説明

浮体構造物及びその製造方法

【課題】幅広の浮体構造物を既設の建造用ドックを用いて建造することによりコストを低く抑えることが可能な浮体構造物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】内部に空洞部3L,3Rを有し、分割面Sを境に分割成形された一対の半割り状の分割体2L,2Rによって構成され、水中で浮くことが可能な浮体構造物であって、幅方向中央部に長さ方向の分割面Sが形成されるように前記分割体2L,2Rを成形し、該各分割体2L,2Rに上記分割面Sに沿い分割体2L,2Rの内部と外部とを隔てて分割体2L,2R内部への浸水を防止する遮蔽部4を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造物及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、大型の船舶を含む海洋構造物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浮体構造物の一つである船舶は、船舶の建造用ドックにおいて、進水までの組立作業が行われる。一方、大型船舶のような大型構造物の建造時あるいは就航している船舶の一部を修理するような場合に用いられる工法として、船舶などの構造物を長手方向に分割し、各分割部分を対象として組立作業や修繕作業のために取出すようにしたブロック工法が知られている(例えば、特許文献1,2,3)。また、ブロック工法を適用する場合の他の例としては、メガフロートと称される大型浮体構造物がある(例えば、特許文献4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−82883号公報
【特許文献2】特表2007−531659号公報
【特許文献3】特開昭60−146783号公報
【特許文献4】特開平9−277090号公報
【特許文献5】特開平11−99989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ブロック工法においては、予め組立てたブロックを集合させて組立てることができるので建造期間の短縮が図れる利点がある一方で、幅の大きい船舶等の浮体構造物を建造する場合、既設の建造ドックの幅では浮体構造物を収容することができないことがある。近年、船舶などの大型化が進み、この問題は特に深刻であるが、超大型の船舶などを建造可能な大型ドックは高価で数にも限りがあり、このようなものを新たに構築することは、船舶の建造数などの予測ができないことなどからしてコスト的に大きなリスクを伴う。
【0005】
また、浮体構造物を複数の分割体に分割成形した場合には、建造作業に必要なスペースを小さくできる一方で、それを大型ドックに水路や陸路で輸送するためのコストが掛かる他、分割体が多数あると、組立作業に手間が掛かり、製造コストを低く抑えることが困難な場合がある。
本発明の目的は、上記問題を解決し、幅広の浮体構造物を既設の建造用ドックを用いて建造することによりコストを低く抑えることが可能な浮体構造物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため、本発明の浮体構造物は、第1に、内部に空洞部3C,3L,3Rを有し、分割面Sを境に分割成形された一対の半割り状の分割体2L,2Rによって構成され、水中で浮くことが可能な浮体構造物であって、幅方向中央部に長さ方向の分割面Sが形成されるように前記分割体2L,2Rを成形し、該各分割体2L,2Rに上記分割面Sに沿い分割体2L,2Rの内部と外部とを隔てて分割体2L,2R内部への浸水を防止する遮蔽部を設けたことを特徴とする。
【0007】
第2に、遮蔽部が分割面Sに沿って分割体2L,2R内を長さ方向に縦断するように成形されてなることを特徴とする。
【0008】
第3に、遮蔽部が、分割体2L,2Rの底部側から喫水面Mよりも上方に至る高さの遮蔽部材4よりなることを特徴とする。
【0009】
第4に、遮蔽部材4が分割体2L,2Rの補強部材として機能することを特徴とする。
【0010】
第5に、遮蔽部が、分割体2L,2Rの底部から天井部に至る隔壁7よりなることを特徴とする。
【0011】
