説明

流体噴射装置

【課題】保湿用空間が飽和状態に達するまでに掛かる時間を短縮できる流体噴射装置を提供する。
【解決手段】インクを噴射する記録ヘッド2と、インクが付着するノズル形成面21Aを囲って保湿用空間Sを形成すると共に該保湿用空間S内において所定の液体を揮発させてノズル形成面21Aを保湿する保湿ユニット11とを有するプリンター1であって、保湿ユニット11は、保湿用空間S内に、上記所定の液体として、水よりも揮発性の高い第1保湿液L1を供給する第1保湿液供給装置50と、保湿用空間S内に、上記所定の液体として第1保湿液L1の他に、第1保湿液L1よりも揮発性の低い第2保湿液L2を供給する第2保湿液供給装置60と、を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を噴射する流体噴射装置としては、例えば下記特許文献1に記載のインクジェット式プリンターが知られている。
このプリンターは、インクの増粘による弊害、例えばインクを噴射するノズルの目詰まりを防止する保湿ユニットを備え、印刷処理を行っていない待機状態において、ノズル形成面を保湿用キャップ装置で囲うと共に該保湿用キャップ装置内の空間(保湿用空間)に所定の液体を供給し、その液体を揮発させてノズルを保湿する構成となっている。なお、保湿ユニットの保湿対象は、ノズルの他に、インクの予備吐出を受ける予備吐出用キャップ装置やノズル面に付着したインクをワイピングするワイパー等のインク付着部(流体付着部)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−101634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の保湿ユニットの保湿に使用する液体としては、純水に防腐剤を添加した液体を用いていた。しかしながら、この液体では、その揮発成分により保湿用空間が飽和状態に達するまでに時間が掛かるため、その間におけるインクの増粘が懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題点に鑑みてなされたもので、保湿用空間が飽和状態に達するまでに掛かる時間を短縮できる流体噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体を噴射する流体噴射ヘッドと、上記流体が付着するノズル形成面を囲って保湿用空間を形成すると共に該保湿用空間内において所定の液体を揮発させて上記ノズル形成面を保湿する保湿ユニットとを有する流体噴射装置であって、上記保湿ユニットは、上記保湿用空間内に、上記所定の液体として、水よりも揮発性の高い第1保湿液を供給する第1保湿液供給部と、上記保湿用空間内に、上記所定の液体として上記第1保湿液の他に、上記第1保湿液よりも揮発性の低い第2保湿液を供給する第2保湿液供給部と、を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、水よりも揮発性の高い第1保湿液を保湿用空間内に供給して揮発させることで、保湿用空間内を速やかに飽和状態とさせることができ、さらに、この第1保湿液よりも揮発性の低い第2保湿液を保湿用空間内に供給して揮発させることで、長期に亘って保湿用空間内の飽和状態を維持することができる。すなわち、第1保湿液のみではすぐに揮発して無くなってしまうため、長期に亘って保湿用空間内を飽和状態で維持することは難しいが、これを第1保湿液よりも揮発性の低い第2保湿液で補うことで、保湿用空間を速やかに飽和状態とする即効性と、保湿用空間の飽和状態を長期間に亘って維持する持続性とを両立させることができる。
【0007】
また、本発明においては、上記第1保湿液は、エタノールであるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、水よりも揮発性の高いエタノールを第1保湿液として用いる。
【0008】
また、本発明においては、上記第2保湿液は、水であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、水を第2保湿液として用いる。
【0009】
