説明

流体混合装置

【課題】 流体を連続的に混合することができ、流体の混合に必要な流路の長さを制御することができる小型の流体混合装置を提供する。
【解決手段】 複数の流体を搬送するための流路と、前記流路に設けられた一対の電極と、前記一対の電極に電圧を印加するための電圧印加手段とを有する流体混合装置であって、前記一対の電極は、前記一対の電極の対向方向が前記流路内を前記流体が搬送される流体搬送方向に対して垂直または略垂直になるように配置され、前記一対の電極に電圧を印加することにより、前記流体に前記流体搬送方向を軸として前記軸を周回する方向の流れを発生させる流体混合装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体混合装置に関する。より詳しくは、渦流と拡散を利用して、複数の流体、例えば複数の化合物あるいは粒子材料等を含む不均一流体、2相流体、多相流体等を混合する流体混合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気浸透を用いるマイクロポンプは、構造が比較的簡単である、微小流路(マイクロ流路)内への実装が容易である等の利点がある。そのために、マイクロポンプは、μTAS(Micro‐Total Analysis System、Lab−on−a−chip、流体集積回路(流体IC)等の分野で使用されている。
【0003】
こうした中、近年、誘起電荷電気浸透(ICEO:Induced‐Charge Electro Osmosis)を用いたマイクロポンプが着目されている。その理由は、液体の流速を大きくできる、電極と液体の間に生ずる化学反応をAC駆動が可能なことにより抑制できる等の利点があることから着目されている。
【0004】
特許文献1には、誘起電荷電気浸透を用いたミキサ(混合装置)及びポンプ(送液装置)であって、円柱状の金属ポスト周囲のICEO流れによる渦を利用したマイクロミキサ、及びICEO流れを利用したマイクロポンプが開示されている。
【0005】
一方、非特許文献1には、流路壁に設けたV字型の溝構造によって受動的に発生するスクリュー型(らせん型)の渦流を利用したマイクロミキサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7081189号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Science”、295,647、(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のICEOを利用したミキサは、効果的な混合を行うために流れを止める必要がある。また、様々な処理を一定の流れの中で連続的に処理することが困難となる恐れがあり、μTAS等の流体装置全体の処理速度を低下させる恐れがあった。
【0009】
ミキサとしては、現在、一般的には、大型の外部圧力発生源が必要なミキサが用いられている。これに代わるミキサとして、大型の外部圧力発生源等が不要で、小型で単純な構造のミキサが実現できれば、システム全体のサイズやコストを飛躍的に下げることができ、流体集積回路の活用範囲を大きく広げられる可能性がある。
【0010】
また、装置が要求する一定の流れの中で効果的な混合を連続的に実現できる小型で単純な構造のミキサが実現できれば、μTAS等の流体装置全体の処理速度を大きく向上させた流体集積回路を実現できる可能性がある。
【0011】
一方、非特許文献1は、溝構造によってスクリュー型の渦を発生させているが、流体が流路を流れるときの受動的な渦の発生を利用するために、装置が要求する流れ速度で、所望のスクリュー(らせん)流れの流速を作ることが困難である。また、混合対象となる流体や微粒子の分子拡散係数が低く、ピクレー数(=特徴速度Ux特徴距離w/分子拡散係数D)が低い場合には、混合に必要な流路長を流体ICチップ内の要求サイズ内に抑えることが困難となる。そのために、非特許文献1のマイクロミキサでは、流体集積回路等のシステム設計の自由度を低下させるおそれがあった。
【0012】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、流体を連続的に混合することができ、流体の混合に必要な流路の長さを制御することができる小型の流体混合装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明により提供される流体混合装置は、複数の流体を搬送するための流路と、前記流路に設けられた一対の電極と、前記一対の電極に電圧を印加するための電圧印加手段とを有する流体混合装置であって、前記一対の電極は、前記一対の電極の対向方向が前記流路内を前記流体が搬送される流体搬送方向に対して垂直または略垂直になるように配置され、前記一対の電極に電圧を印加することにより、前記流体に前記流体搬送方向を軸として前記軸を周回する方向の流れを発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流体を連続的に混合することができ、流体の混合に必要な流路の長さを制御することができる小型の流体混合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の流体混合装置の一実施態様を示す概略図である。
