説明

浮遊選鉱処理方法及び浮遊選鉱処理システム

【課題】処理対象物(例えば、セメントキルン抽気ダスト)中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率が変動する場合であっても、回収された浮鉱が、常に、回収対象物質の高い含有率及び高い回収率を有し、かつ、少ない浮遊選鉱処理槽によって効率的に処理することが可能な浮遊選鉱処理方法を提供する。
【解決手段】浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設けられたスラリー排出口11からのスラリー排出量が、該浮遊選鉱処理槽内のスラリーの液面4aのレベルが一定の範囲内に保たれるように制御される。これにより、排出されるスラリーS2中の回収対象物質は低い含有率となり、浮遊選鉱処理槽において回収対象物質を高い含有率で含む浮鉱が回収される。該浮鉱は非鉄精錬原料等として用いられ、一方、回収対象物質を実質的に含まない沈鉱はセメント原料等として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルン抽気ダスト等の処理対象物から、鉛等の特定の回収対象物質を回収するための浮遊選鉱処理方法及び浮遊選鉱処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメントキルン抽気ダスト等のダストを処理対象物として、浮遊選鉱処理技術を用いて、鉛等の特定の回収対象物質を回収する技術が開発されている。
一例として、(A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、液性をpH1〜4に調整し、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得る硫酸カルシウム生成工程と、(B)工程(A)で得られた前記スラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫酸カルシウム及び硫化鉛を含むスラリーを得る硫化鉛生成工程と、(C)工程(B)で得られたスラリーに捕収剤及び起泡剤を加えて、浮遊選鉱を行ない、硫化鉛を主成分とする浮鉱と、硫酸カルシウムを主成分とする沈鉱を得る鉛・カルシウム分離工程と、を含むことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法が、提案されている(特許文献1)。
【0003】
他の例として、(A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫化剤を混合して、固体分である鉛硫化物を含むスラリーを得る鉛硫化物生成工程と、(B)工程(A)で得られた前記スラリーに硫酸を加えて、該スラリーのpHを1.5〜7.5に調整し、固体分である鉛硫化物及び硫酸カルシウムを含むスラリーを得る硫酸カルシウム生成工程と、(C)工程(B)で得られたスラリーに捕収剤を加えて、スラリー中の鉛硫化物を疎水化させる鉛硫化物疎水化工程と、(D)工程(C)で得られたスラリーに浮遊選鉱処理して、鉛硫化物を含む浮鉱と、硫酸カルシウムを含む沈鉱を得る鉛・カルシウム分離工程と、を含むことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法が、提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−346512号公報
【特許文献2】特開2008−62169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
浮遊選鉱処理において、処理対象物中の回収対象物質の含有率の変動が大きくない場合には、運転の初期に最適の運転条件を設定すれば、その後、運転条件を変更しなくても、回収対象物質を高い含有率で含む浮鉱を常に得ることができる。
しかし、セメントキルン抽気ダストのように、原料の一部に廃棄物を用いて得られたダストを処理対象物とする場合には、廃棄物の種類が変わることによって、処理対象物中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率は常に変動がみられ、ダストのロットの切換え時には特に大きく変動することがある。
【0006】
