説明

流動化処理土の製造方法

【課題】主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土における、発生土の物理特性のばらつきに伴う流動化処理土の品質の変動を抑制することができ、容易に一定の品質を確保することができる流動化処理土の製造方法を提供する。
【解決手段】主に砂質土により構成される発生土と、水または泥水と、固化材とがそれぞれ所定の配合量により配合される流動化処理土の製造方法であって、前記所定の配合量により配合される水または泥水とは別の水が加えられる加水工程と、所望のブリーディング率が得られる配合量の石こうが加えられる石こう添加工程とを有したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動化処理土の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流動化処理土とは、建設現場において発生する建設発生土や建設汚泥などの様々な種類の土(発生土)を主材料として、この主材料に所定の配分の水または泥水を加えて作製した泥状土に、セメントなどの固化材を所定の配分で加えて混練することにより製造されるものであり、構造物の埋め戻しや裏込め、地中の空洞の充填などに使用される土工材料である。
【0003】
この発生土は、その成分中に礫(レキ)(粒径2〜75mm)や砂(粒径0.074〜2mm)などの粗粒分に分類される土粒子や、シルト(粒径0.005〜0.074mm)や粘土(粒径0.005mm以下)などの細粒分に分類される土粒子を含んでいる。
【0004】
この流動化処理土は、リサイクルの観点から建設副産物である発生土を、そのまま主材料として用いるので、この発生土は当然規格化できるようなものではなかった。そして、発生土は、その採取場所によっては複数種類の土粒子が交じり合うなど、その物理特性にばらつきがあるものであった。この発生土の物理特性のばらつきを少なくし均一化することは容易にできることではなく、大掛かりな設備や多大な労力等を必要とするものであった。
【0005】
従来の土工材料には流動化処理土と同様に、建設現場において発生した発生土を利用して、この発生土にセメント系や石灰系などの固化材を加えて作製する固化処理土があった(例えば、非特許文献1参照)。この固化処理土は、発生土に固化材を加えることにより、土の強度、安定性、耐久性を向上させるものであった。
【0006】
この従来の固化処理土は、予め採取した発生土を試料として、セメント協会標準試験方法「セメント系固化材による安定処理土の試験方法(JCAS−L01)」などに準拠した室内配合試験が実施されていた。この室内配合試験において、発生土が採取された地盤に最適な固化材の選択と、予め設計計算などにより設定されている要求品質を満たす発生土に加える固化材の量の決定がされるようになっていた。
【0007】
そして、従来の固化処理土に要求される品質は、一軸圧縮強さ(強度)であり、室内配合試験において実施される一軸圧縮試験により要求する一軸圧縮強さの下限値に相当する固化材の量を発生土に加える量としていた。そして、この室内配合試験の結果に基づいて、発生土に固化材が加えられることにより、固化処理土は作製されるようになっていた(室内配合)。
【0008】
この室内配合により作製された固化処理土は建設現場においてそのまま使用されるものではなく、土のばらつきなどの建設現場で環境が変化してもなお要求品質を満足するため、建設現場においては予め室内配合時と建設現場での強度比を考慮して、室内配合で求めた固化材の量に、さらに固化材を割増(わりまし)して加える「現場配合」の固化処理土が作製され、用いられていた。
【0009】
このため、従来の固化処理土は、このような「室内配合」に固化材を割増して加える固化材割増配合(現場配合)により、発生土の物理特性のばらつきに対しても最低限の強度を確保することができるようになっていた。
【0010】
一方、発生土に所定の配分の水または泥水や固化材を加えて作製する従来の流動化処理土においては、従来の固化処理土のような「室内配合」に固化材を割増して加える方法は行われていなかった。
【0011】
その理由としては、上記従来の固化処理土は、その配合設計において要求される品質として一軸圧縮強さ(強度)のみが規定されているのに対して、従来の流動化処理土は、埋め戻し・裏込め・充填材として使用されるものであるため、その配合設計において要求される品質として一軸圧縮強さ(強度)の他に、湿潤密度、ブリーディング率(耐材料分離性)、フロー値(流動性)の3つも合わせて規定されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0012】
