説明

浮き屋根のポンツーン応力予測方法

【課題】 ポンツーンの周方向応力に加えて子午線方向の応力も解析可能とする。
【解決手段】 浮き屋根式タンクの貯蔵液体4のスロッシングに伴う浮き屋根5の振動について、基礎方程式の変分表示を行い、モード展開法による非線形常微分方程式を導出して、浮き屋根5の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体4のスロッシングと浮き屋根5の連成振動を支配する式を求める。更に、上記浮き屋根5の振動によるデッキ6の半径方向の縮みを、ポンツーン7におけるデッキ6との結合部にのみ強制変位として与えるときのポンツーン7の変位により生じるひずみエネルギの変分の変化を非線形項として求め、その非線形項を、先に求めた浮き屋根5の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体4のスロッシングと浮き屋根5の連成振動を支配する式に加えた式を求めて、この式による応答解析を行うことで、ポンツーン7の楕円化変形応力を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油タンク等の貯蔵液体の上に浮き屋根を設けてなる形式の浮き屋根式タンクにて、タンク内部の貯蔵液体に生じるスロッシングに伴って浮き屋根が振動する際に、該浮き屋根のデッキの縮みによりポンツーンを楕円形に変形させるように作用する応力を予測するために用いる浮き屋根のポンツーン応力予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気化する虞が比較的低い流体である原油や石油を貯蔵する大型のタンクとしては、浮き屋根式の貯蔵タンクが多く用いられている。
【0003】
図9はシングルデッキ形式の浮き屋根式タンクの一般的な構成を示すもので、基礎上に据え付けられた底板2と、該底板2の上側に立設された円筒状の側板3とからなる上部の開放された平底円筒型のタンク本体1を備え、更に、上記タンク本体1の内部に貯蔵された液体4の液面上に浮かべて使用する浮き屋根5を備えた構成としてある。上記浮き屋根5は、中央部のデッキ6の外周に、浮力を与えるためのポンツーン7を設けた構成としてある。8は上記浮き屋根5のデッキ6の上面における径方向所要間隔位置に補強のために設けたスチフナ、9は上記浮き屋根5の外周と上記側板3の内周面との隙間を埋めるためのシール機構、10は雨水の流入を抑えるためのウェザーシールドである。
【0004】
ところで、地震発生時に、その地震波が上記浮き屋根式タンクのスロッシング周期成分を含む場合、上記浮き屋根式タンク内の貯蔵液体4にスロッシングが励起される。更に、上記浮き屋根式タンク内の貯蔵液体4のスロッシングは、浮き屋根5のピッチング振動を引き起こす。
【0005】
その際、上記浮き屋根式タンクが、10万キロリットル級の半径の大きいタンクである場合は、貯蔵液体4のスロッシングの周方向波数1、半径方向2次のモードが、地震動の長周期成分に共振することがある。このような共振が生じると、上記浮き屋根5では、鉛直方向の変位はあまり大きくならないが、該浮き屋根5のデッキ6の面外たわみ変形の勾配により、加振方向に沿って該デッキ6の半径方向の縮みが生じるため、該デッキ6の外周に設けてあるポンツーン7が楕円化し、この楕円化によってポンツーン7の一部に降伏座屈等の損傷が生じることとなる損傷モードが懸念されている。
【0006】
そのため、浮き屋根式タンクにおいては、上記浮き屋根5のポンツーン7の損傷を未然に防止できるようにするために、タンク内の貯蔵液体4のスロッシングに起因する浮き屋根5のデッキ6の半径方向の縮みに伴い該デッキ6外周のポンツーン7が楕円化変形することを予測して評価することが重要な課題となっている。
【0007】
上記浮き屋根式タンクの浮き屋根5におけるポンツーン7の楕円化変形を予測するための手法としては、市販の有限要素解析ソフトを用いて解析を行う手法が従来一般的に採られている。
【0008】
なお、本発明者等は、浮き屋根式タンクにおける浮き屋根5に生じる過大応力を予測するために、浮き屋根式タンクの浮き屋根5について、変分原理から基礎式を導き、次に、モード展開法によって時間に関する非線形常微分方程式を導いて、この非線形常微分方程式を解くことで、上記浮き屋根5に作用する応力を算出できるようにした浮き屋根式タンクにおける浮き屋根の過大応力予測方法を提案している(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
更に、本発明者等は、上記浮き屋根の過大応力予測方法で用いている解析的手法を、スロッシングにより浮き屋根5のポンツーン7に対し楕円形に変形させるように作用する応力の解析に発展させた浮き屋根のポンツーン楕円化変形応力予測方法を提案している(たとえば、特許文献2、非特許文献1参照)。
【0010】
これは、デッキ6の縮みによるデッキ6外周の半径方向変位を、あらゆる周方向位置でポンツーン7全体に強制変位として与えることにより、該ポンツーン7に作用する応力を予測するようにしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−113820号公報
【特許文献2】特開2009−113824号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】内海雅彦、石田和雄,「非線形スロッシングによる石油タンク浮き屋根の振動に関する研究、第3報:デッキの縮みによるポンツーンの楕円化変形」,圧力技術,社団法人 日本高圧力技術協会,2008年,第46巻,第5号,p.285−293
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、浮き屋根式タンクの浮き屋根5のデッキ6の縮みによるポンツーン7の楕円化変形を予測するために従来一般的に採られていた市販の有限要素解析ソフトを用いる解析手法では、計算に数日を要する等、計算時間が多くかかり、又、コストが嵩むというのが実状である。
【0014】
なお、上記特許文献1に示された浮き屋根の過大応力予測方法で用いている解析的手法を発展させた上記特許文献2及び非特許文献1に示されている浮き屋根のポンツーン楕円化変形応力予測方法は、ポンツーン7の周方向に作用する応力の予測に有効である。
【0015】
しかし、上記特許文献2及び非特許文献1に示されている浮き屋根のポンツーン楕円化変形応力予測方法は、ポンツーン7に作用する応力を予測する際、デッキ6の縮みによるデッキ6外周の半径方向変位を、ポンツーン7全体に強制変位として与えるようにしてあることから、ポンツーン7の断面形状のひずみ等の該ポンツーン7の変位の局所的挙動の予測が難しく、したがって、ポンツーン7の変位の局所的挙動による応力は解析結果に反映されていないというのが実状である。
【0016】