回収対象物質を浮鉱(例えば、鉛含有物)として処理するプロセスにおいて、回収対象物質の含有率が高い場合は、処理槽内の浮鉱が多量に生成するため、スラリーの液面のレベルは低下する。一方、回収対象物質の含有率が低い場合は、処理槽内の浮鉱の生成量が低下するため、スラリーの液面のレベルは上昇する。スラリー液面が上昇した場合、浮鉱とともにスラリーも一緒に掻取られ回収物の品位が低下するため、従来はオーバーフロー堰が設置され、スラリーの液面が一定以上高くならないように制限されていた。オーバーフロー堰からあふれでたスラリーは次の浮遊選鉱処理槽に移され、同様に処理される。
【0007】
しかしながら、オーバーフロー堰からあふれでるスラリー中には比較的高い含有率の回収対象物質が含まれることから、1つの処理槽における回収効率は必ずしも十分とはいえず、従来は複数の処理槽を連結したシステムによって、回収対象物質を含む浮鉱と、それ以外の成分が濃縮された沈鉱とに分離処理されていた。
【0008】
このように、処理対象物中の回収対象物質の含有率が変動する場合に、1つの浮遊選鉱処理槽において回収された浮鉱が回収対象物質の高い含有率(品位)と高い回収率を併せて確保することは、従来の方法では必ずしも十分ではなかった。
本発明は、処理対象物中の回収対象物質の含有率が変動する場合であっても、1つの浮遊選鉱処理槽における回収された浮鉱が、回収対象物質の高い含有率及び高い回収率を有するものとなる浮遊選鉱処理方法及び浮遊選鉱処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部にスラリーの排出量を制御可能な排出手段を設置し、スラリーの液面のレベルを検出しながらスラリー排出量を制御することが有効であることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
【0010】
[1]処理対象物を含むスラリーから特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理方法であって、液面検出手段によって、浮遊選鉱処理槽内のスラリーの液面のレベルが一定の範囲内に保たれるように、該浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設置された排出口から排出されるスラリー排出量を制御することを特徴とする浮遊選鉱処理方法。
[2]上記希薄部が上記浮遊選鉱処理槽の下部周縁部である、前記[1]に記載の浮遊選鉱処理方法。
[3]上記希薄部が上記浮遊選鉱処理槽の中心部である、前記[1]に記載の浮遊選鉱処理方法。
[4]上記処理対象物がセメントキルン抽気ダストである、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[5]上記回収対象物質が鉛である、前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
[6]処理対象物を含むスラリーから特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理システムであって、該スラリーを収容する浮遊選鉱処理槽と、該浮遊選鉱処理槽にスラリーを供給するスラリー供給手段と、該スラリーに空気を供給する空気供給手段と、該浮遊選鉱処理槽内の浮鉱を回収する回収手段と、該浮遊選鉱処理槽内のスラリーの液面を検出する検出手段と、該浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設置されたスラリー排出口と、該浮遊選鉱処理槽から排出されるスラリーの排出量を制御可能な排出量制御手段とを備えることを特徴とする浮遊選鉱処理システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理対象物(例えば、セメントキルン抽気ダスト)中の回収対象物質(例えば、鉛)を、効率良く回収することができる。また、回収物質の含有率が変動する場合であっても、回収された浮鉱が、常に、回収対象物質の高い含有率及び高い回収率を有し、かつ、少ない浮遊選鉱処理槽によって効率的に処理することが可能となる。
本発明で回収された浮鉱は、非鉄精錬原料等として用いることができる。また、本発明で回収された沈鉱は、セメント原料等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の浮遊選鉱処理で用いる浮遊選鉱処理機の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の浮遊選鉱処理で用いる浮遊選鉱処理機の別の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の浮遊選鉱処理システムの一例を概念的に示す図である。
