説明

活性化クロム酸化物触媒の還元方法

6価クロム酸化物系触媒と、クロム種に対して過剰モルの固体還元剤とを攪拌状態下で接触させ、30〜1000℃の範囲の温度に得られた混合物を付すこととを含む6価クロム酸化物系触媒の還元法。この方法は簡単であり、低コストであり、毒性のリスク無しに廃棄しうる永久還元クロム触媒を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性化クロム酸化物系触媒の改善された還元方法に関する。特に、本発明は、6価クロム酸化物触媒の高温還元法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性固体上に固定された酸化されたクロム化合物に基づくオレフィン重合触媒、いわゆるフィリップス触媒は、当該分野で知られており、エチレンの重合や、エチレンと1−ブテンとの共重合用に特に使用されている。ポリマーは、あらゆる種類のシートや成形製品の製造のような種々の分野に使用される重要な原料である。
【0003】
簡単に記載すると、フィリップス触媒は、一般的に、水又はメタノール中の窒化クロム(III)や、水又はメタノール中の酢酸クロム(III)のようなクロム含有溶液を支持物に含浸させ、溶媒を蒸発させ、そして酸化条件下、例えば酸素含有雰囲気中、400〜1000℃で、固体を活性化させて、クロム(VI)種を生じさせることにより得られる。
【0004】
種々の予期できない原因により、規定された活性化工程の条件を尊重できず、触媒活性工程が結果として失敗することが起こる。このような場合、触媒バッチ−かなり大量のクロム(VI)を含む−は、ポリエチレンを製造するために使用できず、廃棄する必要があるという結果となる。
クロム(VI)種は毒性が高いので、廃棄する前に、それをより低価状態(通常、3価又は2価)種の非毒性クロム種に変換することが必要である。
【0005】
現在まで、触媒バッチ残留物中のクロム種を変換する最も使用されている技術は、焼却であり、活性なクロム(VI)を不活性なクロム(III)やより低価状態に熱的に還元させるために、特別な超高温焼却炉の使用を含む。しかし、クロム(III)種は熱的に安定ではなく、ある条件下で再びクロム(VI)に変換される傾向がある。更に、特別な焼却炉は大変高価であり、この方法での廃棄は高投資コストであり、装置の限定された使用の観点から、償却が困難である。
重合に使用されることにより、触媒中のクロム(VI)種が還元されることは知られている。
【0006】
酸化により得られたフィリップス触媒は、モノマーと予め接触していても、一般的に、ある期間、通常2、3分で重合活性がなくなる。重合は、導入期間後にのみ開始し、触媒粒は保護ポリマーの覆いで囲まれることになる。導入期間を短くする目的で、酸化により得られた触媒は、US5641842号の実施例に記載されているように、350〜450℃の範囲の温度下で、一酸化炭素で(部分的に)還元される。このような方法は、触媒を廃棄するために使用されるなら、特別な焼却炉の使用を避けられる(還元をより低い温度で行なう得るため)が、高変換率を得るために、大過剰の還元剤の使用を伴う。この方法は、CO循環の付加装置を必要とし、工業的重合で相当な安全性コストを導くことになる。更に、COは触媒と一度も接触していないなら、再酸化現象が可能である。同様の考えがUSP6147171号に記載され、アルケン類、アルキン類及びアルデヒド類のような液体又は気体の未反応有機化合物が使用された還元方法に適用できる。
【0007】
出願人は、触媒が長時間還元形で残存する簡単で、有効で、安価で、そして安全であるCr(VI)種の還元法を意外にも現時点で見出している。
前記方法は、攪拌状態下で、6価クロム酸化物系触媒と、クロム種に対してモル過剰の
固体還元剤とを接触させ、得られた混合物を30〜1000℃の範囲の温度で処理することからなる。
【0008】
温度は30〜900℃の範囲で維持することが好ましく、特に50〜800℃の範囲が好ましい。本発明の温度範囲は、高価な特別性の炉を使用しなくても所望程度の変換を達成可能である。最も好適な反応温度を選択することは、目標の変換に到達させるために必要な時間(より低い温度でより高くなる)、エネルギー消費、特に反応性、還元力、熱安定性等のような還元剤の特性のような種々の要因を考慮して、当該分野で通常の技術を有する専門家の範囲内である。好適な結果は、還元剤(比較的低い反応性と熱安定性)としてカーボンを、600℃で2時間及び700℃で1時間使用する実施例により得られる。かなり低い温度(約100℃)はスクロースのようなより反応性の還元剤による実施例に使用される。還元は固定された温度でなく、変動可能な温度過程で生じさせることも可能である。この目的のために、還元されるフィリップス触媒は、低温で還元剤と接触させてもよく、温度を例えば0.5℃〜50℃/分、好ましくは1〜10℃/分の加熱率で直線的に上げられる。
