説明

浄水方法、飲料水の製造方法、浄水装置および飲料水の製造装置

【課題】逆浸透膜と銀ゼオライトを併用することにより、飲用に適した水を安定的に供給するための手段を提供すること。
【解決手段】被処理水を逆浸透膜に通過させること、逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加すること、および、陽イオンを添加した被処理水を銀ゼオライト含有粒子と接触させること、を含む浄水方法。上記浄水方法により被処理水を浄水することを特徴とする飲料水の製造方法。逆浸透膜と、銀ゼオライト含有粒子充填部と、を有する浄水装置および飲料水の製造方法。逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部との間に、逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加する陽イオン添加手段を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水を浄水することにより飲用に適した水を製造可能な浄水方法および浄水装置に関する。
更に本発明は、飲料水の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に伴う水源水質の悪化によって飲料水に様々な不純物が残留することに起因して、カルキ臭やカビ臭等の異臭味被害が発生している。また、残留塩素に起因して生成するトリハロメタンは発ガン性を有することが知られている。したがって、より安全でおいしい水を得るためには、適当な方法で対象水を浄化(浄水)することが好ましい。
【0003】
浄水方法としては、原水を逆浸透膜に透過する方法が広く用いられている(例えば特許文献1および2参照)。上記方法は、水中の有機物、無機イオン、細菌、ウイルス等、多くの不純物を除去することが可能な優れた浄化方法である。
【0004】
一方、浄水用に使用される殺菌剤としては、有機系殺菌剤と比較して安全性、耐熱性および殺菌効果の持続性に優れる殺菌剤として、銀イオンを殺菌成分とした銀ゼオライトが知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−272693号公報
【特許文献2】特開2008−23481号公報
【特許文献3】特開2005−313151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、逆浸透膜を使用する浄水方法によれば、原水中の不純物を高度に除去することができる。しかし、逆浸透膜のみでは殺菌効果は不十分であるため、原水の水質によっては飲用に適した水を得ることが困難となる。
そこで本発明者らは、逆浸透膜を通過させた原水を銀ゼオライトと接触させることにより、原水中の不純物除去と殺菌処理を両立することを検討した。しかしその結果、上記方法では、銀ゼオライトを使用するにもかかわらず殺菌効果が不十分であることが新たに判明した。
【0007】
かかる状況下、本発明の目的は、逆浸透膜と銀ゼオライトを併用することにより、飲用に適した水を安定的に供給するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
銀ゼオライトは、被処理水中に殺菌成分である銀イオンを溶出することにより殺菌効果を発揮することができる。この銀イオンの溶出メカニズムはイオン交換反応であり、水相中の陽イオン(ゼオライト中の銀イオンとイオン交換可能な陽イオン)の含有量により、ゼオライトからの銀イオンの溶出量が決定される。一方、原水は逆浸透膜を通過することにより塩類が除去されるため、逆浸透膜通過により陽イオン濃度が低下する。本発明者らは、この陽イオン濃度の低下により、被処理水中で銀イオンとイオン交換する陽イオンが不足することが、銀イオンによる殺菌効果が十分に発揮されない理由であると推察した。
本発明者らは、上記知見に基づき更に検討を重ねた結果、逆浸透膜通過後の被処理水に、銀イオンとイオン交換し得る陽イオンを添加することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]被処理水を逆浸透膜に通過させること、
逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加すること、および、
陽イオンを添加した被処理水を銀ゼオライト含有粒子と接触させること、
を含む浄水方法。
[2]前記陽イオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一種である[1]に記載の浄水方法。
[3]銀ゼオライト含有粒子と接触した後の被処理水中の銀イオン濃度は、5〜35μg/Lの範囲である[1]または[2]に記載の浄水方法。
