説明

流体センサ

【課題】 サイズが小さく感度を高くできる流体センサを提供する。
【解決手段】 基板101と、基板101上に形成されたセンサ部102とを備え、センサ部102は、基板101上に基板101側から順に配置された第1および第2の層(半導体層123および124)を含む積層部103と、少なくとも第1および第2の層が折り曲げられることによって形成された起立部104と、起立部104の変形を検出するための検出手段とを含み、第1の層の格子定数と第2の層の格子定数とは異なり、起立部104の近傍を流体が移動することによって起立部104が変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体センサに関する。
【背景技術】
【0002】
流体センサは、環境の変化の検出、流体の流量の制御、各種装置の駆動状態の解析などに用いられている。そのような用途に対応するため、従来から様々な流量計が提案されている(たとえば特許文献1および2)。
【特許文献1】特開平11−64067号公報
【特許文献2】特開2004−117011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の流体計は、サイズが大きいために用途が限定されていた。また、従来の流量計は、流体のわずかな移動を検出することが難しい場合があった。
【0004】
このような状況に鑑み、本発明は、サイズが小さく、感度を高くできる流体センサを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の流体センサは、基板と、前記基板上に形成されたセンサ部とを備える流体センサであって、前記センサ部は、前記基板上に前記基板側から順に配置された第1および第2の層を含む積層部と、少なくとも前記第1および第2の層が折り曲げられることによって形成された起立部と、前記起立部の変形を検出するための検出手段とを含み、前記第1の層の格子定数と前記第2の層の格子定数とは異なり、前記起立部の近傍を流体が移動することによって前記起立部が変形する。ここで、「起立部の変形」は、積層部と接する起立部の端部の変形、すなわち積層部と起立部との境界に存在する折れ曲がり部の角度の変化も含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、数百nm角〜10mm角以下(たとえば100μm角以下)のサイズの流体センサが得られる。また、本発明によれば、高感度で応答時間が短い流体センサを得ることが可能となる。また、本発明の流体センサは、他の半導体素子と容易に集積化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下で説明する流体センサは本発明の一例であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0008】
本発明の流体センサは、基板と、前記基板上に形成されたセンサ部とを備える流体センサである。センサ部は、基板上に基板側から順に配置された第1および第2の層を含む積層部と、少なくとも第1および第2の層が折り曲げられることによって形成された起立部と、起立部の変形を検出するための検出手段とを含む。第1の層の格子定数と第2の層の格子定数とは異なる。起立部の近傍を流体が移動することによって起立部が変形する。したがって、本発明の流体センサでは、起立部の位置の変化を検出することによって、流体の流れの有無の検知や、流体の流量の測定が可能となる。本発明の流体センサで観測される流体は、気体であってもよいし液体であってもよい。
【0009】
上記本発明の流体センサでは、第1の層の格子定数は第2の層の格子定数よりも大きく、積層部と起立部との境界において、第1の層の格子定数と第2の層の格子定数との差によって生じる力によって第1および第2の層が第2の層側に折り曲げられていてもよい。第1の層の格子定数が第2の層の格子定数よりも大きい場合、両者の間で歪みが生じ、歪みによって生じる力によって第1および第2の層が第2の層側に折り曲がる。この現象を利用して起立部が形成される。なお、第1および第2の層は半導体からなるものであってもよい。
【0010】
上記本発明の流体センサでは、積層部および起立部は第3および第4の層をさらに含み、第1〜第4の層はこの順序で積層されており、第3の層の格子定数は第2の層の格子定数よりも大きく、第3および第4の層が存在しない部分で第1および第2の層が第2の層側に折り曲げられており、第3の層が存在し第4の層が存在しない部分で第1〜第3の層が第1の層側に折り曲げられていてもよい。この場合、第1〜第4の層は半導体からなるものであってもよい。
【0011】
上記本発明の流体センサでは、半導体がIII−V族化合物半導体であってもよい。III−V族化合物半導体を用いることによって、所定の形状の起立部を容易に形成できる。
