説明

浄化槽汚泥処理車

【課題】浄化槽内の汚泥水を回収して濃縮汚泥と清浄水とに分離し、清浄水を浄化槽内へと戻すことができ、凝集剤を用いた汚泥水の固液分離を短時間で効率良く行うことが可能であり、浄化槽の汚泥処理作業の効率を向上させ得る浄化槽汚泥処理車を提供すること。
【解決手段】浄化槽内の汚泥水を内部に収容する貯槽と、貯槽に連結されて貯槽内部を減圧して貯槽内に汚泥水を取り入れる吸引機構とを具備してなる浄化槽汚泥処理車であって、貯槽の内部は、前方から後方に向けて下向きに傾斜した傾斜部を有する仕切板により仕切られており、仕切板の上部には汚泥水を固液分離させるためのリサイクル槽が設けられ、下部にはリサイクル槽にて分離された固形分を収容する汚泥槽が設けられており、リサイクル槽の内部後端には、前方に向けて延びる回転軸を有する攪拌羽根が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化槽内の汚泥水を吸引回収して濃縮汚泥と清浄水とに分離し、分離した清浄水を浄化槽内へと戻すことができる浄化槽汚泥処理車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場や家庭等から排出される汚泥水は、一旦浄化槽内に貯留された後、バキューム車のタンク内に吸引回収されて、汚水処理場へと運搬されて処理されているのが一般的である。
しかしながら、このバキューム車を使用する従来の方法では、浄化槽内の汚泥水の全量をそのまま回収運搬しているため、処理効率が非常に悪く、処理コストが高くなるという問題があった。
【0003】
かかる実情に鑑みて、浄化槽等から回収した汚泥水を現場にて汚泥と清浄水(分離水)とに固液分離することができる、タンク内を仕切壁で前後に仕切った構造を有する車両が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
特許文献1に開示された汚泥吸引車は、汚泥水をタンク後方の汚泥水室内に吸引回収し、回収した汚泥水を汚水分離器へと供給して固形分と液体とに分離し、固形分は汚泥水室に残して液体をタンク前方の浄化水室に移送して高圧洗浄車用の洗浄用水として再利用することができる。
【0005】
しかしながら、この汚泥吸引車は、汚泥水から固形分を分離するための汚水分離器を車台上に設置する必要があるため、その分タンクの設置スペースが制限されてしまい、タンク容量を大きくすることが困難であった。また、サイクロン式の汚水分離器を使用しているため、水と比重差が小さい固形分の分離が良好に行えない場合があった。
【0006】
一方、特許文献2に開示された浄化槽清掃車は、汚泥水をタンク後方の凝集反応室内に吸引回収し、回収した汚泥水に凝集剤を添加してフロックを形成し、凝集反応室内で濃縮された汚泥を前方の汚泥貯留タンクへと移送するように構成されている。
この浄化槽清掃車は、凝集剤による凝集反応を利用して汚泥水の固液分離を行っているため、特許文献1の開示技術のようにサイクロン式の汚水分離器等を必要としない。
【0007】
特許文献2の開示技術では、凝集反応室内で形成されたフロックを汚泥貯留タンクへと移送するために、凝集反応室を負圧としてフロックを水面に浮上させるように構成している。しかし、水と比重差が小さいフロックは水面に迅速に浮上せず水中に長時間浮遊するため、固液分離を短時間で良好に行うことが困難であった。
【0008】
尚、タンク内を仕切壁で前後に仕切った構造を有する浄化槽処理車において、フロックを凝集反応室に沈殿させて、沈澱したフロックを凝集反応室の底部から取り出すように構成したものも従来知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
しかしながら、このような構成を有する従来の車両では、水と比重差が小さいフロックは迅速に沈殿せず水中に長時間浮遊するため、フロックを凝集反応室(汚泥水処理タンク)の底部から短時間で確実に取り出すことができず、固液分離を効率良く良好に行うことが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実公平6−33028号公報
【特許文献2】特開2004−100221号公報
