説明

活性エネルギー線硬化性組成物および被覆物

【課題】分散安定性に優れ、活性エネルギー線の照射により導電性と透明性に優れ、短時間の乾燥にて優れた硬化被膜を提供することができ、さらに揮発性有機溶剤を含有しないため作業環境および地球環境保全上も優れるポリアニリン組成物の提供。
【解決手段】(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンの酸化重合により合成されたポリアニリンならびに(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中に10重量%以上含む光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物およびその被覆物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な導電性有機重合体の製造方法、組成物およびその被覆物に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンを酸化重合することにより合成したポリアニリンならびに(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中に10重量%以上含む光重合開始剤を含有させてなる活性エネルギー線硬化性組成物およびその被覆物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性高分子は電解コンデンサ、リチウム電池電極等に応用されている。一般的に導電性高分子は不溶、不融であるため、溶媒やバインダー樹脂中に溶解あるいは分散させることが困難であり、加工性を向上させることが実用化への課題となっていた。
【0003】
ポリアニリンのとり得る形態の一部として、絶縁性である非ドープ状態のエメラルジンベースおよび導電性であるドープ状態のエメラルジンソルトがあり、ドーピング剤の添加、脱離によりその性状を可逆的に変化させることができる。
【0004】
ポリアニリンは、他の導電性高分子とは異なり、ピリジン、ジメチルホルムアミドおよびN−メチルピロリドン等の一部の非プロトン性極性溶媒に溶解することが知られている。特に、絶縁性であるエメラルジンベース状態のポリアニリンはN−メチルピロリドンへの溶解性が高い。このことを利用してN−メチルピロリドン溶液から成形体に加工した後に、ドーピング剤を添加し導電性のポリアニリンを得る方法が特許文献1に開示されている。しかし、この方法によれば、エメラルジンベースからN−メチルピロリドンを揮発させ成形体を得る工程と、得られた成形体にドーピング剤を添加させる工程の2つの工程が必要であり、工程が煩雑であるとともに、N−メチルピロリドンという揮発性有機溶剤を含有するため労働衛生上および環境上の問題が生じている。
【0005】
一方で、導電性のエメラルジンソルト状態のポリアニリン粉末を活性エネルギー線硬化性樹脂に分散させた導電性組成物が特許文献2に開示されている。しかしながら、導電性のエメラルジンソルト状態のポリアニリンにおいては、ポリアニリンの環構造に由来する強い分子間相互作用により活性エネルギー線硬化性樹脂への分散性が十分ではなく、アクリル系樹脂を分散剤として併用しなければならない。さらに記載されている実施例は何れも揮発性有機溶剤を使用しており、上記と同様の問題が生じている。
【0006】
また、特許文献3には重合性二重結合を有するスルホン酸系ドーピング剤を用いた紫外線硬化性のポリアニリン組成物について開示されているが、記載されている実施例は何れも有機溶剤を併用するものであり、上記と同様の問題が生じている。
【0007】
さらに、特許文献4には重合性二重結合を有する化合物中で、アニオン性界面活性剤をドーピング剤として用いてポリアニリン組成物を合成することにより、重合性化合物中で凝集することなく良好な分散状態を得る方法が提案されている。しかしながら、塩酸、硫酸または硝酸という腐食性の酸を併用する必要があり、合成後の洗浄を十分にしなければならないという煩雑さに加え、洗浄中にドーピング剤も系から除去され、分散不安定となり凝集物が生じやすいという問題が生じている。
【0008】
特許文献5には、活性エネルギー線硬化性化合物とリン酸またはスルホン酸基含有化合物のうち1種類あるいは2種類以上の化合物、およびドーピング剤の存在下で、アニリンまたはアニリン誘導体を酸化重合させる方法が提示されている。この方法により得られる活性エネルギー線硬化性化合物に分散されたポリアニリンは塗工、硬化を行うことにより非常に透明度の高い良好な導電性を示す。また、揮発性有機溶剤や腐食性の強い酸を使用することなく製造可能である。しかしながら、この組成物は、特に紫外線硬化させる場合、選択する光重合開始剤の種類によって凝集を生じることで硬化塗膜に曇りやブツを発生させる。また、ポリアニリンの光吸収波長が300nm付近まで存在し、さらに多くの活性エネルギー線硬化性化合物が240nm以下に吸収波長をもつため、これらの波長に吸収をもつ開始剤では短時間の紫外線照射では十分な硬化性が得にくいことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−28229号公報
【特許文献2】特開平7−278399号公報
【特許文献3】特開平11−172103号公報
【特許文献4】特開2007−070555号公報