【図4】オーバーフロー堰を用いてスラリーの液面のレベルを調整する浮遊選鉱処理機の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における浮遊選鉱処理方法は、処理対象物から特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための方法であり、浮遊選鉱処理槽内のスラリーの液面のレベルが一定の範囲内に保たれるように、該浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設置された排出口から排出されるスラリーの排出量が制御されるものである。
【0014】
本発明における「希薄部」とは、浮遊選鉱処理槽内において、スラリー中の回収対象物質の含有率(濃度)が低くなっている部分をいう。その含有率の目安としては、浮遊選鉱処理槽に供給されるスラリー中の回収対象物質の含有率の2分の1以下である。この希薄部については、設置された排出口から排出されたスラリー中の回収対象物質の濃度を測定することによって、適切な希薄部に設置されていることを確認できる。
【0015】
本発明の処理対象物としては、セメントキルン抽気ダスト、焼却灰、焼却飛灰、溶融飛灰等が挙げられる。これらの形態は、通常、ダスト(粉状物)である。
セメントキルン抽気ダスト(以下、「抽気ダスト」という。)とは、セメントキルンの排ガスの一部を抽気した高温の排ガスを冷却して得られる微粉末をいう。この微粉末は、例えば、抽気した高温の排ガス中の粗粉をサイクロンで捕集した後、サイクロン通過後の粗粉を含まない排ガスを冷却し、この冷却した排ガスをバグフィルター等の集塵機で捕集することによって得られる。この微粉末は、カルシウム、カリウム、鉛、塩素等を含むものである。
【0016】
本発明の回収対象物質としては、鉛、銅、亜鉛等の重金属や、石膏、カーボン等が挙げられる。例えば、抽気ダスト中に含まれる鉛を分別して回収すれば、非鉄精錬原料等として用いることができる。また、カルシウムを分別して回収すれば、セメント原料等として用いることができる。本発明では、浮遊選鉱処理技術を用いているため、鉛を浮鉱として回収し、かつ、カルシウムを沈鉱として回収することができる。
【0017】
本明細書において、「浮鉱」とは、浮遊選鉱によって泡の表面に付着して浮上する、特定の回収対象物質を含む粒子を意味する。
「浮上物」とは、浮遊選鉱によって浮上する、泡の集合体を意味する。「浮上物」は、浮遊選鉱処理機の液槽内のスラリーの上方に形成される層状体である。「浮上物」は、泡を形成している液分、及び、浮鉱を含むものである。
「沈鉱」とは、「浮鉱」以外の固体粒子を意味する。
「浮遊選鉱」とは、浮遊選鉱処理機を用いて、スラリー中の粒子を浮鉱と沈鉱に分離させる処理を意味し、スラリーを浮遊選鉱処理機に導入する前の疎水化等の前処理を含まない。
「浮遊選鉱処理」とは、浮遊選鉱、及び、スラリーを浮遊選鉱処理機に導入する前の疎水化等の前処理を含む。
【0018】
処理対象物は水と混合してスラリーとして調整される。さらに、スラリーには浮遊選鉱助剤が加えられる。浮遊選鉱助剤としては、pH調整剤、硫化剤、疎水化剤、起泡剤、凝集剤、分散剤などが挙げられる。
【0019】
次に、本発明の一実施形態に係る浮遊選鉱処理方法について、図面に基づいて説明する。なお、図1、図2および図4に示す浮遊選鉱処理機は、ファーレンワルド型浮選機である。また、実線で示される矢印はスラリーの流れを、破線で示される矢印は空気の流れを示すものである。
【0020】
まず、浮遊選鉱処理槽内において回収対象物質の希薄部となる下部周縁部に排出口を設置した場合について、図1を用いて説明する。
調整されたスラリーS1はスラリー供給管5を通して、浮遊選鉱処理機1の液槽2へ供給される。その際、スラリーS1は液槽2の中心部から底部に向って下向きに供給される。同時に、空気の供給管7から供給される空気A1も、供給されるスラリーS1とは別の配管より、液槽中心部から底部に向って下向きに噴出し、スラリー4中で気泡となる。気泡は散気盤8の凸部で壊され細かくなり、そのほとんどが散気盤8にあけられた穴を通って上昇する。この仕組みによって、気泡は均一に分散される。液槽2中のスラリー4は撹拌翼6によって常に撹拌されているので、気泡もスラリー4の渦流にのって撹拌されながら、主に液槽2の周縁部に沿って上昇することになる。この上昇過程において、回収対象物質と気泡が結びつき、浮鉱となって浮上する。浮上した浮鉱は、スラリー上方で浮上物3の層を形成する。この浮上物3の層とスラリー4との境界がスラリーの液面4aである。