【0012】
上記本発明の流体センサでは、検出手段は、基板の上に形成された第1の電極と、第1の電極と対向するように起立部上に形成された第2の電極とを含み、起立部の近傍を流体が移動することによって第1の電極と第2の電極との間の静電容量が変化するものであってもよい。この構成では、静電容量の変化をモニタすることによって、起立部の近傍を移動する流体の検知や流量のモニタが可能となる。なお、「基板の上に形成」とは、基板上に直接形成する場合、および、基板上に形成された層上に形成する場合のいずれの場合をも含み、たとえば、基板上の積層部上に形成される場合を含む(以下の説明においても同様である)。
【0013】
上記本発明の流体センサでは、検出手段は、基板の上に形成された第1の電極と、第1の電極と対向するように起立部上に形成された第2の電極とを含み、起立部の近傍を流体が移動することによって第1の電極と第2の電極とが接触状態および非接触状態のいずれかの状態の間で変化するものであってもよい。この構成では、第1の電極と第2の電極との間の抵抗をモニタすることによって、一定の流量以上の流体を検知できる。
【0014】
上記本発明の流体センサでは、起立部は、第1および第2の層を第2の層側に2回折り曲げることによって形成された電極保持部を含み、第2の電極は電極保持部上に形成されていてもよい。この構成によれば、第1の電極と第2の電極とがなす角度を、任意の角度(たとえば0°(平行))に設定できる。
【0015】
上記本発明の流体センサでは、検出手段は、基板の上に形成された環状配線と、環状配線に対向するように起立部上に形成され環状配線を流れる電流に影響を与える部材とを備え、起立部の近傍を流体が移動することによって環状配線を流れる電流が変化するものであってもよい。
【0016】
上記本発明の流体センサでは、検出手段は、積層部と起立部との境界に形成された歪み計測手段を含み、起立部の近傍を流体が移動することによって歪み計測手段の抵抗が変化するものであってもよい。
【0017】
上記本発明の流体センサでは、検出手段は、起立部に光を照射する光源と、起立部で反射された光を検出する光検出器とを備え、起立部の近傍を流体が移動することによって起立部で反射された光の進行方向が変化するものであってもよい。
【0018】
上記本発明の流体センサでは、起立部の大きさが異なる複数のセンサ部を含んでもよい。
【0019】
上記本発明の流体センサでは、起立部の近傍を流体が移動したときの起立部の変形方向が異なる複数のセンサ部を含んでもよい。
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。また、以下の説明ではIII−V族化合物半導体の組成比を示していない場合があるが、III族元素の組成比とV族元素の組成比とはほぼ等しい。
【0021】
(実施形態1)
実施形態1では、本発明の流体センサの一例を示す。実施形態1の流体センサ100aの断面図を図1に示す。
【0022】
図1を参照して、流体センサ100aは、基板101と、基板101上に形成されたセンサ部102とを備える。センサ部102は、積層部103と、起立部104と、起立部104の移動・変形を検出するための検出手段105とを備える。検出手段105は、積層部103上に形成された第1の電極111と、第1の電極111に対向するように起立部104上に形成された第2の電極112とを含む。なお、図1には図示していないが、第1および第2の電極111および112には配線が接続されている。
【0023】
基板101は、その上に半導体層を成長させることができるように、積層される半導体層に応じて選択される。基板101としては、たとえば、GaAs基板や、InP基板、Al23基板、SiC基板、Si基板を用いることができる。
【0024】
積層部103は、基板101上に基板101側から順に積層されたバッファ層121、層122、半導体層123〜125を含む多層膜で構成される。なお、積層部103および起立部104は、必要に応じて他の層を含んでもよい。半導体層123〜125は、内部応力によって半導体層を所定の位置で折り曲げるための層である。そのため、半導体層123〜125を構成する半導体は、半導体層123(第1の層)および半導体層125(第3の層)の格子定数が半導体層124(第2の層)の格子定数よりも大きくなるように選択される。
【0025】
起立部104は、半導体層123および124を、半導体層124側に2回折り曲げることによって形成されている。起立部104は、基板101の表面に対して略垂直な垂直部104aと、基板101の表面に対向する電極保持部104bとを備える。電極保持部104bは、たとえば、基板101の表面と略平行か、先端になるほど基板101から遠ざかるように形成される。
【0026】
