説明

流路部材、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びフィルター

【課題】流路抵抗が小さくて、高い捕捉能力を有する流路部材、液体噴射ヘッド、液体噴
射装置及びフィルターを提供する。
【解決手段】流体が通過する流路が設けられた流路部材本体2と、該流路部材本体2に固
定されて前記流体中に存在する異物を捕捉するフィルター10と、を具備し、前記フィル
ター10は、流体の流入面10a及び流出面10bを有すると共に、前記流入面10aと
前記流出面10bとを連通する貫通孔12が設けられ、当該フィルター10には、前記貫
通孔12を跨いで設けられて、前記流入面10a側に突出して形成された突出部13を有
し、該突出部13の両側には、前記貫通孔12に連通する開口部14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体流路にフィルターを有する流路部材、流路部材を具備する液体噴射ヘッ
ド、流路部材を具備する液体噴射装置及びフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドには、インク流路内への気
泡や異物の侵入を防ぐためのフィルターが設けられている。
【0003】
このようなフィルターとしては、金属繊維を編みこんだものや、板状部材にパンチ加工
によって複数の貫通孔を設けたものなどが提案されている(例えば、特許文献1及び2参
照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−272631号公報
【特許文献2】特開2008−023820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フィルターとしては、流路抵抗が小さくて高い捕捉能力を有するフィル
ターが求められている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、流路抵抗が小さくて、高い捕捉能力を有する流路部材
、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及びフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の態様は、流体が通過する流路が設けられた流路部材本体と
、該流路部材本体に固定されて前記流体中に存在する異物を捕捉するフィルターと、を具
備し、前記フィルターは、流体の流入面及び流出面を有すると共に、前記流入面と前記流
出面とを連通する貫通孔が設けられ、当該フィルターには、前記貫通孔を跨いで設けられ
て、前記流入面側に突出して形成された突出部を有し、該突出部の両側には、前記貫通孔
に連通する開口部が設けられていることを特徴とする流路部材にある。
かかる態様では、隣り合う突出部の間で異物を捕捉できると共に、開口部で異物を補足
する2段階の捕捉が可能となり、且つ異なる大きさの異物を補足することが可能となる。
また、貫通孔によって流路抵抗を比較的小さくした状態で、貫通孔の大きさに拘わらず、
隣り合う突出部の間隔と開口部の大きさとで補足できる異物の大きさを規定することがで
きるため、微細な異物を捕捉する捕捉率を向上することができる。
【0008】
ここで、隣り合う突出部の前記開口部側の間隔が、前記突出部の突出方向における前記
開口部の最大高さよりも大きいことが好ましい。これによれば、小さい流路抵抗で捕捉率
を高めることができると共に、異なる大きさの異物を2段階で捕捉することができる。
【0009】
また、隣り合う突出部の前記開口部側の間隔が、前記突出部の突出方向における前記開
口部の最大高さよりも小さくてもよい。これによれば、小さい流路抵抗で捕捉率を高める
ことができる。
【0010】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様に記載の流路部材を具備し、液体を噴射するノ
ズルを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、流路内に気泡や異物の混入によるノズルの目詰まりや吐出不良等の不
具合を抑制することができる。
【0011】
また、前記突出部の突出方向における前記開口部の最大高さが、前記ノズルの内径より
も小さいことが好ましい。これによれば、ノズルを目詰まりさせる異物をフィルターで捕
捉することができ、長期間に亘ってドット抜けを抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の流路部材を具備することを特徴とする液体噴
射装置にある。