【0021】
本発明においては、スラリー4の排出口11を浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設置するが、図1における回収対象物質の希薄部の1つは下部周縁部となることから、スラリー4の排出口11は液槽2の下部周縁部に設置される。これによって、液槽2から排出されるスラリーS2は、従来のオーバーフロー堰方式に比べて回収対象物質の含有率が低く抑えられることから、浮遊選鉱処理機1を用いて効率良く回収対象物質の回収処理を行うことができる。
【0022】
また、本実施形態における回収対象物質の希薄部は、浮遊選鉱処理槽の中心部にもう1つ形成される。ここに排出口11を設置した場合を図2に示す。液槽2内におけるスラリー4の流れは、液槽2の周縁部が上昇流になるのに対して、中心部は下降流となる。回収対象物質を伴って上昇したスラリー4は、スラリーの液面4a近くで浮鉱として回収対象物質が分離されるため、中心部の下降流には回収対象物質の含有率が少ない希薄部が形成される。この中心部に排出口が設置されることが好適である。加えて、スラリーの上昇流と下降流を区分し、希薄部を安定的に形成させるために、フロー制御板22を設置することは有効である。
【0023】
一方、品位の高い回収対象物質を安定して得るためには、掻取り羽根9がこのスラリーの液面4aの上部で常に回転し、主に浮上物のみを掻取るようになることが望ましく、そのためには、スラリーの液面4aが常に一定のレベルに保たれることが必要である。通常、スラリー4の供給量は一定の下、連続運転がなされているが、供給されるスラリーS1中の回収対象物質の含有量は変動するため、これに伴い浮鉱の生成量も増減し、その結果スラリーの液面4aも変動することになる。スラリーの液面4aのレベルを一定の範囲内に保つために、スラリー4の排出量を制御する手法を用いている。
【0024】
本発明においては、スラリーの液面4aを検出する手段が設けられている。液槽2の上部には、掻取り位置に応じた適正な位置に液面センサー10が設けられている。通常、液面センサー10は上限液面センサー10aと下限液面センサー10bの2つのセンサーが設置されており、この2つの液面センサー10の間にスラリーの液面4aのレベルが保たれるように制御される。
すなわち、スラリーの液面が上限液面センサー10aを超えた場合は、スラリー4の排出量を増加させ、スラリーの液面4aが降下するように制御される。逆に、スラリーの液面4aが下限液面センサー10bより下がった場合は、スラリーの排出量を減少させ、スラリー液面が上昇するように制御される。
【0025】
これによって、供給されるスラリーS1中の回収対象物質が変動しても、スラリーの液面4aのレベルはあらかじめ一定の範囲内に保たれ、浮鉱として品位の高い回収物質を安定して得ることが可能となる。さらに、排出されるスラリーS2は、回収物質の濃度が低いスラリーとなるので、少ない浮選処理槽でより効率的に処理対象物を回収することが可能となる。
【0026】
液槽2から排出されたスラリーS2は、直列に配設された次の液槽に供給され、同様に処理される。最終的には、沈降を分離除去後、廃水として処理される。
【0027】
本発明における浮遊選鉱処理システムは、処理対象物を含むスラリーから特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理システムであって、該スラリーを収容する浮遊選鉱処理槽と、該浮遊選鉱処理槽にスラリーを供給するスラリー供給手段と、該スラリーに空気を供給する空気供給手段と、前記浮鉱を回収する回収手段と、前記スラリーの液面を検出する検出手段と該浮遊選鉱処理槽の下部に設けられたスラリー排出口と、該スラリーの排出量を制御可能な排出量制御手段とを備えるものである。
【0028】
