説明

活性化されたミクロプラスミンの産生方法

【課題】ミクロプラスミノゲンおよびミニプラスミノゲンなどの哺乳動物プラスミノゲン誘導体の酵母における発現用ベクターを提供する。
【解決手段】メチロトローフ性酵母の発現システムにおけるこれらのタンパク質の発現方法、ならびに組換えタンパク質の活性化および安定化が開示される。本発明のタンパク質は、限局性の脳虚血性梗塞および他の血栓性疾患の処置において使用される。前記哺乳動物ヌクレオチド配列がプラスミノゲン、ミニプラスミノゲンまたはミクロプラスミノゲンをコードする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血栓性障害の処置および防止に関する。より詳細には、本発明は、哺乳動物プラスミノゲンの誘導体の組換えDNA技術による高収率での製造、その精製および安定化、そして限局性の脳虚血性梗塞(虚血性発作)または動脈の血栓性疾患(末梢動脈閉塞性疾患または急性心筋梗塞など)を処置するための対応する活性化および安定化されたプラスミン誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
哺乳動物の血液には、生殖、胚発生、細胞浸入、血管形成および脳機能などの様々な生物学的現象において役割を果たす、フィブリン溶解系またはプラスミノゲン系と呼ばれる酵素系が含有される。さらに、この系は、血栓症、アテローム性動脈硬化、腫瘍形成、転移および慢性的炎症性障害に関係する。フィブリン溶解系はプラスミノゲンを含有し、プラスミノゲンは、プラスミノゲン活性化因子の作用によって活性な酵素のプラスミンに変換され、次いでフィブリンを可溶性の分解産物に消化する。2つの生理学的なプラスミノゲン活性化因子が同定されており、それぞれ組織型(t−PA)およびウロキナーゼ型(u−PA)と呼ばれている。フィブリン溶解系の阻害が、特異的なプラスミノゲン活性化因子阻害剤(PAI)によってプラスミノゲン活性化因子のレベルにおいて、または主にα2−抗プラスミンによってプラスミンのレベルにおいてそのいずれかで生じ得る。
【0003】
多数の物質が凝塊の形成および溶解に関与している。プラスミノゲンおよびプラスミンは、溶解に関与する主要な物質のうちの2つである。プラスミノゲンは、約200μg/mlの濃度で血漿中に循環する791アミノ酸から構成されるタンパク質で、フィブリン溶解性酵素のチモーゲン形態であり、プラスミンは、広い基質特異性を有し、最終的には血液凝塊物の分解を担う。ほとんどの部分について、フィブリンのタンパク質分解は、フィブリン凝塊内に捕捉されたプラスミノゲンからプラスミンがフィブリン凝塊内で生じることによって媒介される。プラスミノゲンプラスミンの変換は、凝塊内およびその表面の両方において、フィブリンに対するt−PAの親和性によって促進され、その結果、フィブリン依存的なt−PA誘導によるプラスミノゲン活性化をもたらす。
【0004】
プラスミノゲンは、分子量が92,000である単鎖の糖タンパク質であり、肝臓によって合成され、約2.2日の半減期で(肝臓を介して)循環から除かれる。ヒトプラスミノゲンは、(i)約67個〜76個のアミノ酸からなる前活性化ペプチド、(ii)約80個のアミノ酸からなる、三重ループがジスルフィド結合する5つの構造部(これは「クリングル」と呼ばれる)、(iii)約230個のアミノ酸からなる触媒作用のセリンプロテイナーゼユニット、および(iv)いくつかのドメイン間連結配列を含む。NH2末端がグルタミン酸である天然型プラスミノゲン(これは一般には「Glu−プラスミノゲン」と呼ばれる)は、Arg68−Met69、Lys77−Lys78またはLys78−Val79のペプチド結合がプラスミンにより限定的に分解されることによって、「Lys−プラスミノゲン」と一般には称される修飾型形態に容易に変換される。プラスミノゲンは、Arg561−Val562のペプチド結合が切断されることによってプラスミンに変換される。プラスミン分子は2つの鎖のトリプシン様セリンプロテイナーゼであり、活性部位がHis603、Asp646およびSer741から構成される。プラスミノゲンのクリングルは、リシン、6−アミノヘキサン酸およびトラネキサム酸などのアミノ酸と特異的に相互作用するリシン結合部位を含有する。クリングル1〜3の領域に存在するリシン結合部位は、フィブリンに対するプラスミノゲンの特異的な結合、およびプラスミンとα2−抗プラスミンとの相互作用の速度論を媒介し、従って、生理学的なフィブリン溶解の調節における重
要な役割を果たしている。
【0005】
ミニプラスミノゲンは、最初の4つのクリングルを有しないプラスミノゲン誘導体であり、これは、プラスミノゲンをエラスターゼで消化することによって調製することができ、そしてプラスミンに完全に活性化され得る。ミニプラスミノゲンは、38,000の分子量を有し、5番目のクリングル構造を含むA鎖の100アミノ酸以上を含有する。
【0006】
高pH条件では、米国特許第4,774,087号に開示されるように、プラスミノゲンのArg530−Lys531またはLys531−Leu532の結合が切断され、ジスルフィド結合の再配置が促進され、その結果、新しいジスルフィド結合によってプラスミンの完全なB鎖に結合した、A鎖に由来する30残基または31残基のCOOH末端ペプチドから構成される誘導体であるミクロプラスミノゲンが生じる。
【0007】
α2−抗プラスミンは、プラスミンを非常に迅速に阻害するヒト血漿中の主要な生理学的プラスミン阻害剤であり、これに対して、過剰なα2−抗プラスミンのもとで形成されるプラスミンは、マクログロブリンおよび他のセリンプロテイナーゼ阻害剤によってよりゆっくり中和され得る。α2−抗プラスミンは、約70mg/mlの濃度で血漿中に存在する、464アミノ酸を含有する単鎖の糖タンパク質である。精製時に、α2−抗プラスミンは、通常、12個のアミノ末端アミノ酸が除かれることによって452アミノ酸の誘導体に変換される。α2−抗プラスミンは肝臓によって合成され、2.6日の半減期で(肝臓を介して)循環から除かれる。その反応性部位はArg376−Met377ペプチド結合である。α2−抗プラスミンは、プラスミノゲンおよびプラスミンのリシン結合部位と反応する二次的な結合部位を含有する51アミノ酸残基のCOOH末端伸長部を有することによってセリンプロテイナーゼ阻害剤の中で他と異なる。α2−抗プラスミンの天然のプラスミノゲン結合性形態は、循環血液中において一部が、26個のCOOH末端残基を有しない反応性があまりないプラスミノゲン非結合性の形態に変換される。α2−抗プラスミンのGln14残基は、Ca2+を必要とし、かつ活性化された凝固因子XIIIにより触媒されるプロセスによってフィブリンのα鎖に架橋し得る。α2−抗プラスミンは、プラスミンとの不活性な1:1の化学量論的複合体を形成する。
【0008】
プラスミンまたはその誘導体(ミニプラスミノゲンおよびミクロプラスミノゲンを含む)は、よどんだ流れの閉塞した血管において局所的にα2−抗プラスミンを除去するために十分に大きい用量で凝塊の近傍に注入されたとき、局所的な治療効果を発揮することができる十分に長い半減期を有し得る。多量のプラスミンの投与は、いくつかの他のタンパク質分解酵素の使用とは異なり、十分に許容される。
【0009】
多くの成人が血栓塞栓性疾患(すなわち、血液凝塊による血管の遮断)に罹っており、これは死亡原因になり得る。ほとんどの自然発症的な血管閉塞は、血栓として知られている血管内の血液凝塊が形成されるためである。凝塊(塞栓)の小さい断片が凝塊の本体から剥離し、循環系を通って遠位の器官のところに移動して、さらなる凝塊形成を開始することがある。心臓発作、卒中、腎臓および肺の梗塞は、血栓塞栓性現象のよく知られている結果である。血液凝塊は、循環している血液細胞、血小板および血漿タンパク質が捕捉された、タンパク質分子のゲル化した網目構造体である。フィブリンは、比較的不溶性の網目構造体を形成する凝塊の主要なタンパク質成分である。フィブリンマトリックスの分解は凝塊の溶解を生じさせるので、タンパク質分解酵素(特に、フィブリン溶解系酵素)が、血管閉塞部を溶解するために使用されている。凝塊は、血液中に高濃度で存在する可溶性のフィブリノーゲンがトロンビンの作用によって不溶性のフィブリンに変換されたときに形成される。凝塊形成の可能性は、フィブリノーゲン分解酵素を使用して循環フィブリノーゲンの濃度を低下させることによって減少させることができる。血栓塞栓溶解療法には、例えば、直接的な静脈内注射によって、もしくはプラスミノゲン活性化因子がエク
スビボで添加された患者血漿の再注射によって、そのいずれかでプラスミノゲン活性化因子を投与すること、またはストレプトキナーゼと前もって混合された血漿タンパク質画分を注射すること、または添加されたリシンで安定化されたブタプラスミンをストレプトキナーゼと一緒に注射することを伴う。