また、本発明においては、上記保湿ユニットは、上記保湿用空間内において上記第1保湿液を貯溜する第1貯溜部と、上記保湿用空間内において上記第2保湿液を貯溜する第2貯溜部とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、保湿用空間内において第1保湿液と第2保湿液とを別に貯溜することで両者を混和させることなく同時に揮発させることができる。また、この構成によれば、第1保湿液と第2保湿液とが混和することがないため、例えば、エタノールが水に混和することによる揮発性の低下を抑制することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記保湿用空間は、所定方向に延在しており、上記第1貯溜部と上記第2貯溜部とは、並列して上記所定方向に延在しているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、保湿用空間が所定方向に延在している場合に、その延在方向に第1貯溜部と第2貯溜部とを並列して延在させれば、その延在方向において飽和状態に達する時間のバラツキを低減させることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記第1貯溜部の少なくとも一部と上記第2貯溜部の少なくとも一部とは、上記保湿用空間内において互い違いに配置されているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第1貯溜部の少なくとも一部と第2貯溜部の少なくとも一部とを保湿用空間内において互い違いに配置すれば、保湿用空間内において飽和状態に達する時間のバラツキを低減させることができる。
【0012】
また、本発明においては、上記保湿用空間に上記第1保湿液を供給するタイミングと上記保湿用空間に上記第2保湿液を供給するタイミングとを異ならせるように、上記第1保湿液供給部及び第2保湿液供給部の駆動を制御する制御装置を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第1保湿液は第2保湿液より揮発による消費が激しいので、揮発性の異なる2種類の保湿液を異なるタイミングで供給可能とすれば、保湿用空間内部湿度の状況に応じて湿度を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態におけるプリンターの構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における記録ヘッドに設けられたノズルの配列を示す図である。
【図3】本発明の実施形態における記録ヘッドの内部構成を示す部分断面図である。
【図4】本発明の実施形態における保湿ユニットを示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態におけるキャップ部材の構成を示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態における保湿ユニットによる保湿を時系列的に示す図である。
【図7】本発明の一別実施形態におけるキャップ部材の構成を示す平面図である。
【図8】本発明の一別実施形態におけるキャップ部材の構成を示す平面図である。
【図9】本発明の一別実施形態におけるキャップ部材を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る流体噴射装置の各実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、プリンターと称する)を例示する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態におけるプリンター1の構成を示す斜視図である。
同図に示すように、プリンター1は、流体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2を搭載すると共にインクカートリッジ3を着脱可能に装着するキャリッジ4と、記録ヘッド2の下方に配設され記録紙6が搬送されるプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、記録紙6を紙送り方向に搬送する紙送り機構8とを有する構成となっている。加えて、プリンター1は、当該プリンター1全体の動作を制御する制御装置CONTを有している。なお、上記紙幅方向とは、主走査方向(ヘッド走査方向)である。上記紙送り方向とは、副走査方向(主走査方向に直交する方向)である。
【0016】
インクカートリッジ3としては、本実施形態のようにキャリッジ4に装着するものには限らず、プリンター1の筐体側に装着してインク供給チューブを介して記録ヘッド2に供給するタイプのものを採用してもよい。インクカートリッジ3は、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)などの異なる色のインクが収容されている。これらの異なる色のインクは、インク毎に異なる種類の材料によって構成されている。
【0017】