【0009】
上記したように、還元剤は室温で固体であり、還元時温度でも固体のまま残っていてもよい。しかし、還元の間、還元剤が溶融することが好ましく、それにより、より高い流動性及び固体触媒と作用する能力を得ることができる。代わりとして、固体還元剤は、触媒孔へ還元剤を運ぶための担体として機能する少量の溶媒と共に使用できる。そのような溶媒の量は、触媒を溶解し得ない還元剤のみの最大限の高濃度溶液を生成するようにするべきである。ヒドラジンのような少量の液状還元剤は、更に還元/移動剤として使用できる。
【0010】
還元剤は、次の化合物、FeS、FeSO4、Cu°、炭素、ハイドロキノン、単糖類(グルコース、フルクトース)、二糖類(スクロース)又は多糖類のような炭化水素の少なくとも1つを含む。当然ながら、これら還元剤の2つ以上の組み合わせも可能である。好ましい固体還元剤はカーボン及びスクロースである。還元剤は、それ自体又は、効果的な温度下で発明の還元剤に変換しうる好適な前駆体の使用によりその場で生成させてもよい。
【0011】
還元剤又はその前駆体のモル量は、CrVI種に対して、過剰で使用される。Cが還元剤として使用された場合、興味深い結果が、0.5〜10、好ましくは0.6〜5の範囲であるC/全触媒量比を使用することにより得られる。
【0012】
還元時間は2〜3分から数時間以上変動させることが可能である。好ましくは、0.5〜5時間の範囲である。還元剤の色が濃すぎなければ、還元の程度が触媒系の色の可視的な観察によりわかる。初期の活性化触媒系の色は、6価クロムの存在を示す通常オレンジ色である。還元触媒系の色は、初期6価クロムの全部又は実質的に全部が、より低い酸化状態、通常2価又は3価状態に還元されたことを示す青色である。
還元剤の色が支障になる場合、還元の程度は実施の欄に記載した方法を介して検査可能である。
【0013】
出願人は、種の接触を確保するために連続攪拌を使用することが必要であることを見い出している。好ましくは、連続攪拌反応器が攪拌に使用される。これら反応器中の攪拌は、内部攪拌機により伝達される又は反応器自体の回転によりもたらし得ることは当該分野でよく知られている。熱窒素気流のような流動化手段を介して攪拌を生じさせることも可能である。反応器が反応雰囲気中で酸化剤(酸素)の導入をできる限り避けるように封止することがもちろん重要である。また、温度が上昇するまで、還元剤と反応可能な種を発生するか又は、効果を実質的に制限しうる化合物の使用は、通常避けるべきである。好ま
しくは、窒素又はアルゴンのような不活性ガスが反応器中で使用される。
【0014】
上記したように、6価クロム酸化物系触媒は、通常、例えば、DE−A2540279又はEP−A0429937に記載されたように、酸化により製造された公知のフィリップス触媒である。簡単に記載して、触媒は、水又はメタノール中の窒化クロム(III)、水又はメタノール中の酢酸クロム(III)、水中の酸化クロム(VI)のようなクロム含有溶液に担体物質を含浸させ、溶媒を蒸発させ、酸化条件下、例えば酸素含有雰囲気中で固体を400〜1000℃で加熱することにより通常得られる。この酸化は適切なフッ化剤、例えばアンモニウムヘキサフルオロシリケートの存在中で行うことができる。
【0015】
担体材料は通常多孔無機固体であり、ヒドロキシル基を含んでいてもよい。これら固体の例としては、アルミナ、シリカ(シリカゲル)、二酸化チタニウム又はそれらの混合酸化物、又はアルミニウムホスフェートである。他の好適な担体材料は、元素としてホウ素(BE−A−861,275)、アルミニウム(DE−A3635710)、シリコン(EP−A 0166157)、リン(DE−A3635710)又はチタン(U.S.Pat.No.4,284,527)の化合物で多孔性表面を修飾することにより得ることができる。担体材料は、アンモニウムヘキサフルオロシリケートのようなフッ化剤の存在又は非存在中、200〜1000℃で酸化又は非酸化条件下で処理される。
【実施例】
【0016】
以下の実施例は、説明のために挙げており、この発明自体を限定するものではない。
特徴づけ
混合物中の残留Cr(VI)の百分率は、Cr(VI)種とメチル−イソブチル−ケトン(MIBK)との錯体の578nmでの吸収の測定を介して、Cr)VI)の既知量を有する標準MIBK溶液から得られる検量線と比較することで決定する。
【0017】
