説明

流速測定装置および流速測定方法

【課題】高圧環境下においてガス流体の流速を測定することができる流速測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の流速測定装置10は、押圧部材20、筐体30、および検出部40を有する。押圧部材20は、ガス流体によって一方の端部を押圧される。筐体30は、ガス流体による押圧方向に押圧部材20を移動可能に支持する。検出部40は、押圧部材20の他方の端部に当接するように筐体30側に設けられ、押圧部材20を押圧するガス流体の押圧力に応じて変色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス流体の流速を測定する流速測定装置および流速測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製品を硬化させる処理として、真空加熱された金属製品に窒素などの不活性ガスを吹き付けることによって金属製品を硬化させるガス焼入処理が知られている。ガス焼入処理では、真空状態から高圧状態へのガス焼入炉の圧力変化にともなって、ガス焼入炉内のガスの流量および流速が変化する。
【0003】
ガス流体の流速を測定する測定装置としては、白金抵抗体のような感熱抵抗素子を利用する熱線式流速計が知られている(たとえば、特許文献1)。このような熱線式流速計によれば、ガス流体が吹き当たる感熱抵抗素子の温度を一定に維持するために感熱抵抗素子に供給される電力から、ガス流体の流速を測定することができる。
【特許文献1】特開2000−329599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記熱線式流速計では、感熱抵抗素子の温度を一定に維持するための電気回路および電源が必要とされるため、高圧環境下での使用に適さないという問題がある。高圧環境下では、電気回路などが故障するおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、高圧環境下においてガス流体の流速を測定することができる流速測定装置および流速測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
本発明の流速測定装置は、押圧部材、筐体、および検出部を有する。前記押圧部材は、ガス流体によって一方の端部を押圧される。前記筐体は、前記ガス流体による押圧方向に前記押圧部材を移動可能に支持する。前記検出部は、前記押圧部材の他方の端部に当接するように前記筐体側に設けられ、前記押圧部材を押圧する前記ガス流体の押圧力に応じて変色する。
【0008】
本発明の流速測定方法は、ガス流体によって一方の端部が押圧されることにより当該ガス流体による押圧方向に移動可能な押圧部材の他方の端部に当接するように感圧紙を配置して、前記押圧部材を押圧する前記ガス流体の押圧力に応じて変色する前記感圧紙の色合いから前記ガス流体の流速を測定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流速測定装置および流速測定方法によれば、高圧環境下においてガス流体の流速を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。なお、図中、同様の部材には同一の符号を用いた。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態における流速測定装置の概略構成を示す断面図である。
【0012】
図示する流速測定装置10は、概説すれば、ガス流体によって一方の端部を押圧される押圧部材(以下、ピストン状部材と称する)20と、ガス流体による押圧方向にピストン状部材20を移動可能に支持する筐体30と、ピストン状部材20の他方の端部に当接するように筐体30側に設けられ、ピストン状部材20を押圧するガス流体の押圧力に応じて変色する感圧紙40と、を有する。以下、詳述する。
【0013】
ピストン状部材20は、ガス流体によって一方の端部が押圧されるものである。本実施の形態のピストン状部材20は、ガス流体によって押圧される一方の端部と、感圧紙40と当接する他方の端部と、を有しており、ガス流体による押圧方向に沿って移動可能に支持されている。また、本実施の形態のピストン状部材20は、断面T字状に形成されており、ガス流体によって押圧される一方の端部の押圧面21は、感圧紙40に当接する他方の端部の当接面22よりも大きい面積を有する。
【0014】
筐体30は、ガス流体による押圧方向にピストン状部材20を移動可能に支持するものである。筐体30は、円筒形状を有しており、筐体30の側面には、感圧紙40が設けられる筐体30内部の空間と筐体30の外部とを連通する通気孔35,36が設けられている。本実施の形態の筐体30は、ピストン状部材20をガス流体による押圧方向に案内する案内部材31を有しており、通気孔35,36は、案内部材31の上端部および下端部近傍にそれぞれ設けられている。また、本実施の形態の筐体30は、ピストン状部材20が筐体30から外れることを防止する環状の防止部材32と、筐体30の底部の高さを通気孔36の高さと一致させる底部部材33と、を有する。