ガイドロッド9は、主走査方向に架設された支持部材である。キャリッジ4は、このガイドロッド9に支持された状態で取り付けられている。このキャリッジ4は、キャリッジ移動機構7によりガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するようになっている。リニアエンコーダ10は、キャリッジ4の主走査方向上の位置を検出する。この検出信号は、位置情報として制御装置CONTに送信されるようになっている。制御装置CONTは、このリニアエンコーダ10からの位置情報に基づいて記録ヘッド2の走査位置を認識し、記録ヘッド2による記録動作(吐出動作)等を制御するようになっている。
【0018】
図2は、本発明の実施形態における記録ヘッド2に設けられたノズル17の配列を示す図である。
同図に示すように、記録ヘッド2は、インクを噴射する複数のノズル17が設けられたノズル形成面(噴射面)21Aを有する。ノズル形成面21Aには、複数のノズル17ごとにノズル列16が形成されている。各ノズル列16においては、例えば異なる色のインクを吐出可能になっている。本実施形態ではインクの色に対応して4列(16(Bk),16(M),16(C),16(Y))設けられている。1つのノズル列16は、例えば、180個のノズル17によって構成されている。
【0019】
図3は、本発明の実施形態における記録ヘッド2の内部構成を示す部分断面図である。
同図に示すように、記録ヘッド2は、ヘッド本体18と、ヘッド本体18に接続された流路形成ユニット22とを備えている。流路形成ユニット22は、振動板19と、流路基板20と、ノズル基板21とを備えると共に、共通インク室29と、インク供給口30と、圧力室31とを形成する。さらに、流路形成ユニット22は、ダイヤフラム部として機能する島部32と、共通インク室29内の圧力変動を吸収するコンプライアンス部33とを備える。ヘッド本体18には、固定部材26と共に駆動ユニット24を収容する収容空間23と、インクを流路形成ユニット22に案内する内部流路28とが形成される。
【0020】
上記構成の記録ヘッド2によれば、ケーブル27を介して駆動ユニット24に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。これにより、振動板19がキャビティに接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。このため、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル17から、インクが噴射される。
【0021】
図1に戻り、記録ヘッド2の移動範囲のうちプラテン5の外側の領域には、記録ヘッド2の走査起点となるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、保湿ユニット11が設けられている。保湿ユニット11は、キャップ部材12によって記録ヘッド2のノズル形成面21Aを囲い、インク溶媒の蒸発を防止する構成となっている。保湿ユニット11は、印刷処理の待機時間や電源オフ時間において記録ヘッド2のノズル形成面21Aを囲うように配置されるが、これは以下の理由による。印刷処理やフラッシング処理(印刷処理とは別にノズル17から所定量のインクを吐出して増粘インク等を除去する処理)等の後において、ノズル形成面21Aやノズル17内部にインク滴が付着したままとなる場合がある。この場合、その付着したインク滴が乾燥して増粘するとノズル17を塞ぎ、噴射不良の原因となりえる。そこで、このノズル形成面21A等に付着したインク滴を乾燥させないように、印刷処理の待機時間や電源オフ時間には保湿ユニット11で記録ヘッド2のノズル形成面21Aを囲うようにしている。
【0022】
次に、図4及び図5を参照して、本実施形態における保湿ユニット11の特徴的な構成について説明する。
図4は、本発明の実施形態における保湿ユニット11を示す構成図である。
図5は、本発明の実施形態におけるキャップ部材12の構成を示す平面図である。
【0023】
キャップ部材12は、記録ヘッド2に対向する側が開口する略枡形状を有する。キャップ部材12の開口縁部は、ゴム部材等の弾性部材から形成され、ノズル形成面21Aを囲うように記録ヘッド2あるいはキャリッジ4と当接することで、保湿用空間Sを形成可能な構成となっている。キャップ部材12は、不図示の昇降装置により、上下方向に移動可能な構成となっている。昇降装置としては、例えばモーターとスクリューネジとを組み合わせた機構や、カム機構、ラック・ピニオン機構等の公知の昇降手段を用いることができる。
【0024】
本実施形態のキャップ部材12内部には、仕切り13が設けられる(図4及び図5参照)。仕切り13は、キャップ部材12の底部から所定高さで立設して底部を二分することで、互いに異なる揮発性を有する液体(保湿液(後述))を貯溜する第1貯溜部14A及び第2貯溜部14Bを形成する。
