説明

浮体の係留装置

【課題】浮体の鉛直軸回りの回転を抑制する係留装置を提供する。
【解決手段】浮体下部101の同一の深さにおける6箇所(円筒形の円周上)には、6本の係留索110の一端がそれぞれ接続されている。このうち、隣接する2本の係留索110の他端は、海底95において同一のアンカー120によって固定されている。鉛直方向から見て、各係留索110は、浮体下部101の円周の接線方向となるように配置されている。一つのアンカー120に他端が接続された2本の係留索110を用いることによって特に容易に鉛直軸回りの回転を抑制することができる。浮体100の回転方向によらず、釣り合い状態(標準状態)からの回転運動が生じた場合には、この回転運動に反発するトルクが、伸びた側の係留索110から発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上(海上)において浮体を係留させる係留装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
水上(海上)において、浮力をもつ浮体を係留させることが行われている。浮体は、航路における標識として船舶に利用されることもあり、その上に各種の設備が搭載されることにより標識以外の目的で使用されることもある。このため、浮体は、海の状況に関わらず常にその頂部が海上に突き出た形態とされる。こうした場合は、係留索の一端が浮体に接続され、この係留索の他端が海底で固定されることによって、浮体が係留される。この係留方式としては、例えば、(1)テンションリグ方式、(2)カテナリー係留方式、(3)緊張係留方式、の3種類の方式がある。
【0003】
テンションリグ方式においては、水中に沈んだ浮体の浮力によって、常に係留索は伸び、張力がかかった状態とされる。特許文献1には、この一例を浮体橋脚に適用した構成が記載されている。図8は、この構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。ここで、係留索110は弾性力をもつ材料で構成される。各係留索110の一端は、浮体150側に接続される。各係留索110の他端は、海底95においてアンカー120に係止される。アンカー120は、海底95に打ち込まれることで固定されている。ただし、アンカー120を海底95に打ち込まずに、その重量を大きくすることによって、実質的にアンカー120が海底95において固定されたと同等の状態とすることにより、係留索110の他端が海底95で固定された状況を実現することもできる。
【0004】
この方式においては、合計15本の係留索110を浮体150の端部と下部に接続して係留を行う。この場合には、浮体150は、矩形体部分151と円筒形部分152の組み合わせ形状となっており、係留索110の一端は、矩形体部分151の各角部と円筒形部分152の底面中心部に接続され、係留索110の他端は、海底95に固定されたアンカー120に係止される。この際、各係留索110は、水中にある矩形体部分151と円筒形部分152の浮力によって引っ張られ、常に強い張力がかかった状態とされる。この構造によって、水深が深い場合においても、浮体橋脚の浮遊を強く抑制して係留させることができる。ただし、浮体150自身の動揺に対する抑制効果は低く、かつ係留索110には非常に強い張力が常時働くため、係留索110には高い強度と耐久性が要求される。
【0005】
カテナリー方式は、これとは異なり、潮位の変動、波、潮流等による浮体の移動を許容する方式である。図9は、特許文献2に記載されたこの係留方式の構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。この方式は、浮体160に風力発電装置を搭載して洋上風力発電を行うために用いられ、風力発電装置の動揺を低減するための構成が採用されている。ここでは、浮体160における浮体下部161にバラストウェイト170が接続され、浮体160の周囲3箇所にそれぞれ係留索110の一端が接続される。係留索110の他端は、図8と同様に海底に設けられたアンカー120に係止される。ここでは、係留索110には張力が働かない弛んだ状態とされる。浮体上部162の頂部には、風力発電装置本体200が設置され、その頂部においてプロペラ210を回転させ、発電を行わせる。この構成においては、テンションリグ方式と比べて浮体160は浮遊しやすくなるものの、係留索110には高い強度は要求されない。また、特許文献2の浮体式洋上発電装置は、従来の浮体を用いた洋上風力発電装置に比べて、バランスウェイト170の作用によりその動揺は低減されるため、浮体上部162上に搭載された風力発電装置(風力発電装置本体200)への悪影響を低減することが可能となる。洋上風力発電は、陸上風力発電と比べて、風速が高く安定しているという利点があるため、この構成によって高い発電効率を得ることが可能である。カテナリー方式は、こうした洋上風力発電に好ましい方式である。
