説明

浄化用パイプの移動体ユニット及びこれを用いた土壌の浄化方法

【課題】 小型軽量化が可能で、取扱いも容易な浄化用パイプの移動体ユニット及びこれを用いた土壌の浄化方法を提供する。
【解決手段】 1本の流体流通管2と1本のエアー供給管3とを並列に配置し、流体流通管2とエアー供給管3との両者に収縮又は拡張可能な複数の風船室4,4を上下に離間させて設け、エアー供給管3には各風船室4,4に連通するエアー出入口5を形成し、流体流通管2には各風船室4,4間に開口する流体出入口6を形成した上下に細長い移動体ユニット1を設け、土壌中に埋設され周壁に該周壁を貫通する連通孔13を有する上下に細長い浄化用パイプ11を設け、移動体ユニット1を浄化用パイプ11内に摺動可能に嵌合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素系化合物により汚染された土壌に残留する汚染物質の浄化作業に用いる浄化用パイプの移動体ユニット及びこれを用いた土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、地中に残留するトリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素系化合物(VOC)による汚染物質を除去するための地中浄化装置を開発している(特許文献1参照)。かかる地中浄化装置は、地中内に埋設される上下に細長いパイプを設け、該パイプ内に、上下に所定の間隔をおいて該パイプの周壁の一部をパイプの室内と分離する密閉状の区画室を設けるとともに、各区画室が位置するパイプの周壁に、該周壁を貫通する連通孔を設け、上部側に位置する区画室の中心部にパイプ室内を上下に貫通させる挿通孔を設け、前記パイプ内を通って各区画室を外部に設置した浄化用の設備機器に個別に接続する管体を設けたものである。
【0003】
ここで用いるパイプは、上下に区画室を多数設けると、区画室の数だけの管体をパイプ内に通す必要があるため、どうしてもある程度の太さが必要となる。実際には、外径83mm、内径71mmの鋼製のパイプを用いた。このような大径のパイプでは、重量も重く、取り扱いが容易でない。また、パイプ内に密閉状の区画室を設けているため、構造が複雑でコストも高くなる。
【特許文献1】特開2005−169279公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の目的は、小型軽量化が可能で、取扱いも容易な浄化用パイプの移動体ユニット及びこれを用いた土壌の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明による浄化用パイプの移動体ユニットは、1本の流体流通管と1本のエアー供給管とを並列に配置し、前記流体流通管とエアー供給管との両者に収縮又は拡張可能な複数の風船室を上下に離間させて設け、前記エアー供給管には各風船室に連通するエアー出入口を形成し、前記流体流通管には各風船室間に開口する流体出入口を形成した上下に細長い移動体ユニットを設け、土壌中に埋設され周壁に該周壁を貫通する連通孔を有する上下に細長い浄化用パイプを設け、前記移動体ユニットを前記浄化用パイプ内に摺動可能に嵌合させたこと、を特徴としている。
ここで、上下に離間させて設ける風船室は2個とするとよい。
流体流通管又はエアー供給管には、浄化用パイプ内に嵌合させた移動体ユニットの深さを示す目印を付すとよい。
また、本発明による浄化用パイプの移動体ユニットを用いた地中浄化方法は、上記した浄化用パイプの移動体ユニットを設け、浄化用パイプの連通孔と浄化用パイプ内に嵌合させた移動体ユニットの流体出入口とを位置合わせし、この状態でエアー供給管を介して各風船室に圧縮空気を供給し各風船室を拡張させて移動体ユニットを浄化用パイプ内壁に固定し、次いで、流体流通管、流体出入口、浄化用パイプの連通孔を介してガス又は液体を土壌中に注入又は吸引すること、を特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明による浄化用パイプの移動体ユニットによれば、1本の流体流通管と1本のエアー供給管とを並列に配置し、その両者に複数の風船室を上下に離間させて設けた移動体ユニットを浄化用パイプ内に摺動可能に嵌合させるようにしたので、浄化用パイプに多数の連通孔を設けた場合でも、所望の連通孔の位置に移動体ユニットを移動させて浄化作業を行うことができる。浄化用パイプは、連通孔を設けるだけの極めて簡単な構造で、パイプを太くする必要もない。従って、小型軽量化を図ることができ、取り扱いも容易で、コストも低く抑えることができる。
