流体測定器および流体測定方法
【課題】正確かつ安価に粒子の移動速度を短時間で測定する。
【解決手段】流体測定器は、光を散乱する透明板8で覆われた微小流路7と、透明板8を通して微小流路7中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源1と、透明板8によって散乱された光と流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器2と、受光器2で得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、この周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から粒子の移動速度を算出する速度算出手段とを備える。
【解決手段】流体測定器は、光を散乱する透明板8で覆われた微小流路7と、透明板8を通して微小流路7中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源1と、透明板8によって散乱された光と流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器2と、受光器2で得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、この周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から粒子の移動速度を算出する速度算出手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体測定器に関し、特に微小流路の流量や流速、流体中の粒子個数や粒子濃度、粒子径等の測定器として適用することができる流体測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微小・集積化化学分析システム、いわゆるμTAS(Micro Total Analysis Systems)は、試薬および試料である液体の流路となる微小流路、反応容器、検出容器が数cm角の1枚のチップに形成され、流体の自発的挙動に基づいて流体の混合や反応を微小流路内で行うシステムである。このようなシステムは、チップの使い捨て化、使用する試薬および試料の節減、分析高速化、測定自動化、装置の持ち運び可能化、低コスト化を可能にするものとして期待されている。
【0003】
例えば、牛乳等を試料とする家畜診断用途の分析装置においては、牛舎内でも簡便に使用することができ、また検査に使用したチップは使い捨てにすることができるので、μTASは非常に有用である(非特許文献1,2,3,4)。
このようなμTASを用いたシステムにおいては、流路を流れる流体の状態をモニタするために、実験室においては顕微鏡下で撮影し動画解析することによって流速や流量、粒子の挙動、粒子濃度を観測している。また、何らかの理由で顕微鏡が使用できない状況下では、実験室内での測定結果を基にして推定値を用いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Miura,et al.,“Capillary-Driven Flow Chip for Simple and Quick SPR Measurement”,Pittcon Conference and Expo 2008,360-5,2008
【非特許文献2】Y.Iwasaki,et al.,“Rapid Identification of Pathogens in Food Samples Using Simplified Immunoassay System”,Pittcon Conference and Expo 2008,360-7,2008
【非特許文献3】岩崎弦ほか,“ユビキタス生体分子センサー”,月刊バイオインダストリー,12月号,p.24-29,2009
【非特許文献4】“表面プラズモン化学センサ”,NTTマイクロシステムインテグレーション研究所,平成22年12月1日検索、インターネット,<http://www.ntt.co.jp/milab/project/pr09_spr.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体の流速や流量、粒子の挙動、粒子濃度を観測するために顕微鏡で撮影し動画解析を行う方法では、動画解析に時間がかかり、リアルタイム性にかけるという問題点があった。また、動画解析には計算能力の高いコンピュータを使用する必要があり、コスト高になるという問題点があった。また、顕微鏡を使用しない状況においては、推定値に頼らざるをえないため、測定が不正確になるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、正確かつ安価に粒子の移動速度を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、正確かつ安価に流体の流量を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、正確かつ安価に粒子の通過個数と移動速度と進行方向を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、正確かつ安価に粒子の半径を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、この周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記流路の複数箇所に配置され、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する複数の受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、この周波数測定手段が測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数手段と、前記周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段と、前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段と、この流量算出手段が算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、この周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを、前記流路の複数箇所に配置された複数の受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、この周波数測定ステップで測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数ステップと、前記周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップと、前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップと、この流量算出ステップで算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号の周波数解析を行うことによって、粒子の移動速度を算出することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に粒子の移動速度を短時間で測定することができる。
【0016】
また、本発明では、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルとビート信号の強度平均値とを測定することによって、流体の流量を算出することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に流体の流量を短時間で測定することができる。
【0017】
また、本発明では、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを、流路の複数箇所に配置された複数の受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルとビート信号の周波数とを測定することによって、粒子の通過個数と移動速度と進行方向を測定することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に粒子の通過個数と移動速度と進行方向を短時間で測定することができる。
