説明

活性水素含有水及びその製造方法

【課題】 より簡単に得られる処理剤を用いて、より効率よく活性水素含有水を製造するための新規な方法を提供する。
【解決手段】 磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体又はその貴金属触媒添加物に原料水を接触させることにより活性水素含有水を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物、植物の生理現象に重大な影響を与えることが知られている活性酸素を消去する能力をもつ新規な活性水素含有水及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性水素を含む水、すなわち活性水素含有水は、活性酸素を消去する能力を有し、活性酸素による動物や植物への生理的悪影響を抑制することが知られているため、これまでに活性水素含有水を製造する多数の方法、例えばなんら加工されていない普通水に電解処理、超音波処理などの電気的又は物理的処理を施す方法、酸化剤や還元剤による化学的処理を施す方法が提案されているが、その多くは食品衛生法で認められていないのが実情である。
【0003】
例えば、いわゆる電解水(水に食塩などを加えて電気分解したもの)のうち、隔膜方式による電気分解によって得られる陰極側の水(アルカリ水でかつ一説には活性水素を含むといわれる)の使用は食品衛生法上認められていないため、正式には食品に直接使用できないことになっている。
【0004】
すなわち、活性水素含有水を製造し、それを食品に法的に問題なく使用するためには、天然添加物に指定されている水素を物理的な方法で活性水素として水に含有させるか、あるいは食品衛生法で認められている原材料を加工助剤的に使用する外はない。
【0005】
本発明者は、先に水素を吸蔵させたパラジウム系合金に天然水を接触させて活性水素含有水を生成させ、これを動植物の育成に用いる方法(特許文献1参照)や、食料品の品質向上に用いる方法(特許文献2参照)を提案した。
しかしながら、これらの方法は、特殊な装置を必要としたり、あるいは高価な処理剤を用いなければならないため、操作に手間がかかったり、コスト高になるのを免れない。
【0006】
そこで、本発明者は、これらの欠点を克服するためにさらに研究を重ね、磁化処理した非水溶性第二酸化鉄水和物及び所望により貴金属触媒を担持させた活性炭に原料水を接触させて活性水素含有水を製造する方法(特許文献3参照)を提案した。
【0007】
【特許文献1】特許第3059359号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特許第3113653号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開2004−24941号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、より簡単に得られる処理剤を用いて、より効率よく活性水素含有水を製造するための新規な方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、先に開発した磁化処理した非水溶性第二酸化鉄水和物の代りに活性炭に担持させて効率よく活性水素含有水を生成し得る触媒について検討したところ、意外にも酸化マンガンがこれに匹敵する若しくはより優れた触媒作用を示すことを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体又はその貴金属触媒添加物に原料水を接触させることを特徴とする活性水素含有水の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明方法において用いる磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体は、例えば可溶性マンガン塩溶液中に活性炭を浸漬し、磁場内において共鳴周波数のマイクロ波を照射しながら加熱することによって形成させることができる。
【0012】
この際用いる活性炭は、従来吸着用活性炭として慣用されているものの中で不純分の少ないものが用いられるが、特に植物系の木粉、鋸屑、ヤシ殻、パルプ粉などを原料として用いた安全性の高いもの、すなわち水道法又は食品衛生法で定められる安全性の要件を満たすものを原則としている。
【0013】
しかしながら、所望ならば石炭、石油残渣、石油コークス、石油ピッチのような鉱物系原料や、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネートのようなプラスチック原料を用いて得られるものも用いることができる。これらの活性炭は必要に応じ塩化亜鉛、リン酸などにより賦活させて用いることもできる。
【0014】
