説明

流量測定装置、及び、送液ポンプ

【課題】滴数制御方式を用いた輸液ポンプの場合に、正確に送液量を測定して、正確に輸液量の制御を行うことの可能な、流量測定装置、及び、この流量測定装置を備えた送液ポンプを提供する。
【解決手段】傾き検出センサ26は、滴下ノズル17の軸方向の鉛直方向からの傾斜角度を測定し、傾斜角度情報を補正部28Cへ出力する。補正部28Cは、傾き検出センサ26からの傾斜角度情報に基づいて、点滴口17Bから滴下される一滴の液滴体積を補正して、補正滴体積を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量測定装置、及び、この流量測定装置を備えた送液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、輸液治療に用いられる送液ポンプとして、フィンガポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。フィンガポンプは、輸液チューブを押しつぶすことにより、薬液を送り出すものである。フィンガポンプを用いて薬液を送出する場合の液量制御の方式として、容積制御方式と、滴数制御方式がある。容積制御方式では、正確な内径のチューブを用いて、当該チューブに目的量に応じたチューブ変形量を与えることにより、送液量を制御する。一方、滴数制御方式では、点滴筒内で点滴口から点滴筒へ滴下する単位時間当たりの液滴数を数えて送液量を求め、所定の送液量となるように送液量を制御する。
【0003】
ところで、滴数制御方式を用いて輸液を行う場合、点滴筒へ滴下する液滴の1滴当たりの体積が一定であるという前提で送液量を制御している。したがって、1滴当たりの液滴の体積は、一定である必要がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−319798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、点滴筒が傾くと、点滴口の向きが変わり、1滴当たりの液滴の体積が変化してしまい、正確な送液量の制御が困難になる。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑み、滴数制御方式を用いた場合に、正確に送液量を測定して、正確に輸液量の制御を行うことの可能な、流量測定装置、及び、この流量測定装置を備えた送液ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る流量測定装置は、点滴筒へ液滴を滴下する点滴口の傾きを検出する傾き検出センサと、前記傾き検出センサにより検出された点滴口傾きに基づいて、前記点滴口から前記点滴筒へ滴下される液滴の1滴当たりの体積を補正する補正手段と、を備えている。
【0008】
請求項1に係る流量測定装置では、傾き検出センサで点滴口の傾きを検出し、検出された点滴口傾きに基づいて、補正手段で点滴筒へ滴下される液滴の1滴当たりの体積を補正する。補正された液滴の1滴当たりの体積に基づいた送液量情報が、ポンプへフィードバックされる。
【0009】
このように、液滴の1滴当たりの体積を補正することにより、点滴口が傾斜している場合であっても、補正しない場合と比較して正確な送液量の制御を行うことができる。
【0010】
請求項2に係る流量測定装置は、前記補正手段が、前記点滴口傾きに応じた前記点滴口の鉛直方向から見た点滴口周長に基づいて、前記点滴口から前記点滴筒へ滴下される液滴の1滴当たりの体積を補正すること、を特徴とする。
【0011】
点滴口が傾くと、傾きのない状態(点滴口が真下に向いた状態)と比較して、点滴口の鉛直方向から見た見かけの点滴口周長は変化する。この点に着目して、点滴口傾きに応じた点滴口周長に基づいて、点滴口から点滴筒へ滴下される液滴の1滴当たりの体積を補正することができる。
【0012】
請求項3に係る流量測定装置は、点滴口が円形である場合、前記点滴口が傾斜した場合の見かけの周長が、楕円関数に基づいて求められるものであること、を特徴とする。
【0013】
このように、点滴口の鉛直方向から見た見かけの点滴口周長を、楕円関数に基づいて求めることができる。
【0014】
請求項4に係る流量測定装置は、前記傾き検出センサが、前記点滴筒へ着脱自在に取り付けられていること、を特徴とする。
【0015】
点滴口は、通常、点滴筒に対して位置が固定されているため、点滴筒に傾き検出センサをとり付けて点滴筒の傾きを検出することにより、点滴口の傾きも容易に検出することができる。
【0016】
請求項5に係る流量測定装置は、前記傾き検出センサが、重力加速度を計測可能な加速度計であること、を特徴とする。
【0017】
このように、加速度計を用いて、点滴口の傾きを検出することができる。
【0018】
請求項6に係る送液ポンプは、滴数制御方式であり、輸液チューブを押しつぶして送液を行うペリスタルティック方式の送液ポンプであって、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の流量測定装置と、前記流量測定装置によって測定される液体の送液量情報に基づいて、送出する液量を制御する制御手段と、を備えている。
【0019】
請求項6に係る送液ポンプによれば、正確な送液量測定に基づいて、正確に輸液量の制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、滴数制御方式を用いた場合に、正確に送液量を測定して、正確に輸液量の制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る流量測定装置、及び、この流量測定装置を備えた送液ポンプについて、説明する。
【0022】
(全体構成)
【0023】