【0006】
なお、カテナリー方式においても、図8のテンションリグ方式と同様に、多数本の係留索を用いた構成が可能である。特許文献3には、この構成において、複数の係留索の他端(海底側)を、単一のアンカーに係止させた構成が記載されている。
【0007】
緊張係留方式は、上記のテンションリグ方式とカテナリー方式の中間的な係留方式である。緊張係留方式の場合には、例えば、図8における係留索110の長さを、浮体が標準的な潮位で波が無視できる状態の海面で自由に浮かんだ状態(標準状態)において弱い張力がかかる程度とする。これにより、潮位の変動や波が発生した場合にのみ強い張力が働くため、テンションリグ方式と比べると、浮体の浮遊に対する自由度が大きい。このため、標準状態からの変動があった場合においてのみ強い張力が働くため、係留索にはそれほど高い強度は要求されず、カテナリー係留方式よりは動揺も少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−158014号公報
【特許文献2】特開2002−188557号公報
【特許文献3】実開昭63−117696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載されたように、浮体上に風力発電装置を搭載する場合には、その動揺を低減することは重要である。しかしながら、風力発電を安定に行うためには、発電に用いるプロペラの方向が常に風の方向を向くということも必要である。このためには、プロペラの向きを正確に制御する動作が必要であり、その支持基板となる浮体が鉛直軸回りに回転することを抑制することが必要である。
【0010】
特許文献2、3に記載の技術においては、この回転運動を抑制する方向に力が加わる構成とはされていないため、この回転を抑制することは困難である。特許文献1に記載の技術においては、矩形体部分151の4つの角部に係留索110が接続されているために、これよりは回転運動に対する抵抗力がある。しかしながら、係留索110は、浮体150の中心から放射状の形態とされるため、係留索110の張力が鉛直軸回りの回転を抑制するトルクとして寄与する分はごくわずかである。すなわち、特許文献1の構成においても、浮体の回転を抑制する作用は極めて小さい。こうした状況は、浮体が特に回転しやすい形状である場合、例えば、円筒形状(スパー型)の場合には、特に顕著である。
【0011】
従って、従来の係留装置においては、浮体の鉛直軸回りの回転を抑制することは困難であった。
【0012】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の請求項1に係る浮体の係留装置は、略円筒形状の浮体を、一端が前記浮体に接続され他端が水中に設けられたアンカーに接続された複数の係留索を用いた緊張係留方式を用いて、前記略円筒形状の浮体の中心軸が略鉛直方向となるように係留する、浮体の係留装置であって、当該浮体の係留装置を水平面に投影した際に、前記略円筒形状における円の円周上の2点をそれぞれの一端として接続される2本の係留索からなる係留索対が用いられ、前記2本の係留索は、それぞれが前記円の略接線となる形状とされ、前記2点を結ぶ直線を境界とした2つの側において同一の側に延びる形態とされたことを特徴とする。
この発明においては、略円筒形状の浮体における円の接線となる形態で緊張状態とされた2本の係留索からなる係留索対が用いられる。この2本の係留索の張力によって、浮体の中心軸の回りの回転運動に対する反発トルクが自動的に得られる構成となる。
本発明の請求項2に係る浮体の係留装置は、浮体を、一端が間接的に前記浮体に接続され他端が水中に設けられたアンカーに接続された複数の係留索を用いた緊張係留方式を用いて、前記浮体の中心軸が略鉛直方向となるように係留する、浮体の係留装置であって、当該浮体の係留装置を水平面に投影した際に、前記浮体の中心から外側に向かって広がる形態で前記浮体に接続された対をなすアームと、前記浮体の中心をその中心とする円の前記アームにおける円周上の2点をそれぞれの一端として前記アームに接続される2本の係留索からなる係留索対が用いられ、前記2本の係留索は、それぞれが前記円の略接線となる形状とされ、前記2点を結ぶ直線を境界とした2つの側において同一の側に延びる形態とされたことを特徴とする。
