説明

活性エネルギー線硬化性組成物

【課題】 透明性に優れる硬化塗膜であって、指紋を簡単に除去することができ、傷付きにくく、有機溶剤にも侵されにくい硬化塗膜を形成し得る活性エネルギー線硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】
炭素数6以上であって、水酸基を1個有し、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有しないモノアルコール(a1)と、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有し、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)と、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)とから形成されてなる活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)と、前記活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)とは異なる活性エネルギー線硬化性化合物(B)と、を含有する活性エネルギー線硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋痕消去性に優れた活性エネルギー線硬化性組成物、および該組成物を用いた硬化塗膜を具備する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD(液晶表示装置)、PDP(プラズマディスプレイ)、タッチパネルなどの各種ディスプレイの表面には、傷付き防止のためのハードコート層を具備する各種プラスチックフィルムが使用されている。しかし、ハードコート層は、指紋痕が付着しやすく、付着した指紋痕が簡単に除去できなかった。そのため、ディスプレイの画像の視認性が著しく損なわれたり、ディスプレイの美観が損なわれたりするという問題があった。特にタッチパネル表面は、直に人が手で触れるものであるため、指紋痕が付着しにくく、付着した場合には除去しやすいことが強く望まれている。
【0003】
これらの問題を解決するため、たとえば、ハードコート層にシリコーン系化合物やフッ素系化合物を含有させ、ディスプレイ表面の表面エネルギーを下げて指紋痕や皮脂をはじき、付着しにくくすることによって防汚性を改善する技術が提案されている。この従来技術は、ゴミや化粧品などに対しては防汚効果が認められるが、指紋痕や皮脂の付着防止性が不足しており、むしろ付着した指紋痕や皮脂を目立たせてしまうという問題を有していた。さらに、指紋痕や皮脂汚れを除去するためディスプレイ表面を布やテッシュペーパーで擦ると、指紋痕や皮脂汚れが微小液滴となって光の乱反射を引き起こし、表面が白く濁って見えてしまうため、拭き取り前よりも拭き取り後の方が、よりいっそう汚れが目立ってしまうという問題もあった。
【0004】
そこで、ハードコート層に非イオン性界面活性剤を所定の割合で含有させることによって、指紋痕が付着しにくく、付着した指紋痕を拭き取りやすくする別の技術が提案されている(特許文献1参照)。
さらに、分子内にラジカル重合性官能基を有する界面活性剤を所定の割合で含有させることで、耐溶剤性を改良する技術も提案されている(特許文献2参照)。
一方、光ファイバ用被覆材の分野において、(A)炭素数14〜40のポリオール由来の炭素数の長い構造を含むポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)エチレン性不飽和化合物、および(C)光重合開始剤を含有する樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−114355号公報
【特許文献2】特開2005−186584号公報
【特許文献3】特開平10−95640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1記載の技術では、ハードコート層本来の機能である耐擦傷性(傷付きにくい性質)や耐溶剤性(有機溶剤によって硬化塗膜が侵されにくい性質)が不足していた。また、特許文献2記載の技術では、形成される塗膜の硬度が不足し耐擦傷性を満足させるものではなかった。
一方、特許文献3記載の技術は、高ヤング率で吸水率および水素発生量が低減する光ファイバ用被覆材に関するものであり、特許文献3記載の被覆材では耐擦傷性、耐溶剤性及び耐指紋性等、ハードコート層に求められる種々の要求を満足することはできない。特に耐指紋性について全く効果が認められなかった。おそらく、特許文献3記載のポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(A)は、ウレタン結合とウレタン結合の間に、ポリオール由来の炭素数の長い部分構造が位置するので、指紋痕との親和性が低く、このようなポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(A)を用いても耐指紋性が発現しないものと考察される。あるいは「ポリウレタン」である故に分子量が大きいので、硬化塗膜を形成する際、塗膜表面に配向しにくく、その結果耐指紋性が発現しなかったのではないか、とも考察される。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、透明性に優れる硬化塗膜であって、指紋を目立ちにくくさせると共に、指紋を簡単に除去することができ、傷付きにくく、有機溶剤にも侵されにくい硬化塗膜を形成できる活性エネルギー線硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、
炭素数6以上であって、水酸基を1個有し、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有しないモノアルコール(a1)と、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有し、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)と、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)とから形成されてなる活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)と、
前記活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)とは異なる活性エネルギー線硬化性化合物(B)と、
を含有する活性エネルギー線硬化性組成物に関し、
【0009】
イソシアネート化合物(a3)は、イソシアネート基を3個以上有するものであることが好ましく、
モノアルコール(a1)の炭素数は、12以上の高級モノアルコールであることが好ましく、
また、活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)は、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を2個以上有することが好ましく、
また、モノアルコール(a1)の水酸基の量よりも、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)の水酸基の量の方が多いことが好ましく、
また、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)は、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を2個以上有するものであることが好ましい。
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、D50粒子径が0.005〜30μmの微粒子をさらに含むことが好ましい。
【0010】
さらに、本発明は、ガラス、プラスチック、金属、木質部材および紙の中から選ばれる少なくとも1つの部材の少なくとも一部に、上記の本発明に係る活性エネルギー線硬化性組成物から形成される硬化塗膜が設けられてなる、硬化塗膜付き部材に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)(以下、単に「硬化性ウレタン組成物」とも記す。)は、炭素数6以上の炭化水素構造と、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基とを有する硬化性ウレタン化合物(A)を用いるものであるため、透明性に優れ、指紋が目立ちにくく、かつ、傷付きにくく、さらに有機溶剤にも侵されにくい硬化塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において用いられる活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)(以下、単に「硬化性ウレタン化合物」とも記す。)(A)について説明する。
