説明

流体送り装置およびそれを用いた細胞培養装置

【課題】簡単な構成を有する流体送り装置を提供し、かつ、該流体送り装置を用いた細胞培養装置を提供すること。
【解決手段】スターラーの回転子1を収容室2に回転可能に収容し、該収容室2に、流体を出入りさせるための吸入口3と吐出口4とを設ける。第一態様では、吸入口3よりも吐出口4の開口面積を大きくし、それによって、流体送り作用を発生させる。また、第2態様では、回転子の形状によって流体送り作用を発生させる。この流体送り装置の吸入口または吐出口に、培養基材を擁した培養管路を接続すれば、コンパクトな細胞培養装置となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の方向に流体の流れを作り出す流体送り装置、および該流体送り装置を用いた細胞培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元細胞培養技術が注目されている。三次元細胞培養とは、立体的環境下において行う細胞培養であって、これによって、細胞自体の持つ機能を向上させ、臓器・器官でみられる機能をもった組織や細胞の培養が可能となる(例えば、非特許文献1〜4)。
【0003】
三次元細胞培養を行なうために、製薬会社などでは大規模な培養プラントが開発されているが、他方、研究開発や検査のレベルでは、比較的小規模な細胞培養システムが重要である。そのような比較的小規模なシステムとしては、例えば、次のものが挙げられる。
ホローファイバー・バイオリアクター:SciMedia社製のものが知られており、中空糸膜を用いて栄養分を供給し、インキュベーター、培養器具、電極類、各種ポンプなどから構成される装置である。
大量培養用セルキューブシステム:Corning社製のものが知られており、システムコントローラー、還流ポンプ、培地ポンプ、酸素ジェネーターなどによって構成された装置である。
メンブレンバイオリアクター:ザルトリウス社製のものが知られており、培養器を回転させることにより大量培養を可能としたものである。
RCCS(Rotary Cell Culture System):三次元培養システムの1つであって、Synthecon社製のものが知られており、通常のインキュベーター内で、回転制御装置を用いて培養容器自体を回転させるもので、pHや酸素電極を必要としないものである。
その他、特殊処理により細胞塊(細胞塊の中で細胞が三次元培養される)を形成させる培養プレート製品があるが、培養液を流動させるものではないため、長期間の培養や細胞機能の維持は困難である。また、細胞外マトリックスを用いた三次元培養組織構築プレート製品、抗体や組換えタンパク質の生産を行えるCELLineフラスコ(BD社)など、生体内に近い立体的環境での細胞形態観察を可能にしたバイオ製品が開発されている。
【0004】
様々な細胞種に対する三次元培養技術は、細胞自身が持つ組織形成能力や修復能力、または医療用タンパク質などの物質生産能力などを飛躍的に向上させることができるため、再生医療分野における人工臓器や幹細胞治療、さらには、医療用タンパク質生産、バイオデバイス(細胞を組み込んだ医療器具)の開発などを行うためのバイオツールとして非常に注目されている。
【0005】
しかしながら、従来の三次元培養装置は、医療用タンパク質の生産細胞などの特定の細胞種に対して開発されたものであり、そのような専用装置は、各種細胞の持つ足場依存性、細胞観察が困難であること、高い流速による細胞へのストレス、高価な培養液の大量の使用などの理由から、胚性幹細胞や神経幹細胞、初代培養細胞など、多様な細胞種には適応することができない。
また、大量の試験数を一度に処理するためには、多数の装置を並列に配置しなければならないが、装置の占有場所や、コストの面から、容易に実現できることではない。
【0006】
従って、簡単な構成によって小型化も可能な培養装置、さらには安価である培養装置が開発できれば、立体的環境下で多様な細胞種の培養が可能になり、また多くの試験処理が並列的に達成できるようになり、三次元培養技術の発展に大きく貢献できるようになる。
この点に関して、本発明者等が従来の培養装置を検討したところ、従来の装置は、主として、培養液を送るためのポンプ装置とチューブとを組み合わせた構成をとるために、それに起因して次の問題が存在することがわかった。
(a)ポンプ装置とチューブとを組み合わせた構成では、装置全体が複雑かつ大掛かりにならざるを得ず、また、装置自体の価格も高価である。
(b)多検体処理には多くのポンプとチューブを並列的に配置しなければならず、装置の占有面積、コストがさらに増大する。
(c)ポンプ、チューブの内部を満たすために、多量の培養液が必要である。
(d)ポンプ圧力によって気泡が発生し易く、該気泡によって培養体積が減少したり、ポンプが正常に作動しなくなるので、これを解消するために、培養液の流速を高く保ち、常に培養層やチューブ内からエアーを抜かなければならない。しかし、正常細胞や幹細胞培養、組織培養において、流速を高くすると、細胞はダメージを受ける。
【0007】
上記のような問題は、三次元細胞培養、その他のあらゆる細胞培養だけでなく、マイクロリアクターなどを用いた流体化学的試験、核酸やたんぱく質、糖、脂質などの生体分子間の相互作用試験、酸素反応試験、化学合成、結合反応試験などにおいても、同様に存在する問題である。
【非特許文献1】Bell E, IvarssonB, Merrill C (1979) Proc Natl AcadSci USA. Mar; 76(3): 1274-8.
【非特許文献2】Chen SS, RevoltellaRP, Papini S, Michelini M, Fitzgerald W, Zimmerberg J, MargolisL (2003) Stem Cells. 21(3): 281-95.
【非特許文献3】Saito N, Okada T, Horiuchi H, Murakami N, Takahashi J, Nawata M, Ota H, Nozaki K, Takaoka K. (2001) Nat Biotechnol. Apr; 19(4): 332-5.