[4]銀ゼオライト含有粒子と接触させる被処理水中の前記陽イオン濃度は、10〜1000mg/Lの範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載の浄水方法。
[5]前記銀ゼオライト含有粒子は、0.5〜10質量%の銀を含有する[1]〜[4]のいずれかに記載の浄水方法。
[6]前記陽イオン添加後の被処理水を、銀ゼオライト含有粒子を充填したカラムに通過させることにより被処理水と銀ゼオライト含有粒子とを接触させる[1]〜[5]のいずれかに記載の浄水方法。
[7]前記陽イオン添加後の被処理水を、50〜2000L/hrの流速で前記カラムに通過させる[6]に記載の浄水方法。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の方法により被処理水を浄水することを特徴とする飲料水の製造方法。
[9]逆浸透膜と、銀ゼオライト含有粒子充填部と、を有する浄水装置であって、
逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部との間に、逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加する陽イオン添加手段を含む、前記浄水装置。
[10]前記銀ゼオライト含有粒子充填部は、銀ゼオライト含有粒子を充填したカラムである[9]に記載の浄水装置。
[11]逆浸透膜と、銀ゼオライト含有粒子充填部と、を有する飲料水の製造装置であって、
逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部との間に、逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加する陽イオン添加手段を含む、前記製造装置。
[12]前記銀ゼオライト含有粒子充填部は、銀ゼオライト含有粒子を充填したカラムである[11]に記載の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、逆浸透膜および銀ゼオライト含有粒子という汎用の手段を使用するため操作性および経済性が高く、多くの原水に効果的に適用可能な浄水方法および浄水装置、ならびに飲料水の製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の装置の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[浄水方法、飲料水の製造方法]
本発明の浄水方法は、以下の工程を含むものである。
(1)被処理水を逆浸透膜に通過させること、
(2)逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加すること、および、
(3)陽イオンを添加した被処理水を銀ゼオライト含有粒子と接触させること。
更に本発明は、上記浄水方法により、被処理水を浄水することを特徴とする飲料水の製造方法に関する。
【0013】
本発明の浄水方法では、被処理水中の各種不純物を除去した後、銀イオンとイオン交換し得る陽イオンを添加した被処理水を銀ゼオライト含有粒子と接触させることにより、逆浸透膜による不純物除去後の被処理水中に、良好な殺菌効果を発揮し得る量の銀イオンを銀ゼオライトから溶出させることができる。
以下、上記工程(1)〜(3)について順次説明する。
【0014】
工程(1)
工程(1)は、被処理水中に含まれていた不純物を除去するために、被処理水を逆浸透膜に通過させる工程である。逆浸透膜に通過させる被処理水は、例えば、水道水、天然水、海洋深層水などの海水から脱塩した水や精密ろ過膜、限外ろ過膜等でろ過処理された水であることができる。
【0015】
逆浸透膜とは、被分離混合液中の一部の成分、例えば溶媒を透過させ他の成分を透過させない半透性の膜である。ナノフィルトレーション膜またはルースRO膜なども広い意味では逆浸透膜に含まれる。逆浸透膜の素材としては、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材が一般に使用されている。またその膜構造としては、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、精密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い活性層を有する複合膜等がある。膜形態には中空糸、平膜がある。中空糸、平膜の膜厚は10μm〜1mm、中空糸の外径は50μm〜4mmであることが、不純物除去能の点から好ましい。また平膜では非対称膜、複合膜は織物、編み物、不織布などの基材で支持されていることが好ましい。但し、本発明においては、逆浸透膜は、その素材、膜構造や膜形態によらず使用することができる。逆浸透膜の具体例としては、例えば酢酸セルロース系やポリアミド系の非対称膜およびポリアミド系、ポリ尿素系の活性層を有する複合膜などが挙げられる。
