説明

浮体構造物の繋留設備

【課題】 海上に浮かぶ超大型浮体構造物(メガフロート)を防波壁に沿う定位置に確実に繋留することができ、大型の台風、異常気象などによる高潮や、地震の発生による津波など、急激な高波が陸地側に向けて襲う不測の事態が発生した際に、該超大型浮体構造物が陸上側へ乗り上げるのを未然に阻止することができる。
【解決手段】 海上に浮かぶ超大型浮体構造物MFの一側面2を、防波壁BWの防波面20に対面させ、超大型浮体構造物MFの上部に、繋留部8を設け、繋留部8に連結した繋留ワイヤロープ9を、防波壁BWの上部に設けた滑車11を経由して防波壁BWの背面側に延長させ、その下端にバランスウエイト12を連結し、また超大型浮体構造物MFは第1および第2の規制手段S1,S2により、その上下移動を許容されるが、防波壁BWに対する前後および左右方向への移動が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋に建設される浮体構造物、特に、超大型浮体構造物(メガフロート)の繋留設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境の悪化を解消する手段として、海洋への構造物の建設が提案されている。海洋に構造物を建設する工法として、一般に、埋立式、浮体式、着底式、桟橋式などが知られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】図書「大規模浮体構造物」 新たな海上経済空間の創出 マリンフロート推進機構編 発行所 鹿島出版会 2000年6月10発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、海洋への構造物の安全で確実な建設工法として一般に埋立式が広く採用されているが、空港などの超大型浮体構造物(メガフロート)の建設にあたっては、この埋立式は建設費が嵩み、特に大水深での建設には、建設費の増加が一層顕著になり、また地盤沈下の影響が大きくなるという問題がある。
【0004】
そこで、最近では、前記問題を解決する工法として、浮体式工法が、浮体構造物、特に超大型浮体構造物(メガフロート)の建設に適しているとされている。
【0005】
ところで、超大型浮体構造物(メガフロート)MFは、図8に示すように、製作して現地に運んだあとに、四方にアンカーA…を張って海上に繋留するのが一般によく知られる繋留方法であるが、
(1) 地球の温暖化により海面が異常に上昇する。
【0006】
(2) 異常気象により多発する、大型で強力な台風が高潮と共に押し寄せる。
【0007】
(3) 大きな地震が発生して津波が押し寄せる。
【0008】
などの予期せぬ事態が発生したときに、前記アンカーによる繋留方法では、到底、超大型浮体構造物を支えきることができず、その超大型浮体構造物が、海上から、沿岸沿いの住宅地や工場地帯に乗り上げるという非常事態を招くことが考えられる。
【0009】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、前記事態の発生時にも、浮体構造物、特に超大型浮体構造物を海上の定位置に確実に繋留することができるようにした、新規な浮体構造物の繋留設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、海洋に浮かぶ浮体構造物の一側面を、基礎に構築される防波壁の防波面に対面させ、その浮体構造物の上部に繋留部を設け、その繋留部に繋留条の上端を連結し、この繋留条を、前記防波壁の上部に設けた案内部材を経由して前記防波壁の背面側に延長させ、その繋留条の下端にバランスウエイトを連結し、さらに、前記浮体構造物には、該浮体構造物の上下移動を許容するが、その防波壁に対する前後および左右方向への移動を規制する規制手段が備えられていることを特徴としている。
【0011】
上記目的達成のため、請求項2の発明は前記請求項1記載のものにおいて、前記浮体構造物は、浮体空港などの超大型浮体構造物であることを特徴としている。
【0012】
上記目的達成のため、請求項3の発明は、前記請求項1または2記載のものにおいて、 前記防波壁は、前記基礎に間隔をあけて一列に並設される、複数の防波壁ユニットよりなり、各防波壁ユニットの上部に、前記浮体構造物の上部に設けた繋留部に連結される繋留条を案内する案内部材と、繋留条の下端に連結したバランスウエイトがそれぞれ設けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項各項の発明によれば、大型の台風、異常気象などによる高潮や、地震の発生による津波など、急激な高波が陸地側に向けて襲う不測の事態が発生した際に、浮体構造物を防波壁に沿う定位置に確実に繋留することができ、該浮体構造物が陸上側へ乗り上げるのを未然に阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、添付図面に例示した本発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【0015】