【0010】
卒中は、少なくとも24時間続く症状を有する脳機能の限局的または全体的な障害の急激に現れる臨床的徴候として定義される。卒中は、典型的には、脳への血管または脳内の血管の遮断または閉塞によって生じる。完全な閉塞の場合、脳循環の停止により、ニューロンの電気的活性の停止が数秒以内に生じる。悪化後数分以内に、高エネルギーリン酸塩の枯渇、膜イオンポンプの機能停止、細胞カリウムの流出、塩化ナトリウムおよび水の流入、そして膜の脱分極が生じる。閉塞が5分〜10分を越えて持続する場合、不可逆的な損傷がもたらされる。しかし、不完全な虚血の場合、その結果は、評価することが困難であり、主として残っている灌流および酸素利用性に依存する。脳血管が血栓により閉塞した後では、虚血が全体的になることは希である。通常、いくらかの残っている灌流が、併存する血流および局所的な灌流圧に依存して虚血領域において持続している。
【0011】
脳血流は、90mmHgから60mmHgへの平均動脈血圧の低下を自己調節によって補償することができる。この現象には下流の抵抗性血管の拡張を伴う。60mmHg未満では、血管拡張は不十分であり、脳血流が低下する。しかし、脳は、脳血流の低下を補償し得る灌流予備を有する。遠位の血圧が約30mmHg未満に低下したとき、両方の補償機構(自己調節および灌流予備)は、酸素送達の機能不全を防止するには不十分である。流量が虚血閾値未満に低下するに従って、組織の低酸素症の症状が現れる。重度の虚血は致命的になることがある。中程度の虚血は、周縁部と呼ばれる、助けることができる組織領域をもたらす。神経学的には、周縁部は、中程度の虚血および麻痺したニューロン機能を伴う脳組織域を示し、これは、十分な灌流の回復によって元に戻り得る。周縁部は、梗塞を発症した重度な虚血の中心部を取り囲む併存的に灌流される組織域を形成する。凝塊が分解され、周縁部への血流が回復されると、再灌流傷害の現象が生じ得る。
【0012】
虚血性事象は血管系のどこでも生じ得るが、頸動脈分岐点および内頸動脈起点が、脳虚血を生じさせる脳血管の血栓性閉塞の最も起こりやすい部位である。狭窄症または血栓形成による低下した血流の症状は、中大脳動脈疾患によって生じる症状に類似する。眼動脈を通る流れは、多くの場合、一過性の単眼失明を生じさせるには十分なほどの影響を受ける。重篤な両側性内頸動脈狭窄症は脳半球の低灌流を生じさせることがある。これは、急性的な虚血性半球と同じ側の急性の頭痛とともに現れる。前交通動脈に対して遠位の一方の前大脳動脈の生じた虚血を伴う閉塞または血流の低下は、運動症状および皮質感覚症状を反対側の脚にもたらし、そしてあまり多くではないが、近位の腕にもたらす。前大脳動脈の閉塞または過小灌流の他の症状発現には、矢状面に平行な前頭葉に対する損傷による尿失禁が含まれる。低下した自発性の言葉によって現れる言語障害が精神運動活動の全身にわたる機能低下に付随し得る。
【0013】
ほとんどの虚血性卒中は中大脳動脈の領域の一部またはすべてに影響を与え、心臓または頭蓋外頸動脈からの塞栓により、ほとんどの事例が説明される。塞栓は中大脳動脈の主幹を閉塞させることがあるが、より頻繁には、上支脈または下支脈のいずれかの遠位の閉塞を生じさせる。上支脈の閉塞は、顔面および腕において最も大きい衰弱および感覚喪失を生じさせる。その進入する支脈に対して遠位の後大脳動脈の閉塞は、反対側の完全な視覚喪失を生じさせる。読書が困難なこと(読書障害)および計算ができないこと(計算力障害)が、優位な後大脳動脈の虚血の後に生じることがある。後大脳動脈の近位の閉塞は、葦状構造部および辺縁部構造部に進入する支脈の虚血を生じさせ、その結果、欠陥部位の難治性痛み(視床痛)に慢性的に変化し得る障害をもたらす。
【0014】
脳虚血における重要な事象が、継続期間が24時間未満である神経学的障害として定義される一過性脳虚血発作(「TIA」)として知られている。TIAは、脳梗塞に至るかもしれない虚血発症の重要な徴候である。その病因には、様々な血行力学的事象および血栓塞栓性機構が関与する。TIAは1時間以内に消散することが多いので、より長期の障害は、発生予定の発作として分類されることが多く、そのため、永続的な脳傷害に関連する。従って、コンピューター断層撮影法による脳スキャンが、2時間以上続くTIAによって冒された領域における脳梗塞を探すために使用される。従って、TIAと卒中との関連する臨床的識別は、虚血が、典型的には梗塞または虚血性壊死として分類される脳損傷を生じさせているかどうかである。悪化する臨床的徴候を有する患者は発展中の卒中(進行性卒中)を有することがある。
【0015】
多くの他の疾患が虚血によって引き起こされるか、または虚血に関連する。例えば、椎骨脳底虚血が椎骨動脈の閉塞から生じ、これは、めまい、悪心、同側性運動失調およびヘルナー症候群を含む症状を有する後下小脳動脈症候群を生じさせる。椎骨脳底虚血は、多くの場合、相当の長さに沿って脳幹の両側に散らばる多病巣性の障害を生じさせる。脳底動脈の閉塞は、四肢およびほとんどの延髄筋の麻痺を含む広範囲の障害をもたらし、患者は、眼または瞼を動かすことによって会話することができるだけになり、そして性的興奮の最初の低下、その後に失明および健忘症が生じる。
【0016】
静脈の閉塞は広範囲の損傷および死をもたらし得る。その場合、脳損傷の主要な機構は、遮断された静脈から生じる増大した流出抵抗のために毛細血管の血流が低下することである。毛細血管床内への大きい圧力の逆伝搬により、通常、初期の脳膨大が、皮質下の白質における浮腫および出血性梗塞から生じる。静脈疾患の最も危険な形態が、上矢状静脈洞が閉塞したときに生じる。静脈の閉塞は、紫斑期または散在性ガン患者では多くの場合、凝固障害に関連して生じる。
【0017】
短い広汎性脳虚血は、何らかの永続的な続発症を伴うことなく失神を生じさせ得る。他の器官における持続した広汎性虚血は破壊的な結果を有する。一般的な原因は、梗塞、大動脈解離および全体的な低酸素症または一酸化炭素中毒を含む心肺不全である。臨床的には、広汎性低酸素症/虚血は意識消失および昏睡をもたらし、その後、長期間の植物状態をもたらすことが多い。患者が数日以内に意識を回復しない場合、独立した脳機能の復帰の可能性が非常に悪くなる。
【0018】
高粘稠血症症候群は、血流および虚血に関連した別の疾患である。高粘稠血症症候群の患者は限局的な神経学的機能不全を呈し得るか、あるいは頭痛、視覚障害、鬱血性障害または発作を含む広汎性または多病巣性の徴候または症状を呈し得る。
【0019】
大脳動脈の血栓性閉塞による虚血発作は、抗血栓剤および血栓溶解剤による治療が容易に行われる。症状が生じた3時間以内にt−PAを使用することは、より良好な神経学的結果を伴うが、処置された患者の大きい割合が脳内の急性出血を経験する。従って、より安全で、より効果的な処置を開発することが求められている。
【0020】
US−A−5,288,489号には、ヒト患者における血管内の血栓を溶解するか、または(糖尿病および妊婦などの)患者における血栓形成の危険性を低下させる方法で、フィブリン溶解活性な形態またはフィブリノーゲン溶解活性な形態でヒトまたは哺乳動物のプラスミンまたはミニプラスミンまたはミクロプラスミンの治療効果的な量を患者に非経口的に投与することを含む方法が開示される。この場合、活性な形態は、不溶化、捕捉化、カプセル化または固定化されたプラスミノゲン活性化因子にさらすか、あるいはある種の疎水性イオンにより自己溶解活性を阻害するかのいずれかによって得られている。この方法は、心臓発作、卒中、腎臓および肺の梗塞、血栓性静脈炎などに関連して開示され
ている。EP−A631,786には、虚血、梗塞、脳浮腫、および虚血事象後の再灌流傷害を処置するために、lys−プラスミノゲンの作用を有するタンパク質を患者に投与することが開示される。WO00/18436には、限局性脳虚血梗塞(虚血性卒中)を処置するための治療組成物におけるプラスミンまたはミニプラスミンまたはミクロプラスミンの使用が開示される。
【0021】
60歳を越える年齢の人々において、アテローム性動脈硬化プロセスおよび血栓形成プロセスの結果である間欠性跛行または慢性末梢動脈閉塞疾患(PAOD)の罹患率が1%〜8%の間である。それらの疾患の途中で、間欠性跛行患者の約20%が、下肢の能力を危うくする重症な脚虚血(急性PAOD)に進行し、10%が進行性症状に対する侵襲的/外科的手法を受け、5%が脚の切断を必要とする。血流は、有効なバイパス手術、血管修復手術、または血液凝塊の薬理学的溶解によって回復させることができる。動脈内の血栓溶解は、切断または死の危険性を増大させることなく外科的手法を著しく減少させることが期待される。ウロキナーゼは、現在、最も広く使用されている動脈内血栓溶解剤である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