第6に、前記分割体2L,2R同士が接合される場合における接合部Jと干渉しない内側位置に前記遮蔽部が配置されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の浮体構造物の製造方法は、内部に空洞部3C,3L,3Rを有する浮体構造物1の幅方向中央に長さ方向の分割面Sが形成されるように分割成形された一対の分割体2L,2Rにより浮体構造物1を構成し、各分割体2L,2Rに分割体2L,2Rの内部と外部とを隔てて分割体2L,2R内部への浸水を防止する遮蔽部を形成し、その後、前記分割体2L,2R同士を分割面Sに沿って接合させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように構成される本発明によれば、分割体の水密性が確保されて幅が浮体構造物の約半分になった分割体を水上に浮かすことが可能になるので、一対の各分割体を既設の大型でない建造用ドックで製造した後に水上に移動させ、これらを大型ドック内や作業水域等に水上輸送して組立てることにより、浮体構造物を製造できる。このように、既設の建造用ドックを利用でき、分割体をそのまま水上輸送できるので輸送費も低コストになり、分割体の数も2つと少ないため組付作業の手間も最小限であるため、従来に比べて安いコストで大型の浮体構造物を製造できるという効果がある。くわえて、分割体は半割り状であり、略同一の幅であるため、2つの分割体を同一の建造用ドックで製造できるという効果もある。
【0014】
また、分割体の底部側から喫水面よりも上方に至る高さの遮蔽部材よりなることにより、分割体の開放された側を完全に閉塞する必要が無いため、さらに簡易的に分割体内部の水密性を確保することが可能になるという効果がある。
【0015】
また、遮蔽部材が分割体の補強部材として機能することにより、強度を向上させるために別途補強用の部材を設ける必要がないため、製造コストをさらに低く抑えることができるという効果がある。
【0016】
さらに、遮蔽部が、分割体の底部から天井部に至る隔壁よりなることにより、分割体の内部の水密性をより向上させることが可能になるという効果がある。
【0017】
なお、前記分割体同士が接合される場合における接合部と干渉しない内側位置に前記遮蔽部が配置されることにより、分割体同士を接合する作業がより容易になるため、利便性が高いという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】船舶建造の一態様を示す模式的な斜視図である。
【図2】半割船体接合時における船舶の模式的な正断面図である。
【図3】半割船体分割時における船舶の模式的な正断面図である。
【図4】他の実施形態に係る船舶の半割船体接合時の模式的な正断面図である。
【図5】他の実施形態に係る船舶の半割船体分割時の模式的な正断面図である。
【図6】本発明を適用した浮体構造物の製造の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図示する例に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、船舶建造の一態様を示す模式的な斜視図であり、同図に示されている船舶1は、浮体構造物の一つであり、具体的には全長L、幅Wの載荷重量30万トンクラスの油槽船である。
【0020】
船舶1は進行方向である前後方向が長手方向(長さ方向,全長方向)になり、この長手方向に対して直交(交差)方向である幅方向の中央部に位置して長手方向に延びる平面視前後一直線状の分割面Sによって上記船舶1が幅方向に左右分割成形されている。分割された左右の半割状の各分割体は半割船体2L,2Rになる。
【0021】
この左右一対の半割船体2L,2Rの互いが対向する側には、船舶1の側面の外形に沿う形状をなす接合縁部(接合部)J,J(図3参照)がそれぞれ形成され、この接合縁部J,J同士を当接状態で溶着等することによって半割船体2L,2R同士が接合されて一隻の船舶1が成形される。すなわち、一対の接合縁部J,Jを当接させた際、この2つの接合縁部J,Jの間に上記分割面Sが形成される。この一対の各半割船体2L,2Rは、これを収容できる幅(W/2以上の幅)及び長さ(L以上の長さ)を有する建造用ドック(図示しない)にて建造される。
【0022】
図2は、半割船体接合時における船舶の模式的な正断面図であり、図3は、半割船体分割時における船舶の模式的な正断面図である。この船舶1の左右両側と、左右両側に挟まれた中央部とにタンクを構成する空洞部3L,3R,3Cがそれぞれ設けられている。なお、中央の空洞部3Cは半割船体2L,2Rが接合されることにより形成され、他の空洞部3L,3Rは対応する半割船体2L,2Rに上下一対で形成されている。