このため、従来の流動化処理土においては、予め採取した発生土を試料として、例えば、非特許文献2の第55頁の図―3.2に示すような手順による配合試験により、要求品質である一軸圧縮強さ、湿潤密度、ブリーディング率、フロー値を満たす発生土、水または泥水及び固化材の量、並びに湿潤密度調整のための粗粒土の添加率が求められていた(標準配合)。
【0013】
この「標準配合」により作製された流動化処理土に、上記従来の固化処理土のような「室内配合」に固化材を割増して加える「現場配合」により流動化処理土を作製したとしても、流動化処理土において要求される品質の内、流動性や耐材料分離性といった強度に相反する品質が要求を満たさなくなり、規格外品が多く発生してしまうという問題があった。
【0014】
よって、従来の流動化処理土においては、従来の固化処理土のような「室内配合」に固化材を割増して加える方法では、発生土の物理特性のばらつきに対応することができない。
【0015】
従来の流動化処理土においては、室内試験で求めた「標準配合」の配分の水または泥水や固化材を発生土に加えて流動化処理土を作製していた。この流動化処理土の作製時における水または泥水、固化材の添加方法は、発生土が細粒土と粗粒土のいずれを多く含むかによって異なるものであった。
【0016】
すなわち、発生土が主に粗粒土により構成される場合には、発生土に水または泥水と固化材を同時に添加して、撹拌混合することにより作製した流動化処理土を、そのまま現場において使用していた。
【0017】
一方、発生土が主に細粒土により構成される場合には、発生土に水を添加し、混合して泥状土を製造した後に、その泥状土に固化材を添加して、撹拌混合することにより作製した流動化処理土を、そのまま現場において使用していた。
【0018】
そして、流動化処理土の製造中に、発生土の物性値が変化し、流動化処理土の品質にばらつきが生じた際には、そのばらつきに応じて、その都度水または泥水の量などを増減する、「標準配合」に修正を加えて一定の要求品質を確保すべく流動化処理土の配合量の調整を行う必要があった。
【0019】
このため、従来の流動化処理土は、発生土に水または泥水を加えて作製した泥状土の湿潤密度または粘性を一定範囲に管理する湿潤密度管理方法または粘性管理方法などの製造管理方法により、流動化処理土の品質を安定化しようとしていた(例えば、特許文献1参照、非特許文献2の第75頁参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平6−344328号公報
【特許文献2】特開2007−211209号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】社団法人セメント協会編「セメント系固化材による地盤改良マニュアル第3版」 技報堂出版株式会社、2010年4月15日発行,P.46〜48
【非特許文献2】独立行政法人土木研究所/株式会社流動化処理工法総合監理編「流動化処理土利用技術マニュアル〈平成19年/第2版〉」、2008年2月1日発行,P.6〜8、P.49〜58
【非特許文献3】「原料土の含水比低下に伴う処理土の配合修正に関する一考察」、土木学会第56回年次学術講演会(平成13年10月)
【非特許文献4】「調整泥水式流動化処理土の諸特性に及ぼす細粒分含有率の影響」、土木学会第54回年次学術講演会(平成11年9月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、従来の流動化処理土の製造管理方法では、主に砂質土により構成される発生土を主材料として作製する流動化処理土においては、次のような問題があった。
【0023】
すなわち、流動化処理土の主材料である発生土には、建設現場の掘削土が用いられるので、発生土の物理特性のばらつきが大きいという問題がある。そして、発生土の物理試験はその結果が得られるまで通常2〜3日を必要とするので、発生土の物理特性のばらつきに迅速に対応することができないという問題がある。
【0024】
さらに、主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土は、主に粘性土により構成される発生土を主材料として作製された流動化処理土と比較すると、水分量が少ないという特徴がある。このため、主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土は、僅かな水分量の差であっても品質に大きな影響を及ぼす。
【0025】
また、流動化処理土は、泥状土の湿潤密度を一定範囲に管理する密度管理をしても、土の含水比によって粘性が変化し、流動化処理土の品質に影響を及ぼすことと、流動化処理土中の細粒分含有率の影響を受けることが明らかになっている。(非特許文献3,4参照)。
【0026】