そこで、本発明は、上記特許文献2及び非特許文献1に示されている浮き屋根のポンツーン楕円化変形応力予測方法を更に発展させて、ポンツーンの局所的な強制変位に対するポンツーンの変形解を求めることにより、ポンツーンの変位の局所的挙動についても予測することができて、浮き屋根のポンツーンが楕円化変形する際における周方向の変形だけでなく子午線方向(浮き屋根の半径方向に沿う鉛直面内における方向)の変形についても精度よく解析できるようにするための浮き屋根のポンツーン応力予測方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、浮き屋根式タンクの貯蔵液体のスロッシングに伴う浮き屋根の振動について、基礎方程式の変分表示を行い、次いで、モード展開法による非線形常微分方程式を導出することにより、浮き屋根の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体のスロッシングと浮き屋根の連成振動を支配する式を求め、更に、上記浮き屋根の振動によるデッキの半径方向の縮みを、浮き屋根のポンツーンにおけるデッキとの結合部にのみ強制変位として与えて、該強制変位に伴うポンツーンの変位により生じるひずみエネルギの変分の変化を非線形項として求め、該求められた非線形項を、上記浮き屋根の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体のスロッシングと浮き屋根の連成振動を支配する式に加えてなる式を導出し、該式により応答解析を行うことで、上記ポンツーンに対して楕円形に変形させるように作用する応力を予測するようにする。
【0018】
又、上記構成において、浮き屋根の振動によるデッキの半径方向の縮みを、浮き屋根のポンツーンにおけるデッキとの結合部にのみ強制変位として与えて、該強制変位に伴うポンツーンの変位により生じるひずみエネルギの変分の変化を非線形項として求めるときに、先ず、上記デッキの縮みによるポンツーンの半径方向の縮みの強制変位を求め、該求められたポンツーンの半径方向の縮みを周方向成分に分け、次いで、上記周方向成分を、有限要素法を用いて、未知数であるポンツーンにおけるデッキとの結合部以外の変位と、上記デッキの縮みに伴う上記結合部の強制変位に分けて各周方向成分ごとに解いた後、上記未知数である上記ポンツーンにおけるデッキとの結合部以外の変位を、上記強制変位で表し、この強制変位で表されたポンツーンの変位の関数として、該ポンツーンのひずみエネルギを求めるようにする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)浮き屋根式タンクの貯蔵液体のスロッシングに伴う浮き屋根の振動について、基礎方程式の変分表示を行い、次いで、モード展開法による非線形常微分方程式を導出することにより、浮き屋根の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体のスロッシングと浮き屋根の連成振動を支配する式を求め、更に、上記浮き屋根の振動によるデッキの半径方向の縮みを、浮き屋根のポンツーンにおけるデッキとの結合部にのみ強制変位として与えて、該強制変位に伴うポンツーンの変位により生じるひずみエネルギの変分の変化を非線形項として求め、該求められた非線形項を、上記浮き屋根の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体のスロッシングと浮き屋根の連成振動を支配する式に加えてなる式を導出し、該式により応答解析を行うことで、上記ポンツーンに対して楕円形に変形させるように作用する応力を予測するようにしてあるので、浮き屋根式タンクを設計する際、地震等による加振による貯蔵液体のスロッシングにより、浮き屋根のデッキが加振方向に沿って半径方向の縮みを生じ、該デッキの外周に設けてあるポンツーンが楕円化変形する場合の該ポンツーンの各部に作用するようになる応力を予測することができる。
(2)しかも、上記ポンツーンの各部について、周方向変形に加え、子午線方向の変形も考慮した状態で、該ポンツーンに作用する応力を精度よく解析できる。よって、上記ポンツーンの各部に作用すると予測される応力が、該ポンツーンの各部の設計に基づく降伏応力、座屈応力を超えるか否かを判断することができるようになるため、該ポンツーンについて、より安全側の設計を行うことが可能になる。
(3)更に、従来、一般的に採られていた市販の有限要素解析ソフトを用いる解析手法に比して、応力値の予測に要する計算時間・コストを大きく低減することができる。したがって、上記従来の市販の有限要素解析ソフトを用いる解析手法では数日の計算時間を要していた解析であっても、本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法により数秒で実施することが可能になる。
(4)更には、従来の有限要素解析ソフトを用いる解析予測不可能であったポンツーンの断面形状の変化に対する応力の敏感な変化、局所的曲げ応力の増大についても、本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法によれば、予測することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法の導出に用いた解析モデルを示すもので、(a)は浮き屋根式タンクの概略切断側面図、(b)は浮き屋根の詳細形状を示す切断側面図である。
【図2】ポンツーンのシェル要素の変位成分を示す図である。
【図3】浮き屋根のシェル要素に関する局所座標を示す図である。
【図4】ポンツーンに作用する応力の参照位置を示す図である。
【図5】周方向波数1、半径方向2次のスロッシングモードによるデッキの変形の時間応答(t)を示すもので、(a)は半径方向の縮み(Contraction)を、(b)は面外変形(Out-of-plane deformation)をそれぞれ示す図である。
【図6】ポンツーンにおける図4の位置P9での周方向膜応力の応答(Stress)を示すもので、(a)は時間応答(t)、(b)は(a)のt=31sにおける周分布変化(Circumferential cood)をそれぞれ示す図である。
【図7】ポンツーン各部における周方向応力(Stress)を示すもので、(a)はポンツーン下板(Bottom)について、(b)はポンツーン上板(Top)について、(c)は外リム(Outer rim)について、(d)は内リムにおけるデッキとの結合部よりも下方(Inner rim(under deck))について、(e)は内リムにおけるデッキとの結合部よりも上方(Inner rim(above deck))について、膜応力と曲げ応力の解析結果をそれぞれ示す図である。
【図8】ポンツーン各部における子午線方向の曲げ応力(Stress)を示すもので、(a)はポンツーン下板(Bottom)について、(b)はポンツーン上板(Top)について、(c)は外リム(Outer rim)について、(d)は内リムにおけるデッキとの結合部よりも下方(Inner rim(under deck))について、(e)は内リムにおけるデッキとの結合部よりも上方(Inner rim(above deck))についての解析結果をそれぞれ示す図である。
【図9】浮き屋根式タンクの一般的な構成を示す概略切断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0022】
図1(a)(b)及び図2は本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0023】
1.1 解析モデル
ここで、先ず、本発明の導出に用いる解析モデルについて説明する。すなわち、図1(a)(b)に示す解析モデルは、図9に示したと同様の構成としてある円筒形の浮き屋根式タンクを、該タンク本体1の底板2の中心を原点Oとするxyz座標空間内に配置して、任意の
【数1】