この硬化性ウレタン化合物(A)は、炭素数6以上の炭化水素構造と、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基とを有する化合物であり、硬化塗膜に良好な指紋消去性を付与する硬化性成分、すなわち硬化性耐指紋性付与剤として機能する。なお、本明細書において、付着した指紋痕が目立たないこと、および、付着した指紋痕が拭き取りやすいことを、まとめて「耐指紋性」と略して記載する場合がある。
【0013】
この硬化性化合物(A)において、炭素数6以上の炭化水素構造は、主として耐指紋性を付与する構造部分であると考えられる。
開発当初は、指紋痕の付着防止を課題としていた。しかし、付着自体を防止することは事実上不可能に近い。そこで本発明者らは、硬化塗膜の屈折率を指紋痕の成分の屈折率に近似させることによって、付着した指紋痕を目立たなくすることはできないかと考えた。しかし、両者の屈折率を同等にしても、付着した指紋痕は周囲の硬化塗膜と一体化することなく、その存在がはっきりと視認できた。以上の知見を得て発明者らはさらに、付着した指紋痕の高さをできるだけ低くすることによって、周囲の硬化塗膜との境界線を目立たなくする手段を検討し、本発明の効果を実現するに至った。
炭素数6以上の炭化水素構造は、指紋痕や皮脂等との親和性に富むと考えられる。そこで、このような部分構造を備える硬化性ウレタン化合物(A)を含有する硬化性組成物から形成した硬化塗膜の表面に付着した指紋痕等は、硬化塗膜表面に濡れ広がりやすく、高さが低くなりやすいので、付着した指紋痕が目立たなくなる効果を奏すると考察される。そして、硬化塗膜の表面に付着した指紋痕等は、布や紙等で拭かれることにより、一部は布等に移行するが、その多くは硬化塗膜の表面により広くより薄く塗り広げられ、見た目のうえでは硬化塗膜と一体化すると思われる。その結果、見えにくくなる、目立たなくという効果を奏するものと考えられる。すなわち、本発明でいう、拭き取り性とは、見えにくくなる、目立たなくなるという意である。
【0014】
活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)におけるアクリロイル基もしくはメタクリロイル基は、活性エネルギー線硬化性を担う官能基であるとともに、活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)とは異なる活性エネルギー線硬化性化合物(B)との相溶性を付与する官能基でもある。したがって、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を活性エネルギー線硬化性官能基とすることにより、本発明の組成物によれば、硬化性に優れ、かつ、透明性に優れ、傷付きにくく、耐溶剤性に優れる硬化塗膜を形成することができる。
【0015】
このような硬化性ウレタン化合物(A)は、所定の構造または官能基を備えたものであり、透明性に優れ、指紋が目立ちにくく、かつ、傷付きにくく、さらに有機溶剤にも侵されにくい硬化塗膜を形成することができれば特に限定はされず、炭素数6以上のモノアルコール(a1)およびアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有し、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)とは異なる、水酸基を1個有する他の化合物を使用することもできる。
硬化性ウレタン化合物(A)は、後述するイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)のイソシアネート基と、後述する炭素数6以上のモノアルコール(a1)の水酸基および後述する水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)の水酸基を反応させることによって、モノアルコール(a1)由来の耐指紋性付与機能を担う炭素数6以上の炭化水素部分と、硬化性機能を担うアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を導入することができる。
【0016】
本発明ではモノアルコールを利用し、炭素数6以上の炭化水素部分を導入することによって、特許文献3記載の発明のようなジオールを利用する場合とは異なり、前記炭化水素部分をウレタン結合で挟み込むことなく、より自由度の高い状態にすることができる。その結果、硬化性ウレタン化合物(A)は指紋痕との親和性が高く、該硬化性ウレタン化合物(A)を含有する本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は顕著な耐指紋性を奏する。
ところで、耐指紋性の観点からは、硬化性ウレタン化合物(A)が炭素数6以上の炭化水素部分をできるだけ多く含むことが好ましい。しかし、反面、硬化性ウレタン化合物(A)中の炭素数6以上の炭化水素部分が多くなりすぎると、後述する活性エネルギー線硬化性化合物(B)との相溶性が低下し、均一な組成物が得られなくなったり、形成される硬化塗膜が白くなったりする可能性がある。そこで、硬化性ウレタン化合物(A)に占める長鎖炭化水素部分の部位の割合は、5〜50(重量%)であることが好ましく、10〜40(重量%)であることがより好ましく、特に好ましくは15〜35(重量%)である。
また、硬化性ウレタン化合物(A)の分子量が大きすぎる場合、硬化塗膜を形成する際に塗膜表面に配向しにくくなり、結果として耐指紋性が低下する可能性がある。そこで、硬化性ウレタン化合物(A)の重量平均分子量は、50000以下程度であることが好ましく、30000以下であることがより好ましく、さらに10000以下であることが好ましい。
【0017】
水酸基を1個有し、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有しないモノアルコール(a1)とは、炭素数6以上の炭化水素の1価のアルコールであり、後述するように鎖状のモノアルコールが好ましいので、モノアルコール(a1)を長鎖炭化水素モノアルコールということがある。
本発明においては、長鎖炭化水素モノアルコール(a1)は、炭素数6以上であることが重要であり、指紋等とのなじみ易さ、扱い易さ、および入手し易さの点から炭素数10〜60のものがより好ましく、炭素数12〜40のものがさらに好ましく、特に炭素数15〜30ものが好ましい。モノアルコールとしては、飽和、不飽和のいずれでもよく、直鎖状でもよいし、分岐していてもよい。また、脂肪族部分−芳香族部分−脂肪族部分−水酸基のように分子の一部に芳香環構造を有してもよいが、末端は非芳香族系であること、言い換えると鎖状脂肪族部分もしくは環状脂肪族部分を有していることが好ましい。
【0018】
炭素数6以上であって、水酸基を1個有し、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有しないモノアルコール(a1)としては、たとえば脂肪族モノアルコールを例示すると、1−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、イソノナノール、1−デカノール、1−ドデカノール、1−ミリスチルアルコール、セチルアルコール、1−ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルデカノール、2−オクチルドデカノール、2−ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、2−デシルテトラデカノール又はオレイルアルコールなどを挙げることができる。脂環式モノアルコールとしては、例えば、シクロヘキサノールなどを挙げることができる。また、コレステロールのような複数の環状構造を有する脂環式アルコールも挙げることができる。その中でも、2−デシルテトラデカノールを特に好適に使用することができる。
【0019】