【0018】
また、本発明では、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルとビート信号の強度平均値とを測定することによって、粒子の半径を算出することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に粒子の半径を短時間で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器の動作原理を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器の光学部の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【図4】ビート信号のパワースペクトルの例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態における流体の流量の測定結果を示す図である。
【図7】粒子通過の際に測定されるビート信号のパワースペクトルの例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る流体測定器の光学部の構成を示す平面図および断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【図10】粒子直径と流量との関係を示す図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器の動作原理を説明する図である。流体測定器は、光源1と、受光器2と、光源1および受光器2の下に配置され、光を散乱する不動物体3とを有する。
光源1からの光は、不動物体3に照射されると共に、光源1と受光器2の下にあって移動中の流動物体4(測定対象である流体中の粒子)に照射され、不動物体3と流動物体4のそれぞれによって散乱される。
【0021】
不動物体3と流動物体4により散乱された光は、受光器2によって受光され、電気信号に変換される。このとき、受光器2に入射する光には二種類ある。一つは、流動物体4(流体中の動いている粒子)からの散乱光であり、もう一つは不動物体3からの散乱光である。流動物体4からの散乱光は、流動物体4の移動速度に比例したドップラー効果による周波数シフトを生じている。しかし、不動物体3からの散乱光の周波数は不変である。このような光周波数の極めて近い光同士が干渉すると、光周波数の差に反比例した周期のうなり(ビート)が生じる。
【0022】
光自身の周波数は数百THzであり、電子回路で直接計測することはできないが、ビートの典型的な周波数は数十kHz以下であるため、受光器2に入射する反射光の強度の振動として測定可能である。光源1における光の周波数をω0、流動物体4の移動速度(すなわち流体の流速)をv、光速度をc、流体の屈折率をnとすると、受光器2で得られるビート信号の周波数ωdsは以下の式で表される。
【0023】
【数1】
【0024】
例えば、流速v=0.01[m/s]、波長λ=850nm、光速度c=3×108[m/s]、屈折率n=1.3とすると、ω0=c/λ=353[THz]であるので、ωds=15.3[kHz]となり、電子回路で検出できる範囲の周波数である。
【0025】
本発明では、流動物体4によって散乱されドップラーシフトを受けて戻ってくる光と、静止している不動物体3によって散乱され戻ってくる光の双方の干渉を利用することから、どちらか一方の光が極端に強く、他方の光が極端に弱いなどの場合ではビート信号も明確に得られないため測定できない。よって、双方の光の強度は比較可能なほどに同程度であることが必要である。
【0026】
次に、以上の原理を用いた本実施の形態の流体測定器の構成を図2に示す。図1で説明したとおり、光源1と受光器2とが隣接して配置されている。光源1と受光器2がそれぞれベアチップだとすると、それぞれの中心間隔の距離は例えば0.5mmから2mm程度である。光源1と受光器2とは、測定チップ5の上に設置される。測定チップ5は、積層構造を有しており、数cm角程度の大きさの基板6と、基板6上に配置された微小流路7と、微小流路7上に配置された例えばガラス製の透明板8と、透明板8上に設置された光源1および受光器2とを備えている。
【0027】
微小流路7は、基板6上に積層された平板状の流路形成用部材(不図示)に形成されている。基板6および流路形成用部材の材料としては、例えばシリコンがある。流動物体である粒子9を含む流体が微小流路7内に投入されると、この流体が微小流路7を流れるようになっている。平板状の透明板8は、流路形成用部材の上に積層されている。光源1および受光器2は、微小流路7上の位置に設置されている。
【0028】
光源1から粒子9への光の照射および粒子9からの散乱光の受光は、透明板8を介して行われる。すなわち、透明板8は、光源1からの光に対して透明な性質を有する。ただし、この透明板8の全領域のうち少なくとも光源1からの光が照射される領域には、曇りガラス加工が施されており、適度に散乱光が生じるようになっている。この散乱光は、静止している透明板8からの散乱光なので、ドップラーシフトは生じない。すなわち、透明板8は、上記の不動物体3としての働きを有する。
【0029】
一方、光源1から透明板8を通過して粒子9に照射されて粒子9によって散乱された光は、ドップラーシフトを生じている。このドップラーシフトを生じた光は、透明板8を再度通過する。しかし、前述のとおり、光源1から透明板8の曇りガラス加工部に至り、曇りガラス加工部によって散乱された光は、ドップラーシフトを生じない。透明板8によって散乱された光と粒子9によって散乱された光とは、受光器2によって受光され、電気信号に変換される。以上のように、透明板8に曇りガラス加工を施すことによって不動物体からの散乱光を生成することができ、粒子9によってドップラーシフトを受けた散乱光と比肩できる強度の散乱光を得ることができるので、受光器2で検出可能なビート信号が得られる。
【0030】
このビート信号の周波数ωdsを求めることができれば、式(1)から粒子9の移動速度vを算出することができる。図3は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10は、周波数測定部11と速度算出部12とを有する。周波数測定部11は、受光器2で得られた電気信号の強度変動の周波数、すなわちビート信号の周波数ωdsを測定する。周波数測定の手法としては例えばFFT(Fast Fourier Transform)がある。後述のパワースペクトルで説明するように、ビート信号の周波数成分は広い周波数範囲にわたって分布しているが、ここでは周波数成分の代表値をビート信号の周波数として採用すればよい。
【0031】
速度算出部12は、周波数測定部11が測定したビート信号の周波数ωdsから、粒子9の移動速度vを算出する。
こうして、本実施の形態では、粒子9の移動速度vを短時間で測定することができる。また、従来のμTASような動画解析が不要となるので、従来よりも計算能力の低いコンピュータで測定を実現することができ、流体測定器のコストを低減することができる。
【0032】
なお、透明板8の曇りガラス加工の代替として、透明ガラス中に散乱粒子を分散して配置したものを透明板8として用いてもよい。光の干渉効果を利用する性質上、発光ダイオードや白熱電球のような発光波長幅の広い光源を使用した場合、上記の効果は得られないため、光源1としてはレーザダイオードを使用する。本実施の形態では、レーザダイオードからなる光源1とフォトダイオードからなる受光器2とはそれぞれベアチップ(ダイ)を使用している。
【0033】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、粒子の移動速度の測定方法について説明したが、次に図4を用いて流体の流量の測定方法について述べる。本実施の形態においても、流体測定器の光学部の構成は図2に示したとおりである。第1の実施の形態で述べたように、ドップラーシフトがある散乱光とドップラーシフトが無い散乱光のホモダイン干渉の結果得られるビート信号の周波数は、粒子の速度の情報を持っている。
【0034】