【特許文献3】実開昭59−7100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、浄化槽内の汚泥水を吸引回収して濃縮汚泥と清浄水とに分離し、清浄水を浄化槽内へと戻すことができるとともに、凝集剤を用いた汚泥水の固液分離を短時間で効率良く行うことが可能であり、浄化槽の汚泥処理作業の効率を向上させることができる浄化槽汚泥処理車を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、浄化槽内の汚泥水を内部に収容する貯槽と、該貯槽に連結されて貯槽内部を減圧して貯槽内に汚泥水を取り入れる吸引機構とを具備してなる浄化槽汚泥処理車であって、前記貯槽の内部は、前方から後方に向けて下向きに傾斜した傾斜部を有する仕切板により仕切られており、前記仕切板の上部には汚泥水を固液分離させるためのリサイクル槽が設けられ、下部には該リサイクル槽にて分離された固形分を収容する汚泥槽が設けられており、前記リサイクル槽の内部後端には、前方に向けて延びる回転軸を有する攪拌羽根が配設されていることを特徴とする浄化槽汚泥処理車に関する。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記仕切板の傾斜部は、前記貯槽の左右方向における中央部が円弧状に窪んだ船底形状を有していることを特徴とする請求項1記載の浄化槽汚泥処理車に関する。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記仕切板は、前端に前記貯槽の前後方向中心軸に対して直角上方向に延びる上向き部を有し、後端に前記中心軸に対して直角下方向に延びる下向き部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の浄化槽汚泥処理車に関する。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記貯槽の後端から前記下向き部までの距離が、前記貯槽の前端から前記上向き部までの距離よりも長いことを特徴とする請求項3記載の浄化槽汚泥処理車に関する。
【0016】
請求項5に係る発明は、前記リサイクル槽には、該リサイクル槽にて分離された液体をフィルタを通して外部へと排出する排水装置が連結されており、該排水装置は、前記リサイクル槽にて分離された液体を濾過するフィルタを内蔵したフィルタ室と、該フィルタ室のフィルタ前方側と前記リサイクル槽とを連結する管路と、該管路内の液体の流通を遮断可能な遮断手段と、該遮断手段と前記フィルタの間に設けられた分岐路と、前記フィルタ室のフィルタ後方側を開閉可能な蓋とを備えており、前記分岐路は、バルブを介して前記汚泥槽と連通連結されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の浄化槽汚泥処理車に関する。
【0017】
請求項6に係る発明は、前記管路及び前記フィルタ室は、前記貯槽の後端部において前後方向に連設されており、前記フィルタは、複数枚のパンチングメタルの間に金網を挟んだ構造を有していることを特徴とする請求項5記載の浄化槽汚泥処理車に関する。
【0018】
請求項7に係る発明は、前記貯槽は、前方から後方に向けて下向きに傾斜するように車両上に固定されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の浄化槽汚泥処理車に関する。
【0019】
請求項8に係る発明は、前記リサイクル槽と前記汚泥槽とを連通連結する配管と、前記排水装置に接続された排水ポンプと前記浄化槽内に挿入されるホースを巻回したホースリールとを連結する配管に、透視管を有していることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載の浄化槽汚泥処理車に関する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によれば、貯槽の内部が前方から後方に向けて下向きに傾斜した傾斜部を有する仕切板により仕切られており、仕切板の上部には汚泥水を固液分離させるためのリサイクル槽が設けられ、下部には該リサイクル槽にて分離された固形分を収容する汚泥槽が設けられていることから、リサイクル槽に回収された汚泥水に凝集剤を添加したときに、リサイクル槽内で形成されたフロックを仕切板の傾斜に沿わせて底部へと円滑に導くことができる。