前記のアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有し、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)としては、例えば、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を1つ、2つ、又は3つ以上を有する化合物を挙げることができ、前記硬化性化合物(a2)は硬化性モノアルコール(a2)ということもできる。
アクリロイル基もしくはメタクリロイル基の数が1つの硬化性モノアルコールとしては、(メタ)アクリル酸の炭素原子数1〜8のヒドロキシアルキルエステル、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、又は1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
アクリロイル基もしくはメタクリロイル基の数が2個の硬化性モノアルコールとしては、例えば、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、又はグリセリンジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
アクリロイル基もしくはメタクリロイル基の数が3個の硬化性モノアルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基の数が5個のモノアルコールとしては、例えば、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートを挙げることができる。
本発明の硬化性組成物から形成される硬化塗膜の耐傷付き性、耐溶剤性を向上させるためにも、硬化性モノアルコール(a2)としては、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基の数が2個以上の硬化性モノアルコールが好ましく、特にアクリロイル基もしくはメタクリロイル基の数が3個以上の硬化性モノアルコールを使用することが好ましい。なお、硬化性モノアルコール(a2)としては、アクリロイル基を有するものとメタクリロイル基を有するものを併用することもできるし、一分子中に両者を有するものを使用することもできる。
【0020】
硬化性ウレタン化合物(A)の形成に使用されるイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)としては、イソシアネート基を2個、3個、4個以上有するイソシアネート化合物等が挙げられる。より多くのアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を硬化性ウレタン化合物(A)に導入し易いという点でイソシアネート基を3個以上有するイソシアネート化合物が好ましい。つまり、後述するように3個以上のイソシアネート基のうち1つに長鎖炭化水素モノアルコール(a1)を、他の2つ以上のイソシアネート基に硬化性モノアルコール(a2)を反応させることによって、より多くのアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を硬化性ウレタン化合物(A)に導入することができる。
【0021】
ジイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知の種々のジイソシアネート類が挙げられる。
例えば、芳香族ジイソシアネートとしては、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が、
脂肪族ジイソシアネートとしては、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が、
脂環族ジイソシアネートとしては、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4、4’−ジイソシアネート、1,3ービス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0022】
イソシアネート基を3個有するイソシアネート化合物(a3)としては、例えば、
イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネート(例えば、住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュールZ4470)、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(例えば、住化バイエルウレタン株式会社製のスミジュールN3300、旭化成工業株式会社製デュラネートTPA−100、MFX−90X)、イソシアヌレート変性トルイレンジイソシアネート(例えば、住化バイエルウレタン株式会社製のスミジュールFL−2、FL−3、FL−4、HLBA)などのイソシアヌレート変性体、
ビウレット変性ヘキサメチレンジイソシアネート(例えば、住化バイエルウレタン株式会社製のスミジュールN75、N3200、N3290、旭化成工業株式会社製デュラネート24A−100、22A−75PX、21S−75E、18H−70B)などのビウレット変性体、
トリメチロールプロパンアダクトヘキサメチレンジイソシアネート(例えば、住化バイエルウレタン株式会社製のスミジュールHT、旭化成工業株式会社製デュラネートP−301−75E)、トリメチロールプロパンアダクトトルイレンジイソシアネート(例えば、住化バイエルウレタン株式会社製のスミジュールL75、L1375、L1365)などのグリコール類またはジアミン類との両末端イソシアネートアダクト体などが挙げられる。
【0023】
イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)由来のイソシアネート基に対して、長鎖炭化水素モノアルコール(a1)及び硬化性モノアルコール(a2)の水酸基の合計量がほぼ等量となるように反応させることによって硬化性ウレタン化合物(A)を得ることができる。
そして、長鎖炭化水素モノアルコール(a1)由来の水酸基の量よりも、硬化性モノアルコール(a2)由来の水酸基の量の方が多くなるように反応させることが好ましい。硬化性モノアルコール(a2)由来の水酸基の量の方が多くなるよう反応させることによって、より多くのアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を硬化性ウレタン化合物(A)に導入することができる。アクリロイル基もしくはメタクリロイル基は、硬化性を担うだけではなく、硬化性ウレタン化合物(A)と後述する活性エネルギー線硬化性化合物(B)との相溶性を向上する機能をも担う。そこで、より多くのアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を硬化性ウレタン化合物(A)に導入することによって、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化性を向上し、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物から形成される硬化塗膜の耐傷付き性、耐溶剤性及び透明性を向上することができる。
【0024】
具体的には、活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)は、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を2個以上有するものが好ましく、4個以上有するものがより好ましくは、6個以上有するものがさらに好ましく、10個以上有するものが特に好ましい。一方、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基が多くなり過ぎると、活性エネルギー線硬化性化合物(B)との相溶性が向上しすぎるため、硬化性ウレタン化合物(A)が塗膜表層に配向しにくくなり、結果として耐指紋性が低下する懸念があるため、活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)の有するアクリロイル基もしくはメタクリロイル基は、20個以下であることが好ましい。
【0025】
このような活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)は、例えば、以下のような方法で得ることができる。
(1) 長鎖炭化水素モノアルコール(a1)と、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)とを反応させ、長鎖炭化水素部分とイソシアネート基とを有するウレタン中間体を得、該ウレタン中間体中のイソシアネート基に対応する量の水酸基を有する硬化性モノアルコール(a2)を反応させる。あるいは、
