説明

浮屋根タンク用消火設備

【課題】 遠隔操作よって放射方向が制御できる小型泡放射砲をタンクステージに設け、また前記小型泡放射砲と併せて小型監視カメラをタンクステージに設け、火災の発生から鎮火までをタンクから離れた場所においてモニタできるようにし、可燃性液体を貯蔵する浮屋根構造のタンクにおいて浮屋根のシール部分で局所的に発生する火災の消火がより適切に効果的に行える浮屋根タンク用消火設備を提供する。
【解決手段】 タンク側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲と、該小型泡放射砲に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管と、前記タンクステージに配設され浮屋根上面を監視する1又は複数台の小型監視カメラと、前記小型監視カメラの映像を表示するモニタと、前記小型泡放射砲及び小型監視カメラを遠隔制御する遠隔制御装置とで構成されてなる浮屋根タンク用消火設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性液体を貯蔵する浮屋根構造のタンクにおいて、浮屋根のシール部分で局所的に発生する火災を消火する消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
石油など可燃性液体を貯蔵する大型のタンクとして、貯蔵量の変化に伴ってタンク側板に沿って上下に移動する浮屋根構造を持つ屋外タンクが多用されている。この浮屋根構造を持つタンクでは、貯蔵した可燃性液体の蒸発を抑制し、雨水のタンク内への流入を防止するために、前記浮屋根の外周にはシール部材が取り付けられているが、地震などで液面変動(スロッシング)が起こり、それによる浮屋根の上下動で前記シールの一部から局所的に可燃性液体が漏れ出して気化し、落雷や静電気の火花によって局所的な火災(以下リング火災と記す)となるおそれがある。さらに、浮屋根が沈下することになれば、前記シール部で発生したリング火災がタンク全体に拡がり全面火災になりかねない。
【0003】
前記可燃性液体貯蔵タンクのリング火災を消火する方法の一つとして、燃焼している可燃性液体の表面を泡消火剤で覆い、泡によって空気を遮断して消火するものがある。例えば、タンクの上端周縁に備えたデフレクターから泡消火剤をタンク内壁に沿って流下させて消火する設備(実開昭60−81897号公報)を備えたタンクが知られている。
また、浮屋根外周に形成されたポンツーン上部内側に円形状の堰板を立設し、前記堰板より外側のポンツーン上にタンクの上端周縁に備えたデフレクターから泡消火剤を流入させて、初期消火を効果的に行う発明が、例えば特開2005−239243号公報や実開昭59−191387号公報に見られる。
しかし、上記発明は、いずれも泡消火剤をタンク内に注入するデフレクターや、浮屋根のシール部から漏れ出す可燃性液体の拡散防止と泡消火剤の効果的使用を可能にする堰板をポンツーン上に立設するといった可燃性液体貯蔵タンクの部分的な構造改良に関する発明にとどまり、消火設備としての総合的な仕組みにまでは言及されていない。
【0004】
これに対して、特開2000−140142号公報(特許文献4)には、
「タンク内壁に沿って昇降するフローティング部を有する浮屋根タンクにおいて、
該フローティング部上に固定され、火災感知に伴い放出される10kgf/cm未満の圧力の不燃性ガスが充填された少なくとも一つの火災感知ヘッドと、前記フローティング部上に固定され、粉末消火剤と共に10kgf/cm未満の圧力の不燃性ガスが蓄圧された粉末貯蔵容器と、前記火災感知ヘッドの不燃性ガスの放出に伴う圧力の低下を検出する圧力検知手段と、該圧力検知手段で検出した圧力が予め定めた所定値以下のとき火災と判定する火災判定手段と、前記フローティング部上に固定され、該火災判定手段で火災と判定されたとき前記粉末消火剤を放射する少なくとも一つの粉末放射ヘッドとを備えた浮屋根タンク用消火装置(請求項1)」
の発明が、火災感知から消火に至るまでの一連の活動が実施できる浮屋根タンク用の消火装置として開示されている。