そのため、リサイクル槽内で形成されたフロックが水中に長時間浮遊することがなく、汚泥水の固液分離を短時間で良好に行うことができ、浄化槽の汚泥処理作業の効率を大きく向上させることが可能となる。しかも、これらの効果は、仕切板以外に追加の設備や機構を設けることなく実現することができるため、車両の大型化や高額化を招くことがない。
また、リサイクル槽の内部後端には、前方に向けて延びる回転軸を有する攪拌羽根が配設されているため、凝集剤をリサイクル槽内に分散させて汚泥の凝集効率を高めることができるとともに、攪拌羽根の駆動により生じる水流によって水中に浮遊するフロックを仕切板の方へと集めることができるため、仕切板の傾斜を利用した固液分離の効率を大きく向上させることが可能となる。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、仕切板の傾斜部が貯槽の左右方向における中央部が円弧状に窪んだ船底形状を有しているため、フロックを傾斜部に沿って迅速に流下させることが可能となる。また、仕切板の強度が高くなるため、仕切板の下面側に補強を施す必要がなく、貯槽容量の減少や車両重量の増加が生じることがない。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、仕切板が、前端に貯槽の前後方向中心軸に対して直角上方向に延びる上向き部を有し、後端に前記中心軸に対して直角下方向に延びる下向き部を有することから、仕切板の上下端部と貯槽内面との間に鋭角状の空間が形成されることがなく、当該空間に汚泥やフロックが詰まることが防がれ、汚泥水の固液分離を良好に行うことができる。
【0023】
請求項4に係る発明によれば、貯槽の後端から下向き部までの距離が、貯槽の前端から上向き部までの距離よりも長いことにより、リサイクル槽の底面を広くとることができ、リサイクル槽の底面に堆積したフロックの層が過度に厚くなることが防がれる。これにより、底部に堆積したフロックが傾斜部に沿ったフロックの流下を阻害することが防止される。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、リサイクル槽には、該リサイクル槽にて分離された液体をフィルタを通して外部へと排出する排水装置が連結されているため、液体中に含まれる固形分をフィルタにより除去して清浄水として浄化槽へと戻すことができる。
また、排水装置は、リサイクル槽にて分離された液体を濾過するフィルタを内蔵したフィルタ室と、該フィルタ室のフィルタ前方側とリサイクル槽とを連結する管路と、該管路内の液体の流通を遮断可能な遮断手段と、該遮断手段とフィルタの間に設けられた分岐路と、フィルタ室のフィルタ後方側を開閉可能な蓋とを備えているため、濃縮汚泥上に存在するリサイクル槽内の分離水をフィルタを介して濾過して清浄水として浄化槽に戻し、最後に分離水上に浮遊していたフロックを分岐路を介して汚泥槽内へと移送することができる。つまり、リサイクル槽内にて三層に分離して存在する濃縮汚泥と分離水と浮遊フロックとを、浄化槽と汚泥槽とに順次振り分けながら作業性良く排出することができる。
【0025】
請求項6に係る発明によれば、フィルタが複数枚のパンチングメタルの間に金網を挟んだ構造を有していることから、フィルタの強度を維持しながら開口率を大きくすることができ、リサイクル槽からの排水時間を短縮して作業効率を向上させることが可能となる。
また、管路及びフィルタ室が、貯槽の後端部において前後方向に連設されているため、作業終了後にフィルタ室の蓋を開けて内部を目視で確認しながら、洗浄ガンでフィルタを洗浄して目詰まりを解消することが可能となる。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、貯槽が前方から後方に向けて下向きに傾斜するように車両上に固定されているため、仕切板自体の傾斜をあまり大きくせずとも、貯槽の傾斜により仕切板の傾斜を大きくすることが可能となる。そのため、仕切板自体の傾斜を緩やかにしてリサイクル槽内の水中に浮遊するフロックを広い面積で受けて、受けたフロックを貯槽の傾斜も加わった仕切板の傾斜に沿わせて底部へと円滑に導くことができ、固液分離の効率を大きく向上させることが可能となる。