このため、泥状土の湿潤密度を一定範囲に管理する密度管理方法は、発生土の物理特性が変動するような場合には、湿潤密度を一定範囲に管理しても、流動化処理土の品質が安定しないことが明らかになっている。施工実績から判断すると、泥状土の細粒分含有率が概ね5〜8%程度変化する場合には、湿潤密度の調整だけでは所定の品質の確保が困難になるとされている(非特許文献2の第75頁参照)。
【0027】
よって、泥状土の湿潤密度を一定範囲に管理する密度管理方法は、土の物理特性(特に含水比や細粒分含有率)にばらつきがある場合には適用することはできない。
【0028】
また、主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土は、発生土に水または泥水を混合することにより作製される泥状土の粘性が小さいため、短時間で土粒子が沈降してしまい、材料分離が大きいという特徴がある。
【0029】
このため、主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土は、一般的に用いられるプレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験またはロート試験(JSCE−F521−1994)、若しくはエアモルタル及びエアミルクの試験方法(JHS A 313−1992 シリンダ法)により、泥状土の粘性を一定範囲に管理する粘性管理をしても、材料分離に伴う試験誤差が大きく、測定精度が悪いために、土の物理特性にばらつきがある場合には粘性管理を適用することはできない。
【0030】
したがって、従来の主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土において、発生土の物理特性が変動した場合に、それによる流動化処理土の品質のばらつきを抑制する有効な方法は確立されておらず、流動化処理土の一定品質の確保を容易にすることができないという問題があった。
【0031】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みて、
主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土における、発生土の物理特性のばらつきに伴う流動化処理土の品質の変動を抑制することができ、容易に一定の品質を確保することができる流動化処理土の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記課題を解決するために、本発明は、
主に砂質土により構成される発生土と、水または泥水と、固化材とがそれぞれ所定の配合量により配合される流動化処理土の製造方法であって、
前記所定の配合量により配合される水または泥水とは別の水が加えられる加水工程と、
所望のブリーディング率が得られる配合量の石こうが加えられる石こう添加工程とを有したことを特徴とするものである。
【0033】
また、本発明により流動化処理土の製造方法は、
前記加水工程において加えられる前記所定の配合量により配合される流動化処理土に対する水の量は8〜20kg/mであることを特徴とするものである。
【0034】
また、本発明により流動化処理土の製造方法は、
前記石こう添加工程において加えられる石こうの量は、前記加水工程を経た後の流動化処理土についてブリーディング試験が行われ、該ブリーディング試験の結果に基づいて一義的に定まることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0035】
このような本発明によれば、
主に砂質土により構成される発生土と、水または泥水と、固化材とがそれぞれ所定の配合量により配合される流動化処理土の製造方法であって、
前記所定の配合量により配合される水または泥水とは別の水が加えられる加水工程と、
所望のブリーディング率が得られる配合量の石こうが加えられる石こう添加工程とを有したことにより、
主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土における、発生土の物理特性のばらつきに伴う流動化処理土の品質の変動を抑制することができ、容易に一定の品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法を示す概念図である。
【図2】流動化処理土の細粒分含有率Fcのばらつきを説明するための概念図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法における、発生土に対する加水量と、フロー値との相関を示す線図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法における、加水量/細粒土湿潤重量比とブリーディング率との相関を示す線図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法における、石こう添加量とブリーディング率との相関を示す線図である。