代表的な測定例のビート信号のパワースペクトルを図4に示す。このパワースペクトルの横軸は周波数で縦軸はパワーである。式(1)に示したとおりビート信号の周波数は粒子の速度に比例しているので、図4の横軸は粒子の速度、縦軸はその速度成分を持つ粒子の個数であると見なすことができる。したがって、図4は速度分布関数曲線であるといってもよい。
【0035】
ここで、それぞれの速度成分と粒子の個数との積の総和は、流体の流量に比例する。ただし、ビート信号の強度は光の強度(I(t))に比例しているので、光の強度に依存しないように、上記の総和を信号強度の平均値の二乗(<I(t)>2)で除しておく必要がある。流体の流量Fを求める式を以下に示す。
【0036】
【数2】
【0037】
式(2)は、ビート信号の周波数ωと周波数ωにおけるビート信号のパワーP(ω)との積を周波数ωごとに求めて、周波数ωごとに求めた積の総和を求め、この積の総和を、ビート信号の強度平均値の二乗<I(t)>2で除した値を計算すると、流体の流量Fはこの計算結果に比例することを示している。したがって、ビート信号のパワースペクトルと、ビート信号の強度平均値を求めることができれば、式(2)から流体の流量Fを算出することができる。
【0038】
図5は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10aは、パワースペクトル測定部13と、信号強度平均値測定部14と、流量算出部15とを有する。パワースペクトル測定部13は、受光器2で得られた電気信号の強度変動のパワースペクトル、すなわちビート信号のパワースペクトルを測定する。信号強度平均値測定部14は、受光器2で得られた電気信号の変動の強度平均値、すなわちビート信号の強度平均値を測定する。
【0039】
流量算出部15は、パワースペクトル測定部13が測定したビート信号のパワースペクトルと、信号強度平均値測定部14が測定したビート信号の強度平均値とから、式(2)により流体の流量Fを算出する。
【0040】
本実施の形態の方法を用いて流体の流量Fを測定した結果を図6に示す。図6は微小流路7の断面積が0.5mm2の場合で測定した結果を示している。図6の横軸は流量Fの真値、縦軸は本実施の形態の測定値である。図6によれば、流量Fが小さいところでは、真値と本実施の形態の測定値との間に正の相関があることが分かり、本実施の形態の流体測定器を流量計として使用できることが分かる。
【0041】
流量Fが大きいところでは測定値が飽和しているが、測定値が飽和している理由は受光器2の出力を増幅する前置増幅器(不図示)の周波数応答の限界のためであって、本質的な問題ではない。なお、式(2)から得られる測定値を流量Fの真値に換算するためには、測定値に係数を乗じる必要があるが、この係数は、流量Fの真値と式(2)から得られる測定値との関係を求める実験を予め実施しておくことで決定することができる。
【0042】
[第3の実施の形態]
μTASにおいては、流路の分岐等が行われる。その分岐の前後において流速を測定したり、粒子が進行する方向をモニタする必要がある。そこで、一個の光源を流路の分岐点上に配置し、流路の分岐前後に複数の受光器を配置しておくことによって、分岐前後での粒子の流速変化を測定することができる。本実施の形態では、測定チップの基板および流路形成用部材の材料として、シリコンを使っている。シリコンは、安価であり、表面に熱酸化膜を形成しやすく、熱酸化膜の成分はSiOxであるため、測定対象として想定している生体物質や、水に侵され難く、また、逆に流路を流れる物質にも影響を与えない。さらに、市中の半導体プロセス技術を用いれば、容易にフォトダイオードからなる受光器を基板自体に形成することができ、また前置増幅器等の回路を同一チップ上に形成することもできる。
【0043】
また、第2の実施の形態においては微小流路中の粒子の濃度がコロイド溶液のように濃い場合を考えたが、本実施の形態では、細胞などのように粒子径が大きく、粒子が断続的に通過する場合を考える。細胞などのように粒子径が大きく、粒子が断続的に通過する場合は、第2の実施の形態で述べたような推定は成り立たず、むしろ散乱光強度の時間変動を追うことによって、通過する細胞の個数とその速度を測定することができる。
【0044】
すなわち、図7に示すように細胞が通過するたびに、ビート信号のパワースペクトルの形状が上下に変動するので、その時間変化の回数をカウントすることによって細胞の通過個数を数えることができる。例えば図7の例では、ビート信号の代表的な周波数ω1に着目すると、周波数ω1におけるビート信号のパワースペクトルがP0(ω)からP1(ω)に変動している。したがって、細胞が1個通過したとカウントすることができる。また、その際のビート信号の周波数を測定することによって、通過する細胞の速度を測定することができる。
【0045】
図8(A)は本実施の形態の流体測定器の光学部の構成を示す平面図、図8(B)は光学部の断面図である。第1の実施の形態と同様に、測定チップ5aは、積層構造を有しており、基板6と、微小流路7と、微小流路7上に配置された透明板8と、透明板8上に設置された光源1と、微小流路7の下に設置された受光器2−1,2−2,2−3,2−4とを備えている。
【0046】
本実施の形態では、微小流路7は平面視十字型の形状に加工されている。光源1は、十字型の微小流路7の交差点上の位置に設置されている。一方、受光器2−1〜2−4は、微小流路7の四つ角下の位置に1個ずつ設置されている。それぞれの受光器2−1〜2−4には、信号取得用の配線16−1〜16−4が接続されている。
【0047】
第1の実施の形態と同様に、透明板8の全領域のうち少なくとも光源1からのレーザ光が照射される領域には、曇りガラス加工が施されており、適度に散乱光が生じるようになっている。この散乱光は、静止している透明板8からの散乱光なので、ドップラーシフトは生じない。一方、光源1から透明板8を通過して粒子9を含む流体に照射され、粒子9によって散乱されたレーザ光は、ドップラーシフトを生じている。透明板8によって散乱された光と粒子9によって散乱された光とは、受光器2−1〜2−4によって受光され、電気信号に変換される。
【0048】
十字型の微小流路7の四つ角にある受光器2−1〜2−4からの信号を同時にモニタし比較することにより、粒子9の進行方向と速度とを同時に計測することができる。例えば、図8(A)、図8(B)の右から左へ粒子9が通過する場合、粒子9が微小流路7の交差点を通過する前には右側の2つの受光器2−1,2−2からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過するときには4つの受光器2−1〜2−4からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過した後には左側の2つの受光器2−3,2−4からビート信号が得られる。したがって、粒子9が微小流路7を右から左へ通過したことが分かる。
【0049】
また、図8(A)の上から下の方向へ粒子9が通過する場合、粒子9が微小流路7の交差点を通過する前には2つの受光器2−1,2−3からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過するときには4つの受光器2−1〜2−4からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過した後には2つの受光器2−2,2−4からビート信号が得られる。したがって、粒子9が図8(A)の上から下の方向へ通過したことが分かる。
【0050】
図9は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10bは、パワースペクトル測定部17と、周波数測定部18と、計数部19と、速度算出部20と、進行方向判定部21とを有する。パワースペクトル測定部17は、パワースペクトル測定部13と同様にビート信号のパワースペクトルを測定する。このとき、パワースペクトルの測定に使用する受光器は、受光器2−1〜2−4のうちいずれか1つでよい。周波数測定部18は、周波数測定部11と同様にビート信号の周波数を測定する。このとき、周波数の測定に使用する受光器は、パワースペクトル測定部17が使用する受光器と同じでよい。
【0051】
計数部19は、周波数測定部18が測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することによって、粒子9の通過個数を導出する。
速度算出部20は、速度算出部12と同様に周波数測定部18が測定したビート信号の周波数から粒子9の移動速度を算出する。
