説明

流体中に存在する粒子を粒度分離するための方法及び装置

本発明は、流体中の粒子を粒度にしたがって分離するための、a)前記粒子を含有する流体を、表面レベル段を形成する異なる深さの少なくとも二つの隣接領域を有するプロファイル面に沿って運ぶことであって、平坦な第一の面をプロファイル面に沿って機械的に移動させることによって流体が運ばれ、異なる深さの隣接領域が、それらの領域の深さが第一の面の前方変位の正味方向に減少するように配設されており、垂直な負荷が少なくとも一方の面に加えられるものであることと、b)前記第一の面を、前記プロファイル面を追い越すように移動させることによって発生する少なくとも一つの再循環流によって前記粒子の分離を可能にすることとにより、少なくとも一つの再循環流を発生させることを含む方法及び装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、流体中に存在する粒子を粒度にしたがって分離するための方法及び装置の分野の発明である。
【0002】
発明の背景
コロイド懸濁液の分離及び粒度特性決定は、特に高い分離度が求められる場合又は粒子が広い粒径範囲を有する場合に、難題である。用途は、ポリマーの品質管理、バーナ又はモータ施設の排出抑制、ナノビーズ製造工程の品質管理などで見いだされる。また、生物学及び臨床診断の分野でも、細胞及び他の生物学的成分をウイルス及びタンパク質として分離し、選別するための高速かつロバストな方法を開発するために多大な研究努力が払われている。粒子混合物の分離及び特性決定に使用されるもっとも一般的な技術は、フィールドフローフラクショネーションである。しかし、この方法には、分離度が限られるという欠点がある(Desai & Armstrong, 2003)。
【0003】
WO98/55858は、剪断駆動流を使用して移動相液体をクロマトグラフィー分離路に通して運ぶ方法を開示している。
【0004】
WO03/008931(Hvichia & Gasparini, 2003)は、段差のある流路を使用して大きめの細胞を一つの段の手前で保持することによって細胞を分離する方法を開示している。作動中、大きめの細胞が段の前面に絶え間なく押し当てられるため、この装置は閉塞を起こしやすく、それによって細胞及び脆い高分子アセンブリを損傷させ、いやしくも分離を達成するためには、操作者にさらなる熟練及び時間を要求する。
【0005】
従来技術の問題を解消し、費用効果的な高分離度分離を提供する、流体中の粒子の粒度分離のための方法及び装置が要望される。
【0006】
発明の概要
本発明は、粒子、たとえば細胞、タンパク質、DNA、大きなコイル状DNA、糖タンパク質、多糖類、高分子及びポリマー鎖、微小球、生物学的物質、有機化合物ならびに他のコロイド状及びマイクロメートル超粒子の粒度分離のための分離技術に関する。本発明は、ある平坦面が、実質的に鋭角的な移行部(表面レベル段)によって分けられた異なる深さの少なくとも二つの微細加工領域を有する第二の面を追い越す運動から生じる再循環流を使用する。本発明者らは、この再循環流を、流体から粒子を分離するための方法及び装置の基礎として使用することができることを見いだした。そのように発生した再循環流は、大きめの粒子を押して段から離れさせるが、小さめの粒子は段を越えることができる(図1)。発明の基本は、不連続式(バッチ式又はクロマトグラフィー式)及び連続式の両方の分離に利用することができる。本発明者らはさらに、移動する壁を高頻度で連続する一連の前後方向の変位に付し、各段の手前に微細加工再循環チャンバを形成することにより、本明細書で開示される粒度分離効果を増強することができることを見いだした。
【0007】
本発明の一つの実施態様は、流体中の粒子を粒度にしたがって分離するための方法であって、
a)前記粒子を含有する流体を、表面レベル段を形成する異なる深さの少なくとも二つの隣接領域を有するプロファイル面に沿って運ぶステップであって、
平坦な第一の面をプロファイル面に沿って機械的に移動させることによって流体が運ばれ、
異なる深さの隣接領域が、それらの領域の深さが第一の面の前方変位の正味方向に減少するように配設されており、
一方の面が他方の面に向けて押されるように力が加えられるものであるステップと、