プラスミノゲンをリシン−セファロースでのアフィニティークロマトグラフィーによってヒト血漿画分から得ることができるが、収量は高々0.25g/lである。一般には不本意ながら血漿分画物誘導体が使用されているので、組換えDNA技術による製造などの代わりの方法が好ましい。しかし、プラスミノゲンまたはプラスミンなどの大きく複雑な分子を製造する場合、効果的な発現ベクターシステムが必要である。実際、組換えによる完全なプラスミノゲンは、一般的な真核生物発現システムでは活性化可能な形態で容易に発現させることができない。これは、細胞内プラスミノゲン活性化因子がそのような細胞タイプ内にほぼ至るところに存在し、その結果、調整された細胞培養培地においてヒトプラスミノゲンが分解されるからである。J.Wang他、Protein Science(1995)4:1758〜1767によれば、バキュロウイルス/昆虫細胞の発現システムにより、ミクロプラスミノゲンの発現を3mg/l〜12mg/lの低レベルで可能になっている。そのような収量は、精製された活性な物質を大量に製造するためには明らかに低すぎる。本発明者らは、ミニプラスミノゲンの発現に関するデータは何ら承知していない。従って、虚血障害、血栓性障害、および本明細書中上記に示されるような関連する疾患を処置することにおいて有用であるプラスミノゲンおよびその誘導体(ミニプラスミノゲンおよびミクロプラスミノゲンを含む)を大量に製造することを可能にする発現システムがこの分野では求められている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
(発明の要約)
本発明は、組換え哺乳動物プラスミノゲンおよびその誘導体(ミニプラスミノゲンおよびミクロプラスミノゲン(これらに限定されない)を含む)を高収率で製造するためのある種の酵母(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris))の使用、そして哺乳動物(具体的にはヒトおよびウマ)の処置のために臨床的に適用可能である十分な量、純度および安定性での組換え哺乳動物プラスミンおよびその誘導体の製造に関する。本発明の製造方法に従って得られる組換えヒトミクロプラスミンの治療効力が、虚血発作の動物モデル、急性心筋梗塞および体外動静脈循環血栓形成モデルにおいて例示された。
【0024】
(定義)
本明細書中で使用される用語「プラスミノゲンの触媒作用ドメイン」は、プラスミノゲン活性化因子による活性化後、フィブリンを可溶性の分解産物に消化する約230アミノ
酸のセリンプロテアーゼユニットを示す。
【0025】
本明細書中で使用される用語「変異体」は、1つ以上のアミノ酸が置換、欠失または変異し、そして野生型タンパク質との類似性レベルが少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは90%)である触媒活性なタンパク質配列を示す。
【0026】
本明細書中で使用される用語「ハイブリッド」は、1つ以上のアミノ酸からなる少なくとも1つの配列が、別の哺乳動物の対応するタンパク質に由来する配列(好ましくは、対応する配列)によって置換されている哺乳動物のタンパク質を示す。プラスミノゲンに関しては、配列置換は触媒作用ドメイン内でか、または5つのクリングルドメインのいずれかにおいて起こり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(詳細な説明)
本発明の第1の目的は、プロモータに操作可能に連結された哺乳動物ヌクレオチド配列を含む酵母発現ベクターである。この場合、前記哺乳動物ヌクレオチド配列はプラスミノゲンの触媒作用ドメインをコードし、かつて必要に応じて、プラスミノゲンの1つ以上のクリングルドメインまたはその変異体もしくはハイブリッドをさらにコードする。前記酵母発現ベクターの好ましい実施形態において、哺乳動物ヌクレオチド配列は、プラスミノゲン、ミクロプラスミノゲンおよびミニプラスミノゲンをそれぞれコードする。より具体的な実施形態において、ヌクレオチド配列は、配列番号1(プラスミノゲン)、配列番号3(ミクロプラスミノゲン)または配列番号5(ミニプラスミノゲン)などのヒトヌクレオチド配列である。好ましい実施形態において、プロモーターは誘導性プロモーターである。別の好ましい実施形態において、酵母発現ベクターは、酵母のゲノムに、例えば、相同的組換えによって安定に組み込まれ得る。好ましい実施形態において、ヌクレオチド配列は、分泌シグナルに、すなわち、シグナルペプチドが切断され、タンパク質が培地に放出される細胞膜にタンパク質を標的化するペプチド(例えば、α因子、PHOまたはAGA−2)に融合される。
【0028】
好ましくは、本発明の酵母発現ベクターは、ハンセヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属およびトルロプシス(Torulopsis)属によって代表されるメチロトローフ性酵母からなる群から選択される酵母における発現のためのものである。
【0029】
本発明の第2の目的は、プラスミノゲンの触媒作用ドメインをコードし、かつ必要に応じてプラスミノゲンの1つ以上のクリングルドメインまたはその変異体もしくはハイブリッドをさらにコードする哺乳動物ヌクレオチド配列を含む酵母細胞である。前記酵母細胞の好ましい実施形態において、哺乳動物ヌクレオチド配列は、プラスミノゲン、ミクロプラスミノゲンおよびミニプラスミノゲンをそれぞれコードする。すなわち、酵母細胞は配列番号1のヌクレオチド配列または配列番号3のヌクレオチド配列または配列番号5のヌクレオチド配列を含む。
【0030】
本発明はまた、本明細書中上記に開示されるようなベクターでトランスフェクションされた酵母細胞に関する。好ましくは、前記ベクターはゲノムに組み込まれる。
【0031】
本発明の酵母細胞は、好ましくはメチロトローフ性酵母の群に属する。より具体的には、前記酵母は、ハンセヌラ属、ピキア属、カンジダ属およびトルロプシス属からなる属から選択することができる。別の実施形態において、本発明の酵母細胞はピキア・パストリス(Pichia pastoris)種に属する。
【0032】
例示的な酵母細胞は、Belgian Coordinated Collections of Micro−organismsにアクセション番号MUCL43676で寄託された細胞株に属する。本発明の酵母細胞の非常に重要な利点は、酵母細胞が、少なくとも約100mg/リットルのレベルで、すなわち、この分野で知られていたよりもはるかに高いレベルで、ヒトミクロプラスミノゲンを発現することができるということである。別の利点は、酵母細胞が少なくとも約3mg/リットルのレベルでヒトミニプラスミノゲンを発現することができるということである。
【0033】
本発明の別の目的は、プラスミノゲンの触媒作用ドメインを含み、かつ必要に応じてプラスミノゲンの1つ以上のクリングルドメインまたはその変異体もしくはハイブリッドをさらに含む哺乳動物タンパク質を、添付された実施例に詳しく記載されるこの分野で十分に知られている組換え技術法を使用して、本明細書中上記に定義されるような酵母細胞において発現させる方法である。前記方法の具体的な実施形態は、配列番号2のアミノ酸配列(ヒトプラスミノゲン)または配列番号4のアミノ酸配列(ヒトミクロプラスミノゲン)または配列番号6のアミノ酸配列(ヒトミニプラスミノゲン)をそれぞれ有する哺乳動物タンパク質に関する。好ましい実施形態において、この方法はさらに、スタフィロキナーゼまたはその変化体であり得るプラスミノゲン活性化因子によって、発現した哺乳動物タンパク質を活性化する工程を含む。別の好ましい実施形態において、この方法はさらに、発現および活性化した哺乳動物タンパク質を安定化剤によって安定化する工程を含む。前記安定化剤は、リシン、6−アミノヘキサン酸およびトラネキサム酸からなる群から選択されるアミノ酸、または安定化媒体のいずれかを含むことができる。後者が、好適には、酸性溶液または酸性緩衝液(約3.1のpHを有するクエン酸緩衝液など)であり得る。発現、活性化および安定化した哺乳動物タンパク質を、例えば、凍結乾燥によって乾燥する工程をさらに含む方法がさらに好ましい。
【0034】
本発明はまた、本明細書中上記に記載されるような方法によって得られるか、または本明細書中上記に記載されるような酵母細胞において発現される組換え哺乳動物タンパク質に関する。このタンパク質は、多量かつ高純度なレベルで得ることができ、従って、上記の節「発明の背景」に列挙される様々な虚血性疾患を処置する薬学的組成物における有効成分として使用されるための必要な要件を満たす。