【0023】
各半割船体2L、2R内の接合部Jの近傍には、分割面Sに沿い半割船体2L,2Rの内部と外部とを隔てて半割船体2L,2Rの進水時に半割船体2L,2Rの外部から内部への浸水を防止する遮蔽部材(遮蔽部)4が設けられている。
【0024】
この遮蔽部材4は、図示する例では、分割面Sに沿って半割船体2L,2Rの内部を前後に縦断するように成形され、補強部材としても機能している。さらには、遮蔽部材4が各半割船体2L,2R内の底面(底部)側から上方に向かって突設された底側縦桁(縦桁)になる。一方、各半割船体2L,2R内の天井面(天井部)側である甲板側からは、下方に向かって甲板側縦桁(縦桁)6が突設されており、底側縦桁4の先端面と甲板側縦桁6の先端面とが所定間隔を介して突き合されている。
【0025】
各縦桁4,6は上記接合縁部Jに対して半割船体2L,2R内に変位した内側位置に配置され、半割船体2L、2Rの接合作業時に対向する底側縦桁4,4同士及び甲板側縦桁6,6同士がそれぞれ干渉しないようになっている。くわえて、半割船体2L,2Rを進水させて水上に浮かべた際に底側縦桁4の上端が水面(喫水面)Mよりも高くなるように底側縦桁6の高さが設定されている。ちなみに、図示する例では、底側縦桁4の上端部が水面Mに対してHだけ上方に位置し、各縦桁4,6が接合縁部JからXだけ半割船体2L,2Rの内側の奥まった位置に配置されている。
【0026】
以上のように構成される船舶1によれば、幅方向中央部の分割面Sを境にして船幅方向で二分される半割船体2L,2Rを形成しているので、半割船体2L,2Rを収容できる大きさの建造用ドックにて半割船体2L,2Rを建造し、建造後、半割船体2L,2R両方を収容できる大型のドックD(図1参照)にて半割船体2L,2R同士を接合することで所定の幅Wを有する船舶1とすることができる。これにより、完成時の幅Wを収容できる大きなドックDを建造時から進水までの間の長期に亘って占有することがなくなる。
【0027】
また、補強部材である縦桁4によって半割船体2L,2Lの内部(空洞部3C,3L,3R)の水密性を確保して半割船体2L,2Rを水上に浮かべることが可能になるため、別途、分割体2L,2Rの内部の水密性を確保する部材を設ける必要がなく、コストを低く抑えることが可能になる。
【0028】
また、底側縦桁4の上端面と甲板縦桁6の下端面との間に所定間隔が形成されることにより、半割船体2L,2Rの接合時、互いの内部同士を連通させることが可能になり、船舶1を幅方向中央部で左右分割成形した場合でも、船舶1の幅方向中央に空洞部3Cを形成することが可能になる。
【0029】
さらに、半割船体2L,2Rの建造用ドックでの製造時点で、遮蔽部によって半割船体2L,2R自体が水上で浮かぶように構成されているため、半割船体2L,2Rの水上輸送のために改めて特別な処理を施す必要がない。このことにより、半割船体2L,2R同士を接合して合体させるための図1に示すような大型ドックDへの搬送作業を、簡易的に行うことが可能になる。
【0030】
次に、図4及び5に基づき本発明の他の実施形態について前述の例と異なる点について説明する。
図4は、他の実施形態に係る船舶の半割船体の接合時の模式的な正断面図であり、図5は、他の実施形態に係る船舶の半割船体の分割時の模式的な正断面図である。同図に示す船舶1は、載荷重両10万トンクラスの油槽船である。この船舶1は、前述の場合と同様に分割面Sを境に分割された左右一対の半割船体2L,2Rによって構成され、前述のものと比較して幅方向中央部の空洞部3Cが省略されるとともに各半割船体2L,2Rに1つのタンク用の空洞部3L,3Rが形成されている。
【0031】
各半割船体2L、2R内の接合面Jの近傍には、分割面Sに沿い半割船体2L,2Rの内部と外部とを隔てて半割船体2L,2Rの進水時に半割船体2L,2Rの外部から内部への浸水を防止する隔壁(遮蔽部)7が設けられている。
【0032】