での断面が示してある。
【0024】
浮き屋根5は、中央部のデッキ6と、浮力を得るためにその周囲に設置されたポンツーン7とからなる構成としてある。上記ポンツーン7は、径方向(内外方向)に所要間隔を隔てて同心円状に配置した内リム7aと外リム7bの上端部同士の間に、リング状のポンツーン上板(天井板)7cを気密に接合し、且つ上記内リム7aと外リム7bの下端部同士の間に、リング状のポンツーン下板(底板)7dを気密に接合して中空構造としてあり、上記内リム7aの内周面における上下方向の所要高さ位置に、上記デッキ6の外周端部を連結するようにしてある。更に、上記ポンツーン7には、図1(b)に示す如く、内部における径方向所要間隔位置に隔壁11をそれぞれ設けた構成としてある。
【0025】
図1(a)におけるaは円筒形のタンク本体1の半径、hは静的平衡時の貯蔵液体4の深さである。又、図1(b)におけるbは浮き屋根5の半径、bはデッキ6の半径、b,b,bはポンツーン7内部における各隔壁11の径方向の配列間隔、Hはポンツーン7の外リム7bの高さ寸法、Hはポンツーン7の内リム7aにおけるデッキ6取付位置から該内リム7aの上端までの上下方向寸法、Hはポンツーン7の内リム7aにおけるデッキ6取付位置から該内リム7aの下端までの上下方向寸法である。上記浮き屋根式タンクの詳細諸元については、実施例で後述する数値例題と共に示す。
【0026】
上記浮き屋根5は、軸対称な弾性シェル構造としてモデル化する。図2はシェル要素ijの変位成分を示す図である。
【0027】
又、浮き屋根5とタンク本体1の側板3との間には、シール機構9(図9参照)が設けてあり、浮き屋根5の外周でのr方向変位に対し、単位面積当たり、
【数2】

のばね力、及び、減衰力が浮き屋根5の半径方向にそれぞれ作用するものとする。貯蔵液体4の液体運動は非圧縮完全流体の渦無し流れとし、タンクの側板3と底板2は剛体とする。
【0028】
1.2 基礎方程式の変分表示
次に、上記構成としてある浮き屋根式タンクについて、以下に示すように、基礎方程式の変分表示を行う。
【0029】
本発明の予測方法では、液体−弾性体系の非線形振動解析に解析的手法を導入するため、ガレルキン法を用いる。このために、基礎方程式系の変分表示が必要である。そこで、先ず、貯蔵液体4の単位体積当たりのラグランジュアンに等しい液圧を、速度ポテンシャルで次のように表す。
【数3】