b)前記第一の面を、前記プロファイル面を追い越すように移動させることによって発生する、排除された粒子の逆流によって前記粒子の分離を可能にするステップと
を含む方法である。
【0008】
本発明のもう一つの実施態様は、第一の面がプロファイル面と重なり合うところで、第一の面が、プロファイル面のうち、異なる深さの領域のない部分に対して平坦かつ平行に位置する、上記方法である。
【0009】
本発明のもう一つの実施態様は、第一の面がプロファイル面と重なり合うところで、少なくとも異なる深さの領域が第一の面と重なり合う、上記方法である。
【0010】
本発明のもう一つの実施態様は、異なる深さの一つ以上の隣接領域から粒子を収集するステップをさらに含む、上記方法である。
【0011】
本発明のもう一つの実施態様は、表面レベル段に隣接する二つ以上の領域の幅が異なる、上記方法である。
【0012】
本発明のもう一つの実施態様は、異なる深さの領域が微細加工されている、上記方法である。
【0013】
本発明のもう一つの実施態様は、第一の面が断続的に移動する、上記方法である。
【0014】
本発明のもう一つの実施態様は、第一の面が交互に前後に移動し、各移動が、正味変位が前進方向になるように選択される期間及び速度を有する、上記方法である。
【0015】
本発明のもう一つの実施態様は、異なる深さの一つ以上の前記領域それぞれがチャンバに通じる開口を含む、上記方法である。
【0016】
本発明のもう一つの実施態様は、前記粒子が、前記表面レベル段に達する前に、前記第一の面に非共有結合的に結合している、上記方法である。
【0017】
本発明のもう一つの実施態様は、所与の期間中、選択的な力場を印加して粒子の少なくとも一部を選択的かつ一時的に所定の面に向けて送る、上記方法である。
【0018】
本発明のもう一つの実施態様は、前記表面レベル段の少なくとも一つの側の近くに側方出口路が設けられている、上記方法である。
【0019】
本発明のもう一つの実施態様は、分離ののち、前記表面レベル段に対して平行な第二の流れを加えることによって粒子を収集する、上記方法である。
【0020】
本発明のもう一つの実施態様は、前記流体物質を流路入口に連続的に供給し、一つ以上の出口路から連続的に抜き取る、上記方法である。
【0021】
本発明のもう一つの実施態様は、前記出口路で粒子を収集するステップをさらに含む、上記方法である。
【0022】
本発明のもう一つの実施態様は、前記表面レベル段の方向と流れの平均方向とが1°〜90°の角度で交差する、上記方法である。
【0023】
本発明のもう一つの実施態様は、前記流体物質を流路入口の限られた区分のみに供給する、上記方法である。
【0024】
本発明のもう一つの実施態様は、流体中の粒子を粒度にしたがって分離するための装置であって、
表面レベル段を形成する異なる深さの少なくとも二つの隣接領域を有するプロファイル面と、
プロファイル面に沿って機械的に移動することができる平坦な第一の面と、
前記第一の面をプロファイル面に沿って機械的に移動させるための手段と
を含み、異なる深さの隣接領域が、表面レベル段の深さが第一の面の前方変位の正味方向に減少するように配設されている装置である。
【0025】
本発明のもう一つの実施態様は、第一の面がプロファイル面と重なり合うところで、第一の面が、プロファイル面のうち、異なる深さの領域のない部分に対して実質的に平坦かつ平行に位置する、上記装置である。
【0026】
本発明のもう一つの実施態様は、プロファイル面の、少なくとも異なる深さの領域が第一の面と重なり合う、上記装置である。
【0027】
本発明のもう一つの実施態様は、少なくとも一方の面に圧力を加えるための手段をさらに含む、上記装置である。
【0028】
本発明のもう一つの実施態様は、表面レベル段に隣接する異なる深さの二つ以上の領域の幅が異なる、上記装置である。
【0029】
本発明のもう一つの実施態様は、異なる深さの領域が微細加工されている、上記装置である。
【0030】
本発明のもう一つの実施態様は、第一の面が断続的に移動することができる、上記装置である。
【0031】
本発明のもう一つの実施態様は、第一の面が交互に前後に移動することができ、各移動が、正味変位が前進方向になるように選択される期間及び速度を有する、上記装置である。
