説明

流体圧サーボ式材料試験機

【課題】 流体圧シリンダの共振点がサーボ系の応答範囲内にあっても、その共振を抑制して制御ゲインを上げることができ、もって流体圧シリンダの共振周波数近傍の周波数域で安定した負荷制御を行うことのできる流体圧サーボ式材料試験機を提供する。
【解決手段】 負荷の目標値波形信号に対して制御量の検出値をフィードバックして得られる偏差信号に基づくサーボバルブ18の動作目標値に対し、サーボバルブ18のスプール18bの変位検出信号と速度検出信号の双方をフィードバックしてそれぞれの差を算出し、その各差を重み付けして加算した信号をスプールの駆動に供するとともに、動作目標値に対する速度検出信号の差の重みをより大きくすることにより、高い周波数域においてスプールを速度制御のもとに駆動してサーボバルブ18の圧力特御特性のもとに動作させ、負荷機構の共振を抑制して制御ゲインを高く設定することを可能とし、共振点近傍でも負荷機構を安定して制御することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料試験機に関し、更に詳しくは、負荷機構のアクチュエータとして油圧もしくは空圧シリンダを用いたサーボ式の材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
材料試験機においては、一般に、負荷機構の駆動により試験片に対してあらかじめ設定されている目標値信号に応じた負荷を加えるが、その負荷機構のアクチュエータとして、従来、油圧シリンダを用いたもの(例えば特許文献1参照)や、電磁アクチュエータを用いたもの(例えば特許文献2)などが知られている。
【0003】
油圧シリンダを負荷機構のアクチュエータとするものは、一般には500N〜数百kN程度の高負荷を試験片に与えるのに適しており、電磁アクチュエータを用いたものは100〜500N程度の小さい負荷を試験片に与えるのに適しているとされる。
【0004】
ところで、油圧シリンダを駆動するには油圧ユニットが必要であり、また、その油圧ユニットに対して作動油の往復のための配管が必要であることから、配管が複雑になるという問題がある。そこで、本発明者らは、材料試験機における負荷機構のコンパクト化を図るべく、1000N〜5000N程度の中程度の負荷範囲の材料試験機について、その負荷機構のアクチュエータとして空圧シリンダに注目し、種々の研究を重ねている。
【0005】
負荷機構のアクチュエータとして油圧もしくは空圧シリンダ等の流体圧シリンダを用いる場合には、通常、そのアクチュエータへの作動流体の供給制御に直動型のサーボバルブが用いられる場合が多い。直動型のサーボバルブは、バルブの開度を決定するスプールを、コイルに電流を流すことによって生じる電磁力により変位させるタイプのサーボバルブであって、バルブ内部にスプールを変位させるための電磁コイルと、スプールの変位を検出する変位センサとを設けた構造を採る。電磁コイルに流す電流は、外部から供給される動作目標値信号に対して変位センサによるスプールの変位検出信号をフィードバックして得られる偏差に応じた電流とされる(例えば特許文献3参照)。
【0006】
具体的には、外部から供給される動作目標値信号に変位センサによるスプールの変位検出信号をフィードバックして得られる偏差を、サーボアンプ(パワーアンプ)によって電流信号に変換することによって生成される。つまり、外部からの動作目標値信号の大きさに応じてスプールを移動させて弁開度を変化させ、作動油の流量を制御する。
【0007】
ここで、材料試験機の負荷機構の流体圧シリンダへの作動流体の供給制御に用いる場合には、上記したサーボバルブの動作目標値信号は、材料試験機のロードセルにより検出される試験片に対する試験力の検出値や、流体圧シリンダのストローク検出値などのうち、制御量として選択されている検出値を、負荷の目標値信号にフィードバックして得られる偏差信号に対応する信号が用いられる。
【特許文献1】特開平10−38780号公報
【特許文献2】特開平11−40413号公報
【特許文献3】特開平5−164109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、負荷機構のアクチュエータとしての油圧シリンダや空圧シリンダへの作動流体の供給をサーボバルブによってコントロールする流体サーボ式の材料試験機において、上記したようにサーボバルブのスプールを位置制御のもとに動作目標値に追随させる方式、つまりサーボバルブの流量特性を用いた制御方式では、アクチュエータの共振点がサーボ系の応答範囲内にある場合、システムの制御ゲインを上げられず、制御剛性を高くすることができないという問題がある。その結果、制御が不安定になり、ハンチングしやすい状態となってしまう。この問題は、前記したように中程度の負荷範囲で使用するエアサーボ式の材料試験機を比較的高い周波数のもとに動作させようとした場合に特に問題となる。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、流体圧シリンダの共振点がサーボ系の応答範囲内にあっても、その共振を抑制して制御ゲインを上げることができ、もって流体圧シリンダの共振周波数近傍の周波数域で安定した負荷制御を行うことのできる流体圧サーボ式材料試験機の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の流体圧サーボ式材料試験機は、試験片に対して動的負荷を加える負荷機構のアクチュエータとして流体圧シリンダを用いるとともに、その流体圧シリンダの作動流体をサーボバルブを介して供給するとともに、そのサーボバルブのスプールは、負荷の目標値波形信号に制御量の検出値をフィードバックして得られる偏差信号に基づいて駆動制御されるように構成された流体圧サーボ式材料試験機において、上記サーボバルブのスプールの速度検出信号および変位検出信号の双方が上記偏差信号にフィードバックされてそれぞれの差が算出され、その各差をそれぞれに重み付けして加算した信号が上記スプールの駆動に供されるとともに、上記偏差信号と速度検出信号の差の重みがより大きいことによって特徴づけられる(請求項1)。