【図6】「標準配合」の流動化処理土の品質試験結果である。
【図7】「標準配合」の流動化処理土に石こうを加えたときの品質試験結果である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る、「標準配合」の流動化処理土に水及び石こうを加えた流動化処理土の品質試験結果である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る流動化処理土であって、「標準配合」のもの、「標準配合」に石こうを加えたもの、「標準配合」に水及び石こうを加えたものそれぞれについて、細粒分含有率Fcと一軸圧縮強さとの相関を示す線図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る流動化処理土であって、「標準配合」のもの、「標準配合」に石こうを加えたもの、「標準配合」に水及び石こうを加えたものそれぞれについて、細粒分含有率Fcとブリーディング率との相関を示す線図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る流動化処理土であって、「標準配合」のもの、「標準配合」に石こうを加えたもの、「標準配合」に水及び石こうを加えたものそれぞれについて、細粒分含有率Fcとフロー値との相関を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る流動化処理土の製造方法を実施するための形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
【0038】
図1から図11は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法について説明するために参照する図である。
【0039】
本実施の形態に係る流動化処理土の製造方法は、図1に示すように、その要求品質を満たすように、主に砂質土により構成されている発生土と、水または泥水と、固化材が所定配合量により配合される「標準配合」の流動化処理土に、上記「標準配合」により配合される水または泥水とは別の水を加える工程(図1における加水工程)と、石こうを添加する工程(図1における石こう添加工程)とを有するものである。
【0040】
すなわち、本実施の形態に係る流動化処理土は、所定量の発生土に、「標準配合」の配合量の水または泥水と固化材の他に、水と石こうを添加して、撹拌混合することにより、作製されるものである。後述するように、添加する水は、フロー値の変動に対応するために割増した量添加され、添加する石こうは、水の増加によるブリーディング率の増加を抑制するために必要な量添加される。
【0041】
本実施の形態に係る流動化処理土の流動化処理土の製造方法は、発生土の物理特性のばらつきの内、特に土の粒度構成、すなわち細粒分含有率Fcのばらつきに着目したものである。ここで、細粒分含有率Fcとは、粒径0.074mm以下の細粒分と、粒径0.074〜75mmの粗粒分を含む全土粒子中において、細粒分が占める割合を表す指標であり、細粒分の乾燥重量を全土粒子の乾燥重量で除することにより求められる。
【0042】
主に砂質土により構成される発生土の物理特性が同一であるならば、発生土と水または泥水と固化材の割合を一定に保ちさえすれば、一定品質の流動化処理土を作製することができるようになっている。
【0043】
しかし、発生土と水または泥水と固化材の割合を一定に保ったとしても、発生土の細粒分含有率Fcが増減すると、一定品質の流動化処理土を作製することはできない。これは、流動化処理土の細粒土と水から構成される細粒分泥水の密度、及び水と固化材の重量比W/Cが変化することが原因である。
【0044】
図2には、発生土と水と固化材の各重量を一定の割合にした「標準配合」の流動化処理土を基準として、合わせて発生土の細粒分含有率Fcが増加する場合と減少する場合の流動化処理土の構成を示すものである。同図には発生土の語はないが、細粒土と、粗粒土と、水の一部が発生土を構成しているものとする。
【0045】
図2中右側に示すように、発生土の細粒分含有率Fcが増加する場合は、水に対して細粒土の割合が相対的に大きくなるため、流動化処理土の粘性が増加する。このため、流動化処理土のフロー値とブリーディング率が減少して、その分流動化処理土の強度が大きくなる。
【0046】
図2中左側に示すように、発生土の細粒分含有率Fcが減少する場合は、水に対して細粒土の割合が相対的に小さくなるため、流動化処理土の粘性が減少する。このため、流動化処理土のフロー値とブリーディング率が増加して、その分流動化処理土の強度が小さくなる。
【0047】
したがって、発生土と水と固化材の割合を一定の配合にして流動化処理土を作製したとしても、発生土の細粒分含有率Fcが変化すると、一定品質の流動化処理土を得ることができるようにはなっていない。