【0032】
本発明のもう一つの実施態様は、異なる深さの一つ以上の前記領域それぞれがチャンバに通じる開口を含む、上記装置である。
【0033】
本発明のもう一つの実施態様は、前記表面レベル段の少なくとも一つの側の近くに側方出口路が設けられている、上記装置である。
【0034】
本発明のもう一つの実施態様は、前記表面レベル段に対して平行な第二の流れを加えるための手段をさらに含む、上記装置である。
【0035】
本発明のもう一つの実施態様は、入口路及び一つ以上の出口路をさらに含む、上記装置である。
【0036】
本発明のもう一つの実施態様は、前記流体を流路入口に連続的に供給し、流体を一つ以上の出口路から抜き取るための手段をさらに含む、上記装置である。
【0037】
本発明のもう一つの実施態様は、前記表面レベル段の方向と第一の面の前方変位の平均方向とが1°〜90°の角度で交差する、上記装置である。
【0038】
本発明のもう一つの実施態様は、プロファイル面を追い越す第一の面の移動が少なくとも一つの再循環流を発生させる、上記装置である。
【0039】
本発明のもう一つの実施態様は、流体中の粒子を粒度分離するための、上記装置の使用である。
【0040】
発明の詳細な説明
本発明は、平坦面(M)の、実質的に鋭角的な段(ST)によって分けられた異なる深さの少なくとも二つの微細加工領域(C1、C2...)を有する第二のプロファイル面(S)に沿う平行運動から発生する再循環流から生じる予想外の粒度分離効果に基づく。
【0041】
本明細書で開示するように、二つの明確な陥凹領域の間の鋭角的な移行部は表面レベル段と呼ばれる。平坦とは、本質的に平面状であることを意味するが、表面の欠陥及び溝又は規則的な凹凸があり、それでも本質的には平面状である面を含む。
【0042】
本発明の方法及び装置によると、図1に示すような発生する再循環流(RF)が大きめの粒子(O)を段の後の細めの流路部分から押し離すが、小さめの粒子(U)は段を通過することができる。
【0043】
再循環流とは、第一の平坦面とプロファイル面の機械加工領域とによって形成される流路を通過することができない大ぶりの粒子(たとえば図1(A)の「O」)が、プロファイル面に沿って第一の平坦面の方向とは反対の方向に逆流する(図1(B)の「RF」)本発明で観察される現象である。換言するならば、排除された粒子の逆流である。大ぶりの粒子「O」は同じ点を中心に循環するわけではないため、再循環流は閉鎖うずではない。代わりに、大ぶりの粒子は、プロファイル面に沿って第一の平坦面とは反対の方向に移動し続けたのち、たとえば側方流路によって収集される。
【0044】
理解されるように、本明細書で開示する分離効果は粒度選択的である。粒子が大きければ大きいほど、粒子が受ける反発力は大きくなり、段を越えて通過する確率は低くなる。分離効果は、大きめの粒子が段前面に押し当てられ、それによって流路を閉塞することを防ぐような方法で作用する。したがって、再循環流現象は、大きめの粒子が階段状の流路縮小部に押し込まれることを防ぐため、本発明の作動にとって不可欠である。
【0045】
作動中、一方の面が他方の面に向けて押されるような力(好ましくは0.1〜100N/cm2)が加えられる。本発明の一つの態様によると、力の方向又は正味方向は平坦な第一面に対して垂直である。この力が第一の平坦面を第二のプロファイル面に向けて又はその反対に押す。効果は、両面を密接させて維持することである。この力は、各段の前面の近くで発生する過剰な圧力が、再循環流を生じさせるのではなく、固定面の垂直な移動を生じさせることを防ぐために必要である。
【0046】
力は、いかなる公知の方法によって加えてもよい。たとえば、面が水平に配設され、たとえばベンチ又は平らなベッドによって下から支えられている場合には、重み又は荷重を上から加えると、一方の面がもう一方の面に向けて押される結果を得ることができる。あるいはまた、水平配設では、力は、構造物(上側の支えと組み合わせたもの)の下から発生させてもよく、一方の面が他方の面に向けて押される同じ効果が達成される。
【0047】
力は、一方の面が他方の面に向けて押される結果を生じさせる力を受けることができるいずれかの面のどの部分から発生させてもよい。