【0016】
逆浸透膜が平膜の場合には、スパイラル、チューブラー、プレート・アンド・フレーム型の逆浸透膜エレメントとして、また中空糸の場合には束ねた上でケースに組み込んだ逆浸透膜エレメントとして使用することができるが、本発明はこれらの逆浸透膜エレメントの形態に左右されるものではない。
【0017】
また、逆浸透膜エレメントは、スパイラル形状では供給水流路材、透過水流路材などの部材を組み込むことができる。例えば、供給水流路材として、菱目を有する網体を用いれば、供給水の流れが乱されるため、濃度分極層の厚みを低減することができ、高濃度の溶質を含む供給水に対して有効である。また、透過水流路材として透過水の流路を構成する溝を有するポリエステル繊維のタフタを用いたり、この溝を有する面に不織布などを重ねたりして用いると、高圧時にも膜の変形や落ち込みによる性能低下を効果的に防ぐことができる。
【0018】
被処理水を逆浸透膜に通過させる操作は、作業効率の点から、送液ポンプにより圧力を加えて行うことが好ましい。被処理水の通過時に逆浸透膜に加える圧力は、例えば0.1MPa〜15MPa程度であるが、逆浸透膜からの被処理水の回収率を考慮して決定すればよく上記範囲に限定されるものではない。上記回収率は、被処理水中の不純物濃度、浸透圧等に応じて、例えば5〜98%までの範囲で設定することができる。
【0019】
逆浸透膜に通過させる被処理水の水温は、0℃より低温では被処理水が凍結し逆浸透膜を通過することができず、100℃より高温では被処理水の蒸発が起こるため、0〜100℃の範囲とすることが好ましい。
【0020】
逆浸透膜は、1段で使用することもでき、供給される被処理水に対して直列および/または並列に多段に配列することもできる。直列に配列する場合は各段の間に昇圧ポンプを設置することができる。供給される処理液に対して直列に配列した場合には逆浸透膜と被処理水が接触する時間が長くなるため、不純物の除去効率を高めることができる。逆浸透膜に供給された被処理水のうち膜を透過しなかった部分は濃縮水として処理工程から取り出すことができる。この濃縮水は用途に応じて処理した後に廃棄したり、さらに他の方法で濃縮することも可能である。また、濃縮水はその一部または全てを循環させ、再度逆浸透膜に供給することもできる。膜を通過した被処理水の一部も用途に応じて廃棄したり、そのまま利用したり、あるいは循環させ、再度逆浸透膜に供給することもできる。
【0021】
工程(2)
工程(1)では不純物を被処理水から除去することができるが、逆浸透膜により除去される物質には塩類も含まれる。したがって、逆浸透膜通過後の被処理水をそのまま銀ゼオライト含有粒子と接触させると、銀ゼオライト中の銀イオンとイオン交換する陽イオンの不足により、殺菌に十分な量の銀イオンを被処理水中に安定的に溶出することが困難となる。そこで本発明では、工程(2)において逆浸透膜透過後の被処理水中に、銀イオンとイオン交換し得る陽イオン(以下、「非銀陽イオン」ともいう)を添加する。これにより、後述の工程(3)において、被処理水中で上記陽イオンと銀イオンのイオン交換反応を良好に進行させることができるため、銀イオンによる殺菌効果を長期にわたり安定に維持することが可能となる。
【0022】
非銀陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等を挙げることができるが、ゼオライト中の銀イオンとイオン交換可能な陽イオンであればよく、上記において例示した陽イオンに限定されるものではない。
【0023】
非銀陽イオンは、逆浸透膜を通過した被処理水に塩の状態で添加することができる。または、塩を溶解した水溶液の状態で被処理水に添加することもできる。更には、逆浸透膜通過後の被処理水を2つの配管に分離し、一方の配管を流れる被処理水に塩類を添加した後、2つの配管を合流させることにより、銀ゼオライト含有粒子との接触前の被処理水中の非銀陽イオン濃度を高めることも可能である。添加する塩類としては、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのナトリウム塩類、塩化カリウム、炭酸カリウムなどのカリウム塩類、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどのマグネシウム塩類、塩化カルシウムなどのカルシウム塩類が挙げられる。
【0024】