【非特許文献4】Evans GR, Brandt K, Widmer MS, Lu L, MeszlenyiRK, Gupta PK, Mikos AG, Hodges J, Williams J, GurlekA, Nabawi A, Lohman R, Patrick CW Jr. (1999) Biomaterials. Jun; 20(12): 1109-15.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題を解決し、簡単な構成を有する流体送り装置を提供し、かつ、該流体送り装置を用いた細胞培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)スターラーの回転子が回転可能に収容された収容室を有し、該収容室には、流体を出入りさせるための吸入口と吐出口とが設けられており、
吸入口よりも、吐出口の方が、収容室に対する開口面積が大きいものとされ、この開口面積の大小によって、回転子を回転させたときに、収容室外の流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が生じるものである、
流体送り装置。
(2)吸入口と吐出口とが、いずれも、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられている、上記(1)記載の流体送り装置。
(3)吸入口と吐出口とが、回転子の回転中心を中心として、180°開いた位置関係となるように設けられている、上記(2)記載の流体送り装置。
(4)吸入口と吐出口とが、回転子の回転中心を中心として、90°開いた位置関係となるように設けられている、上記(2)記載の流体送り装置。
(5)吸入口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、上記(1)記載の流体送り装置。
(6)吐出口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吸入口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、上記(1)記載の流体送り装置。
(7)吸入口が、回転子の回転軸の一方の方向に在る壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の他方の方向に在る壁に設けられている、上記(1)記載の流体送り装置。
(8)回転子の形状が、該回転子を回転させたときにその回転軸の方向へと流体を向わせる形状であって、この回転子の形状によって、回転子を回転させたときに、収容室外の流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が、さらに加えられるものである、上記(5)〜(7)のいずれかに記載の流体送り装置。
(9)スターラーの回転子が、水平回転可能に収容室に収容されている、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の流体送り装置。
(10)スターラーがマグネチックスターラーであって、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって回転するものである、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の流体送り装置。
(11)スターラーの回転子が回転可能に収容された収容室を有し、該収容室には、流体を出入りさせるための吸入口と吐出口とが設けられ、
回転子の形状は、該回転子を回転させたときに流体を吐出口の方向へ向わせる形状とされ、それによって、回転子を回転させたときに、収容室外の流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が生じるものである、
流体送り装置。
(12)吸入口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、上記(11)記載の流体送り装置。
(13)吐出口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吸入口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、上記(11)記載の流体送り装置。
(14)吸入口が、回転子の回転軸の一方の方向に在る壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の他方の方向に在る壁に設けられている、上記(11)記載の流体送り装置。
(15)スターラーの回転子が、水平回転可能に収容室に収容されている、上記(11)〜(14)のいずれかに記載の流体送り装置。
(16)スターラーがマグネチックスターラーであって、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって回転するものである、上記(11)〜(15)のいずれかに記載の流体送り装置。
(17)上記(1)〜(16)のいずれかに記載の流体送り装置を用いて構成された細胞培養装置であって、
培養槽に収容された培養液中に、前記流体送り装置と培養管路とが接続された状態で浸漬され、
培養管路内には培養基材が配置されており、培養管路の一端部である第一端部が流体送り装置の吸入口または吐出口に接続され、培養管路の他端部である第二端部が培養液中に開口しており、
前記流体送り装置の流体送り作用によって、培養液が培養管路を通過する構成とされていることを特徴とする、細胞培養装置。
(18)培養管路の第一端部が、流体送り装置の吸入口に接続されており、それによって、培養槽内の培養液が、第二端部から培養管路内に入り、培養基材を経て、第一端部から流体送り装置の収容室内に入り、吐出口から培養槽内に戻る構成とされている、上記(17)記載の細胞培養装置。
(19)培養管路の第一端部が、流体送り装置の吐出口に接続されており、それによって、培養槽内の培養液が、吸入口から流体送り装置の収容室内に入り、吐出口から培養管路内に入り、培養基材を経て、第二端部から培養槽内に戻る構成とされている、上記(17)記載の細胞培養装置。
(20)流体送り装置が、上記(2)〜(4)のいずれかに記載の流体送り装置であって、培養管路が略水平に延びるように培養液中に配置されており、
流体送り装置の収容室の高さと、培養管路の高さとが、略同じであって、これらの高さよりも、培養槽の液面高さが、0mm〜10mmだけ高くなるように設定されている、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の細胞培養装置。
(21)培養槽の槽内の形状が、内径5mm〜100mm、深さ5mm〜20mmの皿型円柱状である、上記(20)記載の細胞培養装置。
(22)培養管路が、直線状管路または屈曲状管路であって、その管路が略水平に延びるように培養液中に配置されている、上記(17)〜(21)のいずれかに記載の細胞培養装置。
(23)流体送り装置のスターラーがマグネチックスターラーであり、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって水平回転するものであって、
培養管路は、直線状管路または屈曲状管路であって、その管路が略水平に延びるように培養液中に配置されており、
