流体管の移動防止装置
【課題】抜止め部材の移動代のばらつきを抑えて、流体管の移動防止効果を安定的に発揮できる流体管の移動防止装置を提供する。
【解決手段】水道管Pの外周面2aに食い込み可能な爪8を有する抜止め部材6と、収容溝9内に抜止め部材6を収容する環状のハウジング7と、水道管Pの移動方向を向いた抜止め部材6の第1側面61に取り付けられた弾性部材11と、第1側面61の反対側を向いた抜止め部材6の第2側面に取り付けられた保持部材12とを備え、初期状態から抜止め部材6の爪8が外周面2aに係止可能なセット状態に至る過程で、第2側面に対向する内壁面92に保持部材12が接当しつつ、第1側面61とそれに対向する内壁面91との間隔Dが弾性部材11を介して保持される。
【解決手段】水道管Pの外周面2aに食い込み可能な爪8を有する抜止め部材6と、収容溝9内に抜止め部材6を収容する環状のハウジング7と、水道管Pの移動方向を向いた抜止め部材6の第1側面61に取り付けられた弾性部材11と、第1側面61の反対側を向いた抜止め部材6の第2側面に取り付けられた保持部材12とを備え、初期状態から抜止め部材6の爪8が外周面2aに係止可能なセット状態に至る過程で、第2側面に対向する内壁面92に保持部材12が接当しつつ、第1側面61とそれに対向する内壁面91との間隔Dが弾性部材11を介して保持される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる流体管の移動防止装置として、図12に示すような押輪(連結用環)が知られている(下記特許文献1)。この押輪34は、ハウジング37の収容溝39内に複数の抜止め部材36を収容しており、図12では、抜止め部材36の爪38が流体管Pの外周面に係止可能なセット状態を示している。図13は、運搬時や外嵌作業開始時などの初期状態を示しており、押輪34を流体管Pに外嵌装着した後、押ボルト31で抜止め部材36を押し込むことにより図12のセット状態に移行する。保持ピース32は、抜止め部材36を収容溝39から脱落しないように保持する。
【0003】
図14は、矢印方向Fへの負荷が流体管Pに作用したときの負荷状態を示す。セット状態から流体管Pが矢印方向Fに移動しようとすると、それに伴って抜止め部材36の外周面が押ボルト31の先端に強く押し当たり、抜止め部材36を流体管P側に押圧する力が働いて爪38が強固に食い込み、流体管Pの軸芯方向への移動を防止することができる。このときの抜止め部材36の移動代Mは、セット状態における抜止め部材36の側面と、それに対向する収容溝39の内壁面との間隔に基づいて定まる。
【0004】
初期状態では抜止め部材36と収容溝39との間隔Dが移動代Mよりも小さく、セット状態に至る過程で抜止め部材36が押し込まれると、それに伴って間隔Dが拡がり、セット状態で移動代Mとなる。このため、抜止め部材36の押込み量に応じて移動代Mが変化しうる状況にあり、セット状態において抜止め部材36の移動代Mがばらつくという問題があった。また、押込み量が一定であっても、収容溝39の溝幅が異なると、それに応じて移動代Mが変化するため、ハウジング37が寸法公差の大きい鋳物である場合には特に、移動代Mがばらつきやすい。
【0005】
このような移動代のばらつきは、流体管の軸芯方向への移動を防止する機能を不安定にし、例えば流体管の上側に位置する抜止め部材と、その流体管の下側に位置する抜止め部材との間で移動代が異なると、流体管の移動防止効果を安定的に発揮しにくい傾向にある。特に流体管に強力な負荷が作用したときには、抜止め部材の移動代のばらつきにより極限性能が左右される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平4−39507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、抜止め部材の移動代のばらつきを抑えて、流体管の移動防止効果を安定的に発揮できる流体管の移動防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る流体管の移動防止装置は、流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置において、前記流体管の周方向の複数箇所に配設され、前記流体管の外周面に食い込み可能な爪を有する抜止め部材と、前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、その収容溝内に前記抜止め部材を収容する環状のハウジングと、前記流体管の移動方向を向いた前記抜止め部材の第1側面に取り付けられた弾性部材と、前記第1側面の反対側を向いた前記抜止め部材の第2側面に取り付けられた保持部材とを備え、初期状態から前記抜止め部材の爪が前記流体管の外周面に係止可能なセット状態に至る過程で、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に前記保持部材が接当しつつ、前記第1側面とそれに対向する前記収容溝の内壁面との間隔が前記弾性部材を介して保持されるように構成されたものである。
【0009】
本発明に係る流体管の移動防止装置では、初期状態からセット状態に至る過程で、抜止め部材の第2側面に対向する収容溝の内壁面に保持部材が接当しつつ、抜止め部材の第1側面とそれに対向する収容溝の内壁面との間隔が弾性部材を介して保持されることから、抜止め部材の押込み量や収容溝の溝幅に左右されることなく抜止め部材の移動代が定まり、その結果、抜止め部材の移動代のばらつきを抑えて、流体管の移動防止効果を安定的に発揮することができる。
【0010】
本発明では、前記弾性部材が、前記抜止め部材の周方向における中央部と両端部に取り付けられているものが好ましい。これにより、初期状態やセット状態において、抜止め部材が弾性部材を介して収容溝の内壁面に局部的に接当することを防ぎ、第1側面と収容溝の内壁面との間隔を保持して、抜止め部材の移動代のばらつきを効果的に抑えられる。また、負荷状態においても、抜止め部材に対して負荷が局部的に集中しないため、流体管の移動防止効果を安定的に発揮するうえで有益である。