【0048】
両方の面が水平、垂直又は水平線に対して任意の角度で配設されるということが本発明の範囲内である。面が非水平に配設される場合、力は、たとえば、一方又は両方の面の外部に適用された、適当に配設されたクランプ、油圧ピストン、ラック&ピニオンアセンブリなどによって提供することができる。
【0049】
本発明は、重力から独立しており、したがって、上述したように、構造物は、水平線に対していかなる角度に維持してもよい。さらには、本発明にしたがって、平坦面は、第二の面との接触を維持しながら、下向きに配されてもよいし、上向きに配されてもよい。
【0050】
本明細書で定義する領域の深さとは、機械加工の深さ、すなわち、プロファイル面と、異なる深さの領域の導入の前のそのプロファイル面の平面との間の最小距離をいう。このような深さを図1(A)では参照符号「D」によって示す。本発明の一つの実施態様によると、領域の深さは2ナノメートル〜200マイクロメートルの範囲である。本発明のもう一つの実施態様によると、隣接する段と段との間の深さの違いは一定である。
【0051】
異なる深さの領域の数は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20であることができる。
【0052】
移動する壁を使用して流体の薄い層を引きずって流路深さの急激な変化を通過させるとき重要な再循環流が発生するという事実は、市販の計算流体力学ソフトウェアパッケージを用いる流体力学的シミュレーションを実施することによって実証された(図2a)。従来の加圧駆動流を適用した場合、再循環流パターンは全く存在しない(図2b)。この場合、試料の粒子に作用する流体力学的力はすべて段の入口の方向を指す。これは、当然、細孔閉塞の主要な原因となり、加圧駆動される当該技術の装置及び方法に伴う明白な問題である。
【0053】
図3は、段の近くで連続的に前、後及び横に移動する大きめの粒子の画像シーケンスを示す。この挙動は、再循環流の存在によってのみ説明することができる。加圧駆動流では、粒子は、絶えず段の前面に押し当てられ、段から離れる自由変位運動を起こさないであろう。加圧駆動流で得られるタイプの粒度分離は段閉塞の影響を非常に受けやすいが、再循環によって生じる二次流を介して得られるタイプの粒度分離は、大きめの粒子を規則的に段の前面から離れさせ、それによって小さめの粒子が段を通過する機会を与える。
【0054】
図4は、異なる深さの微細加工領域を有する固定面の可能な二つの配設例を示す(ゾーンは、それらの深さが前方変位の正味方向に減少するように配設されている)。一つの好ましい方法は、連続する表面陥凹段が線形ゾーンを形成する場合に得られ(図4a)、もう一つの好ましい方法は、連続する表面陥凹段が円形ゾーンを形成する場合に得られる(図4b)。再循環流の強さを制御するためには、連続陥凹流路領域の幅を変化させることができる(図4c)
【0055】
段の平面図はすべての可能な形状を有することができ、図4に示す直線的形状に限定されるべきではないことに留意すべきである。
【0056】
本発明の態様は、第一の面が分離面と重なり合うところで、第一の面が、分離面のうち、異なる深さの領域のない部分に対して平行である、すなわち、異なる深さの導入領域よりも前に見られるような分離面の平面に対して平行であるものである。
【0057】
本発明のもう一つの態様は、第一の面が、分離面のうち、異なる深さの領域のない部分に対して平行には位置せず、それに対して斜めに位置するものである。角度は、達成される分離が平行配設の場合と同じ又はそれよりも良好になるような角度であることができる。
【0058】
図1に示す再循環流の強さを増すために、移動面を高頻度で連続する一連の移動・停止シーケンス又は一連の前後方向の変位に付すことが本発明の範囲内である。図5は、前方変位(速度vF、期間tF)、後方変位(速度vB、期間tB)及び停止期間(期間ts)のタイミングスケジュールの可能な例を示す。
【0059】
本発明の一つの実施態様では、変位速度は、他の数値を排除することなく、10cm/s〜0.01μm/s、5cm/s〜0.01μm/s、1cm/s〜0.01μm/s、10cm/s〜0.1μm/sもしくは10cm/s〜0.5μm/s又は好ましくは1μm/s〜1mm/sである。