【0052】
進行方向判定部21は、各受光器2−1〜2−4におけるビート信号の発生状況から、粒子9の進行方向を判定する。
こうして、本実施の形態では、粒子9の通過個数と移動速度と進行方向とを同時に測定することができる。
【0053】
[第4の実施の形態]
コロイド懸濁液のような粒子含有流体においては全体的な流れが無い場合でも、ブラウン運動があるため、散乱光のドップラーシフトが無くなることは無い。ブラウン運動は粒子に対して、流体の分子(例えば水分子)が熱運動によってあらゆる方向から衝突することによって、生じる粒子の乱雑な運動である。一定時間一方向に運動するものではないため、速度の概念では表されない。熱運動しているため、温度が高いほど水分子の衝突は激しくなり、また、粒子の形状が小さいほど水の抵抗が減るのでブラウン運動による粒子のゆらぎの激しさは増す。ゆらぎの激しさは拡散係数として表わされる。ブラウン運動の拡散係数Dは下記の式で表される。
【0054】
【数3】
【0055】
ここで、kBはボルツマン定数、Tは温度、ηは水の粘性係数、rは粒子の半径である。ここで流量は粒子の運動によるドップラー効果の指標となり、ブラウン運動のゆらぎの激しさとして表されるため、流量は粒子の直径と関係がある。図10に直径60nm−3000nmのポリスチレンラテックス粒子の流量値を第2の実施の形態の方法によって測定した結果を示す。水温は25度で一定である。粒子径と流量値のそれぞれのデータのフィッティングによって、経験則として以下の式(4)の関係があることが分かった。
【0056】
【数4】
【0057】
ここで、αは装置依存の比例係数で、α=11400である。この経験則を用いて、流量Fを測定することによって粒子半径を求めることができる。図10に示した結果は摂氏25度で測定した結果であるが、式(3)から分かるように流量Fと粒子径との間には温度依存性があるため、温度一定の条件下で比較する必要がある。逆に、粒子径が既知の場合は温度や流体の粘性係数を推定することもできる。
【0058】
本実施の形態においても、流体測定器の光学部の構成は図2に示したとおりである。図11は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10cは、パワースペクトル測定部13と、信号強度平均値測定部14と、流量算出部15と、粒子半径算出部22とを有する。パワースペクトル測定部13と信号強度平均値測定部14と流量算出部15の動作は第2の実施の形態で説明したとおりである。
粒子半径算出部22は、流量算出部15が算出した流量Fから、式(4)により粒子9の半径rを算出する。
【0059】
第1〜第4の実施の形態で説明した演算装置10,10a,10b,10cは、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。各演算装置10,10a,10b,10cのCPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第4の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、家畜・医療診断用の測定チップや、薬品応答性検出用の測定チップにおいて、試薬や試料等の流体の動態を測定するために有用である。また、本発明は、測定チップを用いて分析を行うμTASに使用することができる。例えば、唾液、尿、血液等の生体試料の分析用μTASに使用することができる。本発明に係る流体測定器および流体測定方法によると、簡易な構成の測定チップにおいて、流速、流量、粒子通過個数、粒子濃度、粒子径の測定を行うことができるので、特に使い捨て用の測定チップに適用すると有用である。
【符号の説明】
【0061】
1…光源、2,2−1〜2−4…受光器、3…不動物体、4…流動物体、5,5a…測定チップ、6…基板、7…微小流路、8…透明板、9…粒子、10,10a,10b,10c…演算装置、11,18…周波数測定部、12,20…速度算出部、13,17…パワースペクトル測定部、14…信号強度平均値測定部、15…流量算出部、16−1〜16−4…配線、19…計数部、21…進行方向判定部、22…粒子半径算出部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体測定器に関し、特に微小流路の流量や流速、流体中の粒子個数や粒子濃度、粒子径等の測定器として適用することができる流体測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微小・集積化化学分析システム、いわゆるμTAS(Micro Total Analysis Systems)は、試薬および試料である液体の流路となる微小流路、反応容器、検出容器が数cm角の1枚のチップに形成され、流体の自発的挙動に基づいて流体の混合や反応を微小流路内で行うシステムである。このようなシステムは、チップの使い捨て化、使用する試薬および試料の節減、分析高速化、測定自動化、装置の持ち運び可能化、低コスト化を可能にするものとして期待されている。
【0003】
例えば、牛乳等を試料とする家畜診断用途の分析装置においては、牛舎内でも簡便に使用することができ、また検査に使用したチップは使い捨てにすることができるので、μTASは非常に有用である(非特許文献1,2,3,4)。
このようなμTASを用いたシステムにおいては、流路を流れる流体の状態をモニタするために、実験室においては顕微鏡下で撮影し動画解析することによって流速や流量、粒子の挙動、粒子濃度を観測している。また、何らかの理由で顕微鏡が使用できない状況下では、実験室内での測定結果を基にして推定値を用いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Miura,et al.,“Capillary-Driven Flow Chip for Simple and Quick SPR Measurement”,Pittcon Conference and Expo 2008,360-5,2008
【非特許文献2】Y.Iwasaki,et al.,“Rapid Identification of Pathogens in Food Samples Using Simplified Immunoassay System”,Pittcon Conference and Expo 2008,360-7,2008
【非特許文献3】岩崎弦ほか,“ユビキタス生体分子センサー”,月刊バイオインダストリー,12月号,p.24-29,2009
【非特許文献4】“表面プラズモン化学センサ”,NTTマイクロシステムインテグレーション研究所,平成22年12月1日検索、インターネット,<http://www.ntt.co.jp/milab/project/pr09_spr.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体の流速や流量、粒子の挙動、粒子濃度を観測するために顕微鏡で撮影し動画解析を行う方法では、動画解析に時間がかかり、リアルタイム性にかけるという問題点があった。また、動画解析には計算能力の高いコンピュータを使用する必要があり、コスト高になるという問題点があった。