【図2】一対の電極への電圧印加により、流体に渦流が発生する機構を示す説明図である。
【図3】本発明の流体混合装置の他の実施態様を示す概略図である。
【図4】本発明の流体混合装置の他の実施態様を示す概略図である。
【図5】本発明の流体混合装置の他の実施態様を示す概略図である。
【図6】本発明の流体混合装置の他の実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る流体混合装置は、複数の流体を搬送するための流路と、前記流路に設けられた一対の電極と、前記一対の電極に電圧を印加するための電圧印加手段とを有する流体混合装置である。前記一対の電極は、前記一対の電極の対向方向が前記流路内を前記流体が搬送される流体搬送方向に対して垂直または略垂直になるように配置されている。そして、前記一対の電極に電圧を印加することにより、前記流体に前記流体搬送方向を軸として前記軸を周回する方向の流れを発生させることを特徴とする。
【0017】
本発明の流体混合装置は、一対の電極に、装置が要求する一定速度に対応した十分な渦流速を発生させるのに十分な電圧を印加する。そのことにより、流体が搬送される方向を軸として前記軸を周回する方向の渦流れを発生させ、該渦と分子拡散効果により流体を連続的に短時間に効果的に混合することができる。また、本発明は、流体の混合に必要な流路の長さを制御でき、流路長を要求サイズ内に抑えることができる、設計自由度の高い小型で単純な構造の流体混合装置である。
【0018】
以下、本発明の流体混合装置について、図を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の流体混合装置の一実施態様を示す概略図であり、図1(a)は全体の概略図、図1(b)は一部分の概略図を示す。図1(a)において、1は複数の流体を搬送するための流路、2、3は電極で、流路1の壁面または流路内に対向して設けられた一対の電極、4は電極に電圧を印加するための電圧印加手段、5は流路内を流体が搬送される流体搬送方向である。また、6は、一対の電極2、3への電圧印加により発生する渦流であり、流体に前記流体搬送方向5を軸として前記軸を周回する方向に発生する流れを示す。7、8は電圧印加によって発生する電極表面のすべり速度Vsを示す。13流体を示す。
【0020】
前記一対の電極2,3は、前記一対の電極の対向方向12が前記流路内を流体が搬送される流体搬送方向5に対して垂直または略垂直な方向になるように配置されている。具体的には、図1(b)において、流体搬送方向5と一対の電極の対向方向12との間の角度θが、45度以上135度以下、好ましくは80度以上100度以下、より好ましくは略90度が望ましい。
【0021】
前記流路1は一対の基板と一対のスペーサー部材により囲まれて形成されており、前記一対のスペーサー部材の一部を構成する導電構造体から一対の電極2,3が形成されている。前記電極の電極面が前記基板面の法線に対して傾斜しているのが好ましい。具体的には、図1(a)において、電極2の電極面と、基板9の基板面の法線との間の傾き角Φが、20度以上60度以下、好ましくは30度以上50度以下が望ましい。
【0022】
図2は、一対の電極への電圧印加により、流体に渦流が発生する機構を示す説明図である。
【0023】
一対の電極2、3に電圧を印加すると、流路1内に電界Eが発生する。この電界によりプラス電極2側にはマイナスイオン12が集まり、マイナス電極3側にはプラスイオン11が集まり、電極近傍に所謂電気二重層が形成される。この電気二重層を形成するイオンは、電極表面に沿った電界によって、表面に滑り速度Vsを発生させる。この滑り速度Vsは交流電圧に対しても正味の値を持ち、この正味の滑り速度Vsによって、前記流体が搬送される流体搬送方向5を軸として前記軸を周回する方向の渦流6が発生する。
【0024】
本発明の流体混合装置では、流路内を流体が搬送される流体搬送方向5に対して垂直または略垂直な方向に対向配置されている一対の電極2、3に対して、所望の電圧を印加する。その電圧の印加により、流体が搬送される流体搬送方向5を軸とする渦流6を発生させ、複数の流体の一定の流れの中で効果的に混合を連続的に実現できる。また、一対の電極2、3に印加する電圧や、印加周波数等を制御することにより、流体の混合に必要な流路の長さを要求サイズ内に制御することができる。したがって、本発明は、設計自由度の高い小型で単純な構造の流体混合装置が実現できる。