該スターラー本体駆動装置が流体送り装置の収容室の上側に配置され、培養槽の下側には撮影用カメラが配置され、培養管路内の培養基材を下側から撮影し得る構成とされている、上記(17)〜(22)のいずれかに記載の細胞培養装置。
(24)細胞培養装置に含まれる流体送り装置のスターラーがマグネチックスターラーであり、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって水平回転するものであって、
該スターラー本体駆動装置は、1台で、複数の回転子を回転させ得るように構成されたものであり、
上記流体送り装置と上記培養管路とが接続された状態で培養槽内に配置された構成を有するユニットが、前記スターラー本体駆動装置上に複数配置され、1台のスターラー本体駆動装置によって前記複数のユニットが稼動する構成とされている、上記(17)〜(23)のいずれかに記載の細胞培養装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明による流体送り装置は、スターラーの回転子を利用して流体送り作用を作り出す装置である。
スターラーの回転子は、液体をかき混ぜるための部材であるから、液体中で該回転子をそのまま単純に回転させただけでは、従来どおり、液槽内には、渦巻き状の流れが生じるだけである。
これに対して、本発明による流体送り装置では、図1、図6に示すように、スターラーの回転子1と収容室2とを組み合わせ、これに特定の開口3、4を加えることによって、ポンプのような一定方向への流体送り作用(吸入と吐出)を生じさせている。この一定方向への流体送り作用は、スターラーの回転子による全方向的な攪拌作用とは根本的に異なるものである。
【0011】
当該流体送り装置による流体送り作用の発生原理は、大きく2種類に分けることができる。
1つは、上記(1)の態様(第一態様)である。例えば図1に示すように、収容室2にスターラーの回転子1を回転(同図の例では水平回転)可能に収容し、該収容室2に吸入口3と吐出口4を設け、吸入口3よりも、吐出口4の方が、収容室に対する開口面積が大きくなるように設定する。このように開口面積に大小を設け、回転子を回転させると、より大きい開口の方から、より多くの流体が流れ出ようとするので、結果として、流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が生じ、一定方向の流れが得られることになる。
他の1つは、上記(11)の態様(第二態様)ある。図6に示すように、収容室2にスターラーの回転子10を回転可能に収容し、少なくとも吐出口40を回転子10の回転軸円の上方に設ける。同図の例該収容室2の外周壁2aに吸入口3を設け、ここで、回転子10の形状を、該回転子を回転させたときに周囲の流体を回転軸方向へと向わせるように斜面を持った形状あるいはプロペラ形状とする。このような回転子の形状による回転軸方向への流体送り作用によって、流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が生じ、一定方向の流れが得られることになる。
第一態様の開口の位置によっては、第二態様と並存させてもよい。
【0012】
第一態様と、第二態様は、いずれも回転子を持ち、2つの開口を持っている点で、主たる構成は同じであるが、流れの発生原理が異なる。
しかし、いずれの態様も、前記のような単純な構成によって一定方向の流れ(水平方向の吐出または吸入、垂直方向の吐出または吸入)を発生させることが可能である。また、回転子の全長は後述のとおり数mm程度であってもよく、従来には無かった極めて小さい流体送り装置を構成することも可能である。
【0013】
本発明による細胞培養装置は、本発明による流体送り装置と管路とを組み合わせて構成される。
上記したように、本発明による流体送り装置に水平方向の吸入口または吐出口を持たせて、これに水平な管路を持つ培養管路を接続すると、流体の水平な流れがロス無く得られることになり、垂直方向にはスペースをとらずに済み、図8(b)に示すように、シャーレ(ペトリ皿)やウェルといった浅い皿状の培養槽であっても、その中で培養液を水平方向に好ましく循環させることができる。よって、図9に示すように、従来にない、平べったくコンパクトな細胞培養装置が構築可能になる。
また、本発明による流体送り装置に垂直方向の吸入口または吐出口を持たせて、これに垂直な管路を持つ培養管路を接続すると、例えば、図13(a)、(b)に示すように、流体の垂直な流れがロス無く得られることになる。このような態様は、細長いシリンダー状の培養容器の使用を可能するので、床面積を占有しない細長くコンパクトな細胞培養装置が構築可能になる。
【0014】
即ち、当該細胞培養装置は、流体送り装置の簡単な構造に起因して、次の特徴を持つ。
(A)還流ポンプ、培地ポンプ、酸素やpHを測定するための電極、酸素発生装置、システムコントローラー、炭酸ガス交換器などの高価な機器類、装置類を必要としない。
(B)従来技術の説明で述べたとおり、従来の還流培養装置は、多検体用に作られておらず、大量のサンプルを同時に試験処理することは困難である。さらに、ポンプ式による小型培養装置においても、多検体処理には多くのポンプ並びにチューブを用意なければならなかった。これに対して本発明では、動力をスターラー(他のプロペラ式でも代用可能)に変えることで、装置を簡素化し、小型化することによって、並列に多数配置することも可能となり、培養コストが増大することはない。
(C)従来のポンプ式培養装置の場合、チューブを用いて培養液を還流させるため、余分な培養液が必要であったが、本発明では、ポンプ部分をスターラーの回転子を用いて簡素化しており、培養液の少量化を達成している。例えば、直径35mm、深さ17mmのウェルプレートを培養槽として用いる場合、ポンプ式では1槽当りに必要な培養液の総量は30〜50mLであるのに対して、本発明の細胞培養装置では1〜3mLである。
(D)従来技術の説明で述べたとおり、ポンプ式による培養装置では、ポンプ圧力によるエアーの発生と、それが引き起こす培養体積の減少、エアーによる流路の詰りなどの問題を解消するために培養液の流速を高く保ち、常に培養層やチューブ内からエアーを抜いている。しかし、正常細胞や幹細胞培養、組織培養では、大きな流速が、細胞へのダメージを引き起こす結果となっている。
これに対して、本発明では、スターラーの動作で流れを作り出すことで、問題の原因であるポンプ圧力を装置から排除し、流速を低く保ちつつ、エアーの発生を抑えることが可能となっている。
(E)その他の特徴
本発明による細胞培養装置は、簡単な構成ではあるが、単に簡易型というだけでなく、高性能システムとしても適用可能である。
一般的な還流培養装置と同様に、培養液を還流させるため、長期の培養が可能である。
コラーゲンやアパタイトなどからなる市販のスキャフォールド(細胞の足場となる材料)を用いた静置培養では、内部に培養液を浸透させることができず、細胞死や機能不全という問題を抱えていた。これに対して、本発明では、それらのスキャフォールドを培養基材として簡単に組み込むことが可能なため、今まで不十分であった基材内部への栄養液を供給する等、培養中に培養基材へ外部から操作を加えることが容易であるため、これらの問題が解消する。
本発明では、通常の培養容器と同等のもの、さらには浅い皿状の容器を用いるため、培養時の細胞の形態観察が容易である。