【特許文献5】特開2008−163062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記問題を解決するために、光重合開始剤の添加による塗膜の曇りやブツを発生させることなく、また短時間で十分な硬化性を有し、良好な導電性を有する活性エネルギー線硬化型ポリアニリン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために誠意研究した結果、(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンの酸化重合により合成されたポリアニリンならびに(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中に10重量%以上含む光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を、紫外線等の活性エネルギー線で硬化させることにより容易に導電性の優れた透明性の高い塗膜を提供することを見出し、更には(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤が、240nm〜280nmに最大吸収ピークを有することにより、短時間の紫外線等の活性エネルギー線照射で十分な硬化が得られる導電性塗膜を提供できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンを酸化重合することにより合成したポリアニリン
ならびに
(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中に10重量%以上含む光重合開始剤
を含有させてなることを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物に関するものである。
【0013】
また、本発明は、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤が、240nm〜280nmの間に最大吸収ピークを有することを特徴とする上記の活性エネルギー線硬化性組成物に関するものである。
【0014】
さらに、本発明は、上記記載の組成物を基材に塗工後、活性エネルギー線により硬化してなる被覆物に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係わる活性エネルギー線硬化性組成物は、分散安定性に優れ、活性エネルギー線の照射により、導電性、被膜耐性および透明性に優れた硬化被膜を提供することができる。また、揮発性有機溶剤を含有しないため作業環境および地球環境保全上も優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンの酸化重合により合成したポリアニリンならびに(d)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中に10重量%以上含む光重合開始剤を含有することを特徴とする、活性エネルギー線硬化性組成物およびその被覆物に関するものである。
【0017】
本発明において、活性エネルギー線とは、主として紫外線および電子線を示す。
【0018】
また、本発明における(a)活性エネルギー線硬化性化合物とは、特に限定されるものではなく、紫外線および電子線等の活性エネルギー線の照射により硬化する化合物であればよく、分子内に不飽和二重結合を有する化合物が挙げられる。
また、本発明においては、ポリアニリン合成時に、活性エネルギー線硬化性化合物の存在が必須であり、合成後に活性エネルギー線硬化性組成物を調製する際に、別途活性エネルギー線硬化性化合物を加えてもよい。
【0019】
活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、スチレン、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−メチルピロリドン、アクリロイルモルホリン等の単官能ビニル化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=2〜20)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(n=2〜20)、アルカン(炭素数4〜12)グリコールジ(メタ)アクリレート、アルカン(炭素数4〜12)グリコールエチレンオキサイド付加物(2〜20モル)ジ(メタ)アクリレート、アルカン(炭素数4〜12)グリコールプロピレンオキサイド付加物(2〜20モル)ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(2〜20モル)ジ(メタ)アクリレート等の2官能ビニル化合物、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロピレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(3〜30モル)トリ(メタ)アクリレート等の3官能ビニル化合物、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(4〜40モル)テトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(3〜30モル)テトラ(メタ)アクリレート等の4官能ビニル化合物、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(6〜60モル)ヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(6〜60モル)ヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能ビニル化合物およびそれらの混合物が挙げられる。
【0020】
(a)活性エネルギー線硬化性化合物は、要求される硬化被膜物性に応じて適宜選択することが可能であり、必要に応じて、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等の活性エネルギー線硬化性オリゴマーを併用することも可能である。
【0021】
しかしながら、ポリアニリンは、塩基性物質との接触により還元され脱プロトンすることで導電性を失う。このため、塩基性の強い活性エネルギー線硬化性化合物を使用することは良好な導電性を維持するためには好ましくない。
【0022】