【0025】
本発明において、流体が搬送される流体搬送方向5を軸として軸を周回する方向に発生される流れとは、流路全体を周回する単一軸の渦であっても、流路断面を分割する複数軸を持った複数の渦群でもかまわない。特に、混合を効果的に促進させるためには、対象となる流体相の流れを横断する渦を発生させることが望ましい。また、流体が搬送される流体搬送方向5を軸として軸を周回する方向に発生される渦流は、流体が搬送される方向の流れと合成されてスクリュウ状の流れとなるが、流体搬送方向の流れが極めて遅い場合や、流れが止まった場合を含む。
【0026】
また、電圧印加手段は電池、交流電源、直流電源、パルス電圧源、任意波形電圧源など自由に用いることができるが、電気化学反応等による泡の発生を抑えるために、望ましくは30Hz以上の交流電圧源を用いることが好ましい。また、電気二重層に電荷をチャージするために、100KHz以下の交流電圧を用いることが望ましい。また、印加電圧Vと電極間の距離dから決まる平均電界強度E(=V/d)は、AC電気浸透(ACEO)流れやICEO流れを発生させるために、10V/m程度を中心に、0.1から100.0×10V/m程度が好ましい。特に、電圧印加手段が交流電圧源からなり、前記交流電圧源から一対の電極に電圧を印加することにより、前記流体にAC電気浸透(ACEO)または誘起電荷電気浸透(ICEO)による渦流を発生させることが好ましい。
【0027】
従って、本発明は、受動的な、一般的な電源を必要とする装置とは明確に区別される。つまり、本発明でいう一対の電極に接続されたインピーダンスは、一般的な電源が有するインピーダンス及び電源を包含しない。具体的なインピーダンスとして機能する部材は、実施例で詳述するが、液体駆動素子のインピーダンスと大きさが略等しくなる形状あるいは材質の部材で構成することが熱ノイズに起因する電圧を大きくする観点から好ましい。
【0028】
一対の電極を構成する材料は、電界により電荷を誘起する導電材料が用いられ、金属の他、炭素や炭素系の材料等が挙げられる。金属には、例えば、金、白金等が挙げられる。しかしこの部材についても搬送する液体に対して安定な金や白金、または炭素材料等で構成するのが好適である。また、好ましくは、化学的に安定な材料(金、白金、炭素等)の導電材料を液体面に接触させるのが好ましいが、Ta,Ti、Cu、Ag、Cr,Ni等の金属に絶縁被膜等を設けて用いても構わない。
【0029】
また、流路内に設けられる一対の電極の数は、効率的に渦流を発生させるために、複数対とすることも可能であり、流路の幅や導電性部材の大きさ、搬送する液体の粘性等を考慮して選択することができる。
【0030】
電極は、スペーサーのようなバルク形状、薄膜状、または線状であってもよい。また、流路に沿った電極長は、長くても、短くてもかまわず、独立な一対の電極を流路に沿って複数配置してもよい。
【0031】
また、一対の電極は対象構造であっても、非対称構造であってもよい。特に、薄膜一対の電極では、電極面積が大きく異なる一対の電極を用いても構わない。また、薄膜電極面にステップ状の3D構造があっても構わない。線状電極も丸型断面や多角形断面を対称または非対称に配置して良い。スペーサー型の一対の電極も傾斜面を対称、非対称に配置して構わない。
【0032】
一対の電極は、前記流路の壁面に流体の流体搬送方向に対して平行または略平行方向に配置された一対の薄膜電極からなることが好ましい。または、一対の電極は、前記流路内に流体の流体搬送方向に対して平行または略平行方向に配置された一対の線状電極からなることが好ましい。
【0033】
本発明において、流体を搬送する流路は、μTAS等の分野で一般的に使用される材料で構成することができる。具体的には、搬送する液体に対して安定な材料で構成でき、そのような材料としては、SiOやSi等の無機材料の他、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ系樹脂などの高分子樹脂等が挙げられる。
【0034】
流路断面の幅wの大きさは、バイオ関連の粒子を含む流体を混合するために、10μmから1mm程度が好ましいが、必要に応じて、1から2000μmでも構わない。
【0035】
また、流路の深さhは、流量を大きくするという観点から流路断面の幅よりも深い(大きい)ことが好ましい。具体的には、深さ/流路断面の幅は0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.5以上が好ましい。
【0036】