この活性炭としては、20〜1000Åの孔径をもち、BET法により測定した比表面積が200m2/g以上、好ましくは500〜1500m2/gのものが好ましい。この活性炭は平均粒径0.2〜1.5mmの粒状体として用いられる。
【0015】
次に、可溶性マンガン塩としては、水又は水混和性有機溶剤に可溶なマンガン塩であれば特に制限はないが、特に二価のマンガン塩が好ましい。このようなマンガン塩としては、例えば塩化第一マンガン、硫酸第一マンガン、硝酸第一マンガン、酢酸マンガン、ロダン酸マンガンなどがある。これらのマンガン塩は、一般に薄バラ色に着色し、その水溶液も同じ色を呈する。
【0016】
これらの可溶性マンガン塩は、通常0.5〜5モル濃度、好ましくは1〜3モル濃度の水溶液として用いるが、必要ならば溶媒として水と水混和性有機溶剤例えばメタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどとの混合物を用いることもできる。
【0017】
この可溶性マンガン塩溶液には、所望に応じ例えば炭酸アンモニウムのような弱アルカリを加えることもできる。この可溶性マンガン塩溶液に活性炭を浸漬すると、活性炭にマンガンイオンMn2+が吸着するので、外部から磁場を印加すると、Mn2+は常磁性イオンであるため、電子スピン共鳴(ESR)を起こして、強く活性炭と結合する。
【0018】
次いで、共鳴周波数のマイクロ波を照射しながら加熱すると、Mn2+は電子スピン共鳴を起こした状態を維持しながら、活性炭表面に固定し、酸化されて不溶化し、酸化マンガン−活性炭複合体を形成させる。
【0019】
すなわち、ESR測定装置で用いるような、電磁石によって磁場の強さを変化する機能とマイクロ波を照射する機能の両方を有する装置によって、例えば330mT(ミリテスラ)付近の磁場を与え、最大35GHzの中で適当な共鳴周波数のマイクロ波を照射しながら、あらかじめ調製しておいたMn2+溶液と活性炭とを接触させ、活性炭表面とMnの結合及び酸化反応を進行させる。
【0020】
この場合の諸条件は、活性炭触媒としてのフリーラジカル量、すなわち反応性などの特性に応じて調整する必要があるが、活性炭表面にMn2+が結合し、アコ錯体からH+(プロトン)が解離するデプロトネーションが進行する。そして、pHが中性まで上昇した段階で外部磁場を取り除いても、その影響は持続するので、外部磁場を加えるのは初期段階だけでよい。
【0021】
したがって、pHが中性領域まで上昇したのちは、外部磁場及びマイクロ波照射を停止し、さらに24時間以上放置してエージングさせる。この際、脱水反応を促進させるため、常圧で40℃以上100℃未満に加熱し、乾燥させて、定着、処理を終了する。
【0022】
この乾燥及び定着処理には、温度などの諸条件により変わるが、通常24時間以上を要する。
また、乾燥終了時であっても、最初の活性炭質量に対し10%以上に相当する酸化マンガンが生成するため、質量が増加する。
さらに、簡易な方法で磁場を測定した場合でも、直流磁場において、通常の活性炭は0.01mT以下を保有するにすぎないが、酸化マンガン−活性炭複合体は、0.02〜0.05mT又はそれ以上の磁場を保有する。
これらの処理により生成する酸化マンガンは、主として一酸化マンガンであるが、条件によっては少量の三二酸化マンガン、二酸化マンガンなどが副生することもある。
【0023】
本発明方法においては、このようにして調製された磁化処理された酸化マンガン−活性炭複合体に原料水を接触させることにより活性水素含有水を製造することができる。この際処理される原料水としては、特に制限はなく、通常の水道水、地下水、河川水などの中から任意に選んで用いることができる。
【0024】
本発明方法により得られる活性水素含有水は、従来方法より得られる活性水に比べて著しく高濃度の活性水素を含有するものであるが、このことは電子スピン共鳴スペクトル(以下ESRスペクトルと略す)を測定することにより容易に確認することができる。
【0025】
すなわち、原料水に対し水素ラジカルを発生する処理を施したのち、可及的速やかにトラッピング剤、例えば5,5‐ジメチル‐1‐ピロリン‐N‐オキシド(以下DMPOという)を加えて、冷媒例えば液体窒素を用いて急速に凍結し、水素ラジカルをトラップしてESRスペクトルの測定を行い、得られたスペクトルパターンにおける水素ラジカルの相対強度に基づいてその定量する。
【0026】
そして、本発明方法により得られる活性水素含有水は、このようにして定量した水素ラジカルが、磁場の強さ331.8mT付近及び335.5mT付近に生じる水素ラジカル由来のピークの強度が標準サンプルとして用いたマンガン由来のピークの強度の前者が0.03以上、特に0.1以上、後者が0.04以上、特に0.2以上という高濃度を有する。
【0027】