本発明においては、1つの浮遊選鉱処理槽、もしくは直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽が用いられる。本発明における方法によれば、1つの浮遊選鉱処理槽でも高い回収効率で処理可能であるが、スラリー中の回収対象物質をさらに高い回収率で回収する、あるいは沈鉱を高い品位で処理する必要がある場合には、複数の浮遊選鉱処理槽を用いることができる。なお、「直列に配設された」とは、処理対象物を含むスラリーが、第1槽で浮遊選鉱された後に、第2槽に導かれて第2槽で浮遊選鉱され、その後、さらに第3槽に導かれて第3槽で浮遊選鉱されるというように、最も上流側に位置する第1槽から下流側の他の浮遊選鉱処理槽に向かって順次、浮遊選鉱を繰り返すことのできるように、複数の浮遊選鉱処理槽が配設されていることを意味する。
【0029】
スラリー供給手段としては、所定量のスラリーS1を送る手段(不図示)とスラリーの供給管5から構成される。スラリーS1を送る手段としては、送液ポンプなどが利用できるが、重力を利用した手段でもよく、特に限定されるものではない。
スラリーの供給管5は液槽2の中心部に設置された配管に連結しており、スラリーS1はこの配管を通り、槽底中心部から供給されるように設置される。スラリー供給管6の設置位置は、特に限定されるものではなく、空気との混合により効率的に浮鉱を発生させるように設置される。
【0030】
空気供給手段としては、所定量の空気A1を送入する手段(不図示)と空気の供給管7から構成される。空気A1を送る手段としては、圧縮空気ボンベやコンプレッサーなどを使用できる。
空気の供給管7は、液槽2の中心部に、スラリーが通過する配管とは別に設置された配管に連結しており、空気はこの配管を通り、液槽2内の底部に向って供給されるように設置されている。なお、空気供給位置は特に限定されるものではないが、スラリー4と適切に混合され、浮鉱を効率良く発生させるためには、液槽2の下部から供給されることが好ましい。
加えて、供給される空気としては、あらかじめ調整された細かな気泡(マイクロバブル等)も利用できる。その場合、空気の供給位置は適宜設定される。浮遊選鉱処理槽に導入される前のスラリーS1に前もって供給することもできる。
【0031】
散気盤8は、供給された空気A1を細かな気泡にするためのもので、フランジのように円盤の中心から同じ距離に開いている数個の穴と、下向きに数箇所取り付けられた凸部で構成されている。また、散気盤8は、液槽2の内径に対して十分大きく設計されている。但し、あらかじめ調整された細かな気泡を使用する場合は必ずしも設置されなくてもよい。
【0032】
浮鉱の回収手段としては、浮上物中の浮鉱を回収できる手段であれば特に限定されないが、掻取り羽根9などが好適である。なお、掻取り羽根9の位置は適宜調整可能であることが好ましい。
【0033】
液面検出手段としては、液体を関知できるものであれば特に限定されないが、例えば、静電容量式ペンシル液面センサー、超音波式の液面センサー、フロート式の液面センサーなどが使用される。通常、液面センサー10は、スラリーの液面4aの上限を関知する上限液面センサー10aと下限を関知する下限液面センサー10bの2つで構成される。液面センサー10は排出量の制御手段とつながっており、スラリーの液面の4aのレベル情報は、排出量制御装置15に伝送される。
なお、液面センサー10とは別に液槽2からのスラリーのあふれ出しを防ぐ意味から、液面センサー10よりも高い位置にオーバーフロー堰(不図示)を設けてもよい。
【0034】
スラリー4の排出口11は、浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設置される。スラリーあるいは空気の供給等の浮遊選鉱処理機の構成にもよるが、一般的には浮遊選鉱処理槽の下部、あるいは中心部が希薄部となることが多い。本発明の実施形態においては、下部周縁部、あるいは中心部が希薄部となる。なお、排出口11は、浮遊選鉱処理槽の下部周縁部および中心部の2箇所に併設することもできる。
【0035】
さらに、排出口11の手前には、必要に応じて仕切り板13が設けられる。(図1を参照)これにより、スラリーS1の供給口が近い場所であっても、回収対象物質の分離が不十分のスラリー4の一部が直接排出されてしまうことを防ぐことができる。
また、排出口11を中心部の希薄部に設置する場合は、フロー制御板22(図2を参照)が設置されることが好適である。これにより、周縁部のスラリー上昇流と中心部のスラリー下降流が明確に区分され、より効率的な処理を行うことができる。フロー制御板22の構造に特に限定はなく、数枚の板を組み合わせたもの、あるいは円筒状のものを用いることができる。また、図に示すように所定の傾斜角度をもって斜めに設置されることがより好ましい。
【0036】