(2) 硬化性モノアルコール(a2)と、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)とを反応させ、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基とイソシアネート基とを有するウレタン中間体を得、該ウレタン中間体中のイソシアネート基に対応する量の水酸基を有する長鎖炭化水素モノアルコール(a1)を反応させる。あるいは、
(3) 長鎖炭化水素モノアルコール(a1)と、硬化性モノアルコール(a2)と、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)とを一気に反応させる。
【0026】
本発明に係る硬化性組成物は、少なくとも1種以上の上記活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、これとは異なる活性エネルギー線硬化性化合物(B)(以下、単に「硬化性化合物(B)」とも記す。)とを含む。以下、硬化性化合物(B)について説明する。
硬化性化合物(B)としては、耐傷付き性、耐溶剤性に優れ、かつ強靭な硬化塗膜を形成し得るように、硬化に寄与するエチレン性不飽和二重結合を2個以上有する、いわゆる多官能の化合物を主として用いることが好ましく、補助的に単官能のものも用いることができる。エチレン性不飽和二重結合としては、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基が好ましい。硬化性化合物(B)は、以下に例示するような化合物の複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
硬化性化合物(B)のうち、多官能のものとして、具体的には、たとえば、
ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、(エトキシ化)ビスフェノールAジアクリレート、(プロポキシ化)ビスフェノールAジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、(ポリ)エチレングリコールジアクリレート、(エトキシ化)1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、(プロポキシ化)1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、(エトキシ化)ネオペンチルグリコールジアクリレート、(プロポキシ化)ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;
【0028】
ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルポリ(メタ)アクリレート、ポリアクリルポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキッドポリ(メタ)アクリレート、ポリエポキシポリ(メタ)アクリレート、ポリスピロアセタールポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンポリ(メタ)アクリレート、ポリチオールポリエンポリ(メタ)アクリレート、ポリシリコンポリ(メタ)アクリレート等の多官能のポリ(メタ)アクリレート化合物;
【0029】
多価アルコールと多塩基酸および(メタ)アクリル酸とから合成されるエステル化合物、たとえばトリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸=2/1/4(モル比)から合成されるエステル化合物等が挙げられる。
【0030】
硬化性化合物(B)のうち、強靱性、耐擦傷性の観点より、
多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物であって、分子内に4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能のアクリレート類、
6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、
4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリエポキシポリ(メタ)アクリレート等を好適に使用することができる。もちろん、さらに多くの(メタ)アクリロイル基を有するものを用いることもできる。
【0031】
6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタンポリ(メタ)アクリレートは、たとえば、ポリイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレート類とを反応させて得られるもの、ポリオールとポリイソシアネートとをイソシアネート基過剰の条件下に反応させてなるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを、水酸基を有する(メタ)アクリレート類と反応させて得られるものがある。あるいは、ポリオールとポリイソシアネートとを水酸基過剰の条件下に反応させてなる水酸基含有ウレタンプレポリマーを、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート類と反応させて得ることもできる。
【0032】
ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサントリオール、トリメリロールプロパン、ポリテトラメチレングリコール、アジピン酸とエチレングリコールとの縮重合物等が挙げられる。
【0033】
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート
、水素添加ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、ノルボルナンージイソシア
ネートメチル、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また前記ジイソシアネート化合物のトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体等も用いることができる。
【0034】
水酸基をもつ(メタ)アクリレート類としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート,2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
【0035】
イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート等が挙げられる。
【0036】
4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリエポキシポリ(メタ)アクリレートは、たとえばエポキシ樹脂のエポキシ基に(メタ)アクリル酸のカルボキシル基を反応させて(メタ)アクリロイル基を導入したものであり、ノボラック型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物等を挙げることができる。
【0037】
本発明に係る硬化性組成物は、上記硬化性化合物(B)100質量部に対して、上記硬化性化合物(A)を固形分で0.1〜15質量部の範囲で含むことが好ましく、0.5〜10質量部含むことがより好ましく、1.0〜7.0質量部含むことがさらに好ましい。0.1質量部未満では耐指紋性の効果が不足する恐れがあり、15質量部を超えると、硬化塗膜としての強靭性、耐傷付き性、耐溶剤性、密着性等の基本的な性能を損なう恐れがある。
【0038】
本発明に係る硬化性組成物は、必要に応じて微粒子をさらに含有することができる。微粒子の種類としては、無機微粒子または有機微粒子を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。たとえば無機微粒子としては、シリカが好ましく、有機微粒子としてはアクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン樹脂等が好ましい。
この微粒子は、屈折率、防弦性、反射防止性、低収縮・低カール性等、要求される機能に応じて、D50粒子径0.005〜30μmの粒径範囲から適宜選択することができる。