よって、流動化処理土の品質を安定させるためには、各材料の構成比率が一定になっていればよい。
【0048】
すなわち、細粒分含有率Fcが増加する場合に対処するためには、細粒土に対して水の構成比率が小さいため、水を割増して加えることにより、フロー値とブリーディング率の減少、及び強度の増加を抑制すればよい。
【0049】
また、細粒分含有率Fcが減少する場合に対処するためには、細粒土に対して水の構成比率が大きいため、石こうを添加することにより、余剰水を拘束して、フロー値とブリーディング率の増加、及び強度の低下を抑制すればよい。
【0050】
このため、本発明の流動化処理土の品質安定方法は、細粒分含有率Fcが増加する場合と細粒分含有率Fcが減少する場合の双方に対処することができるように、「標準配合」の流動化処理土に水と石こうを加えるようになっている。
【0051】
次に、「標準配合」の流動化処理土を作製する方法について説明する。
【0052】
流動化処理土の要求品質は、施工条件や流動化処理土の適用用途や適用箇所などが考慮の上、設定されている。この要求品質には、一軸圧縮強度や処理土の湿潤密度(強度)、フロー値(流動性)及びブリーディング率(材料分離性)が含まれている。
【0053】
そして、室内試験において、主に砂質土により構成される発生土と、水または泥水と、固化材それぞれの重量比率を変更した複数の組合せを作製する。
【0054】
そして、これら複数の組合せについて、流動化処理土の要求品質について試験が行われることにより、要求品質を満たす最適な組合せである「標準配合」が決定される。
【0055】
この要求品質についての試験は、例えば、非特許文献2のP.55の図―3.2に示すような手順により行われる。
【0056】
ここで、一軸圧縮強度は、直径50mm,長さ100mmのモールドで供試体を3本作製し、原則として所定の期間(通常は28日)養生した後において、一軸圧縮試験を行うことにより求められる。この養生のための期間は、簡略的にもっと短い期間に置換えることもできる。
【0057】
また、フロー値は、旧日本道路公団規格(シリンダー法 JHS A−313)を準用するものであり、内径80mm、高さ80mmであって、両端面が開放された筒体を板上に載置して、この筒体内に流動化処理土を充填した後に、筒体を静かに上方に引上げることにより板上に広がった流動化処理土について、その最大の径の長さと、この最大の径の方向と直角方向の径の長さとを測定し、両者を平均して求めた数値をいう。このフロー値は、流動性の指標となるものであり、その数値が大きいほど、流動化処理土が流動性を有していることを表す。
【0058】
また、ブリーディング率は、土木学会基準(プレパクトコンクリートの注入モルタルのブリーディング試験 JSCE−F522)を準用するものであって、流動化処理土の元の体積に対する、この流動化処理土から一定時間(例えば3時間)経過後に分離して上層にたまる余剰水量の比率をいう。このブリーディング率は、材料分離性の指標となるものであり、その数値が大きいほど、流動化処理土が材料ごとに分離しやすいことを表す。
【0059】
この最適な組合せである「標準配合」に基づいて、発生土と水または泥水と固化材の割合を一定にして作製された流動化処理土のフロー値、ブリーディング率、一軸圧縮強さを測定する。
【0060】
次に、この「標準配合」に基づいて、発生土と水または泥水と固化材の割合を一定にした流動化処理土に8〜20kg/mの水が加えられる。
【0061】
ここで、「標準配合」の流動化処理土に加えられる最小量8kg/mの水は、細粒分含有率Fcのばらつきに関係するものではなく、後述する石こうを加えた直後に、流動化処理土のフロー値が低下するのを抑制するために加えられる。
【0062】
また、「標準配合」の流動化処理土に加えられる最大量20kg/mの水は、「標準配合」を求める室内試験などの結果により、土の物理特性の変化が比較的大きいものであると想定される場合に添加されるものである。この加えられる水の最大量20kg/mは、以下のようにして求められている。
【0063】
図3は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土について、発生土に加えた水の量である加水量とフロー値との相関を示す線図である。同図に示すように、加水量とフロー値は比例関係にあることがわかる。
【0064】
ここで、発生土と水または泥水と固化材の割合を一定にして作製された流動化処理土のフロー値の変動は、概ね±50mmの範囲内でばらつくことが、これまでの実施の経験からわかっている。
【0065】
このため、図3において、例えば流動化処理土のフロー値の中心が250mmであるとすると、流動化処理土のフロー値は、200mm〜300mmの間で変動する可能性がある。
【0066】