【0011】
ここで、本発明においては、上記スプールの変位を検出する変位センサと、その変位センサによる変位検出信号を微分する微分回路を備え、その微分回路の出力を上記スプールの速度検出信号として用いる構成(請求項2)を好適に採用することができる。
【0012】
本発明は、サーボバルブのスプールの制御を、高い周波数域において実質的に速度制御とすることによって課題を解決しようとするものである。
【0013】
すなわち、本発明においては、サーボバルブのスプールを駆動するための信号、具体的にはスプールを変位させる電磁コイルに流す電流として、外部からの動作目標値信号、つまり負荷の目標値信号に対して制御量の検出値をフィードバックして得られる偏差信号、に対して、スプールの変位検出信号および速度検出信号の双方をフィードバックしてそれぞれの差を算出し、その各差に対してそれぞれに重みを付けた上で加算した信号をスプールの駆動に供するように構成し、その際、外部からの動作目標値信号に対するスプールの速度検出信号の差の重みを変位検出信号の差の重みよりも大きくしている。これにより、スプールの速度が大きい状態、つまり高い周波数域においてはスプールは速度制御が支配的となり、系の圧力制御特性に基づく流体圧シリンダの制御が行われ、共振を抑制することができる。また、スプールの速度が小さい状態、つまり低周波域においては、スプールは変位制御が支配的となり、従来と同様に系の流量制御特性に基づく流体圧シリンダの制御が行われる。
【0014】
スプールの速度検出信号は、請求項2に係る発明のように、スプールの変位検出信号を微分して得ることによって、センサはスプールの変位を検出する変位センサのみでよく、サーボバルブ自体は従来のものをそのまま用いて上記した作用を奏することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、負荷機構のアクチュエータとして流体圧シリンダを用い、その流体圧シリンダに対する作動油の供給をサーボバルブにより制御する方式の材料試験機において、負荷機構をその共振点近傍で動作させる場合でも、その共振を抑制することができるため、制御ゲインを高くすることができ、制御の剛性を上げることができる。その結果、従来に比してより高い周波数範囲まで安定した制御のもとに設定した波形通りの負荷を与えることが可能となる。
【0016】
また、請求項2に係る発明のように、サーボバルブのスプールの速度検出信号を、その変位検出信号を微分して得るように構成すると、サーボバルブに内蔵させるセンサは変位センサのみでよく、従来と全く同じ構造のサーボバルブを用いることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明を空圧サーボ式材料試験機に適用した実施の形態の全体構成図である。
【0018】
試験機本体1は、テーブル11上に複数の支柱12を介してクロスヘッド13を支持した構造を有し、テーブル11には負荷用の空圧シリンダ14が固定され、その空圧シリンダ14のピストンロッド14aの上端部に下側の掴み具15aが装着され、また、クロスヘッド13の下面にロードセル16を介して上側の掴み具15bが装着されている。
【0019】
従って、試験片Wには、空圧シリンダ14の駆動により引張もしくは圧縮荷重が作用し、その際に試験片Wに作用する試験力はロードセル16によって刻々と検出される。また、空圧シリンダ14のピストン14aの変位はストロークセンサ17によって刻々と検出される。
【0020】
空圧シリンダ14には、サーボバルブ18を介してエア供給源からの高圧エアが供給される。このサーボバルブ18の弁開度は、制御装置2により駆動制御される。すなわち、制御装置2には、ロードセル16による試験力検出値とストロークセンサ17による空圧シリンダ14のピストン14aの変位検出値とが導入されており、以下に示すように、これらのうち制御量に選択された検出値が、当該制御装置2により生成される負荷の目標値波形信号に対してフィードバックされ、その偏差に応じた信号がサーボバルブ18に対して動作目標値信号として供給される。
【0021】
図2は制御装置2の構成と、他部材との関係を表すブロック図である。
サーボバルブ18は、図2に模式的に示しているように、ケーシング18aと、その内部で軸方向に可動に設けられたスプール18bと、そのスプール18bを変位させる電磁コイル18c、およびスプール18bの変位を検出する変位センサ18dを主体として構成されている。
【0022】
制御装置2は、負荷の目標値波形信号を発生する目標値波形発生部21と、前記したロードセル16の出力およびストロークセンサ17の出力をそれぞれ増幅するロードアンプ22およびストロークアンプ23、そのロードセル16による試験力検出値およびストロークセンサ17によるピストン14aの変位検出値のうちのいずれかを制御量として選択するスイッチ24、そのスイッチ24により選択された信号を目標値波形発生部21からの目標値波形信号にフィードバックするフィードバック回路25、そのフィードバック回路25により得られる偏差を増幅するアンプ26を備えるとともに、そのアンプ26の出力を動作目標値信号として、サーボバルブ18のスプール18bを駆動制御するバルブ制御回路3を備えている。