【0039】
D50粒子径0.1μm〜10μmの微粒子を用いると、硬化塗膜に防眩性(まぶしさを抑制する性質)も付与することができる。
D50粒子径0.005〜0.1μmの微粒子を用いると、硬化塗膜の屈折率を調整すると共に、硬化塗膜の硬化時の収縮を抑制したり、高温高湿度の環境下に硬化塗膜が置かれた場合の収縮を抑制したりできる。
なお、D50粒子径は、マイクロトラック超微粒子粒度分析計(型式:UPA−EX150、日機装社製)によって求めた、粒径分布曲線の体積分布累積量の50%に相当する粒子径である。
【0040】
微粒子を配合する場合は、硬化塗膜の硬度、屈折率を考慮し、収縮抑制効果をさらに考慮すると、上記硬化性化合物(A)と硬化性化合物(B)と微粒子との合計100質量%中に、0.1〜70質量%含まれることが好ましく、20〜60質量%がより好ましい。0.1質量%未満での場合は所望の性能を達成できない恐れがあり、70質量%を超えるとコート層の形成が困難になると共に硬度が低下する恐れがある。
【0041】
本発明に係る硬化性組成物は、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射することにより硬化するものである。紫外線照射により硬化させる場合には、硬化性組成物は光重合開始剤を含有する。
用いられる光重合開始剤としては、たとえば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等が挙げられる。具体的には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド、ミヒラーズケトン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられ、これらの光重合開始剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0042】
これらの光重合開始剤は、適切な架橋密度とハードコート性を確保する観点から、上記活性エネルギー線硬化性化合物(A)と活性エネルギー線硬化性化合物(B)と光重合開始剤との合計100質量%中に、0.1〜20質量%含まれることが好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0043】
本発明に係る硬化性組成物は、塗工の便宜に鑑み、溶剤を含むことができる。すなわち、溶剤は、硬化性組成物(塗液またはコーティング用組成物ともいう。)の粘度やレベリング性、または塗工時の乾燥性を調整するために用いられ、硬化性組成物の塗工方法等に応じて、必要であれば適量を配合すればよい。したがって、硬化性組成物の固形分は特に限定されないが、たとえば20質量%〜100質量%とすることができる。
溶剤の具体的としては、以下が例示できる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用することができる。
【0044】
エーテル系溶剤としては、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等が挙げられる。
【0045】
ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−オクタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン、1,2−ジアセトキシアセトン等が挙げられる。
【0046】
エステル系溶剤としては、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−プチロラクトン、2−メトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸エチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸イソブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等が挙げられる。
【0047】
アルコール系溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0048】
飽和炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。
芳香族系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
グリコール系溶剤としては、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等が挙げられる。
【0049】
上記硬化性組成物には、必要に応じてさらに、光増感剤、光安定剤、紫外線吸収剤、触媒、着色剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、重合促進剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤、表面改質剤、チキソトロピー剤等の1種以上を、本発明の効果を阻害しない範囲内で、適宜添加することができる。
【0050】
本発明に係る硬化性組成物を種々の部材に塗布し、有機溶剤を含む場合には乾燥した後、活性エネルギー線を照射することによって、硬化塗膜を形成できる。
硬化塗膜の厚みは、鉛筆硬度および耐摩耗性を確保し、また、部材との密着性の低下または硬化塗膜中のクラック発生を回避する観点から、4〜20μmであることが好ましく、4〜15μmであることがより好ましく、5〜10μmであることが更に好ましい。
【0051】
硬化塗膜を設けるための部材は、ガラス、プラスチック、金属、木質部材および紙からなる群から適宜選択することができる。さらに、複数の部材から構成される複合部材も選択することができる。これらの部材は、板、フィルム、紙のように平坦な形状のものでもよいし、立体的な形状のものでもよい。
プラスチック製のフィルムとしては、透明であるものが好ましい。
【0052】
プラスチックの素材としては、たとえば、ポリエステル系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、アクリル系ポリマー等の透明ポリマーが挙げられる。
ポリエステル系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。セルロース系ポリマーとしては、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられる。アクリル系ポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0053】
プラスチックの素材として、スチレン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、およびアミド系ポリマー等の透明ポリマーも挙げられる。
スチレン系ポリマーとしては、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等が挙げられる。オレフィン系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等が挙げられる。アミド系ポリマーとしては、ナイロンや芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0054】
さらに、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニルスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、およびエポキシ系ポリマー、ならびに前記ポリマーのブレンド物等の透明ポリマー等も挙げられる。特に複屈折率の少ないものが好適に用いられる。
【0055】
プラスチックフィルムを部材として使用する場合、硬化塗膜を形成する面に、アクリル系樹脂、共重合ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン−マレイン酸グラフトポリエステル樹脂およびアクリルグラフトポリエステル樹脂等の群から選ばれる樹脂層を設けた、いわゆる易接着タイプのフィルムも用いることができる。
【0056】
部材のうち、平坦な形状の部材の厚さは、適宜に決定しうるが、プラスチックフィルムの場合は、一般には強度や取り扱い等の作業性、薄層性等の点より10〜500μm程度であることが好ましい。特に20〜300μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。部材が立体的な形状の場合は、厚さは限定されない。
