説明

流体観察方法及び流れ観察用流体

【課題】無機粒子を含む流体の移動状態をより確実に観察する。
【解決手段】流体観察装置20は、PIV法による流体観察方法を実行可能である。この流体観察方法は、平面状の表面を有する観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含む流れ観察用流体30を用い、流路を流通しているこの流れ観察用流体30に光を照射し、流れ観察用流体30を介して得られた無機粒子像を撮影する。この流れ観察用流体30は、粘度が高い非ニュートン性の無機粒子含有スラリーである。この流れ観察用流体30は、解析対象無機粒子と解析対象分散媒とを含む流れ解析対象流体の解析対象無機粒子の粒度と流れ解析対象流体の粘度とに近似した、流れ解析対象流体に対して擬似的な流体であるものとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体観察方法及び流れ観察用流体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体観察方法としては、流れに追従する粒子(トレーサ粒子)を流体に添加し、この流体にパルスレーザ光を照射してその運動を追跡し、ビデオカメラなどでトレーサ粒子群の動きを撮影し、流れのタイムスケールに比べて十分小さい時間間隔で粒子が移動した距離を撮影した画像を撮影し、その移動距離や移動方向を把握するという粒子画像流体速度測定(PIV:Particle Image Velocimetry、以下PIVと称する)が利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−84005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、流体には、ずり速度と時間に粘度が依存しないニュートン性流体と、ずり速度と時間に粘度が依存する非ニュートン性流体とがあり、非ニュートン性流体には、無機粒子を多量に含むスラリーなどがある。このような無機粒子を含むスラリーは、そのほとんどが不透明であり、内部を観察しにくく、トレーサー粒子などを添加してもうまくいって表面しか観察できないということがあった。特許文献1に記載の流体観察方法では、このような流体に対しては考慮されておらず、このような無機粒子を含む流体における粒子の移動状態を十分に観察することができなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、無機粒子を含む流体の移動状態をより確実に観察することができる。流体観察方法及び流れ観察用流体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、平面状の表面を有する無機粒子を流体に添加し、この流体に光を照射すると無機粒子を含む流体の移動状態をより確実に観察することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の流体観察方法は、PIV(Particle Image Velocimetry)法による流体観察方法であって、平面状の表面を有する観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含む流れ観察用流体を用い、流路を流通している該流れ観察用流体に光を照射し該流れ観察用流体を介して得られた無機粒子像を撮影する撮影ステップ、を含むものである。
【0008】
また、本発明の流れ観察用流体は、PIV法により観察する流れ観察用流体であって、平面状の表面を有する観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流体観察方法及び流れ観察用流体は、無機粒子を含む流体の移動状態をより確実に観察することができる。この理由は、流れ観察用流体には、観察対象分散媒と、流体の粘度を調節する粘度調節剤が含まれており、分散媒による無機粒子の濃度や、粘度調節剤による粘度の調整が可能であり、例えば、より透光性を高めることが可能である。また、流れ観察用流体には、平面状の表面を有する観察対象無機粒子が含まれているため、光を照射した際に、この平面部が遮光したり光を反射するなどして、粒子の視認性が高まるものと推察される。したがって、無機粒子を含む流体の移動状態をより確実に観察することができる。なお、流れ観察用流体には、平面状の表面を有する観察対象無機粒子のほか、平面状の表面を有さない観察対象無機粒子が含まれているものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態である流体観察装置20の構成の概略を示す構成図。
【図2】各無機粒子のSEM写真及び光学顕微鏡での観察写真。
【図3】各試料の回転数に対する粘度の測定結果。