第1の電極111は、積層部103上に形成される。流体センサ100aでは、電極保持部104bが第1の電極111の上方に配置されるように起立部104を形成する。第2の電極112は、第1の電極111と対向するように電極保持部104b上に形成される。2つの電極間の距離および2つの電極のサイズに特に限定はなく、測定する条件に応じて選択され、たとえば数百nm角〜1mm角以下の範囲で選択される。同様に、電極保持部104bのサイズも、たとえば数百nm角〜1mm角以下の範囲で選択される。2つの電極間の距離は、垂直部104aの高さによって制御できる。
【0027】
起立部104の近傍を流体が矢印Aの方向に移動すると、図2に示すように第1の電極111と第2の電極112との間の距離が近くなり、流体が矢印Aと反対の方向に移動すると2つの電極間の距離は遠くなる。このように、流体の移動方向および流量に応じて第1の電極111と第2の電極112との間の静電容量が変化する。この静電容量の変化を測定することによって流体の流量を算出できる。流体の流量を定量する場合には、流体の流量と電極間の静電容量との関係を示す検量線を予め作成しておけばよい。また、流体センサ100aによれば、流体が図2の矢印Aの方向に流れているかその逆の方向に流れているかを判断することも可能である。
【0028】
以下に、流体センサ100aの具体的な構成の一例およびその製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、図3(b)〜図6(b)は上面図であり、図3(a)〜図6(a)は図3(b)〜図6(b)の点線部分における断面図である。
【0029】
まず、図3(a)および(b)に示すように、基板101上に、バッファ層121、層122、半導体層123、半導体層124、半導体層125を含む多層膜130を形成する。バッファ層121は、結晶性が良好な半導体層を基板101上に形成するための層である。層122は、エッチングによって選択的に除去しやすい材料で形成される。
【0030】
半導体層123〜125を構成する半導体は、半導体層123および125の格子定数が半導体層124の格子定数よりも大きくなるように選択される。また、実施形態1の流体センサでは、半導体層123と半導体層125とは、ほぼ同じ組成の材料で形成することが好ましい。これらの半導体層は、化合物半導体(たとえばIII−V族化合物半導体)で形成できる。III−V族化合物半導体などの化合物半導体の格子定数は、組成によって変化させることができる。半導体層124/半導体層123(および125)の具体的な組み合わせとしては、たとえば、GaAs/InGaAs、Si/SiGe、GaN/AlGaN、GaN/InGaNなどが挙げられる。これらの半導体層の組成比、厚さおよび折れ曲がり部の長さを変化させることによって、半導体層124が折れ曲がる角度を調節することができる。
【0031】
なお、本発明の流体センサは、必要に応じて、図3に図示していない層を備えてもよい(以下の実施形態においても同様である)。本発明の流体センサで用いられる多層膜の一例の構成を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の多層膜は、バッファ層121からキャップ層までこの順序で積層されている。エッチングストップ層〜キャップ層までが図3(a)の多層膜130に相当する。
【0034】
半導体層124の折れ曲がり部の曲率半径Rは、以下の式で表される。
【0035】
R=(a/Δa)・{(t1+t2)/2}
ここで、aは半導体層124(GaAs層)の格子定数であり、5.6533オングストロームである。また、Δaは、半導体層123(In0.2Ga0.8As層)の格子定数(5.7343オングストローム)と半導体層124(GaAs層)の格子定数との差である。また、t1は半導体層123の厚さ(単位:オングストローム)であり、t2は半導体層124の厚さ(単位:オングストローム)である。
【0036】
折れ曲がり部の長さを適切な長さとすることによって、半導体層123および124は約90°の角度に折り曲げられる。表1中、エッチングストップ層は、溝41および42を形成する際に、半導体層124の表面でエッチングを止めるために形成される。キャップ層は、InGaAs層中のInの蒸発を防止するための層である。
【0037】
上述したように、InGaAsからなる半導体層123および125の格子定数は、GaAsからなる半導体層124の格子定数よりも大きい。InGaAs層におけるInの組成比を多くするほどGaAs層との格子定数の差を大きくでき、両者の格子定数の差を7%程度とすることも可能である。
【0038】
基板101上の各層は公知の方法で形成でき、たとえば、分子線エピタキシャル成長法(MBE法)、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)、化学的気相成長法(CVD法)などで形成できる。