【0060】
停止期間は、粒子が純粋なブラウン運動によって一つの等しい直径距離を移動するために必要な時間の程度であることが好ましい。本発明の一つの実施態様では、停止期間は、他の数値を排除することなく、10μs〜50ms、100μs〜50ms、1ms〜50msもしくは1μs〜10ms又は好ましくは1μs〜50msであるべきである。
【0061】
段閉塞の危険を最小限にするために、本発明の態様は、各個々の変位段階で生じる変位が好ましくは個々の粒子の直径よりも小さく、したがって、他の数値を排除することなく、好ましくは0.01μm〜100μmであるということである。
【0062】
小さめの粒子が連続する表面レベル段を通過するために、本発明の態様は、すべての前方変位距離の合計がすべての後方変位距離の合計よりも大きいということである。上述の変位の頻度、変位速度及び変位距離は、第一の面の移動を駆動するための技術手段の、たとえばステッピングモータの現状の能力の範囲内である。また、図5に示すタイミングスケジュールは、長方形で反復的な変位速度プロフィールの使用を示唆するが、本発明はまた、傾き(又は正弦波状もしくは他の可能な漸進的変化)を有する非反復的な変位速度プロフィールの使用にも関するということに留意されたい。
【0063】
本発明者らは、図1に示す再循環流パターンの強さを増すためのもう一つの手段が、各段の手前での微細加工再循環チャンバの配設(図6)、すなわち異なる深さの領域におけるチャンバに通じる開口であるということを見いだした。本発明の一つの態様によると、これらの再循環チャンバは、他の数値を排除することなく、深さ100nm〜50μmであり、好ましくは、長さ1μm〜100μmであるべきである。再循環チャンバは、各段の保持能力を相当に増すというさらなる利点を有している。
【0064】
小さめの粒子が再循環チャンバ(RC)に入ることを防ぐために、本発明の態様は、すべての粒子を、それらが最初の段に達する前に、移動壁に押し当てる。移動壁に付いた状態ですべての粒子を運ぶことにより、それらの粒子は再循環チャンバに入ることができない。粒子を移動壁に押し当てる力が強すぎない限り、付着した粒子は、大きめの粒子のための段に達するとただちに移動壁から離れる。この力を発生させるための手段は、たとえば、非共有結合的結合、疎水性又はイオン交換塗膜の移動壁への塗布又は物理吸着もしくは化学吸着を達成するための他の手段又はチューニング可能な半径方向の力場(電気力、磁力、誘電泳動力、熱泳動力など)の印加であることができるが、これらに限定されない。
【0065】
力の方向が逆転する場合及びこの力が分離される細胞又は粒子の所与の性質にとって選択的である場合、所与のタイプの粒子を、固定表面壁に吸着させることにより、分離工程から一時的に抜き取ることができる。これを利用して、粒度が同じであるが他の性質、たとえば電荷、磁化率又は誘電分極性が異なる粒子を分離することができる。粒度が同じであるが密度又は誘電分極係数が異なる粒子を分離するための誘電泳動力の使用が、たとえば(Wang et al., 2000)に記載されている。
【0066】
分離後、保持された粒子は、たとえば、光学ウィンドウ越しに直接蛍光又は吸光度計測を実施することによって検出することができる。しかし、粒子はまた、段に対して平行な流れを加えて、各段の少なくとも一つの側に配設された側方流路の方向に粒子を運び、そこで、後続の分析又は処理のために粒子を収集することができる。これが本発明のもう一つの態様である。
【0067】
大きめの粒子は段前面に押し当てられず、自由に動くことができるため(図3を参照)、本明細書で開示する粒度分離効果を利用して連続的分離を実施することもできる。この連続モードは、各段の近くに側方流路を配設し、試料を連続方式で供給することによって得ることができる。側方流路の存在が側方流路(SC)の方向への三次流(TF)を生じさせるため、大きめの粒子は、側方流路の方向への正味の力を受ける(図7a)。
【0068】
本発明の態様は、側方流路が、表面レベル段の近くの異なる深さの領域を粒度分離された粒子の出口と接続する、第二の面における溝又は通路から形成されるものである。
【0069】