かかる態様では、流路内に気泡や異物の混入によるノズルの目詰まりや吐出不良等の不
具合を抑制して、印刷品質を向上することができる。
【0013】
また、本発明の他の態様は、流体中に存在する異物を捕捉するフィルターであって、流
体の流入面及び流出面を有すると共に、前記流入面と前記流出面とを連通する貫通孔が設
けられ、該貫通孔を跨いで、前記流入面側に突出して形成された突出部を有し、該突出部
の両側が、前記貫通孔に連通する開口部となっていることを特徴とするフィルターにある

かかる態様では、隣り合う突出部の間で異物を捕捉できると共に、開口部で異物を補足
する2段階の捕捉が可能となり、且つ異なる大きさの異物を補足することが可能となる。
また、貫通孔によって流路抵抗を比較的小さくした状態で、貫通孔の大きさに拘わらず、
隣り合う突出部の間隔と開口部の大きさとで補足できる異物の大きさを規定することがで
きるため、微細な異物を捕捉する捕捉率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係る流路部材の断面図である。
【図2】実施形態1に係るフィルターの斜視図である。
【図3】実施形態1に係るフィルターの要部を拡大した斜視図である。
【図4】実施形態1に係るフィルターの平面図及び断面図である。
【図5】実施形態1に係るフィルターの断面図である。
【図6】実施形態1に係るフィルターの製造方法を示す斜視図及び断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図9】実施形態1に係る記録装置の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る流路部材の断面図である。
【0016】
本実施形態の流路部材1は、流路部材本体2と、流路部材本体2に固定されたフィルタ
ー10と、を具備する。
【0017】
流路部材本体2は、上下に分割された上流部材3と、下流部材4とで構成されている。
このような流路部材本体2には、上流部材3と下流部材4とを連続して貫通する流路6が
設けられている。
【0018】
流路6は、上流部材3に設けられた上流路7と、下流部材4に設けられた下流路8とで
構成されており、流路部材本体2は、流体が上流路7から下流路8に向かって流れる向き
で配置される。
【0019】
また、上流路7は、下流路8に比べて内径が大きい。そして、上流路7と下流路8との
間にはフィルター10が配置されている。
【0020】
ここで、フィルター10について詳細に説明する。なお、図2は、本発明の実施形態1
に係るフィルターを示す斜視図であり、図3は、フィルターの要部を拡大した斜視図であ
り、図4は、フィルターの平面図及びそのA−A′線断面図と、B−B′線断面図である

【0021】
図示するように、フィルター10は、平坦な板状部材である基板11に多数の微細な貫
通孔12を穿設して矩形状の角を面取りした形状に切断したものである。フィルター10
に用いられる基板11は、厚さが100μm以下の金属材料等からなる。本実施形態では
、基板11として、厚さが15μmのステンレス鋼(SUS)を用いた。
【0022】
貫通孔12は、図4に示すように、基板11を厚さ方向に貫通して設けられ、その開口
は長方形状となるように形成されている。なお、貫通孔12としては、円形、正方形、六
角形等の開口で形成することも可能である。
【0023】
このような貫通孔12は、本実施形態では、基板11の全面に亘って等間隔でマトリッ
クス状に配置されている。すなわち、本実施形態では、貫通孔12の長手方向に並設され
た列が、短手方向と直交する方向に複数列配設されている。
【0024】
また、フィルター10の各貫通孔12には、一方面側に湾曲して突出した状態で貫通孔
12を跨って設けられた突出部13が形成されている。ここで、突出部13は、貫通孔1
2の開口幅と同じ幅で設けられており、上面視した際に貫通孔12を覆う大きさを有する
。詳細には、突出部13は、貫通孔12の長手方向で、基板11の平坦領域から連続し、
貫通孔12の中心に向かって徐々に突出量が漸大するように湾曲して形成されている。ま
た、突出部13は、貫通孔12の短手方向で、基板11の平坦領域から不連続となるよう
に形成されている。このように、突出部13が平坦領域と不連続となっていることから、
突出部13の両側には、貫通孔12と交差する方向に開口して、貫通孔12と連通する開
口部14が設けられている。すなわち、突出部13の両側とは、突出部13の突出方向と
は交差する方向で、貫通孔12の短手方向の両側面のことである。なお、本実施形態では
、貫通孔12を長方形状として、突出部13が貫通孔12の長手方向で基板11の平坦領