【図4】実験例1のPIV観察結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態である流体観察装置20の構成の概略を示す構成図である。この流体観察装置20は、本発明の流体観察方法を実行する観察装置であり、流体の供給量を制御可能な流体供給部21と、流体を通過させ観察を行う透明な部材により形成されている透過セル22とを備えている。また、流体観察装置20は、透過セル22の上方に配設され流体の移動を動画で撮影するデジタルビデオカメラ23と、透過セル22の下方に配設され流体を静止画で撮影するデジタルカメラ24と、流体を拡大して視認可能な顕微鏡25とを備えている。また、流体観察装置20は、透過セル22へ上方から光を照射する光照射部26と、透過セル22へ下方から光を照射する光照射部27とを備えている。観察する対象である流れ観察用流体30は、流体供給部21により透過セル22へ供給され、この透過セル22での移動状態が観察される。次に、この流れ観察用流体30について説明する。
【0012】
本発明の流れ観察用流体30は、観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含む無機粒子含有スラリーである。この流れ観察用流体30は、略球状の無機粒子31と平面状の表面を有する平面無機粒子32とを含む非ニュートン性の流体である。ここでは、無機粒子31及び平面無機粒子32を総称して観察対象無機粒子と称するものとする。このように、平面無機粒子32が含まれていると、流れ観察用流体30へ光を照射した際に、この平面により遮光像又は反射像が得られやすいため、無機粒子の動きをより観察しやすい。また、粘度調節剤により粘度を調節するため、観察対象無機粒子の量を低減するなどして透光性などを高めることが可能であり、無機粒子の動きをより観察しやすい。
【0013】
流れ観察用流体30に含まれる観察対象無機粒子は、例えば、セラミックス粒子、金属粒子、ガラス粒子及びこれらから選択される2種以上であってもよい。例えば、セラミック粒子としては、アルミナ、ジルコニア、YAG及びAl、Zr、Mg、Y、Sc、La、Si、Na、Cu、Fe、Ca、Ni、Li、Mn、Gd、Ce、Hf、Ti、Pb、Ba、Nbなどの酸化物や複合酸化物、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素などの窒化物及びこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。また、金属粒子としては、例えば、モリブデンやタングステンなどの遷移金属、金、銀、白金などの貴金属、あるいはこれらの合金などが挙げられる。ガラス粒子としては、例えば石英粒子、ホウ珪酸粒子などが挙げられる。各無機粒子の成分は、いずれも純度が90%以上であることが好ましい。また、平面状の表面を有する無機粒子は、例えば成形して焼成して得られた焼成体を破砕するなどして得ることができる。
【0014】
流れ観察用流体30に含まれる観察対象分散媒は、分散助剤及びバインダーを溶解するものであれば特に限定されない。例えば、水、炭化水素系(トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等)、エーテル(エチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等)、アルコール(イソプロパノール、1−ブタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン等)、多塩基酸(グルタル酸等)を例示することができる。この分散媒は、全体の炭素数が20以下であることが低粘性の観点から好ましい。
【0015】
流れ観察用流体30に含まれる粘度調節剤は、流れ観察用流体30の粘度を調整可能であるものであれば特に限定されず、例えば、分散助剤としてもよいし、バインダーとしてもよい。粘度調節剤として分散助剤を用いると粘度を低減する効果が得られるし、粘度調節剤としてバインダーを用いると粘度を高くする効果が得られる。この粘度調節剤は、例えば、分散助剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリカルボン酸系共重合体、重合体のリン酸エステル塩化合物、酸基を含む重合体のアルキルアンモニウム塩化合物、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等を例示できる。バインダーとしては、セルロース誘導体(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース等)、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ブチラール樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、イソシアネート(トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリイソシアネート等)などを例示することができる。
【0016】