【0035】
本発明は、下記の実施例においてより詳細に明らかにされる。しかし、下記の実施例は、本発明の範囲を限定することを意図しておらず、本発明の範囲は、添付された請求項によってのみ規定される。
【0036】
実施例1−ピキア・パストリスにおいてヒトミクロプラスミノゲンおよびヒトミニプラスミノゲンを発現させるためのベクター構築
Invitrogen Corporation(Carlsbad、California)から購入したpPICZαA分泌ベクターを使用して、ピキア・パストリスにおける組換えヒトミクロプラスミノゲンの発現および分泌を行わせた。このベクターの関連する特徴は下記の通りである:
・ピキア属におけるメタノール誘導可能な高レベルの発現およびAOX1染色体座への標的化されたプラスミド組み込みを可能にする、アルコールオキシダーゼ(AOX1)プロモーターを含有する942bpのフラグメント、
・AOX1遺伝子に由来する天然の転写終結シグナルおよびポリアデニル化シグナル;
・ゼオシン耐性を大腸菌およびピキア・パストリスに付与する発現カセット;
・大腸菌におけるプラスミドの増殖および維持に必要なColE1複製起点、そして
・ピキアゲノム内への効率的な組み込みのためのAOX1座におけるベクターの線状化を可能にする単一制限部位(SacI、PmeI、BstXI)。
【0037】
上記の特徴に加えて、このベクターは、培地への分泌タンパク質としての異種タンパク質の発現を可能にする、サッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces serevisiae)α因子プレプロペプチドの分泌シグナルを含有する。pPICZαにおけるα因子接合シグナル配列のプロセシングが下記の2段階で生じる:
1.KEX2遺伝子産物によるシグナル配列の予備的な切断、この場合、KEX2切断が配列Glu−Lys−Arg*Glu−Ala−Glu−Ala(式中、*は切断部位である)におけるアルギニンとグルタミンとの間で生じる。
2.Glu−Ala反復がSTE13遺伝子産物によってさらに切断される。
しかし、Glu−Ala反復は、Glu−Lys−Arg配列に続くアミノ酸に依存するので、Kex2による切断には必ずしも常に必要ではない。Ste13の切断が効率的でない場合、Glu−Ala反復が、目的とする発現タンパク質のNH2末端に残る。
【0038】
XhoI認識配列が、α因子分泌シグナルのCOOH末端においてLys−ArgのKex2切断部位のすぐ上流に存在する。このXhoI制限部位は、XhoI部位からアルギニンコドンに配列を改造するためにPCRクローニング法および適切なフォワードプライマーを使用することによってKex2切断部位と接する目的遺伝子をクローン化するために使用することができる。その場合、目的とする組換えタンパク質が、天然のNH2末端を伴って発現する。pPICZαAベクターにおけるα因子シグナル配列のすぐ下流は操作されて、外来遺伝子のクローニングを容易にする酵素(EcoRI、SfiI、KpnI、XhoI、SacIIおよびXbaI)に対する認識配列を有するマルチクローニング部位がある。
【0039】
ミクロプラスミノゲンに対する発現ベクターの構築
Lasters他(Eur.J.Biochem.(1997)244:946)によって開示されるベクターFmyc−μPliが、ヒトミクロプラスミノゲンタンパク質をコードする領域を、Clontech(Palo Alto、California)から入手可能なアドバンテージcDNAポリメラーゼミックスを用いた増幅(「PCRレスキュー」)によって単離するために使用された。94℃で3分間のDNAテンプレートの変性段階の後、30回の温度サイクル(94℃で30秒間、50℃で30秒間、72℃で30秒間)を行い、その後、2分間の最後の伸長段階が72℃で行われた。下記のオリゴヌクレオチドプライマーのLY−MPG1(センス)およびLY−MPG2(アンチセンス)がこの反応では使用された。
LY−MPLG1:5’GGGGTATCTCTCGAGAAAAGAGCCCCTTCATTTGATTG(配列番号7)
LY−MPLG2:5’GTTTTTGTTCTAGATTAATTATTTCTCATCACTCCCTC(配列番号8)。
【0040】
LY−MPLG1プライマーは、α因子接合シグナルの最後の4残基(Leu−Glu−Lys Arg)を含む非アニーリング伸長部が前に位置する、プラスミノゲンの残基543〜548(Ala−Pro−Ser−Phe−Asp−Cys)に対応するアニーリング領域を有した。この伸長部において、Leu−Gluのコドンにより、Kex2切断部位と接する目的遺伝子のクローニングを可能にするXhoI制限部位(下線部)が決定される。LY−MPG2プライマーは、プラスミノゲンの最後の7残基に対応するアニーリング領域を有し、その後に、TAA停止コドンと、XbaI認識配列を含む非アニーリング領域とを有した。
【0041】
予想されるサイズ(約780bp)を有する増幅フラグメントをXhoIおよびXbaIで消化し、ベクターpPICZαAに一方向的にクローン化した。受容ベクターのフラグメントをXhoIおよびXbaIでの制限によって調製し、そしてQiaquickゲル抽出キット(Qiagen GmbH、ドイツ)を使用してアガロースゲルから精製し
た。大腸菌株TG1(DSMZコレクション#1208、ドイツ)を連結混合物で形質転換し、ゼオシン耐性クローンを選択した。制限分析に基づいて、予想サイズのインサートを含有するプラスミドクローンをさらなる特徴づけのために保持した。ベクターpPICZα−MPLG1(クローン#5)の配列決定により、α因子接合シグナルに融合したミクロプラスミノゲンコード領域の正確な挿入、そして同様に望ましくない変異がコード領域に存在しないことが確認された。5’AOXおよび3’AOXのプライマーは、Invitrogen(Carlsbad、California)から得られるEasySelectピキア発現キットにおいて提供された。
【0042】
使用されたヒトミクロプラスミノゲンの決定されたヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列は、それぞれ、配列番号3および配列番号4に表される。Forsgren他(FEBS Lett.(1987)213:254)によって以前に決定された配列と比較した場合、ヌクレオチド配列は10カ所で異なる。しかし、アミノ酸配列は同一であった。
【0043】
ミニプラスミノゲンに対する発現ベクターの構築
pPICZα由来の分泌ベクターを、上記に記載されたpPICZα−MPLG1ベクターを使用して、ミニプラスミノゲン発現のために下記のように構築した。
【0044】
Lasters他(上記参照)によって開示されるベクターFdTet−SN−miniPlgが、ミニプラスミノゲンタンパク質の第5クリングルおよび触媒作用ドメインの一部をコードする500bpのDNAフラグメントを増幅(「PCRレスキュー」)することによって単離するために使用された。94℃で3分間のDNAテンプレートの変性段階の後、30回の温度サイクル(94℃で10秒間、50℃で10秒間、72℃で15秒間)を行い、その後、2分間の最後の伸長段階が72℃で行われた。下記のオリゴヌクレオチドプライマーのLY−MINPLG1(センス)およびLY−MINPLG2(アンチセンス)がこの反応では使用された:
LY−MINPLG1:5’GGGGTATCTCTCGAGAAAAGAGCACCTCCGCCTGTTGTCCTGCTTCC(配列番号9)
LY−MINPLG2:5’GCAGTGGGCTGCAGTCAACACCCACTC(配列番号10)。
【0045】
LY−MINPLG1プライマーは、因子接合シグナルの最後の4残基(Leu−Glu−Lys−Arg)を含む非アニーリング伸長部が前に位置する、プラスミノゲンの残基444〜452(Ala−Pro−Pro−Val−Val−Leu−Leu−Pro)に対応するアニーリング領域を有する。この伸長部において、Leu−Gluのコドンにより、Kex2切断部位と接する目的遺伝子のクローニングを可能にするXhoI制限部位が決定される。
【0046】
LY−MINPLG2プライマーは、プラスミノゲンの残基596〜604(Glu−Trp−Val−Leu−Thr−Ala−Ala−His−Cys)に対応するアニーリング領域を有する。触媒作用ドメインのこのアニーリング領域は、ミクロプラスミノゲン発現ベクターにも存在し、唯一のPstI認識配列(下線部)を含む。
【0047】