塩基性の強い活性エネルギー線硬化性化合物には、アルキルアミノ(メタ)アクリレート、N−(アルキルアミノアルキル)(メタ)アクリルアミド、N,N−アルキル(メタ)アクリルアミド、アルキルイミド(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0023】
(b)リン酸水溶液は、本発明の目的に適う、すなわち(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液、および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下でアニリンを酸化重合することができる範囲の濃度をもつ水溶液であり、特に限定するものではないが、好ましくは1〜20規定の範囲の水溶液がよい。この範囲以外では、アニリンまたはアニリン組成物の酸化重合後、水を分離することが困難になり易く、好ましくない。
【0024】
(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤としては、アニリンの窒素原子をイオン化できるものであれば特に限定されるものではなく、スルホン酸基含有化合物の例としては、メタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0025】
(d)アニリンは、一般的に入手可能なアニリンであり、試薬、工業化品のいずれかに限定するものではない。
光重合開始剤は、
1)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全く含有しない場合
または
2)ヒドロキシ基を1分子中に2つ以上有する光重合開始剤を含有する場合
には凝集物が生成し、塗膜の透明性が損なわれる。
【0026】
(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中の少なくとも10重量%以上含む光重合開始剤は、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を10重量%〜100重量%までの比率で含有していれば、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤以外の開始剤については限定するものではなく一般に入手可能な光重合開始剤を使用することができる。
【0027】
具体的にはアセトフェノン系、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、チオキサントン系、カルバゾール・フェノン系、アクリジン系、トリアジン系、フェニルホスフィンオキサイド系等の光重合開始剤が挙げられる。
【0028】
しかしながら、ポリアニリンは、塩基性物質との接触により還元され脱プロトンすることで導電性を失うことがわかっている。このため、1分子の構造中にヒドロキシ基を1つだけ有する構造の有無にかかわらず、塩基性の強い光重合開始剤を使用することは良好な導電性を維持するためには好ましくない。更に好ましくは、短時間での活性エネルギー線硬化性を与えるために光の最大吸収ピークを240nm〜280nm付近にもつ光重合開始剤を使用するものである。ポリアニリンは300nm付近まで光の吸収があり、活性エネルギー線硬化性化合物の中には240nm以下に光の最大吸収波長を持つものが少なくない。このため、240nmから280nm付近の波長の光を硬化に利用できることで、活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物の硬化を短時間で行うことが可能になる。
【0029】
具体的な光重合開始剤としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェイルケトン、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−オキソ−2フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステルとオキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステルの混合物、2−ヒドロキシ−2メチル−1−フェニル−1−プロパノンおよび、これらの混合物、または、これら1分子の構造中にヒドロキシ基を1つだけ有する構造の光重合開始剤と1分子の構造中にヒドロキシ基を1つだけ有する構造以外の光重合開始剤との混合物である。
【0030】
本発明は上記(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンを酸化重合することにより合成したポリアニリンならびに(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中に少なくとも10重量%以上含む光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物である。
【0031】
(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンを酸化重合することににより合成するポリアニリンの各組成比は、(a)活性エネルギー線硬化性化合物100重量部に対してアニリン1〜10重量部、酸化重合させる際の化合物の総重量100重量部に対して(b)リン酸水溶液中のリン酸0.1〜10モル、アニリンまたはアニリン誘導体100重量部に対して、(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤30〜1000重量部の範囲が好ましい。この範囲以外では、得られるポリアニリン組成物の良好な分散安定性、および硬化被膜の良好な導電性が得られ難く好ましくない。
【0032】
酸化重合は従来公知の一般的な方法で行うことができる。反応温度は、−40℃〜80℃がよく、より好ましくは−5℃〜30℃の温度範囲で、酸化剤の存在下で行われる。酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過塩素酸カリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化鉄(II)などが挙げられ、特に過硫酸アンモニウムに代表される過硫酸類が好ましい。