【0030】
液体のラグランジュアンと,円錐台シェル要素でモデル化した浮き屋根5のラグランジュアンとの和をとって系全体のラグランジュアンを求め、この作用積分の変分をとると、特許文献1の浮き屋根式タンクにおける浮き屋根の過大応力予測方法の解析的手法で説明した手続(詳細は特許文献1における式(6)の導出手順を参照)によって次のような基礎方程式系の変分表示が導かれる。
【数4】

【0031】
上記式(2)において、速度ポテンシャル、浮き屋根変位、任意時間関数の変分は、任意且つ独立であるから、これらの変分に関する係数が0となる条件が要求される。これらの要求条件が基礎方程式、境界条件を与える。すなわち、上記式(2)の第1項は、液体領域内での連続条件に対応するラプラス方程式
【数5】

である。
【0032】
又、上記式(2)の第2項、第3項は、剛と仮定された貯蔵液体4とタンク本体1の境界面(側板3及び底板2)でその法線方向の流速が0になる境界条件
【数6】

である。
【0033】
上記式(2)における第2行は、貯蔵液体4と浮き屋根5の境界面で双方の法線方向の振動速度が等しい条件である。又、上記式(2)の第3行〜第6行は、液圧を受ける浮き屋根5の運動方程式、第7行における最後の項は、非圧縮性の仮定に基づく貯蔵液体4の体積一定条件である。
【0034】
なお、上記式(2)の第5行は地震加速度による慣性力、第6行はシール機構9(図9参照)による減衰力のシェル要素に対する仮想仕事を表し、該シール機構9(図9参照)のばね力は、第3行の剛性行列によって考慮している。
【0035】
1.3 モード展開法による非線形常微分方程式の導出
モード展開法による非線形常微分方程式の導出を行う場合は、変分原理となる上記式(2)を、ガレルキン法により、時間に関する常微分方程式に変換する。すなわち、未知量をモード関数で展開した形で表して式(2)に代入することにより、展開係数(未知の時間関数で一般化座標と呼ばれる)に関する非線形常微分方程式を導く。速度ポテンシャルを、境界条件の式(4)を満たすラプラス方程式(3)の解として次のように表す。
【数7】

【0036】
浮き屋根5の節点変位ベクトルを、各周方向波数成分ごとに、貯蔵液体4と非接触時のモードで展開した形として、以下のように表す。
【数8】

【0037】
更に、このモードと一般化座標を用いて浮き屋根5の任意位置での変位を、以下のように表わすことができる。
【数9】

【0038】
上記式(5)〜式(7)を変分原理の式(2)に代入することにより、一般化座標に関する非線形常微分方程式を導く。この際、特許文献1で説明した手続により、第2近似解を得るための非線形方程式系は、各周方向波数m=0,1,2について次の形に行列表示できる。
【数10】

係数行列,非線形項の表記は省略する。
【0039】
は、周方向波数1の一般化座標3個の積、周方向波数1及び0の一般化座標の積、周方向波数1及び2の一般化座標の積を含んだ形となる。
【0040】
及びGは、周方向波数1の一般化座標2個の積を含んだ形となる。
【0041】
したがって、周方向波数1の一般化座標を第1近似として、周方向波数0,2の一般化座標は第2近似、Gは第3近似、G,Gは第2近似の大きさである。
【0042】
以上により、上記式(8)は、浮き屋根5の半径方向縮みを考慮しない範囲で、貯蔵液体4のスロッシングと浮き屋根5の連成振動を支配する式となる。
【0043】
1.4 デッキの縮みによるポンツーン楕円化変形応力の予測
次に、デッキ6の縮みに起因して生じるポンツーン7の楕円化変形に伴う応力について求める。
【0044】
周方向波数1、半径方向2次のモードによるデッキ6の面外たわみ変形のモード展開式は、上記式(7)より次式によって与えられる。
【数11】

【0045】
この面外たわみによるデッキの半径方向の縮みは次のように計算される。
【数12】

【0046】
上記式(10)に関しては、下記の2点が重要である。
【0047】
(A):式(10)によって計算したデッキ6の縮みが、非特許文献1の図6に示すように、過去の文献の結果と合うことを検証している。
(B):x方向加振の場合には、E12y(t)=0となるので、式(10)で
【数13】

は生じず、
【数14】

が等しくなる。すなわち、デッキ6の縮みは,ポンツーン7の楕円化変形に関与する周方向波数2の成分を含み、軸対称変形を表す周方向波数0の成分も同等なレベルに含む。このことが、周方向波数0,2の成分を共に考慮して設計することを要求する消防基準に合う。
【0048】
これらの2点に基づき、上記特許文献2では、デッキ6の縮みSを、ポンツーン7全体に強制変位として与える方法が提案されている。
【0049】
これに対し、本発明の予測方法では、デッキ6の縮みSを、ポンツーン7におけるデッキ6との結合部にのみ強制変位として与えるものとする。この強制変位に対するポンツーン7の変位によるポンツーン7のひずみエネルギの変分の変化Δ(δU)をガレルキン法により一般化座標に関する非線形関数に変換し、上記式(8)の右辺に加える。右辺に加える理由は、上記式(8)の左辺マイナス右辺=0の式が、ラグランジュアンの変分=0から得られたものであり、ひずみエネルギのラグランジュアンに対する寄与がマイナスであるためである。
【0050】
以上の点に鑑みて、式(10)を次のように書く。
【数15】