上記特許文献4に記載の浮屋根タンク用消火装置は、その明細書の「実施のための形態」及び「図1」「図2」に示された構成等から理解されるように、フローティング部の周縁に沿って複数の火災感知ヘッドと粉末消火剤を放射する複数の粉末放射ヘッドとが、いずれもその先端をタンクの内壁側に向けて配設、固定されている。したがって、前記火災検知ヘッド及び粉末放射ヘッドは、フローティング部の昇降に伴って昇降するので、常にリング火災発生個所の近くで火災発生を感知し、またリング火災発生個所の近くから粉末消火剤が放射でき、火災の早期発見と効果的な初期消火が行える利点を持っている。
その反面、フローティング部上に火災感知ヘッド、火災感知配管、粉末貯蔵容器、粉末放射ヘッド、及び粉末配管を固定する際には、前記フロート部が水平に保てるように重量バランスを考慮しなければならず、またフローティング部の質量が増加することによるタンク構造への影響も考慮する必要がでてくる。
また、前記火災感知ヘッド、粉末貯蔵容器がフローティング部とともに昇降するので、前記火災感知ヘッドに窒素ガスを充填し、火災発生時に前記火災感知ヘッド先端の溶融部が火災熱によって溶融し、窒素ガスの充填圧が低下したことを検出する圧力検知手段と前記火災感知ヘッドとを結ぶ管路、及び前記粉末貯蔵容器に粉末を補給する管路のタンク上端からフローティング部を結ぶ部分には、フローティング部の昇降に追従できる柔軟性と火災熱に耐える難燃性、又は不燃性を持つ素材の使用が要求される。
そして、最も問題なのは、火災がタンク内で発生するので、その位置やその状況の把握、鎮火等が人の目で確認できないことにある。
【0005】
コンビナート等災害防止法では、固定泡消火設備による消火が困難になった場合に備えて、大型化学消防自動車、大型高所放水車、泡原液搬送車を装備しておくこととなっているが、これも防油提の外からタンク内部が視認できない状態で、前記堰板とタンク側板内面との間の幅1m程度の空間に泡消火剤を注入することは容易でなく、そのため大量の泡消火剤と水を消費し、かつ消火に時間を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭60−81897号公報
【特許文献2】特開2005−239243号公報
【特許文献3】実開昭59−191387号公報
【特許文献4】特開2000−140142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記周辺技術の現状に鑑みて行われたもので、遠隔操作よって放射方向が制御できる小型泡放射砲をタンクステージに設け、また前記小型泡放射砲と併せて小型監視カメラをタンクステージに設け、火災の発生から鎮火までをタンクから離れた場所においてモニタできるようにし、可燃性液体を貯蔵する浮屋根構造のタンクにおいて浮屋根のシール部分で発生するリング火災の消火がより適切に効果的に行える浮屋根タンク用消火設備を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を下記の手段により解決した。
(1)可燃性液体を貯蔵する浮屋根構造のタンクにおいて浮屋根のシール部分で局所的に発生する火災の消火設備であって、
タンク側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲と、該小型泡放射砲に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管と、前記小型泡放射砲を遠隔制御する遠隔制御装置とで構成されてなることを特徴とする浮屋根タンク用消火設備。
(2)可燃性液体を貯蔵する浮屋根構造のタンクにおいて浮屋根のシール部分で局所的に発生する火災の消火設備であって、
タンク側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲と、該小型泡放射砲に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管と、前記タンクステージに配設され浮屋根上面を監視する1又は複数台の小型監視カメラと、前記小型監視カメラの映像を表示するモニタと、前記小型泡放射砲及び小型監視カメラを遠隔制御する遠隔制御装置とで構成されてなることを特徴とする浮屋根タンク用消火設備。
【0009】
(3)前記小型泡放射砲が、火災発生時にそのノズルの筒先を火災発生場所に向けられるよう、前記ノズルを水平に回動させる筒先制御機構と、下向きに傾ける筒先制御機構とを備えてなることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の浮屋根タンク用消火設備。