【0039】
次に、図4(a)および(b)に示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングによって、多層膜130の一部を除去して溝41および42を形成する。溝41および42は、半導体層123および124を折り曲げる部分に形成する。溝41および42は、半導体層124がエッチングされないような条件で形成することが好ましい。そのために、半導体層124のエッチングレートよりもエッチングストップ層のエッチングレートが高いエッチング条件でエッチングストップ層をエッチングする。エッチングは、公知の方法で行うことができ、ウエットエッチングであってもドライエッチングであってもよい。
【0040】
次に、図5(a)および(b)に示すように、第1の電極111、第2の電極112、配線113および電極パッド114を形成する。これらは金属膜を形成したのち、不要な部分を除去することによって形成できる。2つの電極は、たとえば、Ti膜(厚さ4nm)とAu膜(厚さ200nm)との積層膜で形成できる。また、配線26は、たとえば、Ti膜(厚さ4nm)とAu膜(厚さ200nm)との積層膜で形成できる。
【0041】
次に、図6(a)および(b)に示すように、起立部104を形成したときに基板101から分離する部分に溝51を形成する。溝51は、層122に到達するように形成される。溝51は、公知のエッチング法で形成できる。
【0042】
次に、層122の一部をウエットエッチング法によって選択的に除去する。層122は、溝51を介して除去される。この工程によって、溝41と溝51とで囲まれた部分に存在する層122を除去する。ウエットエッチングは、層122のエッチングレートと層122以外の層とのエッチングレートとが異なる条件で行う必要がある。たとえば、H3PO4:H22:H2O=3:1:5(体積比)の割合で混合されたエッチング液を用いてエッチングを行えばよい。
【0043】
このとき、半導体層123の格子定数は半導体層124の格子定数よりも大きいため、半導体層124は、多層膜130が除去された部分、すなわち溝41(積層部103と起立部104との境界部分)および溝42の部分で半導体層124側に折れ曲がる。一方、多層膜130が除去されていない部分には半導体層125を含む多層膜が存在するため、半導体層124が折れ曲がることが抑制される。その結果、図1に示すように、基板101から立ち上がった起立部104が形成される。このようにして、流体センサ100aを形成できる。
【0044】
実施形態1の流体センサ100aでは、電極間の静電容量に基づいて流体をモニタする。このため、検出手段に常時電流を流す必要がなく、消費電力を抑制することができる(以下の実施形態においても同様である)。
【0045】
(実施形態2)
実施形態2では、本発明の流体センサの他の一例を示す。実施形態2の流体センサ100bの断面図を図7に示す。
【0046】
実施形態2の流体センサ100bでは、起立部104が翼部104cをさらに備える点で、流体センサ100aとは異なる。翼部104cは、電極保持部104bの端部に配置されている。半導体層123および124は、第1および第2の折れ曲がり部124xおよび124yでは半導体層124の側に曲がっており、第3の折れ曲がり部124zでは半導体層123の側に曲がっている。この構成によれば、流体に対する翼部104cの抵抗を大きくできる。また、この構成によれば、図7の矢印Aの方向およびその逆方向に移動する流体の検知および定量が可能である。
【0047】
流体センサ100bの積層部および起立部は、積層された半導体層123(第1の層)、半導体層124(第2の層)、半導体層125(第3の層)、および半導体層126(第4の層)を備える。半導体層123、125および126の格子定数は、それぞれ、半導体層124の格子定数よりも大きい。
【0048】
半導体層123および124は、半導体層125および126が存在しない折れ曲がり部124yにおいて半導体層124側に折り曲げられている。また、半導体層123〜125は、半導体層125が存在し半導体層126が存在しない折れ曲がり部124zにおいて半導体層123側に折り曲げられている。そのように折り曲げるためには、半導体層125によって半導体層124に加えられる力を、半導体層123によって半導体層124に加えられる力よりも大きくする必要がある。そのためには、半導体層125の格子定数を半導体層123の格子定数よりも同じか大きくし、半導体層125の厚さを半導体層123の厚さよりも大きくすればよい。また、半導体層125の格子定数を半導体層123よりも大きくし、半導体層125の厚さを半導体層123の厚さと同じか大きくしてもよい。
【0049】