この流れ観察用流体30は、例えば、成形型に無機粒子と有機化合物とを含む成形スラリーを鋳込み、有機化合物相互の化学反応、例えば分散媒とゲル化剤若しくはゲル化剤相互の化学反応により固化させたあと、離型するゲルキャスト法に用いる成形スラリーとしてもよい。即ち、観察対象分散媒として所定条件で硬化する樹脂を用いるものとしてもよい。こうすれば、ゲルキャスト法での成形型内部での成形スラリーの流動性などを検討することができる。ここで、所定条件で硬化する樹脂としては、例えば、硬化剤との混合により硬化する樹脂や、加熱により硬化する樹脂、紫外線などの照射により硬化する樹脂などが挙げられる。
【0017】
また、流れ観察用流体30は、解析対象無機粒子と解析対象分散媒とを含む流れ解析対象流体の、解析対象無機粒子の粒度と流れ解析対象流体の粘度とに近似した、疑似的な流れ観察用流体としてもよい。即ち、流れの状態を解析したい流れ解析対象流体が、例えば光の透過性や反射性が低いときに、その代替流体として、粒度や粘性を近似した流れ観察用流体30を用いて、その挙動を観察するものとしてもよい。こうすれば、無機粒子を含有する流体でその内部などの観察が行えないものを擬似的に観察することができる。例えば、ゲルキャスト法の成形スラリーの場合は、成形型内部での流速が比較的小さく、且つ粘度が比較的大きいことから、慣性力の作用を無視できる。そのため、流体の密度に関係する無機粒子の密度を無視することができる。即ち、ゲルキャスト法の成形スラリーでは、密度の異なる無機粒子を用いても粘度が近似すればその挙動は変化しにくいと考えられ、擬似的な流れ観察用流体に置き換えやすい。ここで、解析対象無機粒子と観察対象無機粒子とは同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよいが同じ材質である方がより好ましい。また、解析対象分散媒と観察対象分散媒とは同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよいが同じ材質である方がより好ましい。また、粒度は、レーザ光回折法を用いて測定されたメディアン径(D50)をいうものとする。このとき、観察対象としての流れ観察用流体30は、解析対象としての流れ解析対象流体に含まれる解析対象無機粒子の体積率に比して、流れ観察用流体30に含まれる観察対象無機粒子の体積率がより小さいものとしてもよい。こうすれば、より透光性を高めることができる。また、粘度調整剤により、体積率が小さくても流れ解析対象流体と流れ観察用流体30とを同程度の粘度とすることができる。このとき、解析対象無機粒子がジルコニア粒子であり、観察対象無機粒子が炭化珪素粒子であるものとしてもよい。こうすれば、遮光像や反射像が得られにくいジルコニア粒子の流体挙動を炭化珪素粒子を利用して観察することができる。
【0018】
この流れ観察用流体30は、含まれる観察対象無機粒子の体積率がスラリー全体の体積に対して、20体積%以上40体積%以下であることが好ましく、25体積%以上35体積%以下であることがより好ましい。この体積率が20体積%以上では無機粒子の数が十分でありその挙動が観察しやすく、40体積%以下では光が透過しやすく流体内部の無機粒子の挙動が観察しやすく好ましい。
【0019】
また、流れ観察用流体30は、B型粘度計の測定において回転数1.5rpmでの粘度が10000(mPa・s)以上15000(mPa・s)以下の範囲であることが好ましく、11000(mPa・s)以上14000(mPa・s)以下の範囲であることがより好ましい。この範囲では、例えばゲルキャスト法の成形スラリーの粘度に近似しており、その成形スラリーの無機粒子の観察を行うことができる。また、流れ観察用流体30は、B型粘度計の測定において回転数3.0rpmでの粘度が6000(mPa・s)以上10000(mPa・s)以下の範囲であることが好ましく、7000(mPa・s)以上9000(mPa・s)以下の範囲であることがより好ましい。
【0020】
B型粘度計の測定において、粘度計のスピンドル回転数x(rpm)のときの粘度をηx(mPa・s)とし、スピンドル回転数xよりも大きなスピンドル回転数y(rpm)のときの粘度をηy(mPa・s)とし、その粘度比をηx/ηyと定義する。このとき、粘度計のスピンドル回転数1.5(rpm)のときの粘度η1.5とスピンドル回転数3.0(rpm)のときの粘度η3.0との粘度比η1.5/η3.0は、1.3≦η1.5/η3.0≦2.0であることが好ましく、1.4≦η1.5/η3.0≦1.8であることがより好ましい。このように、スピンドル回転数によって粘度が大きく変化する、いわゆるチクソ性を有する流体は、不透明であることが多く、無機粒子の移動を確認することが困難であった。この流れ観察用流体30では、平面状の表面を有する観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含んでおり、無機粒子を含む流体の移動状態をより確実に観察することができる。
【0021】