(4)前記小型泡放射砲が、泡消火剤水溶液を浮屋根の堰板とタンク側板内面との間の空間に放射できるように所定の俯角を持って傾けられたノズルを有してなり、かつ、前記ノズルの筒先を左右に振って消火範囲を拡げる筒先制御機構を備えてなることを特徴とする前項(1)〜(3)いずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
(5)前記小型泡放射砲が、アスピ−レート型、ノンアスピレート型、あるいはその兼用型のノズルを備えたものであることを特徴とする前項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
(6)前記小型泡放射砲のノズルの筒先制御が、油圧又は空気圧で行われ、前記制御用の油圧、空気圧を地上から伝送する制御用配管が、各小型泡放射砲に接続されてなることを特徴とする前項(1)〜(5)のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【0010】
(7)前記小型監視カメラが、ズームレンズと、該小型監視カメラのパンとチルトを制御する雲台とを備えてなり、平常時は前記ズームレンズを広角の状態で使用して浮屋根上を広く監視し、火災発生の映像がモニタに表示された時、前記ズームレンズと前記雲台を遠隔制御して、火災発生場所にズームインして火災状況を確認するとともに、前記雲台の操作角度情報を基に火災発生場所を特定する火災発生場所特定機構を前記遠隔制御装置内に備えてなることを特徴とする前項(2)〜(6)のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
(8)前記小型監視用カメラが、撮像した映像信号をモニタに送信し、前記遠隔制御装置からの小型監視カメラ、ズームレンズ、及び雲台の制御信号を受信する無線機を備えてなることを特徴とする前項(2)〜(7)のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
(9)前記小型監視カメラ、ズームレンズ、雲台、無線機を駆動する電源が、太陽光発電パネルと蓄電池とで構成されてなるものであることを特徴とする前項(2)〜(8)のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
(10)前記小型監視用カメラが、赤外線カメラであることを特徴とする前項(2)〜(9)のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【0011】
(11)前記小型泡放射砲及び小型監視カメラを遠隔制御する遠隔制御装置が、前記火災発生場所特定機構によって特定された火災発生場所付近に配設された1又は複数の小型泡放射砲を選択し、そのノズルの筒先を発生場所に向けるとともに選択された小型泡放射砲に接続された泡消火剤水溶液配管に泡消火剤水溶液を供給するよう制御可能に構成されてなることを特徴とする前項(1)〜(10)のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【発明の効果】
【0012】
本発明の浮屋根タンク用消火設備によって下記の効果が発揮できる。
〈1〉浮屋根タンク用消火設備が、タンク側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲と、該小型泡放射砲に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管と、前記小型泡放射砲を遠隔制御する遠隔制御装置とで構成されているので、消火活動が遠隔操作によって行えることから、危険を伴うタンクステージ上での作業がなくなるとともに、火災発生場所に近いところから泡消火剤水溶液を放射でき、大量の泡消火剤と水を消費せずに短時間で鎮火に至らせることができる。