排出量制御手段12としては、液面センサー10からの情報を受けて、スラリー排出量を制御できるものであればよく、インバータ制御の送液ポンプなどが好適である。また、開閉可能なバルブと流量計の組合せでもよい。
【0037】
次に、上述の浮遊選鉱処理システムを含む、セメント抽気ダストの処理システムを、図3を参照して説明する。
図3中、本発明の抽気ダストの処理システムは、抽気ダストと水を混合してスラリーを調製するためのスラリー調製槽31と、スラリー調製槽31で得られたスラリーに水硫化ソーダ等の硫化剤を加えて、固体分である鉛硫化物を含むスラリーを得るための硫化剤添加槽32と、硫化剤添加槽32で得られたスラリーに硫酸を加えて、pHを2〜7に調整し、硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得るための硫酸添加槽33と、硫酸添加槽33で得られたスラリーにザンセート等の疎水化剤を加えて、鉛硫化物を疎水化させるための疎水化剤添加槽34と、疎水化剤添加槽34で得られたスラリーを浮遊選鉱するための、直列に配設された浮遊選鉱処理機35、36、37と、浮遊選鉱処理機36、37からスラリー調製槽31に、回収された浮上物を返送するための浮上物返送手段(例えば、ポンプ付きの管路)を備えている。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の実施形態の変更が可能である。
【0039】
[実施例1]
(1)処理対象物
処理対象物として、抽気ダスト(Ca:20質量%、Pb:5.4質量%)を用いた。
(2)浮遊選鉱処理
浮遊選鉱処理は、図3に示す処理システムを用いて以下のように行った。
スラリー調製槽31において、抽気ダストを固液比(ダスト:水の質量比)が1:10となるように水に懸濁させて、スラリーを調製した。
次に、得られたスラリーに対して、浮遊選鉱の前処理を行なった。具体的には、スラリーを硫化剤添加槽32に導き、抽気ダストに含まれる鉛の量に対応した水硫化ソーダ(NaSH)を加えて、スラリー中に鉛硫化物を生じさせた。次に、得られたスラリーを硫酸添加槽33に導き、硫酸を加えてpHを3に調整した。その後、得られたスラリーを疎水化剤添加槽34に導き、疎水化剤としてザンセートを加えて、鉛硫化物の粒子の表面を疎水化した。
次に、このスラリーS1を、下部周縁部にスラリー排出口が設置された200リットルの容量の浮遊選鉱処理機(第1槽)35(図1に示す構造を有するもの)に、500リットル/hrの流速で供給した。液槽2(図1中の符号参照)内のスラリー4が約1/3に達した時点で、空気供給管7から空気A1を供給し、撹拌翼6および散気盤8を作動させた。スラリーの液面4aが下限液面センサーのレベルを超えた段階で、スラリーS2の排出量制御を開始した。なお、浮上物3の回収する掻取り羽根の回転速度は20rpmに設定した。
浮遊選鉱処理機(第1槽)35の排出口から排出されたスラリーは、浮遊選鉱処理機(第1槽)35と同様の構造を有する浮遊選鉱処理機(第2槽)36に導入し、同様に浮遊選鉱を行った。さらに、浮遊選鉱処理機(第2槽)36の排出口から排出されたスラリーは、同様の構造を有する浮遊選鉱処理槽機(第3槽)37に導入し、同様に浮遊選鉱を行った。なお、浮遊選鉱処理機(第2槽)36、浮遊選鉱処理機(第3槽)37で掻き取られた浮上物は、スラリー調製槽31に返送した。
その後、浮遊選鉱処理機(第1槽)35で回収した浮上物中の浮鉱(乾燥物)の単位時間当たりの質量及び鉛の含有量を測定し、これらの測定値から、回収した浮鉱の品位(鉛の含有率)を算出した。また、浮遊選鉱処理機(第1槽)35、浮遊選鉱処理機(第2槽)36、及び浮遊選鉱処理機(第3槽)37で回収した沈鉱(乾燥物)の単位時間当たりの質量及び鉛の含有量を測定し、これらの測定値から、回収した沈鉱中の鉛の含有率を算出した。なお、鉛の回収率は、浮遊選鉱処理機(第1槽)35で回収した浮上物中の浮鉱(乾燥物)と、浮遊選鉱処理機(第3槽)37で回収した沈鉱(乾燥物)の単位時間当たりの質量及び鉛の含有量を測定し、これらの測定値から算出した。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
浮遊選鉱処理槽として、浮遊選鉱処理槽の中心部にスラリー排出口11を設置したもの(図2に示す構造を有するもの)を用いる以外は、実施例1と同様にして、実験した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例]