【0051】
ポンツーン7に関するFEM方程式は、各(m,β)成分について次の形に得られる。
【数16】

【数17】

【0052】
上記式(14)より、上記ポンツーン7におけるデッキ6との結合部以外の変位は、該結合部の変位で次のように表される。
【数18】

【0053】
上記デッキ6との結合部を固定した条件下でのポンツーン7の固有振動数は、低次のスロッシング固有振動数に比べて高いので、上記式(16)では右辺第1項が支配的である。したがって、次式を得る。
【数19】

【0054】
式(15)及び式(17)は次のように書ける。
【数20】

【0055】
このようにして、デッキ6の縮みによるデッキ6とポンツーン7の結合部の半径方向変位の、(m,β)成分Hmβ(t)によるポンツーンシェルの変形が求まる。したがって、シェル要素の任意位置での変位の
【数21】

(図2に定義された局所座標方向)の成分が、次のような(m,β)成分の重ね合わせの形に表される。
【数22】

【0056】
ひずみエネルギの変分は,次式によって与えられる。
【数23】

【数24】

【0057】
u,v,wは、式(7)の全体座標に関する成分を局所座標に関する成分に変換することにより、次のような同様な形に表せる。
【数25】

【0058】
上記式(21)より、ひずみエネルギの変分の、デッキ6の半径方向の縮みによる変化は、次のようになる。
【数26】

【0059】
上記式(20)と式(23)を上記式(24)に代入することにより、Δ(δU)を一般化座標で表す。この計算は、上記式(24)が多くの項を有するため、多大な計算労苦を要する。そこで、モード関数を適切に定義して式(20)及び式(23)を次のように表記する。
【数27】

【0060】
ひずみエネルギの変分を上記式(21)のように添え字jを導入して記すことにより、このような効率的な定式化が行える。
【0061】
式(24)の[ ]中の第1項から生じる時間に依存する因数は、
【数28】

である。又、周方向モード関数の直交性より、m=m=0とm=m=2の項が生じる。これらの項は、式(12)より
【数29】

の形である。変分を受ける一般化座標が周方向波数1であるため、
【数30】

の形をもった非線形項(第3近似の大きさ)が、式(8)のm=1の式の右辺非線形項に加算される。
【0062】
一方、式(24)の[ ]中の第2項から生じる時間に依存する因数は、
【数31】