この発明においては、係留索と浮体とが、アームを介して間接的に接続される。この際、浮体の中心をその中心とする円の接線となる形態に配置され緊張状態とされた2本の係留索からなる係留索対が用いられる。この2本の係留索の張力によって、浮体の鉛直軸の回りの回転運動に対する反発トルクが自動的に得られる構成となる。
本発明の請求項3に係る浮体の係留装置は、前記係留索対が3対以上用いられたことを特徴とする。
この発明においては、2本の係留索からなる係留索対が3対以上用いられる。
本発明の請求項4に係る浮体の係留装置において、前記係留索対における各係留索の他端は、同一のアンカーに接続されたことを特徴とする。
この発明においては、各係留索対における2本の係留索の他端は、共通のアンカーによって水底に固定される。従って、係留索対毎にアンカーが用いられる。
本発明の請求項5に係る浮体の係留装置において、前記係留索対における2本の係留索の一端は、側面視において、異なる高さに設定されたことを特徴とする。
この発明においては、各係留索対における2本の係留索の一端(係留索と浮体あるいはアームとの接続部)は、異なる高さとされる。
本発明の請求項6に係る浮体の係留装置は、複数の浮体を係留する、浮体の係留装置であって、隣接する浮体間において前記アンカーが共用されたことを特徴とする。
この発明においては、複数の浮体が係留される場合に、前記の構成で用いられたアンカーが、隣接する浮体間において共用される。
本発明の請求項7に係る浮体の係留装置は、前記浮体上に、風力発電装置が搭載されたことを特徴とする。
この発明においては、浮体上に風力発電装置が搭載され、洋上風力発電に使用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の浮体の係留装置は以上のように構成されているので、略円筒形状の浮体の鉛直軸回りの回転を、円の略接線となる形態に配置された係留索により、有効に抑制することが可能となる。緊張係留方式で2本の係留索からなる係留索対を用いることにより、この抑制効果は顕著となる。また、係留索にはそれほど高い強度は要求されないため、係留装置を安価に提供することができる。
また、アームを用いれば、浮体の形状によらずこの回転抑制効果を更に高めることが可能である。
この際、係留索対を3対以上用いることによって、更に回転抑制効果を高く、かつ浮体の安定性を高めることが可能である。
また、係留索対における2本の係留索に対して共通するアンカーを使用する構成とすれば、上記の構成をアンカーの数を少なくして容易に実現することができる。
また、係留索対における2本の係留索の一端(浮体又はアームとの接続点)を異なる高さとすれば、例えば波浪や風等による浮体の中心軸の傾きを抑え、浮体の姿勢の安定化も図れる。
また、複数の浮体を係留する際に上記の構成を用いれば、隣接する浮体間でアンカーを共通化することができるため、アンカーの数を節約することができる。
また、浮体の回転が抑制されるため、浮体上に風力発電装置を搭載すれば、
支持基板となる浮体の鉛直軸回りの回転を抑制し、そのプロペラの向きの制御を正確に行うことが容易となる。このため、上記の構成は、洋上風力発電において特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態となる浮体の係留装置の構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。
【図2】第1の実施の形態における一つの係留索対の構成を示す図である。
【図3】従来の緊張係留方式の構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態となる浮体の係留装置の構成を示す上面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態となる浮体の係留装置の構成を示す上面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態となる浮体の係留装置の構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。
【図7】本発明の第5の実施の形態となる浮体の係留装置の構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。