【0011】
上記において、前記初期状態にて、前記保持部材が、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に形成された段部に係合するものが好ましい。かかる構成によれば、初期状態において抜止め部材を的確に位置決めできるため、抜止め部材の落下が防止できるとともに、第1側面と収容溝の内壁面との間隔をより精度良く保持して、抜止め部材の移動代のばらつきを効果的に抑えることができる。
【0012】
上記においては、前記保持部材に前記段部と係合する突起が設けられているものでもよい。かかる構成によれば、段部に対して保持部材を堅固に係合させることができ、初期状態又はセット状態において抜止め部材を精度良く位置決めして、移動代のばらつきを有効に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る流体管の移動防止装置の一例である押輪を装着した管継手部の半断面図
【図2】その押輪を軸方向から見た図
【図3】その押輪を内周側から見たときの展開図
【図4】抜止め部材の第1側面を示す図
【図5】抜止め部材の第2側面を示す図
【図6】初期状態における図3の(A)B−B矢視断面図と(B)C−C矢視断面図
【図7】セット状態における図3の(A)B−B矢視断面図と(B)C−C矢視断面図
【図8】負荷状態における図3の(A)B−B矢視断面図と(B)C−C矢視断面図
【図9】本発明に係る流体管の移動防止装置の一例である補強金具を装着した管継手部の平面図
【図10】その補強金具のセット状態における(A)半断面図と(B)その要部拡大図
【図11】その補強金具の初期状態における要部断面図
【図12】従来の押輪のセット状態における(A)要部断面図と(B)D−D矢視断面図と(C)E−E矢視断面図
【図13】初期状態におけるD−D矢視断面図
【図14】負荷状態におけるD−D矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
[第1実施形態]
第1実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を押輪に適用した例を示す。図1は、その押輪4を装着した管継手部の半断面図であり、図2のA−A矢視断面図に相当する。この管継手部では、管または管継手本体の受口部1に、ダクタイル鋳鉄製の水道管P(流体管の一例)の挿口部2が挿入接続されており、その水道管Pに外嵌装着された押輪4によって、水道管Pの軸芯方向への移動を防ぎ、延いては受口部1からの挿口部2の離脱を阻止可能に構成されている。
【0016】
押輪4は、水道管Pの周方向の複数箇所(本実施形態では6箇所)にボルト挿通孔41を有し、それに挿通されたT頭ボルト51とナット52とからなる締結具5によって、受口部1のフランジ1bに連結されている。シール材3は、受口部1の内周面1aと挿口部2の外周面2aとの間を密封し、押輪4により軸芯方向から圧縮されている。図3〜5に示すように、押輪4は、抜止め部材6と、環状のハウジング7と、弾性部材11と、保持部材12とを備える。
【0017】
抜止め部材6は、水道管Pの周方向の複数箇所(本実施形態では6箇所)に配設され、水道管Pの外周面2aに食い込み可能な爪8を有する。抜止め部材6は、金属のような堅牢な材料で作製され、具体的には鋳鉄が例示される。本実施形態では、抜止め部材6の内周面に、軸芯方向に間隔を設けて配置された2本の爪8が突設され、その爪8の先端が、水道管Pの外周面2aと同等の曲率で湾曲しつつ、図6〜8に示すように断面三角形状に形成されている。抜止め部材6が有する爪8の本数は、1本又は3本以上であっても構わない。
【0018】
ハウジング7は、水道管Pの外周面2aに向けて開口した収容溝9を有し、その収容溝9内に抜止め部材6を収容する。収容溝9は、水道管Pの周方向に沿って環状に形成されているが、抜止め部材6を個別に収容するように断続的に凹設されていても構わない。また、本実施形態ではハウジング7が円環状に一体成形されている例を示すが、これに代えて分割構造としてもよく、その場合には、複数の分割片の周端を互いに組み付けることで環状に形成される。
【0019】
弾性部材11は、水道管Pの移動方向(図1の左方向、図8の矢印方向F)を向いた抜止め部材6の第1側面61に取り付けられている。本実施形態では、弾性部材11が、シート状に形成され、抜止め部材6の周方向における中央部と両端部を含んだ第1側面61の略全域に取り付けられている。弾性部材11は、ゴムなどの弾性材料により形成され、保持部材12よりも硬質であることが好ましい。第1側面61への取り付けには、接着剤や粘着剤による貼着、ゴムの焼き付け、ライニング等が利用できる。
【0020】
保持部材12は、第1側面61の反対側(図1の右方向)を向いた抜止め部材6の第2側面62に取り付けられている。本実施形態では、保持部材12がシート状に形成され、その周方向の両端部が中央部よりも肉厚であって、該肉厚部分の上部に突起が設けられている(図8(B)参照)。保持部材12は、例えばゴムやウレタンで形成され、特に限定されないが、弾性材料により形成されることが好ましい。第2側面62への取り付けには、上記した貼着や焼き付け、ライニング等が利用できる。
【0021】
本実施形態の押輪4は、抜止め部材6を水道管Pの外周面2aに向かって押圧する押圧部材としての押ボルト10を備える。ハウジング7は、収容溝9の外周壁を斜め方向に貫通する雌ねじ孔7aを有し、その雌ねじ孔7aに螺合された押ボルト10の先端が、抜止め部材6の周方向における中央部に対向している。この押ボルト10を回転操作して抜止め部材6を押し込むことにより、初期状態からセット状態への移行が行われる。
【0022】
また、この押輪4では、抜止め部材6の軸芯方向への移動に伴って、抜止め部材6を水道管P側に押圧する力が作用するように構成されている。即ち、抜止め部材6の外周面には、水道管Pの移動方向に向かって小径となる傾斜面63が形成されており、水道管Pを移動させる外力が作用したときには、この傾斜面63が押ボルト10の先端に押し当たって楔効果を発揮せしめて、抜止め部材6が水道管Pの外周面2aに押圧される。