で、m=m=0、m=m=2としたものである。これらの因数は、式(12)より
【数32】

の形である。変分を受ける一般化座標が周方向波数0,2であるため、
【数33】

の形をもった非線形項が(第2近似の大きさ)が式(8)のm=0,2の式の右辺非線形項に加算される。
【0063】
以上の構成としてある本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法によれば、浮き屋根式タンクについて、タンク本体1の底板2の中心を原点Oとするxyz座標空間内に配置した解析モデルについて、基礎方程式の変分表示を行い、次いで、モード展開法による非線形常微分方程式を導出することで、浮き屋根5の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体4のスロッシングと浮き屋根5の連成振動を支配する式(式(8))を求める。
【0064】
更に、加振に起因する周方向波数1、半径方向2次のモードによるデッキ6の面外たわみ変形による半径方向の縮みを求め(式(10))、この求められたデッキ6の半径方向の縮みSを、ポンツーン7におけるデッキ6との結合部にのみ強制変位として与えて、該強制変位に対するポンツーン7の変位によるポンツーン7のひずみエネルギの変分の変化Δ(δU)を、ガレルキン法により一般化座標に関する非線形関数に変換する。
【0065】
具体的には、上記デッキ6の縮みによるポンツーン7の半径方向の縮みの強制変位を求め(式(10))、この求められたポンツーン7の半径方向の縮みを、周方向成分に分け(式(11)〜式(13))、次いで、上記周方向成分を、有限要素法を用いて、未知数であるポンツーン7におけるデッキ6との結合部以外の変位と、上記デッキ6の縮みに伴う上記結合部の強制変位に分けて各周方向成分ごとに解き(式(14)、式(15))、その後、未知数である上記ポンツーン7におけるデッキ6との結合部以外の変位を、上記強制変位で表す(式(16))。これにより、ポンツーン7におけるすべての変位が分かるようになるため、該ポンツーン7のひずみエネルギを変位の関数として表すことで、ポンツーン7全体のひずみエネルギを求める。
【0066】
しかる後、上記において求めたポンツーン7のひずみエネルギを、上記浮き屋根5の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体4のスロッシングと浮き屋根5の連成振動を支配する式(式(8))に加えた式を求めることにより、この式を解いてポンツーン7の各部に作用すると予測される応力を求めることができるようにしてある。
【0067】
したがって、浮き屋根式タンクを設計する際、地震等による加振によりタンク内の貯蔵液体4のスロッシングにより、浮き屋根5のデッキ6が加振方向に沿って半径方向の縮みを生じ、該デッキ6の外周に設けてあるポンツーン7が楕円化変形するときに、該ポンツーン7の各部に作用するようになる応力を予測することができるようになる。
【0068】
しかも、後述するように上記ポンツーン7の各部について、周方向の変形に加えて、子午線方向の変形をも考慮した状態で、該ポンツーン7に作用する応力について精度よく解析できるようになる。よって、上記ポンツーン7の各部に作用すると予測される応力が、該ポンツーン7の各部の設計に基づく降伏応力、座屈応力を超えるか否かを判断することができるようになるため、該ポンツーン7について、より安全側の設計を行うことが可能になる。
【0069】
更に、従来、一般的に採られていた市販の有限要素解析ソフトを用いる解析手法は多くの計算時間・コストを要するため、正確な計算は変位よりも応力に対してより難しくなる。
【0070】
これに対し、本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法による解析は、後述するように過去の破損事例を裏付ける応力値の予測に要する計算時間・コストを、モード展開手法による非線形解析手法により、大きく低減することができる。したがって、上記従来の市販の有限要素解析ソフトを用いる解析手法は数日の計算時間を要するが、本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法による解析は数秒で実施することができる。
【0071】
しかも、ポンツーン7を曲がり梁で近似する理論、消防法技術基準の計算法では、ポンツーン断面形状の変化が梁としての曲げ剛性を支配する断面2次モーメントの変化に現れるに過ぎないため、ポンツーン7の断面形状の変化に対する応力の敏感な変化、局所的曲げ応力の増大については予測不可能であるが、本発明の浮き屋根のポンツーン応力予測方法によれば、後述する数値例題の結果より明らかなように、ポンツーン7の内リム7a、外リム7b、ポンツーン上板7c、ポンツーン下板7dについて板やシェルとしての変形を考慮できるため、上記のようにポンツーン7の断面形状の変化に対する応力の敏感な変化、局所的曲げ応力の増大についても予測することが可能になる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、シングルデッキ型の浮き屋根を備えて、ポンツーンの楕円化変形応力の予測を所望する浮き屋根式タンクであれば、後述する実施例の表1に示す計算諸元の形状以外の形状の浮き屋根式タンクにおける浮き屋根のポンツーン楕円化変形応力の予測にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【実施例】
【0073】
2.数値例題
以下、本発明者等が実施した実機の一般形状に近い数値例題を用いて具体的に本発明の有効性について検証した結果について説明する。
【0074】
図1(a)(b)に示した如き構成としてある浮き屋根式タンクについて、12万キロリットル級の実機の一般形状を想定して計算諸元を以下の表1のように設定した。
【表1】

【0075】
減衰は、
【数34】

を式(2)の圧力項に付加し、定数μを式(5)によって与えられるφの各モード成分ごとに
【数35】

によって決定することにより導入した。
加振入力は次のように与えた。
【数36】

ここで、Tは加振の周期で次のように計算される。
【数37】

応力に関しては、図3のようにシェル要素の子午線方向座標sと厚さ方向(板厚方向)座標ζを定義し、厚さ(板厚)をhとして、
膜応力:ζ=0.5hとζ=−0.5hでの応力を加えて2で割ったもの
曲げ応力:ζ=0.5hでの応力値からζ=−0.5hでの応力値を引いて2で割ったもの
を参照する。
【0076】
図4は応力の位置を示す際に参照する。図4において、P1はポンツーン7の内リム7aにおける上端に近い位置、P2はポンツーン上板7cにおける内側の端に近い位置、P3はポンツーン上板7cにおける外側の端に近い位置、P4は外リム7bにおける上端に近い位置、P5は内リム7aにおける下端に近い位置、P6はポンツーン下板7dにおける内側の端に近い位置、P7はポンツーン下板7dにおける外側の端に近い位置、P8は外リム7bにおける下端に近い位置、P9及びP10は内リム7aにおけるデッキ6との結合部(z−h=0)の位置である。なお、上記内リム7aにおけるデッキ6との結合部の位置に図示したようにP9及びP10を付したのは、後述するように上記内リム7aにおけるデッキ6との結合部よりも上側と下側に作用する応力を分離して予測する際の便宜のためである。
【0077】
図5(a)(b)に、周方向波数1、半径方向2次のスロッシングモードによる、デッキ6の半径方向縮みと面外変形の時間応答を示す。これらの応答は、非特許文献1の図5で示したものと同じであるが、どの程度のデッキ6の半径方向縮みと面外変形で以下に示す応力が生じるかをみるための便宜のために記載してある。
【0078】
上記非特許文献1に示されたように、デッキ6の半径方向の縮みをポンツーン7全体に強制変位として与える方法では、位置P9(図4参照)での周方向膜応力が大きな値に達することを示すことにより、デッキ6の半径方向縮みによって過去に浮き屋根式タンクに生じた破損事故の理論的根拠を得ている。
【0079】
そこで、上記ポンツーン7の内リム7aにおけるデッキ6との結合部である位置P9(図4参照)での周方向膜応力について、本発明の予測方法(デッキ6の半径方向の縮みをポンツーン7におけるデッキ6との結合部にのみ強制変位として与える方法)で得た結果を、上記非特許文献1に示された解析結果と比較、検証した。
【0080】
本発明の予測方法による結果を、図6(a)(b)に太線で示す。図6(a)は時間応答、図6(b)は時間応答が極大になる時刻t=31sでの周方向変化を示すものである。図6(a)及び図6(b)における細線は、比較として非特許文献1の図9(b)及び図10における太線で示された解析結果を示したものである。
【0081】
図6(a)(b)により、非特許文献1と本発明の予測方法の双方の手法による結果は概ね一致することが明らかであり、上記ポンツーン7の内リム7aにおけるデッキ6との結合部での周方向膜応力の評価に関しては、非特許文献1に示された近似手法でも有効であることが確かめられた。
【0082】
又、図6(a)より、ポンツーン7の内リム7aの周方向膜応力は、図5(a)に示されたデッキ6の半径方向縮みに比例して変化することが分かる。これは、上記ポンツーン7の内リム7aに作用する応力の主因が、上記デッキ6の半径方向縮みにあることを意味するものである。
【0083】
更に、図6(b)より、上記ポンツーン7の内リム7aの周方向膜応力の周方向変化は、
【数38】