流体センサ100bでは、半導体層125上に半導体層126が積層されている。半導体層125が除去されていない部分で半導体層124が折れ曲がることを、半導体層126によって防止できる。
【0050】
なお、本発明の流体センサは、必要に応じて、図7に図示していない層を備えてもよい。本発明の流体センサで用いられる多層膜の一例の構成を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の多層膜は、バッファ層121からキャップ層までこの順序で積層されている。表2の一例では、半導体層123、125および126の格子定数は等しい。
【0053】
流体センサ100bは、流体センサ100aと同様の方法で製造できる。なお、折り曲げ部124zの部分には、半導体層125の表面に到達する溝を形成する。
【0054】
(実施形態3)
実施形態3では、本発明の流体センサの他の一例を示す。実施形態3の流体センサ100cの断面図を図8に示す。
【0055】
流体センサ100cでは、半導体層の折れ曲がり部分が1箇所だけである。流体センサ100cにおいても、起立部104の近傍を流体が流れると第1の電極111と第2の電極112との間の静電容量が変化する。流体センサ100cを製造する場合、図4の工程において溝41のみを形成すればよい。なお、溝41の幅を広くすることによって、半導体層が折れ曲がる角度を大きくすることができる。
【0056】
(実施形態4)
実施形態4では、本発明の流体センサの他の一例を示す。実施形態4の流体センサ100dの断面図を図9(a)および(b)に示す。
【0057】
流体センサ100dは、流体の流量に応じてON/OFFが切り替わるセンサである。流体センサ100dの構造は、流体センサ100aの構造と同様であるが、流体の流量が一定以上となったときに、図9(b)に示すように第1の電極111と第2の電極112とが接触する。流体センサ100dでは、流体の流量に応じて第1の電極111と第2の電極112とが、接触状態および非接触状態のいずれかの状態の間で変化するように、垂直部104aの長さなどが設定されている。
【0058】
なお、流体センサ100dでは、第1の電極111と第2の電極112とが安定に接触するように、電極上に導電性の凸部を形成するなどしてもよい。また、流体センサ100bのように、翼部104cを形成してもよい。また、流体センサ100cのように、折れ曲がり部を1箇所だけとしてもよい。流体センサ100dは、流体センサ100a〜100cと同様の方法で作製できる。
【0059】
(実施形態5)
実施形態5では、本発明の流体センサの他の一例を示す。実施形態5の流体センサ100eの断面図を図10(a)に示す。また、環状配線145の平面形状を図10(b)に示す。
【0060】
流体センサ100eは、流体センサ100aと比較して電極の部分が異なる。流体センサ100eでは、検出手段105(第1および第2の電極111および112)の代わりに、検出手段144(環状配線145および磁性膜146)を備える。環状配線145は、環状の配線であり、積層部103上に形成されている。磁性膜146は磁性を有する膜であり、環状配線145に対向するように起立部104上に形成されている。流体センサ100eでは、磁性膜146が移動することによって環状配線145を流れる電流が変化する。このため、流体センサ100aと同様に、起立部104近傍の流体の流れの検知または定量が可能である。
【0061】
なお、磁性膜146の代わりに、環状配線145を流れる電流に影響を与える他の部材を用いてもよく、たとえば、磁性膜146の代わりに環状配線を形成してもよい。また、環状配線145は、図11に示すように渦巻き状の環状配線であってもよい。図11の環状配線145の表面には、環状配線145の一端の部分に貫通孔が形成された絶縁膜(図示せず)が形成されており、その貫通孔を介して引き出し線147と環状配線145の一端とが接続されている。磁性膜や環状配線は、公知の材料を用いて公知の方法で形成することができる。
【0062】
なお、流体センサ100eは、流体センサ100bのように翼部104cを備えてもよいし、流体センサ100cのように折れ曲がり部が1箇所のみであってもよい。
【0063】
(実施形態6)
実施形態6では、本発明の流体センサの他の一例を示す。実施形態6の流体センサ100fの斜視図を図12に示す。
【0064】
流体センサ100fは、第1および第2の電極111および112の代わりにストレインゲージ151を備える点で、流体センサ100aとは異なる。ストレインゲージ151は、基板と起立部104との角度の変化、すなわち、起立部104の折れ曲がり部の変形を検知する歪み計測手段として機能する。また、流体センサ100fでは、起立部104の電極保持部104bが不要であるという点でも、流体センサ100aとは異なる。
【0065】