図1に示されるように、輸液用の輸液ユニット12は、スタンド10に取り付けられており、輸液バッグ11は、スタンド10の上部から伸びるアーム10Aに掛けられる。
【0024】
流量測定装置20と送液ポンプ30とは別体とされており、図2にも示すように、送液ポンプ30は、輸液ユニット12内に収納されている。送液ポンプ30としては、輸液チューブ13を押圧して輸液チューブ13の内部を流通する流体を圧送する、所謂フィンガ方式のポンプまたはローラ方式のポンプが用いられている。送液ポンプ30は、チューブ押圧部32及びポンプコントローラ34を備えている。チューブ押圧部32は、輸液チューブ13を押圧することにより、輸液チューブ13の内部を流通する流体を圧送する。
【0025】
ポンプコントローラ34は、チューブ押圧部32及び流量測定装置20と接続されており、流量測定装置20で測定された流量に応じて、チューブ押圧部32の動作を制御することにより、圧送される液量を制御する。
【0026】
流量測定装置20は、図3に示すように、ケース22、滴下センサ24、傾き検出センサ26、及び、流量算出部28を備えている。
【0027】
図4にも示すように、ケース22は、コ字状とされ、中央部に点滴筒14を挟持可能な保持部21が設けられている。保持部21は、互いに向き合うように一対で配置されており、内周が緩やかな弧状とされている。一対の保持部21の間には、保持空間21Rが構成されている。保持部21の一方である移動保持部21Aは、ケース22内に退避可能とされており、コイルバネKによって他方の固定保持部21B側へ向かって付勢されている。点滴筒14が保持されていない状態では、移動保持部21Aと固定保持部21Bの間隔は、点滴筒14の直径よりも短くなるように設定されている。点滴筒14を保持する際には、図4(A)に示すように、保持部21を退避させて、保持空間21Rへ点滴筒14を押し入れ、図4(B)に示すように、移動保持部21Aと固定保持部21Bとの間に挟持する。
【0028】
図3に示すように、点滴筒14の上部には、蓋部材15が取り付けられている。蓋部材15は、点滴筒14の上面を覆う蓋部16と、蓋部16を貫通して点滴筒14に液滴を滴下する滴下ノズル17とで構成されている。滴下ノズル17は、中央部に液体の流路17Aが構成されており、その下部が点滴筒14内に突出されて、先端が点滴口17Bとされている。
【0029】
ケース22内には、滴下センサ24が収納されている。滴下センサ24は、光出力部24Aと受光部24Bとを備えている。光出力部24Aと受光部24Bとは、保持空間21Rを挟んで互いに対向するように配置されている。図2に示すように、滴下センサ24は、流量算出部28と接続されており、点滴口17Bから滴下される滴数の情報を流量算出部28へ出力する。
【0030】
ケース22内には、傾き検出センサ26が収納されている。傾き検出センサ26は、ケース22が点滴筒14に取り付けられた際に、滴下ノズル17の軸方向が鉛直方向と一致するように配置されている。傾き検出センサ26は、滴下ノズル17の軸方向の鉛直方向からの傾斜角度を測定可能とされている。傾き検出センサ26としては、重力加速度を測定可能な加速度計を用いることができる。図2に示すように、傾き検出センサ26は、流量算出部28と接続されており、傾斜角度情報を流量算出部28へ出力する。
【0031】
ケース22内には、流量算出部28が収納されている。図2(B)に示すように、流量算出部28は、メモリ28A、算出部28B、補正部28Cを備えている。メモリ28Aには、滴下センサ24からの滴数情報、傾き検出センサ26からの傾斜角度情報が記憶される。補正部28Cは、傾き検出センサ26からの傾斜角度情報に基づいて、点滴口17Bから滴下される一滴の液滴体積を補正して、補正滴体積を求める。算出部28Bは、補正滴体積、及び、単位時間あたりに滴下される滴数情報に基づいて、送出されている液体の流量を算出する。算出された流量は、送液ポンプ30へ出力される。
【0032】
ここで、補正部28Cにおける一滴の液滴体積の補正について説明する。
【0033】
(第1補正方法)
図5のグラフには、異なる滴下口A、Bを有する滴下ノズルの各々について、液滴体積と傾斜角度θとの関係が示されている。A、Bのいずれについても、傾斜角度θが大きいほど、滴下される液滴体積は小さくなることが明らかである。また、滴下ノズルの材質や、滴下口の形状、サイズ、液滴の種類によって、滴下される液滴体積と傾斜角度との関係は異なる。そこで、予め、使用する液滴の種類、滴下ノズルの種類、に応じた液滴体積と傾斜角度の関係についての補正テーブルTを作成し、補正テーブルTを補正部28Cに記憶しておいて、傾き検出センサ26からの傾斜角度情報に基づいて、補正テーブルTを参照して液滴体積を補正する補正方法が考えられる。この補正方法を第1補正方法とする。補正後の液滴体積は、算出部28Bへ出力される。
【0034】
(第2補正方法)
点滴口17Bからの液滴の滴下は、液滴の重量が点滴口17Bの表面張力により液滴が点滴口17Bの外周と引き合う力よりも大きくなった場合に生じると考えられる。滴下ノズル17の軸方向Sが鉛直方向に配置されている場合(図6(A)参照)には、点滴口17Bの形状は円形となり(図6(C)参照)、軸方向Sが鉛直方向から傾くと(図6(B)参照)、軸方向Sからみた点滴口17Bの形状は楕円となる(図6(D)参照)。鉛直方向からの傾斜角度θが大きいほど軸方向Sからみた点滴口17Bの外周長(以下「見た目外周長」という)は短くなる。
【0035】
この点に着目して、補正部28Cで一滴の液滴体積の補正を行う。
【0036】
液滴の体積V、見た目外周長L、点滴口17Bの表面張力Tは、式1で表すことができる。但し、ρは液滴の密度、gは重力加速度を表している。
【0037】
【数1】

