞれのシアンインクを、テフロン(登録商標)容器に入れ、密封した。これを、暗所60℃のオーブン中で1ヶ月保存した。保存前後の顔料の平均粒子径を比較して、保存安定性の評価を行った。保存安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表6に示した。
A:平均粒子径の変化が保存前後で±10%以内である。
B:平均粒子径の変化が保存前後で±10%を超えて±15%以内である。
C:平均粒子径の変化が保存前後で±15%を超える。
【0108】

【0109】
<実施例33>
次に、実施例21に用いたシアン顔料分散体を調製するのと全く同様にして、イエロー顔料分散体及びマゼンタ顔料分散体を調製した。
【0110】
(イエロー顔料分散体の調製)
顔料としてC.I.ピグメントイエロー13を用いたこと以外は、シアン顔料分散体を調製するのと全く同様にして顔料固形分10質量%、P/B比=3/1、平均粒子径130nmのイエロー顔料分散体を調製した。
【0111】
(マゼンタ顔料分散体の調製)
顔料としてC.I.ピグメントレッド122を用いたこと以外は、シアン顔料分散体を調製するのと全く同様にして、顔料固形分10質量%、P/B比=3/1、平均粒子径125nmのマゼンタ顔料分散体を調製した。
【0112】
次に、実施例21のシアン顔料分散体を、上記で得られたイエロー顔料分散体に代えたこと以外は全く同様にして、実施例33のイエローインクを調製した。また、実施例21のシアン顔料分散体を、上記で得られたマゼンタ顔料分散体に代えたこと以外は全く同様にして、実施例33のマゼンタインクを調製した。
【0113】
上記で得られたイエローインク及びマゼンタインクに加えて、実施例21のシアンインクを組み合わせて実施例33のインクセットとした。このインクセットを用いて、実施例21で用いたものと同じ改造したインクジェット記録装置を用い、オフセット記録用紙OK金藤(王子製紙製)に画像を記録した。具体的には、イエロー及びマゼンタの100%ベタ記録、並びに、イエロー100%ベタ記録及びマゼンタ100%ベタ記録で形成した2次色レッドの画像を記録した。このように形成した画像のイエロー、マゼンタ、及びレッドの部分について、実施例21と同様の方法及び評価基準で定着性の評価を行った。なお、それぞれ実施例33Y、33M、及び33Rとした。また、イエローインク及びマゼンタインクについて、実施例21と同様の方法及び評価基準で吐出安定性及び保存安定性の評価を行った。評価結果を表7に示した。
【0114】

【0115】
以上説明したように、本発明によれば、水性或いは非水性の形態のいずれにおいても活性エネルギー線による硬化性が良好であり、かつ色材を含有するインク形態とした場合でも、実用的な硬化性能が得られる。さらに、本発明によれば、形成した画像の、定着性及び耐マーカー性に優れ、その吐出安定性及び保存安定性にも優れるインクや液体組成物を提供することができる。なお、上記した実施例は、本発明の基本的構成を説明するために挙げたものであり、例えば、色材として染料を用いても、上記実施例と同様の性能のインクを提供することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の液体組成物で画像を形成する際に好適に利用できるインクジェット記録装置の正面の概略図である。
【符号の説明】
【0117】
1:本発明の活性エネルギー線硬化型インクを収容するインクカートリッジ部
2:インクカートリッジを搭載して記録を行う記録ヘッド部
3:硬化のための紫外線照射を行うランプ部
4:記録ヘッド部及びランプ部を駆動する駆動部
5:記録媒体を搬送する排紙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される化合物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型液体組成物。

(上記式(I)において、Aは、水素原子又は置換基を有していてもよい1価の有機残基を表し、R1及びR2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の有機基を表し、Eはアミド結合を表し、Rnはカルボニル基と該カルボニル基の炭素原子に隣接した不飽和炭素−炭素結合を有する環状連結基を表す。また、mは0以上の数を表し、nは2以上の数を表し、かつ、m+n=3である。またZは、下記式で表される2級又は3級アミノ結合構造を示す。該アミノ結合は、2級又は3級アミンの塩であってもよい。)

【請求項2】
前記一般式(I)で示される化合物が、下記一般式(I’)で表される化合物である請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物。

(上記式(I’)中の−R3−は、下記一般式(R3)で表され、該式(R3)中のpは、0から5の範囲内の数である。

上記式(I’)中のR4は、置換基を有していてもよい炭素数1から6のアルキレン基であり、また、Rn1は、少なくとも一方のカルボニル基の炭素原子に隣接した炭素原子が炭素−炭素二重結合を有する炭素数2乃至5で構成される2価の基を表す。上記式(I’)中のA2は、水素原子又は下記一般式(A2)を表し、該一般式(A2)中のpは、0から5の範囲内の数を表す。

上記式(I’)中の、mは0以上の数を、nは2以上の数を表し、かつ、m+n=3である。)
【請求項3】
前記式(I’)中のRn1が、下記構造式(II)、(III)及び(IV)のいずれかである請求項2に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物。

【請求項4】
一般式(I)で示される化合物の水溶性が、25℃・1気圧下の純水に対し1質量%以上完全溶解するものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型液体組成物を収容してなる液体収容部を具備することを特徴とする液体カートリッジ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266636(P2008−266636A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83878(P2008−83878)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】