【0057】
木質部材としては、天然の木材からなる1枚板であってもよいし、複数の部材を積層してなるいわゆる合板であってもよい。また、硬化塗膜の形成に先立ち、メドメ層や着色もしくは意匠性付与のための塗膜や艶出しのための塗膜や艶消しのための塗膜等を設けておくこともできる。
木質部材のうち、平坦な形状の部材の厚さは、適宜に決定し得、1mmに満たない薄板でもよいし、数十mmの厚板でもよい。部材が立体的な形状の場合は、厚さは限定されない。
【0058】
硬化性組成物の塗布は、常法によって行えばよく、たとえば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法によって行えばよい。溶剤を含む場合には、硬化性組成物を塗布後、塗膜を50〜150℃程度で乾燥させるのが好ましい。
【0059】
塗布後の硬化性組成物の硬化は、上述したように、活性エネルギー線を照射することによって行うことができる。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線等が挙げられる。紫外線を用いる場合には、高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプなどの光源を用い、紫外線照射量は、たとえば100〜2000mJ/cm程度が好ましい。得られた硬化塗膜は、指紋痕消去性に優れている。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中、「部」、「%」はそれぞれ、「質量部」、「質量%」を意味する。またNCO当量および水酸基当量は分子中におけるNCO基または水酸基一個あたりの分子量を意味する。
【0061】
(合成例1)
<活性エネルギー線硬化性化合物の合成工程>
攪拌翼、温度計、還流冷却器、ガス導入管を備えたフラスコに、酢酸プロピル192部、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(NCO基:3個、NCO当量:193、商品名:「スミジュールN-3300」、住友バイエルウレタン社製)193部、N,N−ジメチルベンジルアミンを4部仕込み、温度90℃、窒素を吹き込みながら、2−デシルテトラデカノール(水酸基:1個、水酸基当量:355、商品名:「リソノール24SP」、高級アルコール工業社製)118部を滴下し、滴下終了後3時間反応させ、C1225(C1021)CHCH2の長鎖炭化水素部分を有するウレタン中間体を得た。
次に、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(水酸基当量:684、商品名:「アロニックスM403」東亞合成社製)456部と酢酸プロピル138部をよく混合した後、空気を吹き込みながら、前記ウレタン中間体に滴下し、滴下終了後5時間反応させ、イソシアネート基の消失を赤外線吸収スペクトルで確認した後、室温に冷却し、化合物(A−1)溶液(固形分50重量%)を得た。
なお、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアネート基と2−デシルテトラデカノール由来の水酸基とジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(2−デシルテトラデカノール由来):水酸基(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来)=3モル:1モル:2モルであり、合成例1の化合物(A−1)のアクリロイル基の平均個数は10個である。
【0062】
(合成例2)
合成例1において用いた2−デシルテトラデカノール118部の代わりに、炭素数8個の1−オクタノール(水酸基:1個、水酸基当量:129、商品名:「カルコール0898」、花王社製)を43部用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(A−2)を得た。
なお、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアネート基と1−オクタノール由来の水酸基とジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(1−オクタノール由来):水酸基(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来)=3モル:1モル:2モルであり、合成例2の化合物(A−2)のアクリロイル基の平均個数は10個である。
【0063】
(合成例3)
合成例1において用いた2−デシルテトラデカノール118部の代わりに、炭素数12個の1−ドデカノール(水酸基:1個、水酸基当量:186、商品名:「カルコール 2098」、花王社製、)を62部用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(A−3)を得た。
なお、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアネート基と1−ドデカノール由来の水酸基とジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(1−ドデカノール由来):水酸基(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来)=3モル:1モル:2モルであり、合成例3の化合物(A−3)のアクリロイル基の平均個数は10個である。
【0064】
(合成例4)
合成例1において用いた2−デシルテトラデカノール118部の代わりに、炭素数18個のイソステアリルアルコール(水酸基:1個、水酸基当量:271、商品名:「リソノール18SP」、高級アルコール工業社製)を90部用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(A−4)を得た。
なお、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアネート基とイソステアリルアルコール由来の水酸基とジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(イソステアリルアルアルコール由来):水酸基(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来)=3モル:1モル:2モルであり、合成例4の化合物(A−4)のアクリロイル基の平均個数は10個である。
【0065】
(合成例5)
合成例1において456部であったジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物をポリエチレングリコールモノアクリレート(水酸基:1個、水酸基当量:621、商品名:「ブレンマーAE−400」、日油社製)414部に変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(A−5)を得た。
なお、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアネート基と2−デシルテトラデカノール由来の水酸基とポリエチレングリコールモノアクリレート由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(2−デシルテトラデカノール由来):水酸基(ポリエチレングリコールモノアクリレート由来)=3モル:1モル:2モルであり、合成例5の化合物(A−5)のアクリロイル基の平均個数は2個である。
【0066】
(合成例6)
合成例1において用いたイソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート193部の代わりに、イソホロンジイソシアネート(NCO基:2個、NCO当量:111)を111部用い、さらに炭素数24個の2−デシルテトラデカノール118部を178部に、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物456部を342部に変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(A−6)を得た。
なお、イソホロンジイソシアネート由来のイソシアネート基と2−デシルテトラデカノール由来の水酸基とジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(2−デシルテトラデカノール由来):水酸基(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来)=2モル:1モル:1モルであり、合成例6の化合物(A−6)のアクリロイル基の平均個数は5個である。