【0027】
請求項8に係る発明によれば、リサイクル槽と汚泥槽とを連通連結する配管と、排水装置に接続された排水ポンプと浄化槽内に挿入されるホースを巻回したホースリールとを連結する配管に、透視管を有していることから、透視管により配管内の汚泥濃度を目視確認することができる。そのため、リサイクル槽から汚泥槽へと濃縮汚泥を移送する時に濃縮汚泥の移送が終わったことや、リサイクル槽の清浄水を排水装置から排水ポンプにより送出してホースを介して浄化槽へと戻す時に汚泥が含まれていないことを目視確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る浄化槽汚泥処理車の全体を示す外観側面図である。
【図2】本発明に係る浄化槽汚泥処理車の全体を示す外観平面図である。
【図3】本発明に係る浄化槽汚泥処理車の全体を示す外観背面図である。
【図4】本発明に係る浄化槽汚泥処理車の全体構成を示すフローシートである。
【図5】貯槽の全体図であって、(a)は左側面図、(b)は(a)図のA−A線断面図である。
【図6】リサイクル槽の後端部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る浄化槽汚泥処理車(以下、単に処理車という)の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明に係る処理車の全体を示す外観側面図、図2は本発明に係る処理車の全体を示す外観平面図、図3は本発明に係る処理車の全体を示す外観背面図、図4は本発明に係る処理車の全体構成を示すフローシートである。
本発明に係る処理車は、浄化槽内の汚泥水を内部に収容する貯槽(1)と、この貯槽(1)に連結されて貯槽内部を減圧して貯槽内に汚泥水を取り入れる吸引機構(2)とが、車両(3)上に搭載されている。尚、図4において、破線の四角形枠で囲まれた領域内の構成が車両(3)上に搭載される部分である。
【0030】
図5は貯槽(1)の全体図であって、(a)は左側面図、(b)は(a)図のA−A線断面図である。尚、(a)図では仕切板以外の構成は省略されている。
貯槽(1)は略円筒形状のタンクであって、その内部は仕切板(4)により2つの区画(槽)に仕切られている。
仕切板(4)は図5に示すように貯槽の前方から後方に向けて下向きに傾斜するように配設されている。仕切板(4)の上部(後方)には、収容された汚泥水を固液分離させるためのリサイクル槽(12)が設けられ、下部(前方)にはリサイクル槽(12)にて分離された固形分を収容する汚泥槽(13)が設けられている。
リサイクル槽(12)の側面(助手席側)には凝集剤供給管(34)が連結されており(図4参照)、リサイクル槽(12)内に収容された汚泥水に凝集剤供給管(34)を通して凝集剤を供給することにより、汚泥水中にフロック(濃縮汚泥)が形成されて固液分離が生じる。
【0031】
本発明において使用される凝集剤は、有機系凝集剤(高分子凝集剤)と無機系凝集剤のいずれであってもよい。
高分子凝集剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の凝集剤がいずれも使用可能であり、アニオン系としてはポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、変性ポリアクリルアミド系、カチオン系としてはポリメタアクリル酸エステル系、ポリアクリル酸エステル系、ポリアミン系、ノニオン系としてはポリアクリルアミド系、変性ポリアクリルアミド系のものが挙げられる。具体的な製品としては、クリフロック(商品名、クリタ工業社製)、スーパーフロック、アコフロック(いずれも商品名、三井サイテック社製)等を例示することができる。