流速を自由にコントロールすることが可能であり、細胞・組織の種類に適応して低い状態から高い状態またはフリップフロップ、グラジェントなど様々な要求に答えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
先ず、本発明による流体送り装置の第一態様の構成を説明する。
図1は、当該流体送り装置の第一態様の一例を示す模式図であって、装置の内部構造および動作原理を概略的に示している。図1は、当該装置を上方から見た図であって、収容室内を見せるために天板(必須ではない)を除去している。回転子の回転中心点1aは、図を理解し易いように書き加えたものであって、実在の回転シャフトである必要はない。また、図2は、当該装置をより分かり易く示した斜視図であって、側壁や天井板を透明にして内部の回転子を見せている。いずれの図も、装置が流体中に浸漬されて作動している状態を表している。
これら図1、2に示すように、当該流体送り装置は、スターラーの回転子1が回転可能に収容された収容室2を有する。該収容室2には、流体を出入りさせるための吸入口3と吐出口4とが設けられる。同図の例では、スターラーの回転子1は、水平回転可能に収容されており、また、吸入口3と吐出口4とは、いずれも、該収容室2の外周壁(即ち、回転子1の回転によって描かれる円1bを取り巻く壁)2aに設けられている。
吸入(吐出)口が流体を吸入(吐出)する開口として作用する理由は、上記効果の説明において述べたとおり、これらの開口面積の大小関係にある。即ち、吸入口3よりも吐出口4の方が、収容室に対する開口面積が大きいものとされており、この開口面積の大小によって、上記したとおり、回転子1を回転させたときに、流体は、矢印L1で示すように、吸入口3から収容室内に流入し、矢印L2で示すように、吐出口4から収容室外に流出する。
【0016】
当該装置に用いられるスターラーは、モーターなどの駆動原と回転子とを回転シャフトによって直接接続したシャフトドライブ型のスターラーであってもよいが、マグネチックスターラーを用いれば、回転シャフトやそれを通過させる貫通孔や軸受け構造が省略でき、装置の構成がより簡単になる。
以下の説明では、全て、スターラーとしてマグネチックスターラーを用いる態様を用いて本発明を説明するが、シャフトドライブ型のスターラーなど、他の駆動型のものと適宜置き換えてよい。
【0017】
マグネチックスターラー自体は、図8(a)に示すように、スターラー本体駆動装置Sから発せられる磁界の作用によって、回転子(攪拌子とも言う)1を回転させるよう構成された公知の攪拌装置である。
スターラー本体駆動装置Sの上面には、攪拌すべき槽を置くためのステージS1が設けられ、該ステージS1の下側に磁界発生装置が収容されている。通常、回転子の回転平面は、該ステージS1の面に平行な面となる。
スターラー本体駆動装置SのステージS1の面をどの方向に向けるか(水平面で上向き、水平面で下向き、垂直面、任意の傾きを持って上方または下方を向いた面など)、また、それによって、回転子の回転中心軸をどの方向に向けるかは自由である。以下の説明では、特に断らない限り、ステージS1の面を水平面で上向きまたは下向きとし、回転子を水平に回転させる態様を代表として本発明を説明する。回転子を水平に回転させる態様は、装置構成が簡単になり、本発明の特徴が最も顕著となる。ステージS1の面の傾き、回転子の回転中心軸の傾きは、適宜変更してよい。
回転子は、通常、攪拌すべき流体に対して安定であり、耐磨耗性の優れた材料(例えば、テフロン(登録商標)、ポリスチレン、ガラス、ポリプロピレン、ポリエチレンなど)からなる外層を有し、内部には、スターラー本体駆動装置Sから発せられる磁界の作用によって回転し得るように、永久磁石や磁性体が埋め込まれた構成を有する。
同図のマグネチックスターラーは、1つのスターラー本体駆動装置Sで、1つの回転子1を回転させるシングルタイプであるが、1つのスターラー本体駆動装置のステージ上で複数の回転子を同時に回転させ得るマルチタイプのものを構成し用いてもよい。
【0018】
回転子の形状は、特に限定されず、従来公知のマグネチックスターラーの回転子を用いてよいが、回転で描かれる円の外周囲に流れを生じさせる形状が好ましい。そのような形状としては、棒状、十字状、放射状などが挙げられる。また、回転が滑らかになるように、胴体の中央部分が膨らんだものであってもよい。
回転子が棒状である場合、その長手方向に垂直な断面形状は、円形、三角形、方形、多角形などであってよい。回転子が、十字状、放射状などの場合も同様である。
回転子の回転によって描かれる回転円(回転子の回転動作を上方から見たときに、回転子によって占有される円形領域の外形線の円)の直径は、特に限定はされないが、0.1mm〜200mm、特に1mm〜10mmであれば、当該流体送り装置自体ひいてはそれを用いた細胞培養装置がコンパクトになり、同時に多数の該培養装置を並列配置することが可能となる。
【0019】
回転子の回転数は、回転円の直径、回転子の形状、培養すべき細胞の種類などによっても異なるが、毎分1〜1000回転程度、特に毎分10〜100回転程度が好ましい範囲である。
また、回転子の回転方向は、時計回りでも、反時計回りでもよい。
【0020】
当該流体送り装置の収容室の大きさは、スターラーの回転子を回転可能に収容し得るものであればよいが、収容室の大きさが回転円に対して過度に大きいと、吸入口と吐出口とが回転子から遠く離れることになり、開口面積の大小による流体送り作用が得られ難くなる。
このような点からは、吸入口および/または吐出口を、回転円を取り巻く外周壁に設ける場合、図3(a)に示すように、回転円1bと吸入口3側の壁面との隙間g1、および、回転円1bと吐出口4側の壁面との隙間g2は、1mm〜10mm程度、特に2mm〜5mmが好ましい値である。
また、図3(b)に例示するように、吐出口をより大きく取ることによって、回転円が収容室からはみ出したように見える状態となっても、流体送り作用は得られる。本発明では、前記のように、回転円が収容室から部分的にはみ出した状態であっても、〔収容室が回転子を水平回転可能に収容している〕とする。その場合の、回転円が収容室からはみ出す長さ(図3(b)に示す長さg3)は、回転円直径の95%程度以下、特に50%以下とするのが、流体送り作用を効率良く得るためには好ましい。
【0021】
回転子を水平回転可能に収容する場合、収容室の内部の高さは、回転子が回転可能であればよいが、収容室の天井が回転子に対して過度に離れていると、渦など意図せぬ流れが生じ、開口面積の大小による流体送り作用が得られ難くなる。
このような点から、回転子と収容室の天井との間の隙間は、1mm〜10mm程度、特に2mm〜5mmが好ましい値である。
【0022】
収容室を回転子の回転軸方向から見たときの基本形状は、図1のような方形、図4(b)のような円形など、回転円を適度にはめ込むことができる形状が好ましい。特に、円形は、回転円と内壁面との隙間が全周にわたって均一であり、意図せぬ乱流を生じさせることなく、また、後述のように回転子を外周で保持できるので好ましい形状である。その場合の回転円と内壁面との隙間は、上記g1、g2を適用してよい。
【0023】
吸入口の開口面積は、吐出口の開口面積よりも小さければよいが、流体送り作用を効率良く得るためには、吸入口の開口面積は、吐出口の開口面積の1%〜90%、特に10%〜50%が好ましい範囲である。