ストレインゲージ151は、積層部103と起立部104との境界152、すなわち半導体層の折れ曲がり部に形成される。
【0066】
起立部104は、起立部104近傍の流体の影響によって、図12の矢印の方向に傾く。起立部104が傾くと、ストレインゲージ151を構成する金属配線の太さが変化してストレインゲージ151の抵抗が変化する。その結果、ストレインゲージ151の抵抗をモニタしたり、ストレインゲージ151を流れる電流をモニタしたりすることによって、流体の流れを検知・測定できる。
【0067】
起立部104は、溝42を形成しないことを除いて、流体センサ100aと同様の方法で形成できる。以下、ストレインゲージ151の形成方法の一例を説明する。
【0068】
まず、半導体層上に、必要に応じて、SiO2膜などの絶縁膜を形成する。その後、絶縁膜上に、ポリシリコン膜を形成し、フォトリソグラフィー・エッチング工程でポリシリコン膜をパターニングすることによってポリシリコン細線を形成する。このポリシリコン細線はピエゾ抵抗を示す。最後に、ポリシリコン細線に接続された配線および電極パッド153を形成する。このようにして、ストレインゲージ151が形成される。なお、ストレインゲージ151は、ポリシリコン細線に限らず、他の材料(たとえばCu−Ni系、Ni−Cr系の材料)で形成してもよい。
【0069】
(実施形態7)
実施形態7では、本発明の流体センサの他の一例を示す。実施形態7の流体センサ100gは、センサ部の構成が流体センサ100aとは異なる。また、起立部104の形状も、流体センサ100aとは異なる。
【0070】
流体センサ100gの起立部104を図13(a)に示す。流体センサ100gの起立部104は、支持部104dと、揺動部104eと、支持部104dと揺動部104eとを連結する連結部104fとを備える。この起立部104は、流体センサ100aの垂直部104aの形状を変更したものである。揺動部104eは、支持部104dおよび連結部104fによって支持されるが、連結部104fが細いため、起立部104の近傍を流体が移動すると揺動する。
【0071】
流体センサ100gのセンサ部は、レーザ素子161と、1つまたは複数の光検出器162(たとえばフォトダイオード)とを備える。レーザ素子161は、そのレーザ光が揺動部104eに入射するように形成される。揺動部104eに入射したレーザ光は、揺動部104eで反射されて光検出器162で検出される。揺動部104eが揺動するとレーザ光の反射方向が変化するため、レーザ光の反射方向を光検出器162で検出することによって、流体の移動を検出できる。
【0072】
起立部104、レーザ素子161および光検出器162は、モノリシックに形成できる。その場合のレーザ素子161の一例を図14に模式的に示す。なお、フォトダイオードなどの光検出器162も、レーザ素子と同様の方法で形成できる。
【0073】
図14を参照して、基板101上にはレーザ素子161およびミラー163が形成されている。基板101の裏面側には電極168が形成されている。層164〜167は、層122および半導体層123〜125に相当する層である。
【0074】
ミラー163は、基板101上に形成された半導体層の一部を約135°折り曲げることによって形成される。レーザ素子161には一般的なレーザ素子を用いることができ、たとえばIII−V族化合物半導体を用いたレーザ素子を用いることができる。ミラー163は、起立部104と同様に、格子定数が異なる2つの層165および166を積層することによって、所定の角度に配置される。ミラー163は、III−V族化合物半導体層、金属膜、またはそれらの組み合わせで形成できる。
【0075】
レーザ素子161は、基板101の表面に対して垂直な方向にレーザ光を出射する。そのレーザ光は、ミラー163で反射されて揺動部104eに入射する。揺動部104eで反射された光は、ミラーで反射され、基板上に形成された光検出器に入射する。このようにして、起立部104の変形を検出できる。
【0076】
(実施形態8)
実施形態8では、本発明の流体センサの他の一例を説明する。実施形態8の流体センサは、起立部の大きさが異なる複数のセンサ部を備える。センサ部は、実施形態1〜7のいずれのセンサ部であってもよい。
【0077】
実施形態8の流体センサの一例の斜視図を、図15に模式的に示す。図15の流体センサ170は、起立部の大きさが異なる3つのセンサ部102を備える。複数のセンサ部102は互いに起立部の大きさが異なるため、各センサ部102の感度は異なる。通常、起立部の大きさが大きいほど、感度は高くなる。したがって、大きさが異なる複数のセンサ部102を組み合わせることによって、より広い範囲の流速の流体を検出・定量することが可能となる。
【0078】
(実施形態9)