予想されるサイズを有する増幅フラグメントをXhoIおよびPstIで消化し、上記のベクターpPICZαA−MPLG1(ミクロプラスミノゲン発現ベクター)に一方向的にクローン化した。受容ベクターのフラグメントをXhoIおよびPstIでの制限によって調製し、そしてQiaquickゲル抽出キット(Qiagen GmbH、ドイツ)を使用してアガロースゲルから精製した。大腸菌株TG1(DSMZコレクション#1208、ドイツ)を連結混合物で形質転換し、ゼオシン耐性クローンを選択した。制限
分析に基づいて、予想サイズのインサートを含有するプラスミドクローンをさらなる特徴づけのために保持した。ベクターpPICZα−KMPLG1(クローン#3)の配列決定により、α因子接合シグナルに融合した増幅フラグメントの正確な挿入、そして同様に望ましくない変異がコード領域に存在しないことが確認された(LY−MINPLG1およびLY−MINPLG2のプライマーが使用された)。
【0048】
実施例2−組換えヒトミクロプラスミノゲンの高レベル発現および精製:ミクロプラスミンの定量的活性化および安定化
10μgのpPICZα−MPLG1を、5’AOX1領域内でベクターを線状化するPmeIで消化した。DNAを沈殿により約0.33μg/μlに濃縮し、そして5μlを使用して、EasySelectピキア発現キットに提供されるマニュアルに従って調製されたコンピテントなピキア・パストリスX33細胞を形質転換した。
【0049】
高発現株の選択を下記のように行った。ゼオシン耐性の形質転換体をYPDSZ平板(1%酵母抽出物、2%ペプトン、2%グルコース、1Mソルビトール、2%寒天、100μg/mlゼオシン)で選択した。34個の単一コロニーを、10mlのBMYZ−グリセロール培地(1%酵母抽出物、2%ペプトン、1%グリセロール、100mMリン酸カリウム、pH6.0、1.34%酵母窒素塩基、4x10-5%ビオチン、100μg/mlゼオシン)を含む50mlのFalconチューブに接種して、30℃で16時間培養した。細胞をペレット化し、そしてAOX1プロモーターからの発現を誘導するために2mlのBMYZ−メタノール培地(グリセロールの代わりに0.5%メタノールを含むことを除いて、BMYZ−グリセロールと同じ)に再懸濁して、40時間培養した。0.5%メタノールの4回の添加を培養物に対してこの期間中に定期的に行った。誘導培養が終了したとき、培養上清におけるミクロプラスミノゲンの存在を、Lijnen他(Eur.J.Biochem.(1981)120:149)によって記載されるように推定した。簡単に記載すると、そのままの上清または10倍希釈された上清におけるミクロプラスミノゲンをウロキナーゼととも30分間インキュベーションして、ミクロプラスミノゲンをミクロプラスミンに活性化した。発色性基質S2403(Chromogenix(Antwerp、ベルギー)から入手可能)を用いて測定されるそのアミド分解活性により決定される生じたミクロプラスミン活性を、既知量の精製プラスミン調製物またはミクロプラスミン調製物の活性と比較した。ウロキナーゼ活性化後に最大のミクロプラスミン活性を示すクローンX33−MPLG1#5をその後の大規模製造のために選択した。
【0050】
50リットル規模でのX33−MPLG1#5の発酵を下記のように4段階で行った。2lフラスコでの細胞培養を、0.7mlの細胞バンクの接種物(グリセロールOOC17)および270rpmの撹拌を使用して、400mlのYSG+(6g/lの酵母抽出物、5g/lのダイズペプトン、20g/lのグリセロール)において30℃で23時間行い、(前培養段階の終了時に)15のOD600を得た。次いで、発酵を、MRP80発酵装置で、30lの基礎培地(26.7ml/lの85%H3PO4;1.05g/lのCaSO4・2H2O;18.2g/lのK2SO4;14.9g/lのMgSO4・7H2O;4.13g/lのKOH;40g/lの100%グリセロール;4.76ml/lのPTM1塩溶液[6g/lのCuSO4・5H2O、0.08g/lのNaI、3.36g/lのMnSO4・H2O、0.2g/lのNaMoO4・2H2O、0.02g/lのホウ酸、0.82g/lのCoCl2・6H2O、20g/lのZnCl2、65g/lのFeSO4・7H2O、0.2g/lのd−ビオチンおよび5ml/lのHSSO4を含有する])において、600mlの接種を使用し、30℃で、大気圧で50l/分の空気流量、20%未満の溶存酸素(DO)、および200rpm〜500rpmの撹拌を用い、そしてpHを12.5%アンモニアにより5.8で維持しながら行った。24時間、そしてOD600が50になったとき(回分段階の終了)、グリセロールの枯渇が、溶存酸素の急激な上昇によって明らかになった。グリセロールの供給(632g/l
の100%グリセロールおよび12ml/lのPTM1)により、OD600が24時間後に258に増大した。その後、メタノールの供給を、6時間以内に250ml/hまで流量を増大させて行い、そして988ml/lのメタノールおよび12ml/lのPTM1を使用して66時間にわたって維持して、培養終了時にはOD600が352に達した。350リットル規模でのX33−MPLG1#5の発酵は、比例して同様な結果をもたらした。
【0051】
その後、収穫物を、カチオン交換のエキスパンド床クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィーおよびアフィニティークロマトグラフィーを含む3段階のプロセスで下記のように精製した:
a)カチオン交換のエキスパンド床クロマトグラフィー
カチオン交換のエキスパンド床吸着クロマトグラフィーを、5,120cm3の床容量を有するストリームライン200カラム(Pharmacia Biotechnology、カタログ番号18−1100−22)に充填され、そして1MのNaClと25mM酢酸ナトリウム(CH3COONa・3H2O)との緩衝液(pH6.0)の2カラム容量を上向きに流し、その後、数カラム容量の25mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を上向きに流すことによって膨潤および平衡化されたストリームラインSP(Pharmacia Biotechnologyから入手可能、カタログ番号17−0993−01/02)を用いて行った。発酵液をオンラインで水で(7倍に)希釈して、1000ml/分の流速でエキスパンド床に上向きに通した。ゆるく結合した物質を、25mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を上向きに流して洗い流した。その後、カラムアダプターを、16.3cmの高さで沈降した床表面に降ろした。流れを逆にし、そして捕捉されたタンパク質を、0.5M NaClと25mM酢酸ナトリウムとの緩衝液(pH6.0)の2カラム容量で溶出した。固体の硫酸アンモニウムを溶出したストリームライン画分に加えて、30%飽和(溶出したストリームライン画分1リットルあたり164gの硫酸アンモニウム)にし、そして混合物を4℃〜8℃で1時間にわたって穏やかに撹拌した。
【0052】
b)疎水性クロマトグラフィー
疎水性クロマトグラフィーを、2,700cm3の充填容量を有するVantage180/500カラム(Milliporeから入手可能、カタログ番号87018001)に充填されたヘキシルTSK650C(Toso−Haasから入手可能、カタログ番号19027)を用いて4℃〜8℃で行った。溶出したストリームライン画分を38l/時の流速でカラムに負荷した。その後、カラムを、164g/lの硫酸アンモニウムを含有する25mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)の1.5カラム容量で洗浄して、7カラム容量の25mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)でカラムから溶出した。
【0053】
c)アフィニティークロマトグラフィー
アフィニティークロマトグラフィーを、3,186cm3の充填容量を有するVantage130/500カラム(Milliporeから入手可能、カタログ番号87013001)に充填されたブルーセファロース6FAST Flow(Pharmacia
Biotechnologyから入手可能、カタログ番号17−0948−02/03)を用いて4℃〜8℃で行った。溶出画分を20l/時の流速でカラムに負荷し、そして1カラム容量の25mMリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4・12H2O)緩衝液(pH7.0)で洗浄した。ミクロプラスミノゲンタンパク質画分を0.5MのNaClと25mMリン酸水素二ナトリウムとの緩衝液(pH7.0)の5カラム容量でカラムから溶出して、−20℃で凍結した。物質の純度は、SDSゲル電気泳動によって明かにされたとき、98%を越えていた。