【0033】
酸化重合で得られるポリアニリンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定のポリスチレン換算で、1,000〜500,000の範囲内にあることが好ましい。重量平均分子量が1,000未満では、ドーピング剤をドープした状態での導電性が低くなりやすく好ましくない。一方、重量平均分子量が500,000を超えると、ポリアニリン組成物の分散安定性が悪くなりやすく好ましくない。重量平均分子量は2,000〜200,000の範囲内がさらに好ましく、最も好ましくは5,000〜100,000の範囲内がよい。
【0034】
(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中の少なくとも10重量%以上含む光重合開始剤は、ポリアニリン合成時に存在した(a)活性エネルギー線硬化性化合物および活性エネルギー線硬化性組成物調製時に追加される(a)活性エネルギー線硬化性化合物の合計100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。
【0035】
本発明のポリアニリン組成物には、必要に応じて、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤等の化合物を任意に混合することが出来る。
【0036】
本発明において使用される基材としては、紙、布、ゴム、またはアクリル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等のプラスチック、更には金属等、塗布および乾燥、硬化が可能なものであればいずれでもよい。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、本発明において、「部」は、「重量部」を表し、「%」は「重量%」を表す。
【0038】
[合成例1]
撹拌器、温度計及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、3規定リン酸水溶液を100部、アニリン3部、ドデシルベンゼンスルホン酸6部、トリプロピレングリコールトリエトキシトリアクリレート100部を仕込み、室温で30分攪拌後、0℃に冷却し、さらに2時間攪拌した。過硫酸アンモニウム6gを3規定リン酸24gに溶解させた水溶液を滴下ロートから、系を0℃に保持しながら1時間で滴下した。さらに0℃で撹拌を24時間行った。反応終了後、反応溶液を静置した後、水層を分離除去し、ポリアニリン組成物(A1)を得た。
【0039】
[合成例2]
合成例1のトリプロピレングリコールトリエトキシトリアクリレートの50部をジトリメチロールプロパンテトラアクリレートに変更した以外は合成例1と同様の方法でポリアニリン組成物(A2)を得た。
【0040】
[合成例3]
合成例1のトリプロピレングリコールトリエトキシトリアクリレートの50部をジペンタエリスリトールヘキサ(ヘプタ)アクリレートに変更した以外は合成例1と同様の方法でポリアニリン組成物(A3)を得た。
【0041】
[合成例4]
撹拌器、温度計及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、1規定塩酸水溶液を300部、アニリン4部、ジオクチルスルホコハク酸4部、トルエン150部を仕込み、室温で30分攪拌後、0℃に冷却し、さらに2時間攪拌した。過硫酸アンモニウム6gを1規定塩酸50gに溶解させた水溶液を滴下ロートから、系を0℃に保持しながら1時間で滴下した。さらに0℃で撹拌を24時間行った。反応終了後、反応溶液を静置した後、水層を分離除去し、得られたポリアニリンのトルエン分散液をエバポレーターにて濃縮してポリアニリン濃度30重量%のポリアニリントルエン分散液(A4)を得た。
【0042】
[実施例1]
合成例1で得られたポリアニリン組成物(A1)100部に対して光重合開始剤IRGACURE754(チバスペシャリティーケミカル製、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する構造)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B1)を得た。
【0043】
[実施例2]
合成例1で得られたポリアニリン組成物(A1)100部に対して光重合開始剤IRGACURE184(チバスペシャリティーケミカル製、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する構造)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B2)を得た。
【0044】
[実施例3]
合成例2で得られたポリアニリン組成物(A2)100部に対して光重合開始剤ESACURE KL200(日本シイベルヘグナー社製、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する構造)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B3)を得た。
【0045】
[実施例4]
合成例2で得られたポリアニリン組成物(A2)100部に対して光重合開始剤IRGACURE 1870(チバスペシャリティーケミカル製、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する構造)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B4)を得た。
【0046】
[実施例5]