本発明において、流路内を搬送可能な流体は、基本的には、帯電成分を含有する極性分子を含むものであり、水や、各種電解質を含む溶液等が挙げられる。また、流体は、水等の電解質液に含まれる微細な気泡や油脂材料等を含む流体や、無機及び有機の微粒子やコロイド粒子を含む流体であってもかまわない。
【0037】
また、本発明の装置を作成するには、流路は所謂、マイクロTAS等の微小流路を用いた流体搬送装置を一般的に作成するMEMS技術、リソグラフィー技術等を用いることができる。また、機械加工を含む、張り合わせ技術、プレス加工等で作成してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。尚、図面を参照した以降の説明では、図面中の同一の部材には原則、同一の番号を付して重複した説明は省略することとする。
【0039】
(実施例1)
実施例1は、図1および図2に示す流体混合装置に基づいて説明する。
【0040】
図1において、1は複数の流体を搬送するための流路、2、3は流路に隣接して位置する一対の電極、4は電極の電圧を印加するための電圧印加手段、5は流路内を流体が搬送される方向である。また、6は一対の電極2、3への電圧印加により発生する渦流であり、流体が搬送される流体搬送方向5を軸として軸を周回する方向に発生される流れを示す。また、一対の電極2、3は、流路内を流体が搬送される流体搬送方向5に対して垂直または略垂直な方向に対向配置されている。また、7、8は電圧印加によって発生する電極表面のすべり速度Vsを示す。
【0041】
実施例1は、流路1は一対の基板9、10と、一対のスペーサー部材からなり、一対の電極2、3は、スペーサー部材の一部を構成する導電構造体であり、該電極面が前記基板9、10に対して垂直な方向より傾いた構造を有する。
【0042】
図2は、左側の電極2がプラス電位で、右側の電極3がマイナス電位である場合のプラスイオン11のマイナス電極付近への集積と、マイナスイオン12のプラスイオン電極への集積及び、電界Eの電極面に沿った成分による滑り速度Vsの発生を示す。同様に電圧を入れ替えても、同じ方向の滑り速度が発生するため、交流に対しても、直流同様の渦流を発生させることができる。ただし、交流電圧を利用すると電気化学反応に由来する気泡の発生などを抑制できる効果があり、交流を用いることが好ましい。また、このように電極面に発生する誘起電荷を遮蔽するように形成される電気二重層のイオンの動きに起因する流れは誘起電荷電気浸透(ICEO)またはAC電気浸透(ACEO)として知られている。実施例1は、前記電圧印加手段が交流電圧源であり、AC電気浸透(ACEO)または誘起電荷電気浸透(ICEO)による渦流を発生させる流体混合装置であり、気泡等の発生を抑制できる効果がある。また、渦流の方向は、表面の状態、イオンの応答遅れ、ファラデー電流等の影響で反対方向となる場合がある。
【0043】
いま、流路幅w、流体が搬送される流速U、分子拡散係数Dの2相流(例えば、上半分が流体A、下半分が流体Bの2相流)の単純混合の場合、混合に必要な時間(=混合時間t)はt〜w/Dである。また、混合に必要な距離(=混合距離dy)は、dy〜U(w/D)=wPeであり、混合距離はピクレー数Pe(=Uw/D)に比例する。
【0044】
これに対して、渦流を利用したミキサの場合、流路長Δy内の流体を混合するのに要求される拡散すべき実質距離Δrは、wの値から指数関数的に減少し、λを渦に関係した特徴距離とするとき、Δr=wexp(−Δy/λ)となる。また、Δy進むときの流路内滞流時間τrはτ=Δy/Uであり、Δrを拡散するのに必要な拡散時間τは、τ=Δr/D=(w/D)exp(−2Δy/λ)である。それゆえ、τr=τなる条件を課すことで、混合長Δyは、大きなPeに対してΔy〜0.5λln(Pe)[〜λlog(Pe)]となり、混合時間tmはtm=Δym/U=(λ/U)ln(Pe)となる。ただし、本明細書において、〜はオーダー評価近似を示す。つまり、桁(オーダー)を基準として評価し、桁が同じであれば細かな数値は同じでなくともオーダーは同じとして近似したことを示す。
【0045】
すなわち、ICEOまたはACEO流れ等を利用して流体の搬送方向を軸とした渦流を発生させ、スクリュー型(らせん型)の流れを発生させる本発明は、Peが大きいとき、単純拡散ミキサより流体を短い混合距離で混合できる効果がある。また、混合時間も単純拡散ミキサより短くできる効果がある。
【0046】
ところで、非特許文献1に記載されている様に、流路の底面にV字型の溝を形成した受動型スクリュー(らせん)ミキサにおいても、混合長Δyは大きなPeに対してΔy〜λlog(Pe)となり、単純拡散ミキサより流体を短い混合距離で混合できる効果がある。
【0047】