実施形態9では、本発明の流体センサの他の一例を説明する。実施形態9の流体センサは、複数のセンサ部を備える。換言すれば、実施形態9の流体センサは、複数の起立部を備える。複数のセンサ部は、起立部の近傍を流体が移動したときの起立部の変形方向が異なる。センサ部は、実施形態1〜8のセンサ部であれば、いずれのセンサ部であってもよい。
【0079】
実施形態9の流体センサの一例の斜視図を、図16に模式的に示す。図16の流体センサ180は、3つの起立部104を備える。図16には、実施形態6で説明した起立部4が形成されている流体センサを示している。3つの起立部104は、それぞれ、流体によって、互いに直交する矢印A、BおよびCの方向に移動する。このため、流体センサ180によれば、3次元方向の流れの検出・定量が可能となる。なお、センサ部(起立部)の数は2つとしてもよいし、3つ以上としてもよい。2つのセンサ部を用いることによって、2次元方向の流れの検出・定量が可能となる。また、起立部104の配置は目的に応じて適宜選択され、たとえば、変形方向が異なる複数の起立部を、円周上の位置に一定の間隔で配置してもよい。
【0080】
(実施形態10)
実施形態10では、本発明の流体センサの応用例として、本発明の流体センサを備えるロボットについて説明する。実施形態10のロボットは、外部の流体(たとえば空気などの気体)の流れを検知するセンサを備える。そのセンサには、上記本発明の流体センサ、たとえば実施形態1〜9のいずれかに記載の流体センサを用いることができる。
【0081】
流体センサの取り付け位置や取り付け個数に特に限定はなく、目的に応じて、所定の数の流体センサを所定の位置に配置する。ヒューマノイド型ロボットの一例について、頭部の斜視図を図17(a)に示し、その上面図を図17(b)に示す。図17(a)および(b)に示すように、頭部に該当する部分の前方および左右に本発明の流体センサ170を配置する。この場合、流体センサ170は、図17(c)に示すようなカバー190で保護されていてもよい。流体センサ170は、周囲の気体の流れを検知し、それを電気信号として出力する。出力された電気信号は、ロボットの処理装置(CPUやメモリ)で解析される。本発明の流体センサを用いることによって、人間の体毛のように、周囲の気体の流れを検出することが可能となる。
【0082】
流体センサを備えるロボットは、周囲の環境の変化や、周囲の物体の移動や、人間からの刺激を検知し、その情報に基づいた応答をすることができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の流体センサは、流体の移動の検出や流量の測定が必要な様々な分野に利用できる。特に、微小なサイズに形成できるという点から、本発明の流体センサは、微小な管内の気体の流れをモニタするような用途に好ましく用いられる。また、本発明は様々なタイプのロボット、たとえば自律型のロボットに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の流体センサの一例を模式的に示す断面図である。
【図2】図1に示した流体センサの機能を模式的に示す図である。
【図3】本発明の流体センサの製造方法について一例の一工程を模式的に示す(a)断面図および(b)上面図である。
【図4】図3の次の工程の一例を模式的に示す(a)断面図および(b)上面図である。
【図5】図4の次の工程の一例を模式的に示す(a)断面図および(b)上面図である。
【図6】図5の次の工程の一例を模式的に示す(a)断面図および(b)上面図である。
【図7】本発明の流体センサの他の一例を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の流体センサのその他の一例を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の流体センサのその他の一例およびその機能を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の流体センサのその他の一例を模式的に示す(a)断面図および(b)環状配線の上面図である。
【図11】本発明の流体センサで用いられる環状配線の一例を模式的に示す上面図である。
【図12】本発明の流体センサのその他の一例を模式的に示す斜視図である。
【図13】(a)本発明の流体センサのその他の一例を模式的に示す斜視図および(b)その機能を模式的に示す上面図である。
【図14】本発明の流体センサのその他の一例を模式的に示す断面図である。
【図15】本発明の流体センサのその他の一例を模式的に示す斜視図である。
【図16】本発明の流体センサのその他の一例を模式的に示す斜視図である。
【図17】本発明の流体センサを備えるロボットを模式的に示す(a)頭部斜視図および(b)頭部上面図、ならびに(c)それに用いられる流体センサの一例の斜視図である。
【符号の説明】
【0086】