【0023】
バルブ制御回路3は、サーボバルブ18のスプール18bの変位を検出する前記した変位センサ18dの出力を増幅してスプール18bの変位検出値として出力するスプール変位アンプ31と、そのスプール変位アンプ31の出力を微分してスプール18bの速度検出値に変換して出力する微分回路32と、これらの変位検出値および速度検出値をそれぞれ前記したアンプ26の出力であるサーボバルブ18の動作目標値信号に対してフィードバックする2つのフィードバックループ33と34、これらの各フィードバックループ33,34により得られる各偏差を個別に増幅するアンプ35,36、これらの各アンプ35,36の出力を加算する加算回路37、およびその加算結果を電流に変換するパワーアンプ38を主体として構成されている。
【0024】
以上のバルブ制御回路3の構成において、アンプ26を通じて供給されるサーボバルブ18の動作目標値信号に対し、スプール18bの変位検出値と速度検出値の双方がフィードバックされてそれぞれの偏差が求められ、これらの各偏差はそれぞれのアンプ35および36によって増幅された後に加算され、その加算値がスプール18bを変位させる電磁コイル18cに流す電流の大きさを決定することになるが、各アンプ35および36のゲインK1およびK2は、K2≫K1となっている。すなわち、動作目標値信号に対する速度検出信号の偏差の重みを、変位検出信号の偏差の重みよりも極端に重く、例えば数十倍としている。
【0025】
以上の本発明の実施の形態によると、スプール18bは、その速度が速い場合には速度制御が支配的となり、また、速度が遅い場合には変位制御となる。このことは、負荷の目標値波形信号の周波数が低い場合には、サーボバルブ18は従来と同様に流量制御特性のもとに動作するが、周波数が高い場合には、サーボバルブ18は圧力制御特性のもとに動作することになる。その結果、空圧シリンダ14を含む負荷機構の共振を抑制することができる。
【0026】
図3は以上の本発明の実施の形態による負荷機構の周波数応答特性を示すグラフであり、図4はスプール18bを従来と同様に変位制御とした場合、つまり図2の構成においてK1≫K2とした場合の負荷機構の周波数応答特性を示すグラフである。これらのグラフから明らかなように、スプール18bを変位制御とした従来と同等の構成では、90Hz近傍で共振するのに対し、本発明の実施の形態ではその共振が抑制されている。
【0027】
従って、本発明の実施の形態によると、負荷機構の共振を抑制することができる結果、共振点近傍で試験を行う場合においても制御ゲイン(図2におけるアンプ26のゲイン)を高くすることができ、制御の剛性を高くして安定して目標値の波形通りの試験を行うことができる。
【0028】
なお、以上の実施の形態においては、本発明をエアサーボ式の材料試験機に適用した例を示したが、本発明は、油圧サーボ式の材料試験機にも等しく適用し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明をエアサーボ式材料試験機に適用した実施の形態の全体構成図である。
【図2】図1の実施の形態における制御装置2の構成と他部材との関係を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態による負荷機構の周波数応答特性を示すグラフである。
【図4】図3で用いたものと同じ負荷機構を従来と同様の制御のもとに駆動したときの周波数応答特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 試験機本体
11 テーブル
12 支柱
13 クロスヘッド
14 空圧シリンダ
15a,15b 掴み具
16 ロードセル
17 ストロークセンサ
18 サーボバルブ
18a ケーシング
18b スプール
18c 電磁コイル
18d 変位センサ
2 制御装置
21 目標値波形発生部
25 フィードバック回路
26 アンプ
3 バルブ制御回路
31 スプール変位アンプ
32 微分回路
33,34 フィードバックループ
35,36 アンプ
37 加算回路
38 パワーアンプ
W 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に対して動的負荷を加える負荷機構のアクチュエータとして流体圧シリンダを用いるとともに、その流体圧シリンダの作動流体をサーボバルブを介して供給するとともに、そのサーボバルブのスプールは、負荷の目標値波形信号に制御量の検出値をフィードバックして得られる偏差信号に基づいて駆動制御されるように構成された流体圧サーボ式材料試験機において、
上記サーボバルブのスプールの速度検出信号および変位検出信号の双方が上記偏差信号にフィードバックされてそれぞれの差が算出され、その各差をそれぞれに重み付けして加算した信号が上記スプールの駆動に供されるとともに、上記偏差信号と速度検出信号の差の重みがより大きいことを特徴とする流体圧サーボ式材料試験機。
【請求項2】
上記スプールの変位を検出する変位センサと、その変位センサによる変位検出信号を微分する微分回路を備え、その微分回路の出力が上記スプールの速度検出信号として用いられることを特徴とする請求項1に記載の流体圧サーボ式材料試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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