【図8】従来の浮体の係留装置の一例(テンションリグ方式)の構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。
【図9】従来の浮体の係留装置の他の一例(カテナリー方式)の構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態となる浮体の係留装置について説明する。この浮体は浮力をもち、海上(水上)に設けられ、複数の係留索の一端が接続される。複数の係留索の他端は、アンカーによって水底(海底)に固定される。この際、特に浮体の回転(鉛直軸回りの回転)が抑制される構成となる。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る浮体の係留装置の構成を示す上面図(a)、側面図(b)である。ここで、上面図(a)は、この浮体の係留装置を水平面上に投影した図となっている。図1において、浮体100は、その中心軸が鉛直方向となるように設定された円筒形状(スパー型)であり、径の大きな浮体下部101と径の小さな浮体上部102とが同心とされて組み合わされて構成されている。浮体100内部は密閉された空洞部となっているため、海中(海上)においては、浮力をもつ。標準状態(標準的な潮位でありかつ波浪の影響が無視できる状態)では、浮体下部101は海面90よりも下側に位置し、少なくとも浮体上部102の頂部は海面90よりも上側となるように設定されるが、海面90における波や潮位の状況によって、これらと海面90との位置関係は変動する。ただし、少なくとも浮体上部102の頂部は常に海面90よりも上側となるように設定される。浮体100には、複数の係留索110の一端が接続される。各係留索110の他端は、水中に設けられたアンカー120に接続されている。また、標準状態では各係留索110にかかる張力はほぼ零となるように設定される。このため、この係留は緊張係留方式の一種となる。この設定は、係留索110の長さ、アンカー120の固定位置等を調整することによって適宜行うことができる。係留索110は、係留索110を同数に設定した場合、テンションリグ方式よりは細く、カテナリー方式よりは太いものが選択される。このためテンションリグ方式に比べて、係留索110にかかるコストは安価なものとなる。
【0018】
浮体100の頂部には、風力発電装置本体200が設置され、その頂部においてプロペラ210を回転させ、発電を行わせる。また、浮体下部101の下部には、浮体100(プロペラ210)の姿勢を安定化させるために、バラストウェイト170が接続される。この際、風の向きは時間的に変化するため、プロペラ210をこの風の方向に向けることが必要であり、風力発電装置本体200はこの制御を行う。この際に、その基体となっている浮体100が鉛直方向を軸とした回転をした場合には、その制御を風の方向に追従させて行うことが困難となる。この浮体の係留装置においては、特にこの回転が抑制される。
【0019】
浮体下部101の標準状態における同一の深さにおける6箇所(円筒形の円周上)には、6本の係留索110の一端がそれぞれ接続されている。このうち、隣接する2本の係留索110の他端は、海底95において同一のアンカー120によって固定されている。アンカー120は、各係留索110の他端を海底95に固定するために用いられ、海底95に打ち込まれることによって固定されている。各アンカー120は、充分な重量をもつコンクリートや金属等で構成される。
【0020】
ここで、図1(a)の上面図に示されるように、鉛直方向から見て、各係留索110は、浮体下部101の円周の接線方向となるように配置されている。図1に示されるように、一つのアンカー120に他端が接続された2本の係留索110を用いることによって特に容易に実現することができる。
【0021】
ここで、右下のアンカー120に接続された2本の係留索110と浮体下部101(浮体100)との関係を、図1(a)の上面図(水平面上の投影図)において示したのが図2である。2本の係留索110の一端は、それぞれ浮体下部101の円周上の点A、Bに接続される。各係留索110は、点A、Bにおける接線L1、L2の形態をなし配置されている。
【0022】
この構成において、浮体下部101(浮体100)においてその中心Cの回りの回転運動が生じた場合、この2本の係留索110のうちの一方が伸び、張力が働く。浮体下部101の半径をr、浮体下部101(浮体)の回転角度をΔθとした場合、下面図におけるこの伸びた側の係留索110の伸び量ΔLは、(1)式で与えられる。
【0023】