この隔壁7は、図示する例では、分割面Sに沿って半割船体2L,2Rの内部を前後に縦断するように成形される。くわえて、隔壁7は、半割船体2L,2Rの開放側を閉塞するように、対応する各半割船体2L,2R内の底面から天井面に至る範囲に形成される。これによって、半割船体2L,2R内(空洞部3L,3R)の水密性が確保され、半割船体2L,2Rのそれぞれを水上に浮かべることが可能になる。ちなみに、隔壁7は、上記接合縁部Jに対して距離X分だけ半割船体2L,2R内に変位した奥側位置に配置され、半割船体2L、2Rの接合作業時に対向する隔壁7同士が干渉しないようになっている。
【0033】
次に、図6に基づき、本発明を適用した浮体構造物の製造方法について説明する。
図6は、本発明を提供した浮体構造物の製造の手順を示すフローチャートである。船舶の幅が設計段階で決定されると(S1)、分割面Sを設定した後、この分割面Sを基準に左右分割成形される半割船体2L,2Rを収容できる既設の建造用ドックが選択され(S2)、この既設の建造用ドックにて半割船舶2L,2Rが建造される(S3)。ちなみに、半割船体2L,2Rの建造時には、半割船体の分割面S近傍に遮蔽部を設けることになるが、遮蔽部は、図2乃至図5において説明した構成のいずれかが選択される。
【0034】
半割船体2L,2Rの建造が完了すると、これらの半割船体2L,2Rが収容できる大きさの大型ドックDに移設される(S4)。この場合には、移動が海上移動となることもあり、この場合には、建造用ドック内への注水によって半割船体2L,2Rを浮き上がらせて大型ドックDへの海上移動を行う。
【0035】
両半割船体2L,2Rが収容できる上記の大型ドックDにて、半割船体2L,2R同士が直接接合されて、完成時の幅を有した船舶1が建造されることになる(S5)。建造が完了した船舶1は、その後、進水を経て(S6)、試運転等に至る。以上のような実施形態においては、半割状態2L,2Rに分割した構造物である船体1を対象として、半割状態2L,2Rを収容できる既設の建造用ドックを選択して建造することができる。
【符号の説明】
【0036】
2L,2R 半割船体(分割体)
3C,3L,3R 空洞部(タンク)
4 遮蔽部材(遮断部)
7 隔壁7(遮断部)
J 接合縁部(接合部)
M 水面(喫水面)
S 分割面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞部(3C),(3L),(3R)を有し、分割面(S)を境に分割成形された一対の半割り状の分割体(2L),(2R)によって構成され、水中で浮くことが可能な浮体構造物であって、幅方向中央部に長さ方向の分割面(S)が形成されるように前記分割体(2L),(2R)を成形し、該各分割体(2L),(2R)に上記分割面(S)に沿い分割体(2L),(2R)の内部と外部とを隔てて分割体(2L),(2R)内部への浸水を防止する遮蔽部を設けた浮体構造物。
【請求項2】
遮蔽部が分割面(S)に沿って分割体(2L),(2R)内を長さ方向に縦断するように成形されてなる請求項1の浮体構造物。
【請求項3】
遮蔽部が、分割体(2L),(2R)の底部側から喫水面(M)よりも上方に至る高さの遮蔽部材(4)よりなる請求項2の浮体構造物。
【請求項4】
遮蔽部材(4)が分割体(2L),(2R)の補強部材として機能する請求項3の浮体構造物。
【請求項5】
遮蔽部が、分割体(2L),(2R)の底部から天井部に至る隔壁(7)よりなる請求項2の浮体構造物。
【請求項6】
前記分割体(2L),(2R)同士が接合される場合における接合部(J)と干渉しない内側位置に前記遮蔽部が配置された請求項1,2,3,4又は5の浮体構造物。
【請求項7】
内部に空洞部(3C),(3L),(3R)を有する浮体構造物(1)の幅方向中央に長さ方向の分割面(S)が形成されるように分割成形された一対の分割体(2L),(2R)により浮体構造物(1)を構成し、各分割体(2L),(2R)に分割体(2L),(2R)の内部と外部とを隔てて分割体(2L),(2R)内部への浸水を防止する遮蔽部を形成し、その後、前記分割体(2L),(2R)同士を分割面(S)に沿って接合させる浮体構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−179757(P2010−179757A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24434(P2009−24434)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000171861)佐世保重工業株式会社 (7)