説明

流体を操作するためのシステム

流体の本体、特に流動性液滴、を操作するためのシステムは、電極を有し、その電極に調節可能な電圧を印加する、それはエレクトロウエッティング効果に基づいて液滴の変位を制御する。流体の本体と制御電極との間に固定された電圧を有する対向電極を有する。さらに、対向電極及び制御電極は流動性液滴の同じ側に位置するので、流動性液滴は対向電極及び制御電極から離れた場所で自由に接触可能である。従って、流動性液滴は物体のキャリアとしての使用可能であり、ペイロードは自由に接触できる側からの液滴上に位置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体、特に流動性の液滴を操作するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
流動性の液滴を操作するそのようなシステムは特許文献1から既知である。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0079219号明細書
【非特許文献1】バーヘイジェンとプリンス(H.J.J.Verheijen and M.W.J.Paris)、「可逆的エレクトロウエッティング及び電荷捕獲:モデルと実験(Reversible electrowetting and trapping of charge:Model and Experiments)」、ラングミュア(Langmuir)、1999年、第19巻、p.6616-6620
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
流動性液滴を操作する既知のシステムは1つ以上のマイクロチャネルによって流体が接続する容器を有するミクロの流体チップに関する。制御電極として機能する集積電極が提供される。電極が容器中に含まれる物質又は媒体と電気的に接触するように、これらの電極の各々は容器の1つの中に位置する。集積電極と接続されている電圧コントローラが提供される。集積電極に電圧を印加することで、物質又は媒体の試料は、生化学的過程を実行するためにマイクロチャネルを経て動電学的に駆動される。
【0004】
本発明の目的は、流動性液滴を操作するシステムの提供である。当該システムでは、流動性液滴の制御及び流動性液滴の操作の信頼性は改良される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、調節可能な電圧が印加される複数の制御電極を有し、
-固定電圧を有する対向電極を有し、
-前記対向電極は流動性液滴と制御電極との間に提供され、
-前記対向電極は各制御電極の表面の一部を覆い、特に対向電極の幅と制御電極の幅との比は10-5から0.9までの範囲である、
という特徴を有する本発明に従った流動性液滴を操作するためのシステムによって達成される。
【0006】
流体、たとえば流動性液滴の形状の、は極性を有する及び/又は電気的に伝導性を有する第1の流体物質を有する。一方の側において、流体は硬い壁に隣接する。液滴の他の部分は少なくとも1/2の流体によって囲まれる。その流体の第1の流体よりも低い極性及び/又は低い電気伝導性を有する液体、気体又は蒸気であって良い。液滴及び流体又は液滴を囲う流体は不混和性でなくてはならない。つまり、各流体はそれぞれ分離していなくてはならない。制御電極及び対向電極は硬い壁に向かい合う流動性液滴側で提供される。大抵、これらの電極は硬い壁の一部である。流動性液滴は固定された電圧で対向電極と電気的に接触されているので、流動性液滴は同じ固定電圧で正確に保持される。たとえば、流動性液滴が接地電位で保持されるように、対向電極は固定された接地電位で保持される。流動性液滴の実際の位置に隣接する制御電極が動作するとき、エレクトロウエッティング効果によって流動性液滴は一の制御電極から隣の制御電極に移動する。流動性液滴は対向電極の固定電圧で保持されているため、流動性液滴の移動を引き起こすエレクトロウエッティングの作動はより効率的になる。特に、流動性液滴の変位を駆動する電位差はより正確に制御される。意図せずに流動性液滴を操作するためのシステムの他の構造と比較的近い電気的接触をする制御電極のいずれか1つの電位に不注意に到達してしまうのは避けられる。また、流動性液滴が浮遊電位を有することも避けられる。
【0007】
さらに、対向電極及び制御電極は流動性液滴の同じ側に位置するので、流動性液滴は対向電極及び制御電極から離れた側で自由に接触する。従って、流動性液滴は物体キャリアとして使用可能であり、ペイロードは自由に接触できる側からの流動性液滴上に位置することが可能である。
【0008】
対向電極と個々の制御電極との間に電気的絶縁が提供される。従って、対向電極と作動している制御電圧(のいずれ)との間の電位差は正確に保持される。さらに、流動性液滴の電位は対向電極の電位と非常に近く、流動性液滴と制御電極(のいずれ)との実質的な電位差は維持可能であるように、流動性液滴は対向電極からの電気的絶縁よりも、制御電圧からの電気的に強く絶縁されている。制御電極全体を覆う電気的絶縁の厚さが対向電極全体を覆う電気的絶縁の厚さよりもはるかに大きいとき、流体は近似的に対向電極の電位に到達する。従って、これらの電位差によって駆動されるように流動性液滴の変位を正確に制御するために、流動性液滴と作動している制御電極との間の電位差は正確に保持される。
【0009】