【数1】

【0024】
フックの法則により、この場合に浮体下部101の接線方向における張力Tは、係留索110のばね係数をkとすると(2)式で与えられ、この伸びにより発生するトルクNは(3)式で与えられる。
【0025】
【数2】

【数3】

【0026】
ただし、図1の側面図(b)に示されるように、実際には係留索110は海底35から上側斜め方向に延びた形態とされる。このため、上記の構成における伸び量ΔL、張力の増加分Tは、この構成を水平面上に投影した場合の値である。
【0027】
ここで、2本の係留索110の構成を図2の通りとすれば、浮体100の回転方向によらず、釣り合い状態(標準状態)からの回転運動が生じた場合には、この回転運動に反発するトルクが、伸びた側の係留索110から発生する。縮んだ側の係留索110は緊張状態とはならないため、張力は零となり、これによるトルクも零となるため、浮体100には、伸びた側の係留索110からのトルクNのみが作用する。ここで、2本の係留索110からなる係留索対として作用させることにより、どちらの回転方向であっても、回転運動に反発するトルクを生じさせることができる。
【0028】
従って、図2の構成においては、浮体100に回転運動が生じた場合には、その回転運動に反発する逆向きのトルクが常に得られる。このため、この浮体下部101(浮体100)の回転運動が抑制される。この構成は、浮体100が円筒形状であるために特に容易に実現することができる。
【0029】
なお、図1においては、各係留索110が図2における接線L1、L2の形態をなすように設定したが、各係留索110を図2におけるL3、L4(破線)の形態としても、同様の効果を奏することは明らかである。一方、各係留索110をそれぞれL1、L4の形態にした場合には上記の効果は図2中の左回りの回転に対してのみ有効であり右回りの回転に対しての束縛力が得られず、各係留索110を緊張状態とすることができない。各係留索110をそれぞれL2、L3の形態にした場合にはこの効果は図2中の右回りの回転に対してのみ有効であり、同様に各係留索110を緊張状態とすることができない。従って、この構成が有効であるのは、点A、Bを結ぶ直線Mを境界とした2つの側において、2本の係留索110が同じ側に延びる場合においてのみである。すなわち、この構成をもつ2本の係留索110(係留索対)が用いられることによって、上記の効果を奏する。特に、係留索対における各係留索110が図2におけるL1、L2の形態をなすように設定すれば、これらの交差箇所にアンカー120を固定することにより、各係留索110の他端を単一のアンカー120に係止することができる。なお、浮体の回転を抑制するという目的のみに対しては、各係留索110は最少1対でも効果を出すことが可能である。また、浮体100が厳密な円筒形状でなくとも、円筒形状に近い形状であれば同様の効果を奏することは明らかである。
【0030】
図1においては、この係留索対が3対、円周上の3方向で用いられている。これにより、上記の効果を更に高めることができる。また、浮体100は、水平面上の3方向から固定されるため、図8、9に記載の従来の係留方式と同様に、浮体100の回転運動だけでなく、水平方向、垂直方向における移動も抑制することができる。これらの効果を高めるためには、より多くのアンカー120を浮体100の周囲方向に設置し、これに応じてより多くの係留索110を同様に接続することが有効であることが明らかである。
【0031】
これに対して、単純な従来の緊張係留方式における構成を、図1と同様に図3に示す。この場合には、3方向に放射状に延びた係留索110によって、浮体100の水平方向の運動(浮遊)が抑制されることは明らかである。しかしながら、その上面図(図3(a))においては、浮体100の回転方向(円周方向)と係留索110とのなす角度はほぼ垂直となるため、各係留索110の張力が浮体100の回転運動に対して与える影響は極めて小さい。すなわち、図3の構成では、浮体の水平方向における移動は抑制されるが、その回転運動を抑制することは困難である。この点については、特許文献1〜3に記載の技術についても同様である。また、図3の従来の緊張係留方式においては、係留索110は3本であり、図1の第1の実施の形態においては6本を用いているが、安価な細い係留索を用いることができる。
【0032】
従って、以上の構成により、支持基板となる浮体100の鉛直軸回りの回転が抑制され、プロペラ210の向きを常に風の方向と一致させる制御を容易かつ精密に行うことが可能である。このため、風力発電装置本体200において極めて効率的に発電を行うことが可能である。