第1貯溜部14A及び第2貯溜部14Bには、液体を吸収する吸収材15が設けられている。吸収材15としては、例えばウレタンや、PVA(ポリビニルアルコール)スポンジ、不織布等の液体を吸収して保持可能な任意の部材を用いることができる。また、第1貯溜部14A及び第2貯溜部14Bに貯溜された液体は、各底部からポンプ40により吸引除去可能であり、ポンプ40により吸引除去された液体は廃液タンク41に移送される構成となっている。
【0025】
保湿ユニット11は、第1貯溜部14Aに水よりも揮発性の高い保湿液(以下第1保湿液L1と称する)を供給する第1保湿液供給装置50を有する。
第1保湿液供給装置50は、第1保湿液L1を貯溜する第1保湿液タンク51と、第1保湿液タンク51に貯溜されている第1保湿液L1を第1貯溜部14Aに向けて圧送するポンプ52とを有する。
本実施形態の第1保湿液タンク51は、第1保湿液L1として、水よりも揮発性の高いエタノールを貯溜している。
【0026】
保湿ユニット11は、第2貯溜部14Bに第1保湿液L1よりも揮発性の低い保湿液(以下第2保湿液L2と称する)を供給する第2保湿液供給装置60を有する。
第2保湿液供給装置60は、第2保湿液L2を貯溜する第2保湿液タンク61と、第2保湿液タンク61に貯溜されている第2保湿液L2を第2貯溜部14Bに向けて圧送するポンプ62とを有する。
本実施形態の第2保湿液タンク61は、第2保湿液L2として、第1保湿液L1よりも揮発性の低い水(純水に防腐剤を添加した液体を含む)を貯溜している。
【0027】
続いて、図6を参照して、上記構成の保湿ユニット11による保湿動作及びその作用効果について説明する。
図6は、本発明の実施形態における保湿ユニット11による保湿を時系列的に示す図である。なお、同図において、吸収材15は視認性向上のため図示を省略する。また、同図において、白色ドットは第1保湿液L1の揮発成分を示し、黒色ドットは第2保湿液L2の揮発成分を示す。
【0028】
保湿ユニット11は、ホームポジションに位置する記録ヘッド2を保湿すべく、キャップ部材12を上昇させて保湿用空間Sを形成する。
そして、保湿ユニット11は、第1保湿液供給装置50に指令を与えて、ポンプ52を駆動させ第1保湿液タンク51から第1保湿液L1を圧送し、第1貯溜部14Aに第1保湿液L1を供給する。また同時に、保湿ユニット11は、第2保湿液供給装置60に指令を与えて、ポンプ62を駆動させ第2保湿液タンク61から第2保湿液L2を圧送し、第2貯溜部14Bに第2保湿液L2を供給する。
【0029】
図6(a)に示すように、第1貯溜部14Aに貯溜された第1保湿液L1(エタノール)は、第2貯溜部14Bに貯溜された第2保湿液L2(水)よりも揮発性が高いため、第2保湿液L2よりも多く揮発し、その揮発成分が保湿用空間Sを速やかに満たし飽和状態とさせる。これにより、記録ヘッド2のノズル形成面21Aに付着したインク滴の溶媒が、保湿用空間S内において揮発してしまうことを速やかに防止することができる。
【0030】
図6(b)に示すように、保湿開始から所定時間経過すると、第2保湿液L2も揮発していき、第1保湿液L1の揮発成分と第2保湿液L2の揮発成分とが協同して保湿用空間Sを満たし飽和状態とさせる。
なお、第1保湿液L1は、第2保湿液L2よりも揮発性が高いため、第2保湿液L2より時間経過による減少が激しい。
【0031】
図6(c)に示すように、保湿開始から更に時間が経過すると、第1保湿液L1は揮発して完全に無くなり、第2保湿液L2の揮発成分が、保湿用空間Sを満たし飽和状態を維持する。第2保湿液L2は、第1保湿液L1よりも揮発性が低いため、長期間に亘り保湿用空間Sを飽和状態で維持することができる。
【0032】
したがって、上述した本実施形態によれば、インクを噴射する記録ヘッド2と、インクが付着するノズル形成面21Aを囲って保湿用空間Sを形成すると共に該保湿用空間S内において所定の液体を揮発させてノズル形成面21Aを保湿する保湿ユニット11とを有するプリンター1であって、保湿ユニット11は、保湿用空間S内に、上記所定の液体として、水よりも揮発性の高い第1保湿液L1を供給する第1保湿液供給装置50を有するという構成を採用することによって、保湿用空間S内を速やかに飽和状態とさせて、インクの増粘による不具合を速やかに防止することができる。
【0033】