【0023】
図6は、出荷運搬時や水道管Pへの外嵌作業開始時など、水道管Pの外周面2aに爪8が係止する前の初期状態を示している。保持部材12は、収容溝9の内壁面91に弾性部材11を接当させた抜止め部材6と、その第2側面62に対向する収容溝9の内壁面92との間に介在し、抜止め部材6を内壁面91に向けて付勢して、収容溝9から脱落しないように保持する。即ち、抜止め部材6は、弾性部材11と保持部材12を介して、収容溝9の内壁面91,92の間に挟まされた状態で仮止めされてある。
【0024】
初期状態では、第1側面61に対向する内壁面91に弾性部材11が圧縮代を残して接当するとともに、第2側面62に対向する内壁面92に保持部材12が接当し、第1側面61と内壁面91との間に間隔Dが設けられている。抜止め部材6は、保持部材12により内壁面91に向けて付勢され、これにより内壁面91に接当する弾性部材11の厚みに対応したサイズで間隔Dが設けられる。
【0025】
押輪4を水道管Pに外嵌装着した後、押ボルト10を操作して抜止め部材6を押し込むと、図7のように収容溝9から爪8が突出して水道管Pの外周面2aに係止可能なセット状態となる。セット状態における爪8は、外周面2aに引っ掛かるものであればよく、外周面2aに少し食い込んでいても構わない。このセット状態においても、第1側面61が内壁面91に接当しつつ、保持部材12が内壁面92に接当し、上記のように弾性部材11の厚みに対応した間隔Dが設けられる。
【0026】
セット状態の水道管Pに矢印方向Fの負荷が作用すると、爪8の引っ掛かりにより抜止め部材6が同方向に移動し、弾性部材11を圧縮して図8のような負荷状態となる。このとき、押ボルト10の先端が傾斜面63に強く押し当たり、水道管P側に押圧された抜止め部材6の爪8が外周面2aに強固に食い込んで、水道管Pの軸芯方向への移動を防止できる。この抜止め部材6の移動代Mは、セット状態における間隔Dに基づいて定まり、より正確には、負荷状態における弾性部材11の厚み分を間隔Dから差し引いた距離が移動代Mに相当する。
【0027】
この押輪4では、初期状態からセット状態に至る過程で、押ボルト10が抜止め部材6を斜め方向に押し込むものの、収容溝9の内壁面92に保持部材12が接当しつつ、弾性部材11を介して間隔Dが一定に保持されるため、抜止め部材6の押込み量や収容溝9の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代Mが定まる。その結果、各抜止め部材6の押込み量が互いに異なる場合や、ハウジング7が鋳物(例えば鋳鉄製)であって寸法公差が大きい場合であっても、移動代Mのばらつきを抑えて、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮でき、特に極限性能の向上に資することができる。
【0028】
本実施形態では、押ボルト10が抜止め部材6の傾斜面63を押圧する構造であるため、抜止め部材6が片締め(抜止め部材6が軸芯方向の一方側に偏って押し込まれる状態)になる恐れがあるが、初期状態からセット状態に移行する過程において、保持部材12が抜止め部材6を内壁面91に向けて付勢していることから、そのような片締めの影響を緩和して間隔Dを一定に保持しやすい。
【0029】
弾性部材11は、少なくとも抜止め部材6の周方向における中央部と両端部に取り付けられることが好ましく、それによって、初期状態からセット状態、更には負荷状態に移行する過程で、抜止め部材6が弾性部材11を介して内壁面91にバランス良く押し当たり、移動代Mのばらつきを効果的に抑えられるとともに、抜止め部材6に負荷が局部的に集中しないため、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮するうえで有益となる。本実施形態の弾性部材11は、上記の3箇所を含んだ第1側面61の略全域に取り付けられている。
【0030】
収容溝9の内壁面92には段部92aが形成されており、図6に示した初期状態では、この段部92aに保持部材12が係合している。このため、初期状態において抜止め部材6を的確に位置決めして間隔Dをより精度良く保持し、抜止め部材6の移動代Mのばらつきを効果的に抑えることができる。
【0031】
また、本実施形態では、図7に示したセット状態において、保持部材12に設けた突起が段部92aと係合するため、段部92aに対して保持部材12を堅固に係合させることができ、セット状態おける抜止め部材6を的確に位置決めして間隔Dをより精度良く保持し、移動代Mのばらつきを有効に抑えられる。尚、保持部材12の肉厚部分の下部に突起を設けて、その突起を段部92aと係合させることで、初期状態にある保持部材12の位置決め精度を高めることも可能である。
【0032】
[第2実施形態]
第2実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様の構成及び作用であるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。尚、第1実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0033】
第2実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を補強金具に適用した例を示す。図9は、その補強金具24を取り付けた管継手部の平面図である。この管継手部では、受口部1に、水道管Pの挿口部2が挿入接続されており、その水道管Pに外嵌装着された補強金具24によって、水道管Pの軸芯方向への移動を防ぎ、延いては受口部1からの挿口部2の離脱を阻止可能に構成されている。受口部1と挿口部2との間は、押輪14で圧縮されたシール材3により密封されている。
【0034】