また、顕微鏡を使用しない状況においては、推定値に頼らざるをえないため、測定が不正確になるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、正確かつ安価に粒子の移動速度を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、正確かつ安価に流体の流量を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、正確かつ安価に粒子の通過個数と移動速度と進行方向を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、正確かつ安価に粒子の半径を短時間で測定することができる流体測定器および流体測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、この周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記流路の複数箇所に配置され、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する複数の受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、この周波数測定手段が測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数手段と、前記周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段と、前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の流体測定器は、光を散乱する透明板で覆われた流路と、前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段と、この流量算出手段が算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、この周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを、前記流路の複数箇所に配置された複数の受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、この周波数測定ステップで測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数ステップと、前記周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップと、前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の流体測定方法は、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップと、この流量算出ステップで算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号の周波数解析を行うことによって、粒子の移動速度を算出することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に粒子の移動速度を短時間で測定することができる。
【0016】
また、本発明では、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルとビート信号の強度平均値とを測定することによって、流体の流量を算出することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に流体の流量を短時間で測定することができる。
【0017】
また、本発明では、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを、流路の複数箇所に配置された複数の受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルとビート信号の周波数とを測定することによって、粒子の通過個数と移動速度と進行方向を測定することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に粒子の通過個数と移動速度と進行方向を短時間で測定することができる。
【0018】
また、本発明では、光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、透明板を通してレーザ光を照射し、透明板によって散乱された光と流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換し、電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルとビート信号の強度平均値とを測定することによって、粒子の半径を算出することができる。その結果、本発明では、簡易な構成の測定チップを使って、正確かつ安価に粒子の半径を短時間で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器の動作原理を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器の光学部の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【図4】ビート信号のパワースペクトルの例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態における流体の流量の測定結果を示す図である。
【図7】粒子通過の際に測定されるビート信号のパワースペクトルの例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る流体測定器の光学部の構成を示す平面図および断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【図10】粒子直径と流量との関係を示す図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態に係る流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る流体測定器の動作原理を説明する図である。流体測定器は、光源1と、受光器2と、光源1および受光器2の下に配置され、光を散乱する不動物体3とを有する。
光源1からの光は、不動物体3に照射されると共に、光源1と受光器2の下にあって移動中の流動物体4(測定対象である流体中の粒子)に照射され、不動物体3と流動物体4のそれぞれによって散乱される。
【0021】
不動物体3と流動物体4により散乱された光は、受光器2によって受光され、電気信号に変換される。このとき、受光器2に入射する光には二種類ある。一つは、流動物体4(流体中の動いている粒子)からの散乱光であり、もう一つは不動物体3からの散乱光である。流動物体4からの散乱光は、流動物体4の移動速度に比例したドップラー効果による周波数シフトを生じている。しかし、不動物体3からの散乱光の周波数は不変である。このような光周波数の極めて近い光同士が干渉すると、光周波数の差に反比例した周期のうなり(ビート)が生じる。
【0022】
光自身の周波数は数百THzであり、電子回路で直接計測することはできないが、ビートの典型的な周波数は数十kHz以下であるため、受光器2に入射する反射光の強度の振動として測定可能である。光源1における光の周波数をω0、流動物体4の移動速度(すなわち流体の流速)をv、光速度をc、流体の屈折率をnとすると、受光器2で得られるビート信号の周波数ωdsは以下の式で表される。
【0023】
【数1】
【0024】
例えば、流速v=0.01[m/s]、波長λ=850nm、光速度c=3×108[m/s]、屈折率n=1.3とすると、ω0=c/λ=353[THz]であるので、ωds=15.3[kHz]となり、電子回路で検出できる範囲の周波数である。
【0025】
本発明では、流動物体4によって散乱されドップラーシフトを受けて戻ってくる光と、静止している不動物体3によって散乱され戻ってくる光の双方の干渉を利用することから、どちらか一方の光が極端に強く、他方の光が極端に弱いなどの場合ではビート信号も明確に得られないため測定できない。よって、双方の光の強度は比較可能なほどに同程度であることが必要である。
【0026】
次に、以上の原理を用いた本実施の形態の流体測定器の構成を図2に示す。図1で説明したとおり、光源1と受光器2とが隣接して配置されている。光源1と受光器2がそれぞれベアチップだとすると、それぞれの中心間隔の距離は例えば0.5mmから2mm程度である。光源1と受光器2とは、測定チップ5の上に設置される。測定チップ5は、積層構造を有しており、数cm角程度の大きさの基板6と、基板6上に配置された微小流路7と、微小流路7上に配置された例えばガラス製の透明板8と、透明板8上に設置された光源1および受光器2とを備えている。
【0027】
微小流路7は、基板6上に積層された平板状の流路形成用部材(不図示)に形成されている。基板6および流路形成用部材の材料としては、例えばシリコンがある。流動物体である粒子9を含む流体が微小流路7内に投入されると、この流体が微小流路7を流れるようになっている。平板状の透明板8は、流路形成用部材の上に積層されている。光源1および受光器2は、微小流路7上の位置に設置されている。
【0028】