100a〜100g、170、180 流体センサ
101 基板
102 センサ部
103 積層部
104 起立部
104a 垂直部
104b 電極保持部
105 検出手段
111 第1の電極
112 第2の電極
121 バッファ層
122 層
123 半導体層(第1の層)
124 半導体層(第2の層)
125 半導体層(第3の層)
126 半導体層(第4の層)
130 多層膜
145 環状配線
146 磁性膜
151 ストレインゲージ(歪み計測手段)
161 レーザ素子(光源)
162 光検出器
163 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成されたセンサ部とを備える流体センサであって、
前記センサ部は、前記基板上に前記基板側から順に配置された第1および第2の層を含む積層部と、少なくとも前記第1および第2の層が折り曲げられることによって形成された起立部と、前記起立部の変形を検出するための検出手段とを含み、
前記第1の層の格子定数と前記第2の層の格子定数とは異なり、
前記起立部の近傍を流体が移動することによって前記起立部が変形する流体センサ。
【請求項2】
前記第1の層の格子定数は前記第2の層の格子定数よりも大きく、
前記積層部と前記起立部との境界において、前記第1の層の格子定数と前記第2の層の格子定数との差によって生じる力によって前記第1および第2の層が前記第2の層側に折り曲げられている請求項1に記載の流体センサ。
【請求項3】
前記積層部および前記起立部は第3および第4の層をさらに含み、
前記第1〜第4の層はこの順序で積層されており、
前記第3の層の格子定数は前記第2の層の格子定数よりも大きく、
前記第3および第4の層が存在しない部分で前記第1および第2の層が前記第2の層側に折り曲げられており、前記第3の層が存在し前記第4の層が存在しない部分で前記第1〜第3の層が前記第1の層側に折り曲げられている請求項2に記載の流体センサ。
【請求項4】
前記検出手段は、前記基板の上に形成された第1の電極と、前記第1の電極と対向するように前記起立部上に形成された第2の電極とを含み、
前記起立部の近傍を流体が移動することによって前記第1の電極と前記第2の電極との間の静電容量が変化する請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体センサ。
【請求項5】
前記検出手段は、前記基板の上に形成された第1の電極と、前記第1の電極と対向するように前記起立部上に形成された第2の電極とを含み、
前記起立部の近傍を流体が移動することによって前記第1の電極と前記第2の電極とが接触状態および非接触状態のいずれかの状態の間で変化する請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体センサ。
【請求項6】
前記起立部は、前記第1および第2の層を前記第2の層側に2回折り曲げることによって形成された電極保持部を含み、
前記第2の電極は前記電極保持部上に形成されている請求項4または5に記載の流体センサ。
【請求項7】
前記検出手段は、前記基板の上に形成された環状配線と、前記環状配線に対向するように前記起立部上に形成され前記環状配線を流れる電流に影響を与える部材とを備え、
前記起立部の近傍を流体が移動することによって前記環状配線を流れる電流が変化する請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体センサ。
【請求項8】
前記検出手段は、前記積層部と前記起立部との境界に形成された歪み計測手段を含み、
前記起立部の近傍を流体が移動することによって前記歪み計測手段の抵抗が変化する請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体センサ。
【請求項9】
前記検出手段は、前記起立部に光を照射する光源と、前記起立部で反射された前記光を検出する光検出器とを備え、
前記起立部の近傍を流体が移動することによって前記起立部で反射された前記光の進行方向が変化する請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体センサ。
【請求項10】
前記起立部の大きさが異なる複数のセンサ部を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の流体センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−23240(P2006−23240A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203511(P2004−203511)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】