図10に示すように、補強金具24は、水道管Pの周方向の複数箇所に配設され、水道管Pの外周面2aに食い込み可能な爪8を有する抜止め部材6と、その外周面2aに向けて開口した収容溝29を有し、その収容溝29内に抜止め部材6を収容する環状のハウジング27と、抜止め部材6の第1側面に取り付けられた弾性部材11と、抜止め部材6の第2側面に取り付けられた保持部材12とを備える。この抜止め部材6、弾性部材11及び保持部材12について、詳しい説明は省略する。
【0035】
ハウジング27は、周方向の複数箇所(本実施形態では2箇所)で分割された分割構造を有し、各分割片の周端に形成されているフランジ27aを締結具25で互いに組み付けることにより、既設の水道管Pに対しても取り付け可能になっている。ハウジング27には、受口部1のフランジ1bの背面にまで延びたフック27bが設けられており、水道管Pに移動方向(図10における左方向)への負荷が作用したときには、このフック27bがフランジ1bに係合する。
【0036】
収容溝29の外周壁には、水道管Pの移動方向に向かって小径となる傾斜面29aが形成されており、図10に示したセット状態では、この傾斜面29aにより押し込まれた抜止め部材6の爪8が外周面2aに係止可能になっている。図11に示すように、爪8が外周面2aに係止する前の初期状態では、抜止め部材6が脱落しないように収容溝29内に保持されており、この状態から締結具25を締め付けてハウジング27を縮径させると、傾斜面29aが抜止め部材6の傾斜面63を押圧してセット状態へと移行できる。
【0037】
初期状態からセット状態に至る過程では、抜止め部材6が傾斜面29aにより斜め方向に押し込まれるものの、収容溝29の内壁面に保持部材12が接当しつつ、弾性部材11を介して間隔Dが一定に保持される。したがって、この補強金具24においても、抜止め部材6の押込み量や収容溝29の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代Mが均一化され、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮できる。
【0038】
この補強金具24では、傾斜面29aによって抜止め部材6が外周面2aに向かって押圧可能に構成されているが、これに代えて、第1実施形態のような押ボルト10で抜止め部材6を押圧する構造にしてもよい。また逆に、第1実施形態で示した押輪4において、収容溝9の外周壁に上記の如き傾斜面を形成し、押ボルト10を省略しても構わない。
【0039】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を押輪や補強金具に適用した例を示したが、これに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば、ハウジングを管の受口部で構成して、本発明に係る流体管の移動防止装置をスリップオンタイプの管継手部に適用してもよく、その場合、受口部の内周面に形成された収容溝に抜止め部材が収容され、セット状態においては、その抜止め部材の爪が、受口部に挿入した流体管の挿口部の外周面に係止可能に配置される。
【0040】
(2)本発明では、セット状態において、周方向に隣り合う抜止め部材の爪同士が、軸芯方向に互いに重なるように配置されるものでも構わない。これにより、流体管の外周面に対する爪の接触領域の周長を増やして、流体管の移動防止効果を高めることができる。このように爪を重複配置する場合、抜止め部材の移動代がばらつくと、周方向に隣り合う抜止め部材同士で爪が干渉する恐れが生じるものの、本発明によれば、上述のように抜止め部材の移動代を均一にできるため、かかる不具合を防止しうる。
【0041】
(3)抜止め部材を水道管に向かって押圧する押ボルトを備える場合、押ボルトの向きは、第1実施形態で示したような斜め方向に限られず、流体管の径方向や軸芯方向であっても構わない。この場合、押ボルトの先端側に配置した中間部材や、押ボルトの先端部の側面に形成した先細りのテーパ面によって、抜止め部材の傾斜面を押圧するように改変すればよい。
【0042】
(4)本発明において、流体管は、水道管に限定されるものではなく、各種の液体や気体が流れる流体管であってよい。
【符号の説明】
【0043】
4 押輪(流体管の移動防止装置の一例)
6 抜止め部材
7 ハウジング
8 爪
9 収容溝
10 押ボルト
11 弾性部材
12 保持部材
24 補強金具(流体管の移動防止装置の一例)
27 ハウジング
29 収容溝
61 第1側面
62 第2側面
91 内壁面
92 内壁面
92a 段部
F 流体管の移動方向
P 水道管(流体管の一例)
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる流体管の移動防止装置として、図12に示すような押輪(連結用環)が知られている(下記特許文献1)。この押輪34は、ハウジング37の収容溝39内に複数の抜止め部材36を収容しており、図12では、抜止め部材36の爪38が流体管Pの外周面に係止可能なセット状態を示している。図13は、運搬時や外嵌作業開始時などの初期状態を示しており、押輪34を流体管Pに外嵌装着した後、押ボルト31で抜止め部材36を押し込むことにより図12のセット状態に移行する。保持ピース32は、抜止め部材36を収容溝39から脱落しないように保持する。
【0003】
図14は、矢印方向Fへの負荷が流体管Pに作用したときの負荷状態を示す。セット状態から流体管Pが矢印方向Fに移動しようとすると、それに伴って抜止め部材36の外周面が押ボルト31の先端に強く押し当たり、抜止め部材36を流体管P側に押圧する力が働いて爪38が強固に食い込み、流体管Pの軸芯方向への移動を防止することができる。このときの抜止め部材36の移動代Mは、セット状態における抜止め部材36の側面と、それに対向する収容溝39の内壁面との間隔に基づいて定まる。
【0004】