を含み、双方の成分の大きさ(周方向変動の平均の絶対値と振幅)は等しいことが確かめられた。これは、デッキ6の半径方向の縮みを与える式(10)が、その下に記したように、係数の大きさの等しい
【数39】

を有することに起因するものである。
【0084】
図7(a)(b)(c)(d)(e)は、ポンツーン7の各部における周方向応力の解析結果を示すものである。各図の横軸は、図7(a)はポンツーン下板7dにおける位置P6から位置P7まで、図7(b)はポンツーン上板7cにおける位置P2から位置P3まで、図7(c)は外リム7bにおける位置P8から位置P4まで、図7(d)は内リム7aにおけるデッキ6よりも下方となる位置P5から位置P10まで、図7(e)は内リム7aにおけるデッキ6よりも上方となる位置P9から位置P1までの部分をそれぞれ示している。各図における太線は膜応力、細線は曲げ応力の結果を示すものである。
【0085】
上記図7(a)(b)(c)(d)(e)の結果より、ポンツーン7の内リム7aにおけるデッキ6との結合部、すなわち、図7(d)及び図7(e)のz=h(z−h=0)の近くを除き、周方向膜応力が周方向曲げ応力より絶対値が大きく支配的であることが分かる。
【0086】
又、上記内リム7aにおけるデッキ6との結合部近くでの曲げ応力の負値は、図3より、内側(浮き屋根5の中央側)に凸のたわみが生じることを示している。この結果は、ポンツーン7では内リム7aがデッキ6の半径方向縮みによって内側に引かれることから妥当である。
【0087】
更に、図8(a)(b)(c)(d)(e)は、ポンツーン7の各部における子午線方向(内リム7a及び外リム7bでは浮き屋根5の半径に沿う鉛直面内における上下方向、ポンツーン上板7c及びポンツーン下板7dでは浮き屋根5の半径に沿う方向、)の曲げ応力を示すものである。各図の横軸は、図8(a)はポンツーン下板7dにおける位置P6から位置P7まで、図8(b)はポンツーン上板7cにおける位置P2から位置P3まで、図8(c)は外リム7bにおける位置P8から位置P4まで、図8(d)は内リム7aにおけるデッキ6よりも下方となる位置P5から位置P10まで、図8(e)は内リム7aにおけるデッキ6よりも上方となる位置P9から位置P1までの部分をそれぞれ示している。なお、膜応力は、大きさが最大40MPa程度と小さいので図示は割愛する。
【0088】
上記図8(a)(b)(c)(d)(e)の結果より、子午線方向の曲げ応力は、ポンツーン7の内リム7aとデッキ6との結合部、すなわち、図8(d)及び図8(e)のz=h(z−h=0)で絶対値が特に大きくなることが分かる。このような曲げ応力の挙動は、非特許文献1に示されたような、デッキ6の半径方向の縮みをポンツーン7全体に強制変位として与える方法では、予測できないものである。
【0089】
したがって、本発明の予測方法を用いた解析結果からは、ポンツーン7の各部における周方向膜応力と子午線方向曲げ応力の相乗効果によって、非特許文献1に示された方法による解析結果よりもさらに大きな応力がポンツーン7に作用することが予測される。これにより、浮き屋根式タンクにおける浮き屋根5の破損事故の説明や、浮き屋根5のダブルデッキ化工事の必要性の示唆のために、より有効な結果が得られることが判明した。
【0090】
次に、ポンツーン7に作用する応力に対するポンツーン上板7cとポンツーン下板7dの勾配(dz/dr)の影響について検証した。
【0091】
表2(a)は、本発明の予測方法により解析した周方向膜応力の位置P1〜P8(図4参照)での値をそれぞれ示すものである。表1の計算諸元に示してあるように、ポンツーン7におけるポンツーン上板7cの勾配dz/drが、dz/dr=4degと比較的大きい場合は、上記ポンツーン上板7cの内側の端に近い位置P1とP2(図4参照)にそれぞれ作用する周方向膜応力に比較して、該ポンツーン上板7cの外側の端に近い位置P3とP4(図4参照)にそれぞれ作用する周方向膜応力の絶対値が小さくなっている。
【0092】
一方、ポンツーン下板7dの勾配dz/drは、表1の計算諸元に示してあるように、dz/dr=−0.002degと微小となっているが、この場合、上記ポンツーン下板7dの内側の端に近い位置P5及びP6(図4参照)での周方向膜応力と、該ポンツーン下板7dの外側の端に近い位置P7及びP8での応力は同程度の大きさである。
【0093】
したがって、上記ポンツーン上板7c又はポンツーン下板7dのうち、勾配がある(比較的大きく設定されている)方では、外側の端近くでの周方向膜応力が、内側の端近くでの周方向膜応力に比べ絶対値が小さくなる傾向が観察された。以下では、この傾向を勾配効果と称する。
【0094】
表2(b)、(c)、(d)は、ポンツーン上板7cの勾配(dz/dr)topとポンツーン下板7dの勾配(dz/dr)bottomを次のように変えた条件1、2、3の下で、上記と同様に本発明の予測方法により解析した周方向膜応力の位置P1〜P8(図4参照)での値をそれぞれ示すものである。
【数40】