電気的絶縁は流動性液滴に対して疎水性の表面を有する。たとえば、流体に接触するコーティングは電気的絶縁全体に設けられる。流体接触コーティングは流体運動の進行及び後退ヒステリシスが小さい。良好な結果は、疎水性コーティングが流体接触コーティングとして働くときに得られる。たとえば、疎水性コーティングがフルオロシラン分子層のような疎水性分子層として用意される。そのような疎水性分子層の電気的絶縁は流動性液滴の電位が対向電極の電位に近づくことを可能にする。従って、流動性液滴はある対向電極から次の対向電極へ流動性液滴の無制限な移動を支持する電気的絶縁の疎水性表面と接触する。疎水性の項はここでは、添え字S,F1及びF2でそれぞれ表される硬い壁、流動性液滴の第1の流体及び周囲を囲う第2の流体と関連付けられている界面エネルギーγαβが以下の条件を満たすことを示唆している。
【0010】
【数1】

特に、流動性液滴は45°より大きい疎水性表面との内部平衡接触角をつくる;非常に良好な結果は接触角が70°から110°の範囲のときに達成される。
【0011】
対向電極は疎水性の表面を有するのが好ましい。たとえば、疎水性コーティングが制御電極から見て反対側上にある対向電極上に用意される。従って、対向電極と流動性液滴との付着は減少する。又は、換言すれば、流動性液滴と対向電極との間の接触角は比較的大きい、たとえば70°から110°。対向電極が疎水性の表面を有する場合、流動性液滴が対向電極に付着する事態は回避され、流動性液滴の移動は容易になる。疎水性の表面を有する対向電極が用いられる場合、電気的絶縁は疎水性表面を有する必要がないように思われる。
【0012】
すべての場合で、液滴の進行接触角と後退接触角との差異は流体を本来の位置に保持することと変位させることとの切り替えを行うのに十分なエレクトロウエッティング効果を可能にする。接触角ヒステリシスと呼ばれるこの差異は、流動性液滴が第1の接触を形成した後に表面への固着を起こすことで、液滴がエレクトロウエッティング効果の下での移動を防ぐことを可能にする。実際には、流体の十分に制御された変位は、進行及び後退接触角との間の差異又はヒステリシスが20°を超えないときに達成される。
【0013】
流動性液滴の2次元における本質的に制限を受けていない変位が可能になるように制御電極が2次元的なパターンで配置される場合に、疎水性表面の技術又は、対向電極及び/又は電気的絶縁上の疎水性コーティングはそれぞれ特に有利なものとなる。
【0014】
本発明のこれら及び他の特徴については付属されている請求項で定義された実施例を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のこれら及び他の特徴についてはこの後に記述される実施例及び添付の図を参照しながら詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は流動性液滴を操作するシステムの実施例の側面の概念図である。特に、図1は図2-3で示されているA-A面に沿った側面図であり、A-A面は基板表面40を横切っている。基板40上に制御電極33,34が設けられる。また、対向電極31も図示されている。対向電極31と制御電極33,34との間には、電気的絶縁層、たとえばパリレンN、として形成される電気的絶縁32が存在する。電気的絶縁層上には、対向電極上もまた好ましい、疎水性コーティング41が用意される。たとえば、デュポン社(商標)から提供されているアモルファスフルオポリマーAF-1600である。別法として、AF-1600のような疎水性絶縁体で電気的絶縁が形成される。対向電極はたとえばフルオロシランのような疎水性材料の分子層で被覆されても良い。
【0017】
電気的な制御システムは制御電極と電気的に接触している。電気的な制御システムは電圧源36及び1組のスイッチ35を有する。スイッチは連続的に隣接する制御電極を作動させるような制御されたやり方で動作される。スイッチング機構のいかなるものも使用可能である;非常に適切なスイッチはたとえば薄膜トランジスタ又はオプトカプラーである。図1では、制御電極が動作している状況が図示されている。制御電極34に現在位置する流動性液滴37は破線で示されているようにエレクトロウエッティング効果の影響下で隣接制御電極33の方向に変位する。実際には、進行側(図で右方向)での変位する液滴38の接触角は後退側(図で左方向)での接触角よりも小さい。この電圧は運ばれる流動性液滴と基板表面との間の相互作用に影響する。特に、流動性液滴と基板40上の積層構造の接触角の余弦がおよそ流体に対する積層構造の電位の絶対値の平方根で減少する。つまり、電圧が印加されるとき、積層構造は電極の領域内で有効により疎水的になる。この現象は’エレクトロウエッティング’と呼ばれ、非特許文献1で詳細について論じられている。
【0018】
図2は、図1の流動性液滴を操作するシステムの実施例の上面の概念図を図示する。特に、図2は対向電極31が制御電極33,34よりも狭いことを示している。特に、対向電極の幅と制御電極の幅との比は10-5から0.9の範囲を取ることが可能である;良好な結果は特に10-3から0.2の範囲で得られる。対向電極が一般的にいわゆるキャピラリlc,
【0019】
【数2】