側方流路の方向へのさらなる衝撃を大きめの粒子に与えるために、本発明のもう一つの態様は、段を、移動面が変位する方向に対し、カーブするか、所与の角度(図7aに示す90°角とは異なる)を形成するように機械加工することができることである(図7b)。本発明の態様は、角度が、1〜90°、10〜90°、20〜90°、30〜90°、40〜90°、50〜90°、60〜90°、70〜90°又は80〜90°の範囲であることができるものである。出口路の容量を倍増するために、本発明の態様は、図7cに示すような対称に傾きを有するプロフィールを使用することができるものである。移動面を回転モードで作動させる場合、本発明の態様は、段が、カーブしながら半径方向に設けられるものである(図7d)。本発明のすべての連続作動装置の場合、試料は、流路入口面の限られた部分(In)のみに適用することが好ましい。これは、小さめ粒子が三次流によって連行されることを防ぐ。
【0070】
好ましい実施態様では、異なる段での再循環流の強さを制御するため、流路の深さ、長さ及び幅は互いに異なる。
【0071】
本発明者らは、剪断駆動流が個々の粒子の速やかな回転を誘発するということを見いだした。生物学及び生化学の分野で応用する場合、これは、細胞又はタンパク質が流路壁に吸着する可能性を減らすため、非常に有利な特徴である。
【0072】
本発明のもう一つの利点は、方法及び装置が、本発明の実施態様で、完全に別個の部品(面)が二つしか要らず、それらが、作動中に一方の面を他方の面に向けて押すような力を加えるだけで一体に保持されるということである。作動ののち、力を容易に解除することができ、二つの平坦面を簡単に引き離すことができる。これは当然、作動が密閉流路(当然、入口及び出口は別として)を要する加圧又は電気駆動流システムの清浄処理を大幅に容易にする。
【0073】
参考文献
Hvichia, G. and Gasparini, P., microstructure for particle and cell separation, identification, sorting and manipulation, WO/03/009831
Desmet G. and Baron, G. V. (1998), Method for separating a fluid substance and a device therefor, WO/9855858
Armstrong, D. W. & Desai, M. J., Separation, identification and characterization of microorganisms by capillary electrophoresis. Microbiology and molecular biology review, 2003, 67, 38-51
Wang, X. B.; Yang, J.; Huang, Y.; Vykoukal, J.; Becker, F. F.; Gascoyne, C. (200). Cell Separation by Dielectrophoretic Field-flow-fractionation Anal Chem. 72, 832-839
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】誘発された再循環流が、段の後の流路部分に大きめの粒子が入ることを防ぐ様子を注入段階(A)及び分離段階(B)で示す基本的分離機構の図である。
【図2】(A)剪断駆動流条件と(B)加圧駆動流条件とでの流れパターンの比較である。速度プロフィールは、市販の計算流体力学ソフトウェアパッケージを使用して計算したものである。
【図3】微細加工された段を通過する平坦面の移動によって運ばれるポリスチレンビーズの移動の画像記録から取り出した連続フレームである。矢印は、粒子の瞬間的な速度の方向を示す。連続する二つのフレーム間の時間間隔は50msである。
【図4】本発明にしたがって粒度分離効果を誘発するために使用することができる微細加工面の三つの例、すなわち、一定の幅を有する線形作動路(A)、変化する流路幅を有する線形作動路(B)及び回転作動路(C)(平面図、一律の拡大比ではない)である。