【0033】
また、前記の通り、標準状態では各係留索110には張力が働かず、これからのずれが生じた場合においてのみ張力が働く設定とされるため、この構成は緊張係留方式の一種である。従って、従来の緊張係留方式と同様に、カテナリー方式と比べて浮体100の動揺も抑制される。このため、浮体100の動揺が風力発電装置本体200に与える悪影響も低減され、バラストウェイト170も小型のものを採用できる。
【0034】
なお、上記の構成においては、浮体下部101を円筒形状とし、係留索110の延びる方向をその接線方向としたが、係留索110の張力によって浮体下部101の回転方向にトルクを加えることができる構成であれば、浮体の形状は任意である。両方向の回転に対して同様の抵抗力をもたせるためには、係留索対における各係留索と浮体との接続点が実質的に図2の構成となればよい。このためには、浮体の中心をその中心とする円の円周上となる2点に各係留索の一端が接続された構成とし、各係留索110がこの円の接線となるような構成とすればよい。各係留索の延びる方向も、厳密に接線方向とする必要はなく、回転運動に対する反発トルクが得られる限りにおいて、適宜設定できる。
【0035】
また、浮体100の水平方向の移動を抑制するためには、図3に示された従来の構成の係留索を用いることが有効であることは明らかである。従って、図1、2の構成に加え、図3に示されたような、浮体の中心から放射状となる形態の係留索も同時に用いることもできる。
【0036】
(第2の実施の形態)
異なる形態を用いて実質的に図1と同様の構成を実現することも可能である。図4は、第2の実施の形態の上面図である。ここで、側面図は第1の実施の形態とほぼ同様であるため、省略する。図1の例では、一つの係留索対(2本の係留索)に対して一つのアンカー120を用いたが、図4の例では、1本の係留索110に対して一つのアンカー120(1対の係留索対に対して二つのアンカー120)を用いている。この構成においても、係留索110と浮体100の位置関係は図1と同様であるため、同様の効果を奏することは明らかである。この構成は、特に図2において2本の係留索110をL3、L4の形態とした場合に有効である。
【0037】
この構成においては、係留索110の一端を浮体下部101(浮体100)に接続する箇所の自由度が高くなる。図1の構成においては、浮体100の標準位置とアンカー120の位置が決まった場合には、係留索110と浮体下部101の接続点の前記の円周上の位置は、係留索110が接線方向となるようにほぼ一義的に定まる。図4の構成においては、これとは逆に、この接続点の円周上の位置を設定してから各アンカー120の位置を決めることができる。すなわち、この接続点の位置とアンカー120の設置個所の設置の自由度が高くなる。
【0038】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、浮体の回転運動に対する反発トルクを更に高めた構成である。図5(a)(b)は、この構成の上面図であり、側面図は図1とほぼ同様となるため省略する。図5(a)は、浮体下部101が前記と同様の円筒形状(スパー型)である場合であり、図5(b)は、浮体下部101が四角柱である場合である。
【0039】
この構成においては、浮体下部101の表面に係留索110の一端を直接接続するのではなく、回転運動に対する反発トルクを高めるために、アーム130を介して接続している。各アーム130は、浮体下部101の中心から外側に向かって広がる形態とされ、ここでは、この中心から放射状とされる。このアーム130に接続される係留索110は、浮体100の中心をその中心とする円のアーム130における円周上の2点をそれぞれの一端として接続されている。このため、各係留索対における係留索110の一端の構成は、図1、2と同様となる。これによって、(3)式におけるrは、浮体下部101の半径とこのアーム130の長さの和となるため、反発トルクを大きくすることができる。
【0040】
従って、浮体100の回転運動を抑制するという効果は、第1の実施の形態と比べて更に大きくなる。また、係留索110が接続されるアンカー130の先端部が図2の構成となるように設定すればよいため、浮体100の形状に関わらず図2の構成を容易に実現することができる。このため、浮体100が円筒形状でない場合(図5(b))には、この形態のアーム130を用いれば、図2と同様の構成を実現することができるため、特に好ましい。この際、係留索対毎に、図2における円の半径が異なる設定とすることも可能である。すなわち、全てのアーム130と係留索110との接続点を同一の円周上とする必要はない。各係留索対について図2の構成が成立していれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0041】