このように流動化処理土のフロー値が200mm〜300mmの間で変動すると、フロー値が最も不足するのは、フロー値の変動幅の最低値である200mmであるので、この最低値である200mmからその変動幅中心の250mmの値に上昇させるために必要な水の量は、図示されている線図の加水量から約20kgであることが分かる。
【0067】
ここで、流動化処理土内の水分は、それぞれの機能により、非拘束水である自由水、物理的に拘束される拘束水、化学結合により結晶中に含まれる結晶水などに分類することができ、それぞれ流動化処理土の品質に及ぼす影響が異なる。
【0068】
流動化処理土のフロー値の減少は、粘性増加に起因するものであり、流動化処理土中の拘束水が増加し、自由水が減少していることによるものである。このため、フロー値が小さい場合には、水を加えて自由水の役割をさせて、細粒分泥水の粘性を低下させることが必要になってくる。
【0069】
したがって、想定される発生土の物理特性のばらつきに応じて、8〜20kg/mの範囲内で加水量を選択すればよい。
【0070】
図4は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土について、加水量/細粒土湿潤重量比とブリーディング率との相関を示す線図である。この線図で用いるC/Sにおいて、Cは粘土の量、Sはシルトの量を表し、C/Sは粘土とシルトの量の比率を表している。
【0071】
図4に示すように、流動化処理土に含まれる粘土とシルトの量の比率に関係なく、加水量/細粒土湿潤重量比が増加すると、ブリーディング率も併せて増加するようになっている。
【0072】
また、「標準配合」の流動化処理土に水を加えると、当然加水量/細粒土湿潤重量比も水を加えた分だけ大きくなる。
【0073】
よって、「標準配合」の流動化処理土に水を加えると、加水量/細粒土湿潤重量比も増加し、併せてブリーディング率の増加も増加するようになる。このため、「標準配合」に水が加えられた流動化処理土が要求品質を満たすためには、ブリーディング率の増加を抑制する必要が生じる。
【0074】
そこで、細粒分含有率Fcの減少や、「標準配合」の流動化処理土に水を加えることによる、ブリーディング率の増加を抑制するために、「標準配合」に水が加えられた流動化処理土に所定量の石こうが加えられる。
【0075】
「標準配合」に水が加えられた流動化処理土に加えられる石こうの量は、「標準配合」に水が加えられた後の流動化処理土を採取して試料を作製し、その試料についてブリーディング試験を行なって、ブリーディング率を測定する。
【0076】
この流動化処理土に加えられる石こうの量は、発生土の土質や「標準配合」に加えられる水の量によってブリーディング抑制効果が異なることから、「標準配合」に水が加えられた後の流動化処理土についてその都度ブリーディング試験を行い、石こう添加量とブリーディング率との関係性を求めたほうが望ましい。
【0077】
図5は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土における、石こう添加量とブリーディング率との相関を示す線図である。
【0078】
図5に示すような石こう添加量とブリーディング率の関係から、所望のブリーディング率(例えば1%)に相当する石こうの量が一義的に定まり、この一義的に定まる石こうの量が、所望のブリーディング率を実現するために流動化処理土に加えられる石こうの量となる。
【0079】
ここで、「標準配合」に水が加えられた流動化処理土に石こうを加えるのは、特許文献2の第5頁及び第6頁に記載されているように、流動化処理土に石こうを添加しても流動化処理土のフロー値や一軸圧縮強度に与える影響が少なく、ブリーディング率の増加を抑制する効果のみが顕著だからである。
【0080】
また、流動化処理土に石こうを添加することにより、流動化処理土内に余剰水として存在する自由水を拘束水に転換させることでき、流動化処理土内の自由水を減少させ、細粒分泥水の粘性を低下させることができるようになっている。
【0081】
図6から図11は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法により作製された、流動化処理土の効果について説明するために参照する図である。
【0082】
図6には、「標準配合」にて作製された流動化処理土であって、互いに細粒分含有率Fcが異なる2つの試料1,2について、品質試験を実施して一軸圧縮強さ、フロー値、ブリーディング率を求めた実験結果を示している。
【0083】
図7には、「標準配合」に石こうを添加して作製された流動化処理土であって、それぞれの細粒分含有率Fcが異なる4つの試料3〜6について、品質試験を実施して一軸圧縮強さ、フロー値、ブリーディング率を求めた実験結果を示している。
【0084】