しかしながら、本発明のアクティブ型スクリュー(らせん)ミキサには、受動型スクリュー(らせん)ミキサにはない、設計自由度に優れた効果がある。特に、アクティブ型スクリューミキサでは、渦流の代表速度をUv、αを比例定数とするとき、λ〜αw(U/Uv)とすれば、Uv→0の極限でλ→0となり、Δr→wとなり単純ミキサに一致するので合理的である。一方、溝を利用した受動型スクリューミキサでは、溝構造が決まるとλが決まって、Peの大きな変動状況や設計要求に合わせてダイナミックにλを調整して、混合距離を設計仕様(例えば、1cm)内に抑えることができない問題がある。また、溝を利用した受動型スクリューミキサでは、溝構造を調整しても、極端にU/Uvを改善することは困難であり、現状では、α〜25、U/Uv〜1、すなわち、λ〜w(U/Uv)〜25w程度が最良設計と考えられる。
【0048】
本発明のICEO等を利用したアクティブ型スクリュー(らせん)ミキサでは、Peの大きな変動状況や設計要求に合わせてダイナミックにU/Uv比を調整し、λを変動させて、混合距離を設計仕様(例えば、1cm)内に抑えることができる効果がある。
【0049】
具体的には、w〜100μm、U〜1mm/s,D〜10−12/sのとき、Pe〜10となる。この時、受動型スクリュー(らせん)ミキサの場合、混合距離をΔy〜λlog(Pe)〜25w・log(Pe)=125w=1.25cmとなり、混合距離を設計仕様(1cm)内に抑えることができない。
【0050】
これに対して、本発明のICEO等を利用したアクティブ型スクリュー(らせん)ミキサでは、U/Uv〜0.5、すなわち、Uv=2mm/sと調整し、λ=12.5wとする。そのことで、混合距離をΔy〜λlog(Pe)〜12.5w・log(Pe)=62.5w〜0.6cmとでき、混合距離を設計仕様(1cm)内に抑えることができる効果がある。
【0051】
また、図1、図2において、流路の平均幅をw、流路の高さをh、電極2、3の基板面法線に対する傾き角をΦとすると、渦流の代表速度はUv〜βε(hsinΦ)E/μとなる。こで、εは流体の誘電率(例えば、水の場合は、ε〜80ε;ただしεは真空誘電率)、μは流体の粘性、E=V/wは平均印加電界、Vは電極2、3への印加電圧(ACの場合は実効値電圧)である。また、βは電極界面、印加電圧、系の代表サイズ等で変動するパラメータで、0.001から1程度の大きさを持つ。また、しばしば、渦の回転方向は、標準的な理論と逆方向の回転を示す。
【0052】
いま、w=100μm、h=100μm、Φ=30°、ε〜80ε、β〜0.1、μ=1mPa・s、c〜hsinΦ〜50μmとする。この時、V=1.0、1.5、2.0、3.0Vの電圧を印加すると、E=10、15、20、30kV/mの電界と、Uv〜0.35、0.80、1.4、3.2mm/sとなる渦流代表速度を得る。
【0053】
それゆえ、α〜25、w〜100μm、U〜1mm/s,D〜10−12/sのとき、すなわち、Pe〜10のとき、本発明の流体混合装置では、V=1.0、1.5、2.0,3.0Vの電圧を印加すると、U/Uv〜2.86、1.25、0.71、0.31なので、Δym[〜1.25cmx(U/Uv)]は、3.58、1.56、0.89、0.39となる。よって、2V以上の電圧を印加すれば、混合距離を設計仕様(1cm)内に抑えることができる効果がある。
【0054】
また、通常、バイオ試料の混合では、必要以上に大きな流速での混合はバイオ試料を傷つけるおそれがあり、受動型ミキサで多種のバイオ試料に対して、ダイナミックに最適渦流速に調整し処理することは困難である。本発明では、ピクレー数に合わせて、適宜、最適渦流速の設定でき、バイオ試料の損傷を避けられる効果がある。
【0055】
また、電極面の傾き角Φは、あまり小さいと十分な速度が得られず、あまり大きいと流路が扁平となり粘性の影響を強く受けるため、20から60度の程度が好ましい。
【0056】
(実施例2)
図3は、本実施例の流体混合装置の特徴を示す模式図である。
【0057】
本実施例の流体混合装置は、一対の電極の形状、及び形成される渦流の数と分布が異なる点が、実施例1の装置と相違する。
【0058】
図3(a)は、流路に面する互いに平行でない電極面を持ち、一対の電極と上下基板で形成される流路断面は(等角)台形である。一対の電極2,3にACまたはDC電圧を印加することで2個の渦流6を発生でき、実施例1と同様な効果が得られる。
図3(b)は、一対の電極面の左右が非対称な傾き角Φを有する例で、流路断面は(非等角)台形となる。一対の電極にACまたはDC電圧を印加することで1個の渦流を発生でき、実施例1と同様な効果が得られる。
図3(c)は、左右に、流路面が凹型の形状の電極面を持つ例で、一対の電極にACまたはDC電圧を印加することで4個の渦流を発生でき、実施例1と同様な効果が得られる。