【0015】
感圧紙40は、検出部として、ピストン状部材20の他方の端部に当接するように筐体30側に設けられ、ピストン状部材20を押圧するガス流体の押圧力に応じて変色するものである。感圧紙40は、筐体30の底部部材33上に交換可能に設けられ、上方にピストン状部材20の当接面22が配置される。感圧紙40は、感圧紙40に作用する圧力履歴の最高圧力を色合いで示すものであり、本実施の形態では、ガス流体の押圧力の最大値に対応して変色する。なお、感圧紙40自体は、一般的な感圧紙であるため、詳細な説明は省略する。また、検出部としての感圧紙は、紙状のものに限定されず、感圧樹脂などを含む。
【0016】
以上のとおり構成される本実施の形態の流速測定装置10では、ピストン状部材20を押圧するガス流体の押圧力に応じて変色する感圧紙40の色合いを検出することにより、ピストン状部材20を押圧するガス流体の流速を間接的に測定することができる。より具体的には、感圧紙40の色合いを検出することによって、ピストン状部材を20押圧するガス流体の押圧力の最大値に対応するガス流体の流速の最高値を測定することができる。以下、本実施の形態の流速測定装置10を用いた流速測定方法について説明する。
【0017】
本実施の形態の流速測定方法では、まず、測定対象のガス流体の流れAのなかに流速測定装置10が設置される。ガス流体の流れAのなかに設置された流速測定装置10では、押圧面21に吹き当たるガス流体によって、ピストン状部材20の端部が押圧される。ピストン状部材20を押圧するガス流体の押圧力は、下記(1)式に示されるとおり、ガス流体の流速に応じて定まるものである。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、Wpはピストン状部材20の端部を押圧するガス流体の圧力であり、ρはガス密度、Vはガス流体の流速である。
【0020】
ガス流体による押圧方向に移動可能に設けられているピストン状部材20は、ガス流体の押圧力を感圧紙40に伝達する。本実施の形態では、ピストン状部材20の当接面22が押圧面21よりも小さく形成されているため、当接面22と押圧面21との面積比に応じてガス流体の押圧力が拡大されて、感圧紙40に伝達される。感圧紙40は、ピストン状部材20の当接面22により押圧されて変色する。
【0021】
次に、感圧紙40の色合いが検出されることにより、感圧紙40に作用した圧力が測定される。本実施の形態では、流速測定装置10から感圧紙40が取り外され、CCDカメラによって感圧紙40の色合いが検出される。そして、予め求められている感圧紙40の色合いと圧力との関係を示す色合い−圧力換算データに基づいて、コンピュータが感圧紙40の色合いから感圧紙40に作用する圧力を算出する。なお、本実施の形態とは異なり、作業者の目視により色合いが評価され、感圧紙40に作用する圧力が求められてもよい。
【0022】
そして、感圧紙40に作用する圧力からピストン状部材20を押圧するガス流体の圧力が算出され、算出されたガス流体の圧力に対応するガス流体の流速が求められる。本実施の形態では、ピストン状部材20の当接面22と押圧面21との面積比に基づいて、感圧紙40に作用する圧力からピストン状部材20を押圧するガス流体の圧力が算出される。このとき、ピストン状部材20の重量に対応する圧力は、計算結果から差し引かれる。そして、上記(1)式に基づいて、ピストン状部材20を押圧するガス流体の圧力からガス流体の流速が求められる。
【0023】
以上のとおり、本実施の形態の流速測定装置10を用いた流速測定方法によれば、ピストン状部材20を押圧するガス流体の圧力に応じて変色する感圧紙40の色合いを検出することにより、ガス流体の流速が測定される。このような流速測定装置10は、オペアンプといった電気回路および電源などを必要としないため、高圧環境下においても使用されることができる。また、本実施の形態の流速測定装置10は、小型化可能であり、流速測定装置10自体が測定場を乱すことがなく、測定場の乱れに起因する測定誤差の発生が防止される。
【0024】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0025】
(a)本実施の形態の流速測定装置は、ピストン状部材、筐体、および感圧紙を有する。ピストン状部材は、ガス流体によって一方の端部を押圧される。筐体は、ガス流体による押圧方向にピストン状部材を移動可能に支持する。感圧紙は、ピストン状部材の他方の端部に当接するように筐体側に設けられ、ピストン状部材を押圧するガス流体の押圧力に応じて変色する。したがって、高圧環境下においてガス流体の流速を測定することができる。
【0026】
(b)感圧紙の色合いを検出することによって、ピストン状部材を押圧するガス流体の流速が間接的に測定される。したがって、感圧紙を用いてガス流体の流速を測定することができる。