この「標準配合」に石こうを添加して作製された流動化処理土は、図6の「標準配合」にて作製された流動化処理土と、後述する図8の「標準配合」に水と石こうを添加した本発明の流動化処理土の製造方法により作製された流動化処理土との比較のため作製したものである。
【0085】
図8には、「標準配合」に水と石こうを添加して作製される流動化処理土であって、それぞれの細粒分含有率Fcが異なる4つの試料7〜10について、品質試験を実施して一軸圧縮強さ、フロー値、ブリーディング率を求めた実験結果を示している。
【0086】
これら図6から図8の実験結果を、細粒分含有率Fcに対する一軸圧縮強さ、フロー値、ブリーディング率のそれぞれに分けて対比したものが、図9から図11の線図に示されている。
【0087】
図9は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土であって、「標準配合」のもの、「標準配合」に石こうを加えたもの、「標準配合」に水及び石こうを加えたものそれぞれについて、細粒分含有率Fcと一軸圧縮強さとの相関を示す線図である。
【0088】
図9に示すように、細粒分含有率Fcが変化したときの一軸圧縮強さの変化の度合いは、図中では、試料の結果を通る線分の傾きで表され、「標準配合」に石こうを加えた流動化処理土が最も傾きが大きく、「標準配合」に水及び石こうを加えた流動化処理土は、「標準配合」の流動化処理土とほぼ同程度の傾きか、より傾きが小さいものになっている。
【0089】
このため、「標準配合」に水及び石こうを加えた流動化処理土は、細粒分含有率Fcが変化しても、一軸圧縮強さが大きく変化するようなことはないことがわかる。
【0090】
図10は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土であって、「標準配合」のもの、「標準配合」に石こうを加えたもの、「標準配合」に水及び石こうを加えたものそれぞれについて、細粒分含有率Fcとブリーディング率との相関を示す線図である。
【0091】
図10に示すように、細粒分含有率Fcが変化したときのブリーディング率の変化の度合いは、図中では、試料の結果を通る線分の傾きで表され、「標準配合」に石こうを加えた流動化処理土が最も傾きが大きく、次に「標準配合」の流動化処理土の傾きが大きく、「標準配合」に水及び石こうを加えた流動化処理土は、最も傾きが小さくなっている。
また、「標準配合」に水及び石こうを加えた流動化処理土は、それぞれの試料において、ブリーディング率が低く表れている。
【0092】
このため、「標準配合」に水及び石こうを加えた流動化処理土は、細粒分含有率Fcが変化しても、ブリーディング率が大きく変化するようなことはないことがわかる。
【0093】
図11は、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土であって、「標準配合」のもの、「標準配合」に石こうを加えたもの、「標準配合」に水及び石こうを加えたものそれぞれについて、細粒分含有率Fcとフロー値との相関を示す線図である。
【0094】
図11に示すように、細粒分含有率Fcが変化したときのフロー値の変化の度合いは、図中では、試料の結果を通る線分の傾きで表され、「標準配合」に水及び石こうを加えた流動化処理土は、「標準配合」の流動化処理土や「標準配合」に石こうを加えた流動化処理土に比べて傾きが小さいことがわかる。
【0095】
このため、「標準配合」に水及び石こうを加えた流動化処理土は、細粒分含有率Fcが変化しても、フロー値が大きく変化するようなことはないことがわかる。
【0096】
このように「標準配合」に水と石こうが加えられて作製された流動化処理土においては、「標準配合」の流動化処理土や、「標準配合」に石こうを加えた流動化処理土に比べて、細粒分含有率Fcが変化しても、一軸圧縮強さ、ブリーディング率、フロー値が大きく変化するようなことはなく、安定したものになっている。
【0097】
このような本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法によれば、主に砂質土により構成される発生土を主材料とする流動化処理土における、発生土の物理特性のばらつきに伴う流動化処理土の品質の変動を抑制することができ、所定の品質を安定して確保することができる。
【0098】
また、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法においては、細粒分含有率Fcが異なる発生土においても広く所定の品質を確保することができるため、その使用可能な範囲が、従来のものに比べてより広いものになっている。このため、製造途中における配合試験の回数もより少ないものにすることができ、例え発生土の物理特性にばらつきが生じたとしても施工作業を継続することができるため、施工作業を迅速に行うことができる。
【0099】