初期状態では抜止め部材36と収容溝39との間隔Dが移動代Mよりも小さく、セット状態に至る過程で抜止め部材36が押し込まれると、それに伴って間隔Dが拡がり、セット状態で移動代Mとなる。このため、抜止め部材36の押込み量に応じて移動代Mが変化しうる状況にあり、セット状態において抜止め部材36の移動代Mがばらつくという問題があった。また、押込み量が一定であっても、収容溝39の溝幅が異なると、それに応じて移動代Mが変化するため、ハウジング37が寸法公差の大きい鋳物である場合には特に、移動代Mがばらつきやすい。
【0005】
このような移動代のばらつきは、流体管の軸芯方向への移動を防止する機能を不安定にし、例えば流体管の上側に位置する抜止め部材と、その流体管の下側に位置する抜止め部材との間で移動代が異なると、流体管の移動防止効果を安定的に発揮しにくい傾向にある。特に流体管に強力な負荷が作用したときには、抜止め部材の移動代のばらつきにより極限性能が左右される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平4−39507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、抜止め部材の移動代のばらつきを抑えて、流体管の移動防止効果を安定的に発揮できる流体管の移動防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る流体管の移動防止装置は、流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置において、前記流体管の周方向の複数箇所に配設され、前記流体管の外周面に食い込み可能な爪を有する抜止め部材と、前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、その収容溝内に前記抜止め部材を収容する環状のハウジングと、前記流体管の移動方向を向いた前記抜止め部材の第1側面に取り付けられた弾性部材と、前記第1側面の反対側を向いた前記抜止め部材の第2側面に取り付けられた保持部材とを備え、初期状態から前記抜止め部材の爪が前記流体管の外周面に係止可能なセット状態に至る過程で、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に前記保持部材が接当しつつ、前記第1側面とそれに対向する前記収容溝の内壁面との間隔が前記弾性部材を介して保持されるように構成されたものである。
【0009】
本発明に係る流体管の移動防止装置では、初期状態からセット状態に至る過程で、抜止め部材の第2側面に対向する収容溝の内壁面に保持部材が接当しつつ、抜止め部材の第1側面とそれに対向する収容溝の内壁面との間隔が弾性部材を介して保持されることから、抜止め部材の押込み量や収容溝の溝幅に左右されることなく抜止め部材の移動代が定まり、その結果、抜止め部材の移動代のばらつきを抑えて、流体管の移動防止効果を安定的に発揮することができる。
【0010】
本発明では、前記弾性部材が、前記抜止め部材の周方向における中央部と両端部に取り付けられているものが好ましい。これにより、初期状態やセット状態において、抜止め部材が弾性部材を介して収容溝の内壁面に局部的に接当することを防ぎ、第1側面と収容溝の内壁面との間隔を保持して、抜止め部材の移動代のばらつきを効果的に抑えられる。また、負荷状態においても、抜止め部材に対して負荷が局部的に集中しないため、流体管の移動防止効果を安定的に発揮するうえで有益である。
【0011】
上記において、前記初期状態にて、前記保持部材が、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に形成された段部に係合するものが好ましい。かかる構成によれば、初期状態において抜止め部材を的確に位置決めできるため、抜止め部材の落下が防止できるとともに、第1側面と収容溝の内壁面との間隔をより精度良く保持して、抜止め部材の移動代のばらつきを効果的に抑えることができる。
【0012】
上記においては、前記保持部材に前記段部と係合する突起が設けられているものでもよい。かかる構成によれば、段部に対して保持部材を堅固に係合させることができ、初期状態又はセット状態において抜止め部材を精度良く位置決めして、移動代のばらつきを有効に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る流体管の移動防止装置の一例である押輪を装着した管継手部の半断面図
【図2】その押輪を軸方向から見た図
【図3】その押輪を内周側から見たときの展開図
【図4】抜止め部材の第1側面を示す図
【図5】抜止め部材の第2側面を示す図
【図6】初期状態における図3の(A)B−B矢視断面図と(B)C−C矢視断面図
【図7】セット状態における図3の(A)B−B矢視断面図と(B)C−C矢視断面図
【図8】負荷状態における図3の(A)B−B矢視断面図と(B)C−C矢視断面図
【図9】本発明に係る流体管の移動防止装置の一例である補強金具を装着した管継手部の平面図
【図10】その補強金具のセット状態における(A)半断面図と(B)その要部拡大図
【図11】その補強金具の初期状態における要部断面図
【図12】従来の押輪のセット状態における(A)要部断面図と(B)D−D矢視断面図と(C)E−E矢視断面図
【図13】初期状態におけるD−D矢視断面図
【図14】負荷状態におけるD−D矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
[第1実施形態]
第1実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を押輪に適用した例を示す。図1は、その押輪4を装着した管継手部の半断面図であり、図2のA−A矢視断面図に相当する。この管継手部では、管または管継手本体の受口部1に、ダクタイル鋳鉄製の水道管P(流体管の一例)の挿口部2が挿入接続されており、その水道管Pに外嵌装着された押輪4によって、水道管Pの軸芯方向への移動を防ぎ、延いては受口部1からの挿口部2の離脱を阻止可能に構成されている。
【0016】