の半分よりも長くてはいけないこともまた重要である。ここで、γLVは液体の表面張力、ρは流体の密度で、gは重力加速度である。その状況で、流体は周囲を(別な)流体に囲まれていて、キャピラリの長さは重力加速度に依存しない。これは対向電極の濡れによる液滴の摂動は十分制御されていることを保証する。制御電極はお互いが向き合う鋸歯状の境界を有する。対向電極は制御電極よりも非常に狭いため、制御電極の電場は流動性液滴の付着に有効に影響する、電極の積層構造で。対向電極31は制御電極よりも流動性液滴とより良好に電気的接触をしている。その際、流動性液滴37の電位は対向電極の電位に等しいままである。
【0020】
図3は流動性液滴を操作するシステムの実施例の側面の概念図を図示する。特に、図3は基板40の表面を横切るB-B面に沿った側面を図示する。図3から対向電極が制御電極33,34より狭い、流動性液滴が制御電極上に広がってゆくのは明らかである。電気的絶縁層32上に疎水性コーティング41が成膜される。別法として、電気的絶縁層32及び疎水性層41は単一の疎水性電気的絶縁層として形成されるように、電気的絶縁層は疎水性材料で形成されても良い。
【0021】
図4は流動性液滴を操作するシステムの別な実施例の側面の概念図を図示する。図4での図示されている実施例では、疎水性コーティング41は電気的絶縁層32及び対向電極31の両方を被覆する。対向電極を覆う疎水性コーティング41の厚さは電気的絶縁層32を覆う厚さよりもはるかに小さい。疎水性コーティングの厚さは1分子層〜数nmの分子層から数百nm(たとえば200-700nm)のコーティングまでの範囲を取りうる。対向電極31上の疎水性コーティング41の小さな厚さは流動性液滴37及び対向電極の静電結合を実現する。疎水性コーティング41が使用されるとき、電気的絶縁層はそれ自身疎水性である必要はなく、たとえばパリレンNで作製される。さらに、対向電極が薄い場合、電極31で部分的に被覆されている絶縁体32を有する全表面が完全に均一な厚さの疎水性層で被覆される後に層41上に堆積可能である。これは構築の容易さに関する利点を与える。対向電極はたとえばシャドーマスクを用いて10nmの薄い金属層を蒸着して成膜しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】流動性液滴を操作するシステムの実施例の側面の概念図。
【図2】図1の流動性液滴を操作するシステムの実施例の上面の概念図。
【図3】流動性液滴を操作するシステムの実施例の側面の概念図。
【図4】流動性液滴を操作するシステムの別な実施例の側面の概念図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調節可能な電圧が印加される複数の制御電極を有し、
固定電圧を有する対向電極とを有し、
前記対向電極は前記流体と前記制御電極の1つとの間に設けられ、
前記それぞれの制御電極の表面の一部を覆い、特に前記対向電極の幅の前記制御電極の幅に対する比が10-5から0.9までの範囲にあることを特徴とする、
流体特に流動性液滴を操作するシステム。
【請求項2】
前記対向電極と前記制御電極のそれぞれとの間に電気的絶縁が提供されることを特徴とする、請求項1に記載の流体を操作するシステム。
【請求項3】
前記電気的絶縁は前記流体に向き合う疎水性表面を有し、特に前記絶縁上に流体接触コーティングが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の流体を操作するシステム。
【請求項4】
前記対向電極は前記流体に向き合う疎水性表面を有し、特に前記対向電極上に流体接触コーティングが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の流体を操作するシステム。
【請求項5】
前記対向電極上に疎水性コーティングは前記電気的絶縁よりもはるかに薄く、特に前記電気的絶縁の厚さに対する前記対向電極上の疎水性コーティングの厚さの比は10-3から1の範囲で、特に10-1未満であることを特徴とする、請求項1に記載の流体を操作するシステム。
【請求項6】
前記制御電極は空間的に2次元パターンで整列していることを特徴とする、請求項1に記載の流体を操作するシステム。
【請求項7】
前記対向電極と前記液滴との間にある層の電気抵抗は前記制御電極と前記液滴との間の層の電気抵抗よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の流体を操作するシステム。
【請求項8】
電圧を個々の制御電極に印加することで制御電極を動作させ、
個々の停止制御電極は接地電位と電気的に接触するように制御電極を停止する、
ことを特徴とする電気的制御システムを有する、請求項1に記載の流体を操作するシステム。
【請求項9】
前記流体はお互いそして前記流体の流体と混合しない1つ以上の流体で囲まれていることを特徴とする、請求項1に記載の流体を操作するシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−512121(P2007−512121A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539052(P2006−539052)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/IB2004/052355
【国際公開番号】WO2005/047696
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】