〈2〉浮屋根タンク用消火設備が、タンク側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲と、該小型泡放射砲に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管と、前記タンクステージに配設され浮屋根上面を監視する1又は複数台の小型監視カメラと、前記小型監視カメラの映像を表示するモニタと、前記小型泡放射砲及び小型監視カメラを遠隔制御する遠隔制御装置とで構成されているので、タンクの浮屋根上をモニタによって常時監視でき、また火災発生時には遠隔制御によって前記小型監視カメラを制御して火災発生場所の状態をモニタ画面上で確認しつつ、前記小型泡放射砲を遠隔制御でき、より効果的な消火活動が実施できる。
【0013】
〈3〉前記小型泡放射砲が、火災発生時にそのノズルの筒先を火災発生場所に向けられるよう、前記ノズルを水平に回動させる筒先制御機構と、下向きに傾ける筒先制御機構とを備えているので、小型監視カメラによって確認された火災発生場所に前記小型泡放射砲の筒先を即座に向けて泡消火剤水溶液を放射でき、またその効果をモニタで確認でき、タンク火災の初期消火が的確に実施できる。
また複数の小型泡放射砲を備えることによって、複数個所からの同時出火にも迅速に対応できる。
【0014】
〈4〉前記小型泡放射砲が、泡消火剤水溶液を浮屋根の堰板とタンク側板内面との間の空間に放射できるように所定の俯角を持って傾けられたノズルを有し、かつ、前記ノズルの筒先を左右に振って消火範囲を拡げる筒先制御機構を備えているので、1台の泡消火砲で消火できる範囲は狭められるものの、泡消火剤は前記浮屋根の堰板とタンク側板内面との間の空間に的確、かつ迅速に投入され、初期消火に有効に作用する。
また、筒先制御機構が一系統で済むので、前記小型泡放射砲の構造は簡易化され、その操作も保守も容易となる。
【0015】
〈5〉前記小型監視カメラがズームレンズと、前記小型監視カメラのパンとチルトを制御できる雲台とを備えてなり、平常時は前記ズームレンズを広角の状態で使用して浮屋根上を広く監視し、火災発生の映像がモニタに表示された時、前記ズームレンズと前記雲台を遠隔制御して、火災発生場所にズームインして火災状況を確認するとともに、前記雲台に備えた操作角度検出センサーからの情報を基に遠隔制御装置内に備えた火災発生場所特定機構によって火災発生場所を特定可能にしているので、出火場所の特定、及び火災発生場所への泡消火剤水溶液の放射が適切に行え、初期消火が効果的に実施できる。
【0016】
〈6〉前記小型監視用カメラが、撮像した映像信号をモニタに送信し、遠隔制御機構からの小型監視カメラ、ズームレンズ、及び雲台の制御信号を受信する無線機を備えているので、映像信号及び制御信号を送受信するための信号ケーブルをタンク外壁に配設された梯子等に沿わせるなどして設ける必要がなく、また、前記小型監視カメラ、雲台、無線機を駆動する電源を太陽光発電パネルと蓄電池とで構成すればタンク外壁に沿わせて電力線を設ける必要もなく、したがって、小型監視カメラを既設の浮屋根構造のタンクへも容易に追加設置できる。
〈7〉前記小型監視用カメラが、赤外線カメラであるので、夜間可視光では監視できない浮屋根上の状態もモニタで監視でき、火災発生の前兆となる浮屋根上への可燃液体の漏れなどを目視で確認でき、出火前に泡消火剤の放射を行うなどの予防措置が実施できる。
【0017】
〈8〉前記小型泡放射砲及び小型監視カメラを遠隔制御する遠隔制御装置が、前記火災発生場所特定機構によって特定された火災発生場所付近に配設された1又は複数の小型泡放射砲を選択し、そのノズルの筒先を発生場所に向けるとともに選択された小型泡放射砲に接続された泡消火剤水溶液配管に泡消火剤水溶液を供給するよう制御可能に構成されているので、泡消火剤水溶液を出火場所に迅速、かつ集中して放射でき、浮屋根タンクの火災の初期消火が小人数の人手によって、しかもタンクのステージ上で活動することなく、かつ、大量の泡消火剤と水を消費せずに短時間で鎮火に至らせ、火災による損害を最小限にとどめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の浮屋根タンク用消火設備のシステム構成図(実施例1)
【図2】本発明の浮屋根タンク用消火設備のシステム構成図(実施例2)
【図3】図1、図2に示すシステムで使用した小型泡放射砲の構成図
【図4】図2に示すシステムにおける小型泡放射砲及び小型監視カメラ等のタンクへの設置状態説明図
【図5】本発明の浮屋根タンク用消火設備のシステム構成図(実施例3)
【図6】本発明の浮屋根タンク用消火設備のシステム構成図(実施例4)
【図7】図5、図6に示すシステムで使用した小型泡放射砲の構成図