【0067】
(合成例7)
合成例1において用いたイソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート193部の代わりに、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(NCO基:1個、商品名:「カレンズAOI」、昭和電工社製)48部用い、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物を用いなかった以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(X−1)を得た。
なお、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート由来のイソシアネート基とデシルテトラデカノール由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(デシルテトラデカノール由来):=1モル:1モルであり、合成例7の化合物(X−1)のアクリロイル基の平均個数は1個である。
【0068】
(合成例8)
合成例1において用いたイソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート193部の代わりに、イソホロンジイソシアネート(NCO基:2個、NCO当量:111)を111部用い、さらに2−デシルテトラデカノール118部の代わりに水酸基を有する炭素数9の部分と水酸基を有する炭素数11の部分とを具備する炭素数36個のジオール(水酸基:2個、水酸基当量:271、「商品名:SVERMOL908」、コグニスジャパン社製)180部に、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物456部を228部に変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(X−2)を得た。
なお、イソホロンジイソシアネート由来のイソシアネート基とジオール由来の水酸基とジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(ジオール由来):水酸基(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート由来)=8モル:6モル:2モルであり、合成例8の化合物(X−2)のアクリロイル基の平均個数は10個である。
【0069】
(合成例9)
合成例1において456部であったジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(商品名:「アロニックスM403」東亞合成社製)をポリエチレングリコールモノメチルエーテル(水酸基:1個、水酸基当量:400、商品名:「ユニオックスM−400」、日油社製)267部に変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物(X−3)を得た。
なお、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアネート基と2−デシルテトラデカノール由来の水酸基とポリエチレングリコールモノメチルエーテル由来の水酸基のモル比は、イソシアネート基:水酸基(2−デシルテトラデカノール由来):水酸基(ポリエチレングリコールモノメチルエーテル由来)=3モル:1モル:2モルであり、合成例9の化合物(X−3)のアクリロイル基の平均個数は0個である。
【0070】
(実施例1)
化合物(B)としてのペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:「アロニックスM450」東亜合成社製)100部に対し、合成例1で合成した化合物(A−1)を固形分で5部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ製)5部、プロピレングリコールメチルエーテル110部を混合し、硬化性組成物(コーティング用組成物または塗液ともいう。)を得た。
この組成物を、厚さ約100μmの表面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:「コスモシャインA4100」東洋紡社製)の易接着処理面にバーコーターを用いて塗布し、熱風オーブンで溶剤を除去した後、出力80w/cmの高圧水銀ランプで紫外線を照射し、塗膜を重合硬化させ、乾燥膜厚約6μmのコート層を有する硬化塗膜付き基材を得た。
【0071】
(実施例2〜6)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、合成例2〜8で合成した化合物(A−2)〜(A−6)に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0072】
(実施例9)
実施例1のコーティング用樹脂組成物に、さらに微粒子としてD50粒子径の4μmのシリカ(商品名:「Nipsil SS50−B」東ソーシリカ社製)を4部加えて塗液を調製した以外は、実施例1と同様にして、硬化塗膜付き基材を得た。
【0073】
(比較例1)
合成例1で合成した化合物(A−1)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0074】
(比較例2)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、2−デシルテトラデカノール(水酸基:1個、商品名:「リソノール24SP」、高級アルコール工業社製)を5部用いた以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得ようとしたが、塗膜表面が硬化せず、各種物性評価にいたらなかった。
【0075】
(比較例3)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、合成例7で合成した化合物(X−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0076】
(比較例4)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、合成例8で合成した化合物(X−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0077】
(比較例5)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、合成例9で合成した化合物(X−3)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0078】
(比較例6)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、ジメチルシロキサン骨格を含有するレベリング剤(商品名:「BYK−UV3500」ビックケミー・ジャパン社製)5部を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0079】
(比較例7)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(水酸基:3個、エチレンオキサイドの単位数30個、商品名:「EMALEX HC−30」、日本エマルジョン社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0080】
(比較例8)
合成例1で合成した化合物(A−1)の代わりに、ビニル基を1個含有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(商品名:「アクアロンRN−10」第一工業製薬社製)5部に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜付き基材を得た。
【0081】
実施例1〜9および比較例1〜8(比較例2を除く)の硬化塗膜付き基材について、以下の物性評価を行い、結果を表1および表2にまとめた。
【0082】
(鉛筆硬度)
硬化塗膜付き基材の硬化塗膜面に対して、クレメンス型引掻き硬度試験機(型式:HA−301テスター産業社製)を用いてJISK5400に準拠し、荷重750gにて測定した。