また、製造過程における泥状土の管理をする必要もなく、泥状土の品質調節のための時間も必要なくなるため、流動化処理土の製造におけるサイクルタイムが短くなるため、その製造能力を向上させることができる。
【0100】
また、泥状土調節用の貯水槽などの設備が不要となるため、簡易な設備で流動化処理土を製造することができる。
【0101】
また、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法においては、その方法が簡単なものであり、流動化処理土の適用範囲が広いものであるため、流動化処理土の製造に不慣れな者であっても、容易に本方法を使用することができ、所定の品質の流動化処理土を製造して、作製された流動化処理土を用いて施工することができる。
【0102】
なお、本発明の一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法においては、「標準配合」の流動化処理土の構成中の水または泥水及び「標準配合」に加水される水の種類については特に具体的には言及していないが、水道用水、工業用水、河川・湖沼の水、海水、処理後の中水などを使用することができる。また、泥水、泥土等から分離除去された密度1.02以下の濁り水を使用することもできる。
【0103】
また、前記一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法においては、「標準配合」の流動化処理土の構成中の固化材の種類については特に具体的には言及していないが、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、セメント系固化材などの、セメントを主成分とする一般流通されているものであればどのようなものであってもよい。
【0104】
また、前記一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法においては、流動化処理土に加えられる石こうの種類については特に具体的には言及していないが、水和反応が期待できる半水石こうや無水石こうを主成分とするものであれば、どのような種類の石こうでもよい。
【0105】
また、前記一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法においては、非特許文献2の図―3.2に示すような手順により試験が行われることにより決定された「標準配合」の流動化処理土が用いられているが、要求品質を満たす流動化処理土であればどのような手順により試験をして決定された「標準配合」の流動化処理土を用いてもよい。
【0106】
また、前記一実施の形態に係る流動化処理土の製造方法においては、流動化処理土に加えられる石こうの量は、「標準配合」に水が加えられた後の流動化処理土についてその都度、ブリーディング試験を行うようになっていたが、予め細粒分含有率Fcの増減が見込まれ、水と石こうの添加する量を推定することができる場合には、水を加える加水工程と石こうを加える石こう添加工程とが同時に行われるようになっていてもよい。
【0107】
また、予め水と石こうを混合させたスリラー状のものを用意しておいてそれを「標準配合」の流動化処理土に添加するようにしてもよく、発生土に「標準配合」の配合量の水または泥水や固化材を添加する際に、一緒に割増分の水や石こうを添加して、撹拌混合することにより流動化処理土を作製するようになっていてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に砂質土により構成される発生土と、水または泥水と、固化材とがそれぞれ所定の配合量により配合される流動化処理土の製造方法であって、
前記所定の配合量により配合される水または泥水とは別の水が加えられる加水工程と、
所望のブリーディング率が得られる配合量の石こうが加えられる石こう添加工程とを有した
ことを特徴とする流動化処理土の製造方法。
【請求項2】
前記加水工程において加えられる前記所定の配合量により配合される流動化処理土に対する水の量は8〜20kg/mであることを特徴とする請求項1に記載の流動化処理土の製造方法。
【請求項3】
前記石こう添加工程において加えられる石こうの量は、前記加水工程を経た後の流動化処理土についてブリーディング試験が行われ、該ブリーディング試験の結果に基づいて一義的に定まることを特徴とする請求項1又は2に記載の流動化処理土の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−17424(P2012−17424A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156249(P2010−156249)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(510189950)
【Fターム(参考)】