無機系凝集剤としては、鉄系、アルミニウム系等の金属系凝集剤、カルシウム系の粉体凝集剤(沈降剤)のいずれも使用可能であり、金属系凝集剤の製品の具体例としては、鉄系のものとしてポリテツ(商品名、日鉄鉱業社製)、アルミニウム系のものとしてポリアルミニウムクロライド(通称パック)、粉体凝集剤の製品の具体例としては、モスナイト(商品名)、スーパーナミット(商品名、ノアテック社製)、ハイパーフロック(ホウショウEG製)を例示することができる。
【0032】
本発明においては、貯槽内に回収された汚泥水の性質に応じて、上記した凝集剤から1種又は2種以上を適宜選択して貯槽内に供給することができる。尚、汚泥の種類によっては、凝集剤を供給しなくてもよい場合がある。
【0033】
仕切板(4)は、前端に貯槽(1)の前後方向中心軸(C)に対して直角上方向に延びる上向き部(41)を有し、後端に前記中心軸に対して直角下方向に延びる下向き部(42)を有しており、これら上向き部(41)と下向き部(42)の間の部分に貯槽(1)の前方から後方に向けて一定角度で下向きに傾斜する傾斜部(43)を有している。
【0034】
仕切板(4)の傾斜部(43)は、リサイクル槽(12)に回収された汚泥水に凝集剤を添加したときに、リサイクル槽(12)内で形成されたフロックを上面で受け止めて、受け止めたフロックを傾斜に沿わせて流下させて底部へと円滑に導く機能を有する。
これにより、リサイクル槽(12)内で形成されたフロックが水中に長時間浮遊することがなくなる。その結果、汚泥水の固液分離を短時間で良好に行うことが可能となり、浄化槽の汚泥処理作業の効率を大きく向上させることができる。
【0035】
傾斜部(43)の中心軸(C)に対する傾斜角度(α)は、特に限定されるものではないが、20〜30°の範囲に設定することが好ましい。これは、傾斜角度が20°未満であると傾斜部(43)に沿ってフロックを流下させる効果が発揮されにくく、30°を超えると傾斜部(43)で十分な量のフロックを受けることができなくなり、いずれの場合も好ましくないためである。
【0036】
仕切板(4)の傾斜部(43)は、図5(b)に示すように、貯槽(1)の左右方向における中央部が円弧状に窪んだ船底形状を有している。
傾斜部(43)をこのような船底形状とすることで、フロックを傾斜部(43)に沿って迅速に且つ確実に流下させることが可能となる。そのため、傾斜部の傾斜角度(α)を20〜30°という小さい角度に設定してもフロックを流下させる効果が十分に発揮できるようになる。その結果、多量のフロックを受けることとフロックを迅速に流下させることという相反する要求を両立させることが可能となる。
また、傾斜部(43)を上記船底形状とすることで、平板形状とした場合に比べて仕切板(4)の強度を格段に向上させることができる。そのため、仕切板(4)の下面側に補強を施す必要がなくなり、補強を施すことによって生じる貯槽容量の減少や車両重量の増加といった不具合が全く生じない。
傾斜部(43)の船底形状を形成する円弧状湾曲の曲率半径は、貯槽の大きさ等により適宜設定することができ特に限定されないが、例えば0.5〜1.0mの範囲に設定することが好ましい。
【0037】
仕切板(4)の前端に形成された上向き部(41)と、後端に形成された下向き部(42)は、仕切板(4)の上下端部と貯槽内面との間に汚泥やフロックが詰まることを防ぐ機能を有する。
すなわち、仕切板(4)を上向き部(41)と下向き部(42)を有さない傾斜部(43)のみの形状とした場合には、仕切板(4)の上端部と貯槽上面の間および仕切板(4)の下端部と貯槽底面の間に側面視鋭角状の空間が形成され、この空間に汚泥やフロックが詰まる虞があるが、上向き部(41)及び下向き部(42)を有することでかかる不具合を回避できる。
尚、図5(b)において、上向き部(41)及び下向き部(42)に描かれた縦線は、上向き部(41)及び下向き部(42)を補強する補強板を表している。
【0038】
本発明においては、図5(a)に示すように、貯槽(1)の後端から下向き部(42)までの距離(D1)が、貯槽(1)の前端から上向き部(41)までの距離(D2)よりも長いことが好ましい。
距離(D1)を距離(D2)よりも長く設定することにより、リサイクル槽(12)の底面を広くとることができる。