流体観察装置20において、流路としての透過セル22は、透過セル22の流路幅Lc(μm)と流れ観察用流体30に含まれる観察対象無機粒子の粒径Dp(μm)との比Lc/Dpが5以上200以下の範囲となるものが好ましい。この粒径Dpは、レーザ光回折法を用いて測定されたメディアン径(D50)をいうものとする。ここで、流路幅Lcは、流れに垂直な断面において幅に長短がある場合は、短い幅をいうものとし、一定幅でない場合は、代表的な流路の幅としてもよい。この流路幅Lcは、例えば、1.0μm以上1000μm以下としてもよい。また、観察対象無機粒子の粒径Dpは、例えば0.2μm以上5.0μm以下としてもよい。
【0022】
流体観察装置20において、透過セル22は、流れ観察用流体30を観察する流路の壁面と流れ観察用流体30との接触角が50°以上100°以下とすることが好ましく、60°以上95°以下とすることがより好ましい。また、接触角が80°以上100°以下の範囲、即ち90°近傍では、流体を流通させる実際の流路(例えばゲルキャスト法での成形型)の中央近傍を流通する無機粒子の挙動を観察することに等しいため、より実際の流体の挙動を把握しやすい。このような範囲の接触角となるよう、透過セル22の壁面のぬれ性を適宜調整することが好ましい。接触角は、例えば、透過セル22の壁面上に流れ観察用流体30の液滴を落とし、壁面と液滴の表面とのなす角を顕微鏡などで計測することにより求めることができる。また、壁面のぬれ性は、撥水剤や親水剤をコートすることにより調整することができる。透過セル22の材質は、透明なものであれば特に限定されないが、例えば、ガラス、アクリル、PETなどの樹脂、シリコーンなどが挙げられる。
【0023】
次に、PIV法による流体観察方法について説明する。この流体観察方法は、流体観察装置20を用いて行うことができる。この流体観察方法は、流れ観察用流体の調製ステップと、調製した流れ観察用流体を流通させて粒子像を撮影する撮影ステップとを含むものとしてもよい。調製ステップでは、平面状の表面を有する観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含む流れ観察用流体30を調製する。調製する流れ観察用流体30は、上述したものを適宜用いることができる。この調製ステップでは、その一例として、流れ解析対象流体における解析対象無機粒子の粒度と流れ解析対象流体の粘度とに近似した、疑似的な流れ観察用流体を調製してもよい。例えば、流れ解析対象流体をゲルキャスト法に用いる成形スラリーとし、解析対象無機粒子(ジルコニア粒子)と解析対象分散媒(フェノール系レジン)とを含むものとし、流れ観察用流体30を観察対象無機粒子(炭化珪素粒子)と観察対象分散媒(フェノール系レジン)と粘度調節剤とを含むものとしてもよい。
【0024】
撮影ステップでは、流体供給部21に上記調製した流れ観察用流体30を収容し、所定の供給速度となるように流体供給部21を制御しながら、透過セル22を通過する流れ観察用流体30をデジタルビデオカメラ23やデジタルカメラ24で撮影する。このとき、透過セル22を流通している流れ観察用流体30に光照射部26,27により光を照射し、流れ観察用流体30を介して得られた無機粒子像を撮影する。ここで、デジタルビデオカメラ23では、光照射部26の光照射により無機粒子による反射像を撮影することができ、光照射部27の光照射により無機粒子による遮光像を撮影することができる。また、デジタルカメラ24では、光照射部26の光照射により無機粒子による遮光像を撮影することができ、光照射部27の光照射により無機粒子による反射像を撮影することができる。流体観察装置20において、上述したジルコニア粒子を含むゲルキャスト法に用いる成形スラリーをそのままデジタルビデオカメラ23で撮影すると、反射も透過もない真っ暗な画像しか撮影することができない。しかしながら、流れ観察用流体30では、透光性が調製されると共に、平面状の表面を有する平面無機粒子32が含まれており、この平面無機粒子32が反射像などを観察しやすく、無機粒子の移動状態を観察することができるのである。
【0025】
PIV法による流体観察により得られた物性値を用いて、3次元の流れ解析を行うものとしてもよい。3次元の流れ解析は、例えば、有限体積法、有限要素法、有限差分法、有限境界法、粒子法など既存の方法を用いることができる。また、ゲルキャスト法の成形スラリーをPIV法で観察した場合は、その観察結果から得られた物性値を用いて流体の流れシミュレーションを行い、例えば成形型におけるスラリーの流入口、空気の排出口などを最適な位置に設定することができる。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0027】
以下には、流れ観察用流体を具体的に製造した例を実験例として説明する。
【0028】
[解析対象流体]