【図8】図6に示すシステムにおける小型泡放射砲及び小型監視カメラ等のタンクへの設置状態説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の浮屋根タンク用消火設備を実施するための形態を、実施例の図に基づいて説明する。
図1は本発明の浮屋根タンク用消火設備の第1実施例のシステム構成図、図2は本発明の浮屋根タンク用消火設備の第2実施例のシステム構成図、図3は図1、図2のシステムで使用される小型泡放射砲の構成図、図4は図2のシステム構成における小型泡放射砲及び小型監視カメラ等のタンクへの設置状態説明図である。
そして図5は本発明の浮屋根タンク用消火設備の第3実施例のシステム構成図、図6は本発明の浮屋根タンク用消火設備の第4実施例のシステム構成図、図7は図5、図6に示すシステムで使用した小型泡放射砲の構成図、図8は図6に示すシステムにおける小型泡放射砲及び小型監視カメラ等のタンクへの設置状態説明図である。
図において1はタンク、2は浮屋根、3はシール部、4はポンツーン、5は堰板、10、10’は小型泡放射砲、11はノズル、12、12’、12”は筒先制御機構、13は筒先制御用配管、14、14’は小型泡放射砲取付台、15は泡消火剤水溶液配管、16は泡消火剤水溶液注入口、17a、17bはL字形パイプ、18はエルボ管、20は小型監視カメラ、21はズームレンズ、22は雲台、23はモニタ、24は映像信号及びカメラ制御信号の伝送手段、25は雲台制御信号伝送手段、30は遠隔制御装置、31は泡放射砲制御機構、32はカメラ制御機構、33は雲台制御機構、34は火災発生場所特定機構を示す。
【実施例1】
【0020】
本発明の浮屋根タンク用消火設備の第1の実施例は、図1のシステム構成図に示すように、タンク1の側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲10(図3参照)と、該小型泡放射砲10に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管15と、前記小型泡放射砲10に備えた筒先制御機構12、12’を遠隔制御して前記小型泡放射砲10のノズル11の筒先を火災発生場所に向ける泡放射砲制御機構31とで構成され、火災発生場所に向けて泡消火剤水溶液を的確に放射できるようになされている。
本実施例1の小型泡放射砲10は、次に説明する本発明の浮屋根タンク用消火設備の第2実施例にも使用されるので、その詳細は第2実施例の構成を説明した後に記載する。
【実施例2】
【0021】
本発明の浮屋根タンク用消火設備の第2の実施例は、図2のシステム構成図に示すように、タンク1の側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲10(図3参照)と、該小型泡放射砲10にタンク外から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管15と、前記タンクステージに配設され浮屋根2の上面を監視する1又は複数台の小型監視カメラ20(図3参照)と、前記小型泡放射砲10及び小型監視カメラ20の機能のそれぞれを遠隔制御する遠隔制御装置30、及び小型監視カメラの映像を監視するモニタ23とで構成されている。
そして、前記小型監視カメラ20は、ズームレンズ21と、前記小型監視カメラ20のパンとチルトを制御できる雲台22とを備え、平常時は前記ズームレンズ21を広角の状態で使用して浮屋根2上を広く監視し、火災発生の映像が遠隔制御装置30が設置された監視・制御室の設けられたモニタ23に表示された場合に、前記ズームレンズ21と前記雲台22を遠隔制御装置のカメラ制御機能32と雲台制御機能33によって制御して、火災発生場所にズームインすることによって火災状況をモニタ23で確認するとともに、前記雲台制御機構33の操作角度情報から火災発生場所特定機構34によって発生場所を特定し、その結果に基づいて泡放射砲制御機能31が前記小型泡放射砲10に備えた筒先制御機構12、12’を制御し、前記小型泡放射砲10のノズル11の筒先を火災発生場所に向け泡消火剤水溶液を的確に放射できるよう構成されている。
【0022】