域と連続し、貫通孔12の短手方向で基板11の平坦領域と不連続となるようにしたが、
特にこれに限定されず、突出部13が貫通孔12の短手方向で基板11の平坦領域と連続
し、貫通孔12の長手方向で基板11の平坦領域と不連続となるようにしてもよい。また
、貫通孔12の開口形状が、長方形状以外の形状、すなわち、正方形状、円形状、楕円形
状、多角形状であってもよい。すなわち、突出部13は、一方向で基板11の平坦領域と
連続し、一方向と交差する方向で平坦領域と不連続となっていれば、開口部14が形成さ
れるものである。ちなみに、基板11の平坦領域とは、基板11の貫通孔12や突出部1
3が設けられていない平坦な領域のことである。また、上述した例では、突出部13の幅
(2つの開口部14の間の幅)を貫通孔12と略同じ大きさとしたが、特にこれに限定さ
れず、例えば、突出部13の幅を貫通孔12よりも幅狭としてもよい。
【0025】
このような開口部14は、突出部13の突出形状に沿った形を有する。したがって、開
口部14は、中央部から両端部に向かって開口高さが徐々に漸小する形状を有する。
【0026】
そして、このようなフィルター10(基板11)は、突出部13の突出方向が流路6の
上流路7側に配置された流入面10aとなり、他方面が流路6の下流路8側に配置された
流出面10bとなるように流路部材本体2に配置されている。したがって、貫通孔12は
、流入面10aと流出面10bとを連通するものである。
【0027】
このようなフィルター10の突出部13は、互いに隣接する突出部13(貫通孔12)
の間隔dが、例えば、数μm〜十数μm程度に設定されている。なお、ここで言う互い
に隣接する突出部13の間隔dとは、互いに隣り合う突出部13の開口部14が相対向
する側の隙間のことである。この突出部13の間隔dは、捕捉したい異物の大きさに基
づいて設定されている。
【0028】
ここで、図5を参照してフィルター10が補足する異物について説明する。なお、図5
は、フィルターが異物を補足した状態を示す断面図及びそのC−C′断面図である。
【0029】
図5に示すように、流路部材1の上流路7(図示なし)から流入された流体に含まれる
異物のうち、開口部14が相対向する隣り合う突出部13の間隔dよりも大きな異物X
は、隣り合う突出部13の間で捕捉される。このとき、異物Xは、2つの突出部13の外
周面(流入面10a)側で捕捉されるため、異物Xが2つの突出部13の間を完全に塞ぐ
ことがなく、また異物Xが開口部14を完全に塞ぐことがない。このため、上流路7から
流入された流体は、異物Xに遮蔽されることなく、異物Xの横から開口部14に流入して
下流路8(図示なし)側に流出されるため、フィルター10が異物Xを補足しても、フィ
ルター10を通過する流体の流路抵抗が増大するのを抑制することができる。これに対し
て、例えば、突出部13を設けずに貫通孔12だけが設けられたフィルターを用いた場合
、フィルターが異物を補足することで異物が貫通孔12を塞いでしまうことがあり、流路
抵抗が比較的増大しやすい。
【0030】
このため、本実施形態のフィルター10であれば、長期間使用して多くの異物を捕捉し
たとしても、流路抵抗の増大を抑制して、長期間に亘って安定した流体の供給特性を維持
することができる。また、流路部材1を例えば、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴
射ヘッドに用いた場合、長期間に亘って供給特性を維持することができるため、インク等
の液体吐出特性を長期間に亘って均一化して、印刷品質を一定に保つことができる。
【0031】
また、本実施形態では、図4に示す開口部14の高さdは、隣り合う突出部13の間
隔dよりも低く設定されている。このため、隣り合う突出部13の間を通過した異物は
、開口部14によって補足される。すなわち、開口部14で捕捉される異物の大きさは、
隣り合う突出部13の間隔dよりも小さく、且つ開口部14の高さdよりも大きいも
のとなる。ちなみに、開口部14の高さd(開口部14の高さ方向の幅)とは、突出部
13の最も突出した部分の開口幅(突出量)のことである。ここで、開口部14は、上述
のように両側に向かって開口する幅(突出部13の突出方向の高さ)が漸小した形状を有
する。そして、開口部14は、突出部13の突出方向と直交する方向に高さdよりも広
い幅を有する。このため、開口部14で確実に補足できる異物は、最小幅が開口部14の
高さdよりも大きいものである。ちなみに、異物の中でも、その長さが開口部14の高
さdよりも長いが、その幅が開口部14の高さdよりも短い細長い形状を有するもの