リサイクル槽(12)の底面には、汚泥水への凝集剤の添加により比重の大きいフロックが沈殿堆積する。このとき、リサイクル槽(12)の底面を広くとることで、堆積したフロックの層が過度に厚くなることがなく、底部に堆積したフロックが傾斜部(43)に沿ったフロックの流下を阻害することがない。
【0039】
貯槽(1)は、前方から後方に向けて下向きに傾斜するように車両(3)上に固定されている。
車両(3)の車台上には、上面が前方から後方に向けて下向きに傾斜した支持台(6)が設けられており、貯槽(1)はこの支持台(6)の上面に固定されることにより、その中心軸(C)が前方から後方に向けて下向きに傾斜している(図5(a)参照)。中心軸(C)の水平方向に対する傾斜角度は、例えば2°〜5°の範囲に設定される。
このように貯槽(1)を傾斜させることにより、仕切板自体の傾斜をあまり大きくせずとも、貯槽の傾斜により仕切板の傾斜を大きくすることが可能となる。
その結果、多量のフロックを受けることとフロックを迅速に流下させることという相反する要求を両立させることがより容易となる。
【0040】
図6は、リサイクル槽(12)の後端部の拡大断面図である。
リサイクル槽(12)の内部後端には、攪拌羽根(5)が配設されている。
攪拌羽根(5)は、前方に向けて延びる回転軸(51)を有しており、貯槽外部に配設されたモータ(52)の駆動により回転する。
攪拌羽根(5)は、リサイクル槽(12)内に供給された凝集剤を分散させて凝集効率を高める機能を有するとともに、攪拌羽根の駆動により生じる水流によって水中に浮遊するフロックを仕切板(4)の方へと集める機能も有している。
フロックが仕切板(4)の方へと集められることにより、多量のフロックを連続的に効率良く仕切板(4)の傾斜部(43)に沿わせて流下させることができ、固液分離の効率を大きく高めることが可能となる。
【0041】
リサイクル槽(12)の後端部には、該リサイクル槽にて分離された液体をフィルタを通して外部へと排出する排水装置(7)が連結されている。
これにより、リサイクル槽(12)から排出される液体中に含まれる固形分をフィルタにより除去して清浄水として浄化槽(S)へと戻すことができる。
【0042】
排水装置(7)は、リサイクル槽(12)にて分離された液体を濾過するフィルタ(711)を内蔵したフィルタ室(71)と、フィルタ室(71)のフィルタ前方側とリサイクル槽(12)とを連結する管路(72)と、管路(72)内の液体の流通を遮断可能な遮断手段(手動バタフライ弁)(73)と、遮断手段(73)とフィルタ(711)の間に設けられた分岐路(74)と、フィルタ室(71)のフィルタ後方側を開閉可能な蓋(75)とを備えている。また、分岐路(74)は、バルブ(9)を介して汚泥槽(13)と連通連結されている。
【0043】
リサイクル槽(12)内においては、回収された汚泥水は凝集剤の作用により凝集してフロックを形成する。このとき、比重の大きいフロックは底部に沈殿し、比重の小さいフロックは水面に浮いた状態となる。尚、水中に浮遊するフロックは、仕切板の傾斜に沿って流下するため底部に沈殿する。つまり、仕切板の作用により、リサイクル槽(12)内に形成されるフロックは短時間で上下に分離されて、中間層にはフロックが殆ど無い清浄水が存在することとなる。
【0044】
このようにリサイクル槽(12)内にて固液分離された汚泥水は、以下のような手順で連続的に排出される。
先ず、リサイクル槽(12)の底部に沈殿堆積した比重の大きいフロック(濃縮汚泥)を、バルブ(92)(図4参照)を開放することにより排水口(90)から配管(91)を介して汚泥槽(13)内へと移送する。移送状態は、配管(91)の中途部に設けた透視管(94)で確認することができる。
次いで、中間層の清浄水を、バルブ(9)を閉鎖してポンプ(63)を駆動することにより、フィルタ(711)を通過させて濾過した後、浄化槽(S)に戻す。
中間層の清浄水が排出されると、水面に浮遊していた比重の小さいフロックが底部に堆積するので、リサイクル槽(12)を加圧側に切り替えた後、バルブ(92)を開放して、このフロックを排水口(90)から配管(91)を介して汚泥槽(13)内へと移送する。