前記実施例1及び実施例2における小型泡放射砲10は、図3に示すように、2つのL字形パイプ17a、17bが、その垂直パイプ部分の端部間に、前記ノズル11を水平に回動させるための筒先制御機構12を介在させて上下に接続されてなり、かつ前記上方に配置されたL字形パイプ17aの水平パイプ部分の端部には、前記ノズル11を下方に傾斜させる筒先制御機構12’と前記筒先制御機構12’の回動端側に装着されたエルボ管18とを介在させてノズル11が装着され、そして下方に配置されるL字形状のパイプ17aの水平パイプ部分は、タンク1の側板上端部に本小型泡放射砲10を装着するための小型泡放射砲取り付け台14に固着され、その端部には泡消火剤水溶液配管15が接続されるように構成されている。
前記小型泡放射砲10のノズル11の筒先制御は油圧又は空気圧で行われ、前記小型泡放射砲制御機構31から制御用の油圧、空気圧をタンク1の外壁に沿って配設された筒先制御用配管13(図1、図2参照)を介して、各小型泡放射砲10の筒先制御機構12、12’へ伝達され、前記ノズル11を水平に回動させるとともに、俯角を変化させて前記ノズル11の筒先を火災発生場所に向け、泡消火剤水溶液注入口16から注入した泡消火剤水溶液を放射する。
【0023】
本実施例2の浮屋根タンク用消火設備では、図2に示すように、前記小型監視用カメラ20が撮像した映像信号をモニタ23に伝送し、カメラ制御機構32から前記小型監視カメラ20、ズームレンズ21の機能を遠隔制御するためのカメラ制御信号を前記小型監視カメラ20に伝送する映像信号及びカメラ制御信号の伝送手段24と、前記雲台22を制御する雲台制御信号伝送手段25を備えている。
なお、図2では前記映像信号及びカメラ制御信号伝送手段24と雲台制御信号伝送手段25とを別の回線として表示したが、信号多重技術を使用して一つの回線での送受信も可能で、また回線としては同軸ケーブルや光ファイバケーブル等による有線回線、無線機による無線通信回線のいずれをも利用できる。
なお、無線通信回線を使用する場合には、前記小型監視カメラ20、ズームレンズ21、雲台22、及び無線機を駆動する電源として太陽光発電パネルと蓄電池とを前記タンクステージに備え、電力線をタンク側板に設けられた梯子等に沿わせて設けることを不要としたシステム構成とすることも好ましい。
さらに、前記小型監視カメラ20、ズームレンズ21、雲台22、無線機など電力により駆動される装置にあっては、その使用場所が可燃性液体の貯蔵タンク1であることを配慮していずれも可能な限り防曝型、又は防曝ケースに内蔵されたものであることがより好ましい。
また、モニタ23もタンクに設置された小型監視カメラ20の台数に対応して設置するのが好ましいが、火災発生頻度がそれほど高くない現状に鑑みれば、すべての小型監視カメラ20の映像を同時一斉にモニタするのでなく、各小型監視カメラ20から伝送される映像信号を特定の時間間隔で切り替えて1台のモニタで監視することであってよい。
【0024】
図4に小型泡放射砲10及び小型監視カメラ20等のタンクへの設置状態の例を示した。タンク内の浮屋根2のシール部3を死角なくかつ歪みの少ない映像で監視するためには少なくとも2台の小型監視カメラが必要で、歪みを重視するならば3台の設置が好ましい。
魚眼レンズなどのような焦点深度の短いレンズを用いれば1台の小型監視カメラ20で浮屋根2のシール部3全面を監視することもできるが、モニタ23に表示される映像には湾曲歪みが伴い、この映像信号から出火場所を特定するにはこの湾曲歪みを補正する映像補正回路が必要となる。また、歪みの少ない映像を得ようとして適切な焦点深度のレンズを備えたカメラ1台で運用する場合には、取付場所の直下を含め、浮屋根2のシール部3に沿わせて小型監視カメラ20の視野を移動させねばならず、常時カメラ雲台22の制御が必要になるという問題が伴うことになる。
【0025】
小型泡放射砲10の設置台数については、その放射能力やタンク1の内径によって適宜選択されてよい。なお、図4においては、各小型泡放射砲10にそれぞれ泡消火剤水溶液配管15を接続するように示したが、互いに近接して配設されたいくつかの小型泡放射砲10を一つのブロックとしてまとめ、そのブロックごとに前記筒先制御用配管15を設置することも好ましい。
なお、前記実施例1の場合には、図4から小型監視カメラ20がすべて削除された配置状態図となることはいうまでもない。
【実施例3】
【0026】