【0038】
また、見た目外周長Lと、滴下ノズル17の鉛直方向からの傾斜角度θとの関係は、式2により表される。但し、kは離心率であって、離心率kは楕円の長径をa、短径をbとし、式3により表される。式2を式1に代入した式4により、傾斜角度θに対応した見た目外周長Lと液滴体積V(θ)との関係を表すことができる。
【0039】
【数2】

【0040】
【数3】

【0041】
【数4】

【0042】
傾斜角度θが0のとき(滴下ノズル17が鉛直方向に配置されているとき)の液滴体積を100%とし、式4に基づいた液滴体積と傾斜角度θの関係は、図7のグラフに示されるとおりである。また、式4に基づいた液滴体積と傾斜角度θの関係(計算値)と、実際に傾斜角度θに対応した液滴体積を測定したときの液滴体積と傾斜角度θの関係(実測値)とが、図8のグラフに示されている。図8のグラフからわかるように、計算値と実測値とは、ほぼ近似している。そこで、傾き検出センサ26からの傾斜角度情報と式4とに基づいて、液滴体積を算出する補正方法が考えられる。この補正方法を第2補正方法とする。このようにして補正部28Cで算出された補正後の液滴体積は、算出部28Bへ出力される。
【0043】
(第3補正方法)
図8のグラフに示されるように、式4での計算値と実測値とは、近似しているものの、滴下ノズルの傾斜角度θが大きくなるにつれて、誤差が大きくなっている。そこで、予め、使用する液滴の種類、滴下ノズルの種類、毎に、傾斜角度θに応じた誤差関係を求めておき、誤差補正の変数C(θ)を式4に含めて、式5により液滴体積と傾斜角度θの関係を補正する。
【0044】
【数5】