押輪4は、水道管Pの周方向の複数箇所(本実施形態では6箇所)にボルト挿通孔41を有し、それに挿通されたT頭ボルト51とナット52とからなる締結具5によって、受口部1のフランジ1bに連結されている。シール材3は、受口部1の内周面1aと挿口部2の外周面2aとの間を密封し、押輪4により軸芯方向から圧縮されている。図3〜5に示すように、押輪4は、抜止め部材6と、環状のハウジング7と、弾性部材11と、保持部材12とを備える。
【0017】
抜止め部材6は、水道管Pの周方向の複数箇所(本実施形態では6箇所)に配設され、水道管Pの外周面2aに食い込み可能な爪8を有する。抜止め部材6は、金属のような堅牢な材料で作製され、具体的には鋳鉄が例示される。本実施形態では、抜止め部材6の内周面に、軸芯方向に間隔を設けて配置された2本の爪8が突設され、その爪8の先端が、水道管Pの外周面2aと同等の曲率で湾曲しつつ、図6〜8に示すように断面三角形状に形成されている。抜止め部材6が有する爪8の本数は、1本又は3本以上であっても構わない。
【0018】
ハウジング7は、水道管Pの外周面2aに向けて開口した収容溝9を有し、その収容溝9内に抜止め部材6を収容する。収容溝9は、水道管Pの周方向に沿って環状に形成されているが、抜止め部材6を個別に収容するように断続的に凹設されていても構わない。また、本実施形態ではハウジング7が円環状に一体成形されている例を示すが、これに代えて分割構造としてもよく、その場合には、複数の分割片の周端を互いに組み付けることで環状に形成される。
【0019】
弾性部材11は、水道管Pの移動方向(図1の左方向、図8の矢印方向F)を向いた抜止め部材6の第1側面61に取り付けられている。本実施形態では、弾性部材11が、シート状に形成され、抜止め部材6の周方向における中央部と両端部を含んだ第1側面61の略全域に取り付けられている。弾性部材11は、ゴムなどの弾性材料により形成され、保持部材12よりも硬質であることが好ましい。第1側面61への取り付けには、接着剤や粘着剤による貼着、ゴムの焼き付け、ライニング等が利用できる。
【0020】
保持部材12は、第1側面61の反対側(図1の右方向)を向いた抜止め部材6の第2側面62に取り付けられている。本実施形態では、保持部材12がシート状に形成され、その周方向の両端部が中央部よりも肉厚であって、該肉厚部分の上部に突起が設けられている(図8(B)参照)。保持部材12は、例えばゴムやウレタンで形成され、特に限定されないが、弾性材料により形成されることが好ましい。第2側面62への取り付けには、上記した貼着や焼き付け、ライニング等が利用できる。
【0021】
本実施形態の押輪4は、抜止め部材6を水道管Pの外周面2aに向かって押圧する押圧部材としての押ボルト10を備える。ハウジング7は、収容溝9の外周壁を斜め方向に貫通する雌ねじ孔7aを有し、その雌ねじ孔7aに螺合された押ボルト10の先端が、抜止め部材6の周方向における中央部に対向している。この押ボルト10を回転操作して抜止め部材6を押し込むことにより、初期状態からセット状態への移行が行われる。
【0022】
また、この押輪4では、抜止め部材6の軸芯方向への移動に伴って、抜止め部材6を水道管P側に押圧する力が作用するように構成されている。即ち、抜止め部材6の外周面には、水道管Pの移動方向に向かって小径となる傾斜面63が形成されており、水道管Pを移動させる外力が作用したときには、この傾斜面63が押ボルト10の先端に押し当たって楔効果を発揮せしめて、抜止め部材6が水道管Pの外周面2aに押圧される。
【0023】
図6は、出荷運搬時や水道管Pへの外嵌作業開始時など、水道管Pの外周面2aに爪8が係止する前の初期状態を示している。保持部材12は、収容溝9の内壁面91に弾性部材11を接当させた抜止め部材6と、その第2側面62に対向する収容溝9の内壁面92との間に介在し、抜止め部材6を内壁面91に向けて付勢して、収容溝9から脱落しないように保持する。即ち、抜止め部材6は、弾性部材11と保持部材12を介して、収容溝9の内壁面91,92の間に挟まされた状態で仮止めされてある。
【0024】
初期状態では、第1側面61に対向する内壁面91に弾性部材11が圧縮代を残して接当するとともに、第2側面62に対向する内壁面92に保持部材12が接当し、第1側面61と内壁面91との間に間隔Dが設けられている。抜止め部材6は、保持部材12により内壁面91に向けて付勢され、これにより内壁面91に接当する弾性部材11の厚みに対応したサイズで間隔Dが設けられる。
【0025】
押輪4を水道管Pに外嵌装着した後、押ボルト10を操作して抜止め部材6を押し込むと、図7のように収容溝9から爪8が突出して水道管Pの外周面2aに係止可能なセット状態となる。セット状態における爪8は、外周面2aに引っ掛かるものであればよく、外周面2aに少し食い込んでいても構わない。このセット状態においても、第1側面61が内壁面91に接当しつつ、保持部材12が内壁面92に接当し、上記のように弾性部材11の厚みに対応した間隔Dが設けられる。
【0026】
セット状態の水道管Pに矢印方向Fの負荷が作用すると、爪8の引っ掛かりにより抜止め部材6が同方向に移動し、弾性部材11を圧縮して図8のような負荷状態となる。このとき、押ボルト10の先端が傾斜面63に強く押し当たり、水道管P側に押圧された抜止め部材6の爪8が外周面2aに強固に食い込んで、水道管Pの軸芯方向への移動を防止できる。この抜止め部材6の移動代Mは、セット状態における間隔Dに基づいて定まり、より正確には、負荷状態における弾性部材11の厚み分を間隔Dから差し引いた距離が移動代Mに相当する。
【0027】
この押輪4では、初期状態からセット状態に至る過程で、押ボルト10が抜止め部材6を斜め方向に押し込むものの、収容溝9の内壁面92に保持部材12が接当しつつ、弾性部材11を介して間隔Dが一定に保持されるため、抜止め部材6の押込み量や収容溝9の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代Mが定まる。その結果、各抜止め部材6の押込み量が互いに異なる場合や、ハウジング7が鋳物(例えば鋳鉄製)であって寸法公差が大きい場合であっても、移動代Mのばらつきを抑えて、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮でき、特に極限性能の向上に資することができる。