上下に離間させて設ける風船室を2個とすれば、浄化用パイプに設けた1つ1つの連通孔に、移動体ユニットをその都度位置合わせして浄化作業を行うのに都合がよい。
流体流通管又はエアー供給管に、浄化用パイプ内に嵌合させた移動体ユニットの深さを示す目印を付しておけば、土壌中に埋設した浄化用パイプ内で移動ユニットが位置する深さを容易に知ることができる。
また、本発明による浄化用パイプの移動体ユニットを用いた土壌の浄化方法によれば、浄化用パイプの連通孔と移動体ユニットの流体出入口とを位置合わせして移動体ユニットを浄化用パイプ内壁に固定し、次いで、流体流通管、流体出入口、浄化用パイプの連通孔を介してガス又は液体を土壌中に注入又は吸引するようにしたので、1個の移動体ユニットを浄化用パイプ内で移動させるだけで浄化用パイプに設けた全ての連通孔に対応でき、所望の連通孔を通して浄化作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しつつ具体的に説明する。図1は浄化用パイプに移動体ユニットを取り付ける様子を示す説明図、図2は第1実施例による移動体ユニット及びこれを浄化用パイプ内に固定した状態の一部断面説明図、図3は図2のIII−III拡大断面図、図4は第2実施例による図2相当の一部断面説明図、図5は図4のV−V拡大断面図、図6は掘削穴に浄化用パイプを埋設した状態の説明図、図7は浄化用パイプを用いて掘削穴の泥状液充填層に横穴を開ける様子を示す断面説明図、図8は複数の浄化用パイプを用いた浄化作業の様子を示す説明図である。
【0008】
移動体ユニット1は、ガス又は液体の流路となるステンレス製パイプからなる1本の流体流通管2とエアーの流路となるステンレス製パイプからなる1本のエアー供給管3とを並列に配置し、流体流通管2とエアー供給管3との両者を貫通して収縮又は拡張可能な2個の風船室4,4を上下に離間させて設けてある。そして、エアー供給管3には各風船室4,4に連通するエアー出入口5,5を形成し、流体流通管2には上下風船室4,4の間に開口する流体出入口6を形成してある。
【0009】
より具体的には、上下の風船室4,4は、流体流通管2とエアー供給管3とをステンレス製の口金7で並列に固定し、ゴム製チューブ8で包囲し口金部を銅製締め具9で締め付けて上下2箇所に設けてある。
【0010】
図1〜図3に示した第1実施例による移動体ユニット1においては、その外径は18mm、1個の風船室4の上下の寸法は100mm、上下風船室4,4間の寸法は100mmである。図4〜図5に示した第2実施例による移動体ユニット1においては、外径は第1実施例によるものと同じであるが、上下風船室4,4間の寸法を10〜15mm程度と短くしてある。これにより、浄化用パイプの連通孔のピッチを狭くした場合でも対応できるようにしてある。
【0011】
流体流通管2の上端には、ポリテトラフルオロエチレン製の流体ホース10を接続してあり、浄化用パイプ11内を通って外部の浄化用機器(オゾン発生機、真空ポンプ、水供給装置など)に接続される。また、エアー供給管3の上端には、ポリテトラフルオロエチレン製のエアーホース12を接続してあり、浄化用パイプ11内を通って外部の圧縮空気供給機器に接続される。なお、流体ホース10又はエアーホース12には、浄化用パイプ11内に嵌合した移動体ユニット1の深さを示す目印を付しておくとよい。
【0012】
浄化用パイプ11はステンレス製など金属製のパイプで、周壁には、該周壁を貫通する連通孔13が所定のピッチで設けてあり、下端部には先端部材14を取り付けてある。連通孔13には、土砂は通さないが、ガスや液体は通すフィルター(図示せず)が設けてある。
浄化用パイプ11の寸法は、例えば外径27.2mm、内径21.4mm、連通孔13のピッチ250mmで、上下の長さは浄化作業を行う地中の深さ(例えば3〜6m)に応じて適宜の寸法とする。なお、第2実施例による移動体ユニット1を用いる場合には、連通孔13のピッチを例えば25mmと非常に狭い間隔として、狭い範囲を重点的に浄化するのに適する。
【0013】
なお、上記した移動体ユニット1や浄化用パイプ11の説明で示した材質や寸法は、一例であって適宜変更可能である。
【0014】