解析対象である流れ解析対象流体として、ゲルキャスト法に用いる成形スラリーを作製した。解析対象無機粒子としてジルコニア粒子(東ソー株式会社製)を100重量部、解析対象分散媒としてトリアセチン及び有機二塩基酸エステルの混合物(重量比率1:9)を20重量部、分散助剤(ポリカルボン酸系共重合体)を3重量部混合した。なお、この原料の体積比率は、無機粒子が16体積部、分散媒が18体積部、分散助剤が3体積部であった。この解析対象流体の、含まれる無機粒子、配合、比重(g/cm3)、無機粒子の体積濃度(vol%)などをまとめて表1に示す。なお、この表1には、後述する実験例1〜3の内容や、解析対象流体の粘度(mPa・s)、スピンドル回転数1.5(rpm)のときの粘度η1.5とスピンドル回転数3.0(rpm)のときの粘度η3.0との粘度比η1.5/η3.0、接触角(°)、PIV観察結果についてもまとめて示した。
【0029】
【表1】

【0030】
[実験例1]
流れ観察用流体として、流れ解析対象流体に近似するよう調製した無機粒子含有スラリーを作製した。観察対象無機粒子として炭化珪素粒子(スーペリア・グラファイト社製)を100重量部、観察対象分散媒としてトリアセチン及び有機二塩基酸エステルの混合物(重量比率1:9)を50重量部、粘度調整剤として分散助剤(酸基を含む重合体のアルキルアンモニウム塩化合物)を4.2重量部混合した。なお、この原料の体積比率は、無機粒子が31体積部、分散媒が45体積部、分散助剤が4体積部であった。
【0031】
[実験例2]
流れ観察用流体として、流れ解析対象流体に近似するよう調製した無機粒子含有スラリーを作製した。観察対象無機粒子として炭化珪素粒子(スーペリア・グラファイト社製)を100重量部、観察対象分散媒としてトリアセチン及び有機二塩基酸エステルの混合物(重量比率1:9)を77.8重量部、粘度調整剤として分散助剤(酸基を含む重合体のアルキルアンモニウム塩化合物)を6重量部、粘度調整剤(バインダー)としてポリビニルアセタール樹脂(分子量が約2.3万、ブチラール化度74mol%)を1.1重量部混合した。なお、この原料の体積比率は、無機粒子が31体積部、分散媒が71体積部、分散助剤が6体積部、バインダーが1体積部であった。
【0032】
[実験例3]
流れ観察用流体として、無機粒子含有スラリーを作製した。観察対象無機粒子として炭化珪素粒子(スーペリア・グラファイト社製)を100重量部、観察対象分散媒としてトリアセチン及び有機二塩基酸エステルの混合物(重量比率1:9)を75重量部、粘度調整剤(分散助剤)としてポリカルボン酸系共重合体を10重量部混合した。なお、この原料の体積比率は、無機粒子が31体積部、分散媒が68体積部、分散助剤が10体積部であった。
【0033】
(粒度分布測定)
無機粒子として用いたジルコニア粒子と炭化珪素粒子との粒度分布を測定した。無機粒子の粒径は、HORIBA製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−700を用い、水を分散媒として測定したメディアン径(D50)として求めた。その結果、ジルコニア粒子も炭化珪素粒子もメディアン径(D50)が0.5μmであった。
【0034】
(無機粒子観察)
無機粒子として用いたジルコニア粒子と炭化珪素粒子との無機粒子観察を行った。この無機粒子観察は、電子顕微鏡(SEM)観察及び光学顕微鏡による観察を行った。SEM観察は、電子顕微鏡(日立ハイテク社製 S−3000N)を用い、倍率を5000倍として行った。図2は、各無機粒子のSEM写真及び光学顕微鏡での観察写真である。この写真より、ジルコニア粒子は、略球状の粒子であった。また、粒度分布は狭く、粒径が比較的揃っているように観察された。一方、炭化珪素粒子は、略球状の粒子も含むが、平面状の表面を有する粒子が比較的多数含まれていた。また、2μm程度の比較的大きな粒子も存在することがわかった。また、スラリーを落射光で観察すると、ジルコニア粒子のスラリーは粒子の確認が困難であったが、炭化珪素粒子のスラリーは平面状の表面を有する粒子(扁平状の粒子)と思われる粒子像が明確に観察された。
【0035】
(粘度測定)
上記作製した解析対象流体、実験例1〜3の流れ観察用流体の粘度(mPa・s)を測定した。測定は、B型粘度計(BROOKFIELD社製 本体:LVT 円筒形スピンドル:LV No.4)を用い、回転数を1.5,3,6,12,30,60rpmでの粘度(mPa・s)を求めた。表2及び図3は、各試料の回転数に対する粘度の測定結果である。その結果、すべての試料が回転数に対して粘度が変化する非ニュートン性の流体であることがわかった。また、実験例1,2の流れ観察用流体が解析対象流体に近い粘性を有していることがわかった。
【0036】
【表2】

【0037】
(接触角測定)
上記作製した解析対象流体、実験例1〜3の流れ観察用流体の接触角(°)を測定した。透過セルの観測面に撥水剤としての離型剤をコーティングし、各試料の液滴を落として顕微鏡を用いて接触角を測定した。離型剤としては、FやSiなどを含む化合物を適宜用いた。ここでは第1の離型剤(フッ素系離型剤)及び第2の離型剤(シリコーン系離型剤)を用いた。その結果、実験例1,2の流れ観察用流体が解析対象流体に近い接触角を示すことがわかった。また、実験例3では、クリーム状になり接触角の測定はできなかった。この接触角は、90°近傍であると流体を流通させる実際の流路の中央近傍を流通する無機粒子の挙動を観察することに等しいことから、第1の離型剤を用いることが好ましいことがわかった。