具体的な数値で示すと、図1の例において、回転円1bの直径が3mm、収容室の床形状が一辺5mmの正方形である場合、吸入口、吐出口の高さ(紙面に垂直方向の寸法)を互いに同じとして、吸入口幅を1mm〜2mm程度とし、吐出口幅を3mm〜最大幅5mmとする組み合わせが好ましい例である。特に、吐出口幅は、収容室の1つの壁面を全開(最大幅5mm)とすることで、最も大きな流体送り作用が得られ、また、吸入口の選択範囲も広くなるので好ましい。
【0024】
図5(a)に示すように、収容室を回転軸の方向からみたときの室内形状を、回転円に適合した円形とすることによって、回転子は、中心に回転シャフトを持たずとも、壁面に保持され安定して回転することが可能となる。このような態様は、より簡単な構成とする点からは好ましい。回転円の直径によっても異なるが、収容室の直径と、回転円の直径との差が、0.5mm〜2mm程度であればガタつきがなく好ましい。
また、収容室を回転軸方向から見たときの室内の形状が方形である場合(図1など)、例えば、停止時に内部の回転子が自由に移動したのでは、回転がスムーズに始動し難い場合がある。そのような場合には、回転子の回転中心軸線に沿って回転シャフトを適宜設けてもよい。図5(b)に示す例は、回転中心軸線Xに沿って、水平回転する回転子の上下に凸部Pを設け、収容室の天井面および床面に凹部Qを設けた例である。その変形例として、回転子の上下に凹部を設け、収容室の天井面および床面に凸部を設けてもよい。また、回転子を上下に貫通するシャフトを受けてもよい。
【0025】
収容室のどの位置に吸入口と吐出口とを設けるかは限定されないが、例えば、次の態様が好ましい構成として挙げられる。
(あ)図1に示すように、吸入口3と吐出口4とが、いずれも、回転円1bを取り巻く外周壁2aに設けられる態様。
(い)図6、図13(a)に示すように、一方の開口(図では吸入口)が、回転円を取り巻く外周壁に設けられ、他方の開口(図では吐出口)が、回転子の回転軸の方向に存在する壁(図では天井壁)に設けられる態様。
(う)図13(b)に示すように、吸入口が、回転子の回転軸の一方の方向に在る壁(図では床)に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の他方の方向に在る壁(図では天井壁)に設けられる態様。
【0026】
上記(あ)〜(う)の態様のなかでも、特に、上記(あ)の態様は、吸入から吐出に至る流れが水平であるから、これに水平な培養管路を組み合わせることによって、全体として垂直方向のスペースを必要としない薄い(低い)細胞培養装置を構成し得るので好ましい態様である。
上記(あ)の態様の場合、図1〜3の例では、吸入口3と吐出口4とが、回転子1の回転中心1aを中心として、互いに180°開いた位置関係(対向配置)となっているが、これに限定されることなく、両開口は、任意の位置関係にあってよい。
例えば、図4(a)、(b)の例では、両開口は、回転子1の回転中心1aを中心として、互いに90°開いた位置関係(吸入方向と吐出方向とが互いに90°をなす位置関係)となるように設けられている。吸入口と吐出口の位置関係は、例えば、細胞培養装置を構築する際に、培養槽の限られた広さの中で、培養液が効率良い循環ルートを描くように、適宜選択すればよい。
逆に、水平方向のスペースを必要としない、縦に細長い細胞培養装置を構成することも好ましい態様である。
【0027】
次に、本発明による流体送り装置の第二態様の構成を説明する。
図6は、当該流体送り装置の第二態様の一例を示す模式図であって、図6(a)は、当該装置をより分かり易く示した斜視図であり、図6(b)は、当該装置を側方から見た断面図である。第一態様と同様、回転子を水平に回転させる例を用いて説明するが、これに限定されるものではない。
上記第一態様に対する、第二態様の相違点は、上記〔発明の効果〕の説明において述べたとおり、流れの発生原理である。第二態様も、第一態様と同様に、回転子を持ち、吸入口と吐出口とを持っているが、流れの発生を回転子の形状に依存しているので、必ずしも吸入口よりも吐出口の方を大きい開口面積とする必要はない。
第二態様では、回転子の形状は、回転したときに流体が吐出口へ向うように流体に推力を与え得る形状とされている。収容室の形状など、他の部分の仕様については、第一態様を参照してよい。
この構成によって、上記したとおり、回転子1を回転させたときに、矢印L1で示すように、流体は吸入口30から収容室内へ横方向に流入し、矢印L2で示すように、吐出口40から収容室外へ流出し、流体送り作用が生じる。
【0028】
収容室のどの位置に吸入口と吐出口とを設けるかは限定されないが、例えば、次の態様が好ましい構成として挙げられる。
(ア)図6に示すように、吸入口30が、回転円1bを取り巻く外周壁2aに設けられ、吐出口40が、回転子の回転軸の方向に在る壁(図では天井)に設けられる態様。
(イ)上記(ア)とは逆の流れであって、吐出口が、外周壁2aに設けられ、吸入口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられる態様。
(ウ)図13(b)に示すように、吸入口が、回転子の回転軸の一方の方向に存在する壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の他方の方向に存在する壁に設けられる態様。
【0029】
第二態様では、回転子の構造を簡単にする点からは、図6、図13(a)に示すように、吐出口を回転軸の方向に存在する壁に設ける態様が好ましく、それによって、吐出口の方向に流体を送り易くなる。また、その場合、吐出口は、できるだけ大きく、好ましくは壁全面(例えば、水平回転では、収容室の天井全面または床全面)にわたって形成すればよい。
【0030】
吐出口を回転軸の方向に存在する壁に設ける場合、流体を吐出口へと向わせる回転子の態様としては、図7(a)、(b)に例示するように、吐出口へ向う方向に対して斜面を持った態様、またはプロペラ状の面を持った態様などが挙げられる。図7(a)の例では、斜面1cが両側に均等に設けられており、図7(b)の例では、斜面1cがプロペラのごとく、回転中心を挟んで逆方向に設けられている。
このような回転子の形状は、収容室の形状と協働して、任意の流れを発生させるように、適宜設計してよい。
【0031】
本発明による流体送り装置は、例えば、円柱形(直径4.0mmの円形床、高さ(厚さ)2mmの収容室内で、全長2mmの回転子を30rpm程度で回転させる場合、有色の染料を流してその流れを観察すると、0.1〜1.0mL/min程度の流れが生じていることがわかる。
このような適度に緩やかな流れは、細胞培養には好適である。
【0032】
第二態様は、第一態様と併用してよく、両者の流体送り作用を加え合わせれば、より強力な流体送り装置とすることが可能となる。
【0033】
次に、本発明による流体送り装置を用いて構成された細胞培養装置を説明する。
便宜上、第一態様の流体送り装置を用いた例によって、詳細な説明を行なうが、第二態様の流体送り装置と適宜置き換えてよい。
当該細胞培養装置は、図8(b)に構成を示すように、培養槽50に収容された培養液60中に、本発明による流体送り装置Aと培養管路Bとを接続した状態で浸漬して構成される。培養管路B内には、培養基材Mが配置されており、培養管路内を培養液が流通することによって、培養基材M内に目的の細胞が培養される構成となっている。培養管路内を培養液が流通するように、培養管路Bの一方の端部(第一端部)は、流体送り装置の吸入口または吐出口に接続されている。また、培養管路の他方の端部(第二端部)は、培養液中に開口している。