後述するように、銀ゼオライト含有粒子と接触した後の被処理水中の銀イオン濃度は、5〜35μg/Lとすることが好ましく、上記好ましい範囲の濃度で銀イオンを溶出させるためには、銀ゼオライト含有粒子と接触させる被処理水中の非銀イオン濃度は、10〜1000mg/Lとすることが好ましい。したがって、逆浸透膜を通過した被処理水に添加する塩類の量は、銀ゼオライト含有粒子と接触させる直前の被処理水中の非銀陽イオン濃度が上記好ましい範囲となるように設定することが好ましい。添加する塩類の量は、予備実験を行い逆浸透膜通過後の被処理水中の非銀陽イオン濃度を測定することにより実操作前に決定してもよく、実操作において逆浸透膜透過後の被処理水中の非銀陽イオン濃度をリアルタイムでモニターし、モニター結果に基づき所定量の塩類を系内に適宜供給してもよい。
【0025】
工程(3)
工程(3)は、工程(2)において非銀陽イオンを添加した被処理水を銀ゼオライト含有粒子と接触させる工程である。本工程において、被処理水中の非銀陽イオンと銀ゼオライト中の銀イオンがイオン交換することにより、殺菌成分である銀イオンが被処理水中に溶出される。これにより、銀イオンの殺菌効果により、工程(1)により不純物が除去された被処理水を殺菌することができる。
【0026】
銀ゼオライトとは、銀を担持したゼオライトであり、被処理水中の非銀陽イオンとのイオン交換により、担持した銀を銀イオンとして被処理水中に溶出することができる。なお、ゼオライトに担持された銀は、還元して金属銀、塩素化して塩化銀、硫化して硫化銀にしてもよく、存在状態はイオンに限定されるものではない。
【0027】
銀を担持するゼオライト(アルミノケイ酸塩)としては、例えば、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、T型ゼオライト、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノプチロライト、チャバサイト、エリオナイト等の天然産出品、人工ゼオライトと呼ばれる半合成品や化学合成品をいずれも使用できる。なお銀を担持する銀系殺菌剤としてゼオライト系物質以外に銀ガラス、銀リン酸ジルコニウム、銀シルカゲル、銀アパタイト、銀微粒子、プロテイン銀、スルファジアジン銀などがあるが、銀ゼオライトは、上記銀系殺菌剤と比べて殺菌効果の安定性および持続性が高い点で優れている。したがって本発明では、被処理水の殺菌のために銀ゼオライトを使用する。更に本発明では、前述の工程(2)を経ることにより、銀ゼオライトの殺菌効果の安定性および持続性を高めることができるため、被処理水を長期間にわたり効果的に殺菌することができる。
【0028】
本発明において使用される銀ゼオライト含有粒子は、銀ゼオライトそのものであってもよく、銀ゼオライトと他成分を含む粒子であってもよい。上記他成分としては、ゼオライト、バインダー等を挙げることができる。例えば、銀ゼオライトをゼオライトおよびバインダーと混合したうえで公知の方法で粒状に成型することにより、銀ゼオライト含有粒子を得ることができる。銀ゼオライト含有粒子の粒子径は、通水により適量の銀を溶出する観点から、1〜5mmが好ましい。
【0029】
銀ゼオライトとしては、市販品を使用することもでき、公知の方法で製造したものを使用することもできる。銀ゼオライトの製造方法としては、湿式法および乾式法が知られている。湿式法は、予め調製した銀イオンを含む溶液にゼオライトを投入して、液相でゼオライト中のイオン交換可能なイオンと銀イオンを置換させる。投入時の液温は、好ましくは10〜70℃、より好ましくは40〜60℃で、好ましくは3〜32時間、より好ましくは10〜24時間、バッチ式またはカラム法などの連続式でゼオライトを液相と接触させることにより、銀イオンを置換させることができる。なお銀イオンを含む溶液のpHは、好ましくは3〜10、より好ましくは5〜7に調整することが適当である。銀イオンを含む溶液は、通常、銀塩を含む水溶液として供給される。銀塩としては、例えば、硝酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、ジアンミン銀硝酸塩、ジアンミン銀硫酸塩等を用いることができる。
【0030】
ゼオライト中の銀の担持量は、反応させる際の銀イオンを含む溶液中の銀イオン濃度によって調整できる。例えば、溶液の銀イオン濃度を0.005M/L〜0.15M/Lとすることによって、銀イオン含有量0.1〜5.0質量%の銀ゼオライトを得ることができる。なおゼオライトと反応させる銀イオンを含む溶液の中に、銀イオン以外の陽イオンを添加することもできる。例えば、亜鉛イオン、銅イオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオンなどを添加することで、銀イオンを担持したゼオライトの化学的安定性を増すことができる。これら各種陽イオンは、銀イオンを含む溶液にこれらイオンを追加することにより、容易にゼオライトに担持させることができる。
【0031】