光源1から粒子9への光の照射および粒子9からの散乱光の受光は、透明板8を介して行われる。すなわち、透明板8は、光源1からの光に対して透明な性質を有する。ただし、この透明板8の全領域のうち少なくとも光源1からの光が照射される領域には、曇りガラス加工が施されており、適度に散乱光が生じるようになっている。この散乱光は、静止している透明板8からの散乱光なので、ドップラーシフトは生じない。すなわち、透明板8は、上記の不動物体3としての働きを有する。
【0029】
一方、光源1から透明板8を通過して粒子9に照射されて粒子9によって散乱された光は、ドップラーシフトを生じている。このドップラーシフトを生じた光は、透明板8を再度通過する。しかし、前述のとおり、光源1から透明板8の曇りガラス加工部に至り、曇りガラス加工部によって散乱された光は、ドップラーシフトを生じない。透明板8によって散乱された光と粒子9によって散乱された光とは、受光器2によって受光され、電気信号に変換される。以上のように、透明板8に曇りガラス加工を施すことによって不動物体からの散乱光を生成することができ、粒子9によってドップラーシフトを受けた散乱光と比肩できる強度の散乱光を得ることができるので、受光器2で検出可能なビート信号が得られる。
【0030】
このビート信号の周波数ωdsを求めることができれば、式(1)から粒子9の移動速度vを算出することができる。図3は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10は、周波数測定部11と速度算出部12とを有する。周波数測定部11は、受光器2で得られた電気信号の強度変動の周波数、すなわちビート信号の周波数ωdsを測定する。周波数測定の手法としては例えばFFT(Fast Fourier Transform)がある。後述のパワースペクトルで説明するように、ビート信号の周波数成分は広い周波数範囲にわたって分布しているが、ここでは周波数成分の代表値をビート信号の周波数として採用すればよい。
【0031】
速度算出部12は、周波数測定部11が測定したビート信号の周波数ωdsから、粒子9の移動速度vを算出する。
こうして、本実施の形態では、粒子9の移動速度vを短時間で測定することができる。また、従来のμTASような動画解析が不要となるので、従来よりも計算能力の低いコンピュータで測定を実現することができ、流体測定器のコストを低減することができる。
【0032】
なお、透明板8の曇りガラス加工の代替として、透明ガラス中に散乱粒子を分散して配置したものを透明板8として用いてもよい。光の干渉効果を利用する性質上、発光ダイオードや白熱電球のような発光波長幅の広い光源を使用した場合、上記の効果は得られないため、光源1としてはレーザダイオードを使用する。本実施の形態では、レーザダイオードからなる光源1とフォトダイオードからなる受光器2とはそれぞれベアチップ(ダイ)を使用している。
【0033】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、粒子の移動速度の測定方法について説明したが、次に図4を用いて流体の流量の測定方法について述べる。本実施の形態においても、流体測定器の光学部の構成は図2に示したとおりである。第1の実施の形態で述べたように、ドップラーシフトがある散乱光とドップラーシフトが無い散乱光のホモダイン干渉の結果得られるビート信号の周波数は、粒子の速度の情報を持っている。
【0034】
代表的な測定例のビート信号のパワースペクトルを図4に示す。このパワースペクトルの横軸は周波数で縦軸はパワーである。式(1)に示したとおりビート信号の周波数は粒子の速度に比例しているので、図4の横軸は粒子の速度、縦軸はその速度成分を持つ粒子の個数であると見なすことができる。したがって、図4は速度分布関数曲線であるといってもよい。
【0035】
ここで、それぞれの速度成分と粒子の個数との積の総和は、流体の流量に比例する。ただし、ビート信号の強度は光の強度(I(t))に比例しているので、光の強度に依存しないように、上記の総和を信号強度の平均値の二乗(<I(t)>2)で除しておく必要がある。流体の流量Fを求める式を以下に示す。
【0036】
【数2】
【0037】
式(2)は、ビート信号の周波数ωと周波数ωにおけるビート信号のパワーP(ω)との積を周波数ωごとに求めて、周波数ωごとに求めた積の総和を求め、この積の総和を、ビート信号の強度平均値の二乗<I(t)>2で除した値を計算すると、流体の流量Fはこの計算結果に比例することを示している。したがって、ビート信号のパワースペクトルと、ビート信号の強度平均値を求めることができれば、式(2)から流体の流量Fを算出することができる。
【0038】
図5は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10aは、パワースペクトル測定部13と、信号強度平均値測定部14と、流量算出部15とを有する。パワースペクトル測定部13は、受光器2で得られた電気信号の強度変動のパワースペクトル、すなわちビート信号のパワースペクトルを測定する。信号強度平均値測定部14は、受光器2で得られた電気信号の変動の強度平均値、すなわちビート信号の強度平均値を測定する。
【0039】
流量算出部15は、パワースペクトル測定部13が測定したビート信号のパワースペクトルと、信号強度平均値測定部14が測定したビート信号の強度平均値とから、式(2)により流体の流量Fを算出する。
【0040】
本実施の形態の方法を用いて流体の流量Fを測定した結果を図6に示す。図6は微小流路7の断面積が0.5mm2の場合で測定した結果を示している。図6の横軸は流量Fの真値、縦軸は本実施の形態の測定値である。図6によれば、流量Fが小さいところでは、真値と本実施の形態の測定値との間に正の相関があることが分かり、本実施の形態の流体測定器を流量計として使用できることが分かる。
【0041】
流量Fが大きいところでは測定値が飽和しているが、測定値が飽和している理由は受光器2の出力を増幅する前置増幅器(不図示)の周波数応答の限界のためであって、本質的な問題ではない。なお、式(2)から得られる測定値を流量Fの真値に換算するためには、測定値に係数を乗じる必要があるが、この係数は、流量Fの真値と式(2)から得られる測定値との関係を求める実験を予め実施しておくことで決定することができる。
【0042】
[第3の実施の形態]
μTASにおいては、流路の分岐等が行われる。その分岐の前後において流速を測定したり、粒子が進行する方向をモニタする必要がある。そこで、一個の光源を流路の分岐点上に配置し、流路の分岐前後に複数の受光器を配置しておくことによって、分岐前後での粒子の流速変化を測定することができる。本実施の形態では、測定チップの基板および流路形成用部材の材料として、シリコンを使っている。シリコンは、安価であり、表面に熱酸化膜を形成しやすく、熱酸化膜の成分はSiOxであるため、測定対象として想定している生体物質や、水に侵され難く、また、逆に流路を流れる物質にも影響を与えない。さらに、市中の半導体プロセス技術を用いれば、容易にフォトダイオードからなる受光器を基板自体に形成することができ、また前置増幅器等の回路を同一チップ上に形成することもできる。
【0043】
また、第2の実施の形態においては微小流路中の粒子の濃度がコロイド溶液のように濃い場合を考えたが、本実施の形態では、細胞などのように粒子径が大きく、粒子が断続的に通過する場合を考える。細胞などのように粒子径が大きく、粒子が断続的に通過する場合は、第2の実施の形態で述べたような推定は成り立たず、むしろ散乱光強度の時間変動を追うことによって、通過する細胞の個数とその速度を測定することができる。
【0044】
すなわち、図7に示すように細胞が通過するたびに、ビート信号のパワースペクトルの形状が上下に変動するので、その時間変化の回数をカウントすることによって細胞の通過個数を数えることができる。例えば図7の例では、ビート信号の代表的な周波数ω1に着目すると、周波数ω1におけるビート信号のパワースペクトルがP0(ω)からP1(ω)に変動している。したがって、細胞が1個通過したとカウントすることができる。また、その際のビート信号の周波数を測定することによって、通過する細胞の速度を測定することができる。
【0045】
図8(A)は本実施の形態の流体測定器の光学部の構成を示す平面図、図8(B)は光学部の断面図である。第1の実施の形態と同様に、測定チップ5aは、積層構造を有しており、基板6と、微小流路7と、微小流路7上に配置された透明板8と、透明板8上に設置された光源1と、微小流路7の下に設置された受光器2−1,2−2,2−3,2−4とを備えている。