培養槽50は、マグネチックスターラーのスターラー本体駆動装置Sのステージ上に置かれている。回転子1に磁界を作用させて回転させると、流体送り装置Aの流体送り作用によって、培養管路内Bを培養液60が通過し、これによって培養槽内での循環培養が可能になる。
【0034】
当該細胞培養装置の重要な特徴は、図8(b)に示すように、流体送り装置Aが充分に簡単な構成となっておりかつ小型化されているために、該流体送り装置と培養管路とが小さい培養槽内の培養液中に完全に収容され、培養槽外の循環路を経ることなく、培養液内だけで一定方向に培養液を移動させる循環培養が成立している点にある。
当該細胞培養装置には、厳密には、スターラー本体駆動装置が外部に付帯するが、マグネチックスターラーを用いる場合には、回転子は機械的に接続されていないため、実質的に、培養槽内だけの循環培養装置と見なすことが可能である。
また、スターラー本体駆動装置を含めても、装置全体がコンパクトであるため、スターラー本体駆動装置を含めた装置全体を、炭酸ガスインキュベータや恒温培養器など、種々の装置の槽内へそのまま配置することも可能である。
特に、流体送り装置の第一態様のなかでも、培養液を水平方向に吸入し水平方向に吐出するものは、薄くコンパクトな構造であるため、これに水平な培養管路を組み合わせると、図9、図10に示すように、シャーレ(ペトリ皿)やウェルといった極めて浅い皿状の培養槽50内で水平に培養液を循環させることが可能となる。流体送りの駆動に関する外界との機械的な接続は何も無く、薄く小径のシャーレの内部だけで、三次元細胞培養が行なわれる。
【0035】
また、流体送り装置の第二態様であっても、吸入口に水平な培養管路を接続すれば、比較的浅い培養槽中で循環する3次元細胞培養が可能となる。
また、流体送り装置の第一態様、第二態様であっても、回転子の回転姿勢や、吸入口、吐出口の取り方によっては、垂直方向の吐出や吸入を利用することになる。よって、垂直方向に細長い培養管路・培養槽を用いて、全体として、例えば、試験管やメスシリンダーの如く縦に細長い細胞培養装置を構成することができる。図13(a)、(b)には、培養槽は図示していないが、流体送り装置と培養管路とによる鉛直方向に細長いユニットを、それに適合した形状の培養槽と組み合わせればよい。
また、いずれの態様でも、培養槽自体は、蓋の無い開放容器でよいので、気泡が発生しても槽内に溜まることがない。
また、栄養因子や酸素を含んだ培養液の一定方向への流れを発生させ、常に細胞や組織にこれらを供給することができる構造であるために、立体的環境下で問題となる、増殖因子、アミノ酸、酸素等の不可欠な培養成分の枯渇を抑えることができ、長期間の培養および細胞機能の維持が可能となる。
【0036】
培養管路の断面形状(流れの方向に垂直に切断したときの断面の形状)は、特に限定はされず、円形、方形、長円形などであってよいが、浅い培養槽を有効利用するには水平方向に平たい断面形状とすることが好ましい。
培養管路は、培養液が培地部材を一定方向に通過する点では、筒状の管路であることが好ましいが、培地培養液の循環を阻害しない部位については、上面(天井部分)などが開放されていてもよい。
断面形状が方形の場合の、該断面の好ましい寸法例を挙げると、管路幅0.1mm〜10mm、管路高さ0.1mm〜10mm程度がコンパクトである。
【0037】
図9、図10に示すような、水平方向に延在する細胞培養装置を構築する場合、流体送り装置の収容室の高さと、培養管路の高さとを、略同じとして、両者を一体的に形成すれば、構成が簡単になる。
またさらには、流体送り装置の収容室と、培養管路とを、培養槽と一体的に形成すれば、少なくとも床が共通となり構成が簡単になる。培養管路内への培養基材の配置や、流体送り装置内への回転子の配置は、天井を取外し可能な構造とすればよい。
【0038】
培養槽の槽内の形状は、流体送り装置と培養管路との組み立て体の大きさ、配置の向きにあわせて適当なものを選択すればよく、立方体状、直方体状、円柱状など、任意の容器を用いればよい。
図9、図10に示すような、水平方向に延在する細胞培養装置を構築する場合、流体送り装置のコンパクトさを生かすには、培養槽の槽内の形状は、内径5mm〜35mm、深さ5mm〜20mm程度の皿型の円柱状であれば、外周壁に沿った流れがスムーズとなり、また、浅いので観察や接写撮影も容易になり好ましい。
培養槽の液面高さは、特に限定されないが、流体送り装置の収容室の高さと培養管路の高さよりも、0mm〜30mm、特に1mm〜5mm程度高くなるように設定すればよい。
【0039】
培養管路の一方の端部(第一端部)は、流体送り装置の吸入口・吐出口のどちらに接続してもよい。
図9に示すように、培養管路Bの第一端部を、流体送り装置Aの吸入口に接続すれば、培養槽50内の培養液60は、培養管路Bの他方の端部(第二端部)から管内に入り、培養基材Mを通過し、第一端部から流体送り装置の収容室内に入り、吐出口から培養槽内に戻る。即ち、培養管路Bの出口で培養液を吸入する構成である。
一方、培養管路Bの第一端部を、流体送り装置Aの吐出口に接続すれば、培養槽内の培養液は、先ず、流体送り装置の吸入口から収容室内に入り、吐出口から培養管路内に入り、培養基材を経て、第二端部から培養槽内に戻る。即ち、培養管路Bの入口から培養液を送り込む構成である。
スキャフォールドなどの培養基材内を、均一な流速および流圧で培養液を流すという点からは、図9に示すように、培養管路Bを流体送り装置Aの吸入口に接続する態様が好ましい。
【0040】
上記したように、培養管路を直線状管路または屈曲状管路として、その管路を略水平に延在するように培養液中に配置することで、流体送り装置の第一態様と組み合わせれば、薄くコンパクトな3次元細胞培養装置を構成することができる。
図9は、直線状の培養管路Bと、図1の流体送り装置Aとを組み合わせ、これらをシャーレ状の薄い培養槽内に配置して構成した細胞培養装置を、上から見た図である。同図に培養液の流れを太い矢印で示すように、培養液は、薄い培養槽内を水平に好ましく循環している。
また、図10は、U字屈曲状の培養管路Bと、図4(b)の流体送り装置Aとを組み合わせ、図9の例と同様に、シャーレ状の薄い培養槽内に配置し、上から見た図である。同図の例でも、培養液は、薄い培養槽内を水平に好ましく循環している。
【0041】
図8〜10に示すように、培養管路B内には、培養基材Mが配置されている。
培養基材は、各種細胞・組織に適した足場材料となるものであればよく、公知のものが利用可能である。
また、培養基材は、培養中において、培養液が該培養基材(培養されている細胞が内部に含まれている)を通過し得るように培養管路内に配置されていればよい。培養液が培養基材を通過するとは、培養液が培養基材と管路との隙間を通過すること、および/または、培養液が培養基材内を通過することを意味する。特に、培養基材を多孔質の基材として構成し、培養液が培養基材内の隅々の細胞に接するように通過する態様が好ましい。
3次元培養可能な培養基材は、主として多孔質の部材であるため、本発明には好ましい基材である。
【0042】
本発明に利用可能な培養基材は、特に限定されず、接触面に細胞や組織を固定可能な多孔性担体や、中空糸などであってよい。より詳細には、セルロース、セラミックス、ウレタン、ポリスチレン、金属、ガラス、ポリプロピレン、コラーゲン、フィブロネクチン、ポリリジン、ラミン、デキストランなどが挙げられる。