また、第2の実施の形態と同様に、一つのアンカー120で2本の係留索110を固定する必要はなく、一つのアンカー120で1本の係留索110を固定する構成とすることも可能である。
【0042】
なお、第1、第2の実施の形態における浮体下部101と係留索110との接続点と同様に、アーム130の取付箇所、長さは適宜設定が可能である。また、図1、2と実質的に同一の構成が実現できる限りにおいて、全ての係留索110に対してアーム130を用いる必要はなく、アーム130を介して一端を固定する係留索110と、浮体下部101に直接接続する係留索110を同時に用いることもできる。ただし、アーム130が長く、係留索110の一端と浮体100の中心との間隔が長い方が回転運動の抑制効果は大きくなることは明らかである。
【0043】
第1、第2の実施の形態のように、各係留索110の一端を浮体100に直接接続することもできるが、このように間接的に接続することもできる。これにより、任意の形状の浮体に対して本発明を適用することができ、かつ回転に対する反発トルクを高めることができる。
【0044】
(第4の実施の形態)
第3の実施の形態は、浮体下部101と係留索110の接続点の水平方向における位置をアーム130を用いて調整したものであるのに対し、第4の実施の形態においては、その鉛直方向における位置を調整することによって、浮体100の運動を更に抑制する。図6は、この構成の上面図(a)、及び側面図(b)である。
【0045】
この構成においては、係留索対における2本の係留索110の一端と浮体下部101との接続点の鉛直方向における位置を異ならせている。この際、図6の上面図(a)に示されるように、水平方向の位置は、図1と同様であり、係留索110の延びる方向が浮体下部101の接線方向となる設定とされる。
【0046】
このため、第1の実施の形態等と同様に、浮体100の鉛直軸の回りの回転運動に対する反発トルクが係留索110によって得られ、浮体100の回転運動が抑制される。
【0047】
更に、2本の係留索110において、浮体下部101との接続点の鉛直方向における位置が異なる。このため、図1〜5の構成において浮体100の鉛直軸の回りの回転に対して係留索110の張力が影響を及ぼすのと同様に、図6(b)において矢印で示されるような鉛直面内の回転運動(鉛直線に対して垂直な方向の回りの回転運動)、特に図中に星印で示された浮体100の中心(浮心)Kの回りの回転運動に対しても、各係留索110の張力が影響を及ぼす。すなわち、第1〜第3の実施の形態によって鉛直線の回りの回転運動に対する反発トルクが得られるのと同様に、鉛直面上における回転運動に対しても反発トルクが得られる。このため、浮体100の回転運動を抑制し、波浪や風等による浮体100の中心軸の傾きを抑え、かつその姿勢も安定化することができる。
【0048】
なお、第4の実施の形態においても、アンカー120と係留索110を1対1の関係で設けること(第2の実施の形態)、アーム130を用いること(第3の実施の形態)は、前記と同様に行うことが可能であり、前記と同様の効果を得ることができることは明らかである。
【0049】
(第5の実施の形態)
一般に、一つの場所においては複数の浮体が並べて用いられる場合が多い。第5の実施の形態は、浮体が複数配列して用いられる場合に対応する。図7は、この構成の上面図(a)、側面図(b)であり、4つの浮体100が配列されている。また、一つの浮体100に対しては、4対の係留索対が4方向で用いられている。また、1対の係留索対に対しては一つのアンカー120が用いられている。
【0050】
更に、図7の構成においては、隣接する浮体100において、2個ずつのアンカー120が共用とされている。このため、浮体100が4つ、係留索110が計32本用いられているにも関わらず、アンカー120は10個と少ない。すなわち、アンカー120の数を少なくすることができる。これにより、アンカー120を海底95に固定する作業が容易となる。この際、全ての浮体100に対して、前記と同様の効果が得られる。
【0051】
なお、第1〜第5の実施の形態を適宜組み合わせた形態とする、あるいは、部分的に上記の技術を用いても同様の効果を奏することは明らかである。例えば、第5の実施の形態(図7)において一部の浮体100に対する構成を第3の実施の形態(図3)や第4の実施の形態(図6)のようにしてもよい。