【表2】

【0095】
上記条件1では、表2(b)から分るように、勾配効果が現れない。上記条件3では、表2(d)から明らかなように、勾配がある(比較的大きく設定されている)ポンツーン下板7dに関して、勾配効果が現れていることが確認できる。注意すべき点は、上記条件2の場合で、表2(c)から分るように、ポンツーン上板7cにもポンツーン下板7dにも勾配がある(比較的大きく設定されている)にもかかわらず、勾配効果が現れていない点である。このことから、勾配効果は、ポンツーン7の断面形状が上下方向で対称な場合には現れないことが判明した。
【0096】
ところで、周方向膜応力の周方向の変化は、図6(b)に示したように、
【数41】

を含む。そこで、上記勾配効果がどちらの成分によるものかを調べるため、次の場合について、上記と同様に本発明の予測方法により解析した周方向膜応力の位置P1〜P8(図4参照)結果を表3、4に示す。
【0097】
【数42】

【表3】

【表4】

【0098】
上記表3及び表4の結果より、勾配効果は、表3の場合にのみ現れていることが明らかである。よって、上記勾配効果は、
【数43】

の成分に起因することが判明した。
【0099】
表5(a)(b)(c)(d)は、表2(a)(b)(c)(d)にそれぞれ示したと同様の条件とした場合において、位置P1,P4,P5,P8での周方向膜応力の周方向変動をフーリエ展開したときの
【数44】

を示すものである。
【0100】
【表5】

上記したように、勾配効果は
【数45】

に対して作用するので、勾配効果によって大きさが低減した位置P4,P8(外リム7bの上下端)での応力に関しては、c0が小さく、ポンツーン7の楕円化変形に関与する成分c2が支配的になることが確かめられた。
【符号の説明】
【0101】
4 貯蔵液体
5 浮き屋根
6 デッキ
7 ポンツーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮き屋根式タンクの貯蔵液体のスロッシングに伴う浮き屋根の振動について、基礎方程式の変分表示を行い、次いで、モード展開法による非線形常微分方程式を導出することにより、浮き屋根の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体のスロッシングと浮き屋根の連成振動を支配する式を求め、更に、上記浮き屋根の振動によるデッキの半径方向の縮みを、浮き屋根のポンツーンにおけるデッキとの結合部にのみ強制変位として与えて、該強制変位に伴うポンツーンの変位により生じるひずみエネルギの変分の変化を非線形項として求め、該求められた非線形項を、上記浮き屋根の半径方向縮みを考慮しない範囲で貯蔵液体のスロッシングと浮き屋根の連成振動を支配する式に加えてなる式を導出し、該式により応答解析を行うことで、上記ポンツーンに対して楕円形に変形させるように作用する応力を予測することを特徴とする浮き屋根のポンツーン応力予測方法。
【請求項2】
浮き屋根の振動によるデッキの半径方向の縮みを、浮き屋根のポンツーンにおけるデッキとの結合部にのみ強制変位として与えて、該強制変位に伴うポンツーンの変位により生じるひずみエネルギの変分の変化を非線形項として求めるときに、先ず、上記デッキの縮みによるポンツーンの半径方向の縮みの強制変位を求め、該求められたポンツーンの半径方向の縮みを周方向成分に分け、次いで、上記周方向成分を、有限要素法を用いて、未知数であるポンツーンにおけるデッキとの結合部以外の変位と、上記デッキの縮みに伴う上記結合部の強制変位に分けて各周方向成分ごとに解いた後、上記未知数である上記ポンツーンにおけるデッキとの結合部以外の変位を、上記強制変位で表し、この強制変位で表されたポンツーンの変位の関数として、該ポンツーンのひずみエネルギを求めるようにする請求項1記載の浮き屋根のポンツーン応力予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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