浮遊選鉱処理槽として、オーバーフロー堰43により液面レベルを調整するもの(図4に示す構造を有するもの)を用いる以外は、実施例1と同様にして、実験した。結果を表1に示す。





【0042】
【表1】



【0043】
表1から、実施例1では、第1槽での鉛の回収率が99質量%、第1槽での浮鉱中の鉛の含有率が60質量%と高いことがわかる。また、第1槽での沈鉱中の鉛の含有率が0.2質量%と低いことがわかる。
実施例2においても、第1槽での鉛の回収率が99質量%、第1槽での浮鉱中の鉛の含有率が64質量%と高いことがわかる。また、第1槽での沈鉱中の鉛の含有率が0.2質量%と低いことがわかる。
一方、比較例では、第1槽での鉛の回収率は95質量%とやや低く、第1槽での浮鉱中の鉛の含有率も44質量%と低いことがわかる。また、第1槽での沈鉱中の鉛の含有率は1.1質量%と高い。沈鉱中の鉛の含有率は第3槽において、ほぼ同様の値となる。
この結果より、本発明における浮遊選鉱処理方法は、少ない浮遊選鉱処理槽で、効率よく鉛を回収することが可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0044】
1 浮遊選鉱処理機
2 液槽
3 浮上物
4 スラリー
4a スラリーの液面
5 スラリーの供給管
6 撹拌翼
7 空気の供給管
8 散気盤
9 掻取り羽根
10 液面センサー
10a 上限液面センサー
10b 下限液面センサー
11 スラリー排出口
12 スラリー排出量調整装置
13 仕切り板
21 浮遊選鉱処理機
22 フロー制御板
31 スラリー調製槽
32 硫化剤添加槽
33 硫酸添加槽
34 疎水化剤添加槽
35 浮遊選鉱処理機(第1槽)
36 浮遊選鉱処理機(第2槽)
37 浮遊選鉱処理機(第3槽)
41 浮遊選鉱処理機
42 開口部
43 オーバーフロー堰
S1 供給されるスラリー
S2 排出されるスラリー
A1 供給される空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を含むスラリーから特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理方法であって、
液面検出手段によって、浮遊選鉱処理槽内のスラリーの液面のレベルが一定の範囲内に保たれるように、該浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設置された排出口から排出されるスラリー排出量を制御することを特徴とする浮遊選鉱処理方法。
【請求項2】
上記希薄部が上記浮遊選鉱処理槽の下部周縁部であることを特徴とする請求項1に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項3】
上記希薄部が上記浮遊選鉱処理槽の中心部であることを特徴とする請求項1に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項4】
上記処理対象物がセメントキルン抽気ダストであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項5】
上記回収対象物質が鉛であることを特徴とする、請求項1ないし4に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項6】
処理対象物を含むスラリーから特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理システムであって、
該スラリーを収容する浮遊選鉱処理槽と、
該浮遊選鉱処理槽にスラリーを供給するスラリー供給手段と、
該スラリーに空気を供給する空気供給手段と、
該浮遊選鉱処理槽内の浮鉱を回収する回収手段と、
該浮遊選鉱処理槽内のスラリーの液面を検出する検出手段と、
該浮遊選鉱処理槽内の回収対象物質の希薄部に設置されたスラリー排出口と、
該浮遊選鉱処理槽から排出されるスラリーの排出量を制御可能な排出量制御手段とを備えることを特徴とする浮遊選鉱処理システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−11303(P2012−11303A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149651(P2010−149651)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】