は、開口部14を通過する虞がある。勿論、異物の向きによっては、開口部14によって
捕捉することができる。
【0032】
このように、本実施形態のフィルター10によれば、異物を隣り合う突出部13の間で
捕捉した後、隣り合う突出部13の間を通過した異物を開口部14で補足することができ
る。すなわち、2回に分けて異なる大きさの異物を捕捉することができる。
【0033】
もちろん、突出部13の突出方向における開口部14の高さdを、隣り合う突出部1
3の間隔dよりも大きくしてもよい。この場合には、隣り合う突出部13の間隔d
通過した異物は、開口部14で補足することはできないが、このようなフィルターであっ
ても、貫通孔12の大きさに拘わらず、貫通孔12よりも小さな異物を捕捉することが可
能であり、異物の捕捉率を高めて、流路抵抗を小さくすることができる。
【0034】
また、上述のように、フィルター10は、貫通孔12の開口面積に拘わらず、開口部1
4の開口面積(高さd)や、突出部13の間隔dによって捕捉できる異物の大きさが
決定される。例えば、貫通孔12の開口を数十μm四方としたとしても、突出部13の高
さ(開口部14の最も高い開口幅)を5μm程度とすれば、10μm程度の大きさの異物
を確実に補足することができる。したがって、補足する異物の大きさに拘わらず、比較的
大きな開口面積を有する貫通孔12を形成しても、貫通孔12よりも小さな異物を補足す
るフィルター10を製造することができるため、フィルター10の製造が容易となる。
【0035】
なお、フィルター10は、例えば、流路部材1に熱溶着や超音波溶着などによって固定
することができる。本実施形態では、上流路7の内径が、下流路8の内径よりも大きく、
上流路7と下流路8との間に段差が設けられているため、フィルター10を段差(下流部
材4)に固定している。勿論、フィルター10の固定方法は特にこれに限定されず、例え
ば、フィルター10を接着剤等で接着するようにしてもよく、また、上流部材3と下流部
材4との間でフィルター10を挟持させるようにしてもよい。
【0036】
ここで、このようなフィルター10の製造方法について説明する。なお、図6は、フィ
ルターの製造方法を示す図である。
【0037】
図6に示すように、フィルター10の製造に用いる金型装置50は、平板状の下受けダ
イ51と、下受けダイ51の上部にパンチ53が設けられている。また、下受けダイ51
のパンチ53側の上面には、軟質材としてのPET(ポリエチレンテレフタレート:高分
子材料)からなる軟質部材54が設けられている。
【0038】
パンチ53は、四角柱形状を基本として、先端を側面方向から見た際に台形状となるよ
うに一対の角部を切り欠いた形状を有する。すなわち、パンチ53の先端部には、先端面
53aと、先端面53aに対して垂直な2つの側面53bと、先端面53aに対して傾斜
して設けられた2つの傾斜面53cとが形成されている。このようなパンチ53の先端面
53aの面積は、フィルター10の貫通孔12の開口面積に対応している。そして、パン
チ53の先端部が軟質部材54に挿入されるようになっている。なお、下受けダイ51の
軟質部材54側の表面は凹凸がなく平坦であるため、軟質部材54に多数の基板11の一
部(突出部13)を押し込む際に、押し込み量を均一にすることができる。
【0039】
なお、軟質部材54に用いる軟質材の高分子材料としては、例えば、PC(ポリカーボ
ネート)、POM(ポリアセタール)、ABS(ABS樹脂)、PPS(ポリフェニレン
サルファイド)等を用いるも可能である。軟質部材54の硬さは、基板11の厚さや貫通
孔の大きさ、ピッチ等により適宜選択することが可能である。
【0040】
このような金型装置50を用いてフィルター10の製造を行うには、図6(b)に示す
ように、軟質部材54上に基板11を載置し、基板11にパンチ53の先端部を押し付け
ることで貫通孔12を形成すると共に突出部13を形成する。具体的には、パンチ53の
先端部を、傾斜面53cの途中まで基板11に押し込むことで、パンチ53の垂直な側面
53bで基板11をせん断し、傾斜面53cで基板11をせん断することなく湾曲させて
突出部13を形成する。すなわち、傾斜面53cと先端面53aとで基板11を湾曲させ
ることで突出部13が形成されるため、形成したい突出部13の形状に合わせて、パンチ
53の傾斜面53cの角度や先端面53aの面積を適宜決定すればよい。また、貫通孔1
2の開口面積は、パンチ53の先端面53aの大きさ、傾斜面53cの傾斜角度及びパン
チ53の基板11への押し込み量によって決まる。なお、貫通孔12の開口面積を決定す
る主な要素はパンチ53の先端面53aの大きさである。
【0041】