【0054】
ミクロプラスミンへの定量的活性化およびミクロプラスミンの安定化
a)定量的活性化
ミクロプラスミノゲンのミクロプラスミンへの活性化を、0.5MのNaClと25mMリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4・12H2O)との緩衝液(pH7.0)において、スタフィロキナーゼ変化体SY162の0.5%のモル比で、23℃で30分間行った。SY162は、国際特許出願公開WO99/40198によって記載されるように、野生型と比較したとき、12個のアミノ酸置換(K35A、E65Q、K74R、E80A、D82A、T90A、E99D、T101S、E108A、K109A、K130TおよびK135R)を含む、免疫原性が低下したスタフィロキナーゼ変化体である。固体の硫酸アンモニウムを1Mの最終濃度(132g/l)でミクロプラスミンに加えて、混合物を4℃〜8℃で15分間撹拌した。
【0055】
b)疎水性クロマトグラフィー
疎水性クロマトグラフィーを、1,738cm3の充填容量を有するBPG100/500カラム(Pharmacia Biotechnologyから入手可能、カタログ番号18−1103−01)に充填され、そして1Mのトラネキサム酸(Bournonville Pharma(Braine−L’Alleud、ベルギー)から入手可能)および1Mの(NH42SO4(pH7.0)を含有する25mMのNa2HPO4・12H2O緩衝液(pH7.0)の4カラム容量で平衡化されたフェニルセファロース6FAST Flow(Pharmacia Biotechnologyから入手可能、カタログ番号17−0965−03/05)を用いて4℃〜8℃で行った。活性化産物を18l/時の線流速でカラムに負荷し、そして1Mのトラネキサム酸および1Mの(NH42SO4を含有する25mMのNa2HPO4・12H2O緩衝液(pH7.0)の4.5カラム容量で洗浄した。ミクロプラスミンを、0.1Mのトラネキサム酸および0.7Mの(NH42SO4を含有する25mMのNa2HPO4・12H2O緩衝液(pH7.0)の5カラム容量を用いて6l/時の線流速でカラムから溶出し、そして0.1Mのトラネキサム酸を含有するリン酸塩緩衝化生理的食塩水で平衡化した。スタフィロキナーゼ変化体SY162は、0.1Mのトラネキサム酸を含有する25mMのNa2HPO4・12H2O緩衝液(pH7.0)でカラムから溶出された。この手法により、特異的なELISAアッセイによって明らかにされるように、99%を越えるスタフィロキナーゼがミクロプラスミンピーク部から除かれた。
【0056】
c)タンジェンシャル限外ろ過による濃縮および透析ろ過
限外ろ過を、2Pellicon2Biomaxメンブラン(5kDa、2.5μm、Millipore(Bedford、Massachussets)から入手可能、カタログ番号P2B005A25)を用いて2℃〜8℃で行った。メンブランは、Microgenポンプカートシステム(Microgon(Laguna Hills、California)から入手可能)に接続されたPellicon2プロセスホルダーに固定された。メンブランを精製水で洗浄して、メンブランの完全性を操作前に試験した。消毒を、0.5MのNaOHを60分間連続的に循環させ、そして0.1MのNaOHを60分間連続的に循環させることによって行った。その後、透過液が3.1のpHに達するまで、メンブランを5mMクエン酸(pH3.1)で洗浄した。フェニルセファロース溶出液のpHを3.1に調節して、タンパク質を限外ろ過によって4mg/mlに濃縮した。透析ろ過を5容量の5mMクエン酸(pH3.1)に対して60分間〜90分間行った。50リットルの発酵装置で行われた3回の運転の収量(グラム単位で表される)が下記の表1にまとめられる(ND:未測定)。
【0057】
【表1】

【0058】
d)滅菌ろ過(0.2μm)
マンニトールを1.5g/gタンパク質の濃度に2℃〜8℃で加えて、滅菌ろ過をMillipak100フィルター(サイズ、500cm2)(Milliporeから入手可能、カタログ番号MPLG10CA3)において23℃で行い、そして500ml/分の流速でペリタティックポンプを用いて、約500mlの5mMクエン酸(pH3.1)で洗浄した。ろ液を無菌のパイロジェン非含有バッグに集めて、−20℃で保存した。
【0059】
実施例3−組換えヒトミニプラスミノゲンの発現
約15μgのpPICZα−KMPLG1を、5’AOX1領域内でベクターを線状化するPmeIを用いて20μlの反応液で消化した。線状DNA(3μg)を使用して、EasySelectピキア発現キットに提供されるマニュアルに従って調製されたコンピテントなピキア・パストリスX33細胞を形質転換した。
【0060】
高発現株の選択を、本質的には下記のように行った。ゼオシン耐性の形質転換体をYPDSZ平板(これは実施例2に規定される通りである)で選択した。50個の単離されたコロニーを、15mlのBMYZ−グリセロール培地(これは実施例2に規定される通りである)を含む50mlのFalconチューブに接種して、30℃で16時間培養した。細胞をペレット化し、そしてAOX1プロモーターからの発現を誘導するために1.5mlのBMYZ−メタノール培地(これは実施例2に規定される通りである)に再懸濁して、40時間培養した。0.5%メタノールの3回または4回の添加を培養物に対してこの期間中に定期的に行った。誘導培養が終了したとき、培養上清におけるミニプラスミノゲンの存在を、Lijnen他(上記参照)によって記載されるように推定した。簡単に記載すると、10倍希釈された上清におけるミニプラスミノゲンをウロキナーゼととも10分間インキュベーションして、活性な複合体にした。発色性基質S2403(実施例2参照)を用いて種々の時間で測定される生じたミニプラスミン活性を、既知量の精製プラスミノゲン調製物の活性と比較した。これらの条件において、試験されたクローンはすべて、3mg/l〜15mg/lの間で変化する収量でミニプラスミノゲンを産生している。最大のミニプラスミン活性を示すX33−KMPLG1#6およびX33−KMPLG
1#25の2つのクローンをその後の大規模製造のために選択した。
【0061】
実施例4−ネズミの脳虚血性梗塞モデル(一般的手法)
実験を、Giles(Thromb.Haemost.(1987)56:1078)によって開示されるようにアメリカ生理学学会および血栓症・止血に関する国際委員会の指針原則に従って行った。
【0062】
限局性の脳虚血を、Welsh他(J.Neurochem.(1987)49:846)に従って中大脳動脈(以降、MCA)の永続的な閉塞によって生じさせた。簡単に記載すると、体重が20g〜30gであるどちらか一方の性のマウスを、75mg/mlのケタミン(Apharmo(Arnhem、オランダ)から入手可能)および5mg/mlのキシラジン(Bayer(Leverkusen、ドイツ)から入手可能)の腹腔内注射によって麻酔した。あるいは、これらの薬物が脳梗塞サイズに影響を及ぼさないことを確保するために、麻酔を2%イソフルラン/酸素の吸入によって行った。1mg/kgのアトロピン(Federa(Brussels、ベルギー)から入手可能)を筋肉内投与し、そして動物を保温パッドに保つことによって、直腸温度を37℃で維持した。「U」字型の切開を左目と右目の間で行った。側頭筋の上部部分および裏側部分を切開し、そして側頭筋を引き込むことによって、頭骨を露出させた。1mm直径の穴を、熱傷害を防止するために生理的食塩水を表面に流しながらハンドドリルでMCA上方の領域に開けた。髄膜をピンセットで除き、MCAを10−0ナイロン糸(Ethylon(Neuilly、フランス)から入手可能)での結紮によって閉塞し、そして結紮点の遠位側を切った。最後に、側頭筋および皮膚を所定位置に戻して縫合した。その後、実施例2で製造された組換えミクロプラスミンを、別途示されない限り、MCAを結紮した15分後にボーラス剤として静脈内に投与した。動物を回復させた。24時間後、動物を500mg/kgのネムブタール(Abbott Laboratories(North Chicago、Illinois)から入手可能)で屠殺し、断頭した。脳を取り出し、1mmのセグメントで切片化するためにマトリックスに入れた。切片を、2%の2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム塩化物を含む生理的食塩水に浸し、37℃で30分間インキュベーションして、4%ホルマリンを含むリン酸塩緩衝化生理的食塩水に入れた。この手順により、壊死した梗塞領域は非染色のままであり、染色された生存組織とは明瞭に区別される。切片を写真撮影して、面積測定に供した。限局性の脳虚血性傷害の容積を、厚さが乗ぜられた切片の非染色面積の和として定義した。