乾式法は、ゼオライトと銀塩粒子を混合した後に加熱処理することで、銀塩中の陰イオンを除去して銀担持ゼオライトを得る方法である。なお銀塩粒子の代わりに、少量の水で溶解した銀塩水溶液を用いることもできる。上記加熱処理は、例えば200〜700℃、好ましくは400〜600℃で、例えば20〜120分間、好ましくは30〜50分間行うことができる。乾式法で使用する銀塩としては、先に湿式法で使用可能な銀塩として例示したものが挙げられる。
【0032】
飲用に好適な水を製造するために十分な殺菌効果を得る観点からは、銀ゼオライト含有粒子との接触後の被処理水中の銀イオン濃度は5μg/L以上であることが好ましい。一方、銀イオン濃度が100μg/L以下であれば飲用に適用可能である。ただし、銀ゼオライト含有粒子の剤寿命の点からは、銀ゼオライト含有粒子との接触後の被処理水中の銀イオン濃度は35μg/L以下とすることが好ましい。
【0033】
銀ゼオライト含有粒子との接触後の被処理水中の銀イオン濃度は、(a)銀ゼオライト含有粒子と接触させる被処理水中の非銀陽イオン濃度、(b)銀ゼオライト含有粒子中の銀含有量、(c)銀ゼオライト含有粒子と被処理水との接触条件、によって制御することができる。上記(a)の好ましい範囲については、先に説明した通りである。
【0034】
上記(b)については、銀ゼオライト含有粒子中の銀含有量は、0.5〜10質量%とすることが好ましい。銀ゼオライト含有粒子中の銀含有量は、銀ゼオライトの製造条件および銀ゼオライト含有粒子の処方(他成分との混合比)によって制御することができる。
【0035】
銀ゼオライト含有粒子と被処理水との接触は、バッチ式またはカラム法などの連続式で行うことができる。バッチ式、連続式のいずれにおいても、被処理水の水温は、5〜60℃とすることが好ましい。バッチ式の場合、被処理水中に、被処理水100質量部に対して0.1〜2.5質量部の銀ゼオライト含有粒子を投入し、3〜12時間攪拌混合することが好ましい。一方、連続式の場合には、銀ゼオライト含有粒子を充填したカラムに、50〜2000(SV値;単位L/hr)の流速で被処理水を通水することが好ましい。また、通水する被処理水の総量100質量部に対して0.01〜0.25質量部の銀ゼオライト含有粒子をカラムに充填することが好ましい。
【0036】
以上の工程により、不純物が除去され、かつ銀イオンによる殺菌効果が良好に発揮された水を長期にわたり安定的に得ることができる。本発明の浄水方法は、飲料水の製造方法として好適である。本発明の浄水方法によれば、塩素殺菌を使用することなく殺菌を行うことができるため、トリハロメタン発生を防止することができ、飲用に適した安全な水を得ることができる。更に本発明の浄水方法は、海水の淡水化、かん水の淡水化、工業用水の製造、超純水、純水の製造、医薬用水の製造、食品の濃縮、水道原水の除濁、水道における高度処理、家庭用水の浄化のためにも使用することができる。
【0037】
[浄水装置、飲料水の製造装置]
本発明の浄水装置および飲料水の製造装置は、逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部とを有し、更に、逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部との間に、逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加する陽イオン添加手段を含む。逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部との間に、非銀陽イオンを添加する手段を含むことにより、先に説明したように、不純物が高度に除去され、かつ銀イオンにより殺菌された水を長期にわたり安定的に供給することができる。上記装置は、本発明の浄水方法および飲料水の製造方法を実施するための装置として好適である。
【0038】
以下、図面に基づき本発明の浄水装置および飲料水の製造装置(以下、これらをまとめて「本発明の装置」と呼ぶ)について説明する。ただし本発明は、図面に示す態様に限定されるものではない。
【0039】
図1は、本発明の装置の一例を示す概略説明図である。図1に示す装置に通水される被処理水は、送液ポンプ1、逆浸透膜エレメント2、銀ゼオライト含有粒子充填部4(例えば銀ゼオライト含有粒子を充填したカラム)の順に通過することにより浄水される。更に、逆浸透膜エレメント2と銀ゼオライト含有粒子充填部4の間に設けられた非銀陽イオン添加手段3により、銀ゼオライトに担持された銀とイオン交換し得る陽イオンが添加される。
【0040】
逆浸透膜エレメント2の詳細は、前述の通りである。送液ポンプ1は、先に説明したように、逆浸透膜エレメント2に被処理水を送液する際、圧力を加えることにより作業効率を高めることができる。
【0041】
非銀陽イオン添加手段4は、逆浸透膜エレメント2を通過した被処理水に所定量の塩を添加する。塩類の添加の詳細も、先に説明した通りである。