また、本実施形態においては、保湿ユニット11は、保湿用空間S内に、上記所定の液体として第1保湿液L1の他に、第1保湿液L1よりも揮発性の低い第2保湿液L2を供給する第2保湿液供給装置60を有するという構成を採用することによって、水よりも揮発性の高い第1保湿液L1を保湿用空間S内に供給して揮発させることで、保湿用空間S内を速やかに飽和状態とさせることができ、さらに、この第1保湿液L1よりも揮発性の低い第2保湿液L2を保湿用空間S内に供給して揮発させることで、長期に亘って保湿用空間S内の飽和状態を維持することができる。すなわち、第1保湿液L1のみではすぐに揮発して無くなってしまうため、長期に亘って保湿用空間S内を飽和状態で維持することは難しいが、これを第1保湿液L1よりも揮発性の低い第2保湿液L2で補うことで、保湿用空間Sを速やかに飽和状態とする即効性と、保湿用空間Sの飽和状態を長期間に亘って維持する持続性とを両立させることができる。
【0034】
また、本実施形態においては、保湿ユニット11は、保湿用空間S内において第1保湿液L1を貯溜する第1貯溜部14Aと、保湿用空間S内において第2保湿液L2を貯溜する第2貯溜部14Bとを有するという構成を採用することによって、第1保湿液と第2保湿液との混和を防止するとともに同時に揮発させることができる。また、この構成によれば、第1保湿液L1と第2保湿液L2とが混和することがないため、エタノールが水に混和することによる揮発性の低下を抑制することができる。
【0035】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0036】
例えば、上述の実施形態においては、走査型ヘッドを保湿する保湿ユニットについて説明したが、本発明を、固定型ラインヘッドを保湿する保湿ユニットに適用してもよい。
ラインヘッドは、紙幅方向に亘ってノズルが複数並ぶ構成となっているため、このラインヘッドのノズル形成面を一括で囲う保湿用空間を形成するためには、図7に示すような紙幅方向に延在するキャップ部材12を用いるのが好ましい。図7のキャップ部材12は、第1貯溜部14Aと第2貯溜部14Bとがラインヘッドの長手方向に並列して延在する構成となっている。ラインヘッドを保湿する場合には、保湿用空間は長手方向に延在することとなるが、その延在方向に第1貯溜部14Aと第2貯溜部14Bとを並列して延在させれば、図5に示す配置と比べて、その延在方向において飽和状態に達する時間のバラツキを低減させることができる。
なお、キャップ部材12の構成としては、図8に示すような構成であってもよい。図8のキャップ部材12は、保湿用空間内において、第1貯溜部14Aの一部と第2貯溜部14Bの一部とが互い違いに配置されている。より詳しくは、第1貯溜部14Aの延在部14A1と第2貯溜部14Bの延在部14B1とが、長手方向と直交する方向において互い違いに配置されている。この構成によれば、第1保湿液の揮発領域と第2保湿液の揮発領域とが交互に配置されるため、保湿用空間において飽和状態に達する時間のバラツキをより低減させることができる。
【0037】
また、上述の実施形態においては、水よりも揮発性の高い第1保湿液としてエタノールを用いたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
例えば、第1保湿液としては、メタノールやプロパノール等のアルコール、ジエチルエーテルやTHF(テトラヒドロフラン)等のエーテル、アセトンやMEK(メチルエチルケトン)等のケトン、ペンタンやヘキサン等の飽和炭化水素、等を用いることができる。
なお、アルコール、エーテル、ケトン等の極性溶媒は、水に溶けやすいため、本実施形態のように、第1貯溜部と第2貯溜部とを分離した形態を採用することが好ましい。
一方、ペンタンやヘキサン等の非極性溶媒は、水に溶けにくいため、第1貯溜部と第2貯溜部とを設けずに、水と共通で貯溜してもよい。図9に示すように、第1保湿液L1が第2保湿液L2(水)より比重が小さければ、第1保湿液L1が保湿用空間に面するように比重分離するため、保湿開始の際は第1保湿液L1のみが揮発して、保湿用空間を速やかに飽和状態とすることができ、第1保湿液L1が揮発してなくなれば、下層の第2保湿液L2が保湿用空間に面して揮発することにより、飽和状態を維持することができる。
【0038】
また、上述の実施形態においては、保湿用空間に第1保湿液と第2保湿液を同量で供給する場合について説明したが、エタノールに代表される第1保湿液は水に比べて高価であり、その効果は保湿開始時の保湿用空間の飽和状態形成のための即効性にあるため、第1保湿液の供給量を第2保湿液の供給量よりも少なくする構成であってもよい。
また、保湿用空間が飽和状態となる時間は、外気の湿度にも依存するため、保湿ユニットは、この湿度に応じて第1保湿液の供給量を調節する構成であってもよい。例えば、保湿ユニットは、湿度90%の場合の第1保湿液の供給量を、湿度50%の場合の第1保湿液の供給量よりも少なくするように制御する構成であってもよい。
【0039】