本発明の浮屋根タンク用消火設備の第3の実施例は、図5のシステム構成図に示すように、タンク1の側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲10’(図7参照)と、該小型泡放射砲10’に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管15と、前記小型泡放射砲10’に備えた筒先制御機構12”を遠隔制御して前記小型泡放射砲10’のノズル11の筒先を火災発生場所に向ける泡放射砲制御機構31とで構成されている。
【実施例4】
【0027】
また、本発明の浮屋根タンク用消火設備の第4の実施例は、図6のシステム構成図に示すように、タンク1の側板上端部に設けられたタンクステージに設置される複数の小型泡放射砲10’(図7参照)と、該小型泡放射砲10’にタンク外から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管15と、前記タンクステージに配設され浮屋根2の上面を監視する1又は複数台の小型監視カメラ20と、前記小型泡放射砲10’及び小型監視カメラ20の機能のそれぞれを遠隔制御する遠隔制御装置30、及び小型監視カメラの映像を監視するモニタ23とで構成されている。
そして、前記小型泡放射砲10’は、ノズル11から放射される泡消火剤水溶液をタンク1の側板内面と、浮屋根2のポンツーン4上に設けられた堰板5との間に注入して浮屋根2のシール部分3で発生したリング火災を効果的に消火させるため、図7に示すように、ノズル11の筒先をタンク側板内面に沿わせて下方に向けて所定の俯角を持つエルボ管18の先端に装着され、該エルボ管18の他端が筒先制御装置12”に接続され、前記ノズル11の筒先を左右に振らせられるように構成されている。
このため1台の小型泡放射砲10’の泡消火剤水溶液の放射範囲は限定され、複数の小型泡放射砲10’を備える必要が生じるが、注入された泡消火剤水溶液が、タンク1側板内面と堰板5との間の空間に順次拡散していくことを考慮すれば、内径の小さなタンク1にあっては1台の小型泡放射砲10’での対応も可能となる。
なお、前記小型泡放射砲10’は小型泡放射砲取付台14’を介してタンク1の側板上端に装着される。
【0028】
前記実施例3及び実施例4は、使用される小型泡放射砲11’の構成が上記実施例1、実施例2で使用された小型泡放射砲10の構成と異なり、それに伴って筒先制御機構12”がノズル11の筒先を左右に振らせる1系統のみとなること以外は前記実施例1及び実施例と同一構成であるので、その詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0029】
1:タンク
2:浮屋根
3:シール部
4:ポンツーン
5:堰板
10、10’:小型泡放射砲
11:ノズル
12、12’、12”:筒先制御機構
13:制御用配管
14、14’:小型泡放射砲取付台
15:泡消火剤水溶液配管
16:泡消火剤水溶液注入口
17a、17b:L字形パイプ
18:エルボ管
20:小型監視カメラ
21:ズームレンズ
22:雲台
23:モニタ
24:映像信号及びカメラ制御信号の伝送手段
25:雲台制御信号伝送手段
30:遠隔制御装置
31:泡放射砲制御機構
32:カメラ制御機構
33:雲台制御機構
34:火災発生場所特定機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性液体を貯蔵する浮屋根構造のタンク(1)において浮屋根(2)のシール部分(3)で局所的に発生する火災の消火設備であって、
タンク(1)側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲(10又は10’)と、該小型泡放射砲(10又は10’)に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管(15)と、前記小型泡放射砲(10又は10’)を遠隔制御する遠隔制御装置(30)とで構成されてなることを特徴とする浮屋根タンク用消火設備。
【請求項2】
可燃性液体を貯蔵する浮屋根構造のタンク(1)において浮屋根(2)のシール部分(3)で局所的に発生する火災の消火設備であって、