【0052】
また、上記の例においては、アンカー120は海底95中に打ち込まれて固定される構成としたが、実質的に上記の構成が実現できる限りにおいて、その固定方法は任意である。例えば、潮流等によって移動することのない充分に重いアンカー120を用いれば、実質的に固定されることとなり、これを海底95上に載置するだけでも充分である。
【0053】
また、上記の例では、海底95が平坦であり、各アンカー120の深さが同一であるとしたが、海底95が平坦でなく、各アンカー120の深さが異なった場合においても、同様の効果を奏することは明らかである。
【0054】
また、上記の例では、浮体100上に風力発電装置を搭載した場合について説明したが、その方向の制御が重要である機器を浮体100上に搭載する場合には、本発明は同様に有効であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
上記の浮体の係留装置は、上記の通り、海上の浮体を係留させる際に有効に用いられる。しかしながら、浮体係留させる際にその回転運動を抑制することが要求される場合においては、海上に限らず、湖沼や河川においても有効に用いられることは明らかである。
【符号の説明】
【0056】
90 海面
95 海底
100、150、160 浮体
101、151、161 浮体下部(浮体)
102、152、162 浮体上部(浮体)
110 係留索
120 アンカー
200 風力発電装置本体
210 プロペラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形状の浮体を、一端が前記浮体に接続され他端が水中に設けられたアンカーに接続された複数の係留索を用いた緊張係留方式を用いて、前記略円筒形状の浮体の中心軸が略鉛直方向となるように係留する、浮体の係留装置であって、
当該浮体の係留装置を水平面に投影した際に、
前記略円筒形状における円の円周上の2点をそれぞれの一端として接続される2本の係留索からなる係留索対が用いられ、
前記2本の係留索は、それぞれが前記円の略接線となる形状とされ、前記2点を結ぶ直線を境界とした2つの側において同一の側に延びる形態とされたことを特徴とする、浮体の係留装置。
【請求項2】
浮体を、一端が間接的に前記浮体に接続され他端が水中に設けられたアンカーに接続された複数の係留索を用いた緊張係留方式を用いて、前記浮体の中心軸が略鉛直方向となるように係留する、浮体の係留装置であって、
当該浮体の係留装置を水平面に投影した際に、
前記浮体の中心から外側に向かって広がる形態で前記浮体に接続された対をなすアームと、
前記浮体の中心をその中心とする円の前記アームにおける円周上の2点をそれぞれの一端として前記アームに接続される2本の係留索からなる係留索対が用いられ、
前記2本の係留索は、それぞれが前記円の略接線となる形状とされ、前記2点を結ぶ直線を境界とした2つの側において同一の側に延びる形態とされたことを特徴とする、浮体の係留装置。
【請求項3】
前記係留索対が3対以上用いられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の、浮体の係留装置。
【請求項4】
前記係留索対における各係留索の他端は、同一のアンカーに接続されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の、浮体の係留装置。
【請求項5】
前記係留索対における2本の係留索の一端は、側面視において、異なる高さに設定されたことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の、浮体の係留装置。
【請求項6】
複数の浮体を係留する、浮体の係留装置であって、
隣接する浮体間において前記アンカーが共用されたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の、浮体の係留装置。
【請求項7】
前記浮体上に、風力発電装置が搭載されたことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の、浮体の係留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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