培養される細胞は、通常、培養基材内(又は表面)に留まり、培養液はその細胞の周囲を通過する。
【0043】
本発明の細胞培養装置において培養可能な細胞は、特に限定されず、どの生物(原核生物、真核生物等)由来の細胞でもよい。また、細胞培養には、単なる細胞の培養だけでなく、組織や臓器の培養も含まれる。
原核生物としては、大腸菌等の細菌等が挙げられる。真核生物としては、真菌(酵母(分裂酵母、発芽酵母等)等)、植物(単子葉植物、双子葉植物等)、動物(無脊椎動物、脊椎動物等)等が挙げられる。無脊椎動物としては、甲殻類(昆虫等)等が挙げられる。脊椎動物としては、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物等が挙げられる。
【0044】
本発明において利用可能な培養液に限定はなく、上記培養基材と組合わせて所望の細胞を培養可能なものを適宜選択することができる。例えば、本発明の細胞培養装置を用いて哺乳動物細胞を培養する際には、自体公知の培養液、例えばDMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、M−199、HAM等を用いることが出来る。培養液には、適宜自体公知の添加物(血清、成長因子、抗生物質、緩衝剤、還元剤等)を加えてもよい。
【0045】
本発明による細胞培養装置の用途に限定はないが、例えば、細胞の高機能化を目的とした培養、医療用タンパク質などの物質生産を目的とした培養、胚性幹細胞の培養、組織培養、細胞や組織の形態観察を目的とした培養、試験・検査を目的とした培養、抗ガン物質や抗酸化物質のスクリーニングアッセイ、その他、酸素反応試験、核酸やタンパク質などの生体分子を含む化合物の相互作用試験、物質の精製、化合物の合成など、種々の目的に用いてよい。
【0046】
図11に示すように、スターラー本体駆動装置Sを、流体送り装置の収容室の上側に配置して、上側からの磁界で回転子1を回転させる構成とし、培養槽50の下側に撮影用カメラ(例えば、CCDカメラなど)Vを配置すれば、培養管路内の培養基材を下側から撮影することが可能となる。
下側からの撮影の利点は、対物レンズと対象物(細胞など)との間の距離(作動距離)を短くすることができるため、上側から観察する際に必要である培養液除去を行わずに、低倍率から高倍率のレンズを用いて、細胞の観察ができるという点にある。
【0047】
図12に示すように、1つのスターラー本体駆動装置Sのステージ上で複数の回転子を同時に回転させ得るものを用いれば、図9、10に示したユニット〔流体送り装置と培養管路とが接続された状態で培養槽50の培養液中に浸漬された構成を有するユニット〕Uを、前記スターラー本体駆動装置S上に複数配置して、1台の共通スターラー本体駆動装置によって複数のユニットUを稼動させることができ、狭いスペースでも、多種の試料を同時に並列処理することが可能になる。図12は、6穴のウエル50をそれぞれ培養槽として用い、スターラー本体駆動装置S上に配置した構成例である。図では、左端上のユニットだけ、内部を示している。
【実施例】
【0048】
本実施例では、図9に示す細胞培養装置を実際に構築し、細胞培養が可能であるかどうかを観察した。
スターラーは、1つのステージ上で6つの回転子を同時に回転させることが可能なマグネチックスターラーを用いた。装置の各部の仕様は次のとおりである。
回転子の形状と寸法:断面方形の長尺棒、全長2.5mm
スターラーの回転数:毎分30回転
収容室の形状と寸法:円柱形(直径4.0mmの円形床、高さ(厚さ)2mm
培養管路の断面形状と長さ:断面形状(幅2.0mm×高さ2mmの正方形)、管路の全長15mm
ウエルの形状と寸法:6穴の円筒状ウェルプレート(内径35mm、深さ20mm)
培養すべき細胞:CHO細胞
培養基材の材料:セラミックス
培養液の組成:DMEM+10%FBS
【0049】
培養装置全体を37℃に保った状態で、回転子を回転させ、CHO細胞の培養状態を観察したところ、当該細胞培養装置によって、CHO細胞を好ましく培養し得ることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上記のとおり、本発明による流体送り装置は回転子と管路とを組み合わせただけの簡単な構成を有するので、ウエルプレートの如き小型の培養槽内で還流培養が可能になる。
【0051】
様々な細胞種に対する三次元培養技術は、細胞自身が持つ組織形成能力や修復能力、または医療用タンパク質などの物質生産能力などを飛躍的に向上させることができるため、基礎研究から先端医療研究まで多くの研究分野において注目されている。
従来の大型で高価な三次元培養装置は、医療用タンパク質生産細胞などの特定の細胞種に対して開発されたものであり、大学や企業で三次元培養技術を駆使した研究を進めていくためには、適当ではない。
これに対して、本発明による細胞培養装置は、従来のものと比べ、高価な機器類を必要とせず、小型化による並列配置によって大量の試験処理が可能であり、培養時の細胞形態観察が可能など、優れた上記特徴を持っているため、三次元培養技術の発展に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による流体送り装置の第一態様の一例を示す模式図であって、装置の内部構造および動作原理を概略的に示している。
【図2】図1の流体送り装置の構成を、より分かり易く示した斜視図である。
【図3】本発明による流体送り装置の構成、特に、回転子と収容室との寸法関係を説明する図である。
【図4】本発明による流体送り装置の収容室の構成例を示した図である。
【図5】本発明による流体送り装置の収容室の構成例、回転子の構成例を示した図である。
【図6】本発明による流体送り装置の第二態様の一例を示す斜視図と断面図である。
【図7】第二態様に用いられる回転子の態様例を示した図である。
【図8】マグネチックスターラーの装置構成例(図8(a))、および、本発明による細胞培養装置の構成例(図8(b))を示した図である。
【図9】本発明による細胞培養装置の構成例を示した模式図であって、直線状の培養管路と、図1の流体送り装置とを組み合わせ、これらをシャーレ状の薄い培養槽内に配置して構成した装置を、上から見た図である。
【図10】本発明による細胞培養装置の他の構成例を示した模式図であって、U字屈曲状の培養管路Bと、図4(b)の流体送り装置とを組み合わせ、これらをシャーレ状の薄い培養槽内に配置し、上から見た図である。
【図11】本発明による細胞培養装置の他の構成例を示した模式図である。
【図12】本発明による細胞培養装置の他の構成例を示した模式図である。
【図13】本発明による流体送り装置の第二態様を用いて構成した細胞培養装置の構成例を示した模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 回転子
2 収容室
3 吸入口
4 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スターラーの回転子が回転可能に収容された収容室を有し、該収容室には、流体を出入りさせるための吸入口と吐出口とが設けられており、
吸入口よりも、吐出口の方が、収容室に対する開口面積が大きいものとされ、この開口面積の大小によって、回転子を回転させたときに、収容室外の流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が生じるものである、