このように、リサイクル槽(12)内にて三層に分離した濃縮汚泥と清浄水と浮遊フロックとを、浄化槽(S)と汚泥槽(13)とに振り分けながら順次作業性良く排出することができる。
【0045】
フィルタ(711)は、2枚のパンチングメタルの間に金網を挟んだ構造(三層構造)を有している。
このような構造とすることで、フィルタの強度を維持しながら開口率を大きくすることができる。そのため、リサイクル槽(12)からの排水時間を短縮して作業効率を向上させることが可能となる。
【0046】
フィルタ室(71)及び管路(72)は、貯槽(1)の後端部において前後方向に直線状に連設されている(図6参照)。
これにより、作業終了後にフィルタ室(71)の蓋(75)を開けて内部を目視で確認しながら、洗浄ガン(8)でフィルタ(711)を洗浄して目詰まりを解消することが可能となる。
洗浄ガン(8)への洗浄水の供給は、水タンク(81)内の水をポンプ(82)により圧送することにより行われる(図4参照)。
【0047】
吸引機構(2)は、図4に示すように、真空ポンプ(21)と、その吸気側に設けられた逆止弁(22)と、その排気側に設けられたオイルセパレータ(23)及び補助セパレータ(25)と、一端部が二方向に分岐されて汚泥槽(13)及びリサイクル槽(12)の上部に夫々連結された配管(24)と、この配管(24)の中途部に設けられたエアクリーナ(27)と、このエアクリーナ(27)と真空ポンプ(21)の間に設けられた四方弁(28)と、この四方弁(28)の一つの弁口と接続された脱臭器(29)とを備えている。
【0048】
汚泥槽(13)に連結された配管(24)には、三方弁(30)を介して別の配管(20)が連結されており、この配管(20)は四方弁(28)と脱臭器(29)とを連結している配管と連結されている。この配管(20)は、四方弁(28)の切り替えに関係なく常に排気管として作用する。
【0049】
吸引機構(2)は、四方弁(28)が実線の位置に切り替わっているときに真空ポンプ(21)を駆動すると、配管(24)に吸引力が生じるので、リサイクル槽(12)内が減圧される。このとき、三方弁(30)の切り替えにより、汚泥槽(13)内を大気圧から減圧することができる。
尚、図4において、細い矢印は空気の流れ、太い黒矢印は濃縮汚泥の流れ、太い白矢印は水(排水)の流れ、太い斜線矢印は浄化槽からの汚泥水の流れを夫々表わしている。
【0050】
一方、四方弁(28)が破線の位置に切り替わっているときに、真空ポンプ(21)を駆動すると、配管(24)に圧送力が生じるので、リサイクル槽(12)内が加圧される。このとき、三方弁(30)の切り替えにより、汚泥槽(13)内を大気圧から加圧することができる。
リサイクル槽(12)内を加圧して三方弁(30)を排気側に切り替えることにより、リサイクル槽(12)の内容物を、排水口(90)から中途部にバルブ(92)を備えた配管(91)を介して汚泥槽(13)へと移送することができる。
【0051】
浄化槽(S)内に挿入されるホース(60)は、貯槽(1)の上部に配設されたホースリール(61)に巻回されている。
ホース(60)は、配管(35)及びバルブ(36)を介してリサイクル槽(12)と連結されるとともに、配管(37)及びバルブ(38)を介して汚泥槽(13)とも連結されている。
これら配管(35)(37)は、浄化槽(S)内に挿入されたホース(60)から汚泥水を吸引してリサイクル槽(12)及び汚泥槽(13)内へと回収する吸引管として作用する。実際の作業では、先ず浄化槽(S)の底部に存在する濃い汚泥水をホース(60)を介して汚泥槽(13)へと回収した後、上方に存在する薄い汚泥水を同じホース(60)を介してリサイクル槽(12)へと回収する。
【0052】
ホース(60)は、ホースリール(61)及び配管(62)を介してリサイクル槽(12)の後端部に設けられた排水装置(7)のフィルタ室(71)とも連結されている。
配管(62)とフィルタ室(71)との中途部には、排水ポンプ(63)、透視管(64)、バルブ(65)が設けられている。
これにより、排水ポンプ(63)を駆動してバルブ(65)を開放することによって、リサイクル槽(12)内の液体(固液分離後の清浄水)を、透視管(64)で目視確認しながらホース(60)を通して浄化槽(S)内へと排出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、浄化槽内の汚泥水から汚泥のみを回収して水は浄化槽へと戻すことができる浄化槽汚泥処理車として利用される。