【0063】
ネズミ血漿中のα2−抗プラスミンのレベルを、Edy他(Thromb.Res.(1976)8:513)によって記載される手順に従って、プラスミンのその迅速な阻害に基づく発色性基質アッセイによって測定した。簡単に記載すると、10μlのネズミ血漿(0.01パーセントのツイーン20を含有する0.05MのNaH2PO4緩衝液(pH7.4)で1/10に希釈されたもの)を、0.01%のツイーン20を含有する0.05M Tris−HCl/0.1M NaCl緩衝液(pH7.4)の420μlと、そして0.125μMのヒトプラスミン(5nMの最終濃度)の20μlと37℃で混合した。10秒間インキュベーションした後、3mMのS2403(Chromogenix、Antwerp、ベルギー)の50μlを添加し、吸光度の変化を405nmで測定した。緩衝液に対する0.18分-1の吸光度変化およびプールされたネズミ血漿に対する0.09分-1の吸光度変化を使用して、校正曲線を構築した。データが表2aおよび表2bに表される。
【0064】
実施例5−マウスにおける脳梗塞サイズに対する組換えヒトミクロプラスミンの作用
α2−抗プラスミンおよびフィブリノーゲンのレベルに対する組換えミクロプラスミンの作用
血漿中のα2−抗プラスミンおよびフィブリノーゲンのレベルに対する同系交配BAL
B/cマウスにおける実施例2の組換えヒトミクロプラスミンの静脈内ボーラス注射の作用が表2aにまとめられる。α2−抗プラスミンおよびフィブリノーゲンのレベルは、ミクロプラスミンの用量に比例して低下し、そして1時間以内に部分的に回復した。このことは、α2−抗プラスミンの欠乏が、ミクロプラスミンの単回ボーラス注射後の最初の数時間において一時的であったことを示唆している。
【0065】
脳梗塞サイズに対する組換えミクロプラスミンの作用
MCAの結紮は、同系交配BALB/cマウスにおいて29μlの容量を有する脳梗塞を誘導した(表2b)。0.07mgの組換えヒトミクロプラスミンの注射は梗塞サイズに対して有意な作用を有しなかったが、0.13mg以上のミクロプラスミンの注射は脳梗塞サイズの有意な減少をもたらした。これは、より少ない用量におけるα2−抗プラスミンの上記の一時的なわずかな減少、および0.2mgのミクロプラスミンで得られたより長く持続した欠乏と一致する。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例6−ウサギの体外ループ血栓溶解モデル(一般的手法)
ウサギにおける簡単な体外ループ血栓形成モデルを、Hotchkiss他(Thromb.Haemost.(1987)58:107)によって開示されるようなヒトプラスミンおよびヒトミクロプラスミンの血栓溶解作用の定量的評価のために使用した。
【0068】
体重が2.6kg〜3.2kgであるニュージーランド白ウサギを、1.0mlの2%キシラジンおよび0.5mlのケタミン(実施例4の場合と同じ供給者)の筋肉内注射によって麻酔した。さらにネムブタール(12mg/時)を投与して、麻酔状態を維持した。放射性ヨウ素の甲状腺取り込みを、ヨウ化ナトリウム(0.5mlの2%溶液)の投与によって阻止した。大腿深静脈カテーテルを血液サンプリングのために導入し、そして大
腿動脈カテーテルを血圧測定のために導入した(Druck Ltd(Leicester、英国)から得られるPDCR75)。
【0069】
300μlの血栓を、2つの適合したインスリンシリンジのそれぞれで長さ方向に導入された羊毛糸の周りに、125I標識フィブリノーゲン(約400,000cpm)および血小板除去ウサギ血漿および0.07mlのトロンビン溶液(100NIH U/ml)の混合物から形成させた。すべての場合において、凝塊が迅速に形成され、そして37℃で30分間エージングされた。その後、2つのシリンジを、大腿動脈と末梢の耳静脈との間のシリコンチューブの体外ループに挿入した。血流をペリスタティクポンプ(Pharmacia LKB(Piscataway、New Jersey)から入手可能なP1)によって調節した。凝塊の血栓拡大を、野生型プラスミン(Jansenn Research Foundation(Beerse、ベルギー)から入手可能)または実施例2で得られた組換えミクロプラスミンの注入を開始する30分前にヘパリン(300U/kgのボーラス、その後、2時間にわたる200U/kg)および血小板凝集阻害剤Ridogrel(7.5mg/kg)のボーラスを注入することによって防止した。血栓溶解の程度を、凝塊に導入された放射能と、実験の終了時にシリンジに回収された放射能との差として測定した。
【0070】
局所的な注入を、一定速度の注入ポンプ(Perfuser VI、B.Braun(Penang、マレーシア)から入手可能)を使用することによって、体外ループにおける第1の挿入されたシリンジの近くに2時間にわたり6mlの容量で三方バルブを介して行った。血栓溶解の程度を、凝塊に最初に取り込まれた放射能と、シリンジ内の放射能との差として、注入を開始した2.5時間後に計算して、初期放射能の百分率として表した。
【0071】
2mlの血液サンプルを、注入開始前に、そして2時間にわたり1時間の間隔で、クエン酸三ナトリウム(0.011Mの最終濃度)の中に抜き取った。これらのサンプルを、フィブリノーゲン、α2−抗プラスミンおよび活性化部分トロンボプラスチン時間を測定するために使用した。出血時間は、剃毛された内股表面にSymplateII装置(Organon Technica(Durham、North Carolina)から入手可能)を当てることによって行われた。
【0072】
実施例7−体外ループ凝塊溶解に対する組換えミクロプラスミンの作用
実施例6の一般的手法に従って行われた測定の結果が下記の表3に示される。実施例2の組換えミクロプラスミンによる凝塊溶解は、わずかなα2−抗プラスミン欠乏およびフィブリノーゲン分解をもたらし、そしてわずかな出血時間の延長に関連していた。野生型プラスミンの注入は、出血時間に対するわずかな作用とともに、α2−抗プラスミンレベルおよびフィブリノーゲンレベルの80%の減少をもたらした。これらの発見は、組換えミクロプラスミンおよび野生型プラスミンによる凝塊溶解の程度が主に薬物用量および血栓の近傍へのその送達によって決定されることを示している。従って、組換えミクロプラスミンまたは野生型プラスミンによる血栓溶解は、フィブリノーゲン、α2−抗プラスミンおよび出血時間における適度な変化によって明らかにされるようなフィブリン溶解系の広範囲の全身的な活性化には関連しなかった。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例8−イヌの回旋冠状動脈の銅コイル誘導血栓形成(一般的手法)
銅コイルを、Bergmann他(Science(1983)220:1181〜1183)によって記載されるようにヒト野生型プラスミンおよび組換えミクロプラスミンの血栓溶解作用を定量的に評価するために冠状動脈内に導入した。イヌを、12.5μg/kgのアトロピンおよび10mg/kgのケタミン(実施例4の場合と同じ供給者)の筋肉内注射による前処置後、30mg/kgのネムブタールの静脈内注射によって麻酔した。麻酔状態を8〜10mg/kg/時のネムブタール注入によって維持した。前処置後、静脈内ラインを前足静脈内に導入し、固定した。静脈内ラインは、麻酔薬の投与および注入のために採用される。第2の静脈アクセスラインがヘパリン投与のために伏在静脈内に導入される。さらなる準備期間中、ラインは、約20ml/時での生理的食塩水注入により開けたままに保たれる。大腿動脈を鼠蹊部に近い切開によって露出させ、カテーテルを血液サンプリングのために導入する。左右の頸動脈を冠状動脈カテーテル挿入のために露出させる。ECG電極および直腸温度プローブを、ECGおよび体温を連続的にモニターするために設置する。銅コイルは、酸化物を除き、最適な血栓形成性の銅表面を有するために50%酢酸で洗浄しなければならない。Lehmanカテーテル(5Fg、USCI Bard)が、左頸動脈内に導入された血管造影バルブシステムに接続され、左冠状動脈内に進められる。血管造影が、回旋動脈の最初の主側方分枝の位置を確認するために行われる。血管造影バルブシステムを外し、薄いガイドワイヤを、Lehmanカテーテルを介して導入し、最初の主側方分枝の遠位側に位置させる。血管造影バルブシステムは下記の接続を有しなければならない:造影剤媒体、加圧された生理的食塩水、圧力変換器(非閉塞的なカテーテル設置をモニターするために)、および冠状動脈内への組換えミクロプラスミン投与用の注入ライン。Lehmanカテーテルは引っ込められ、そして取り除かれるが、ガイドワイヤは所定の位置に保たれる。このガイドワイヤの上に、第2のガイドワイヤに固定された銅コイルが導入され、回旋動脈内に進められ、最初の主側方分枝の遠位側に置かれる。選択された銅コイルは入手可能であり、使用された最良の評価されたサイズは、例えば、3mmの銅コイル(0.5mm銅ワイヤの6回の巻き)である。コイルは、閉塞時に細動が生じることがないとはいえ、主側方分枝の遠位側でなければならない。中心のガイドワイヤが除かれる。右頸動脈を介して、Lehmanカテーテルが、研究の残り部分の全体にわたる血管造影を行うために再び導入される。血栓性閉塞の形成が、心電図測定によって、または右頸動脈からの血管造影によってモニターされる。閉塞