【0027】
(c)筐体には、感圧紙が設けられる当該筐体内部の空間と当該筐体の外部とを連通する通気孔が設けられている。したがって、急激な圧力変動が発生した場合であってもピストン状部材の上下に圧力差が発生せず、流速を正確に測定することができる。
【0028】
(d)ガス流体によって押圧されるピストン状部材の一方の端部の押圧面は、感圧紙に当接するピストン状部材の他方の端部の当接面よりも大きい面積を有する。したがって、ピストン状部材を押圧するガス流体の押圧力を面積比に応じて倍増させて、感圧紙に伝達することができる。
【0029】
また、ピストン状部材の重量を一定に維持しつつ、ガス流体によって押圧されるピストン状部材の押圧面の面積を大きくすることにより、感圧紙に作用するピストン状部材の重量の影響を相対的に低減することができる。その結果、流速測定装置を傾斜させて流速を測定する場合であっても感圧紙が示す圧力の最大値の変化が少ないため、流れ場の中の流速(流速分布)のみならず、流速ベクトル(流速ベクトル分布)を測定することができる。
【0030】
(e)本実施の形態の流速測定方法は、ガス流体によって一方の端部が押圧されることにより当該ガス流体による押圧方向に移動可能なピストン状部材の他方の端部に当接するように感圧紙を配置して、ピストン状部材を押圧するガス流体の押圧力に応じて変色する感圧紙の色合いからガス流体の流速を測定する。したがって、高圧環境下においてガス流体の流速を測定することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
本実施例では、まず、上述した本発明の一実施の形態に示す流速測定装置10を複数製作した。そして、製作した複数の流速測定装置10を高圧ガス焼入炉内に配置して、ガス焼入炉内の流速均一性を評価した。
【0033】
具体的な評価方法としては、高圧ガス焼入炉の上部、中央部、および下部にそれぞれ9個の流速測定装置10を配置して、高圧ガス焼入炉の上部、中央部、および下部の流速分布を測定した。測定結果を図2に示す。
【0034】
図2に示すとおり、本発明の流速測定装置によれば、ガス焼入炉のような高圧環境下において、ガス流体の流速測定が実現されることが確認された。また、ガス焼入処理のような真空状態から高圧状態に圧力が変化する環境下において、微小な流速差(流量差)の測定が実現されることが確認された。
【0035】
以上のとおり、上述した一実施の形態において、本発明の流速測定装置および流速測定方法を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態における流速測定装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す流速測定装置を用いた流速測定の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10 流速測定装置、
20 ピストン状部材(押圧部材)、
21 押圧面、
22 当接面、
30 筐体、
35,36 通気孔、
40 感圧紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流体によって一方の端部を押圧される押圧部材と、
前記ガス流体による押圧方向に前記押圧部材を移動可能に支持する筐体と、
前記押圧部材の他方の端部に当接するように前記筐体側に設けられ、前記押圧部材を押圧する前記ガス流体の押圧力に応じて変色する検出部と、を有することを特徴とする流速測定装置。
【請求項2】
前記検出部の色合いを検出することによって、前記押圧部材を押圧する前記ガス流体の流速が間接的に測定されることを特徴とする請求項1に記載の流速測定装置。
【請求項3】
前記筐体には、前記検出部が設けられる当該筐体内部の空間と当該筐体の外部とを連通する通気孔が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の流速測定装置。
【請求項4】
前記ガス流体によって押圧される前記押圧部材の一方の端部の押圧面は、前記検出部に当接する前記押圧部材の他方の端部の当接面よりも大きい面積を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流速測定装置。
【請求項5】
ガス流体によって一方の端部が押圧されることにより当該ガス流体による押圧方向に移動可能な押圧部材の他方の端部に当接するように感圧紙を配置して、前記押圧部材を押圧する前記ガス流体の押圧力に応じて変色する前記感圧紙の色合いから前記ガス流体の流速を測定することを特徴とする流速測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−192451(P2009−192451A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35542(P2008−35542)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】