タンク(1)側板上端部に設けられたタンクステージに設置される1又は複数の小型泡放射砲(10又は10’)と、該小型泡放射砲(10又は10’)に地上から泡消火剤水溶液を供給する泡消火剤水溶液配管(15)と、前記タンクステージに配設され浮屋根(2)上面を監視する1又は複数台の小型監視カメラ(20)と、前記小型監視カメラ(20)の映像を表示するモニタ(23)と、前記小型泡放射砲(10又は10’)及び小型監視カメラ(20)を遠隔制御する遠隔制御装置(30)とで構成されてなることを特徴とする浮屋根タンク用消火設備。
【請求項3】
前記小型泡放射砲(10)が、火災発生時にそのノズル(11)の筒先を火災発生場所に向けられるよう、前記ノズル(11)を水平に回動させる筒先制御機構(12)と、下向きに傾ける筒先制御機構(12’)とを備えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項4】
前記小型泡放射砲(10’)が、泡消火剤水溶液を浮屋根(2)の堰板(5)とタンク(1)側板内面との間の空間に放射できるように所定の俯角を持って傾けられたノズル(11)を有してなり、かつ、前記ノズル(11)の筒先を左右に振って消火範囲を拡げる筒先制御機構(12”)を備えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項5】
前記小型泡放射砲(10又は10’)が、アスピ−レート型、ノンアスピレート型、あるいはその兼用型のノズル(11)を備えたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項6】
前記小型泡放射砲(10又は10’)のノズル(11)の筒先制御が、油圧又は空気圧で行われ、前記制御用の油圧、空気圧を地上から伝送する制御用配管(13)が、各小型泡放射砲(10又は10’)に接続されてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項7】
前記小型監視カメラ(20)が、ズームレンズ(21)と、該小型監視カメラ(20)のパンとチルトを制御する雲台(22)とを備えてなり、平常時は前記ズームレンズ(21)を広角の状態で使用して浮屋根(2)上を広く監視し、火災発生の映像がモニタ(23)に表示された時、前記ズームレンズ(21)と前記雲台(22)を遠隔制御して、火災発生場所にズームインして火災状況を確認するとともに、前記雲台(22)の操作角度情報を基に火災発生場所を特定する火災発生場所特定機構(34)を前記遠隔制御装置(30)内に備えてなることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項8】
前記小型監視用カメラ(20)が、撮像した映像信号をモニタ(23)に送信し、前記遠隔制御装置(30)からの小型監視カメラ(20)、ズームレンズ(21)、及び雲台(23)の機能を制御する制御信号を受信する無線機を備えてなることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項9】
前記小型監視カメラ(20)、ズームレンズ(21)、雲台(22)、無線機を駆動する電源が、太陽光発電パネルと蓄電池とで構成されてなるものであることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項10】
前記小型監視用カメラ(20)が、赤外線カメラであることを特徴とする請求項2〜9のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。
【請求項11】
前記小型泡放射砲(10又は10’)及び小型監視カメラ(20)を遠隔制御する遠隔制御装置(30)が、前記火災発生場所特定機構(34)によって特定された火災発生場所付近に配設された1又は複数の小型泡放射砲(10又は10’)を選択し、そのノズル(11)の筒先を発生場所に向けるとともに選択された小型泡放射砲(10又は10’)に接続された泡消火剤水溶液配管(13)に泡消火剤水溶液を供給するよう制御可能に構成されてなることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の浮屋根タンク用消火設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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