これに対し、従来方法例えばパラジウム触媒を用いて得られる活性水の場合は、同じ方法で測定した磁場の強さ331.8mT付近及び335.5mT付近に生じる水素ラジカル由来のピークの強度は、マンガン由来のピークの強度の前者が0.023、後者が0.035であり、通常の活水器を用いて製造した活性水の場合は、水素ラジカルの吸収はほとんど認められない。
【0028】
一般に水素ラジカルは、ヒドロキシラジカル等に比べ、反応性が低いので、これを完全に捕捉するには、できるだけ多量、すなわち25質量%程度までトラッピング剤、例えばDMPOを添加するのが好ましい。
【0029】
電子スピン共鳴スペクトルの各成分に対応する強度の絶対値は、検出装置の種類やマイクロ波出力、磁場掃引幅、掃引時間、磁場変調、磁場の強さなどの測定条件や、トラッピング剤の量などのファクターによって変化するが、331.8mT付近及び335.5mT付近という特定の磁場の強さにおける水素ラジカルに由来するピークの標準サンプルのマンガンに由来するピークに対する相対強度は、上記のファクターに左右されることはなく、常に一定の数値を示す。
【0030】
また、本発明方法により得られる活性水素含有水は、活性酸素を消去するという効果を示す。このことは、活性酸素が還元物質と反応する際、微弱な発光現象を伴うことを利用し、その発生量を計測することによって確認することができる。そして、この方法は、例えば、2001年,ジョン・ウイリー・アンド・サンズ(John Willy & Sons)社発行,「ルミネッセンス(Luminescence)2001」,第16巻,第1〜9ページ掲載の報文,「イメージング・オブ・ハイドロパーオキシド・アンド・ハイドロジンパーオキシド−スキャベンジング・サブスサンセズ・バイ・フォトン・エミッション(Imaging of hydroperoxide and hydrogenperoxide−scavenging substances by photon emission)」中に開示されている方法に従って、XYZ系活性酸素消去発光テストし、そのY成分の発光強度を測定することによって行うことができる。なお、この方法におけるXは活性酸素、Yはスカベンジャー(ハイドロジェンドナー)、Zは触媒を意味する。
【0031】
このように、本発明方法においては、磁化処理が施された酸化マンガン−活性炭複合体を形成させることにより、電子供給能を向上させた結果、水の解離を促進させ、水分子の一部を構成する水素が還元され、活性水素となって水中に放出され、活性水素含有水が生成し、活性酸素が存在すると、これが活性酸素と反応し、消去するのである。
【0032】
一般に、活性炭は、本来炭化水素などの脱水素能をもつが、その能力は決して高いものではなく、通常は、酸素その他の水素受容体の共存下でのみ脱水素が進行する。しかしながら、種々の遷移金属を担持させると、脱水素活性が著しく向上する上、相乗効果によりその水素吸着能は吸着された金属のそれよりも数10倍ないし数100倍に増大する。そして、この吸着された水素分子は、金属表面で解離し、原子状態となり、活性炭上に保持される。そして、この活性炭上の水素は、金属を介して、例えば媒質の水中に急速に解離し、活性水素含有水を形成する。
【0033】
他方、一般に活性炭上に貴金属触媒を担持させると、その触媒作用が著しく向上することが知られている。したがって、本発明の処理用活性炭にも貴金属触媒を担持させるのが好ましい。この貴金属触媒としては、例えば白金、パラジウム又は銀が用いられる。これらの貴金属触媒の担持量は、活性炭の質量に基づき0.07〜3ppm、好ましくは0.1〜1ppmの範囲で用いられる。
【0034】
本発明方法による活性水素含有水の製造は、磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体又はこれと貴金属触媒とを担持させた活性炭触媒をカラムに充填し、原料水をSV値10以上、好ましくは20〜30の速度で通すことによって行われる。この際、該活性炭触媒をカラムに直接充填する代りに、取りはずし可能にカラムに嵌装しうるカートリッジを用い、その中に活性炭触媒を充填する方式をとれば、触媒としての能力が低下したときの交換を容易に行うことができるので有利である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、従来の磁化処理した非水溶性第二酸化鉄水和物を担持させた活性炭を用いた方法により得られる活性水素含有水に比べ、著しく高い活性酸素消去能をもつ活性水素含有水を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に実施例により本発明を実施するための最良の形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例中の活性酸素消去能及びポリフェノール含量は以下の方法により測定した。