【0038】
(PIV観察)
上記作製した解析対象流体、実験例1〜3の流れ観察用流体のPIV観察を流体観察装置20を用いて行った。PIV観察では、透過セル22は、その材質をアクリルとし、第1の離型剤を流体が流れる壁面にコーティングしたものを用いた。この透過セル22は、流路の形状を矩形とし、流路幅Lcを80μmに形成したものを用いた。流体観察装置20では、流れ観察用流体の供給速度を0.012mm3/minとし、デジタルカメラにより連続的な静止画を撮影した。図4は、実験例1のPIV観察結果である。図4に示すように、無機粒子の移動状態を十分確認することができた。また、焦点深度を透過セル22の壁面よりも深くした場合、即ち、流れ観察用流体のより中央側でも無機粒子の移動状態を確認することができた。
【符号の説明】
【0039】
20 流体観察装置、21 流体供給部、22 透過セル、23 デジタルビデオカメラ、24 デジタルカメラ、25 顕微鏡、26,27 光照射部、30 流れ観察用流体、31 無機粒子、32 平面無機粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PIV法による流体観察方法であって、
平面状の表面を有する観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含む流れ観察用流体を用い、流路を流通している該流れ観察用流体に光を照射し該流れ観察用流体を介して得られた無機粒子像を撮影する撮影ステップ、を含む流体観察方法。
【請求項2】
前記撮影ステップでは、前記観察対象無機粒子の体積率が20体積%以上40体積%以下である前記流れ観察用流体を用いる、請求項1に記載の流体観察方法。
【請求項3】
前記撮影ステップでは、B型粘度計の測定において回転数1.5rpmのときの粘度η1.5と回転数3.0rpmのときの粘度η3.0との粘度比η1.5/η3.0が、1.3≦η1.5/η3.0≦2.0の範囲の前記流れ観察用流体を用いる、請求項1又は2に記載の流体観察方法。
【請求項4】
前記撮影ステップでは、前記流路の幅Lc(μm)と前記流れ観察用流体に含まれる前記観察対象無機粒子の粒径Dp(μm)との比Lc/Dpが5以上200以下の範囲となる前記流路へ前記流れ観察用流体を流通させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体観察方法。
【請求項5】
前記撮影ステップでは、前記流れ観察用流体を観察する前記流路の壁面と前記流れ観察用流体との接触角が50°以上100°以下となる前記流路へ前記流れ観察用流体を流通させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の流体観察方法。
【請求項6】
前記撮影ステップでは、解析対象無機粒子と解析対象分散媒とを含む流れ解析対象流体の該解析対象無機粒子の粒度と該流れ解析対象流体の粘度とに近似した、前記平面状の表面を有する観察対象無機粒子と前記観察対象分散媒と前記粘度調節剤とを含む流体を疑似的な流れ観察用流体として用い、該擬似的な流れ観察用流体に光を照射し該流れ観察用流体を介して得られた無機粒子像を撮影する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の流体観察方法。
【請求項7】
前記撮影ステップでは、前記解析対象無機粒子がジルコニア粒子であり、前記観察対象無機粒子が炭化珪素粒子である、請求項6に記載の流体観察方法。
【請求項8】
前記撮影ステップでは、前記流れ解析対象流体に含まれる前記解析対象無機粒子の体積率に比して、前記流れ観察対象流体に含まれる前記観察対象無機粒子の体積率がより小さい該流れ観察対象流体を用いる、請求項6又は7に記載の流体観察方法。
【請求項9】
前記撮影ステップでは、前記観察対象分散媒として所定条件で硬化する樹脂を用いる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の流体観察方法。
【請求項10】
PIV法により観察する流れ観察用流体であって、
平面状の表面を有する観察対象無機粒子と観察対象分散媒と粘度調節剤とを含む、流れ観察用流体。
【請求項11】
解析対象無機粒子と解析対象分散媒とを含む流れ解析対象流体の該解析対象無機粒子の粒度と該流れ解析対象流体の粘度とに近似した、前記平面状の表面を有する観察対象無機粒子と前記観察対象分散媒と前記粘度調節剤とを含み、該流れ解析対象流体に対して擬似的な流体である、請求項10に記載の流れ観察用流体。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−164021(P2011−164021A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29043(P2010−29043)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】