【図5】提案される断続的運搬モード(A)及び交互運搬モード(B)の可能なスケジュールである。
【図6】再循環流の強さを増すために各段の手前に配設することができる微細加工再循環チャンバの二つの例、すなわち、まっすぐな側壁を有するチャンバ(A)及び散開する側壁を有するチャンバ(B)の略図(縦方向図、一律の拡大比ではない)である。
【図7】連続方式の分離の伝達のための側方路及び傾きある段の配設の例、すなわち、まっすぐな段を有する線形路(A)、一つの傾きのある段を有する線形路(B)、二つの対称な傾きのある段を有する線形路(C)、カーブした半径方向の段を有する円筒形流路(D)(平面図、一律の拡大比ではない)である。
【図1(A)】

【図1(B)】

【図2(A)】

【図2(B)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中の粒子を粒度にしたがって分離するための方法であって、
a)前記粒子を含有する流体を、表面レベル段を形成する異なる深さの少なくとも二つの隣接領域を有するプロファイル面に沿って運ぶステップであって、
平坦な第一の面をプロファイル面に沿って機械的に移動させることによって流体が運ばれ、
異なる深さの隣接領域が、それらの領域の深さが第一の面の前方変位の正味方向に減少するように配設されており、
一方の面が他方の面に向けて押されるように力が加えられるものであるステップと、
b)前記第一の面を、前記プロファイル面を追い越すように移動させることによって発生する、排除された粒子の逆流によって前記粒子の分離を可能にするステップと
を含む方法。
【請求項2】
第一の面がプロファイル面と重なり合うところで、第一の面が、プロファイル面のうち、異なる深さの領域のない部分に対して平坦かつ平行に位置する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第一の面がプロファイル面と重なり合うところで、少なくとも異なる深さの領域が第一の面と重なり合う、請求項1及び2記載の方法。
【請求項4】
異なる深さの一つ以上の隣接領域から粒子を収集するステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
表面レベル段に隣接する二つ以上の領域の幅が異なる、請求項1〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
異なる深さの領域が微細加工されている、請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
第一の面が断続的に移動する、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
第一の面が交互に前後に移動し、各移動が、正味変位が前進方向になるように選択される期間及び速度を有する、請求項1〜7のいずれか記載の方法。
【請求項9】
異なる深さの一つ以上の前記領域それぞれがチャンバに通じる開口を含む、請求項1〜8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
前記粒子が、前記表面レベル段に達する前に、前記第一の面に非共有結合的に結合している、請求項1〜9のいずれか記載の方法。
【請求項11】
所与の期間中、選択的な力場を印加して粒子の少なくとも一部を選択的かつ一時的に所定の面に向けて送る、請求項1〜10のいずれか記載の方法。
【請求項12】
前記表面レベル段の少なくとも一つの側の近くに側方出口路が設けられている、請求項1〜11のいずれか記載の方法。
【請求項13】
分離ののち、前記表面レベル段に対して平行な第二の流れを加えることによって粒子を収集する、請求項1〜12のいずれか記載の方法。
【請求項14】
前記流体物質を流路入口に連続的に供給し、一つ以上の出口路から連続的に抜き取る、請求項1〜13のいずれか記載の方法。
【請求項15】
前記出口路で粒子を収集するステップをさらに含む、請求項1〜14のいずれか記載の方法。
【請求項16】
前記表面レベル段の方向と流れの平均方向とが1°〜90°の角度で交差する、請求項1〜15のいずれか記載の方法。
【請求項17】