【0037】
(1)活性酸素消去能;
小試験管に、5,5‐ジメチル‐1‐ピロリン‐N‐オキシド(以下DMPOと略記する)15μlと5.5mM‐ジエチレントリアミンペンタ酢酸35μlと2mM‐ヒポキサンチン50μlを採り、混合する。
次に、これに試料溶液50μlを加え、さらにキサンチンオキシダーゼ溶液(ベーリンガー・マンハイム製、20U/ml)50μlを加え、特殊偏平セル(日本電子社製、約130μl体積)に吸い取り、ESR装置にセットし、スペクトルを読み取り、SOD標準溶液(東洋紡社製、3000U/mg)と対比させて、測定値とする。
(2)ポリフェノール含有量;
試料5mlにフォリン試薬5mlを混合し、3分後に10%炭酸ナトリウム水溶液5mlを加えて振り混ぜ、青色溶液を得る。次いで1時間室温で放置したのち、760nmの吸光度を測定し、あらかじめ用意した標準物質(没食子酸)の検量線と対比して、mM単位で求める。
【0038】
参考例1(磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体の製造)
活性炭(平均粒径1.00mm、比表面積1350m2/g)100gを、1モル濃度の塩化マンガン(II)水溶液500ml中に浸せきし、これに1モル濃度の炭酸アンモニウム水溶液700mlを滴下したのち、323mTの直流磁場に置き、共鳴周波数のマイクロ波を照射しながら、60℃で30分間加熱する。次いで活性炭をろ別し、100℃において10時間加熱することにより、Mn含有量2.78mg/gの磁化処理された酸化マンガン−活性炭複合体(以下複合体触媒という)120gを得た。
【0039】
参考例2(Fe含有活性炭の製造)
1モル濃度の塩化マンガン(II)水溶液500mlの代りに、1モル濃度の塩化第二鉄水溶液500mlを用いた以外は、全く参考例1と同様に操作して、Fe含量2.38mg/gの磁化処理された非水溶性第二酸化鉄水和物を担持した活性炭(以下磁性活性炭触媒という)121gを得た。
【実施例1】
【0040】
ガラスカラム(25×500mm)に参考例1で得た複合体触媒300gを充填し、これに蒸留水600mlを通して洗浄したのち、水道水をSV値20で通水し、その1000mlを採取した。このものの活性酸素消去能を測定し、その結果を表1に示す。また、比較のために未処理の蒸留水の活性酸素消去能も併記した。
【0041】
比較例1
複合体触媒の代りに、参考例2で得た磁性活性炭触媒を充填したカラムを用い、実施例1と同様の条件で水道水を通水し、その1000mlを採取して、その活性酸素消去能を測定し、その結果を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
この表から分るように、本発明方法によると、従来方法により得られる活性水素含有水よりもはるかに高い活性酸素消去能をもつ活性水素含有水が得られる。
【実施例2】
【0044】
実施例1で得た活性水素含有水20mlに、市販コーヒー粉末0.5gを加え、1分間煮沸した。このようにして得たコーヒーの抽出液中のポリフェノール含有量を測定し、その結果を表2に示す。
【0045】
比較例2
実施例1で得た活性水素含有水の代りに、同量の蒸留水を用い、実施例2と同様にして市販コーヒー粉末から抽出を行った。このようにして得たコーヒーの抽出液中のポリフェノール含有量を測定し、その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
この表から分るように、本発明方法により得られる活性水素含有水を用いると、コーヒーからより多くのポリフェノールの抽出を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明方法によると、生鮮食料品の保存、殺菌、飲料水、動植物の育成用として広く利用しうる高活性の活性水素含有水を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体に原料水を接触させることを特徴とする活性水素含有水の製造方法。
【請求項2】
磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体の貴金属触媒添加物に原料水を接触させることを特徴とする活性水素含有水の製造方法。
【請求項3】
活性炭が比表面積200m2/g以上を有する請求項1又は2記載の活性水素含有水の製造方法。
【請求項4】
貴金属触媒が、白金、パラジウム又は銀である請求項2記載の活性水素含有水の製造方法。
【請求項5】
磁化処理した酸化マンガン−活性炭複合体が、活性炭の存在下、可溶性マンガン塩含有溶液に磁場内でマイクロ波照射しながら加熱することによって形成されたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の活性水素含有水の製造方法。