図1〜7は、本発明の第1実施例を示すものであり、図1は、本発明浮体構造物の繋留設備の全体斜視図、図2は、図1の2線矢視図、図3は、図2の3矢視図、図4は、図2の4矢視仮想線囲い部分の拡大図、図5は、図4の5−5線に沿う断面図、図6は、図4の6−6線に沿う断面図、図7は、図4の7−7線に沿う断面図である。
【0016】
図1において、海上に浮かぶ超大型浮体構造物(メガフロート)MFとしての浮体空港は、直方体に形成され、その上面1に飛行場が建設される。
【0017】
図2,3に示すように、浮体空港MFは、海上に浮遊されており、その長手方向の一側面2が、海底Bの基礎F1上に構築された防波壁BW、すなわち後述する複数(3つ)の防波壁ユニットBW1,BW2,BW3の略鉛直な防波面20・・と対面するようにされており、また後述する第1および第2の規制手段S1,S2により、昇降は許容されるが、防波壁BWに対して前後および左右の移動が規制されるようにされている。
【0018】
浮体空港MFの防波壁BWと対面する一側面2には、その長手方向に間隔をあけて複数箇所(この実施例では3箇所)に横断面凸状の第1の規制突部3・・が、その上下方向に沿って一体に設けられる。
【0019】
一方、浮体空港MFの防波壁BWは、間隔をあけて一列に並列する3つの防波壁ユニットBW1,BW2,BW3から構成されている。各防波壁ユニットBW1,BW2,BW3はいずれも同じ構成であるので、以下に、防波壁BW1について説明すると、防波壁ユニットBW1の防波面20には、前記第1の規制突部3に対応する横断面凹状の第1の規制溝23が上下方向に一体に設けられており、これらの第1の規制溝23は、前記浮体空港MFの第1の規制突部3に上下方向に相対移動可能に嵌合されている。また他の防波壁ユニットBW1,BW3の第1の規制溝23,23も同じく浮体空港MFの第1の規制突部3,3にそれぞれ上下方向に相対移動可能に嵌合されている。したがって、浮体空港MFは、上下方向の移動を許容されつつ、防波壁BWに対して左右方向(図1,2矢印a方向)の移動が規制されるようにされている。そして、前記第1の規制突部3・・と、第1の規制溝23・・は、第1の規制手段S1を構成している。
【0020】
また、図1,2に示すように、浮体空港MFの左右側面4,5の、防波壁BW寄りの部分には、横断面凸状の左右の第2の規制突部6L,6Rがそれぞれ上下方向に一体に設けられ、一方、浮体空港MFの左右両側方において、それぞれ海底Bの基礎F2上に構築した左右規制ブロックBL,BRには、前記左右の第2の規制突部6L,6Rにそれぞれ対応する横断面凹状の第2の規制溝26L,26Rが上下方向に一体に設けられており、左右の第2の規制溝26L,26Rは、前記浮体空港MFの左右の第2の規制突部6L,6Rに上下方向に相対移動可能に嵌合されており、これにより、浮体空港MFは、上下方向の移動を許容されつつ、防波壁BWに対する前後方向(図1,2矢印b方向)の移動が規制されている。そして、前記左右の、第2の規制突部6L,6Rと、第2の規制溝26L,26Rは、第2の規制手段S2を構成している。
【0021】
図3〜5に示すように、浮体空港MFの、各防波壁ユニットBW1,BW2,BW3と対面する一側面2の上部には、前記第1の規制突部3・・にそれぞれ対応させて複数の繋留部8・・が一体に設けられる。各繋留部8・・には、繋留条としての繋留ワイヤロープ9・・の上端が連結される。これらのワイヤロープ9・・は、防波壁ユニットBW1,BW2,BW3の各上部にブラケット10を介して回転自在に軸支した、案内部材としての滑車11・・に懸回されたのち、各防波壁ユニットBW1,BW2,BW3の背面側に沿って延長され、その下端にバランスウエイト12・・が連結されている。バランスウェイト12・・は、その重量を調節できるように、複数のウエイト単位を連結して構成される。
【0022】
繋留ワイヤロープ9・・は、バランスウェイト12・・の重力により、海洋に浮かぶ浮体空港MFを防波壁ユニットBW1,BW2,BW3の防波面20・・側に向けて牽引しており、海面のレベルの上昇時には、浮体空港MFを、防波面20・・に沿って上昇可能に繋留し、また、海面のレベルの下降時には、浮体空港MFを防波面20・・に沿って下降可能に繋留する。
【0023】
浮体空港MFの適所には、必要に応じてスパット14を打込むようにしてもよい。すなわち、図4,6に示すように、浮体空港MFには、上下方向の挿通孔13が設けられ、この挿通孔13を通して、スパット14が海底Bに打ち込まれる。挿通孔13と、スパット14との間には、環状の緩衝部材15,15が介在される。スパット14は、浮体空港MFの上下移動を許容しながら、その前後および左右方向の移動を緩衝的に抑制するように作用する。