また、上述の実施形態においては、保湿ユニットの保湿対象(流体付着部)としてノズル形成面を上げて説明したが、例えば、先行技術文献(特開2009−101634)に示すような記録ヘッドの予備吐出を受けるキャップ部材やノズルからインクを強制吸引するキャップ部材、さらにはノズル形成面をワイピングするワイパーを合わせて保湿する構成であってもよい。
【0040】
また、上述の実施形態においては、第1保湿液と第2保湿液とを同じタイミングで供給する場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
例えば、制御装置CONTで、保湿用空間に第1保湿液を供給するタイミングと保湿用空間に第2保湿液を供給するタイミングとを異ならせるように、第1保湿液供給装置及び第2保湿液供給装置の駆動を制御する構成であってもよい。
この構成によれば、第1保湿液は第2保湿液より揮発による消費が激しいので、揮発性の異なる2種類の保湿液を異なるタイミングで供給可能とすれば、保湿用空間内部湿度の状況に応じて湿度を制御することが可能となる。例えば、第2保湿液のみが揮発している状態で、所定タイミングで別途第1保湿液を追加供給することで、保湿用空間の湿度上昇速度を増加させることが可能となる。
【0041】
また、上述の実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の流体(液状体)を噴射する流体噴射装置である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、流体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体を含む。
【0042】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…プリンター(流体噴射装置)、2…記録ヘッド(流体噴射ヘッド)、21A…ノズル形成面(流体付着部)、11…保湿ユニット、12…キャップ部材、14A…第1貯溜部、14A1…延在部(第1貯留部の一部)、14B…第2貯溜部、14B1…延在部(第2貯溜部の一部)、50…第1保湿液供給装置(第1保湿液供給部)、60…第2保湿液供給装置(第2保湿液供給部)、L1…第1保湿液、L2…第2保湿液、S…保湿用空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する流体噴射ヘッドと、前記流体が付着するノズル形成面を囲って保湿用空間を形成すると共に該保湿用空間内において所定の液体を揮発させて前記ノズル形成面を保湿する保湿ユニットとを有する流体噴射装置であって、
前記保湿ユニットは、
前記保湿用空間内に、前記所定の液体として、水よりも揮発性の高い第1保湿液を供給する第1保湿液供給部と、
前記保湿用空間内に、前記所定の液体として前記第1保湿液の他に、前記第1保湿液よりも揮発性の低い第2保湿液を供給する第2保湿液供給部と、を有することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記第1保湿液は、エタノールであることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記第2保湿液は、水であることを特徴とする請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記保湿ユニットは、前記保湿用空間内において前記第1保湿液を貯溜する第1貯溜部と、前記保湿用空間内において前記第2保湿液を貯溜する第2貯溜部とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記保湿用空間は、所定方向に延在しており、
前記第1貯溜部と前記第2貯溜部とは、並列して前記所定方向に延在していることを特徴とする請求項4に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記第1貯溜部の少なくとも一部と前記第2貯溜部の少なくとも一部とは、前記保湿用空間内において互い違いに配置されていることを特徴とする請求項4または5に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記保湿用空間に前記第1保湿液を供給するタイミングと前記保湿用空間に前記第2保湿液を供給するタイミングとを異ならせるように、前記第1保湿液供給部及び第2保湿液供給部の駆動を制御する制御装置を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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