また、パンチ53の基板11への押し込み量によって、開口部14の開口高さdが決
定するが、パンチ53の押し込み量は、側面53bによって基板11をせん断して開口部
14を形成できる程度である必要がある。すなわち、パンチ53の押し込み量が少なすぎ
ると、パンチ53の側面53bで基板11をせん断することができずに開口部14が形成
されない場合がある。
【0042】
このようなフィルター10では、貫通孔12の大きさに拘わらず、開口部14の開口高
さd及び隣り合う突出部13の間隔dによって補足できる異物の大きさが決まるため
、比較的小さな異物を捕捉するフィルター10を大きな開口面積を有する貫通孔12で形
成することができる。すなわち、上述のように、補足できる異物の大きさを決定する開口
部14の高さdは、パンチ53の押し込み量によって決まり、貫通孔12の主な大きさ
はパンチ53の先端面53aの大きさによって決まるため、パンチ53として太い(先端
面53aの面積の大きな)ものを用いることができる。したがって、パンチ53として比
較的太く剛性の高いものを用いることで、パンチ53の湾曲や折れなどの破損が発生する
ことによる頻繁な交換が不要となり、コストを低減することができる。なお、開口面積の
小さな貫通孔12を形成するためのパンチ53は細く、剛性が低いことから頻繁に湾曲や
折れが発生するため、交換が頻繁となり高コストになってしまうため、パンチ53の細さ
には限界があり、微小な貫通孔12を形成するのは困難である。そして、突出部13を設
けずに貫通孔だけを設けたフィルターでは、微小な異物を補足するものを形成するのは困
難である。これに対して、本実施形態では、パンチ53の太さに関係なく、パンチ53の
押し込み量だけで、開口部14の開口高さを設定することができるため、微細な異物を捕
捉するフィルター10を低コストで容易に形成することができる。
【0043】
なお、パンチ53によって押し出された基板11の突出部13は、軟質部材54に挿入
される。このため、下受けダイ51側にパンチ53の先端部を受けるための凹部を設ける
ことなく、貫通孔12、突出部13及び開口部14を形成することが可能になる。
【0044】
このように、上述した金型装置50を用いることで、突出部13を軟質部材54の内部
に留めて貫通孔12、突出部13及び開口部14を形成することで、下受けダイ51にパ
ンチ53の先端部を受ける凹部を形成する必要がなくなる。したがって、パンチ53の先
端部と凹部との位置合わせが不要になり、貫通孔12及び突出部13が形成されたフィル
ター10を容易に製造することができる。
【0045】
ちなみに、フィルター10は、一枚の基板11に複数個一体的に形成された後、1枚の
フィルター10のサイズに打ち抜く(切り抜く)ことで形成することができる。
【0046】
なお、上述した例では、1つのパンチ53を例示したが、特にこれに限定されず、複数
本のパンチ53が突出部13の間隔dのピッチ又はそれと直交する方向のピッチで並設
されたものを用いるようにしてもよい。勿論、パンチ53の形状は、四角柱状に限定され
ず、円柱形状、楕円形状等であってもよい。
【0047】
さらに、上述した流路部材1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘ
ッド等に用いることができる。ここで、インクジェット式記録ヘッドについて説明する。
なお、図7は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式
記録ヘッドの分解斜視図であり、図8は、その断面図である。
【0048】
図7及び図8に示すように、インクジェット式記録ヘッド100(以下、記録ヘッド1
00とも言う)を構成するヘッドホルダーの一例であるカートリッジケース111は、イ
ンクが貯留された貯留手段の一例であるインクカートリッジ(図示なし)が装着されるカ
ートリッジ装着部112を有する。例えば、本実施形態では、このカートリッジ装着部1
12に、ブラックインク及び複数色のカラーインクが充填された各インクカートリッジが
それぞれ装着されるようになっている。また、カートリッジケース111の底面には、一
端が各カートリッジ装着部112に開口し、他端が後述するヘッドケース121側に開口
する複数のインク連通路113がそれぞれ形成された管状の流路形成部114が突設され
ている(図8参照)。
【0049】
カートリッジケース111の上面側、すなわち、カートリッジ装着部112のインク連
通路113の開口部分には、インクカートリッジに挿入される複数のインク供給針115
が、インク内の気泡や異物を除去するためのフィルター10を介して固定されている。す