図3(d)は、左右に、流路面が凸型の形状の電極面を持つ例で、一対の電極にACまたはDC電圧を印加することで4個の渦流を発生でき、実施例1と同様な効果が得られる。
【0059】
(実施例3)
図4は、本実施例の流体混合装置を示す模式図である。
【0060】
本実施例の装置は、一対の電極は、流路の壁面に間隙を持って平行配置された一対の薄膜電極42、43であることが実施例1の装置と相違する。
【0061】
図4において、44、45は絶縁性の流路壁であり、薄膜電極42、43へのAC電圧の印加によって、流路の流体搬送方向に軸を有する渦流46、47を発生し、実施例1と同様な効果が得られる。
【0062】
(実施例4)
図5は、本実施例の流体混合装置を示す模式図である。
【0063】
本実施例の装置は、一対の電極が非対称な電極面積を持つことが実施例1の装置と相違する。
【0064】
図5(a)は、非対称電極52、53にAC電圧の印加によって、流路の流体搬送方向に軸を有する渦流56を発生し、実施例1と同様な効果が得られる。
図5(b)は、非対称一対の電極が複数個ある場合の例であり、AC電圧の印加によって、実施例1と同様な効果が得られる。
図5(c)は、上下に非対称一対の電極が複数個ある場合の例であり、AC電圧の印加によって、実施例1と同様な効果が得られる。
図5(d)は、上下及ぶ左右の流路壁にも非対称一対の電極がある場合の例であり、AC電圧の印加によって、実施例1と同様な効果が得られる。
【0065】
(実施例5)
図6は、本実施例の流体混合装置を示す模式図である。
【0066】
本実施例の流体混合装置は、一対の電極が、流路1内に略平行配置された線状電極62、63であることが、実施例1の装置と相違する。線状電極の直径は、1μmから1mmが好ましい。
【0067】
図6において、線状電極62、63へのAC電圧の印加によって、流路の流体搬送方向に軸を有する渦流66を発生し、実施例1と同様な効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の流体混合装置は、流体を連続的に混合することができ、混合に必要な流路の長さを要求に応じて制御することができるので、μTAS、流体集積回路、lob−on-a−chip等の分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 流路
2、3 電極
4 電圧印加手段
5 流体搬送方向
6 渦流
7、8 すべり速度Vs
9,10 基板
12 一対の電極の対向方向
13 流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流体を搬送するための流路と、前記流路に設けられた一対の電極と、前記一対の電極に電圧を印加するための電圧印加手段とを有する流体混合装置であって、前記一対の電極は、前記一対の電極の対向方向が前記流路内を前記流体が搬送される流体搬送方向に対して垂直または略垂直になるように配置され、前記一対の電極に電圧を印加することにより、前記流体に前記流体搬送方向を軸として前記軸を周回する方向の流れを発生させることを特徴とする流体混合装置。
【請求項2】
前記流路は一対の基板と一対のスペーサー部材により囲まれて形成されており、前記一対のスペーサー部材の一部を構成する導電構造体から一対の電極が形成され、前記電極の電極面が前記基板面の法線に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の流体混合装置。
【請求項3】
前記一対の電極は、前記流路の壁面に流体の流体搬送方向に対して平行または略平行方向に配置された一対の薄膜電極からなることを特徴とする請求項1に記載の流体混合装置。
【請求項4】
前記一対の電極は、前記流路内に流体の流体搬送方向に対して平行または略平行方向に配置された一対の線状電極からなることを特徴とする請求項1に記載の流体混合装置。
【請求項5】
前記電圧印加手段が交流電圧源からなり、前記交流電圧源から一対の電極に電圧を印加することにより、前記流体にAC電気浸透(ACEO)または誘起電荷電気浸透(ICEO)による渦流を発生させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の流体混合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−187553(P2012−187553A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54969(P2011−54969)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】