【0028】
本実施形態では、押ボルト10が抜止め部材6の傾斜面63を押圧する構造であるため、抜止め部材6が片締め(抜止め部材6が軸芯方向の一方側に偏って押し込まれる状態)になる恐れがあるが、初期状態からセット状態に移行する過程において、保持部材12が抜止め部材6を内壁面91に向けて付勢していることから、そのような片締めの影響を緩和して間隔Dを一定に保持しやすい。
【0029】
弾性部材11は、少なくとも抜止め部材6の周方向における中央部と両端部に取り付けられることが好ましく、それによって、初期状態からセット状態、更には負荷状態に移行する過程で、抜止め部材6が弾性部材11を介して内壁面91にバランス良く押し当たり、移動代Mのばらつきを効果的に抑えられるとともに、抜止め部材6に負荷が局部的に集中しないため、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮するうえで有益となる。本実施形態の弾性部材11は、上記の3箇所を含んだ第1側面61の略全域に取り付けられている。
【0030】
収容溝9の内壁面92には段部92aが形成されており、図6に示した初期状態では、この段部92aに保持部材12が係合している。このため、初期状態において抜止め部材6を的確に位置決めして間隔Dをより精度良く保持し、抜止め部材6の移動代Mのばらつきを効果的に抑えることができる。
【0031】
また、本実施形態では、図7に示したセット状態において、保持部材12に設けた突起が段部92aと係合するため、段部92aに対して保持部材12を堅固に係合させることができ、セット状態おける抜止め部材6を的確に位置決めして間隔Dをより精度良く保持し、移動代Mのばらつきを有効に抑えられる。尚、保持部材12の肉厚部分の下部に突起を設けて、その突起を段部92aと係合させることで、初期状態にある保持部材12の位置決め精度を高めることも可能である。
【0032】
[第2実施形態]
第2実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様の構成及び作用であるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。尚、第1実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0033】
第2実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を補強金具に適用した例を示す。図9は、その補強金具24を取り付けた管継手部の平面図である。この管継手部では、受口部1に、水道管Pの挿口部2が挿入接続されており、その水道管Pに外嵌装着された補強金具24によって、水道管Pの軸芯方向への移動を防ぎ、延いては受口部1からの挿口部2の離脱を阻止可能に構成されている。受口部1と挿口部2との間は、押輪14で圧縮されたシール材3により密封されている。
【0034】
図10に示すように、補強金具24は、水道管Pの周方向の複数箇所に配設され、水道管Pの外周面2aに食い込み可能な爪8を有する抜止め部材6と、その外周面2aに向けて開口した収容溝29を有し、その収容溝29内に抜止め部材6を収容する環状のハウジング27と、抜止め部材6の第1側面に取り付けられた弾性部材11と、抜止め部材6の第2側面に取り付けられた保持部材12とを備える。この抜止め部材6、弾性部材11及び保持部材12について、詳しい説明は省略する。
【0035】
ハウジング27は、周方向の複数箇所(本実施形態では2箇所)で分割された分割構造を有し、各分割片の周端に形成されているフランジ27aを締結具25で互いに組み付けることにより、既設の水道管Pに対しても取り付け可能になっている。ハウジング27には、受口部1のフランジ1bの背面にまで延びたフック27bが設けられており、水道管Pに移動方向(図10における左方向)への負荷が作用したときには、このフック27bがフランジ1bに係合する。
【0036】
収容溝29の外周壁には、水道管Pの移動方向に向かって小径となる傾斜面29aが形成されており、図10に示したセット状態では、この傾斜面29aにより押し込まれた抜止め部材6の爪8が外周面2aに係止可能になっている。図11に示すように、爪8が外周面2aに係止する前の初期状態では、抜止め部材6が脱落しないように収容溝29内に保持されており、この状態から締結具25を締め付けてハウジング27を縮径させると、傾斜面29aが抜止め部材6の傾斜面63を押圧してセット状態へと移行できる。
【0037】
初期状態からセット状態に至る過程では、抜止め部材6が傾斜面29aにより斜め方向に押し込まれるものの、収容溝29の内壁面に保持部材12が接当しつつ、弾性部材11を介して間隔Dが一定に保持される。したがって、この補強金具24においても、抜止め部材6の押込み量や収容溝29の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代Mが均一化され、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮できる。
【0038】
この補強金具24では、傾斜面29aによって抜止め部材6が外周面2aに向かって押圧可能に構成されているが、これに代えて、第1実施形態のような押ボルト10で抜止め部材6を押圧する構造にしてもよい。また逆に、第1実施形態で示した押輪4において、収容溝9の外周壁に上記の如き傾斜面を形成し、押ボルト10を省略しても構わない。
【0039】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を押輪や補強金具に適用した例を示したが、これに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば、ハウジングを管の受口部で構成して、本発明に係る流体管の移動防止装置をスリップオンタイプの管継手部に適用してもよく、その場合、受口部の内周面に形成された収容溝に抜止め部材が収容され、セット状態においては、その抜止め部材の爪が、受口部に挿入した流体管の挿口部の外周面に係止可能に配置される。