【0046】
本実施の形態では、微小流路7は平面視十字型の形状に加工されている。光源1は、十字型の微小流路7の交差点上の位置に設置されている。一方、受光器2−1〜2−4は、微小流路7の四つ角下の位置に1個ずつ設置されている。それぞれの受光器2−1〜2−4には、信号取得用の配線16−1〜16−4が接続されている。
【0047】
第1の実施の形態と同様に、透明板8の全領域のうち少なくとも光源1からのレーザ光が照射される領域には、曇りガラス加工が施されており、適度に散乱光が生じるようになっている。この散乱光は、静止している透明板8からの散乱光なので、ドップラーシフトは生じない。一方、光源1から透明板8を通過して粒子9を含む流体に照射され、粒子9によって散乱されたレーザ光は、ドップラーシフトを生じている。透明板8によって散乱された光と粒子9によって散乱された光とは、受光器2−1〜2−4によって受光され、電気信号に変換される。
【0048】
十字型の微小流路7の四つ角にある受光器2−1〜2−4からの信号を同時にモニタし比較することにより、粒子9の進行方向と速度とを同時に計測することができる。例えば、図8(A)、図8(B)の右から左へ粒子9が通過する場合、粒子9が微小流路7の交差点を通過する前には右側の2つの受光器2−1,2−2からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過するときには4つの受光器2−1〜2−4からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過した後には左側の2つの受光器2−3,2−4からビート信号が得られる。したがって、粒子9が微小流路7を右から左へ通過したことが分かる。
【0049】
また、図8(A)の上から下の方向へ粒子9が通過する場合、粒子9が微小流路7の交差点を通過する前には2つの受光器2−1,2−3からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過するときには4つの受光器2−1〜2−4からビート信号が得られ、粒子9が交差点を通過した後には2つの受光器2−2,2−4からビート信号が得られる。したがって、粒子9が図8(A)の上から下の方向へ通過したことが分かる。
【0050】
図9は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10bは、パワースペクトル測定部17と、周波数測定部18と、計数部19と、速度算出部20と、進行方向判定部21とを有する。パワースペクトル測定部17は、パワースペクトル測定部13と同様にビート信号のパワースペクトルを測定する。このとき、パワースペクトルの測定に使用する受光器は、受光器2−1〜2−4のうちいずれか1つでよい。周波数測定部18は、周波数測定部11と同様にビート信号の周波数を測定する。このとき、周波数の測定に使用する受光器は、パワースペクトル測定部17が使用する受光器と同じでよい。
【0051】
計数部19は、周波数測定部18が測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することによって、粒子9の通過個数を導出する。
速度算出部20は、速度算出部12と同様に周波数測定部18が測定したビート信号の周波数から粒子9の移動速度を算出する。
【0052】
進行方向判定部21は、各受光器2−1〜2−4におけるビート信号の発生状況から、粒子9の進行方向を判定する。
こうして、本実施の形態では、粒子9の通過個数と移動速度と進行方向とを同時に測定することができる。
【0053】
[第4の実施の形態]
コロイド懸濁液のような粒子含有流体においては全体的な流れが無い場合でも、ブラウン運動があるため、散乱光のドップラーシフトが無くなることは無い。ブラウン運動は粒子に対して、流体の分子(例えば水分子)が熱運動によってあらゆる方向から衝突することによって、生じる粒子の乱雑な運動である。一定時間一方向に運動するものではないため、速度の概念では表されない。熱運動しているため、温度が高いほど水分子の衝突は激しくなり、また、粒子の形状が小さいほど水の抵抗が減るのでブラウン運動による粒子のゆらぎの激しさは増す。ゆらぎの激しさは拡散係数として表わされる。ブラウン運動の拡散係数Dは下記の式で表される。
【0054】
【数3】
【0055】
ここで、kBはボルツマン定数、Tは温度、ηは水の粘性係数、rは粒子の半径である。ここで流量は粒子の運動によるドップラー効果の指標となり、ブラウン運動のゆらぎの激しさとして表されるため、流量は粒子の直径と関係がある。図10に直径60nm−3000nmのポリスチレンラテックス粒子の流量値を第2の実施の形態の方法によって測定した結果を示す。水温は25度で一定である。粒子径と流量値のそれぞれのデータのフィッティングによって、経験則として以下の式(4)の関係があることが分かった。
【0056】
【数4】
【0057】
ここで、αは装置依存の比例係数で、α=11400である。この経験則を用いて、流量Fを測定することによって粒子半径を求めることができる。図10に示した結果は摂氏25度で測定した結果であるが、式(3)から分かるように流量Fと粒子径との間には温度依存性があるため、温度一定の条件下で比較する必要がある。逆に、粒子径が既知の場合は温度や流体の粘性係数を推定することもできる。
【0058】
本実施の形態においても、流体測定器の光学部の構成は図2に示したとおりである。図11は本実施の形態の流体測定器で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。演算装置10cは、パワースペクトル測定部13と、信号強度平均値測定部14と、流量算出部15と、粒子半径算出部22とを有する。パワースペクトル測定部13と信号強度平均値測定部14と流量算出部15の動作は第2の実施の形態で説明したとおりである。
粒子半径算出部22は、流量算出部15が算出した流量Fから、式(4)により粒子9の半径rを算出する。
【0059】
第1〜第4の実施の形態で説明した演算装置10,10a,10b,10cは、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。各演算装置10,10a,10b,10cのCPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第4の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、家畜・医療診断用の測定チップや、薬品応答性検出用の測定チップにおいて、試薬や試料等の流体の動態を測定するために有用である。また、本発明は、測定チップを用いて分析を行うμTASに使用することができる。例えば、唾液、尿、血液等の生体試料の分析用μTASに使用することができる。本発明に係る流体測定器および流体測定方法によると、簡易な構成の測定チップにおいて、流速、流量、粒子通過個数、粒子濃度、粒子径の測定を行うことができるので、特に使い捨て用の測定チップに適用すると有用である。
【符号の説明】
【0061】
1…光源、2,2−1〜2−4…受光器、3…不動物体、4…流動物体、5,5a…測定チップ、6…基板、7…微小流路、8…透明板、9…粒子、10,10a,10b,10c…演算装置、11,18…周波数測定部、12,20…速度算出部、13,17…パワースペクトル測定部、14…信号強度平均値測定部、15…流量算出部、16−1〜16−4…配線、19…計数部、21…進行方向判定部、22…粒子半径算出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
この周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項2】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、
前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項3】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記流路の複数箇所に配置され、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する複数の受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、