前記流体物質を流路入口の限られた区分のみに供給する、請求項1〜16のいずれか記載の方法。
【請求項18】
流体中の粒子を粒度にしたがって分離するための装置であって、
表面レベル段を形成する異なる深さの少なくとも二つの隣接領域を有するプロファイル面と、
プロファイル面に沿って機械的に移動することができる平坦な第一の面と、
前記第一の面をプロファイル面に沿って機械的に移動させるための手段と
を含み、異なる深さの隣接領域が、表面レベル段の深さが第一の面の前方変位の正味方向に減少するように配設されている装置。
【請求項19】
第一の面がプロファイル面と重なり合うところで、第一の面が、プロファイル面のうち、異なる深さの領域のない部分に対して実質的に平坦かつ平行に位置する、請求項18記載の装置。
【請求項20】
プロファイル面の、少なくとも異なる深さの領域が第一の面と重なり合う、請求項18及び19記載の装置。
【請求項21】
少なくとも一方の面に圧力を加えるための手段をさらに含む、請求項18〜20のいずれか記載の装置。
【請求項22】
表面レベル段に隣接する異なる深さの二つ以上の領域の幅が異なる、請求項18〜21のいずれか記載の装置。
【請求項23】
異なる深さの領域が微細加工されている、請求項18〜22のいずれか記載の装置。
【請求項24】
第一の面が断続的に移動することができる、請求項18〜23のいずれか記載の装置。
【請求項25】
第一の面が交互に前後に移動することができ、各移動が、正味変位が前進方向になるように選択される期間及び速度を有する、請求項18〜24のいずれか記載の装置。
【請求項26】
異なる深さの一つ以上の前記領域それぞれがチャンバに通じる開口を含む、請求項18〜25のいずれか記載の装置。
【請求項27】
前記表面レベル段の少なくとも一つの側の近くに側方出口路が設けられている、請求項18〜26のいずれか記載の装置。
【請求項28】
前記表面レベル段に対して平行な第二の流れを加えるための手段をさらに含む、請求項18〜27のいずれか記載の装置。
【請求項29】
入口路及び一つ以上の出口路をさらに含む、請求項18〜28のいずれか記載の装置。
【請求項30】
前記流体を流路入口に連続的に供給し、流体を一つ以上の出口路から抜き取るための手段をさらに含む、請求項18〜29のいずれか記載の装置。
【請求項31】
前記表面レベル段の方向と第一の面の前方変位の平均方向とが1°〜90°の角度で交差する、請求項19〜30のいずれか記載の装置。
【請求項32】
プロファイル面を追い越す第一の面の移動が少なくとも一つの再循環流を発生させる、請求項19〜31のいずれか記載の装置。
【請求項33】
流体中の粒子を粒度分離するための、請求項19及び32記載の装置の使用。

【図3】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【図4(C)】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図6(A)】
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【図6(B)】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図7(C)】
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【図7(D)】
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【公表番号】特表2007−522913(P2007−522913A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530054(P2006−530054)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010926
【国際公開番号】WO2005/036139
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(501180768)フリーイェ・ユニヴェルシテイト・ブリュッセル (4)
【氏名又は名称原語表記】VRIJE UNIVERSIEIT BRUSSEL
【Fターム(参考)】