【0042】
図1に示す装置は、送液ポンプ1の前に給水口を、銀ゼオライト含有粒子充填部4の後に排水口を設けることにより連続通水可能な構成とすることができる。また、給水口および/または排水口に貯水タンクを接続し、原水または浄水処理済の被処理水を貯水する構成としてもよい。更に、送液ポンプ1の前および/または銀ゼオライト含有粒子充填部4の後に、ろ過フィルター、薬剤添加部等の前処理または後処理部を設けることも可能である。
【0043】
本発明の装置は、家庭用の浄水器として使用することができ、または工業用の大規模装置として使用することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0045】
[参考例]
銀ゼオライト含有粒子の調製
以下の方法により、銀ゼオライト含有ビーズを調製した。
市販のA型ゼオライト(Na2O・Al2O3・2SiO2・XH2O;平均粒子径1.5μm)を110℃で乾燥した粉体1kgに水を加えて、1.3Lのスラリーとし、その後撹拌した。適量の硝酸水溶液と水を添加してpH5〜7に調整した。次いで、上記スラリーを硝酸銀の0.29M/L水溶液3Lに投入し、50℃で24時間撹拌し続けて平衡状態に到達させた。反応終了後にアルミノケイ酸塩をろ過・水洗して過剰な銀イオンなどを除去した。得られたアルミノケイ酸塩相を110℃で乾燥して銀ゼオライトを得た。得られた銀ゼオライトの銀量を、原子吸光装置により測定したところ、10.5質量%であった。得られた銀ゼオライト(X)、A型ゼオライト(A)と粘土系バインダー(B)を表1に示す割合で混合し成型し、銀イオン担持アルミノケイ含有ビーズ(抗菌剤)および比較サンプルビーズ(No.0-BGL)を得た。
【0046】
【表1】

成型条件:上記配合比で均一になるまで混合した後に、粒径1〜2.2mmの球状にした。これを160℃で6時間加熱することにより成型した。
【0047】
[比較例1]
原水(水道水)を、加圧ポンプでポリアミド系の逆浸透膜(日東電工製)の装置に送り逆浸透膜処理した。処理条件は、水温25℃、水圧1.5MPaとした。上記方法により逆浸透膜処理した水(以下、「試験水(1)」という)は、塩類が高度に除去されているため非銀陽イオンは実質的に含まれないと判断することができる。確認のため試験水(1)中のNaイオン、Kイオン、CaイオンおよびMgイオン量を、原子吸光装置にて測定したところ、いずれも0.1mg/L以下であり、総量は0.5mg/L以下であった。
試験水(1)をサンプルビーズNo. 2.5-BGLおよび5.0-BGLをそれぞれ充填したカラムに、下記条件で通水した後に水中の銀量を、原子吸光装置により測定した。結果を下記表2に示す。
[通水条件]
ビーズ充填量:75cc(64g)/カラム(カラム容量:100cc)
通水速度(SV):1080 L/hr
通水方向:上向流(抗菌剤粒子が乱流しないよう過密充填した)
水温:常温(20℃〜25℃)
【0048】
【表2】

【0049】
[実施例1]
試験水(1)に炭酸ナトリウムを添加することにより水中のナトリウムイオン量を増加させた後、下記表3に示す各ビーズを使用して比較例1と同様の条件でカラムに通水した。カラム通水後の水中の銀イオン量を上記方法によって測定した。結果を下記表3に示す。炭酸ナトリウム添加後かつカラム通過前のNa、K、Ca、Mgイオンの総量を原子吸光装置により測定したところ、25mg/Lであった。
【0050】
【表3】

【0051】
[実施例2]
カラムに通水する試験水として、試験水(1)に添加する炭酸ナトリウム量を減量した試験水(以下、「試験水(2)」という)を使用した点以外、実施例1と同様の処理を行った後、上記方法によって水中の銀イオン量を測定した。結果を表4に示す。試験水(2)中のNa、K、Ca、Mgイオンの総量を原子吸光装置により測定したところ、19mg/Lであった。
【0052】
【表4】

【0053】
[実施例3]
試験水(1)に添加する炭酸ナトリウム量を増量した点以外、実施例1と同様の処理を行った後、上記方法によって水中の銀イオン量を測定した(以下において、実施例3でカラムに通水した試験水を「試験水(3)」という)。結果を表5に示す。試験水(3)中のNa、K、Ca、Mgイオンの総量を原子吸光装置により測定したところ、93mg/Lであった。
【0054】
【表5】

【0055】
[実施例4]
試験水(3)と試験水(1)が、試験水(3):試験水(1)=7:3の比率で混合されるように設計された配管を通じて合流した水をカラムに通水した点以外、比較例1と同様の処理を行った後、原子吸光装置によって水中の銀イオン量を測定した。結果を下記表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
浄水処理後の一般細菌数測定