この方法により、約0.2gの元導入触媒を含む試料は、2MのNaOH5mlに添加される。次いで、混合物は、10分間温浴中に配置され、得られた溶液1mlがH2Oの4mlと混合され、続けて約7の溶液のpHを得るために添加される6MのHNO3の0.3mlと混合される。
【0018】
その後、6MのHNO3の0.53mlを更に添加してpH=1〜2を得、次いでMIBK3.18mlと3%のH220.53mlとを添加し、振動させる。
次いで、578(最大ピーク値から基準線値を減算することにより定義される)での吸収ピーク高さの値が希釈要因により訂正され、次いで検量線と比較され、最終結果を得る。
【0019】
実施例1
触媒1g(20000ppmのCr(VI)を含む)と炭素0.8gの試料を、頂部スクリューキャップを備えた連続攪拌反応器中に入れた。反応器をアルゴンで満たし、次いで、600℃で1時間炉中に置いた。最後に試料を集め、残留CrVIを測定した。非還元Cr(VI)の量は約45ppmであることがわかった。
【0020】
実施例2
還元を600℃で2時間行なうことを異ならせて実施例1を繰り返した。非還元Cr(VI)の量は45ppmであることがわかった。
【0021】
実施例3
還元を700℃で1時間行なうことを異ならせて実施例1を繰り返した。非還元Cr(VI)の量は70ppmであることがわかった。
【0022】
実施例4
混合物にNH2NH22SO4を0.5g更に添加することを異ならせて実施例1を繰り返した。非還元Cr(VI)は実質的に存在しなかった(20ppm未満)。
【0023】
比較実施例5
触媒1gと炭素0.8gの試料を、磁気坩堝(攪拌なし)中に入れ、次いで600℃で1時間炉中に置いた。非還元Cr(VI)の量は初期量の23.2%であることがわかった。
【0024】
実施例6
触媒2gとスクロース1gの試料を、頂部スクリューキャップを備えた連続攪拌反応器中に入れた。反応器をアルゴンで満たし、次いで、100℃で1時間炉中に置いた。最後に試料を集め、残留CrVIを測定した。非還元Cr(VI)の量は20ppm未満であることがわかった。
【0025】
実施例7
試料を100℃で1時間、次いで500℃で1時間、次いで600℃で1時間処理することを異ならせて実施例7を繰り返した。最後に試料を集め、残留CrVIを測定した。非還元Cr(VI)の量は30ppmであることがわかった。
【0026】
実施例8
試料を100℃で1時間、次いで300℃で1時間、次いで400℃で1時間処理することを異ならせて実施例8を繰り返した。最後に試料を集め、残留CrVIを測定した。非還元Cr(VI)の量は20ppm未満であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6価クロム酸化物系触媒と、クロム種に対して過剰モルの固体還元剤とを攪拌状態下で接触させ、得られた混合物を30〜1000℃の範囲の温度に付すこととを含む6価クロム酸化物系触媒の還元法。
【請求項2】
前記温度が、30〜900℃の範囲に維持される請求項1の方法。
【請求項3】
前記固体還元剤が、次の化合物である、FeS、FeSO4、Cu°、炭素、ハイドロキノン及び炭化水素の少なくとも1つを含む請求項1の方法。
【請求項4】
前記炭化水素が、単糖類、二糖類又は多糖類である請求項1の方法。
【請求項5】
前記固体還元剤が、グルコース、フルクトース、スクロース又はカーボンから選択される請求項3の方法。
【請求項6】
前記固体還元剤が、カーボンから選択され、温度が、400〜800℃の範囲である請求項4の方法。
【請求項7】
前記固体還元剤が、二糖類から選択され、温度が、50〜300℃の範囲である請求項4の方法。
【請求項8】
前記固体還元剤が、スクロースである請求項5の方法。
【請求項9】
連続攪拌反応器中で行われる先のいずれかの請求項の方法。

【公表番号】特表2007−535399(P2007−535399A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509947(P2007−509947)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004403
【国際公開番号】WO2005/105306
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(502303902)バセル ポリオレフィン ジーエムビーエイチ (19)
【氏名又は名称原語表記】BASELL POLYOLEFINE GMBH
【住所又は居所原語表記】Bruhler Strasse 60,50389 Wesseling,Germany
【Fターム(参考)】