は血管造影によって確認された。閉塞は60分間エージングされる。その後、血管造影が、動脈の全体的な閉塞を確認するために行われ、そしてLehmanカテーテルが、組換えミクロプラスミンを投与するために、また血管造影を行うために、回旋冠状動脈を閉塞させることなく血栓の近くの所定位置に置かれる。その後、ヘパリンの200ユニット/kgの静脈内ボーラス注入、続いて実験期間中にわたる1ml/分の静脈内注入での40ユニット/kg/時の注入が、伏在静脈カテーテルを介して行われる。ヘパリンのボーラス投与の5分後に、組換えミクロプラスミン用量の40%の5分間にわたる最初のボーラスが、Lehmanカテーテルを介して冠状動脈内に投与される。閉塞が、血管造影によって明らかにされるように15分後に持続する場合、組換えミクロプラスミン用量の残る60%が1時間にわたって冠状動脈内に注入される。再灌流および再閉塞が、15分間隔で、または再灌流または再閉塞を示唆し得る心電図徴候が存在したときには常に血管造影によって評価される。実験が終了したとき、動物は、過剰量のペントバルビタール(10mlの60mg/ml液、静脈内)を投与することによって殺される。4.5ml血液の6つの血液サンプルが0.5mlの3.8%クエン酸三ナトリウム(0.011Mの最終濃度)に採取され、氷上に保たれる。血液サンプルの時間設定はベースラインであった(安定した閉塞の45分後、組換えミクロプラスミンの投与前で、ヘパリンのボーラス投与の2分後、組換えミクロプラスミンをボーラス投与した2分後、注入終了時、および注入終了の120分後)。これらのサンプルは4℃において2000rpmで10分間遠心分離された。血漿が、Edy他(上記参照)に従ってフィブリノーゲンおよびα2−抗プラスミンを測定するために集められ、−20℃で凍結された。
【0075】
実施例9−銅コイル誘導の心筋梗塞に対する組換えミクロプラスミノゲンの作用
実施例8の一般的手法に従って行われた測定の結果が表4および図2に示される。経壁的虚血によって誘導され、そして右頸動脈による血管造影によって確認される心電図徴候が示すように、赤血球富化血栓が銅コイルの導入後15分以内に形成された。実施例2の組換えミクロプラスミノゲンの2用量が、群あたり4匹の動物で調べられた。第1群には、5分間にわたる2mg/kgのボーラスが投与され、そして血管造影によって示されるように閉塞が15分後に持続した場合、3mg/kgの残る用量が1時間にわたって開始された。第2群には、1mg/kgのボーラスが投与され、そして血管造影によって示されるように閉塞が15分後に持続した場合、残る1.5mg/kgの注入が1時間にわたって開始された。
【0076】
第1群では、2mg/kgで処置された3匹のイヌが、投与後15分以内に血栓の完全かつ持続した解消を有した。4番目のイヌでは、完全かつ持続した部分的な再開通が全用量の投与後に生じた(図)。第2群では、1匹のイヌが、ボーラス注射の15分後に完全かつ持続した再灌流を有した。残る3匹のイヌでは、ボーラス、続いて1時間の1.5mg/kgにより、完全かつ持続した再開通が誘導された(図)。
【0077】
表4に示されるように、組換えミクロプラスミノゲンの投与はフィブリノーゲンおよびα2−抗プラスミンの部分的な低下を誘導しただけであった。
【0078】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、プラスミノゲンのアミノ酸構造の概略図である。図において、黒棒はジスルフィド結合を表し、Pliは、Glu−プラスミノゲンをLys−プラスミノゲンに変換するためのプラスミン切断部位であり、UKは、プラスミンを生じさせるプラスミノゲン活性化因子に対する切断部位であり、μPlgおよびmPlgはそれぞれ、本発明において使用されるミクロプラスミノゲンおよびミニプラスミノゲンの起源を示す。
【図2】図2は、本発明の組換えミクロプラスミノゲンによる処置の後での、銅コイル誘導の血栓形成を有するイヌにおける血管造影試験の個々のデータを示す。
【図3】図3は、ヒトミクロプラスミノゲンのヌクレオチド配列(配列番号3)およびアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図4−1】図4は、ヒトミニプラスミノゲンのヌクレオチド配列(配列番号5)およびアミノ酸配列(配列番号6)を示す。
【図4−2】図4は、ヒトミニプラスミノゲンのヌクレオチド配列(配列番号5)およびアミノ酸配列(配列番号6)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロプラスミノゲンをコードする配列を含むベクターで酵母細胞を形質転換するステップと、
少なくとも100mg/Lの収量でミクロプラスミンタンパクを産生し得る株を選択するステップと、
プラスミノゲン活性化因子を用いて組換えミクロプラスミノゲンを活性化するステップとを含む、少なくとも100mg/Lのレベルで活性化されたミクロプラスミンを産生する方法。
【請求項2】
発現され活性化された哺乳類タンパクを、酸性安定化剤を用いて安定化するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性化され安定化されたミクロプラスミンを、凍結乾燥を用いて乾燥するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ミクロプラスミノゲンがSEQ ID No.4の配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ミクロプラスミノゲンをコードする配列がSEQ ID No.3のヌクレオチド配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ベクターがSaccharomyces cerevisiae α因子プレプロペプチドの分泌シグナルをさたに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酵母細胞がPichia酵母細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
プラスミノゲン活性化因子がスタフィロキナーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
得られた前記組換えミクロプラスミノゲンを1以上の精製方法により精製するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸性安定化剤が、リシン、6−アミノヘキサン酸およびトラネキサム酸からなる群から選ばれるアミノ酸を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記酸性安定化剤が、酸性溶液または酸性緩衝液である、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記酸性溶液または酸性緩衝液がpH3.1のクエン酸緩衝液である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記酵母細胞が受託番号MUCL43676を有する寄託された細胞株に属する、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公開番号】特開2007−195558(P2007−195558A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67213(P2007−67213)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【分割の表示】特願2002−551170(P2002−551170)の分割
【原出願日】平成13年12月20日(2001.12.20)
【出願人】(503220325)トロム−イクス・ナムローゼ・フエンノートシャップ (1)
【Fターム(参考)】