【0045】
図9には、式5により得られた液滴体積と傾斜角度θの関係(計算値/補正)と、実際に傾斜角度θに対応した液滴体積を測定したときの液滴体積と傾斜角度θの関係(実測値)とが示されている。図9のグラフに示されるように、誤差補正の変数C(θ)を用いることにより、実測値とほぼ一致した値を算出することができる。そこで、予め、使用する液滴の種類、滴下ノズルの種類、毎に、傾斜角度θに応じた誤差関係を求めて、補正部28Cに記憶しておき、傾き検出センサ26からの傾斜角度情報と式5とに基づいて、液滴体積を算出する補正方法が考えられる。この補正方法を第3補正方法とする。このようにして補正部28Cで算出された補正後の液滴体積は、算出部28Bへ出力される。
【0046】
以上のように、補正部28Cでは、例えば、第1補正方法〜第3補正方法のような手法で、液滴体積を補正することができる。
【0047】
流量算出部28の算出部28Bでは、メモリ28Aから出力された滴数の情報、及び、補正部28Cから出力された補正後の液滴体積情報に基づいて、単位時間当たりの流量Dを算出し、流量Dを送液ポンプ30のポンプコントローラ34へ出力する。流量Dは単位時間あたりの液滴の滴下数をnとすると、式6で計算できる。
【数6】

ポンプコントローラ34は、入力された流量Dに基づいて送出される液体の流量が所望の値となるように、チューブ押圧部32を制御する。
【0048】
本実施形態によれば、滴数制御方式を用いて輸液する場合に、滴下ノズル17の傾斜角度θに応じて、滴下される1滴当たりの液滴体積を補正して流量Dを算出するので、補正しない場合と比較して正確な流量を測定することができる。
【0049】
また、正確に測定された流量を送液ポンプ30にフィードバックして、送液ポンプ30のチューブ押圧部32を制御するので、送出される液体の流量を、正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態に係る流量測定装置、及び、送液ポンプの使用例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る、(A)は流量測定装置、及び、送液ポンプの制御系に係る概略ブロック図であり、(B)は流量算出部の概略ブロック図である。
【図3】本実施形態に係る流量測定装置、及び、点滴筒の斜視図である。
【図4】本実施形態に係る流量測定装置へ、(A)は点滴筒をセットする前の状態を示す図であり、(B)は点滴筒をセットした状態を示す図である。
【図5】滴下ノズル傾斜角度と液滴体積の実測値の関係を示すグラフである。
【図6】滴下ノズルが傾斜していない場合の(A)は液滴形状を(C)は点滴口の見た目形状を示す図であり、滴下ノズルが傾斜している場合の(B)は液滴形状を(D)は点滴口の見た目形状を示す図である。
【図7】滴下ノズル傾斜角度と液滴体積の計算値の関係を示すグラフである。
【図8】滴下ノズル傾斜角度と液滴体積の実測値、計算値の関係を示すグラフである。
【図9】滴下ノズル傾斜角度と液滴体積の実測値、計算値(補正)の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
14 点滴筒
17 滴下ノズル
17B 点滴口
20 流量測定装置
24 滴下センサ
26 傾き検出センサ
28A メモリ
28B 算出部
28C 補正部
28 流量算出部
30 送液ポンプ
32 チューブ押圧部
34 ポンプコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点滴筒へ液滴を滴下する点滴口の傾きを検出する傾き検出センサと、
前記傾き検出センサにより検出された点滴口傾きに基づいて、前記点滴口から前記点滴筒へ滴下される液滴の1滴当たりの体積を補正する補正手段と、
を備えた、流量測定装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記点滴口傾きに応じた前記点滴口の鉛直方向から見た点滴口周長に基づいて、前記点滴口から前記点滴筒へ滴下される液滴の1滴当たりの体積を補正すること、を特徴とする請求項1に記載の流量測定装置。
【請求項3】
前記点滴口周長は、楕円関数に基づいて求められるものであること、を特徴とする請求項2に記載の流量測定装置。
【請求項4】
前記傾き検出センサは、前記点滴筒へ着脱自在に取り付けられていること、を特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の流量測定装置。
【請求項5】
前記傾き検出センサが、重力加速度を計測可能な加速度計であること、を特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の流量測定装置。
【請求項6】
滴数制御方式であり、輸液チューブを押しつぶして送液を行うペリスタルティック方式の送液ポンプであって、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の流量測定装置と、
前記流量測定装置によって測定される液体の送液量情報に基づいて、送出する液量を制御する制御手段と、
を備えた送液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−145334(P2010−145334A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325470(P2008−325470)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】