従来例による浄化パイプの外径83mmに対して、本実施例による浄化用パイプ11の外径は27.2mmであるので、断面積にして約1割の浄化用パイプで済み、大幅な小型軽量化が実現できた。このように小型軽量化できるので、人の手での作業も容易である。
【0015】
移動体ユニット1は、上下風船室4,4の収縮時には、その外径が浄化用パイプ11の内径よりも小さく形成してあり、浄化用パイプ11内には突起物等の障害物はないので、浄化用パイプ11内を自由に摺動できる。一方、エアー供給管3を介してエアー出入口5,5から圧縮空気を上下風船室4,4内に送り込むと、上下風船室4,4はゴム製チューブ8が拡張して浄化用パイプ11内壁に密着してシールし、移動体ユニット1は浄化用パイプ11内に固定されることになる。このとき、上下風船室4,4間には、浄化用パイプ11内壁との間に密閉された空間15が形成され、流体流通管2の流体出入口6が開口している。
浄化用パイプ11に設けた連通孔13の位置と移動体ユニット1の流体出入口6の位置とを対応させて移動体ユニット1を浄化用パイプ11内に固定すれば、浄化用パイプ11の連通孔13、密閉空間15、流体出入口6、流体流通管2、流体ホース10を介してガスや水等の液体を土壌中に注入又は吸引することができ、浄化作業を行うことができる。
【0016】
なお、土壌中にガスや液体を注入する際の圧力は、上下風船室4,4の空気圧より小さい圧力として、上下風船室4,4間の密閉空間15の気密性が失われないようにする。
上下風船室4,4の空気圧は、0.2〜0.6MPa程度とする。
【0017】
図6は、掘削穴内に浄化用パイプ11を埋設した状態を示すが、掘削穴が崩れるのを防ぐため、掘削穴内には、水とベントナイトと場合により砂の泥状液が充填(16)されている。
土壌中の揮発性有機塩素系化合物を浄化するには、土壌中にオゾンガスを注入する必要がある。ところが、泥状液充填層16はガスを通さないので、連通孔13からオゾンガスを注入しても、そのままでは土壌中にオゾンガスを注入することができない。このため、連通孔13の周囲の泥状液充填層16にガスが通過可能な横穴を開ける必要がある。そのために、浄化用パイプ11の連通孔13から泥状液充填層16に水を注入してベントナイトを溶かし、溶けたベントナイトを吸引除去する工程を繰り返す。
【0018】
より具体的には、浄化用パイプ11の連通孔13の位置と浄化用パイプ11内の移動体ユニット1の流体出入口6の位置とを対応させ、この状態で、エアー供給管3を介して圧縮空気を送って上下の風船室4,4を膨らませて浄化用パイプ11内壁に密着させてシールし、移動体ユニット1を浄化用パイプ11内に固定する。この状態で、流体流通管2を通して水を注入し、連通孔13から該連通孔13の周囲の泥状液充填層16中に水を注入する。ベントナイトは水に溶けるので、これを連通孔13から吸引して溶けたベントナイトを吸引除去する。この水の注入と、溶けたベントナイトの吸引除去を繰り返して、泥状液充填層16にガスが通過可能な横方向の穴17を形成する(図7)。
【0019】
横穴17が形成されたか否かを確認するには、流体流通管2を通して空気を土壌中に注入して、その圧力の変化の様子から判断できる。圧力が下がらなければ横穴はまだ十分に形成されていないので、水の注入と、水とベントナイトとの吸引除去を繰り返して、横穴17が形成されるまで、上記の作業を繰り返す。
浄化作業に先立って、上記のようにして、所望の連通孔13の周囲の泥状液充填層16に横穴17を形成しておく。
【0020】
次に、図8に示すように、所定深さに埋設した3本の浄化用パイプ11a,11b,11cを用いて浄化作業を行う場合を例に説明する。
浄化作業を行おうとする深さにある浄化用パイプ11の連通孔13と浄化用パイプ11内に嵌合させた移動体ユニット1の流体出入口6とを位置合わせし、この状態でエアー供給管3を介して各風船室4,4に圧縮空気を供給し各風船室4,4を拡張させて移動体ユニット1を浄化用パイプ11内壁に固定する。次いで、流体流通管2、流体出入口6、浄化用パイプの連通孔13を介してオゾンガスを土壌中に注入する(浄化用パイプ11a,11c)。一方、浄化用パイプ11a,11cの中間に位置する浄化用パイプ11bでは、浄化用パイプ11bの連通孔13を介して吸引する。これにより、浄化用パイプ11a,11cから浄化用パイプ11bに向かうガスの流れが生じる。
このように、浄化用パイプ毎にオゾンガスの注入と吸引とを分担することにより、ガスの流通を円滑にすることができ、浄化の進捗状況を確認しながら、浄化作業を効率的に行うことができる。