合成例3で得られたポリアニリン組成物(A3)100部に対して光重合開始剤IRGACURE 754(チバスペシャリティーケミカル製、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する構造)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B5)を得た。
【0047】
[比較例1]
合成例1で得られたポリアニリン組成物(A1)100部に対して構造中にヒドロキシ基を含有しない光重合開始剤IRGACURE907(チバスペシャリティーケミカル製)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B6)を得た。
【0048】
[比較例2]
合成例2で得られたポリアニリン組成物(A2)100部に対して光重合開始剤IRGACURE127(チバスペシャリティーケミカル製、ヒドロキシ基を1分子中に2つ有する構造)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B7)を得た。
【0049】
[比較例3]
合成例2で得られたポリアニリン組成物(A2)100部に対して構造中に、ヒドロキシ基を含有せず最大吸収波長のピークが240nm未満である光重合開始剤IRGACURE819(チバスペシャリティーケミカル製)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B8)を得た。
【0050】
[比較例4]
合成例4で得られたポリアニリントルエン分散液(A4)10部とトリプロピレングリコールトリエトキシトリアクリレート100部及び、光重合開始剤IRGACURE754(チバスペシャリティーケミカル製、ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する構造)を5部添加した後攪拌を行って活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B9)を得た。
【0051】
(活性エネルギー線硬化性試験)
実施例1〜5、比較例1〜4で得られた活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B1〜B9)を用いてワイヤバーコータにより乾燥被膜厚が約3μmとなるようにPETフィルム(東洋紡績社製コスモシャインA4100)上に塗工し、紫外線硬化装置(アイグラフィックス社製)を用いて、Hgランプ160W/cm、コンベアスピード30m/minで紫外線を照射した。できた塗膜を指触し、タックの有無によって硬化性の確認を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
(表面抵抗率測定)
実施例1〜5、比較例1〜4で得られた活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B1〜B9)を用いてワイヤバーコータにより乾燥被膜厚が約3μmとなるようにPETフィルム(東洋紡績社製コスモシャインA4100)上に塗工し、紫外線硬化装置(アイグラフィックス社製)を用いて、Hgランプ160W/cm、コンベアスピード30m/minで紫外線を照射した。できた塗膜を用いて紫外線照射後の塗膜の表面抵抗率を測定した。評価結果を表1に示す。
【0053】
(塗工膜透明性の評価)
実施例1〜5、比較例1〜4で得られた活性エネルギー線硬化性ポリアニリン組成物(B1〜B9)を、用いてワイヤバーコータにより乾燥被膜厚が約3μmとなるようにPETフィルム(東洋紡績社製コスモシャインA4100)上に塗工し、紫外線硬化装置(アイグラフィックス社製)を用いて、Hgランプ160W/cm、コンベアスピード30m/minで紫外線を照射した。紫外線照射後の塗膜についてヘイズメーターHM−65W(村上色材研究所社製)を用いて透過率及びヘイズを測定し評価した。
また、同時に目視にて凝集物の有無を確認した。評価結果を表1に示す。

【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、実施例1〜5の本発明のポリアニリン組成物は、紫外線の照射により容易に硬化し、導電性に優れた透明性の高い塗膜を得ることができる。また、ヒドロキシ基を持たない構造の比較例1、ヒドロキシ基を2個含有する構造の比較例2に見られるような塗膜における凝集の発生や溶剤分散型のドープポリアニリンを活性エネルギー線硬化性化合物と混合した比較例4のようにくもりが出ることはない。更に、硬化についても比較例3に見られるように硬化性不良を起こすこともなかった。尚、比較例1における表面抵抗率の上昇は、この組成で使用している光重合開始剤が塩基性の強いものであったためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活性エネルギー線硬化性化合物、(b)リン酸水溶液および(c)スルホン酸基を含有する界面活性剤の存在下で、(d)アニリンを酸化重合することにより合成したポリアニリン
ならびに
(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤を全光重合開始剤中に10重量%以上含む光重合開始剤
を含有させてなることを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】
(e)ヒドロキシ基を1分子中に1つ有する光重合開始剤が、240nm〜280nmの間に最大吸収ピークを有することを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化性組成物を基材に塗工後、活性エネルギー線により硬化してなる被覆物。



【公開番号】特開2010−202846(P2010−202846A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53156(P2009−53156)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】