【符号の説明】
【0054】
1 貯槽
12 リサイクル槽
13 汚泥槽
2 吸引機構
3 車両
4 仕切板
41 上向き部
42 下向き部
43 傾斜部
5 攪拌羽根
51 回転軸
60 ホース
61 ホースリール
62 配管
63 排水ポンプ
64 透視管
7 排水装置
71 フィルタ室
72 管路
73 遮断手段
74 分岐路
75 蓋
9 バルブ
91 配管
94 透視管
S 浄化槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化槽内の汚泥水を内部に収容する貯槽と、該貯槽に連結されて貯槽内部を減圧して貯槽内に汚泥水を取り入れる吸引機構とを具備してなる浄化槽汚泥処理車であって、
前記貯槽の内部は、前方から後方に向けて下向きに傾斜した傾斜部を有する仕切板により仕切られており、
前記仕切板の上部には汚泥水を固液分離させるためのリサイクル槽が設けられ、下部には該リサイクル槽にて分離された固形分を収容する汚泥槽が設けられており、
前記リサイクル槽の内部後端には、前方に向けて延びる回転軸を有する攪拌羽根が配設されていることを特徴とする浄化槽汚泥処理車。
【請求項2】
前記仕切板の傾斜部は、前記貯槽の左右方向における中央部が円弧状に窪んだ船底形状を有していることを特徴とする請求項1記載の浄化槽汚泥処理車。
【請求項3】
前記仕切板は、前端に前記貯槽の前後方向中心軸に対して直角上方向に延びる上向き部を有し、後端に前記中心軸に対して直角下方向に延びる下向き部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の浄化槽汚泥処理車。
【請求項4】
前記貯槽の後端から前記下向き部までの距離が、前記貯槽の前端から前記上向き部までの距離よりも長いことを特徴とする請求項3記載の浄化槽汚泥処理車。
【請求項5】
前記リサイクル槽には、該リサイクル槽にて分離された液体をフィルタを通して外部へと排出する排水装置が連結されており、
該排水装置は、前記リサイクル槽にて分離された液体を濾過するフィルタを内蔵したフィルタ室と、該フィルタ室のフィルタ前方側と前記リサイクル槽とを連結する管路と、該管路内の液体の流通を遮断可能な遮断手段と、該遮断手段と前記フィルタの間に設けられた分岐路と、前記フィルタ室のフィルタ後方側を開閉可能な蓋とを備えており、
前記分岐路は、バルブを介して前記汚泥槽と連通連結されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の浄化槽汚泥処理車。
【請求項6】
前記管路及び前記フィルタ室は、前記貯槽の後端部において前後方向に連設されており、
前記フィルタは、複数枚のパンチングメタルの間に金網を挟んだ構造を有していることを特徴とする請求項5記載の浄化槽汚泥処理車。
【請求項7】
前記貯槽は、前方から後方に向けて下向きに傾斜するように車両上に固定されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の浄化槽汚泥処理車。
【請求項8】
前記リサイクル槽と前記汚泥槽とを連通連結する配管と、前記排水装置に接続された排水ポンプと前記浄化槽内に挿入されるホースを巻回したホースリールとを連結する配管に、透視管を有していることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載の浄化槽汚泥処理車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−5370(P2011−5370A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149218(P2009−149218)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000165343)兼松エンジニアリング株式会社 (23)
【Fターム(参考)】