なわち、本実施形態では、カートリッジケース111とインク供給針115とが、上述し
た流路部材1に相当する。特に、インク供給針115が上流部材3に相当し、カートリッ
ジケース111が下流部材4に相当する。また、フィルター10は、上述した流路部材1
のフィルター10と同じものであるため重複する説明は省略する。
【0050】
カートリッジケース111の下面側には、シール部材117及び回路基板118を挟ん
で、ヘッド部材119が固定されている。本実施形態に係るヘッド部材119は、複数の
圧電素子を有する圧電素子ユニット120を収容するための中空箱体状の部材であるヘッ
ドケース121と、このヘッドケース121のカートリッジケース111とは反対側の端
面に固定されるヘッド本体122とで構成されている。ヘッド本体122は、複数のノズ
ル123が穿設されたノズルプレート124と、ノズル123に連通する圧力発生室12
5を含む流路が形成された流路形成基板126と、流路形成基板126のノズルプレート
124とは反対面側に配される振動板127とで構成されている。これらノズルプレート
124及び振動板127と流路形成基板126とはそれぞれ接着剤によって接合されてい
る。またヘッドケース121には、一端側が圧力発生室125に連通すると共に他端側が
カートリッジケース111のインク連通路113に連通するインク供給路128が設けら
れている。インク連通路113とインク供給路128との接続部分は、シール部材117
によって密封されている。
【0051】
このようにカートリッジケース111の下面側に、シール部材117、回路基板118
、ヘッド部材119を構成するヘッドケース121及びヘッド本体122の順で配し、こ
れら各部材の外側にヘッド本体122のノズル123を露出する窓部129を有する枠体
130をはめ込み、ネジ131によってカートリッジケース111に固定することで、イ
ンクジェット式記録ヘッド100が形成される。
【0052】
なお、インクジェット式記録ヘッド100にフィルター10を設ける場合には、フィル
ター10の突出部13の突出方向における開口部14の開口高さをノズル123の内径よ
りも小さくするのが好ましい。これにより、ノズル123を目詰まりさせる異物を、フィ
ルター10の開口部14で捕捉することができ、ノズル123の目詰まりを抑制すること
ができる。勿論、フィルター10の隣り合う突出部13の間隔dをノズル123の内径
よりも小さくしてもよい。
【0053】
そして、このようなインクジェット式記録ヘッド100は、液体噴射装置であるインク
ジェット式記録装置に搭載される。ここで、インクジェット式記録装置について説明する
。なお、図9は、本発明の液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の概略斜
視図である。
【0054】
図9に示すように、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置200
は、例えば、ブラック(B)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)等の複数
の異なる色のインクが貯留される貯留室を有するインクカートリッジ(液体貯留手段)2
02が装着されたインクジェット式記録ヘッド100(以下、記録ヘッド)を具備する。
記録ヘッド100はキャリッジ203に搭載されており、記録ヘッド100が搭載された
キャリッジ203は、装置本体204に取り付けられたキャリッジ軸205に軸方向移動
自在に設けられている。そして、駆動モーター206の駆動力が図示しない複数の歯車お
よびタイミングベルト207を介してキャリッジ203に伝達されることで、キャリッジ
203はキャリッジ軸205に沿って移動される。一方、装置本体204にはキャリッジ
軸205に沿ってプラテン208が設けられており、図示しない給紙装置等により給紙さ
れた紙等の被記録媒体Sがプラテン208上を搬送されるようになっている。
【0055】
なお、上述した例では、カートリッジケース及びインク供給針からなる流路部材が設け
られたインクジェット式記録ヘッド100を具備するインクジェット式記録装置200に
ついて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッド100
とは別に上述した流路部材1と同等の流路部材を有するインクジェット式記録装置であっ
てもよい。このような例としては、例えば、インクタンク等のインク貯留手段が、キャリ
ッジ203に搭載されずに、装置本体に保持されて、インク貯留手段がインクジェット式