【0083】
(耐擦傷性)
#0000のスチールウールを装着した1平方センチメートルの角形パッドを硬化塗膜付き基材の硬化塗膜面上に置き、荷重500gで10回往復させた後、外観を目視で評価し、傷の本数を測定した。
【0084】
(指紋拭き取り性)
溶剤処理前面評価として、試験者の頬に人差し指を1秒間押し当てた後に、その人差し指を各実施例及び比較例の硬化塗膜付き基材の硬化塗膜面の上に2秒間押し付けた。その後、別の指で10回軽くこすり、目視観察によって拭き取り性(未処理面)を以下の基準で評価した。なお、評価Aおよび評価Bは実用上支障の無い性能を有している。
A:拭き取り跡が残らない。
B:拭き取り跡がわずかに残る。
C:拭き取り跡が残る。
また、溶剤処理後評価として、イソプロパノールで湿らせた脱脂綿をコート層付き基材のコート層面の上に置き、50回往復させた後、未処理面評価と同様に評価を行った。
【0085】
(耐溶剤性)
硬化塗膜付き基材の硬化塗膜面を、イソプロパノールで湿らせた脱脂綿で50往復擦った後、肉眼で塗膜外観を評価した。
【0086】
(ヘイズ値・全光線透過率)
Haze Meter(型式:NDH2000、日本電色社製)を用いて硬化塗膜付き基材のヘイズ値(Hz)および全光線透過率(T.t.)を測定した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
表1の結果より、実施例1〜8の硬化性組成物を用いた硬化塗膜付き基材は、指紋拭き取り性・耐擦傷性・鉛筆硬度・耐溶剤性等がバランス良く優れていることが判明した。したがって、これらの硬化と膜付き基材は、ディスプレイ、タッチパネル、建材等のハードコート性と透明性および防汚性が必要とされる用途に好適に用いることができる。
さらに、微粒子を含有する硬化性組成物を用いた実施例9の硬化塗膜付き基材は、全光線透過率をさほど低下させることなく、5%と比較的大きなヘイズ値を得ることができた。よって、このような硬化塗膜付き基材は、硬化塗膜側から入射した光を硬化塗膜表面で乱反射させることによって、直接目に入る反射光を和らげ、まぶしさを低減する効果をも奏する。
【0090】
これに対し、表2に示されるように、硬化性化合物(A)を含有しない比較例1では、硬化塗膜のハードコート性は良好であるが、指紋拭き取り性は全く発現しなかった。
イソシアネート基およびアクリロイル基を1個ずつ有する化合物に高級アルコールを反応させた化合物(X−1)を含有する比較例3は、塗膜全体が白く濁っていた。また、耐擦傷性試験における傷付きも多く、ハードコート性が不足していた。
【0091】
モノオールではなくジオールを用いてなるポリウレタン構造の化合物(X−2)を含有する比較例4は、塗膜の透明性およびハードコート性は良好であるが、指紋拭き取り性が不足していた。
【0092】
比較例5は、比較例1に比して指紋拭き取り性は良好であったが、用いたウレタン化合物(X−3)が、活性エネルギー線硬化機能を担うアクリロイル基を有さないため、硬化塗膜の耐溶剤性が不十分であり、溶剤で硬化塗膜を拭いた後は指紋拭き取り性が低下してしまうとともに、耐擦傷性試験における傷付きも多く、ハードコート性が不足していた。
【0093】
比較例6は、複数の(メタ)アクリロイル基とジメチルシロキサン骨格を有するが、脂肪酸エステル構造を有していない化合物を含有した例である。比較例4では、硬化塗膜の指紋拭き取り試験をすると、拭き取り跡が白濁して見え、拭き取り前よりもむしろ目だってしまった。
【0094】
脂肪酸エステルを含有する比較例7では、比較例1に比して指紋拭き取り性は良好であったが、用いた脂肪酸エステルが、活性エネルギー線硬化機能を担う官能基を全く有しないものであるため、硬化塗膜の耐溶剤性が不十分であり、溶剤で硬化塗膜を拭いた後は指紋拭き取り性が低下してしまうとともに、耐擦傷性試験における傷付きも多く、ハードコート性が不足していた。
【0095】
比較例8は、(メタ)アクリロイル基ではなく、ビニル基および脂肪酸エステル構造を有する化合物を用いた例であり、活性エネルギー線硬化機能を担う官能基を有するので、硬化性官能基を全く有しない比較例5よりは、硬化塗膜の耐溶剤性は良好であり、溶剤処理後の指紋拭き取り性能を維持していた。しかし、ビニル基は、(メタ)アクリロイル基に比して反応性が劣るうえ、1分子の中の官能基の数も少ないので、活性エネルギー線硬化機能を担う官能基として(メタ)アクリロイル基を有する実施例よりは、指紋拭き取り性が劣り、耐擦傷性試験における傷付きもあり、ハードコート性が不足していた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る活性エネルギー線硬化性組成物は、タッチパネルのディスプレイ用表面部材に耐指紋性を付与するために好適に使用できるだけでなく、種々のプラスチック成型品、カメラの最表面部のレンズ、眼鏡のレンズ、建築物や車両などの窓ガラス、種々の印刷物、及び建装材や家具等の木質部材製品それぞれの表面に同様の機能を付与するためにも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6以上であって、水酸基を1個有し、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有しないモノアルコール(a1)と、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有し、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)と、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(a3)とから形成されてなる活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)と、
前記活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)とは異なる活性エネルギー線硬化性化合物(B)と、
を含有する活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】
モノアルコール(a1)の炭素数が12以上の高級モノアルコールである、請求項1記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
イソシアネート化合物(a3)がイソシアネート基を3個以上有するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項4】
活性エネルギー線硬化性ウレタン化合物(A)が、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を2個以上有するものである、請求項1〜3のいずれか記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項5】
モノアルコール(a1)の水酸基の量よりも、水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)の水酸基の量の方が多い、請求項1〜4のいずれか記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項6】
水酸基を1個有する活性エネルギー線硬化性化合物(a2)が、アクリロイル基もしくはメタクリロイル基を2個以上有するものである、請求項1〜5いずれか記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項7】
D50粒子径が0.005〜30μmの微粒子をさらに含む、請求項1〜6のいずれか記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項8】
耐指紋性硬化塗膜形成用である、請求項1〜7のいずれか記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項9】
ガラス、プラスチック、金属、木質部材および紙の中から選ばれる少なくとも1つの部材の少なくとも一部に、請求項1〜8のいずれか記載の活性エネルギー線硬化性組成物から形成される硬化塗膜が設けられてなる、硬化塗膜付き部材。

【公開番号】特開2011−12115(P2011−12115A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155551(P2009−155551)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】