比較例1、実施例2および実施例3において、サンプルビーズ5.0-BGL、2.5-BGL、0.5-BGLを充填したカラムを使用し浄水処理した各試験水中の一般細菌数を、日水製薬株式会社編『目でみる食品の衛生微生物学的品質評価法』、1980の69〜71ページに記載の生菌数測定法により測定した。試験水(1)および試験水(3)を、実施例および比較例と同様の条件で比較サンプルビーズ0-BGL(銀未含有ビーズ)を充填したカラムに通水した後の試験水中の一般細菌数も同様の方法で測定した。結果を下記表7に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
評価結果
表2〜6に示す結果から、逆浸透膜処理水をそのまま銀ゼオライト含有ビーズに接触させた比較例1は、逆浸透膜処理水に非銀陽イオンを添加した後に銀ゼオライト含有ビーズに接触させた実施例1〜4と比べて、通水初期の試験水への銀イオン溶出量が少なく、しかも銀イオン溶出の持続時間も短いことがわかる。これは、逆浸透膜処理により、銀ゼオライト中の銀とイオン交換し得る陽イオンが除去されてしまうため、イオン交換反応が良好に進行しないことに起因すると考えられる。
これに対し表7に示すように、実施例1〜3で処理した試験水は通水210日後にも一般細菌は検出されず、殺菌効果を長期間持続させることができた。これは銀ゼオライトから銀イオンが長時間安定的に溶出されたことに起因する結果である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、飲料水の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を逆浸透膜に通過させること、
逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加すること、および、
陽イオンを添加した被処理水を銀ゼオライト含有粒子と接触させること、
を含む浄水方法。
【請求項2】
前記陽イオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の浄水方法。
【請求項3】
銀ゼオライト含有粒子と接触した後の被処理水中の銀イオン濃度は、5〜35μg/Lの範囲である請求項1または2に記載の浄水方法。
【請求項4】
銀ゼオライト含有粒子と接触させる被処理水中の前記陽イオン濃度は、10〜1000mg/Lの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の浄水方法。
【請求項5】
前記銀ゼオライト含有粒子は、0.5〜10質量%の銀を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の浄水方法。
【請求項6】
前記陽イオン添加後の被処理水を、銀ゼオライト含有粒子を充填したカラムに通過させることにより被処理水と銀ゼオライト含有粒子とを接触させる請求項1〜5のいずれか1項に記載の浄水方法。
【請求項7】
前記陽イオン添加後の被処理水を、50〜2000L/hrの流速で前記カラムに通過させる請求項6に記載の浄水方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により被処理水を浄水することを特徴とする飲料水の製造方法。
【請求項9】
逆浸透膜と、銀ゼオライト含有粒子充填部と、を有する浄水装置であって、
逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部との間に、逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加する陽イオン添加手段を含む、前記浄水装置。
【請求項10】
前記銀ゼオライト含有粒子充填部は、銀ゼオライト含有粒子を充填したカラムである請求項9に記載の浄水装置。
【請求項11】
逆浸透膜と、銀ゼオライト含有粒子充填部と、を有する飲料水の製造装置であって、
逆浸透膜と銀ゼオライト含有粒子充填部との間に、逆浸透膜を通過した被処理水に陽イオン(但し銀イオンを除く)を添加する陽イオン添加手段を含む、前記製造装置。
【請求項12】
前記銀ゼオライト含有粒子充填部は、銀ゼオライト含有粒子を充填したカラムである請求項11に記載の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−20072(P2011−20072A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168388(P2009−168388)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(391031764)株式会社シナネンゼオミック (20)
【Fターム(参考)】