記録ヘッド100と供給管を介して接続されている場合などに、インク貯留手段や供給管
の途中に流路部材が設けられていてもよい。
【0056】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定さ
れるものではない。
【0057】
例えば、上述した実施形態1では、フィルター10として、隣り合う突出部13が開口
部14同士を相対向させるように配置したが、特にこれに限定されず、例えば、隣り合う
突出部13の開口部14同士を半ピッチ分ずらして配置するようにしてもよい。すなわち
、突出部13が千鳥配置となるようにしてもよい。
【0058】
また、本発明の流路部材は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッド
や、インクジェット式記録装置に代表される液体噴射装置に搭載されるだけではなく、そ
の他の装置に搭載されていてもよい。また、流路部材に用いるフィルターとしては、上述
した流路部材やインクジェット式記録ヘッド等に用いるだけではなく、その他の流路部材
等に用いることもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 流路部材、 2 流路部材本体、 3 上流部材、 4 下流部材、 6 流路、
7 上流路、 8 下流路、 10 フィルター、 11 基板、 12 貫通孔、
13 突出部、 14 開口部、 50 金型装置、 51 下受けダイ、 53 パン
チ、 54 軟質部材、 100 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、
111 カートリッジケース、 112 カートリッジ装着部、 113 インク連通路
、 114 流路形成部、 115 インク供給針、 117 シール部材、 118
回路基板、 119 ヘッド部材、 120 圧電素子ユニット、 121 ヘッドケー
ス、 122 ヘッド本体、 123 ノズル、 124 ノズルプレート、 125
圧力発生室、 126 流路形成基板、 127 振動板、 128 インク供給路、
129 窓部、 130 枠体、 131 ネジ、 200 インクジェット式記録装置
(液体噴射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が通過する流路が設けられた流路部材本体と、該流路部材本体に固定されて前記流
体中に存在する異物を捕捉するフィルターと、を具備し、
前記フィルターは、流体の流入面及び流出面を有すると共に、前記流入面と前記流出面
とを連通する貫通孔が設けられ、
当該フィルターには、前記貫通孔を跨いで設けられて、前記流入面側に突出して形成さ
れた突出部を有し、
該突出部の両側には、前記貫通孔に連通する開口部が設けられていることを特徴とする
流路部材。
【請求項2】
隣り合う突出部の前記開口部側の間隔が、前記突出部の突出方向における前記開口部の
最大高さよりも大きいことを特徴とする請求項1記載の流路部材。
【請求項3】
隣り合う突出部の前記開口部側の間隔が、前記突出部の突出方向における前記開口部の
最大高さよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の流路部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の流路部材を具備し、液体を噴射するノズルを具備す
ることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記突出部の突出方向における前記開口部の最大高さが、前記ノズルの内径よりも小さ
いことを特徴とする請求項4記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか一項に記載の流路部材を具備することを特徴とする液体噴射装置

【請求項7】
流体中に存在する異物を捕捉するフィルターであって、
流体の流入面及び流出面を有すると共に、前記流入面と前記流出面とを連通する貫通孔
が設けられ、
該貫通孔を跨いで、前記流入面側に突出して形成された突出部を有し、
該突出部の両側が、前記貫通孔に連通する開口部となっていることを特徴とするフィル
ター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−61786(P2012−61786A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209080(P2010−209080)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】