流体送り装置。
【請求項2】
吸入口と吐出口とが、いずれも、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられている、請求項1記載の流体送り装置。
【請求項3】
吸入口と吐出口とが、回転子の回転中心を中心として、180°開いた位置関係となるように設けられている、請求項2記載の流体送り装置。
【請求項4】
吸入口と吐出口とが、回転子の回転中心を中心として、90°開いた位置関係となるように設けられている、請求項2記載の流体送り装置。
【請求項5】
吸入口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、請求項1記載の流体送り装置。
【請求項6】
吐出口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吸入口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、請求項1記載の流体送り装置。
【請求項7】
吸入口が、回転子の回転軸の一方の方向に在る壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の他方の方向に在る壁に設けられている、請求項1記載の流体送り装置。
【請求項8】
回転子の形状が、該回転子を回転させたときにその回転軸の方向へと流体を向わせる形状であって、この回転子の形状によって、回転子を回転させたときに、収容室外の流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が、さらに加えられるものである、請求項5〜7のいずれかに記載の流体送り装置。
【請求項9】
スターラーの回転子が、水平回転可能に収容室に収容されている、請求項1〜8のいずれかに記載の流体送り装置。
【請求項10】
スターラーがマグネチックスターラーであって、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって回転するものである、請求項1〜9のいずれかに記載の流体送り装置。
【請求項11】
スターラーの回転子が回転可能に収容された収容室を有し、該収容室には、流体を出入りさせるための吸入口と吐出口とが設けられ、
回転子の形状は、該回転子を回転させたときに流体を吐出口の方向へ向わせる形状とされ、それによって、回転子を回転させたときに、収容室外の流体が吸入口から収容室内に流入し吐出口から収容室外に流出する流体送り作用が生じるものである、
流体送り装置。
【請求項12】
吸入口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、請求項11記載の流体送り装置。
【請求項13】
吐出口が、回転子の回転によって描かれる回転円を取り巻く外周壁に設けられ、吸入口が、回転子の回転軸の方向に在る壁に設けられている、請求項11記載の流体送り装置。
【請求項14】
吸入口が、回転子の回転軸の一方の方向に在る壁に設けられ、吐出口が、回転子の回転軸の他方の方向に在る壁に設けられている、請求項11記載の流体送り装置。
【請求項15】
スターラーの回転子が、水平回転可能に収容室に収容されている、請求項11〜14のいずれかに記載の流体送り装置。
【請求項16】
スターラーがマグネチックスターラーであって、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって回転するものである、請求項11〜15のいずれかに記載の流体送り装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の流体送り装置を用いて構成された細胞培養装置であって、
培養槽に収容された培養液中に、前記流体送り装置と培養管路とが接続された状態で浸漬され、
培養管路内には培養基材が配置されており、培養管路の一端部である第一端部が流体送り装置の吸入口または吐出口に接続され、培養管路の他端部である第二端部が培養液中に開口しており、
前記流体送り装置の流体送り作用によって、培養液が培養管路を通過する構成とされていることを特徴とする、細胞培養装置。
【請求項18】
培養管路の第一端部が、流体送り装置の吸入口に接続されており、それによって、培養槽内の培養液が、第二端部から培養管路内に入り、培養基材を経て、第一端部から流体送り装置の収容室内に入り、吐出口から培養槽内に戻る構成とされている、請求項17記載の細胞培養装置。
【請求項19】
培養管路の第一端部が、流体送り装置の吐出口に接続されており、それによって、培養槽内の培養液が、吸入口から流体送り装置の収容室内に入り、吐出口から培養管路内に入り、培養基材を経て、第二端部から培養槽内に戻る構成とされている、請求項17記載の細胞培養装置。
【請求項20】
流体送り装置が、請求項2〜4のいずれかに記載の流体送り装置であって、培養管路が略水平に延びるように培養液中に配置されており、
流体送り装置の収容室の高さと、培養管路の高さとが、略同じであって、これらの高さよりも、培養槽の液面高さが、0mm〜10mmだけ高くなるように設定されている、請求項17〜19のいずれかに記載の細胞培養装置。
【請求項21】
培養槽の槽内の形状が、内径5mm〜100mm、深さ5mm〜20mmの皿型円柱状である、請求項20記載の細胞培養装置。
【請求項22】
培養管路が、直線状管路または屈曲状管路であって、その管路が略水平に延びるように培養液中に配置されている、請求項17〜21のいずれかに記載の細胞培養装置。
【請求項23】
流体送り装置のスターラーがマグネチックスターラーであり、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって水平回転するものであって、
培養管路は、直線状管路または屈曲状管路であって、その管路が略水平に延びるように培養液中に配置されており、
該スターラー本体駆動装置が流体送り装置の収容室の上側に配置され、培養槽の下側には撮影用カメラが配置され、培養管路内の培養基材を下側から撮影し得る構成とされている、請求項17〜22のいずれかに記載の細胞培養装置。
【請求項24】
細胞培養装置に含まれる流体送り装置のスターラーがマグネチックスターラーであり、回転子が、収容室外に配置されたスターラー本体駆動装置から発せられる磁気の作用によって水平回転するものであって、
該スターラー本体駆動装置は、1台で、複数の回転子を回転させ得るように構成されたものであり、
上記流体送り装置と上記培養管路とが接続された状態で培養槽内に配置された構成を有するユニットが、前記スターラー本体駆動装置上に複数配置され、1台のスターラー本体駆動装置によって前記複数のユニットが稼動する構成とされている、請求項17〜23のいずれかに記載の細胞培養装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2006−320218(P2006−320218A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144456(P2005−144456)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(592250746)株式会社アステック (5)
【Fターム(参考)】