【0040】
(2)本発明では、セット状態において、周方向に隣り合う抜止め部材の爪同士が、軸芯方向に互いに重なるように配置されるものでも構わない。これにより、流体管の外周面に対する爪の接触領域の周長を増やして、流体管の移動防止効果を高めることができる。このように爪を重複配置する場合、抜止め部材の移動代がばらつくと、周方向に隣り合う抜止め部材同士で爪が干渉する恐れが生じるものの、本発明によれば、上述のように抜止め部材の移動代を均一にできるため、かかる不具合を防止しうる。
【0041】
(3)抜止め部材を水道管に向かって押圧する押ボルトを備える場合、押ボルトの向きは、第1実施形態で示したような斜め方向に限られず、流体管の径方向や軸芯方向であっても構わない。この場合、押ボルトの先端側に配置した中間部材や、押ボルトの先端部の側面に形成した先細りのテーパ面によって、抜止め部材の傾斜面を押圧するように改変すればよい。
【0042】
(4)本発明において、流体管は、水道管に限定されるものではなく、各種の液体や気体が流れる流体管であってよい。
【符号の説明】
【0043】
4 押輪(流体管の移動防止装置の一例)
6 抜止め部材
7 ハウジング
8 爪
9 収容溝
10 押ボルト
11 弾性部材
12 保持部材
24 補強金具(流体管の移動防止装置の一例)
27 ハウジング
29 収容溝
61 第1側面
62 第2側面
91 内壁面
92 内壁面
92a 段部
F 流体管の移動方向
P 水道管(流体管の一例)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置において、
前記流体管の周方向の複数箇所に配設され、前記流体管の外周面に食い込み可能な爪を有する抜止め部材と、前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、その収容溝内に前記抜止め部材を収容する環状のハウジングと、前記流体管の移動方向を向いた前記抜止め部材の第1側面に取り付けられた弾性部材と、前記第1側面の反対側を向いた前記抜止め部材の第2側面に取り付けられた保持部材とを備え、
初期状態から前記抜止め部材の爪が前記流体管の外周面に係止可能なセット状態に至る過程で、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に前記保持部材が接当しつつ、前記第1側面とそれに対向する前記収容溝の内壁面との間隔が前記弾性部材を介して保持されることを特徴とする流体管の移動防止装置。
【請求項2】
前記弾性部材が、前記抜止め部材の周方向における中央部と両端部に取り付けられている請求項1に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項3】
前記初期状態にて、前記保持部材が、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に形成された段部に係合する請求項1又は2に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項4】
前記保持部材に前記段部と係合する突起が設けられている請求項3に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項1】
流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置において、
前記流体管の周方向の複数箇所に配設され、前記流体管の外周面に食い込み可能な爪を有する抜止め部材と、前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、その収容溝内に前記抜止め部材を収容する環状のハウジングと、前記流体管の移動方向を向いた前記抜止め部材の第1側面に取り付けられた弾性部材と、前記第1側面の反対側を向いた前記抜止め部材の第2側面に取り付けられた保持部材とを備え、
初期状態から前記抜止め部材の爪が前記流体管の外周面に係止可能なセット状態に至る過程で、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に前記保持部材が接当しつつ、前記第1側面とそれに対向する前記収容溝の内壁面との間隔が前記弾性部材を介して保持されることを特徴とする流体管の移動防止装置。
【請求項2】
前記弾性部材が、前記抜止め部材の周方向における中央部と両端部に取り付けられている請求項1に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項3】
前記初期状態にて、前記保持部材が、前記第2側面に対向する前記収容溝の内壁面に形成された段部に係合する請求項1又は2に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項4】
前記保持部材に前記段部と係合する突起が設けられている請求項3に記載の流体管の移動防止装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−237001(P2011−237001A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110523(P2010−110523)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(397012923)大成機工株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(397012923)大成機工株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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