【0021】
なお、オゾンガスを土壌中に注入することにより、土壌中に残留する揮発性有機塩素系化合物が浄化されるメカニズムを簡単に説明しておく。オゾンガスにより、土壌中に残留するトリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素系化合物は、塩素、塩化水素、ジクロロ酢酸などに酸化分解されて浄化されるが、その時の反応熱により、土壌中に残留するトリクロロエチレンが気化し、ガスの流れに乗って浄化用パイプ11bに吸引される。この吸引されたガスの濃度をガス検知管などで測定することにより、浄化の進捗状況を確認しながら、浄化作業を進めることができる。オゾンガスを注入した初期段階では、吸引ガス中のトリクロロエチレン濃度は高い値を示すが、浄化が進んで残留するトリクロロエチレンが減ってくると、吸引ガス中のトリクロロエチレンの濃度は低くなってくる。これにより、浄化の進捗状況を確認することができる。
【0022】
図に示した移動体ユニット1は、風船室4を上下に2カ所設けているが、上下に離間して3カ所以上設けることもできる。その場合、流体出入口を上下に2カ所以上設けることができるので、浄化用パイプ11に設ける連通孔13のピッチを上下流体出入口のピッチに合わせれば、上下2カ所以上で同時に浄化作業を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】浄化用パイプに移動体ユニットを取り付ける様子を示す説明図。
【図2】第1実施例による移動体ユニット及びこれを浄化用パイプ内に固定した状態の一部断面説明図。
【図3】図2のIII−III拡大断面図。
【図4】第2実施例による図2相当の一部断面説明図。
【図5】図4のV−V拡大断面図。
【図6】掘削穴に浄化用パイプを埋設した状態の説明図。
【図7】浄化用パイプを用いて掘削穴の泥状液充填層に横穴を開ける様子を示す断面説明図。
【図8】複数の浄化用パイプを用いた浄化作業の様子を示す説明図。
【符号の説明】
【0024】
1 移動体ユニット
2 流体流通管
3 エアー供給管
4 風船室
5 エアー出入口
6 流体出入口
7 口金
8 ゴム製チューブ
9 締め具
10 流体ホース
11 浄化用パイプ
12 エアーホース
13 連通孔
14 先端部材
15 空間
16 泥状液充填層
17 横穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の流体流通管と1本のエアー供給管とを並列に配置し、前記流体流通管とエアー供給管との両者に収縮又は拡張可能な複数の風船室を上下に離間させて設け、前記エアー供給管には各風船室に連通するエアー出入口を形成し、前記流体流通管には各風船室間に開口する流体出入口を形成した上下に細長い移動体ユニットを設け、土壌中に埋設され周壁に該周壁を貫通する連通孔を有する上下に細長い浄化用パイプを設け、前記移動体ユニットを前記浄化用パイプ内に摺動可能に嵌合させたことを特徴とする浄化用パイプの移動体ユニット。
【請求項2】
上下に離間させて設ける風船室は2個とした請求項1に記載の浄化用パイプの移動体ユニット。
【請求項3】
流体流通管又はエアー供給管には、浄化用パイプ内に嵌合させた移動体ユニットの深さを示す目印を付してある請求項1又は2に記載の浄化用パイプの移動体ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の浄化用パイプの移動体ユニットを設け、浄化用パイプの連通孔と浄化用パイプ内に嵌合させた移動体ユニットの流体出入口とを位置合わせし、この状態でエアー供給管を介して各風船室に圧縮空気を供給し各風船室を拡張させて移動体ユニットを浄化用パイプ内壁に固定し、次いで、流体流通管、流体出入口、浄化用パイプの連通孔を介してガス又は液体を土壌中に注入又は吸引することを特徴とする浄化用パイプの移動体ユニットを用いた土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−61663(P2007−61663A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206212(P2005−206212)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(591211711)カルト株式会社 (20)
【Fターム(参考)】