前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
この周波数測定手段が測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数手段と、
前記周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段と、
前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項4】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、
前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段と、
この流量算出手段が算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項5】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、
この周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【請求項6】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、
前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【請求項7】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを、前記流路の複数箇所に配置された複数の受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、
前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、
この周波数測定ステップで測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数ステップと、
前記周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップと、
前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【請求項8】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、
前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップと、
この流量算出ステップで算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【請求項1】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
この周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項2】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、
前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項3】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記流路の複数箇所に配置され、前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する複数の受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、
前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
この周波数測定手段が測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数手段と、
前記周波数測定手段が測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出手段と、
前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項4】
光を散乱する透明板で覆われた流路と、
前記透明板を通して前記流路中の流体にレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記透明板によって散乱された光と前記流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光して電気信号に変換する受光器と、
この受光器で得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定手段と、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定手段と、
前記パワースペクトル測定手段が測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定手段が測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出手段と、
この流量算出手段が算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出手段とを備えることを特徴とする流体測定器。
【請求項5】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、
この周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【請求項6】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、
前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【請求項7】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを、前記流路の複数箇所に配置された複数の受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、
前記ビート信号の周波数を測定する周波数測定ステップと、
この周波数測定ステップで測定した周波数におけるビート信号のパワーの変化の回数を測定することにより前記粒子の通過個数を導出する計数ステップと、
前記周波数測定ステップで測定したビート信号の周波数から前記粒子の移動速度を算出する速度算出ステップと、
前記複数の受光器におけるビート信号の発生状況から前記粒子の進行方向を判定する進行方向判定ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【請求項8】
光を散乱する透明板で覆われた流路に対して、レーザ光源から前記透明板を通してレーザ光を照射するレーザ照射ステップと、
前記透明板によって散乱された光と前記流路中の流体に含まれる粒子によって散乱された光とを受光器で受光して電気信号に変換する受光ステップと、
この受光ステップで得られた電気信号に含まれるビート信号のパワースペクトルを測定するパワースペクトル測定ステップと、
前記ビート信号の強度平均値を測定する信号強度平均値測定ステップと、
前記パワースペクトル測定ステップで測定したビート信号のパワースペクトルと前記信号強度平均値測定ステップで測定したビート信号の強度平均値とから流体の流量を算出する流量算出ステップと、
この流量算出ステップで算出した流量から前記粒子の半径を算出する粒子半径算出ステップとを備えることを特徴とする流体測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−255745(P2012−255745A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130016(P2011−130016)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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