【0024】
つぎに、この実施例の作用について説明する。
【0025】
海上に浮かぶ超大型浮体構造物としての浮体空港MFは、前記第1、第2の規制手段S1,S2により、前後、左右の移動を規制され、すなわち海上の定位置に維持されながら、バランスウェイト12・・により、防波壁ユニットBW1,BW2,BW3よりなる防波壁BW側に牽引される繋留ワイヤロープ9・・により防波壁BWの防波面20・・に沿って繋留される。そして、海面のレベルが下がれば、浮体空港MFは、防波面20・・に沿って下降し、また海面のレベルが上がれば、浮体空港MFは、防波面20・・に沿って上昇するように、防波壁BWにより案内される。
【0026】
ところで、大型の台風や異常気象などによる高潮や、地震の発生による津波など、急激な高波が陸地側に向けて襲う不測の事態が発生した際に、前記従来のアンカー方式の繋留手段(図8参照)では、浮体空港MFを支えきることができず、浮体空港MFが陸上に乗り上げ、遂には海岸沿いの住宅地や工場地帯に多大の被害を及ぼすことが考えられるが、この実施例のものでは、かかる事態が発生した場合にも、浮体空港MFを、バランスウェイト12・・により防波壁BW側に牽引される複数のワイヤロープ9・・により防波壁BWに沿う定位置に確実に繋留することができ、浮体空港MFが陸上側へ乗り上げるのを未然に阻止することができる。
【0027】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0028】
たとえば、前記実施例では、本発明を超大型浮体構造物(メガフロート)として浮体空港に本発明を実施した場合について説明したが、これを廃棄物処理施設などの他の超大型浮体構造物あるいは通常の浮体構造物にも実施できることは勿論であり、また第1および第2の規制手段としてスパットを用いてもよい。また繋留条として繋留ベルトなど他の同効物を用いもよく、さらに案内部材として他の同効物を用いてよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明浮体構造物の繋留設備の全体斜視図
【図2】図1の2線矢視図
【図3】図2の3矢視図
【図4】図2の4矢視仮想線囲い部分の拡大図
【図5】図4の5−5線に沿う断面図
【図6】図4の6−6線に沿う断面図
【図7】図4の7−7線に沿う断面図
【図8】従来の浮体構造物の繋留設備の全体斜視図
【符号の説明】
【0030】
BW・・・防波壁(防波壁ユニットBW1,BW2,BW3)
MF・・・浮体構造物(超大型浮体構造物)
S1・・・規制手段(第1の規制手段)
S2・・・規制手段(第2の規制手段)
2・・・・一側面(浮体構造物MFの)
8・・・・繋留部
9・・・・繋留条(繋留ワイヤロープ)
11・・・案内部材(滑車)
12・・・バランスウェイト
20・・・防波面(防波壁BWの)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋に浮かぶ浮体構造物(MF)の一側面(2)を、基礎(F1)に構築される防波壁(BW)の防波面(20)に対面させ、その浮体構造物(MF)の上部に繋留部(8)を設け、その繋留部(8)に繋留条(9)の上端を連結し、この繋留条(9)を、前記防波壁(BW)の上部に設けた案内部材(11)を経由して前記防波壁(BW)の背面側に延長させ、その繋留条(9)の下端にバランスウエイト(12)を連結し、さらに、前記浮体構造物(MF)には、該浮体構造物(MF)の上下移動を許容するが、その防波壁(BW)に対する前後および左右方向への移動を規制する規制手段(S1,S2)が備えられていることを特徴とする、浮体構造物の繋留設備。
【請求項2】
前記浮体構造物(MF)は、浮体空港などの超大型浮体構造物であることを特徴とする、前記請求項1記載の浮体構造物の繋留設備。
【請求項3】
前記防波壁(BW)は、前記基礎(F1)に間隔をあけて一列に並設される、複数の防波壁ユニット(BW1〜BW3)よりなり、各防波壁ユニット(BW1〜BW3)の上部に、前記浮体構造物(MF)の上部に設けた繋留部(8)に連結される繋留条(9)を案内する案内部材(11)と、繋留条(9)の下端に連結したバランスウエイト(12)がそれぞれ設けられることを特徴とする、前記請求項1または2記載の浮体構造物の繋留設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−137143(P2007−137143A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330738(P2005−330738)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(593031735)株式会社小島組 (15)